TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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第二十九話 おのれが人の命を断ち③

『ニンニク爆弾、だと……!? ふざ、けるなァ!!』

 

 自分を悶え苦しませた爆弾(それ)の由来がニンニクであることに激昂し、取り付いたひなたを振り払おうと吸血鬼が両腕を振るう。

 当たれば大木をも薙ぎ倒せるだろうそれは、しかしひなたには当たらない。

 

「ふざけてなんかねェよボケッ!!」

 

 迫り来る嵐のごとき薙ぎ払いを軽やかに躱し、時にはその勢いを利用して、罵声を叩きつけながらその懐を剣で抉る。

 

「テメェは吸血鬼だ!! 人より強ェ怪物だッ!! そのテメェの弱点を突くことの何がおかしい!?」

 

『ぐ、ぅううッ……流水は、このための、布石かァ……ッ!』

 

「その通りッ! 撃水弾(ウォーター・ショット)ッ!!」

 

『づ、ぃいあああッ……!!』

 

 そもそも吸血鬼の弱点として挙げられる“流水”は、しかし弱点の中ではマイナーと言っていい。

 それに初手まで費やしたひなたの狙いは、まさしく“弱点の存在”を確かめることにほかならない。

 

 すなわち吸血鬼の弱点としてメジャーではない“流水”が効くのなら、“他の弱点”も存在するだろう──そんな数学における集合を彷彿とさせる考察ゆえ、彼女は爆弾(ニンニク)も有効であると判断したのだ。

 

 “つっても俺ァ中卒だけどな!”

 

 “自虐はそれくらいにしておけ! 来るぞッ!!”

 

『こ、のッ……離れなさいッ!』

 

 脳裏で鋭く発された警告に従い周囲に意識を向けた瞬間、憎悪に塗れた吸血鬼の一声とともに突っ込んできたコウモリたちを猫のように危なげなく躱す。

 それでも無数の弾丸に襲われれば攻撃を止めざるを得ず、追尾してくるコウモリの群れに水弾を叩き込んで距離を離した。

 

「ちっ……仕留め切れなかった」

 

 彼女のぼやきが届いたのか、コウモリの向こうで吸血鬼が忌々しげに口角を上げる。

 

『ワタシにこれほどの無体を働いて、挙句それですか……く、ハハ、いいでしょう、ならばッ! ならばこのワタシが、その減らず口を塞いで──』

 

「あっそ。だから遅ェんだよ、テメェは」

 

『な──』

 

 地面を転がってきたそれ。

 吸血鬼は瞬間的に飛び退こうとしたが──「遅ェ」

 

『ぬ、っぐぅぉおおお……!?』

 

 起爆したそれが刺激臭と白い内容物を撒き散らす。

 集ってきていたコウモリまでもがそれに充てられて地に墜落し、直撃は避けたものの余波で悶える吸血鬼に、ひなたは言葉を投げかける。

 

「誰が一個しか持ってない、なんて言ったよ?」

 

『ア、ナタ、はッ……!?』

 

「ほら、三個目だ」

 

『っづぁあああアアアア゛ア゛ッ!!?』

 

 二度目の影響で避け切れず、三発目をまともに喰らい絶叫する吸血鬼は、憎々しげにひなたを睨む。

 その視線を心地よさそうに受け止めて、ひなたはわざとらしく笑う。

 

「さぁ、俺はあといくつ爆弾(これ)を持ってる? いくつテメェにぶち込める? テメェはそれを、恐れずにいられるか?」

 

『くッ……!!』

 

「それとも何か? ニンニク大好きだからもっとぶち込んでほしいってか? わざわざ長口上(ながこうじょう)を垂れるくらいだもんなァ、そりゃ好きだよなァ、あ゛ァ!?」

 

 まるでチンピラのような挑発──事実として彼女はチンピラだったが、その瞳に油断はなく、鋭く吸血鬼を睨め付けている。

 そして彼女は勘付いていた。

 

「……テメェ、実戦経験がロクにねェな?」

 

 彼の動きはお粗末だ。無論弱点を狙われて気が動転しているというのもあるだろうが、その動きに洗練された歴史はなく、個人として積み上げられた経験も感じることができない。

 ひなたもまた武術に関しては素人である。だが路地裏で積み重ねてきた殴り合いの喧嘩で培った直感によって彼女はそれを理解した。

 

 問いただされた吸血鬼は、露骨にひなたの手元に注視しながらのろのろと立ち上がる。

 

『……ええ、その通り。ワタシに、アナタの言う戦闘経験は……ない』

 

 そしてひなたにとっては意外なことに、素直に彼女の言葉を肯定した。

 わざわざ己の弱みを認めた彼に、ひなたの目が細められる。不可解なものを見る目だった。

 

『くふ、そのような不躾な目をするものではありませんよ。ワタシとアナタたちとで、()()()()()()()が違う……』

 

 そう諭すように言う彼の身体が、ふと解けるように薄くなっていく。すぐには気付けないほど緩やかな隠形──ひなたは咄嗟に水魔法を使ったが、

 

『ただ、それだけのことなのです』

 

 水弾が彼の身体をすり抜け、その言葉を残して露と消えた。

 剣を握り直したひなたは油断なく周りを警戒しながら、脳裏で異形に問いかける。

 

 “どうだ? 前のときみたいに、気配は掴めそうか?”

 

 “……無理だな。あの時とは違い、完全に世界に溶け込んでいる”

 

 以前の戦いでは、硝子の異形が異物たる吸血鬼を感知することで不意打ちを防ぐことができた。

 だがこの“(よる)”においては彼ら魔法少女こそが異物──世界を識ることができないように、感知は不可能である、と異形は断言した。

 

「……ッチ、霧化ってのは厄介だな」

 

 伝承における吸血鬼は、己の身体を霧に変化させるという。

 ゆえにその特質を持つ彼もまたその能力を持っている。かつての瞬間移動や今行われている隠形も、それを応用したものだろう。

 

 今この瞬間にも、感知できない不意打ちを喰らう可能性がある。

 現れる一瞬に即応できるなら問題ないが……そこまで己の反射神経を信じることは、ひなたには難しい。

 

 ゆえにひなたは決断した。

 

 “仕方ねェ、か”

 

 “決定的な場面まで伏せておくのが効果的ではないのか?”

 

 “それで死んだら意味ねェだろ。あくまで札は札、俺たちがそれに使われてどうする”

 

 

 “──二枚目(エース・オブ・エース)を切るときだ”

 

 

 脳裏でそう告げたひなたは、最大限警戒しながら“(よる)”の中心へと歩く。

 到達し、息を吐き、神経を皮膚から曝け出すように警戒心を強く深めて……ひなたは、手に持つ剣を地面に突き刺した。

 

 そして今も身を包む膨大な魔力を流し込む。

 

「 “励起(れいき)せよ、()斬痕(ざんこん)” 」

 

「 “──()憎悪(いのり)()たす(とき)だ” 」

 

 その詠唱(ことば)を契機として、“(よる)”全域から彼女の魔力が噴き出した。

 それは間欠泉のように──彼女が剣で傷を付け、そこに残した無色の魔力が、注ぎ込んだ魔力を通じて瞬く間に彼女の殺意に染まる。

 

 それは一種の魔法陣。

 人々の信仰を、願いを、興味関心を受ける概念を再現した──彼女の二枚目の切り札。

 

魔求数式(マグスクリプト・)第六十番(ナンバーシクスティ)

 

「──大瀑布(ウォーター・フォール)

 

 刹那、“(よる)”に荒れ狂う水が──

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