TS魔法少女の刑に処す 作:TS魔法少女を曇らせ隊
「終わった……の、か?」
突如現れた断頭台、それによる拘束とあっけない斬首──急な展開に目を白黒させていたあかねがそう呟いた瞬間に、ひなたが静かに崩折れた。
慌てて駆け寄り、肩で支えてくれるあかねに礼を言いながら、ひなたは緊張感とともに息を吐いた。
ああ──これで終わったのだと。
「これ、ひなたの魔法だよな? すげー……なんていうか……すげー魔法だな、うん」
自分で問いかけておきながら、あかねはうんうんと頷くばかりで、そんな彼女に苦笑する。
「誤魔化さなくていいぞ。怖いって、そう思っただろ?」
「ん゛っ、それは──」
「いいんだよ、それが正常な感覚だ。……こんな
それでも己が行使したのは、その泥まで己が被ると決めたから。
守りたいという善意……それと表裏一体で、今も魂に深く根付くドス黒い憎悪。
この魔法はそれを完璧に写し取っているのだと、ひなたは直感的に理解していた。
彼女が彼であった頃、理不尽にも妹が──集団で強引に押し込められて、口にするのも悍ましい所業の末、
その畜生どもに復讐するために内面をひた隠し、ストレスで吐血しながらも奴らに取り入ったときも。
──彼らを廃ビルの一角に集め、罠にかけて惨殺するときも、ずっと彼の中で渦巻いていたそれ。
すなわち、“絶対に逃さない”という、殺意。
この魔法は……その理想を、忠実に写し取っている。
ぐ、と拳を握りしめたその瞬間。
『くフ、それがよろしいでしょう……この魔法は、あまり周知させるべきではない』
首だけになった吸血鬼が、笑いながら口を開いた。
それに驚いたのはあかねである。当然だ、化け物とはいえ首だけになった状態で喋るなど、あまりに常軌を逸している。
対してひなたは、己が頸を刎ねたというのにそれほど驚いていなかった。
「落ち着けあかね。まだこの夜が明けてねェ、つまり術者のこいつもまだ消えてねェってことだ」
「いや、そういうことじゃなくてっ! 生きてんだぞこいつ、ゴキブリみたいにさっ! それ自体が問題だろ!?」
「だから落ち着けって言ってんだ。──こいつはもう、
彼女の瞳はどこまでも冷めきっている。
それに言葉をなくしたあかねに対し、生首の吸血鬼は笑いかける。
『その通り、ワタシはもう終わっている。……このワタシは、もうすぐ消え……そして』
『二度と、アナタたちの前に“
「……なんだ、それ。もうちょっかいかけるのはやめだってことか?」
『いいえ、そのような──そのような生易しいものでは、ない』
断言した吸血鬼の顔から笑みが消える。
その赤瞳がひなたを貫く。けれど彼女は動じない。どこまでも冷たく、彼を見下ろしている。
『ああ、ああ、裏切り者よ、
「天、敵?」
彼のさえずりに呆然と、あかねが言葉をこぼす。
「……おまえらは人の道理が通じない獣じゃない。確固たる己を有したおまえたちは、間違いなくヒトなんだ。だからこそ俺は願った──“ヒトの道理に反いたおまえの罪は、絶対に裁かれなければならない”──“絶対に逃さない”ってな」
逃さない。おまえたちはヒトなのだから、その道理に則って裁かれるのが道理なのだと。
かつて彼女が復讐を果たしたときのように──否、まさしくその時からずっと身に秘めていた願望、理想と言い換えてもいい憎悪。
「だからこそ、その願望をそのままそっくり写し取った俺の魔法は……ある特性を備えている」
それは誰に説明されることもなく、ただ生まれながらに備えていた器官のように、彼女はその機能を理解した。
彼女が有する第一魔法、《
「“
『──“不死殺し”。我らが
恐れおののく吸血鬼の言葉に、あかねは声を失った。
それは──魔法少女とアマイガスの戦いの道理を破壊し、公平にする天秤。
あるいはそれを持つ女神のごとく──法秩序の下、罪人に振り下ろされる天秤の剣。
まさしく、人とアマイガスの戦争を終わらせる力。
誰にも叶わなかった完全なる滅殺を成し遂げられるのが、この、黒髪の乙女なのだ。
「今まで悪を成し続け、死んでもそれが罰にならないテメェらには効くだろう? 今更テメェが何を喚こうが俺には響かん、自分がやってきたことを悔やみ反省しながら──死んでいけ」
その残酷な台詞には、しかし嘲りも何もない。
ただ罰を下した者として、その死に様まで見てやろうという義務感だけがそこにあった。
吸血鬼は呆気に取られて、それからくすりと笑う。
『……くフ、そう言われると、むしろ、喚きたく、なくなり、ますねェ』
彼はすでに己の死を受け入れていた。
その上で何を残せるのか、少しずつ損なわれいく己に怯えながら……口を開く。
『まず、アナタ。ああ、黒い方ではなく、赤い方の美少女です、ええ』
「「人を色で区別すんな」っ!」
『くフ、フ、それは別にいいとして……アナタは、もう少し……自分に目を向けた方がよろしい』
突如アドバイスされたあかねは、胡乱げな目をして生首を見る……すぐに逸らした。
そんな彼女に笑いかけて、はらはらと散っていくおのれをどこか感慨深そうに見る。
続いてひなたに目を移した。
『アナタは……そうか、合一化、を、果たしたのですね?』
「……ああ」
『であれば、ワタシから、送れるのは、ただ、ひとこと……
息も絶え絶えに告げられた言葉に、ひなたの眉が細められた。
「0.2秒? なんだそりゃ、おい、詳しく──」
『くフ、フ……残念ながら、それは、教えられ、ませんね……これでも、殺された、身ですので……せいぜい、考えてごらん、なさい……ああ、いや、しかし』
吸血鬼は微かに微笑んで──
『死ぬというのは……くフ、これほど、恐ろしいものなのですねェ──』
ただその言葉を残して、塵と消えた。
──同時に、夜を下ろしていた天蓋もまた、砕けるように散っていく。
ひなたはあかねに促され、空を見上げた。天頂に太陽が輝いている。
朝から昼まで戦い続けていたのだと、彼女はこのとき初めて気付いた。
夜に馴染んだその瞳には、太陽の光は堪え難い。
「……最初くらい、気持ちよく勝たせやがれ」
それでも彼女は影に隠れようとはせず、天に向けて拳を突き出した。
太陽に見せつけるようなそれは、これからは陽の下を歩くという彼女の宣言に他ならなかった。
第一章はもうちょっとだけ続きます。
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