TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

36 / 54
第三十三話 “不死殺し”

「終わった……の、か?」

 

 突如現れた断頭台、それによる拘束とあっけない斬首──急な展開に目を白黒させていたあかねがそう呟いた瞬間に、ひなたが静かに崩折れた。

 慌てて駆け寄り、肩で支えてくれるあかねに礼を言いながら、ひなたは緊張感とともに息を吐いた。

 

 ああ──これで終わったのだと。()()()

 

「これ、ひなたの魔法だよな? すげー……なんていうか……すげー魔法だな、うん」

 

 自分で問いかけておきながら、あかねはうんうんと頷くばかりで、そんな彼女に苦笑する。

 

「誤魔化さなくていいぞ。怖いって、そう思っただろ?」

 

「ん゛っ、それは──」

 

「いいんだよ、それが正常な感覚だ。……こんな魔法(りそう)は、本来誰の目にも晒さないべきなんだ」

 

 それでも己が行使したのは、その泥まで己が被ると決めたから。

 守りたいという善意……それと表裏一体で、今も魂に深く根付くドス黒い憎悪。

 この魔法はそれを完璧に写し取っているのだと、ひなたは直感的に理解していた。

 

 彼女が彼であった頃、理不尽にも妹が──集団で強引に押し込められて、口にするのも悍ましい所業の末、()()されるまでの一部始終を、薄く嗤う畜生どもに動画という形で見せられたときから。

 その畜生どもに復讐するために内面をひた隠し、ストレスで吐血しながらも奴らに取り入ったときも。

 ──彼らを廃ビルの一角に集め、罠にかけて惨殺するときも、ずっと彼の中で渦巻いていたそれ。

 

 すなわち、“絶対に逃さない”という、殺意。

 

 この魔法は……その理想を、忠実に写し取っている。

 

 ぐ、と拳を握りしめたその瞬間。

 

『くフ、それがよろしいでしょう……この魔法は、あまり周知させるべきではない』

 

 首だけになった吸血鬼が、笑いながら口を開いた。

 それに驚いたのはあかねである。当然だ、化け物とはいえ首だけになった状態で喋るなど、あまりに常軌を逸している。

 対してひなたは、己が頸を刎ねたというのにそれほど驚いていなかった。

 

「落ち着けあかね。まだこの夜が明けてねェ、つまり術者のこいつもまだ消えてねェってことだ」

 

「いや、そういうことじゃなくてっ! 生きてんだぞこいつ、ゴキブリみたいにさっ! それ自体が問題だろ!?」

 

「だから落ち着けって言ってんだ。──こいつはもう、()()()()()()()

 

 彼女の瞳はどこまでも冷めきっている。

 それに言葉をなくしたあかねに対し、生首の吸血鬼は笑いかける。

 

『その通り、ワタシはもう終わっている。……このワタシは、もうすぐ消え……そして』

 

 

『二度と、アナタたちの前に“偏食(ワタシ)”は現れない』

 

 

「……なんだ、それ。もうちょっかいかけるのはやめだってことか?」

 

『いいえ、そのような──そのような生易しいものでは、ない』

 

 断言した吸血鬼の顔から笑みが消える。

 その赤瞳がひなたを貫く。けれど彼女は動じない。どこまでも冷たく、彼を見下ろしている。

 

『ああ、ああ、裏切り者よ、(かみ)に、(はは)にそむきし偉大なる魔王よ! アナタは……アナタは、なんと! なんと恐ろしきものを見出したのか!! なんと恐ろしい──我らが天敵を見出したのか!』

 

「天、敵?」

 

 彼のさえずりに呆然と、あかねが言葉をこぼす。

 

「……おまえらは人の道理が通じない獣じゃない。確固たる己を有したおまえたちは、間違いなくヒトなんだ。だからこそ俺は願った──“ヒトの道理に反いたおまえの罪は、絶対に裁かれなければならない”──“絶対に逃さない”ってな」

 

 逃さない。おまえたちはヒトなのだから、その道理に則って裁かれるのが道理なのだと。

 かつて彼女が復讐を果たしたときのように──否、まさしくその時からずっと身に秘めていた願望、理想と言い換えてもいい憎悪。

 

「だからこそ、その願望をそのままそっくり写し取った俺の魔法は……ある特性を備えている」

 

 それは誰に説明されることもなく、ただ生まれながらに備えていた器官のように、彼女はその機能を理解した。

 彼女が有する第一魔法、《其は善き秩序のための断頭台(アラストール・ボワ・ジュスティス)》──それが有する特性は、魔力による断頭台(ギロチン)の具現化()()()()()()

 

「“転生批判(逃さない)”──すなわち」

 

 

『──“不死殺し”。我らが転生(えいえん)を断ち切り……死を以て終わらせる、断罪の刃』

 

 

 恐れおののく吸血鬼の言葉に、あかねは声を失った。

 それは──魔法少女とアマイガスの戦いの道理を破壊し、公平にする天秤。

 ()()()()()()という当たり前の道理を叩きつける、秩序の剣。

 

 あるいはそれを持つ女神のごとく──法秩序の下、罪人に振り下ろされる天秤の剣。

 

 まさしく、人とアマイガスの戦争を終わらせる力。

 誰にも叶わなかった完全なる滅殺を成し遂げられるのが、この、黒髪の乙女なのだ。

 

「今まで悪を成し続け、死んでもそれが罰にならないテメェらには効くだろう? 今更テメェが何を喚こうが俺には響かん、自分がやってきたことを悔やみ反省しながら──死んでいけ」

 

 その残酷な台詞には、しかし嘲りも何もない。

 ただ罰を下した者として、その死に様まで見てやろうという義務感だけがそこにあった。

 

 吸血鬼は呆気に取られて、それからくすりと笑う。

 

『……くフ、そう言われると、むしろ、喚きたく、なくなり、ますねェ』

 

 彼はすでに己の死を受け入れていた。

 その上で何を残せるのか、少しずつ損なわれいく己に怯えながら……口を開く。

 

『まず、アナタ。ああ、黒い方ではなく、赤い方の美少女です、ええ』

 

「「人を色で区別すんな」っ!」

 

『くフ、フ、それは別にいいとして……アナタは、もう少し……自分に目を向けた方がよろしい

 

 突如アドバイスされたあかねは、胡乱げな目をして生首を見る……すぐに逸らした。

 そんな彼女に笑いかけて、はらはらと散っていくおのれをどこか感慨深そうに見る。

 続いてひなたに目を移した。

 

『アナタは……そうか、合一化、を、果たしたのですね?』

 

「……ああ」

 

『であれば、ワタシから、送れるのは、ただ、ひとこと……0().()2()()()()()()()()()()()

 

 息も絶え絶えに告げられた言葉に、ひなたの眉が細められた。

 

「0.2秒? なんだそりゃ、おい、詳しく──」

 

『くフ、フ……残念ながら、それは、教えられ、ませんね……これでも、殺された、身ですので……せいぜい、考えてごらん、なさい……ああ、いや、しかし』

 

 吸血鬼は微かに微笑んで──

 

『死ぬというのは……くフ、これほど、恐ろしいものなのですねェ──』

 

 ただその言葉を残して、塵と消えた。

 

 ──同時に、夜を下ろしていた天蓋もまた、砕けるように散っていく。

 ひなたはあかねに促され、空を見上げた。天頂に太陽が輝いている。

 朝から昼まで戦い続けていたのだと、彼女はこのとき初めて気付いた。

 

 夜に馴染んだその瞳には、太陽の光は堪え難い。

 

「……最初くらい、気持ちよく勝たせやがれ」

 

 それでも彼女は影に隠れようとはせず、天に向けて拳を突き出した。

 太陽に見せつけるようなそれは、これからは陽の下を歩くという彼女の宣言に他ならなかった。




第一章はもうちょっとだけ続きます。
面白かったら感想、または感想、もしくは感想及び評価をお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。