TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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エピローグ 余暇と誓い

「うふふ〜、やっぱりパンクファッションが似合いますね〜。立ち仕草が男性的だからでしょうか〜?」

 

「俺が知るかよそんなこと……」

 

 着なれないロックなレディース──穴あき(ダメージ)ジーンズやら黒を基調とした独創的なシャツ・パーカーなどを散々に着せ替えられた俺は、その疲れもあってか思わずげんなりとうめいてしまう。

 そんな俺をにこにこと見つめる清楚にキメたイエローアイ……聞くタイミングを逃したが、本名を葛澄(くずみ)明子(めいこ)というらしい彼女と、その後ろでチラチラとこちらを見ているあかねも、俺とはまた違うヤンキーファッションでお洒落にキメていた。

 

「ちぇ、なんだって葛澄と一緒なんだよ」

 

「んも〜、そんなつれないこと言わないでくださいよ〜。私だって頑張ってたんですからね〜?」

 

「わかってるよ! 色々頑張ってくれたのはわかるけどっ……!」

 

 そこであかねは、とうとう我慢できないとばかりに地団駄を踏んだ。

 

「なんだってアタシたちのっ、モールへの遊び直しに着いてくんだって言ってんの!」

 

 と、まあそんなふうに……言いたかないが、全員容姿が整っているために悪目立ちしてしまった。

 

 今日この日、俺たちは諸々の因縁が始まり、そして俺が断ち切った場所であるショッピングモールに遊びに来ていた。

 あれからまだ数日しか経っていないのに最上層以外の店舗が復旧しており、遊ぶことにほとんど支障はなく……それらの様子を見るついでに、“アマイガスの乱入で台無しになったあの時のやり直しをしよう”とあかねに提案された。

 俺に断る理由はなく、いいぜ、と許諾したそのとき──そこに混ざってきた、というより約束の履行を迫ったのが葛澄明子だった。

 

 かつて俺と交わした、『色々落ち着いたらデパートにでも遊びに行く』という約束。

 デパートもモールも似たようなものでしょう、という理論で同行を強請る彼女を、俺は断ることができなかった……。

 

 おかげであかねがちょっと不機嫌になっている。

 そんなに俺と二人で行きたかったのか、と不思議ではあるが悪い気はしない。東京は遊びどころに溢れているというし、今度はこちらから誘ってみよう。

 

「まあまあ、葛澄だってあの吸血鬼の隠蔽とかメディア対策とか帰還用のヘリの要請とか色々やってくれたんだし、な? ……よく考えたら俺たちが色々疎かにしてたモンを全部やってくれてんだぜ?」

 

「くっ……ちぃっ、まあ、おまえが言うなら……」

 

 そうやって渋々納得したあかねの頭をポンと叩いて、今もウキウキと服を選んでいる葛澄に「あんまやり過ぎんなよー」と釘を刺しておく。

 世話になったのは事実だが、彼女がちょっと……空気が読めないのも事実だった。

 

「……そういえば、アイツからも言われたっけな」

 

 魔法少女イエローアイは少し空虚なところがある──そう評したミストレスの笑みが脳裏に浮かぶ。

 何が面白いのかは理解できないが、相応の考えがあるのだろう……そう思いつつ、彼に任せきりというのも気持ちが悪い。

 俺も俺で考えてみることにしよう。

 

 俺も、彼女たちと同じ魔法少女なのだから。

 おれと共に着せ替え人形にしてやろうと葛澄に追い回されるあかねを微笑ましく見ながら、俺は自然と微笑んでいた。

 

 “……フッ”

 

「なんだよ、何か言いたいことがあるのか?」

 

 “いいや。迂遠で遠大ではあったが……それもまた正道であったのだ、と考えていただけさ”

 

「なんだそれ」

 

 胸元で揺れるアクセサリー──ミニチュアサイズの処刑剣から伝わる思念に苦笑する。

 あの戦いを終えた後、あの不恰好な硝子玉はこのように形を変えていた。

 きっとこれが本来の姿で、俺が目を逸らしていたから原石(ガラス)のままだったのだ。そこに宿る硝子の異形──俺の魔法から取ってアラストルと命名された彼も、居心地が良さそうである。

 

「……変わった、な」

 

 俺を取り巻く環境は、以前とは比べ物にならないほど変わっている。

 正直、あまりにも穏やかで、俺はここにいていいのだろうか──そんなことをふと感じてしまうほどに。

 

 “ならばおまえも変わっていけばいい。彼女たちと共に在れるように……()()()()()()()()()()()、己を新しく変えていけばいい”

 

「そうだな。……その通りだ」

 

 今度は俺に似合うファッションはなんなのか、でギャンギャン騒ぎ始めた二人にため息を吐き、二人にゆっくり近づいていく。

 

「おら、どっちも着てやるからくだらねェ喧嘩すんな。周りの迷惑を考えろ」

 

「う……悪い、ひなた」

 

「あほ、俺ァもうひなたじゃねェよ」

 

 そう、俺はもう(ひなた)ではない。

 彼女の面影を重ね、嘔吐し、受け入れられなかった末の逃避は、もうやめだ。

 

「俺はあんり蒲蕗(めぶき)あんりだ。そこんトコ、きっちり区別してくれよな?」

 

 俺を女に変えるに伴い、ミストレスが用意していた偽の、けれど本物の新しい戸籍。

 アイツは本当に意地が悪い。俺がひなたと名乗る前にこれを用意していたんだから……もしも聞いていればあれだけ悩み、苦しむことはなかったはずだ。

 

 だが、それもある意味で良かったのだろう。

 迂遠で遠大──アイツはどこまでも先を見ていて、これも必要な一手なのだと、今となっては理解できる。

 

「そーだな、あんり、あんり……まだちょっと慣れねえ」

 

「どうして本当の名前を隠したりしたんですか〜?」

 

「……相変わらず直球で来るなァ」

 

 濁したが、まあ空気が読めない、ということだ。

 慌てて葛澄の口を塞ごうとするあかねの腕をひょいひょいと避けて、彼女はじっと俺を見つめる。

 その目線にまたため息を吐いて……二人から服をむしり取って、俺は更衣室に真正面から入った。

 

 ──つまるところ、それは更衣室に備え付けられたガラスを直視することになり。

 

 

 鏡に、彼女そっくりの容姿が映る。

 

 

「あっ」「ちょ、大丈夫かよ!?」

 

 心配する二人を手で抑えて、ふぅ、と息を吐く。

 ……こんなパンクな不良ファッション、妹は絶対しなかったな。似合わないとも思ってたが、こう見る限りなかなか似合ってるじゃねェの。さすが我が妹、どんなものも着こなせるってか?

 

 ちょっと変な気分になるが、それはきっと嫌悪感とか脳裏に巡る最期のときとか、そういうものではない。

 どっちかと言うと清楚な少女がヤンキーに染められていく過程というか……やめやめ、それはそれで地雷だ。

 

「……あれ? 大丈夫……なのか?」

 

「ああ。ま、ちょっと気分は悪ィけどな……っつか葛澄、俺が不慮の事故で見たらどうするつもりだったんだよ、オイ」

 

 半眼になって睨んでやると、あははーと乾いた笑いを出す葛澄に、俺とあかねでため息を吐く。

 鏡越しの俺も、呆れたような顔になっている。自然と手を伸ばして……鏡に触れる寸前に、ぐっと握りしめた。

 

「…………まあ、なんていうか。妹がいたんだよ、俺に……そっくりの。ひなたってのは、妹の名前なんだ。……悪いけど、これで察してくれると助かるわ」

 

「……おう」

 

「わかりました〜」

 

 カチン、とわかりやすくあかねがキレた。

 

「おまえはホントに反省してんの!?」

 

「失敬な、悪いこと聞いたな〜って思ってますよ〜!」

 

「はいはい、喧嘩しない。俺が着せ替え人形になってやるから」

 

 再び勃発しかけた喧嘩を俺を生贄に仲裁する。

 では早速、とばかりに新しい服を持ってくる葛澄と、それに対抗するがごとくおのれのヤンキー系の服を勧めてくる二人に向けて声を張り上げる。

 

「た・だ・し! こういうロックというか、男っぽいレディース以外は却下な! 清楚とか言語道断だから!!」

 

「えぇ!? 色々着なきゃ好みもわからないじゃないですか〜!?」

 

「うるせェ、俺は女の子らしい服は苦手なの! せめてあかねのヤンキーファッションが関の山だわ!!」

 

「っしゃー!」

 

「そんなぁ〜……!!」

 

 勝利の雄叫びを上げるあかねと絶望に沈み込む葛澄、そして二人にため息を吐く俺が、店員さんに騒ぎすぎだとまとめて(キレ)られるまで五秒前。

 

 けれど、それでも──久方ぶりに楽しかったと、臆面もなく言えるくらいには、とても懐かしい時間だった。

 

 

 /

 

 

 日本魔法少女協会本部が最奥、執務室。

 カツン、と遊戯盤(ゲームボード)に駒が置かれる。

 死神のごとき鎌を構えた黒い駒──それを指で転がすミストレスは、ふぅ、と息を吐いた。

 

(ピース)は揃った」

 

 蜥蜴を──あるいは炎をまとう怪物を象る真紅の駒(スカーレッド)

 天使を──瞳孔が落ち窪んだ眼球、それが翼を備えた異形を象る灰混じりの黄色の駒(プリンセスイエロー)

 子供を──ただ独り海に沈み行く子供を象る深青の駒(ディープブルー)

 

 そして死神を──外套で顔と身体を隠し、祈るように大鎌を振るう漆黒の駒(ダーティーブラック)

 

「“紅い天賦の欠落者(レッドパッション)”、“天より網す恢眼(イエローアイ)”、“深海に揺蕩う少女(ロンリーブルー)”……さて、最後の一人はどんな名前がふさわしいかな?」

 

 どれもこれも会心の出来だった……彼にとっては。

 ふんふんと鼻歌を歌いながら盤上を見る。今彼が挙げた四つの駒と向き合うように並べられているのは──六つの駒。

 

 紛れもなく、敵対者の配置。

 

「……決めた」

 

 しばらく考え込んでいたミストレスは、そうつぶやくと黒い駒に触れ、コトン、と盤上に転がした。

 

「やはり、彼女に与えた名前以上にふさわしいものはないだろう。……うん、うん」

 

「彼こそが鍵だ。彼女こそが事象の中心となり、世界は彼にして彼女のもとに収束する」

 

 

──“人が人を裁く傲慢(ブラックアンリ)。ああ、やはり私のネーミングセンスは最高だ!」

 

 

 自画自賛とともに──両手で遊戯盤を押し潰す。

 《聖典魔法(ダウンワード)》による物質の組み替え、それによって駒もろともに遊戯盤を再構成し創り上げたのは──創造神を象る偶像。

 

 それに手を翳し、ミストレスは言う。

 

「待っていろ、父なる(はは)よ。彼らがおのれの意思に従いまこと完成を迎えたとき……彼らが、私が、貴方を必ず殺すだろう」

 

「──ヒトガタどもの魔王が長、傲慢を司りしこのルシファーがそう定めた。それはたとえ貴方(カミ)であろうと覆せない決定だ」

 

 

「だからそれまで待っていてくれ……ミサキ」

 

 

 それまでにない、どこか感傷的な色を宿した言葉とともに……彼は神像を握り潰した。




第一章、完ッ!(以後裏事情と反省など、興味がある人だけ見てください)
第二章も書きたいと思っておりますので、少々お待ちください。




……正直ここまで時間(4ヶ月)も、文字数(15万字)もかかるとは思っていませんでした。それもこれもあんりが頑固すぎるのと、ひとえに私の構成力不足が悪いのです。
それに反省も多い章でした。オリジナル長編を書いたのはこれが初めてで、展開にうんと悩んだり、設定にうんうんと悩んだり、詠唱にうんうんうんうん悩んだり、ネーミングにうんうんうんうんうんうん悩んだり……。
途中冗長になっていると思うので、やはり、後悔に絶えません。

ですがそれでもここまで書き上げることができたのは、読者の皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます。
最初はTS魔法少女を曇らせたいという邪な欲望から書き始めた作品でした……しかし曇るということはいずれ晴れるということ。
主人公・鎌原定努改めひなた改め蒲蕗(めぶき)あんりの行く末を、どうか見守っていただければ幸いです。

……ちなみに蒲蕗(めぶき)という苗字に一番時間を使ってたりします。詠唱はぶっちゃけ感性のフィーリングなので、凝ろうと思えばひたすら凝れる名前の方に時間が吸われるんですよね。
イエローアイの名前が最終盤まで出なかったのはそれもありますが、あんりがイエローアイの本名を聞かないやつだからです。多分あかねから聞かされなかったら今後もずっとイエローアイで通してたと思います……ホントコイツッ……!


まあそれはともかくとして……皆様の感想も評価もとても励みになりました。皆様がこの物語を楽しんでくれることがとても嬉しく、同様に感謝しています。
またご縁がありましたら、ご愛読いただけると嬉しいです。
本当に、ありがとうございました。
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