TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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番外編イチ:魔法少女的偶像崇拝(アイドル)

 それはあんりが魔法少女として、本当の意味で覚醒を果たした後のこと。

 あかねたちの力になろうと鍛錬を行い、要請を受けては出動し、魔獣型のアマイガスを鎧袖一触に屠っていた彼女は、ある時ミストレスに呼び出された。

 なんかこうも呼び出されるとありがたみも薄れるよなァ、などとほざく彼女を薄笑いで迎え撃ったミストレスがもたらしたのは、まったく彼女が想定もしていなかったこと。

 

「は? メディア露出ゥ?」

 

 胡乱気な彼女の言葉に頷いたのは、それを彼女に持ちかけたミストレス本人である。

 

「そう、メディア露出。この情報化の時代、我が日本魔法少女協会及び所属する魔法少女にとって避けては通れぬ大問題だ。なにせ君たちはヒトでありながらヒトの範疇を逸脱した力を振るう者……ちょっとでも油断すれば英雄(ヒーロー)から人外(モンスター)にまで零落しかねないからね」

 

「だから自分たちはそうじゃない、と示さなきゃならんと」

 

「もちろんそれだけじゃない。魔法少女という存在が人類の守護者として浸透するほど、君たちが行使できる潜在的な力もまた増えていく……そのように()()構築したからね」

 

「さらっとすげェこと言うな、オイ」

 

 今明らかになった事実は横に置いておくとして、そうであれば納得はできる。彼女たちの力になりたいと決意したおのれにとっては願ってもない申し出だ。

 ただ、とあんりは前置きして、ため息を吐いた。

 

「正直、クソほど気乗りしねェ」

 

「……ぶっちゃけるねぇ、君は」

 

 さしものミストレスであっても、頬がぴくりと引き攣った。

 ……それはそれとしてそれでこそだ、とうんうんと頷いているので問題ないだろう、と判断したあんりは、さらに詳しくぶっちゃける。

 

「メディア露出ってことはアレだろ? カメラとかの前でポーズ取ったり、愛想振り撒いたり、最後には芸能界の重鎮に目を付けられてドナドナ……みてェなのがあるんだろ?」

 

「それを私が許すと思うのか? とか、それこそ君の言うところのクソほど偏見が入ったものではないか、とか、言いたいことは色々あるけど……うん、続けて?」

 

「あァ、いやまあさっきのはちょっと誇張が入ってるけどよ……言いたいことはまさしくソレなんだわ」

 

 ソファーに身体を預けたまま苦い顔をしたあんりは、自分の顔や身体を指差した。

 楚々としたかんばせや、それに反するパンクファッションに身を包む平坦な自身の身体を。

 

「今の俺は妹に、ひなたとそっくり瓜二つだ。これは身内の欲目かもしれねェが、ひなたは間違いなく綺麗な子だった。……だからこそあいつらに目を付けられた」

 

「思い返すのも苦しいなら、誤魔化すのも手ではないかな?」

 

 そう言われて初めて、掌に血が滲むほど握りしめていたことに気付く。

 気付いたことでびりびりと生じる鈍い痛みに息を吐いて、しかしあんりは首を振った。

 

「気遣い感謝するぜ。だけど、だからこそはっきり言いたい。……心情的に、俺はこの容姿が衆目にさらされることが死ぬほどキツい。特にマスコミ……あいつらが俺の姿を、ひなたの姿を報道すると考えると、ああ、本当に虫唾が走る。気に入らねェ」

 

「はっきり言うね。けどその言い方だと、心情とはまた別に気乗りしない理由があるようだけど?」

 

「実際にあるぜ。俺の容姿は、もしかしたらあのクソどもを通してどこかに拡散してるかもしれねェってことだ」

 

 彼らに復讐するため路地裏に飛び込んだあんりは、彼らの薄汚い人脈があんり一人では把握できないほど深く広がっていたことを認識している。

 けだものじみた彼らとて、元を正せば名家や有名政治家の子息。そこに有用なコネクションを見出した者は、きっと裏社会に限らず表社会にも紛れ込んでいるに違いなかった。

 

 まるで下水道のように広大かつ暗中に広がるそれは、しかし人間社会に害しかもたらさない点で決定的に下水道とは異なっている。

 ゆえにそれらを把握できるのは彼ら自身のみであり、そして彼らを拷問し惨殺したあんり──鎌原定努でもすべてを把握することは叶わなかった。

 

「それで何が起こるのかはわからん。俺ァ頭が良くねェからな。……だがもしも何かが起きる場合、その対処が面倒ってだけで済むほど容易だとはとても思えねェ。

 だから俺は気乗りしねェんだ。リスクとリターンを秤にかけて……どうしてもリスクが勝る、そう思った」

 

「……そこまで考えられれば頭が悪いとは言えないだろう」

 

 とはいえそれもまた復讐完遂者ゆえの危機を嗅ぎ付ける嗅覚か、と納得して、ミストレスは改めて顔に微笑を浮かべた。

 

「うん、仔細承知した。君の危惧も危機感も、余すところなくすべてを、ね」

 

「だが、協力したいってのも本当だ。もしも俺にできることがあれば──」

 

「仔細承知した、と言っただろう? 君のその気持ちも含めて、やりようはある……ということだよ」

 

 呆気に取られたあんりにくすりと微笑かけて、ミストレスは立ち上がる。

 

「まあ見ているといい。このミストレス・アドラー、日本魔法少女協会代表兼メディア対策室長として、君が思う通りに振る舞えるだけの自由を与えよう……それは年若い君たちに対する当然の配慮だからね」

 

 まるで気負うことなく当然のこととして宣言するミストレスに、あんりの口からかすかに笑みがこぼれる。

 

「……俺、もう二十歳前だぜ?」

 

「どっちにしろまだ未成年(こども)だし、私から見ればもっと子供さ。これでも君が生きてきた人生の数百倍の時間は記憶しているからね」

 

 

 /

 

 

 そんなこんなでミストレスが対策を打つと表明してから数日後。

 いつも通り鍛錬と討伐、メディアの撮影にファックサインを叩きつけてアラストルにキツい苦言を呈される日々を過ごしていたあんりのもとに、学校帰りのあかねが訪れていた。

 

「おう、お茶とか出せなくて悪ィな」

 

「別に気にしなくてもいいって。つーか、そういうのは急に入ってきたアタシがやるべきなんだよ」

 

 そんなことを駄弁りつつ、ふとあんりは気になった。

 

「そういえばあかね、おまえってメディア関連の対応どうしてんの?」

 

「え? メディア……あー、マスコミとか? 別に、普通に対応してるぜ? アマイガス殴り飛ばした後に手とか振ったり……あんまりやりすぎるのは恥ずかしいけど、そのくらいなら、さ……応援してくれる人もいるし」

 

「ふぅん……ファンサか」

 

「まあ、そんなもんかな」

 

 はは、と照れたように頭を掻くあかねが、多分魔法少女のスタンダートなんだろう。過度に媚びず、けれど蔑ろにもせず、あなたたちの声援は届いているとしっかり証明する振る舞い。

 俺にはできそうにねェな、と背もたれに身体を預けながら思う。

 

「あと、マスコミの取材とかは、ミストレスさんが色々確かめてくれた上で受けたりするかな。金はいくらあっても足りないし……稼げるだけ稼いでおきたい」

 

「兄妹多いからなァ……ってかミストレスはそんなこともやってんのか」

 

「アタシたちに来る取材とかの仕事って、全部ミストレスさんが一回確認してるらしいぜ。多分、ダメそうだから弾いてるのも結構あると思う」

 

 そういえばメディア対策室長とか言ってたな、とあんり思い返す。ミストレスもきちんと仕事している、ということだろう。メディアへの不信感を持つあんりにとっては、それは少しの安心材料になったらしい。

 

「でもイエローアイ……葛澄はそういうのも受けてるっぽいけど。あいつ、目立ちたがり屋なんだ」

 

 少しだけ表情に不安をのぞかせて、あかねはため息を吐いた。

 

「……なんつーか、それもちょっと違う気がするけどな」

 

 うまく言語化できないけど、と引き摺られるようにあんりも嘆息して、お互いに苦笑する。

 

 ──魔法少女イエローアイは積極的にメディアに関わっている。偶像(アイドル)に相応しい自身の容姿の良さを自覚しながらも、ミストレスの力を借りて自由に振る舞っているその様は、ある意味魔法少女らしいと言えるだろう。

 ただその姿勢が気に入らない人間もいるようで……。

 

「エゴサすると結構多いんだよなぁ、アンチ」

 

「自分から目立ってんなら仕方ねェだろ。アイツもそれを気にするタマじゃねェし」

 

「……それもそうか。あ、そういえば」

 

 知り合いのアンチについて話題にしたくないのか強引に話を逸らすあかねの意図を察して、あんりは差し出されたスマホをなんとなしに眺めた。

 検索欄──ブラックアンリ。

 

「あんりも結構人気だぜ? ロックな立ち振る舞いがかっこいい、とか、ほら」

 

 そこには──彼女が見たことのない特殊な人たちが『ブラックアンリいいよね』と話し合っている検索結果が表示されていた。

 

「……えぇ」

 

「めっちゃ引くじゃん」

 

「いや、これ見せられて引かないヤツいねェだろ」

 

「ロンリーブルー……楓信寺は引かなかったぜ。ちょっと眉ピクしたけど」

 

「……後で謝っとけ」

 

 はぁあ、と深くため息を吐いて頭を抱え、画面をスクロールして業が深い人たちの投稿を眺める。

『ロックな姿勢が好き』、『喪服のヴェールの下はどんな顔してるんだろうなって……へへ』『中指立てる魔法少女とか初めて見た』『ファンにもマスコミにも完全無視を決め込むロンリーブルーちゃんと並ぶ逸材が現れたァ!』『チビでロックな男口調魔法少女とか属性特盛すぎませんかありがとうございます』『ロンリーブルーと一緒に朝に映ったらお茶の間凍りつきそう』『なんで東京の魔法少女はこうも両極端なの?まともなのレッドパッションしかいねぇジャン!』『そりゃこんなもんニュースで映せんわ』『俺わかった、東京本部の魔法少女は性癖人事だ』……エトセトラエトセトラ。

 

「うわぁ……」

 

「めっちゃドン引きするじゃん」

 

「逆にこれ見て平然としてるおまえはなんなの?」

 

「魔法少女として結構やってきてるし、もう慣れっこなんだよ」

 

「……ああ、そう」

 

 俺には無理だわ、と天井を見ながらため息を吐く。

 大体ミストレスは何をしているのか。自分の危惧とかをわかってくれたんじゃないのか、これでは意味がないじゃないか……そんなドロドロとした感情のまま、据わった目で画面を見ているうちに、気づく。

 

「……俺の顔が写ってない」

 

 どれもこれも、ファンが投稿したと思わしき写真は、隠し撮りのように真正面からのものはない。

 喪服で身体のラインが隠れ、ヴェールで顔が見えづらくなっているため、あんりの顔が写っているものは一枚もなかった。

 

 “ミストレスによる認識阻害魔法だ”

 

 “認識阻害?”

 

 “ああ。おまえがヴェールを被っている限り、顔への認識が阻害される、というものだ。魔法少女という魔法の特性を活かしているようだな。魔法少女術式もミストレスが編んだものだからな、改変をするのも容易なのだろう”

 

 つまるところ、あんり=ブラックアンリに繋がりづらくする魔法であるらしい。

 

 “おまえがメディアへの露出をしたくない、顔を流出させたくないと言っていただろう? それを汲んでメディアの干渉を弾くと同時に、顔の流出を防ぎ……それでいてコアな一部のファンに支持されることで力を高める。偶像崇拝の一種だな”

 

「……なるほど」

 

 あんりは微かに微笑んだ。

 ミストレスに感謝しないといけないなと、柄にもないことを考えながら。




ミストレス「(予想以上に特殊なヘキの人たちがいて爆笑中)(これだから人類は面白い)(でもあんりのファックサインを炎上ごとからパフォーマンスに変えるのちょっと大変だった)」

今後、取り扱うのがめんどくさい政治的な問題は、今回のように「有能な大人(ミストレス)がなんとかした」で通していきます。
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