TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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第二章 激する心は他が為に
プロローグ 魔法少女(ヒロイン)にヒーローは現れなかった


 天童春美にとっては、それはちょっとした小遣い稼ぎのつもりだった。

 適性があると認められたから、ちょうど帰宅部で暇だったから、ちょっとした自慢にもなるから、テレビで見る勇姿に小さな憧れを抱いたから──適当に理由を並べるが、いずれも軽い気持ちからだったことは間違いない。

 彼女は両親を適当に説得して、魔法少女になった。

 

 パートナーはリスの姿をしたアマイガス。人語を解さないそれは言うまでもなく低級のアマイガスだったけれど、それは他の魔法少女も同じだったし、何より可愛かったから不満はなかった。

 

 “ま、東京の魔法少女はもっと強いアマイガスを連れてるらしいけど、私は可愛ければなんでもいいや”

 

 そもそも魔法少女になれた時点で、彼女のだいたいの願いは叶ったと言ってもいい。

 友人たちへの自慢、旧友たちへのマウント、それに伴うスクールカーストの上昇……思春期の少女らしいそれらが大した苦労もなく叶った時点で、彼女の中に──そもそもあるかも定かではなかった魔法少女への原動力(モチベーション)は消え失せていた。

 

 現状のままでも弱いアマイガスを何匹か倒せば、遊ぶには十分すぎる金が手に入る。

 そもそも魔法少女になったのは小遣い稼ぎとマウント用だ。それなのに遊ぶ時間を削る馬鹿がどこにいる?

 魔法少女として強くなったところで、得られるものと言えば他の支部への転属、エースとしての強制出動、あるいは本部──東京への栄転だけ。

 

 “無理無理、あんなバケモノみたいな人たちの中とか、絶対無理”

 

 そうせせら笑う彼女の脳裏に映るのは、自分達では一蹴されるだろう巨大な(アマイガス)を一瞬で仕留める魔法少女(エース)の姿。

 曲がりなりにも同業者であったから、春美はその凄まじさを……異常性を肌で理解していた。

 だから彼女はぬくぬくと、緩い支部で過ごしていた。

 

 少しだけ性格が悪い女子高生として日々を適当に、楽しく過ごす。

 それだけで彼女は充分だった。

 

 

 

 /

 

 

 

 ──だが、それだけでは足りないのだと、何よりも世界に叩きつけられたのだ。

 

「ひっ……ひ、ぃ」

 

 喉はすでに枯れている。

 かすんだ悲鳴は誰にも届かず消えていく。

 否、もはや聞き届けるものがいないのだ。

 

 死んでいる。

 死んでいる。

 

 仲間たちが死んでいる。

 同じ支部の魔法少女たちが、目を見開いて絶命していた。

 わけもわからず、ひゅうひゅうと喉から空気が漏れる。

 誰から、だっただろう。誰から息を引き取ったろう。恐怖で麻痺した彼女の頭は、明確な答えを返さない。

 

『…………』

 

 唐突だったのだ。唐突に、唐突に──この()()()()()()現れたのだ。

 どくん、どくんと脈打つそれは、彼女が今まで倒してきたアマイガスとは決定的に異なる異形。

 

『え』

 

 まず一人、先輩風を吹かしてきたウザい先輩が死んだ。

 現れたそれに瞠目し、棒立ちになったかと思えばひゅうと息を漏らして倒れ込んだ。滑稽なそれが彼女の終わりだった。

 

『ちょ、何やって』

 

 次に死んだのは頭が足りない同期の尻軽。倒れた先輩を下品に笑おうとした瞬間に、ぐったりと椅子にもたれかかった。引き攣る喉が、妙に艶かしかった。

 そしてようやく緊急事態だと春美が気付き、身構えたときには残った一人も倒れ伏し、すでに全員が死んでいた。

 

 自分だけはそうならなかった意味はわからない。

 だがそれに安堵する暇など彼女に与えられなかった。

 鼓動する肉塊がいる。瞬く間に支部を壊滅させた怪物が、眼前で震えている。

 すぐに警戒心より怯えが上回った。

 

 恐れ、竦み、逃げようとした脚が崩折れた彼女を前にして、肉塊から赤紫の細長いものが這い出る。

 ずるずると床に得体の知れない水気を垂れ流しながら這い回った触手は、もはや声も出ない彼女のすぐ側を通り過ぎて──

 

 ──ず。

 

 死骸を啜る。

 

「あ……」

 

 三本の触手が死骸に触れる。まるで雛に餌をやるように慎重に、少女たちの死骸を突く。

 そしてわずかな抵抗とともに()()に潜り込んだ触手が、ずるずると──じゅるじゅると──致命的なものを啜る。

 

 投げ出された手足が萎んでいく。

 瑞々しい肢体が枯れていく。

 光を湛えていた頭髪は、色を失い乾いていく。

 

 まるで病んだ老婆のように、彼女たちの輝きが、乾いていく。

 

 “いのち”。

 そうとしか形容できないものが啜られていると気付いた春美は、自分がまだ狂っていないことを憎悪した。

 それでも彼女は今死んでいないことに感謝した。まだ死んでいないなら何とかなる、何とかしてもらえると──根拠のない楽観を抱いたのが間違いだったのか。

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

『ド()……(いく)の?』

 

 

 そして聞こえた、幾重に連なる少女の声は、

 

 今啜られた、“いのち”の声帯(さけび)

 

 がぱりと開いたそれは、まさしく人の口腔だった。

 

「ひ」

 

 枯れた喉から悲鳴が漏れる。けれどそれが本当に自分の喉から漏れたのか、もはや彼女にはわからない。

 どこか愉しげに笑うようにその全身を震わせて、醜悪な肉塊がよたよたと──赤子のごとき短い手足で一歩一歩、歩み寄る。

 

「い、や」

 

 それを跳ね除ける力すら、彼女には残っていない。

 

「死に、たく、な」

 

 眼前でぐちゃりと広がる肉塊が、春美を呑み込んだ。

 

 

 /

 

 

 被害報告。

 日本魔法少女協会■■県支部にて高位のアマイガスの出現を確認。

 同時刻、所属する魔法少女四名の死亡も併せて確認。

 内、老化した三名の死体を確認。行方不明の一名の死体を警察が捜索中。

 四名の内、固有魔法所有者は零。よって被害は軽微と判断。

 

 現在、高位アマイガスの所在は不明。

 非常に危険な存在である。警戒を怠らず、発見者には即時エース出動の要請を求める。




第二章の大まかな流れの構築に成功したため、投稿を再開します。
11月中は色々予定が立て込んでいるため定時更新は難しいと思われますが、ご了承ください。
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