TS魔法少女の刑に処す 作:TS魔法少女を曇らせ隊
あの吸血鬼を倒してから数日が経った。
その間も次なる敵に備えて鍛錬に没頭──とはいかなかった。
「……うん、これで必要な書類は全部だ。悪いね、時間を取らせてしまって」
「そもそも俺が書くべき書類だったんだろ? 後回しにしてたモンを自分で片付けただけだ、謝る必要はねェよ」
……とはいえ、さすがに鍛錬をする暇もないほどとは思わなかったが、とため息を吐いた。
必要な書類の数々、つまり正式に俺が魔法少女になるための手続きと、俺はこの数日間のほとんどを費やして格闘していたのだ。
日本は法治国家であり、何事にも手続きが必要だ。それが『魔法少女刑』という、前例のないものであるなら尚更に。
だからその点に文句はない──そもそも、本来ならシャバに出た時点で済ましておくべき
「……もしかしなくても謝るべきは俺の方じゃねェか?」
「あっはは、そうかもしれないね。でもその必要はないさ」
手渡した書類をトントンと整えながらミストレスは言う。
「元より遅めの
その書類を丁寧に封筒に落とし込んで封を閉じる。その社会人みたいな所作を、
「うん? 何か気になることでも?」
「……なんつうか、おまえでもそういう形式を大事にするんだなって。そういうのより自分の気持ちを上に置くタイプだと思ってたわ」
俺を女にしたみたいに、とまでは言わなかったが、副音声として読み取ったのかミストレスは苦笑する。
「確かに、私はそれ自体は至極どうでもいいと思っている。だからといって破らなければいけない、とはならないだろう。必要があれば破ることを厭わない、そうでないなら従ってやる……それだけの話さ」
「決まりを破る必要があるなら、か」
「君にはその価値があると判断した。そして実際に、君はその一端を示してみせた」
ミストレスは人差し指をピンと立てる。第一魔法のことだとすぐに気づいた。
──第一魔法。魔法少女の、人の理想を象徴する固有魔法。
俺はあの吸血鬼との戦いでおのれの理想と向き合うことで第一魔法に目覚めた。ミストレスの言う価値とは、それが宿す特性に他ならない。
「アマイガスの
「まあ、俺みてェな精神性から発現するモンを普通の魔法少女が持てるとは思えねェからな」
そういう意味では、俺の存在は反則に近いだろう。彼女たちが経験し得ない、愚かで無秩序な道を歩いた男が魔法少女をしているのだから。
そんな男と同じ理想を抱ける少女など、きっとこの世には存在しない──存在しない方がいいのだ。
「そうだね。“不死殺し”は、狂おしいほどに純化した君の殺意を土壌として芽生えた特殊な
俺の
「近い魔法が、過去にあったのか?」
その瞬間にミストレスの目が泳ぐ。あまりに露骨で、余計に興味がそそられる。
はやる気持ちに促されるまま再度問いかけると、はぁあ、と大きくため息を吐いて……。
「──ん。ちょっと口が滑ってしまったか……まあ、君にも無関係ではないし……そうだね、確かに存在したよ。君とは似ても似つかないけど、でも確かに近しい魔法が」
どこか渋々と言った様子でミストレスは話し始めようとして──
──プルプルプル。
執務室の机に置いてある電話が鳴った。
「ごめんね?」
「チッ」
人差し指に唇を当てて悪戯っぽく微笑むミストレスに舌打ちを返す。なんと間の悪い電話だと吐き捨てたくなるが、しかし仕事の邪魔をするのも本意ではないのでため息を吐いて黙り込む。
そんな俺を良い子だと褒めるように微笑んだミストレスは受話器を取る。
耳に当て、気品あふれる美声で「どうした?」と受話器越しに問いかけたミストレスは──その表情をひどく冷ややかなものにした。
それだけでなく、全身から溢れ出した異質な魔力が、瞬く間に執務室を彼の存在で染め上げた。
滲み出るだけでもそうとわかる
この尋常でない様子から、
しかし、ミストレスの左手が待ったをかける。
「……発生時刻は? ……ああ、なるほど。では今すぐ報告をポイント別にまとめて送りなさい……見れるものなら構わない、三十分でやれ。わかったな? ……よし」
一通り会話が落ち着いたのか、ミストレスが受話器を置く。
そのまま傍らのパソコンを恐ろしい勢いでタイピングしながら、厳しい目で俺を見た。
「あんり君はそのままここで待機していなさい。今迎えをやっているから、三十分もすれば全員集まるだろうからね」
「……一体、何が起きたんだ?」
「とても不愉快なことが起きたのさ。──かつて、君に近い魔法を備えたという件の魔法少女に滅ぼされた高位のアマイガスが出現した」
「ッ!」
高位の──すなわち、ヒトガタのアマイガス。
それに思わず身構える俺に、ミストレスは言う。
「実を言うと、今回の事例に緊急性はほとんどない。だから身構えなくともいいよ──ただ、危険性は極めて高い。そう留意していてくれたまえ」
「……どういうことだ?」
「緊急性はないと言っただろう? 詳しい話は、みんなが──特にあかね君が来た時にしよう」
「……彼女には、少し辛い報告になるかもしれないけどね」
パソコンを見つめたままポツリとこぼしたその言葉が、厭に響いた。