TS魔法少女の刑に処す 作:TS魔法少女を曇らせ隊
竜胆あかねにとって、学校はそれほど居心地の良いものではなかった。
それはある意味で年頃の少女らしく、けれど当人にとってはひたすら深刻な問題で──
昼休憩を迎え、自炊して作った弁当を机に広げたあかねはピクリと動きを止めた。
(……見られてる)
魔法少女として戦う中で磨き抜かれた第六感が、自分に注がれる好奇の目線を感じ取ったのだ。
そろりと横目を忍ばせて──目があった途端逃げられた。
「……はぁ」
物憂げなため息を漏らして、あかねはカパリと弁当箱の蓋を開ける。
ふわりと香る自信作も、彼女の憂鬱を癒すには威力不足──代わりに鳴った腹の音に、彼女はがっくり項垂れた。
このように、彼女は学校で遠巻きにされている。
そんな有様なので、当然机をくっ付ける相手もいない。
周りの女子はそれぞれ弁当を仲良く持ち寄ったり、駄弁りながら食堂に赴いたりしている中で、である。
一人弁当にだけ向き合う虚しさは、筆舌に尽くしがたい。
無論教室中をよく見れば、一人弁当に耽っている寂しい同輩は幾人かいる──だからと言って仲間意識が持てるわけもないし、彼らから言わせれば竜胆あかねという存在が
わずかに赤みがかって、後頭部でひとまとめにされた艶やかな黒髪。
勝気に整ったかんばせの輪郭は健康的に丸みを帯びて、ちりちりと鮮やかに散る火花を思わせるほどに美しい。
平均よりわずかに高い一本筋が通った背丈は女性らしい
彼女は明確に、美少女なのだ。
もっとも、だからこそ余計に遠巻きにされているとも言えるが。
(これは、アタシが魔法少女──だからかな)
そう思って、すぐに首を振る。
彼女が魔法少女ということは、周りの誰にも知られていない──《
この認識阻害は、彼女が自分から打ち明ければその効果を失うが……。
(まあ、アタシが魔法少女だって知ってる奴、いないんだけどさ)
つまり、そういうことであった。
堪えきれない陰鬱さを吐き出すように、重苦しい息を吐いて……。
「あ、あの、さ」
「うん?」
あかねが顔を上げると、明るく髪を染めた同級生の女子が所在なさげに佇んでいた。
同時に、あかねは気付いていないが──今まで彼女に向いていた目が、その少女に注がれている。
しかし咎めるようなものではなく、どこか勇者を──もっと言えば養豚場で、飼育員にも果敢に立ち向かう豚を見るような視線であり、それを感じ取ったのかさらに身をすくませて、しかし少女は意を決して口を開く。
「今日さ、友達と一緒にどっか遊びに行こうって思ってるんだけどさ……一緒に、行かない?」
「お、おお?」
誘い。
遊びの誘いだ、と一拍遅れて彼女は気付き、嬉色を数瞬顔に滲ませ……すぐにそれが掻き消えた。
ぎゅうと拳を握り、息を吐いて──脳裏を
────ビー、ビー、ビー──!
「っ!?」
「ひゎっ!?」
突如、教室中の雑音を消し飛ばすほどの
それに一番驚いたのはあかねである。無防備なところに至近距離で叩きつけられた爆音に情けない声を漏らして、すぐに席を立った。
「ッと、おぉっとすまんちょっと急用が入ったみたいだ! その話はまた今度な!!」
「え、……あ、ちょっと待って!」
「……すまんっ!」
言い訳よろしく事情を捲し立てたあかねは、スマホなど重要なものだけを鞄に突っ込んで足速に教室を出た。
最後に吐き出した謝罪の声が届いたのかすら見ることもなく──彼女は奥歯を噛み締める。
この着信音は、魔法少女としての『レッドパッション』にミストレスが連絡する時に用いられるもの。
だから自分に友達がいない、学校で孤立しているのは魔法少女だからなのだ、と。
(そう思うなら、
スマホの画面を指で叩き、届いたメールを開いた。
『校門前に迎えを寄越したので執務室に来なさい。
学生の本分の邪魔をしてすまないが、面倒なアマイガスが出たからね。至急説明しなければならないため、出来るだけ早く来るように』
最初に本題を記した、ミストレスらしい非常に簡潔なメールをさっと読んでスマホをしまう。
気持ち早めに──教師に指を指されない程度に廊下を駆けるあかねの瞳は、どこか遠いところを見つめている。
『え、……あ、ちょっと待って!』
後ろ姿にかけられて、脳裏で反復するクラスメイトの声。
それに彼女が抱いたのは罪悪感──だけではない。
(アタシは一人なのは)
それは──
(アタシが魔法少女だから、とかじゃなくて)
(アタシがこうだから、拒んでるだけなんだ)
諦めにも似た安堵の裏で、かつての光景が浮かび上がる。
──腫れ上がった顔を涙で濡らす男の子。
──その胸元を鷲掴む小さな右手。
──殴り続けて血が滲んだ左手。
気付けばそのようになっていた。
紛れもなく自分が行ったはずなのに、その行いに恐怖した。
そして思い出し、振り返れば。
──守りたかった友達もまた、おのれを見て恐怖していた。
「っ」
彼女は拳を握りしめる。その姿まで、思い出の少女と重なる。
当然だ。それを成したのは──やってしまったのは、竜胆あかね。
それゆえに人を拒んでいる──彼女自身なのだから。
/
彼女が執務室の扉を開いた時には、すでに本部に所属している魔法少女は皆揃っていた。
「ミストレスさん、あかねちゃん来ましたよ〜」
緩いウェーブがかった茶髪が特徴的な、いつもニコニコと笑う魔法少女イエローアイ──葛澄明子。
他の魔法少女と一緒にソファーに腰掛ける彼女は、どこか落ち着かない様子だった。
「…………」
礼儀正しくソファーに腰を下ろしながらも、その瞳は硬く閉ざされ、他の誰にも意識を向けることなく瞑想している魔法少女ロンリーブルー──楓信寺静理。
肩に届かないまでに切り揃えられた黒髪とその所作は質素で、しかし優然の美を象るミストレスとはまた違った態度の整いを見せている。
「よ、数時間ぶりだな」
そして──他二人とは明確に異なる姿を見せるのが、東京本部に所属する魔法少女の中で最も遅く加入した少女。
以前、一緒に出かけた際に見繕った黒を基調としたパンクファッションを我が身同然に着こなして、ソファーの背もたれに身体を預けながら脚を組んでいる。
あまりにも少女らしくないが、それに気負いも恥じらいもない堂に入った彼女の態度は、あかねの目には眩しいものと映っていた。
幼少期から男勝りと称されてきたあかねでも、こうまで自然に男性らしい振る舞いを身につけられることはできない。
彼女にも何かがあったのだと、それだけ知っているからこその眩さ──おのれの態度を偽らず、服に着られずおのれの魅力とするあんりは、あかねから見れば本部に所属する魔法少女の中では唯一気安い仲と言えた。
あんりに手を振り、彼女の隣にあかねが座る。
ぱふ、と彼女の腰がソファーにゆるく沈み込んだ瞬間に、その奥でパソコンをいじっていた一人の男が立ち上がった。
「やあ諸君、急な招集にも関わらず集まってくれてどうもありがとう。特にあかね君、勉学の邪魔をして済まないね」
夜空に輝く一等星を織り込んだような金糸の髪。
まさしく神が造りたもうた天上のかんばせ。
人体の黄金比を描く肉体──どれもが容易く人間を超越している。
「さて、そのような呼び出しをした私が長話をするわけにもいかない──端的に説明に入らせてもらおう」
彼こそが日本魔法少女協会会長。
彼女たち魔法少女の長、ミストレス・アドラー。
そして彼が主導する東京本部──あんりを加えてから初めての緊急会議が始まる。
12月もなかなかなので、更新速度は安定しません……ご了承ください。