TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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第五話 不穏

「つまり、その武器を剣として活かすために、私の技術が欲しいと?」

 

「そういうことになる」

 

「…………」

 

 頷くと、楓信寺静理は黙り込んでしまった。

 どこか思い悩むように目を瞑り、片手が腰あたりを彷徨っている。何かを求めるような、子供が拠り所を探すような──この凜とした、かつて聞いた“本部最強”であるという毒舌の少女には似合わない仕草だった。

 

「あくまでも、これは俺の独断だ。依頼であって、請求じゃない」

 

 正直に言えば、断られると思っていた。事前の対応からもわかる通り、俺はこの子に警戒されている。

 ただでさえ気難しい、煽りと罵倒で場のイニシアチブを取るような子だ。言った瞬間に袖に振られる可能性が高いと踏んでいたが……それがどうしてか迷っている。

 

 あるいはそこに、彼女が彼女である理由があるのだろうか。

 

 “人読みをしすぎるのは汝の悪い癖だな。そうでなければ目的を果たせなかったのだろうが……やり過ぎれば、好かれる者にも好かれなくなるぞ”

 

 脳裏に響いたアラストルの提言を、声には出さずに受け入れる。

 わかっている。俺は変わろうと思ったのだ。あの時とは──俺一人で復讐を果たそうとしていた時とは、何もかもが違うのだから。

 

「だから断ってくれて構わない。

 でも、それでも、君の剣術に俺は見惚れた。俺がこれを剣として扱うなら、その術理に従いたいと……そう思ったんだ」

 

 俺はただ、本心からの言葉をぶつける。

 彼女の剣術を見た時に覚えた熱を言葉に込めて伝えていく。

 

「もしも抵抗がないのなら……どうか、教えてほしい」

 

 もう一度、頭を下げる。

 誠心誠意、俺の熱意が嘘ではないとわかってもらえるように。

 俺は社会のゴミだが、頭を下げるべき時と相手は自分で決められるつもりだ。

 

「…………」

 

「……どうだ?」

 

「……………………」

 

 長い長い沈黙の後、楓信寺静理は構えていた竹刀を俺に放り投げた。

 慌ててそれを受け取り、構えると、彼女も新しく竹刀を籠から引き抜いていた。

 

「私は……この剣を教えられるほど強くはない。そのような資格は、私にはない」

 

 それは俺に語りかけるようで、しかし、その声色には苦いものが滲んでいる。

 小さく響かない声も相まって、静かに溺れているような──誰にも届かない、独白。

 

「だから──変身(アマド)

 

 ──ッ!?

 咄嗟に足首のバネで半歩飛び退き──刹那、俺の胸元を狙った竹刀は、薄皮一枚の大気を切り裂いて振り抜かれる。

 

「こ、れは」

 

 一拍置いて、胸中に驚愕が広がった。

 それは軌跡を追うのが精一杯なほどの剣速──に対する驚きではない。

 俺は一瞬、()()()()()()。避けねば殺すという本気の殺意を、この少女から感じたのだ。

 

 それを発した楓信寺静理──青髪の魔法少女ロンリーブルーは、

 

「楓信寺流剣術、鬼氣壌々(ききじょうじょう)の構え──剣舞連番」

 

 振り抜いた勢いで身を翻し、竹刀を腰だめに構える。

 それは一見して平常通り、なんら変わらない構え──けれど、鍛えられた曲線を描く彼女の脚は、今にも弾け飛びそうなほどにきりきりと張り詰められている。

 力を溜めているのだ。今か今かと刃を振り抜く先を求めているのだ!

 

址殿(しでん)轆々地(ろくろくじ)

 

 わずかな幼さも感じさせない冷利な宣言とともに、少女は一切の躊躇いなく腰だめの竹刀を振り抜いた。

 俺は竹刀を盾にするも受け切れず──バチンッ!!

 

「ッッッつ!?」

 

 魔力で強化された肉が裂けかねないほどの斬撃が肩に響く。

 幸いにして血は出ていない、だがその痛みは凄まじい。明らかに魔力で強化している……俺も魔力を込めなければ、竹刀ごと骨を砕かれていた。

 

 しかしそれに抗議する暇もない。

 

「まっ」

 

継殿(けいでん)面抜融(つらぬきとおし)

 

 俺の肩を打った竹刀が、わずかな停滞もなく引かれ、雷鳴のごとき踏み込みで鋭く突き出される。

 顔面を狙った一撃は、咄嗟に顔をずらすことで対処──

 

参殿(さんでん)降鐘(おろしがね)

 

 したと安心するには早いとばかりに、突き出された竹刀が今度が袈裟懸けに振り下ろされる。

 

「ッチ!」

 

 息も吐かせぬ連撃、しかしあまりに合理的だ。

 俺とて男の……男だった意地がある。竹刀が俺の側を過ぎ去った瞬間に身構えて、竹刀が振り下ろされる瞬間に飛び退いて距離を取った。

 

「おい! 意図を説明しろッ!!」

 

「──竹刀を構えなさい。理解できないのなら、それまでです」

 

「!」

 

 ダメだハナから説明を放棄してやがる、と歯噛みすると同時に気付いた。

 中段から振り下ろされた竹刀が、ゆらり、と波のように彼女の側に戻っている。竹刀が床と擦れ合うほどの下段──そこから行われる動作は、想像に難くない。

 

 だが、

 

就殿(しゅうでん)

 

 わかっていても、尚、

 

虎成之月(こじょうのつき)

 

 その踏み込みに、反応、できない。

 裂帛、大地を撃ち鳴らす震脚によって膨大な加速度を得た竹刀が、

 

「──ッッ!!」

 

()()()()()()()()()()を、天高く弾き飛ばした。

 反応できず、がら空きだった俺の胴ではなく──竹刀だけを。

 

「理解、しましたか?」

 

「…………ああ」

 

 残心──未だその身に剣気を迸らせながら、彼女は俺に問うた。俺はそれに明確に答える。

 ……この行いの意味。何故竹刀だけを弾いたのか──それを考えれば、彼女の意図は自ずと理解できた。

 

 これは、稽古だ。

 実戦形式の稽古なのだ。

 

「我が流派には、あなたの得物を扱う術理はない。しかし、根底に流れるものを汲み取ることはできる」

 

 落ちてきた竹刀をつかみ取る。

 俺がそれを真正面に向けると、彼女もまた竹刀を腰だめに構えた。

 

「だから、私はあなたを打ちのめす。足りないものを突き崩し、柔い防御を叩き折る。無論、魔力を込めて──あなたを害する意思を込めて」

 

「わかった」

 

「……それから何を得るかは、あなたの自由です。得られず終わるのもひとつの定めでしょう。……私にできる返礼は、それだけです」

 

「それだけで、ありがたいよ」

 

 俺の本心からの言葉に、彼女は意表を突かれたような顔をする。けれどその貌は、すぐに冷たいものに戻った。

 

「始め」

 

 端的な言葉を合図にして、彼女の竹刀が大気を裂いて俺に迫る。

 その一挙一動を見逃すまいと、俺は腰を落として彼女の剣劇と向き合った。

 

 

 /

 

 

 竜胆あかねはふらふらと、独り廊下を歩いていた。

 制服のまま、危なっかしく歩く様子は、早退を誘うように不調を隠しもしていない。

 あるいは隠せる余裕もないのか、紅顔の美貌は今や血色を欠いていた。

 

「……サラマンダー」

 

 ポツリ、と彼女は相棒の名を呼ぶ。

 けれどその相棒は姿を見せない。その声すらも、聞こえない。

 

「……どこいっちゃったんだよ」

 

 彼女の相棒、契約を結んだアマイガスたるサラマンダーは、あの吸血鬼にやられてから一度も姿を現していない。

 あのとき、奴に喰われたから? しかしアマイガスは死しても蘇る……ミストレスの見立てでは、すでに蘇ったと言われていたのに。

 

 それとも、新しく契約を結んだことがいけなかったのだろうか。

 ミストレスの仲介を受けて結んだ契約が、サラマンダーの気に障ったのだろうか。

 

 いくら悩んでも答えは出ない──あと少しで蘇るから大丈夫だと、ちょっと前までは何も疑わなかったのに、独り心細くなって……彼女はその恐ろしさを思い出した。

 

「……う、ぅ」

 

 一人、執務室に残された。それだけで嫌な予感はしていた。

 けれど──事態は彼女の想像を超えていたのだ。

 結果、あっけなく精神は均衡を失い、腹の底から湧き上がるえずきに、廊下でしゃがみ込むほど弱っている。

 

 手で口を抑え、どうにか吐き気を乗り切っている少女は、回らない頭で必死に現状を案じている。

 だから単純明快に、なにがしたいかという欲求を答えとしてひねり出す。

 

「どうしよう」

 

 誰かに助けてほしい。

 誰かの熱を分けて欲しい。

 独りは嫌だ。

 

「でも」

 

 居住区に住む家族は頼れない。彼らには、弱い自分は見せたくない。

 ミストレスも頼れない。あの人はきっと、寄り添えるほど弱くない。

 ならば、他の魔法少女は──青は論外で、黄は熱がない。

 

 であれば、残された解はただひとつ。

 

「……あんり」

 

 あの、ぶっきらぼうな黒い少女がいい。

 彼女ならば、弱い自分も受け入れてくれる……そうさせてくれるだけの暖かさがあると、少女は知っていた。

 

 つりそうな脚を引きずって、彼女は歩き出す。

 多分、彼女がいるだろう場所──修練場に向けて、ゆっくりと。




技名考えるの難しいけど楽しいですね……。
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