TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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前回年内最後とか言ってましたが書けたので投稿します。
※ちょっと最後を修正


第七話 嫌いになんかならないよ

 ──全身に軽度の火傷と、開きかけの裂傷痕。

 医務室でそう診断され、ギギギと壊れたブリキのように俺を見るあかねにため息を吐いたのも仕方ないだろう。

 

「私としても、こんな複雑怪奇な症状は経験がないね」

 

 そんな俺たちを他所に、医務室を管轄する先生──どこか煤けた気怠げな女性は、診断結果を見ながらタバコをふかしていた。

 

 この人は、協会本部に勤める、魔法少女ではない大人だ。医務室を管轄してはいるが、それ以外にも色々仕事があるらしく、ふらふらと出張しているという。

 俺と顔を合わせたのは、その色々な仕事をこなして帰還したあと──吸血鬼事変を終えたあとだった。

 

 ふぅ、と吐かれた白い煙が俺の頬を撫でて、咄嗟に顔を顰めてしまう。

 

「センセイ、医務室でタバコは──」

 

「あぁ、これ、電子タバコ。ニコチンとタールないから……ふぅ。まぁ、その分リラックス効果は薄いんだけどね……」

 

「じゃあなんで吸ってるんスか……」

 

反復動作(ルーティン)さ……ふぅ。ところで君、その舎弟口調似合わないねぇ?」

 

「やかましいわ」

 

 くすりと笑い、その白髪をゆるく掻いて、先生はタバコを灰皿に置いた。これで雑談は終わり、ということなのだろう。

 

「さて、今回の診断結果だが……回復魔法で問題なく治るだろうね。ミストレスに頼る必要はないよ」

 

「そうか……」

 

「自分の組織のボスが一番治療に精通してるのもどうかと思うけどねぇ」

 

「アタシ、今まで結構頼ってるから、ちょっと耳が痛い……」

 

 力なく笑うあかねの肩をたた……こうとして撫でるにとどめ、手のひらを翳す。

 さて、あまり得意ではないが──魔力量には自信アリ、だ。

 

魔求数式(マグスクリプト)第二番(ナンバーツー)──治癒(ヒール)

 

 思い出すのは、原初の怒り。

 未だ尽きぬ俺の根底で燃える憎悪を糧として、アラストルを通して魔力を引き出す。

 

「ん……」

 

 それをすべて回復魔法に注ぎ込んで、濁流のような緑の光をあかねに浴びせかける。

 途中、どこか()()()()()ようなものを覚えたが、それごと押し流すと言わんばかりに魔力を込めて回復させる。

 

 “もうそのあたりで大丈夫だ”

 

(おう)

 

 魔法の効き目を俺よりも理解しているアラストルの呼びかけで、俺は魔法の行使をやめた。

 優しい光を存分に浴びたあかねは、心地よさそうに目を細めて、腕を回して動きに問題がないことを確認したあと、俺に笑いかける。

 

「……ふむ」

 

 だが、俺の治療魔法を見た先生は、どこか釈然としない様子で目を細める。

 

「どうしたんだよ、先生」

 

「いや……あかねちゃん、少し変身してみてくれないか?」

 

「え? あ、うん── 変身(アマド)

 

 いつも通り、それなりに露出度の高いスポーツマン……あかねの場合スポーツウーマンだろうか? ともかく活動的な臍出しスタイルの戦闘装束に変身したあかねは、「……あれ?」と首を傾げた。

 

「なんか……魔力がいつもより少ない?」

 

 ……はァ? と思わず出かけた声を飲み込む。それは無駄な確認であり、言うべきことは別にある。

 

「……非戦闘時だからってワケじゃなくてか?」

 

「ああ……やっぱり、いつもより魔力の出が悪いし……動きも澱んでる気がする」

 

 偶然、あるいはコンディションの差と切り捨てる、ことは難しい。何故なら横にいる本職が、難しい顔をしてため息を吐いたからだ。

 

「なるほどね……副作用(デメリット)は肉体面に限らず……いいや、こちらが本命というワケか」

 

「納得したなら説明を頼むぜ、先生」

 

「そうだね。まず結論から簡潔に言うと、あかねちゃんが先ほど行使したという魔法は、心身に著しい負荷をかける。聞く限り実際の発動は一分か、それに満たない程度だろうが……」

 

 ──それでも確たる形で反動が出ている。

 なるほど……なかなかに()()な、とあかねを見れば、俺の目に何かを感じ取ったのか慌てて顔を逸らした。

 

「で、これは治るんです?」

 

「治る。それは間違いないが……あかねちゃん、今君はどう感じている? ああ、変身は解いていいよ。疲れるだろう」

 

 問われたあかねは変身を解き、目を瞑って自らの精神に意識を向ける。

 数秒の沈黙ののち、あかねは口を開いた。

 

「えっと……ちょっと、だるい、くらいかな? 変な感じはそれくらい、です」

 

「そうか。であればそこのベッドを使いなさい。傍に甘いお菓子も置いてある」

 

 急な話にぱちくりと目を瞬かせるあかねに、先生はゆるく笑いかけた。

 

「疲弊した精神の回復には、療養と糖分摂取が一番だと相場が決まっているのさ」

 

 

 /

 

 

 ぱくり、とあかねが口にチョコレートを入れる。とても甘い、噛み締めると歯が痛くなるようなチョコレートだ。

 病衣に着替え、ベッドに下半身を預けた彼女は、ベッド傍の椅子に座りながらリンゴを剥く俺を見て、何故か微妙な顔をした。

 

「あの、あんり? そこまでしてくれなくても……」

 

「あァ? なんだ、丸齧りの方が好きだったか?」

 

「いや、そういうワケじゃないけど」

 

「なら黙って世話されとけ。大した手間じゃねェからな」

 

 果物ナイフでしゅりしゅりと皮を剥いていく。まだ妹がいて、帰る家があった頃は、このように妹を世話していたから慣れたものである。

 あかねの顔がものすごいことになっている……似合ってないってンだろ、わかってるわ。

 

 皮を剥いたリンゴを、食べやすいように六等分。

 あかねがチョコレートを食べ終わると同時に、その一欠片を差し出した。

 

「ほら……食えるか? 食えないなら口を()け、」

 

「いや食べれる! 食べれるから!! 流石にそこまでされるとその……っあ、ありがとう!」

 

 俺からフォーク付きりんごをふんだくると、ヤケになったように口に運ぶ。それに肩をすくめて、俺は果実が盛られたバスケットを手に取った。

 

「さて、次は何が食べたい?」

 

「それより先に聞くことがあると思うんだけど!?」

 

 身を乗り出して叫んだあかねに、俺はニヤリと口角を上げた。──かかった。

 

「ああ、その通り。俺には聞くべきことがある」

 

 にっこりと笑ってバスケットを手放す。あ、と何かに気づいた様子のあかねは、おそるおそるこちらに問いかけてきた。

 

「……もしかして、このやりすぎなくらいのお世話も、アタシの方から言わせるために?」

 

「いや、それは純然たる善意だ」

 

「……ああ、そう」

 

 どこか諦めたような顔をして、“妹さんもこの調子で世話されてたなら堪らなかっただろうな……”とあかねはぼやく。

 失礼な、妹には好評だったぞ。ちょっとばかし甘えたがりでわがままに育ってしまったが、それはそれでかわいいからな。

 下の子に好かれれば守りたくなるし、嫌われれば悲しくなる。兄というのはそういうものだ。

 

 ……そんなかわいい妹を守れなかった愚兄が言えたことではないが。

 身のうちから湧き上がる怒りと憎悪を、腹の奥底に押しとどめる。

 吐き出すべきは、今じゃない。

 

 すぐに平常心を取り戻して、俺はあかねを真っ直ぐ見つめる。

 

「俺はな、お前がどうしてあんなことをしたのか、理由が知りてェんだ。話していいこと、話したくないこと、そっちにも色々あるだろうが……それでも、こっちは聞かなきゃならん」

 

 先の診断でわかったように、あかねが使ったあの魔法はとても危険だ。

 俺の一喝で正気に戻ったとはいえ、次も同じようにできるかはわからない。しかも戦闘に支障が出る可能性すらある。

 だから最低限、何をトリガーにして発動するのか、把握しなければならない。

 

 たとえそれで、彼女に嫌われてしまったとしても。

 

 あーとかうーとか、迷子のように声を漏らすあかねだったが、俺がじっと見つめると観念したように息を吐く。

 

「……わかった、わかったって。だからそんな、覚悟決めたような顔するなよ」

 

「あ?」

 

「アタシ、そんな子供じゃないし。そっちだって色々考えてアタシから話を聞こうとしてるってわかってる。……だから、嫌いになんかならないよ」

 

 ……そんなにわかりやすかったか、俺。ポーカーフェイスには自信があったんだが。

 

 “むしろ、ポーカーフェイスがゆえ、だろうな。いやに真剣味が増すだろう?”

 

「……そうかよ」

 

 揶揄うようなアラストルの声に、思わずツンと言葉を返す。

 ……なんだか妙に手持ち無沙汰になってしまったので、バスケットから洋梨を手に取り、果物ナイフを走らせる。

 りんごが食えるなら洋梨も食える。もし食えなかったら俺が食う……完璧な理論だな。

 

「結局剥くんだ……」

 

「梨、嫌いか?」

 

「……ううん、嫌いじゃない。ありがと」

 

 しゅりしゅりと洋梨の皮を剥く音が、病室に響く。

 ふ、とあかねは息を吐いて──ポツリ、ポツリと話し始めた。

 

「あのときは……そう、ちょっとだけ、弱ってたんだ」

 

 力なく笑ったあかねは、自分の手元に目を落とす。

 それから、女性らしくも角張った両手を、ぐっと握りしめた。




病弱な妹が死ぬ前のあんりは家事万能のクソ過保護なお兄ちゃんでした。ド級シスコンです。
第二章は第一章に比べて世界が広がると思います。
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