TS魔法少女の刑に処す 作:TS魔法少女を曇らせ隊
「…………」
日本魔法少女協会本部、最上階。
周辺を一望できるガラス張りが特徴的な展望室──その中心で、一人の少女が目を閉じていた。
怪盗を思わせる片モノクル、白衣を基調として黄色の差し色が入った衣装。
白手袋の上から機械的な指輪をひとつ、左の人差し指にはめた少女は、その全身に淡い白の魔力光をまとわせている。
まるで凪いだ水面のような、起伏のない魔力。
それが展望室の床に刻まれた溝に滴り落ち、やがて少女を取り囲むような円陣を形成、そこからさらに分化して幾何学的な文様となる。
それを成した少女、すなわち変身した葛澄明子は、聖職者と見紛うほどの真摯さで祈っていた。
否、それは紛い物ではなく、ある意味で真実だった。
ここは彼女のためにミストレスが用意した特殊な祭壇であり──少女は、おのれを見出した天使のために祈っているのだから。
「──範囲指定、東京全域」
まるで揺らぐことのない、平坦な声が祭壇に響く。
「──対象指定、高位アマイガス」
一つ一つ、明確に目的を定めていくごとに魔法陣が輝きを増す。
「使用魔力、充填完了。以って光を受けたまえ、世界を映す瞳──
魔法陣から湧き上がった光が、少女の頭上で寄り集まり──一瞬だけ円球の
同時に、明子が大きく息を吐いた。眼は閉じたまま、魔力の流出で荒げる息を落ち着かせて……。
「……いません、ね?」
首を傾げた。
/
「ふうむ」
執務室で、ミストレスは唸っていた。
迅速に指令をこなした明子から上がってきた連絡。本部の展望室を利用しての、東京全域の監視カメラを利用した索敵──その結果を見て、彼もまた首を傾げた。
「私の予想では、すぐにでも現れると思ったんだがね」
あれが最初に支部を壊滅させてから、今まで被害報告は上がってこなかった。
ゆえに明子が東京を索敵をすれば容易く引っかかる──と想定していたが、結果は空振り。
「監視カメラを避けた? いいや、あれにそんな知恵はない。まだ東京に入っていない……誰にも発見されずに? それこそあり得ない」
以前相対した“
「単独でないのなら、他のアマイガス……も、明子くんなら索敵できるか」
あの展望室の力で増幅させた明子の魔法は、東京の監視カメラにおのれのパートナー……システムに等しい天使ラグエルを電子を通じて接続し、それにより高精度の索敵を行うことができる。
それをさらに生かすため、ミストレスが東京二十四区中に監視カメラを増設させたのだ。
それに一つも引っかからないなど、少々考えづらい。
しばし考え、ため息を吐く。
「……仕方ない。しばらく彼女には索敵を維持してもらおう」
つまり展望室暮らしである。
年頃の少女には堪えるだろうが──幸いにして、彼女はそれを気にするような人間ではない。
もちろん給金も色を付けるが、それすらも彼女にとっては大した意味を持たないだろう。
そのように結論付けて、彼はため息を吐く。
「我が身の無能が嫌になるねぇ」
──もっとも、それを受け入れたのはおのれ自身の選択だ。ゆえに後悔は絶対にしない。
魔王ルシファーとしてではなく、協会長ミストレスとして立てた魂の矜持に誓って、それを翻すわけにはいかないのだ。
ふぅ、と再度のため息で気持ちを切り替えると、机の端に置いてある端末に目を向けた。
そこに映っているのは、医務室の映像。
泣いている赤毛の少女と、その手を握っている黒の魔法少女の姿だった。
「……」
そんな二人を見つめる瞳は、深い暁闇に塗りつぶされている。
彼が何を考えているのか、それを知るものは彼だけで──あるいは彼すらも自覚していないのか。
「……ああ、まったく。嫌になるね」
何が、なのかは口にせず。
「嫌になるほど、順調だ」
瞳を閉じて、天井を仰いだ。
/
「落ち着いたか?」
「……うん」
恥ずかしそうにそっぽを向くあかねに苦笑する。
天気雨のように泣いて、泣き続けて、これは雨というより
やはり一度泣いて鬱憤を吐き出すというのは、男女に共通する精神安定法らしい。
その最中にこぼしていた誰かのことは……触れるべきではないと決めた。
「さて、これからどうするかね」
色々吐き出してすっきりしたあかねだが、その魔力には未だ澱みが残っている。
これはもう、あの炎の
“そこンところどうなんだ、アラストル”
オマエ、あかねが暴走してからずっと黙ってただろ。
何か知っているんじゃないのか?
“…………禁則事項だ”
どこか躊躇いがちに切り出された言葉に、俺は唖然とした。
「はァ?」
“それを口にすることは禁じられている……誰もが持ち得、それでいて誰もが忌避するヒトの心……知れば身の破滅も招きかねん。ゆえに我らは口にせず、それが許されることもない”
「オイオイ……」
これでも自己制御には自信があるんだが。
“たとえ汝であっても──否、
「なんだそりゃ」
精神でつながっているからこそわかる、巌のごとき断固拒絶。
さすがに、今聞き出すことは諦めて……。
「……あんり、なんで百面相してんの?」
「あぁ〜……」
ちょっと引いた様子のあかねをどう誤魔化すべきか、頭を回すことにしよう。
“…………偶然か?”
“いや、だが……第一魔法に目覚め、精神的に安定しているエースなら、他の支部にもいくらかいるはず”
“楓信寺静理……竜胆あかね……未だ不明瞭なれど、葛澄明子”
“
“──そして、蒲蕗あんり”
“我が契約者にして”
“苛烈なる復讐者である彼を、何故?”
“──ミストレス、貴様は何を考えているのだ?”