TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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第九話 いない

「…………」

 

 日本魔法少女協会本部、最上階。

 周辺を一望できるガラス張りが特徴的な展望室──その中心で、一人の少女が目を閉じていた。

 

 怪盗を思わせる片モノクル、白衣を基調として黄色の差し色が入った衣装。

 白手袋の上から機械的な指輪をひとつ、左の人差し指にはめた少女は、その全身に淡い白の魔力光をまとわせている。

 

 まるで凪いだ水面のような、起伏のない魔力。

 それが展望室の床に刻まれた溝に滴り落ち、やがて少女を取り囲むような円陣を形成、そこからさらに分化して幾何学的な文様となる。

 

 それを成した少女、すなわち変身した葛澄明子は、聖職者と見紛うほどの真摯さで祈っていた。

 否、それは紛い物ではなく、ある意味で真実だった。

 ここは彼女のためにミストレスが用意した特殊な祭壇であり──少女は、おのれを見出した天使のために祈っているのだから。

 

「──範囲指定、東京全域」

 

 まるで揺らぐことのない、平坦な声が祭壇に響く。

 

「──対象指定、高位アマイガス」

 

 一つ一つ、明確に目的を定めていくごとに魔法陣が輝きを増す。

 

「使用魔力、充填完了。以って光を受けたまえ、世界を映す瞳──鍵譜完誦(オールクリア)

 

 魔法陣から湧き上がった光が、少女の頭上で寄り集まり──一瞬だけ円球の()()が浮かび上がり、水泡のようにはじけて消えた。

 同時に、明子が大きく息を吐いた。眼は閉じたまま、魔力の流出で荒げる息を落ち着かせて……。

 

「……いません、ね?」

 

 首を傾げた。

 

 

 /

 

 

「ふうむ」

 

 執務室で、ミストレスは唸っていた。

 迅速に指令をこなした明子から上がってきた連絡。本部の展望室を利用しての、東京全域の監視カメラを利用した索敵──その結果を見て、彼もまた首を傾げた。

 

「私の予想では、すぐにでも現れると思ったんだがね」

 

 あれが最初に支部を壊滅させてから、今まで被害報告は上がってこなかった。

 ゆえに明子が東京を索敵をすれば容易く引っかかる──と想定していたが、結果は空振り。

 

「監視カメラを避けた? いいや、あれにそんな知恵はない。まだ東京に入っていない……誰にも発見されずに? それこそあり得ない」

 

 以前相対した“摂取欲(パッチワーク)”は、ただおのれより優れたものを取り入れるだけの怪物だった。たとえヒトの頭脳を模倣しようが、それを動かす知識が欠けていた。

 

「単独でないのなら、他のアマイガス……も、明子くんなら索敵できるか」

 

 あの展望室の力で増幅させた明子の魔法は、東京の監視カメラにおのれのパートナー……システムに等しい天使ラグエルを電子を通じて接続し、それにより高精度の索敵を行うことができる。

 それをさらに生かすため、ミストレスが東京二十四区中に監視カメラを増設させたのだ。

 

 それに一つも引っかからないなど、少々考えづらい。

 しばし考え、ため息を吐く。

 

「……仕方ない。しばらく彼女には索敵を維持してもらおう」

 

 つまり展望室暮らしである。

 年頃の少女には堪えるだろうが──幸いにして、彼女はそれを気にするような人間ではない。

 もちろん給金も色を付けるが、それすらも彼女にとっては大した意味を持たないだろう。

 

 そのように結論付けて、彼はため息を吐く。

 

「我が身の無能が嫌になるねぇ」

 

 ──もっとも、それを受け入れたのはおのれ自身の選択だ。ゆえに後悔は絶対にしない。

 魔王ルシファーとしてではなく、協会長ミストレスとして立てた魂の矜持に誓って、それを翻すわけにはいかないのだ。

 

 ふぅ、と再度のため息で気持ちを切り替えると、机の端に置いてある端末に目を向けた。

 

 そこに映っているのは、医務室の映像。

 

 泣いている赤毛の少女と、その手を握っている黒の魔法少女の姿だった。

 

「……」

 

 そんな二人を見つめる瞳は、深い暁闇に塗りつぶされている。

 彼が何を考えているのか、それを知るものは彼だけで──あるいは彼すらも自覚していないのか。

 

「……ああ、まったく。嫌になるね」

 

 何が、なのかは口にせず。

 

「嫌になるほど、順調だ」

 

 瞳を閉じて、天井を仰いだ。

 

 

 /

 

 

「落ち着いたか?」

 

「……うん」

 

 恥ずかしそうにそっぽを向くあかねに苦笑する。

 天気雨のように泣いて、泣き続けて、これは雨というより(かめ)をひっくり返したようなものでは、と思えるほどに泣いたあかねは、今やすっかり落ち着いていた。

 やはり一度泣いて鬱憤を吐き出すというのは、男女に共通する精神安定法らしい。

 

 その最中にこぼしていた誰かのことは……触れるべきではないと決めた。

 

「さて、これからどうするかね」

 

 色々吐き出してすっきりしたあかねだが、その魔力には未だ澱みが残っている。

 これはもう、あの炎の反作用(デメリット)だと諦めるしかないだろうが……。

 

 “そこンところどうなんだ、アラストル”

 

 オマエ、あかねが暴走してからずっと黙ってただろ。

 何か知っているんじゃないのか?

 

 “…………禁則事項だ”

 

 どこか躊躇いがちに切り出された言葉に、俺は唖然とした。

 

「はァ?」

 

 “それを口にすることは禁じられている……誰もが持ち得、それでいて誰もが忌避するヒトの心……知れば身の破滅も招きかねん。ゆえに我らは口にせず、それが許されることもない”

 

「オイオイ……」

 

 これでも自己制御には自信があるんだが。

 

 “たとえ汝であっても──否、()()()()()()()()()()だからこそ、知らせることはできん”

 

「なんだそりゃ」

 

 精神でつながっているからこそわかる、巌のごとき断固拒絶。

 さすがに、今聞き出すことは諦めて……。

 

「……あんり、なんで百面相してんの?」

 

「あぁ〜……」

 

 ちょっと引いた様子のあかねをどう誤魔化すべきか、頭を回すことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “…………偶然か?”

 

 “いや、だが……第一魔法に目覚め、精神的に安定しているエースなら、他の支部にもいくらかいるはず”

 

 “楓信寺静理……竜胆あかね……未だ不明瞭なれど、葛澄明子”

 

 “()()()()()()()()()()()

 

 “──そして、蒲蕗あんり”

 

 “我が契約者にして”

 

 “苛烈なる復讐者である彼を、何故?”

 

 

 “──ミストレス、貴様は何を考えているのだ?”

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