TS魔法少女の刑に処す 作:TS魔法少女を曇らせ隊
踏み出した先は、見慣れた、けれど慣れない装飾が施された協会の大広間。
これが支部の大広間か、などと物珍しがるおのれを必死で奥に押しとどめ、こちらを呆気に取られた目で見る少女たち──と、彼女たちより一回り、二回りは年上であろう妙齢の女性に向けて、俺は声を張り上げた。
「俺はあんり、蒲蕗あんり。支援要請を受け、東京から出向しました、魔法少女です」
さて、これなら聞こえない、ということはないだろうが、どうなるか。
静かに様子を伺っていると、衝撃で固まっている少女たちとは違い、これを聞かされていたのか、ゆっくりとこちらに駆け寄ってきた。
「あなたが……本部の、魔法少女。ということは、ミストレス協会長が援軍を送ってくださったんですね」
支部長と思わしき落ち着いた女性は、そう言って俺に会釈した。
やはり支部長を務めるだけあって、情報も行き届いているのだろう。それにしても、礼儀正しい人だった。
「はい。魔法少女としては若輩ですが、戦力としては、本部の他魔法少女に劣るものではないと認識しています」
「それはありがたい援軍ですね。今回出現したアマイガスに関する情報は?」
「本部で行われた会議においてある程度は。新たな情報がありましたら、是非」
「ふふ、小さいのにとてもしっかりしていますね。あのひとが送ってくるだけはあります」
小さいのには余計だ、とは口に出さず、愛想笑いに止める。そんな子どもらしくない小賢しさも良く映ったのか、支部長はゆるく笑い、俺と入れ替わるようにして廊下に出る。
「私は色々、やらねばならないことがありますので、失礼します。あんりちゃんはここでみんなと親睦を深めていてくださいね」
そうやって声をかけられた他の少女たちが、ようやく再起動した。
「……いやいやいや!! どーやって来たんですこの子ぉ!!? 東京!? 本部って、えぇ!!?」
「落ち着いてシバちゃん、すごい顔になってるわよ」
「だぁれがシバちゃんやとこのボケェ!!」
まるで向かってきたボールを打ち返すように、シバちゃんと呼ばれた大阪弁の少女のチョップが、隣の頭に綺麗にクリーンヒットした。流れるような、あまりにも自然かつ手慣れた様子のノリツッコミに、思わずぱちぱちと拍手してしまった。
「なにアンタも拍手しとんねん天然か!! ったく、いきなり東京から来た言うもんやからビビってしもたやないか……」
「それは
「そこは疑ってへんし。シブチョーがまじめに応対しとったもの……つーかけったいな口調しとんな」
じ、とこちらを見つめられる。
たしかに、この見た目だと俺の口調はさすがに似合わない。とはいえ、出会ったばかりの少女に事情を話す気もないので、肩をすくめるだけに済ませた。便利な処世術そのいち、察してちゃんである。
「そんなコテコテの関西弁なシバちゃんが言えたことじゃないと思うけどね。あなたもそう思わない?」
なお、察してくれずにキラーパスを出されると、一転窮地に陥ったりする。
にこにこと笑いながらこちらに変化球をぶん投げた少女は、すでに変身しているようで、身体から魔力が漏れている。同時にそれが消費されていることから、何かしらの魔法を使っているようだった。
そうやって観察していると、笑う少女と目線がかち合い、すぐに気づいて後悔する。
──また無遠慮に見ちまった。警戒されてる、よな。
「……魔法を見られるくらい、別にいいわ。どうせすぐにわかることだし、むしろ、用心深くて頼もしいとも言えるわね」
そんな俺の危惧もお見通しだったらしく、ひとつため息を吐いた後に、少女は俺をフォローした。
関西弁の少女もうんうんと頷きながら、俺の肩に手を置いて、どこか慈愛を込めて生暖かく俺を見る。
「せやな。魔法少女には変わりものが多いし、気にしなくてええで」
……俺がこうなったのは俺自身のせいではない、とか、それフォローになってねェよ、とか言いたいが、うん、我慢しよう。
確実に殺せる瞬間が訪れるまで耐え忍んだのが俺である。ストレスで血反吐を吐きながら臥薪嘗胆の心持ちでいたあの頃に比べれば、この程度屁でもないわ。
“それと今回の我慢では、いささかレギュレーションが違う気がするが”
黙ってろアラストル。
“人に当たるのはよくないと思うぞ”
黙っていろアラストル……!
ごほん、と場の意識を切り替える意味を込めわざとらしく咳をする。それで意図を察したようで、関西弁の少女が俺から離れ、まず最初に自らを誇示するように、薄い胸を張った。
「うちは
「
「やかましいわ! そこ突っ込むところやあれへんやろ!」
ビシ、と再度脳天に一撃。しかしそれを受ける陽鶴は変身しているからか、それに堪えた様子もなく、流れるように漫才じみた舌戦が始まる。
ああ、なるほど。このノリが平常運転なのか。さすが大阪、俺たちとは空気感が違うぜ。
「っつーか
「内輪ネタとブラックジョークは使い所を選びなさい。両方を兼ねるなら、もう、どうしようもないわ」
「今うち陽鶴っていう身内と話しとるんやけどなー? もしかして陽鶴うちのこと嫌いなん?」
「本能で喋るのも大概にしてほしいわね。もう少し頭を使ったら? そしたらすぐにわかるわよ」
「ほんで嫌いってわかったらうちすぐに泣くで!?」
「安心なさい、そうはならないから」
……とても、本当に、仲が良さそうで羨ましくもあるが、このまま流されていてはいずれ本題が海の藻屑と消えそうだ。
「あー、ちょっといいか?」
「そうならないって……ン、なんや?」
「俺ァ緊急要請を受けてここに来たンだが……なんか、そっちの様子を見てると、結構余裕そうだな? 何か秘策でもあるのか?」
ミストレスの様子を見るに、それなりの緊急事態だと感じたのだが、この二人からはそんな様子は伺えない。
そう疑問に思い、口に出すと、乾紫乃は驚いたと言わんばかりに手のひらを打ち合わせた。
「あんりちゃん知れへんの? あんまテレビ見ないタイプ?」
「生憎と、最近は縁遠くてな」
まさか大阪に来るとは思ってなかったし、と独りごちる一方で、内心ではおのれの浅学を恥じる。テレビでいくらでも研究資料は残っているのだから、研究しようと思えばできたはずだ。
今後はそれも考えてきちんと時間を使おう。
「はぁ〜、まあ今時は動画とかもあるからなぁ。そういうこともあるわなぁ……」
「それで私のことを随分眺めていたのね。納得だわ」
「この一件が終わったら他支部のも見てみるよ。そんで、実際に何かあるのか?」
まあ隠すもんでもないな、と乾紫乃は前置きして、チラリと隣の木嶋陽鶴を見る。確認をするような眼にしっかりと頷いてみせた彼女は、俺を見てにこりと笑った。
「
「正確には、こいつの姉の美雲が
──は?
「……助けに行かなくてもいいのか?」
一瞬、漏れかけた感情に蓋をして、問いかける。それを察知しているのか、俺を落ち着かせるように、乾紫乃は軽く答えた。
「必要あれへんやろ。な、陽鶴?」
「そうね。“私達”にその心配は無用よ。きちんと退路は用意しているもの」
“私達”──その呼称に違和感を感じたのも束の間、薄く笑った木嶋陽鶴が、支部の外へと目を向ける。
「
「あとはシブチョー待ちやな。あんりちゃんもほら、そんな気張ってたら疲れんで?」
「あ、ああ」
そうだ、と俺は思い出した。
アマイガスは、周辺人口に応じて強大になるということを。
確かに東京本部は強い。俺を含めた全員が第一魔法に覚醒している──だが、それがすべてというわけではない。
大阪、大阪市。
その人口は全国屈指のものであり。
「“私”、もう少し頑張りなさい」
そこを守護する魔法少女たちが、東京に劣るわけがないのだ。
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東京から幾ばくかの山を越え、鬱蒼とした深い森を過ぎ去り、岩肌を打ち据える荒波を乗り継いで。
などと、そんな直通便は存在しないが、いずれにせよ東京からは少々離れた近畿地方、その中心。東京都に続き、日本の人口密度第二位の高みにある都道府県──大阪府。
その県庁所在地である大阪市には、魔法少女組合の大きな支部がある。
東京本部にも劣らぬ居住性と利便性を備えた大阪支部に所属する魔法少女の数は、とある黒衣の少女が加入する以前の東京と同じ
そしてその全員が、第一魔法以上の覚醒に成功している、A級魔法少女であった。