TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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第十二話 双子(ひとつ)の魔法

 通常、魔法少女になれる適性を持つ少女はとても少ない。それは肉体的に他者を受容する機能はともかく、アマイガスとの契約に耐え切れる精神が培われているかどうかが、個々人によって変わってくるからだ。

 自尊、野心、羨望、義憤、守護、興味、自衛──言い表せる言葉は、それこそ虹のように無数にある。

 要するに、おのれだけの芯があれば、魔法少女としての土壌ができるのだ。後はその土壌の質、貧富の差が、魔法少女の力を決定する。

 

 弱く貧しい土壌では、美しい花は芽吹かぬように──強く富める心がなければ、魔法少女は強くなれない。

 根本的に土壌がある者を、一〇〇〇人に一人の割合としよう。

 そこからさらに()()()()()()()()()()だけが、強大なアマイガスと契約し、()()()()()を得る機会がある。それほどまでに、この平和な現代においては、突出──あるいは、社会において求められる通常の規格から外れた精神は生まれづらい。

 

 たとえば、魔法少女ブラックアンリ。

 彼は女性化によって他者を受容する機能を得、その上で、男であった頃の強靭きわまる精神をそのまま持ち越したことで、アラストルと呼ばれるヒトガタとの契約を成功させた。ほとんどの魔法少女が、低級の獣型アマイガスと契約を交わしているのに対し、である。

 

 それは驚くべき才能と言えよう。

 彼はその境遇に折れず、復讐を決意し、その過程で精神を幾度も打ちのめされながらも目的を遂げた。そうやって、歪ながらも豊かな心を培ったのだ。

 

 それは刀剣を生む工程に似ている。

 曲がれど折れず。

 憎悪で熱された精神を、深い挫折が打ちのめし、それでも彼は諦めず、その精神を研ぎ澄ました。

 憎き者どもの喉元を掻っ切り、その血飛沫でようやく心を休めるまで、彼はおのれを打つ刀工だった。

 

 それは現代社会においては特級の規格外だ。

 彼女のような存在が生まれるようなことは二度とない。

 二度目を期待してはならない、異常と言い換えてもいい特例。

 

 

 ──であれば彼女以外の魔法少女は皆、社会の歯車に収まる程度の、弱々しいものなのか? 

 

 

 断言しよう。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 確かに彼女の経歴は壮絶だ。それは違えようがない。

 だがそれは()()()()()()()

 不幸自慢など意味はない。彼女の規格(スケール)を壊すに足る出来事が、()()()()()()()それであったというだけで、何が原因で何が起こるかは個々人によって変わってくる。

 

 他者がその出来事をまるきり経験することはできない。まさしく()()()()()()()()

 何を感じ、何を思い、どうやっておのれを慰めるかはおのれ次第。

 その出来事で如何なる土壌(ココロ)が育まれるかも、おのれ次第なのだ。

 

 

 

 ──魔法少女協会・大阪支部に所属する、三人のA級魔法少女たち。

 彼女たちは極少数でありながら、大阪府全域をカバーしており、その体制は奇しくも東京都と似通っている。構成員も、ブラックアンリが加入する以前と同じ三名──大阪府と東京都、全国的に見て非常に小さな面積と、それに反比例する人口を持つ都道府県を担当するがゆえの少数精鋭。

 

 そんな彼女たちの固有魔法を見たミストレスは、ちっとも微笑むことなく冷静に、組織の長としてこう告げた。

 

東京(うち)と同じ少数精鋭をコンセプトに、ここまで高水準で安定させるとはね。何より素晴らしいのは生存力だ。魔法少女の殉職率は、常々改善したいと思っているけど……その際、理想となるのは大阪だろうね。それほどのものだとも』

 

『そうだね、大阪支部の総合的な戦闘能力は、()()()()()()()()()()()()──今のところは、だけど』

 

 東京本部に匹敵、ないし上回るという高い評価を下したミストレスは、それを以て彼女たちに魔法少女としての称号を授与することを決定した。

 本来、魔法少女としての名前は、支部長及び個々人の裁量で決まる。しかし協会長たるミストレスに限り、全魔法少女に正式な名称を与える権限を持つ。それを行使したのである。

 

『今回は少しシンプルに行こうか』

 

 そうして与えられた名前は、()()

 

『乾紫乃には“輝矢姫”。

 残る二人には“天に瞬く双子星”。

 ──君たちにとっては、これが一番相応しいだろう?』

 

 

 

 /

 

 

 

「……変なことを思い出したわ」

 

 魔法少女スタージェミニは、自身の周囲に散らばせた星々の数と残存魔力を数えながら、遠のいた意識を取り戻した。

 ──後、五つ。補充できるのは十個くらい? そのくらいが潮時かしら。

 

「情報によると、一般人は攻撃しない、らしいけど」

 

 こんな肉塊のごとき奇怪な化け物の良心に期待するなど、それこそ馬鹿というものだ。少女はため息を吐きながら、ぽこん、とさらに五つの星を生み出す。

 監視カメラで見たものよりも、一回りか二回りは大きいその異形──“摂取欲《パッチワーク》”。気味の悪い見た目もさることながら、その全身から滲み出る魔力は、まるでパレットの上で適当にかき混ぜられた絵の具のように穢らわしい。

 

 個性も特徴もまるごと煮詰めた黒い魔力が、肉塊がずるずると這うにつれて、その痕跡を残すように道路に染み付いていた。

 

『R、UU……』

 

「女の声で鳴かないでよ、気持ち悪い」

 

 鬱陶しいほど甘く、身の毛がよだつ鳴き声。何もかもが不快感を掻き立てる怪物に、半ば本気で侮蔑の言葉を吐き捨てると、その瞬間に怪物は動き出した。

 

『UA、AAaAAAAAAAAa──』

 

 ぐにゃり、と肉が破裂する。否、それと見紛うばかりに分裂し、増殖し、それらが結合して無数の腕を形成する。その根本がたわみ、物理的に考えてあり得ない張力を溜め込んで──

 

「──()()()()()()()

 

 打ち出された無数の腕を、少女は瞬時に形成した障壁によって、こともなげに防いで見せた。同時に、障壁の角に位置していた五つの星が、輝きをなくして散っていく。

 その分の星をすぐに補充し、スタージェミニは冷たく笑った。

 

「もう効率化は済んでいるわ。星五つ、小技も小技。もう少し気合を入れなさいな」

 

 ──とは言うものの、さすがに高位アマイガスね。魔獣型なら三つも使えば余裕で防ぎ切れるのに。

 それにわずかに焦りが生まれるも、しかし、彼女の魔力は揺らがない。

 

 

 そう──“私達”の魔力は、この程度では揺らがない。

 彼女は確信している。彼女たちが今まで積み上げてきた実績、経歴、それらがすべて、彼女を支える自信。

 

『“私”、もう少し頑張りなさい』

 

「もう、こういうときは発破じゃなくて応援が欲しいわ」

 

『はいはい、頑張って美雲(わたし)

 

 そこに叩きつけられた肉の巨槌を防ぎながら、通学路で駄弁るような気軽さで、魔法少女スタージェミニは笑い合う。

 ──残数、四。

 

「そういえば、東京から応援が来たらしいけど、どういう子なの?」

 

 彼女たちは二人で一人。

 全国的に見ても極めて数が少ない、()()()()()()()()()()()()()()

 

『ええ、とても可愛らしい子よ。あなたのことを心配しているわ』

 

 砕けた星を即座に補充。間髪入れずに、先ほどよりも多量の魔力が込められた黒い腕を防ぎ切る。

 ──残数、ゼロ。

 

「なら尚更ね。伝えておきなさい、陽鶴(わたし)

 

『なにかしら、美雲(わたし)

 

 木嶋陽鶴と木嶋美雲。

 瓜二つの可憐な少女たち。

 

 

東京(あなた)の手を煩わせるまでもないわ」

 

「このアマイガスは、私たちが処理する」

 

「大阪は、強いもの」

 

 

 彼女たちが持つ()()()()──我らは輝く一等星(ワン・トゥインクル・シングス)

 その効果は、概念的同一化。

 

「潮時ね。そろそろ帰るわ、陽鶴(わたし)

 

 肉塊がさらなる変貌を遂げる。

 

『U、AAAAAAAAAAAAAAAAAA──!!』

 

 いつまで経っても喰えない餌に苛立ち、赤児のように唸りながら、ぐじょぐじょと無数の細く艶かしい手足と歯並びの良い口を()()()

 あまりにも悍ましい姿へと変わっていく“摂取欲”を、スタージェミニは観察する。そこに諦めは存在しない。

 

『わかったわ。偵察、ご苦労様』

 

 肉塊が跳ねる。無数の手足をばねのように使って、身を守るための星が尽きた極上の獲物を喰らわんと、大口を開けて飛びかかり。

 その刹那、スタージェミニが薄く笑う。

 

「それも知ってる。──じゃあね、間抜けな怪物さん」

 

 ()()姿()()()()()()()

 

『…………………………A?』

 

 瞬きをするよりも早く──まるで最初からいなかったように、魔法少女スタージェミニはその場を後にして。

 残された怪物だけが、無数の首を、ごきり、と傾げた。

 

 

 

 /

 

 

 概念的同一化。

 それは木嶋美雲は木嶋陽鶴で、木嶋陽鶴は木嶋美雲であると示している。

 そこに二人は存在する。ゆえに二人は一人であり、そこに矛盾は存在しない。

 

「おかえり」「ただいま」

 

 魔法少女スタージェミニが、魔法少女スタージェミニの元に、寸分違わず現れる。

 その姿は傷だらけで、魔力も枯渇寸前で。けれど役目を果たした清々しさに満ち溢れている少女たちは、まさしく瓜二つの、仲良しの姉妹そのもの。

 

 それこそが双子(ひとつ)の奇跡。

 

「お帰りなさい、スタージェミニ。あらましは陽鶴ちゃんから聞いていますから、今は体と心を休めてください」

 

 支部長の労りを受けて、二人は魔法少女のまま、ともに大広間のソファーに座る。

 

「「ありがとうございます、支部長。シバちゃんも、スポドリありがとう」」

 

「ええよええよ。お疲れさん」

 

 そして、突然少女が転移してきたことに驚き、固まっている蒲蕗あんりをくすりと笑って、二人は一緒に口を開いた。

 

 

「「さあ、作戦会議をしましょう。あなたの手を煩わせるつもりはないけど、万全を期すためにね」」

 

 

 二人は一人、一人は二人。

 木嶋美雲/木嶋陽鶴の第二魔法は、その存在を同一にする。

 

 魔力も。

 魔法も。

 ()()()()()

 

 彼女たちは常に、お互いが同時に存在している。

 ゆえに、基地にいる木嶋陽鶴の元に、木嶋美雲が現れても、何らおかしいことはないのだ。




これにて連続更新は終わりです。
今後もエタらずに頑張って書きたいと思いますので、応援よろしくお願いします。
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