TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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第六話 不良仕込みのファーストパンチ

 我ながら突飛な考えだ。

 だがこれ以上、ミストレス・アドラーの画策に相応しい考えもまた、浮かばない。

 何より、人の身体を女にしてしまうような人外であれば、このようなことでもおかしくないとさえ思えてしまう。

 

「……ッチ」

 

 やはり、やるべきことはただ一つ。

 ミストレス・アドラー、奴を問い詰め詳しい事情を吐かせるのだ。

 俺の考えは所詮考察でしかない。他人の真意なんて本人にしかわからないものを考えすぎるのは時間の無駄だ。

 幸いにしてここは日本魔法少女協会(MAGI)、その代表であるならば、ミストレス・アドラーはここにいるはずだ。

 

 そして道案内ならば──目の前でポーズを決めている、打ってつけの少女がいる。

 

「もう一つ、頼みたいことがある」

 

「? はい〜?」

 

「起きて早々、色々頼み込んで悪いと思うが──道案内をしてくれねェか」

 

 君もよく知る、ミストレス・アドラーのところへと。

 俺の言葉に、魔法少女イエローアイの微笑みがわずかに深まったような気がした。

 

 

 /

 

 

 彼女の跡を、雛鳥のように付いて離れず歩いていく。

 コツコツと廊下に反響する不協和音じみた脚の音を背景に、俺は身体と意識を馴染ませるのに必死だった。

 脚がもつれて転びそうになり、意識的に動かさなければ両手両脚を同時に踏み出しそうになる。激減した身長による感覚の違いも相まって、まるで自分の身体でなくなってしまったようだ。

 

「大丈夫ですか〜?」

 

「お、ぉう、大丈夫、だっ」

 

 すでに変身を解いた少女に先導されながら、男女での骨格やら筋肉やらの差異を思い出す。

 早急に慣れてしまいたいが、女の動きに慣れてしまったら今度は男に戻ったときに酷い目に遭いそうだ。

 

「そ、うだっ」

 

 うっかり鏡を見たら吐き散らかすような身体で、日常生活を送れるはずがない。

 意識が女に調整されてしまう前に、さっさと男に戻らなければ。なによりも俺の健全な精神のために。

 

 時折倒れそうになるのを少女に支えてもらいながら、覚悟を下に自分の脚で廊下を歩く。

 さらにエレベーターを使わずに階段を登るとか、あえて自分の身体に無理を押し付けて動かしていると、やはり自分の脚で歩いていたのが功を奏したのか段々と脚が意識通り動き始めた。

 

 付き合わせてしまった少女には悪いが、こうでもしなければ()()()()()()()()()

 

 

 やがて建物の上層に着くと、廊下で通り過ぎていったものとはまた異なる──巨人でも通れてしまいそうな黒木のドアが現れた。

 

 少女が言うには、ここがミストレス・アドラーの執務室であるという。

 本当は()()()に紹介するのが先なんですけど〜、と息を吐いていた彼女に改めて頭を下げつつ──最後にひとつ、言葉をかけた。

 

「ところで──ミストレスさんの『変われ』、これに聞き覚えは? 別にそれに限らず、同義語ならなんでも良いんだがよ」

 

「? 何かの謎かけですか〜?」

 

「いや、普通に聞き覚えはあるかってだけサ。ないならないで構わねェ」

 

 少女は顎に手をやり、考え込む仕草を取って……首を振る。

 

「聞き覚えはないですね〜」

 

 その朗らかな顔を見て、ああやはり、と胸中でミストレス・アドラーに唾を吐き捨てる。

 彼女は本物の女の子だ。おそらくは()()()も。

 

 ──奴に言ってやりたいことが増えたぜ、クソッタレが。

 

 そんな内心はおくびにもださず、手を振りながら去っていく少女を見送る。

 ……これから先のことは、あまり人には聞かれたくない。

 

「さァて」

 

 ゆっくりと息を吐き、ワンツー、ワンツー。

 掌を開き、また閉じて、軽く屈伸をして身体を整える。パン、と両手を激しく打ち合わせ、ひりつく痛みに口角を上げる。

 

 俺は非力だ。貧弱で、男だった頃とは比べ物にならないほど弱い。

 この細腕では公園に落ちている木の枝を折るにも苦労するだろうし、足腰も脆い。

 それは認めよう。

 認めた上で、今どうすればいいのか考えるのだ。

 

 少ない手札でどう戦うか。

 いつも考えていたことだろう、俺よ。

 

 ドアに手をかけ、……俺の膂力では重すぎるので、体重をかけてドアを押し込み、中に入った。

 

 

「やあ、さっきぶりだね。元気してるかい?」

 

 

 ──内装がどうとか、そう言ったものがすべて吹っ飛ぶほどの美しさ。

 あるいは面会室、何もない白ゆえに『それ』しかなかったものが、内装という比較対象を得てしまったことでさらに際立っているのだ。

 

 おそらくその美しさの前では、あらゆるものが従ってしまうだろうと──無意味な確信まで抱いてしまう。

 

 

「ふふ、改めて見るとやはり可愛らしいね。もちろん私ほどじゃないけれど」

 

 

 腰を落とし、脚を縮ませバネのように力を溜める。

 一歩一歩、着実に。空回らないようゆっくりと。

 ──悟られないよう、内なる怒りを潜ませて。

 

「ああ、そういえば肉体と意識の差異はどうかな? 今歩けてるところを見るにある程度調整できたようだけど、何か不便があったら存分に言ってくれたまえ」

 

 近づく、ミストレスが座る机へと。

 捉え、られるか─

 

「ん? 何か用向きがあって──」

 

 

 

「っしゃ死ねオラァアアアアアアアアッッ!!!!!」

 

 

 

 無防備に乗り出した上体、その鳩尾に渾身の拳を叩き込む! 

 人間、掌を閉じればいつでもお手軽に武器を得られるんだよ! 喧嘩と尋問に明け暮れた俺の積年パンチを喰らえやこの男女(オトコオンナ)ァッ!! 

 

 どむ、とわずかに拳が沈み込む感触に命中(クリティカル)を確信する。いくら非力になったとしても体重を乗せた拳を弱点に喰らえばキくはずだ。

 

 そう、キくはずだった。

 実際、キいたのは間違いない。

 

「〜〜〜〜〜ッッッっ!!?」

 

 ()()()()

 

 忘れがちだが、基本的に人間の拳は何かを殴ると反作用で痛みが返ってくる。だから普通の人間が何かを正面から殴ろうものなら逆に悶えることになる。

 

 だがそれでもめげずに殴り続けていると、段々と拳の骨が変化していき、反作用を喰らってもそれほど痛みを感じなくなるように変化していくのだ。

 俺も実際にそうだったから、今の今まで忘れていた。

 

 筋肉も骨格も足腰も弄られ、腕に至ってはもやしのごとき貧弱さな俺が何かを殴ろうものなら──

 

「ッッッ痛ぅっ……!」

 

 ──このように、無様な姿をさらすことになると。

 赤く腫れた掌を抑えて後ろに飛び退き、胸の辺りに押し付けながらへたり込む。心なしか視界もどこか滲んでいて、情けなさで喉が詰まる。

 

 まったく考えていなかった、今の自分の肉体強度をまったく考えていなかった。

 ならば脚で顎を狙いにいくべきだったか、そう考えてかぶりを振る。俺の身長の低さだと、必然的に脚も男であった頃から縮んでいる。いくら奴が上体を乗り出していても顎にまで届かない! 

 しかもまだ完璧に操れるとは言い難いのに、無理にハイキックなんざかましても自滅するだけ。

 

 つまり何もかもミストレス・アドラーが悪い。

 

「おのれここまで考えていやがったかミストレ……ス?」

 

 恨み辛みを込めた言葉とともにミストレスを見た俺は、その異様な光景に思わず疑問符を浮かべてしまった。

 

 ──突っ伏している。

 あの、いつも超然としていたミストレス・アドラーが。

 高そうなモダンの机に、頭を突っ伏していた。

 

「……ふ、ふふ。まさか初撃で、それも身体が慣れていないのに鳩尾を狙ってくるとはね……さすがは元アウトゴホッ」

 

 しかも思いっきりむせた。

 

「……なんでテメェが悶えてんだよ」

 

「いやあ、ね? 実際に悪いことしたなぁって思ってたゴホッから、一発殴られてもいいように肉体強度を常人程度にゲホッ引き下げていたんだよね。それでもひ弱な少女の拳なッゴホら受け切れると踏んでいたんだゴホゴホけれど……」

 

「むせながら喋るな聞き取りづれェ……」

 

「こうしたのは君なのにひどいことゲホッゴホッゥエッ

 

「拳が痛ェ……」

 

 ──閑話休題(数分後)

 

 何やらボソボソと呟いたと思ったら復活し、とびきりの笑顔を向けてくるミストレスに気持ち悪いものを見る目をくれてやりながら、対面に用意されたソファーに座る。

 もはやこいつの前で姿勢を正す必要性を感じないので、遠慮なく脚を組んでミストレスを睨みつけた。

 

「さて、そろそろ聞かせてもらおうか」

 

「何のことかな?」

 

「しらばっくれんじゃねェ」

 

 親指を自分に向けて突き出し、己の心を吼える。

 

俺を魔法少女にする、なんていうクソにも劣る所業をしでかそうとするその魂胆(ワケ)、とっとと聞かせてもらおうか……!!」

 

 俺の言葉に、ミストレスは笑う。

 その微笑みは、どこまでも、どこまでも──化け物らしい笑みだった。

 

 ……随分とまあ、親しみが持てる化け物だが。

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