TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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第七話 魔法少女刑

「ふふ、目覚めて少ししか経っていないのに、すぐにそれに辿り着くとはね。君を見込んだ者としては鼻が高いよ」

 

「与えられた要素を組み立てればすぐにわかるだろーが。茶化してねェでさっさと答えろ」

 

「まあまあ、慌てない慌てない。きちんと説明してあげるとも」

 

 ミストレスが片手を振ると、俺たちを挟むソファーの上に一枚の紙が現れた。

 もはや超常を隠そうとしないミストレスに呆れつつ、その紙を取り上げる。

 

「これは……棒グラフか? なんのグラフだ、これ」

 

()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

 さらりと告げられた言葉に絶句してしまう。グラフには45とか、ひどい時には102とか、そんな数字が記されている。

 そのすべてが年間死亡者数、ミストレスはそう言ったのだ。

 

「……確認するが、これはアマイガスとの戦闘によるもの……だな?」

 

「その通り。日々出現するアマイガスに対処するため魔法少女が駆り出され、そして対処できずに死んでいく。そんな例が後を立たないのさ」

 

「政府は何してんだ。こんだけ死んでたら民衆に突き上げられて……」

 

 そこまで言って、ハッと気付く。

 つい先ほどまでの俺はこれを認識していなかった。魔法少女という存在の死亡者数など、知る由もなかったのだ。

 すなわち、何かに誤魔化されているということ。そして国家には、そういうのがお得意な組織というものが存在する。

 

「……メディアか」

 

「そういうことさ。ヒーローとして支持を集める魔法少女という存在は、()()()()()()()そうされているだけに過ぎない。事実として人々を救うヒーローであっても、実情を見ればこんなものさ」

 

「相変わらず中立の立場を捨て去っているようで何よりだな、クソが」

 

 メディアが全面的に協力しているなら、暴露なども起こらなかった──握り潰していたのだろう。報道するメディアを抑えてしまえば話題も広がりようがない。

 だが、なるほど。メディアの過剰な魔法少女アゲにこのような裏があるとするなら、見えてくるものがある。

 

「あんだけヒーローとして報道してりゃ、人も自ずと集まってくる……か」

 

「加えて言えば、政府は魔法少女への手厚い支援を表明している。扱いとしては国家公務員で税金から出る給与も高いから、貧乏な家庭の子女が逆転を求めて志願することも多い──が、結果はこの通り」

 

 命を担保にして稼ごうとしてすべてを失う。珍しいことではないが、それが年頃の少女──それもこれだけの数に起こっていると考えれば薄寒いものがある。

 その中には、きっと幼い頃の憧れのままに志願して、その果てに届かず墜落した者もいるのだろうから、なおさらに。

 

「そこんトコ、日本魔法少女協会の代表サンとしてはどう考えてんだよ、オイ」

 

「痛いところを突くね。うん、日本魔法少女協会はこれの改善に取り組んでいる。魔法少女のレベルに適した支部に振り分けたり、危険なアマイガスの発生を感知したら他支部の強力な魔法少女に支援を要請するとかのシステムを整えたり……ね」

 

 ただ、と前置きしてからミストレスはため息を吐く。

 

「魔法少女の中には部活感覚で近くの支部に勤めている者もいるし、そう都合良く強力な魔法少女の予定が空いていることもない。端的に言えばシステムが完璧に整っていないんだ。

 加えて魔法少女の給与は歩合制だ。強力なアマイガスを仕留めればそれだけ貰えるから、他支部に要請する者も少ない」

 

 グッダグダじゃねェか、とは思うものの、口には出さない。今まで魔法少女の恩恵で無事に生きていた俺が何を言おうと意味のない批判だからだ。

 それに、目の前の現実に争っている当のミストレスを見れば、そのような言葉は軽々しく口にはできない。

 

「政府としては、そもそも死ぬことを前提として高い報酬を約束している側面もあるから、あんまりシステムが整って死者数が少なくなると資金が枯渇しかねない。だから妨害も時折入る。

 まったく、こんなこと()()は望んでいないというのに」

 

「彼女?」

 

「──ああ、こちらの話だ。聞き流してくれたまえよ」

 

 つまり触れられたくない話か。誰しもそういうものはある、人外でもそれは同じということだろう、と首肯すれば、ミストレスの口角が歪む。

 

「人は愛おしいが、物分かりが悪いのが玉に瑕だ。君がそうでなくて助かるよ」

 

「世辞は受け取っとくぜ。ともかく、俺の立場からすればクソ政府としか思えねェが……」

 

「お互いのスタンスの差はあれど、きちんと考えることはあるのさ」

 

 なるほど、政府も何か手を打っていると。であればその構図を考えよう。

 日本魔法少女協会(ミストレス)は死者数を減らしたい。

 日本政府はとにかく数を動員したいが、金がないので死なないのも困る。

 彼の言い分をすべて信じるのはどうかと思うが、今はそれしか情報がないのでそれを前提に考えると──

 

()()()()()

 

「……ふふ、話が早いね。そう、政府も無策じゃない」

 

 死んでも誰も困らず、外部から隔離されているから隠蔽も容易く、単純に頭数に入り、それどころかやりようによっては金すら払わず死ぬまで酷使できる。

 そんなおあつらえ向きの連中がいる。

 

「『情状酌量の余地がある死刑囚』にのみ適応される、()()()()()()()()()──」

 

 

「──通称、魔法少女刑

 

 

「君がそのモデルケース、第一号というわけさ」

 

 

 /

 

 

 告げられた事実に言葉を返さず、身体を柔らかなソファーに沈める。

 数瞬の静寂の後、息を吐いた。

 

「……首吊って死ぬ手間かけさせる前に、戦って死ねってことか?」

 

「違うさ。言っただろう、『情状酌量の余地がある』と。魔法少女として戦うことが罰、そう考えてくれ──」

 

 すなわち、戦い続ければそれだけ罰を受けることになり、いずれ釈放されることすらもあり得る。

 そう続けたミストレスに、ひとつ、問うた。

 

「それは強制的なモンか?」

 

「いいや? もちろん拒否権はあるとも。その場合通常通り死刑執行までの間、拘置所で過ごすことになるから、断ることはないだろうと政府高官は考えていたけれど」

 

「じゃあ断ったのに女にされたのは?」

 

「私の勝手さ。私は君を、()()()()()()()()()からね」

 

 その笑顔に欺瞞はない。それがわかってため息を吐く。

 どうやら本当に、とんでもない化け物に目をつけられてしまったらしい。

 

 ──ミストレス・アドラー。こいつは決まりを破ることに一切の呵責を覚えていない。

 それは生まれ持っての悪性だとか、そういったものでは決してない。それらを尊重する心はあるくせに、いざとなれば平気で破り、それを当然だと考えている。

 

 いわば法よりも人を上に置いているのだ。

 化け物らしいと言えばそうだが、まったく。

 

「………………」

 

 法的には問題がない、ということはわかった。魔法少女として戦うことが、俺に与えられたもう一つの罪の形であることも。

 

 ──だが。

 

「ミストレス。俺をこの容姿にしたのはテメェの趣味か?」

 

「違うさ。私はあくまでも君を少女に変化させただけ。その時、遺伝子情報はそのままに、“もしも君が少女だったら”という仮説の下再構成される。もしも君が誰かに似ているというならば、それが少女である君という夢の構成要素になっただけの話だよ」

 

 そうか。

 

「やっぱり、俺には無理だわ」

 

「ふぅん?」

 

「鏡を見たら、思っちゃうんだよ。苦しみ抜いて死んだあの子が……実はもう俺は俺じゃなくて、あの子が成り代わって生きているんじゃないかって、そんな夢に囚われるんだ」

 

 そんなことはあり得ない。俺は俺として生きていて、あの子はあの時死んだのだ。

 それはもう覆らない。けれどどうしても夢見てしまう──あの子が生きていたのなら、と。

 

「そもそも俺は殺人鬼だ。普通の女の子に、何か悪影響でも出たら俺はそれこそ奴らと同じだ」

 

 だから怒った。こんな俺を彼女たちの仲間として扱うなんて、と。

 

「金も、自由も、何もいらねェ。俺はもう……終わってる」

 

 誰かを殺した罪は、死で償わなければならない。

 俺はもう、己自身にそう定めている。

 それを翻すことは……できない。

 

 言い切った俺を、ミストレスはじっと見ている。

 俺もまた、彼の瞳を見返して──先に折れたのはミストレスだった。

 

「……ふぅ。わかった、そこまで言うならそのようにしよう。ただそれには時間がかかるし、何より私の気が進まないから、しばらくは遅めのモラトリアム期間といこうじゃないか」

 

「ぶっちゃけたな、オイ。ま、それでいいさ。いくら時間をかけても、俺の結論は変わらねェし」

 

「ただ、私にも言いたいことがある」

 

 ミストレスはピシャリと言って、その長い指で俺を指す。

 自然、部屋中で緊張感がひりつき、背筋がピンと伸びた後で、彼は言った。

 

()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……は、」

 

「以上、私の言いたいことは終わりだ」

 

 呆然とする俺から目を離し、ミストレスは席を立つ。

 黒塗りのドアに手をかけた彼は、振り向きざまにこちらに向かって何かを放る。

 

 慌ててそれを受け取ると──

 

「……水晶玉?」

 

「それは()であり、()であり、()()()()()()()()だ」

 

 透き通った水晶玉からかけ離れた、どこか哲学じみた言葉に眉を顰める。

 

「……どういう意味だ?」

 

「そのままの意味さ。それを肌身離さず持っていたまえ、悪いことにはならないからね」

 

 悪戯っぽくウィンクを落とし、彼は執務室から去っていく。

 残された俺は、掌を転がる小さな水晶玉を眺めて、つぶやいた。

 

「……本心? 逃げ? 行き詰まり?

 そんなの──そんなモン、わかりきって……」

 

 そこから先の言葉は。

 何故か、どうしても、出てこなかった。

 

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