TS魔法少女の刑に処す   作:TS魔法少女を曇らせ隊

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昨日は更新できず申し訳ありませんでした。
色々立て込んでおり、加えて内容にウンウンと悩むこともあるため、時折このように空く事があると思いますが、ご了承ください。


第八話 日本魔法少女協会本部

 ふらふらと廊下を歩く。

 脳裏にはミストレスの言葉がずっと反響し続けていて、意識は明晰だというのに深い水底を歩いているようだ。

 

 何もかも定かでない中で、手の中で転がる小さな水晶玉の硬さだけが俺に現実を伝えてくれる。

 ……これは俺で、ミストレスで、そして俺とミストレス以外の誰か。

 

「ダメだ……まったくわかんねェ」

 

 謎かけか、と思うものの、ミストレスはそのままの意味だと言ったのだ。

 彼が無意味な嘘を吐くとは思えない。ただあまりにも哲学的すぎて、考えれば考えるほど理解できなくなる。

 

 ウンウン唸りながら歩いていると、どこからか足音が聞こえてくる。

 俺のものではなく、この聞き覚えのある足音(リズム)は──

 

「イエローアイか」

 

「正解〜」

 

 さっきぶりの抑揚のない声に、何故か安心感を覚えてしまう。

 後ろから階段を経由して追いついてきたらしい彼女は、穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

「それで〜どうでした〜? ミストレスさんと話したんですよね〜?」

 

「ああ……ちょっとな」

 

 曖昧にぼかして、彼女から視線を外す。

 彼女を、魔法少女を見ていると、あのグラフを思い出してしまう。

 あの残酷な数値という名の現実を、彼女は知っているのだろうか。余計なお世話だとわかっていても、そればかり気になってしまうのだ。

 

 はっきりしない俺の態度に、彼女は不思議そうに目を瞬いたものの、すぐに笑顔に戻って俺に手を伸ばす。

 

「詳しいことは聞きませんけど〜……()()()()()()()ですね〜?」

 

 突きつけられた言葉に苦笑する。

 こんな女の子にまで看破されてしまうほど、俺の態度に出ていたのか。情けなくてため息まで出そうだ。

 

「……わかっちまうかァ。そんなに俺、わかりやすいかな?」

 

「そんなに所在なさげにふらふら、歩いていたら誰にでもわかりますよ〜」

 

「……そうか。ったく、もう四年も前に、迷わないって決めたはずなんだけどな」

 

 今俺は迷っている。すでに定めたはずの決定が、彼の言葉で揺らいでいる。

 思わず自嘲の言葉が漏れてしまう。間違っても、出会ったばかりの少女に吐露することではないだろうに。

 

 少女は微笑んでいる。思いっきり笑ってくれてもいいのに、何も感情を持たないただの微笑みを浮かべている。

 今は、その優しさが染み渡──

 

「あはは〜。初めて来るところですし、迷っちゃうのは仕方ないですよ〜」

 

「……ぅン?」

 

 その言葉にどこか、深い行き違いを感じた瞬間。

 彼女はこちらに手を伸ばした。

 

「もう迷わないよう〜、私が案内してあげます〜」

 

「……………………ハァ」

 

 脱力した。

 

 

 /

 

 

 俺の勘違いはともかく、彼女の提案は渡りに船だ。……適当に歩きすぎて迷っていたのは事実なので。

 そんな訳でイエローアイに導かれ、施設を巡ることになった。

 

 まずここは、保健室で彼女が語っていた通り日本魔法少女協会、MAGIの本部であり、地理的には東京二十三区に位置している。

 

 何故東京なのか。それは東京が日本の首都──『日本で最も人口が多い場所』だからだ。

 それすなわち、アマイガスの被害が最も出やすい場所、ということを意味している。対アマイガスの矢面に立つ日本魔法少女協会、その本部が置かれるのも道理だと言えるだろう。

 なお、同じ理由で有力とされる支部はそのほとんどが政令指定都市の支部である。

 

 彼女の語り口によれば、本部や有力な支部のサポート力は非常に優秀らしい。

 加えて発展した都市に属しているため気軽に遊びに行けて便利だそうだ。

 

 年頃の少女らしくて、久方ぶりに心が安らいだのは秘密である。

 

「ここが〜私たちに与えられた自室ですよ〜。本当はたくさんあるんですけど〜本部に属している魔法少女の数が少なくて〜あんまり使っていないんですよね〜」

 

「税金の無駄じゃねェかな、それ……」

 

 居住区画には百以上の個室が設けられていたが、そのほとんどが使われていない。

 思わず苦言を呈したものの、本当は魔法少女の家族も保護目的で入ることができるという。ただ今現在その制度を使っている魔法少女は一人だけだそうで──

 

 ──天涯孤独、そう思ったが口には出さなかった。

 

 そんなこんなで案内は進み、ある程度施設の構造を理解した頃。

 

「実は、紹介したい子たちがいるんです〜」

 

 イエローアイからそう切り出されるも、すぐに察しがついた。

 彼女は俺がミストレスにスカウトされ、魔法少女になったと思っている。おそらく、紹介したい仲間とは──仲間の魔法少女。

 

 だからこそ、ここは断るべきだろう。今まではなあなあで誤魔化してきたが、きちんと“自分は魔法少女になる気はない”と、伝えなければならない。

 

「悪いけど、俺は──」

 

 

──ドゴォオオオッ!!!!

 

 

 まるで重機が壁に突っ込んだ光景を思わせる轟音が建物中に響き渡る。

 それは心構えも何もしていなかった俺の脳を深く揺らし、思わず立ち眩んでしまう。

 

「な、んだこの音……!?」

 

「この音は〜……あぁ〜」

 

 混乱する俺とは対照的にどこか納得するような声を漏らしたイエローアイは、小さくため息を吐き──「『変身(アマド)』」

 

「ちょっと急ぎますよ〜」

 

「はァ!?」

 

 急に変身したかと思えば、両手で俺の身体と脚を支えて抱き上げた。

 いわゆるお姫様抱っこだが、いきなり抱きかかえられたこちらとしてはただ困惑するばかりである。というか今の俺軽すぎやしないか。

 

 そもそも年頃の少女が破廉恥な……今は俺が女の子だから破廉恥も何もねェ!

 

「ちょ、敵襲なら俺が行く意味は……!!」

 

「そういうのじゃないですよ〜。これはちょっとした……()()()()()()

 

 なんだって、と聞き返す前に、イエローアイが地面を蹴る。

 トントンと軽快な足音とともに──自動車を思わせるスピードに加速した。

 

「うわっ、うわわっ、いや待て早いはやいっ!?」

 

 嘘だろ魔法少女ってこんなスピード出せるのか!? 人間としてどうなってんだマジで!

 

「あんまり喋ると舌噛んじゃいますよ〜」

 

「ふんっぐぐぐ」

 

「あら怖がってる子猫みたいで可愛い〜」

 

「ふんっぐぐぐぅうう!!!」

 

 口を閉じたまま不平を表明してやると、魔法少女イエローアイは小さく笑った……ような気がした。何分早すぎて目が回るのだ。

 そんなふうに廊下の背景と俺の視界を置き去りにして、轟音の元へと突っ走る。

 乗り心地はもちろんのこと最悪だった。

 

 

 /

 

 

 音の発生源は本部一階、出入り口近くのロビーだという。

 そこに入る前の廊下で急停止したイエローアイは、慣性をマトモに食らってうめき声をあげる俺を地面に下ろすと、ロビーの中を指差した。

 

 とりあえず後で文句言ってやる、などと思いながら指差す方向に目を向けて──その光景に、唖然とした。

 

 赤髪を後ろで束ねた少女が、()()()()()()()()()

 ちょうど思いっきり何かを殴ったような前傾姿勢で、荒い息を吐いている。

 その前にいるのは──椅子に座る、まだ中学生くらいに見える青い短髪の少女。

 

 紅い手甲に包まれた拳が、青髪の少女に当たる直前で止まっていた。

 見れば青髪の少女の前には薄い水色の膜があり、それが拳を堰き止めているのだ。

 

「……相変わらず短気ね。そんなに言われるのが悔しかったの?」

 

「……ああ、言われるのは悔しいさ。悔しくて、悔しくて……だけどそれ以上に、人をおちょくるテメエの根性に腹が立つ……!」

 

 赤い少女は拳を引いて、一拍の後鋭く少女に突き込んだ。

 だがそれも青い膜に阻まれる。ぎりぎりと拳を押し込んでも、空気のように触れられず、どうやっても侵すことはできない。

 そう自負するがごとく、眼前に拳があるというに青髪の少女は動じていない。

 

「人を安全圏から馬鹿にするみてえに眺めやがって……! ざっけんじゃねえ!」

 

「そう思うなら、自慢の拳で突き破ってみなさいよ。なんなら()()()()でもいいわ──ああ、でも」

 

 青髪の少女は首を傾げ、笑う。

 それはどこまでも明確に、赤髪の少女に向けた嘲りだった。

 

 

「あなたの第一魔法(よわび)じゃ、私の第一魔法(ちから)は破れないか。()()()()()()()()()()()()()

 

 

「────ぶっ殺す」

 

 少女の手甲が光り輝き、何か致命的なモノに変わっていく。

 それが()()()()()だと気付いた瞬間、隣に立っていたイエローアイが叫んだ。

 

 

「はぁ〜〜〜い、やめやめ〜! それ以上やるとミストレスさんに怒られるよ〜!」

 

 

「……ちっ」「ふん」

 

 互いに悪態を吐き捨てて、身体ごと顔を背ける。心底から顔も見たくない、そう主張しているかのようだ。

 青髪の少女は竹刀袋を持って椅子から立ち上がると、そっぽを向く赤髪の少女に顔も向けずにこちらに歩いてくる。イエローアイの隣を通り過ぎる刹那、

 

「……優等生気取りは楽しい? 人がわからないと、せっかくの笑顔も台無しね」

 

 そんなことをボソリと呟いて、去っていった。

 ……イエローアイの側にいた俺には、一目もくれてやらないで。

 

 やがて、ローファーで地面を蹴る音が遠のき、消え去った頃。

 

 ふと、イエローアイの顔から笑顔が消えた。

 それは一瞬だった。見間違いかと惑う間に同じ笑顔を浮かべていたが──それがかえって、ひどいことを言われたというのに未だ微笑んでいる矛盾性を匂わせる。

 

 赤髪の少女も苛立ったように歯を噛み締めており、部屋の主体である彼女たちがそんなことになっているからかロビー全体が剣呑とした雰囲気に包まれていた。

 

 そんな中で、唯一誰とも関わりが薄い俺だけが取り残されている。

 とんでもない現場に居合わせてしまった居心地の悪さが胸中に居座り、どこか釈然としない気分で──ぼやく。

 

「……なんつうか、全方面に喧嘩売ってるような子だったな」

 

 現実逃避じみた言葉は、やはり、部屋の空気を重苦しくするばかりだった。

 

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