ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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にぎやかなクリスマス

 

ダイアゴン横丁に帰ると、街はクリスマスマーケット真っ盛り。独り侘しく暮らしているなんてとんでもない。オリバンダー翁が営む小さな杖の店では、通販のフクロウと厚着した客とがひしめきあっていた。帰宅するや否や、ガラハッドは制服姿のまま店頭に立つ羽目になった。

 

 

「 杖磨きセット7つですね? 」

 

 

自動速記羽ペンが帳簿を綴る。

 

 

「 すべてプレゼント用で?少々お待ちください。はい次の方!杖磨きセット3つに、最高級杖ケースおひとつ。お色はどうされますか? 」

 

「 まあガラハッド君! 」

 

 

この忙しいときに、よく喋る客は店頭に居座って長々と喋る。

 

 

「 大きくなったわねえ!今日帰ってきたの?レイブンクロー生なのね、嬉しいわ。私も弟もうちの姪っ子も、レイブンクローなの 」

 

「 寮の伝統に恥じぬよう頑張りますマダム。よいクリスマスを! 」

 

 

ガラハッドは声を張り上げた。「よいクリスマスを」は会話を切り上げる万能の撃退呪文で、ガラハッドはその夜これを使いまくった。――――お買い上げありがとうございます。よいクリスマスを!長らくお待たせ致しました。よいクリスマスを!よいクリスマスを!

 

 

さてようやく客足が去り、へろへろになったガラハッドが内側から店の入り口を施錠したとき、オリバンダー家の居間は足の踏み場がなく、フクロウたちの抜け毛が至るところに舞い散らかっていた。店内に収まらなかったが、ギャリックが工房だけは死守してフクロウを入れないので、ソファには大型のフクロウがひしめき、小さなコノハズクたちは室内を飛び回るしかなかったのである。

ぼさぼさの頭で、部屋の中央のあたりにギャリックはいた。彼は座る場所がなくて立ち尽くしていた。

 

 

「 ―――よく帰ってきた! 」

 

 

裏返った声でギャリックは言った。折角持ち帰ってきたヤドリギまでどこぞのフクロウの停まり場にされて、げんなりしつつもガラハッドは、左手を胸にあて頭を下げて曾祖父に挨拶をした。

 

 

「 ただいま帰りました――――いやまあ、三時間ほど前にはもう帰ってきていましたけどね? 」

どね? 」

 

「 うっかりしておった。助かった。お前が帰ってこなければ、今頃どうなっていたことか!これまでは、お前かアラベールがいてくれたからな。そのつもりでおったんじゃ 」

 

 

 

単身で製造と接客と通販対応は無理というものである。

腕まくりをしながらガラハッドは、ひい、ふう、みい...と不機嫌なフクロウたちの数をかぞえいった。

 

 

「 父さんは、今年も? 」

 

「 当分帰ってこれない 」

 

「 教授だもんな。ホグワーツに行って、よくわかったよ。とっても大変な仕事だ―――しかも外国で…敬意しかない 」

 

「 かっかっか、あれが大変な目に遭っとるのは、自業自得なんじゃがなあ!お前にそう思われたら、あやつも幸せじゃろうて 」

 

 

日付が変わる頃に発送作業は終わった。

 

深夜、ブランデー入りの紅茶を飲みながら暖炉の前でギャリック・オリバンダーは、灰色の目をキラキラ銀色に光らせていた。不格好にひしゃげているが、眺めているのはガラハッドの持ち帰ったヤドリギだ。それは、嬉しそうに暖気を浴びていた。まだ緑色をしているが、いよいよか――――と、老いたギャリックには思えた。

 

 

「 いいもんだなあ 」

 

 

低い声でギャリックは唸った。

あの枝が金に変わるころ、古来森は代替りしていく。

どんな森になるんだろうかと、微睡みつつ夢想していた。

 

 

「 ガラハッド、お前の森にするといい。夏至には火を焚いて、輪になって歌って踊ってだな… 」

 

 

上機嫌でギャリックは眠った。

 

 

 

クリスマス当日の朝、まだ起き抜けで顔も洗わないうちからガラハッドは、自室の机上に積んであったプレゼントの包みをちまちま開けては、いやらしく冷や汗をかいていた。彼は、いつものレイブンクロー仲間と飛行練習の件で個別にお世話になった先輩がたに、年賀状のつもりで筆を使って少々こってりとしたクリスマスカードをしたためただけだなのだが、よもや予想しなかった人物からプレゼントを受け取ったり、贈り物のなかに手編みのマフラーをみつけたりなどして、極めて俗っぽい衝撃を受けていたのである。

 

目に見えて、等価交換贈与関係が崩壊しているではないか!

 

しまった。非常識なことをした!欧米のクリスマスって、こんなにみんな手広く奮発しあうものなの!?

 

送らなかった人に今からカードを送ったり、一応カードを送った人に今から遅ればせに釣り合う品を贈ると、魂胆が露骨すぎて、我ながらますますいやらしい。でも、貰いっぱなしというのはまずいし…どうしよう…とガラハッドはその朝、支度をして着込んで家を出て、近所のマダム・マルキンのもとに泣きつきにいった。マダム・マルキンは例年、クリスマスマーケットのお祭り騒ぎが終わった翌日に、静まり返った横丁での散歩を何時間も楽しんで、店々のクリスマス飾りを満足げに眺めるのである。ガラハッドはこの手のことに関して、我が保護者ギャリックは役に立たないという確信があった。自分がいつまでもイギリスの常識に疎いのは、あの爺さんが偏屈すぎるからじゃないか。

フローリアンの家の前に張り込んでおくと、案の定マダムはトコトコと歩いてきた。立ち話をして相談すると、「簡単よ」とマダムは、白い息を吐き散らかして笑った。

 

 

「 ホグワーツに戻る前に、箱を四つ買ってなかに目一杯お菓子を詰めるのよ。ダイアゴン横丁でしか売っていないものが良いわね。今日はクリスマスだけど、おばさんと一緒に歩いて、ドアを叩いたらみんな売ってくれるわよ。"漏れ鍋"のトムなんかは、特別なケーキを焼いてくれるんじゃない? 」

 

「 どうして四箱なんです? 」

 

「 だって寮は四つでしょう?"クリスマスに贈りものをくださった皆さんへ"と、宛名して談話室に送ればいいの 」

 

 

それは名案だ。好きにとって食べてもらうというわけか。

ガラハッドが篤く礼を述べると、寒いなかマダムはにっこりと頬っぺたを紅く輝かせた。

 

 

「 "今年も幸せを分け合いましょう"と添えるといいかもね。それにしても、ガラハッド君、たった数ヵ月で大きくなったわねえ!これから大変ね、モテる男の子は 」

 

「 何をおっしゃいますやら 」

 

「 いいえ、わかるわよこのソフィー・ベルタンには。あなたのお母さんも、ちょっとびっくりするくらい綺麗な娘さんだったもの。あなたお母さんにそっくり!いまにおばさんに、勲章のほうがこぞってぶらさがりたがるようなビロードのマントを仕立てさせて頂戴ね。ところでフローリアンは元気? 」

 

 

気のよい婦人に救われて、無事に帰省は終わった。

 




■クリスマス、ヤドリギ、死出の旅…微睡みながらギャリックが予感しているのは、主人公による「祭司殺し」です。杖の術、それは樹木信仰。樹から杖をつくりそれを人とつがわせるギャリックは、当代の「森の王」であり十分に老いています。詳しくはイギリスの社会人類学者ジェームズ・フレイザーによって著された未開社会の神話・呪術・信仰に関する集成的研究書『金枝篇』をどうぞ。

■「マダム・マルキン(案山子おばさん)」という名前はあまりに出来すぎているので、あくまで店の名前であって本名ではないでしょう。本名はソフィ・ハッターで、道楽者の亭主がいるといいんじゃないかな。映画『ハウルの動く城』のふたりです。これの原作小説のハウルはいくつも名前があります。ハウエル・ジェンキンスとか、魔法使いペンドラゴンとか。「ベルタン」はそんな旦那にやいのやいの言いつつ、結構影響を受けてきたソフィーが名乗ることにした名前ということで。元々は魅力的なドレスを仕立ててフランス宮廷を虜にし、「モード大臣」とまで呼ばれた人物の名前です。
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