“ぶっとばされ慣れ”なら魔法界随一だと自負するガラハッドである。
だって軍国生まれ地獄育ち、修羅界のやつら大体友達(※殺しあったことがある、という意味で)
能の修羅物にあるではないか。戦いに散った亡霊たちは、夜な夜な波間の光に怯え、月光を相手に斬りかかって狂う。
殺されても跳ね起きて殺し返しにいく。
染みついた動きがあだとなって、意識を取り戻すや否やガラハッド・オリバンダーは担架から転落した。四つ足で飛び下がることで立つよりも先にこちらを見竦めたガラハッドに、スネイプは当初「此奴、噛まれてしまったか!!」と思った。
「 くっ…! 」
「 ―――ッ!? 」
盛大な睨めっこであった。
目を凝らしてお互いの正気を察し合ったとき、スネイプとガラハッドは同時に安堵の息を吐いた。
「 ッ…なーんだ、あんたか。一瞬吸魂鬼かと思いました…! 」
「 なーんだとは何だ驚かせおって!こっちこそ人狼かと思ったぞ!! 」
「 まあ確かに。それっぽかったかも…―――ああ、“彼”は、どうなりましたか? 」
「 檻を作って入れた 」
スネイプは素っ気なく答えた。初めの彼は大声をあげたことで、宙に浮いた担架のうえの人々は、わずかに身動ぎし始めた。
ガラハッドは、そのなかに縛られたブラック(感染していないのか、ちゃんと人間の姿だ)も交じっているのに気がついて、ドスンと重苦しい気分になった。
ルーピン先生だけが、救護の対象とされずに湖畔に取り残されたのだ―――さながら、パスカヴィル家を絶やすために狂わされる犬みたいに。
「 そのぅ…スネイプ先生? 」
ガラハッドは小声で言った。
スネイプは城へ向かおうとしていた。
彼についていって歩きながら、ガラハッドはきょろきょろと辺りを見回した。さっきは何が起きたかよく覚えておらず、また新たな吸魂鬼が来やしないか怖れていた。
「 先程はお怒りでしたね。ブラックの身柄は、このあとどうするおつもりですか?―――事情があるんです。真実が、広く共有されている情報とは別にあったみたいなんです。助けてくださってありがとうございます!説明しますから、あっちへ戻るのは、真実を知った後にしましょうよ 」
「 城内で話してはいかんのか? 」
スネイプはロンの目の下を引っ張った。
「 処置は早い方がいい。全員冷えきっている。貴様も、自覚はないのであろうが… 」
「 僕なら大丈夫です!一対一のほうが早い話ってあるでしょう? 」
「 貴様だけの問題ではない!まったく、自己中心的なことだ 」
「 彼らだってこれを願う筈なんですよ。急がないといけないことがある!僕は、取り逃がしてしまったので…! 」
ガラハッドはポケットから“忍びの地図”を取り出した。急いで広げて杖で叩いて、隅々まで目を走らせたが、もうホグワーツ構内にピーターはいなかった。
“ただの紙切れ”の正体を堂々と見せつけられて、スネイプはヒクヒクと頬を引きつらせた。 貴様までそれを持っていたのかと、スネイプは腸を煮えくり返らせた。
「 貴様らの要望など知るか…ッ 」
この不法な馬鹿者どもめ!!
四つもの担架を浮かせて運びながら、スネイプはミシミシと歯を鳴らした。スネイプだってあちこちが痛いと感じており、特に後頭部がズキズキしていた。
「 Mr.オリバンダー!勘違いなさっているようなのでハッキリ言っておこう。我輩は、我が儘なお坊っちゃまのご要望を聞くために駆けつけたわけではないわ!ルーピンめ!折角我輩がつくった薬を飲むのを忘れよって!試験にレポートに成績…忙しいのは自分だけだとでも思っているのか!今宵、我輩には我輩の目的がある!邪魔をするな!! 」
「 目的って、母を傷つけたブラックに復讐することですか?だとしたら母はそれを望んでいないと思うんですよ… 」
「 黙れ。死者の意思を勝手に代弁するな! 」
「 うぐぐ。そっちこそ、勝手に復讐を代行するなよ! 」
「 うーん…」
担架のうえのハリーが呻いた。
幸か不幸かこのタイミングでは、彼はまだ目覚めなかった。起きていたとしたら何と言ったか、はたして見ものであったが。
大股で歩きながらスネイプは言った。
「 勝手なものか。我輩は、我輩のされたことを忘れずに覚えているまでだ。我輩は我輩の復讐を遂行する! 」
「 それって… 」
…どういうことだ?とガラハッドは眉を顰めた
しかしスネイプには説明する気がないようだ。
彼の不機嫌を表しているかのようだった。猛然と校舎へと歩いていきながら、スネイプが杖を掲げて浮かせていた担架は、かなりの速度で彼よりも先に進んで飛んでゆき、医務室の扉へと激突した。
これによってハリーは目を覚ました。
ハリーは上体を起こして周りを見ようとして、ドアを開けて出てきたマダム・ポンフリーによってベッドに叩き込まれた。さながらヒグマに襲われたような勢いだった。
「 ぐぇっふ…!? 」
「 セブルス!何事ですかこれは! 」
「 吸魂鬼に襲われた 」
スネイプは短く言った。
医務室前の半屋外廊下に至るや否や、スネイプはガラハッドのカッターシャツの襟を掴んだ。
「 状況から察するに、そうなのだ。こやつらは、愚かにも自分たちだけでシリウス・ブラックを捕まえようとしたばかりに、ブラック狙いの吸魂鬼の瘴気にあてられて気絶していた。こやつも引き取ってくださいマダム!この舌先三寸の、はねっかえりの、好んで危険を撒き散らす、父親そっくりな―――ッ 」
「 ちがう!ちがう、ちがう。ブラックは僕の父親ではなかったんですよ!彼は重罪人でもない!あんた彼と同級生なら、ブラックが元々黒い髪だって知ってただろ?クソが…それほど無知ってわけじゃないくせに!僕は彼の血をひいていないって、わかっていて僕にふっかけていたな!?私怨よりも正義を重んじろよ!!!いいか?彼は冤罪被害者で――― 」
「 貴様のご高説は虫唾が走るよMr,オリバンダー!道徳の教本を暗記しておられるのかな?誰も貴様に偉そうに道を説かれる筋合いはない!!奴はブラック!我輩ひとりを殺しかけたところで、裁かれずに済む悪であるのだ!奴をのさばらせることこそ正義に反する!! 」
歯を剥き出してスネイプは吼えた。
「 あなたたち、よそでやりなさい 」
シャッとマダム・ポンフリーがベッドのカーテンを閉めながら言った。
カーテンの内側では、彼女から巨大なチョコレートの塊を口につっこまれて、ハリーが噎せこんで胸を叩いているところだった。
「 ん゛~! 」
ハリーは水を求めた。
ハーマイオニーとロンもベッドにぶちこまれた。
ロンは眠ったままくぐもった声を出しただけだったが、これにてハーマイオニーが意識を取り戻した。
マダム・ポンフリーは目尻をつり上げて、廊下で言い争いをしているだけの者たちに「働け」の眼光を送った。
「 その担架はこちらへ! 」
「 こやつには必要ない 」
ブラックを一瞥してスネイプは吐き捨てた。
固く縄で縛られて、シリウスは声もあげられなかった。
マダム・ポンフリーが一喝した。
「 救護ににはも何もあるもんですか!あなたたちも中にお入りなさい。座る場所はここ! 」
「 僕が偉そうだって? 」
ガラハッドは、ちらりとマダムの示したほうを見たものの指示には従わなかった。
ガラハッドは、低い声でイライラと唸り、スネイプの手を振り払って彼を睨み据えた―――こいつに容赦は無用だ!
「 ハッ、ただ法は真実に基づいて執行されるべきですよねというだけの主張を、そうも偉そうだと感じるなんて、あんたコンプレックスの塊だな!?うしろめたいことがあるから、真っ当な主張に対して防衛意識が働くんだ。違いますか?違うと自認しているならばおめでたいんだよなぁ!―――傍目にはそう見えるもんで、僕にはそのように判断することしかできない!あなたがブラックにされたことは詳しく知りませんが、事実であるならば怒って当然だと思いますよ?この法治国家において、身体の傷が癒えてもトラウマに苦しんだりする被害者を差し置いて、『若気の至りで名家のお坊ちゃんがしたことですから、内々に…』とする悪習を許さない態度、おおいに結構!!けれどさぁ!『それはそれ、これはこれ』ってお母さんに習っただろ!?ブラックのマグル13人殺しの冤罪を晴らしてやることと、ブラックにあんたへ償いをさせることは両立するじゃないですか!スネイプ先生ともあろう御方が、そうお思いにはならないので!? 」
スネイプの顔は古いジャガイモの色になった。
遠慮も躊躇いもなく言いたいことを言うガラハッドは、アラベールの生霊が乗り移ったかのようだ。あらん限りの地雷を狙って踏み抜いていき、耳から相手を窒息させていく。
マダム・ポンフリーの魔の手(?)に捕まらなければ、ガラハッドはこのままスネイプを憤死させるところだった。
マダムは強引にガラハッドを医務室に引き摺り込み、肩を押さえつけて診察椅子へと座らせた。扉は開いているので、ガラハッドからはまだスネイプの姿が見えた。
「 黙れ。黙れ黙れ黙れ黙れ小僧!縄が必要ですマダム、こやつは錯乱しているッ!!! 」
「 法廷で会いましょうよ先生!それまでは、ブラックを殺すな!僕がブラックの無罪を証明してやる!それまでは、法に則って彼は保護されるべきだ!! 」
「 ―――…ッ!!? 」
誰もが、ひととき何も言うことができなくなった。
スネイプは静止した。ガラハッドも腰を浮かせかけていたところで固まり、それ以上何も言えなくなった。カーテンを掻き分けて顔を出したところだったハリーもそれきり止まったし、ハーマイオニーはベッドのうえで凍りついた。
豪傑マダム・ポンフリーも震撼した。
夜陰をつんざく咆哮は、それほどまでにおぞましいものだった。
湖のほとりで、檻の中で、閉じ込められているルーピンが意識を取り戻した。
天の月と湖面の月。ふたつの月の光に照らされて、今宵怪物は癲狂し大地を踏みならす。
星をも呪い墜とす咆哮は、耳にする者に呼吸を忘れさせた。
「 ~~~ッ 」
なんて怖ろしい…!
これが人狼かとガラハッドは、初めて思い知らされて衝撃を受けた。檻のことを知らないマダム・ポンフリーは、金切声でスネイプの名を呼び、彼を医務室の中へと入れようとした。ガラハッドはその隙に逆に半屋外の廊下へと出て、シリウスの担架へと駆け寄ろうとした。
「 セブルス! 」
ガラハッドは背後からマダム・ポンフリーにしがみつかれた。
「 セブルス!生徒たちを守って!!――――あなたは…ッ、こっっっちよ! 」
「 離してくださいマダム。僕は大丈夫ですから! 」
スネイプは急いでシリウスのもとへと戻った。
もちろん縄の締め付けに苦しむシリウスに用があるわけではなく、マダム・ポンフリーの剛腕から逃れたいのである。
「 どこまでも笑わせるな、オリバンダー!? 」
じゅうぶんな距離を確保してから、ハァハァと胸を押さえつつスネイプは捨て台詞を吐いた。
「 子供が、証言台になど立てるものか!情よりも理を重んじろと言ったその口で、己ならば証言台に立てると、最古の純血であれば立てると、稀代の秀才であれば立てると―――…そう思っているのかね、馬鹿馬鹿しい!!!人を罵るよりも先に、鏡を見てはどうなのだ!?マルフォイ氏は息子を甘やかさなかった!この先例によって、貴様とていかにねだろうがごねようが、証言台に立てる見込みは万に一つもない。げに素晴らしき、法の正義!! 」
「 は??? 」
ガラハッドは心底、「何言ってんだこいつ?」と思った。
銀色の目を爛々と光らせて、ガラハッドは顔を歪めた。
「 ――――ッ!?!? 」
ハーマイオニーのことなど笑えない。
ガラハッドは、このとき大きな勘違いを自覚して背が震えた。
ガラハッドは…スネイプはシリウスを吸魂鬼へと引き渡しに行く気だろうと思ってきて、「けれども、スネイプが良心によって引き渡し先を魔法省へと変えたら、シリウスは脱獄の咎で再逮捕されるも、十二年ぶりに裁判を受けることができ、汚名を返上できる―――うまくいけば余罪は情状酌量されるだろう」と考えていた。
実際は完全に逆である。
そのうえ「自分が証言者になろう」なんて、スネイプの言う通り無理に決まっているのだ。
だって、自分はいま十五歳だから!!!
ガラハッドは絶句してしまった。気持ちの引っ込みがつくかどうかは別として、理屈のほうがわからないガラハッドではない。ぽかんとして青白くなったガラハッドに、スネイプは嬉しそうにニヤつきながら去った。
ガラハッドは、吹けば飛ぶ燃え殻みたいな状態で失語したまま、されるがままになってマダム・ポンフリーにベッドへと寝かしつけられた。
( は?…何あいつ )
その感情がぐるぐるして去っていかない。
ガラハッドは、隣と向かい側のベッドからハリーとハーマイオニーに、今の状況やスネイプと怒鳴り合っていた事情を問い詰められたが、ずっと虚空を眺めるばかりで、一切聞いていなかった。
ハリーもハーマイオニーもイライラした。ふたりはターゲットをマダム・ポンフリーへと切り替えて、ピクシーよりもはるかにけたたましく自分たちの見たことを話した。
分厚い板チョコレートを割りながら、マダム・ポンフリーは外を気にしつつ言った。
「 静かに!わたくしは、二人ぶんの話を同時に聞けませんよ。オリバンダー、あなたから事情を聞きましょうね。落ち着いて、チョコレートを食べてからお話しなさい。焦らなくてよろしい―――― 」
「 マダム、わたしが…! 」
「 わたくしは自分で歩いてここまでやって来た人に質問しています 」
ハーマイオニーは唇を噛んだ。
ハリーは、ベッドから身を乗り出して隣のベッドのガラハッドの肩を強く押した。すぐにマダム・ポンフリーの叱責が飛んだが、そんなのは気にしている場合じゃない。
一体、何をのろのろしているんだ!?
しかしながらハリーが二回三回とガラハッドを揺すらなかったのは、どんっと強めに押した拍子に、キラッと輝いて落ちるものがあったからだ。呆然とした顔つきのまま、ガラハッドは涙を流していた。ハリーもこれにはびっくりして、強気で発言を急かせなくなった。
「 え…!? 」
そんな声すらもガラハッドは聞いていない。彼はただこのとき、どうしても去りゆかない感情に苦しんでいた。
てめえこの野郎スネイプ。まだ不惑にもなっていない奴め。
青二才というのはお前のことだ!
こっちは、歴史の生き証人だぞ。
第二次世界大戦を知っている。
本で読んだわけじゃないんだ。
全部体験して、厭というほど実感して知っている。
昭和元年に生まれて、本来ならば骨まで朽ちているんだぞ。
お前なんか、俺からしてみればひよっこもひよっこ!
だれに向かって口を利いているんだ?
お前なんか、決闘でも腕力でも俺に及ばないくせに…
ぶっとばしてやりたかった。
俺は、地下八千由旬の底から来た修羅なんだぞ。
あんなやつぶっとばせる―――数え二十歳までだった人生の、何倍もの時を地獄で経験して――――…そして、ハロウィンの夜に“この世”へやってきたから。
十五年前に。
嗚呼、嗚呼、そうだ、ガラハッド・オリバンダーは、何を言ったところで“この世”ではまだたったの十五歳なんだ。成人まであと二歳足りなくて、法律上の権利もない。スネイプに言われるまでそのことを忘れていて、ガラハッドは恥ずかしさで心臓が弾けそうだった。
だってこの一年ときたら、
でもこんなのは、所詮子供の世界での地位でしかないんだ。本当の自分ときたら、“伝説の騎士ガラハッド”であるくせに、親のサインがなければホグスミードにも行けない。証人として法廷に立つなんて、できるわけがないんだ。
掠れた声でガラハッドは言った。
「 …たい 」
「「「 え? 」」」
ハリーとハーマイオニーは、身を乗り出して彼の発言を聞こうとした。マダム・ポンフリーはガラハッドが今チョコレートを噛み砕ける状態にないと判断して、チョコレートを液状にするために入院室を抜けていた。
今度こそガラハッドは言った。
「 大人になりたい 」
バリン!
ピシリ、パラパラパラ…
みんなが知っていることだ。
魔法の世界は、
咆哮で夜が震える。
苦しみ足掻く者がほら、朝の始まりを待っている。
不条理な悪夢は終わりどき。
―――――――そして、時は動き出す!
待ち望んだ瞬間が訪れたとき、アルバス・ダンブルドアはにっこりと破顔した。内から突き崩された檻の欠片が、大魔法使いにはハッキリと見えていた。
ハーマイオニーにもほんの少し見えた。彼女はこう感じた―――自分たちの頭上には、まるで見えないガラスの天井があったみたいだ、と。
粉々に砕けて舞い散って、それらは雪のように消えていった。ディズニー映画に出てくる魔女が、シンデレラのためにカボチャを馬車に変えたときみたいだった。
「 ダンブルドア先生! 」
上擦った声でハリーは叫んだ。
静かに訪れた存在に、ハリー・ポッターは一番に気がついた。
「 先生!校長先生! 」
ハリーとハーマイオニーとマダム・ポンフリーは、それぞれ歓喜してダンブルドア校長の到来を迎えた。
ダンブルドア校長は、半屋外廊下ではなく厨房や洗濯室とも接する内廊下のほうから医務室へと入ってきて、校医の働きぶりをねぎらった。
「 やぁポピー、忙しいときにすまんね。素晴らしい瞬間に立ち会えて、わしは踊りだしてしまいそうじゃ!『医務室で騒いではならぬ』と、君がよく教えているのは知っているのじゃが 」
またしても咆哮が轟いた。
ハリーとハーマイオニーとマダム・ポンフリーは、一斉に首を竦めて背をかがめた。
ハリーは狼の姿のような怪物が、月に喰らいついて地まで引きずり落とす様子を想像した。ルーピン先生のことが、とても心配であった。ハーマイオニーも同じ気持ちだった。
ガラハッドはぼんやりとしていた。
ガラハッドも、もちろんルーピン先生のことが気になっていたのだが、生憎と自分のことで精一杯だった。自身にどういう変化が起きたのか、ガラハッドは全然言い表すことができない。
「 ―――…? 」
ずっと目を開けていたはずなのに、改めて目が醒めたみたいで…暗闇から出てきてすぐみたいに、なんだかすべてが強烈な刺激だ。
ハリーとハーマイオニーは、嵐のような勢いで校長先生に助力をねだった。それを聞き流しながら、ガラハッドは注意深く四方を見回した。
「 ふたりとも、わしにも喋らせてくれんかね?なんといっても、時間がないのでな 」
ダンブルドア校長は生徒たちを遮った。
急に静かになったので、ガラハッドは彼らと校長のほうを振り向いた。
気づけばマダム・ポンフリーはまたいなくなっていた。
ちらりと処方室のほうを見ながらダンブルドア校長は言った。
「 マダムは君たちに湯薬を処方するじゃろう。わたしが予想するに、彼女が準備に要する時間はわずか3分。提供された薬を口にした途端、君たちは朝までぐっすりと眠る。次に目覚めるとき、シリウス・ブラックは死体になっていることじゃろう。スネイプ先生がいらっしゃったとき、校長室にはファッジ魔法省大臣以下数名の役人がいらした。スネイプ先生が連れて来たシリウス・ブラックに、“即時執行”の大臣命令が出たのじゃよ―――フリットウィック先生が買って出てくださり―――役人たちが城壁の外から新たな吸魂鬼を連れてくるまでのあいだ、ご自身の事務室にシリウスを閉じ込めてくださっている。今宵は満月。刃物が力を持つ夜だと、フリットウィック先生は考えておられるようじゃ… 」
おどろおどろしい声が聞こえた。
またしても。
またしても。
ルーピン先生の吠え声に、ハリーの言葉はかき消された。
処方室からマダム・ポンフリーが飛び出してきて、血走った目で外に続く扉が施錠されていることを確かめ、窓の鎧戸についても確認して回った。
いつまでもぼうっとしているガラハッドに、ダンブルドア校長は厳しい口ぶりで言った。
「 助けが必要かねガラハッド? 」
「 え? 」
「 君には必要ないと思う。君ならば、必要ないと思う。子が親のように振舞うことは、不思議にも自然なことだからじゃ――――良くも悪くも、そうなるという理があるらしい 」
ハリーのことだろうか、と一瞬ガラハッドは思った。
半月型の眼鏡を貫いて、「そうではない」と青い目は真っ直ぐに物語っていた。
処方室に戻るマダム・ポンフリーをチラリと見ながら、ガラハッドはひそひそと低く囁いた。
「 ―――西塔8階奥から13番め? 」
「 左様。2分後、その部屋が空であるとよい… 」
「 2分って。2分じゃ西塔にだって到達できませんよ。親のように振舞えって… 」
…そんなことを言われても、父と母のどちらのほうであるにせよ、自分はほとんど親のことを知らない。ガラハッドは不満で唇を噛んだ。
グレイスなら、アラベールなら、こんなときどうするっていうんだ?
彼らのような力がないことで、自分は去る夏ずっと苦しんだのだ…。
グレイス・オリバンダーはどうだか知らないが、アラベール・ノアイユという男の辞書に、「焦る」とか「慌てる」という語句はない。ガラハッドは「ああ忙しい忙しい」などとほざきながら、居間のソファへとふんぞりかえって、悠長に紅茶を飲んでいるアラベールの姿を思い出した。
それは長くは続かなった。
心臓の琴線が焼き切れそうだ!
人狼だ!!!と、城中にこだまする悲鳴が、否応なく焦りと不安を煽り立ててくる。またしても咆哮が耳を貫き、ガラハッドは狼狽えてハリーのほうを縋るように見た。
「 どう思う? 」
アラベールならば、どうすると思う?
最後に見たアラベールの姿。それは、ごねるハリーを引っ張って、居間の暖炉から9と3/4番ホームに行こうとするときなのだ。「行ってきなさい」とふたりに微笑みながら、彼がくるくると弄んでいたあれは何だったんだろう?――――初恋の人を殺したトラウマを抱えながら、彼が“元気爆発薬”を封印していない理由は…?
「父上はノアイユ公と会食した」と、駅でドラコは言っていたっけ。アラベールがあの夏飲みに出かけたのは、アーサー・ウィーズリー氏との一回きりなのに。
過去は、断片と化したとき初めて意味で貫かれる。
知識と事実とを結びつけて。
ハッとしてガラハッドは手のひらを突き出した。
スネイプとマクゴナガル先生が
「 先生!逆転時計貸してください!! 」
ダンブルドア先生はにっこりと微笑んだ。微笑みを輝かせたが、彼は何も言わなかった。
素っ頓狂な声でハーマイオニーが言った。
「 わたし持ってるわ! 」
「 えっ!? 」
弾かれたようにガラハッドは振り向いた。
ぽかんとして互いに見据えあったとき、火花散るようにハーマイオニーもまた閃いた。
「 ああ、ああ、そうだわ―――そういうことよね!?たくさんの教科をとるために、マクゴナガル先生が貸してくださってるの!諦めるにはまだ早いわ!! 」
叫びながらハーマイオニーはベッドから飛び出した。
ローブの内側から強引に逆転時計を引きずり出しながら、彼女は、疲労と興奮のあまりに、突然見えてきた希望に打ち震え、自身の考えを言葉に出来なかった。言葉よりも早く、それを表現したかった。
あっと叫んでハリーが逆転時計を奪い取った。
ハーマイオニーは、感極まって泣きながらガラハッドへと抱きついた。
この道具はどうやって使うんだ?という顔つきのハリーの手首を、ガラハッドは横暴にばしりと掴んで捻った。
「 ばか。こうだよ! 」
「 うるさいな。君がやってくれよ!! 」
光が彼らを包み込んだ。
ジョジョ3部ネタです。