ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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4巻:炎に乾杯を
出発進行


 

 

「杖磨きセットいかがですか?」を、ホグワーツで持ちネタにして幾星霜…。

 

その夏、ダイアゴン横丁には八月が終わりに近づくにつれて、外国人観光客たちがぞろぞろと押し寄せた。クィディッチワールドカップ商戦が盛り上がり、店々は空前のかきいれどきだった。グリンゴッツ前の広場には露店が立ち並び、両替を終えたばかりの客を呼ぶ声が飛び交った。

 

ガラハッドはフローリアンを説き伏せて、ワールドカップ期間のあいだアイスクリームの仕込みを手伝う代わりに、パーラーのテラス席の端を借りる契約をとりつけた。曰く、「今は回転率を上げるべきだ。モノはアイスなんだから、客単価のほうは頭打ちだろ?」と―――斯くして臨時出張店のスペースを確保すると、彼は自宅本店のカウンターで、伝票用“自動速記羽根ペン”を分解した。

炎の雷(ファイアボルト)を調べることに比べたら、これはそれほど難しい作業ではなかった。

金属に細工をする腕前に関して、彼の目標はもちろんフリットウィック先生である。フレッドとジョージには負けたくない気持ちに支えられて、ガラハッドは針の一本をどうにか魔改造した。

 

 

「 いらっしゃい!杖磨きセットいかがですか! 」

 

 

ガラハッドが作り上げた“自動刺繍縫い針”は、「紀元前382年創業。高級杖メーカー・オリバンダー杖店」というロゴしか刺繍できない代物であった。けれど、それは十分に目的を果たして、すばらしい速さで昼夜働き続けた。「お土産にお一ついかがですか!」と、ガラハッドは道行く人々に杖磨きセットを売りまくった。

 

 

「 そうですね、どなたでもお使いになるものですから――――杖磨き油には、大容量サイズもありますよ。箪笥も磨かれるようでしたらこちら!元気な家具はボガートを寄せつけません! 」

 

 

アイルランド 対 ブルガリア

その決勝戦のオーダーを知ったとき、ガラハッドはすぐに便乗商品づくりに取り掛かった。この段に至ってはギャリックは、自分はもう、いよいよ杖職人としての芸術的仕事に専念すると決めた。

なんだか、寄る年波には勝てない気がしたのだ。

ガラハッドの広げるド派手な布を見たとき、ギャリックは目をしょぼしょぼさせた。

 

 

「 ぐぬぬ、最近はこういうのが良いんか…? 」

 

「 さあ?これ、決勝進出チームのユニフォームカラーなんだ。流石マダム・マルキン。ばっちり同じ色味にしあがってる 」

 

「 そうか…沢山作ったなあ 」

 

「 染めのオーダーは反単位だから。特急料金をはずんだぶん、ちょっと値上げしたけど、まあ限定品だし、これくらいの値段なら大丈夫だろう。期間中に売り切って、在庫を抱えないようにしないとな!ほらこうやって、レシート入れを二つ用意しておいて―――ブルガリア対アイルランドって書いて飾って、客に人気投票をさせる。ファングッズだし、あって困るもんじゃないんだから、負けん気で買う客もいるはずだ。“漏れ鍋”からも見えるように置いてやろうっと! 」

 

 

パブの酔っ払いの行動力に期待して、ガラハッドはいそいそと『おとな買いセット』を作った。個包装の品を杖用箱に美しく並べて、さて“お箱代”をいくら取ってやろうか。

曾孫に圧倒されたのが癪で、ギャリックは黙ることにした。

 

 

成程こいつは、職人にしちゃあ娑婆臭くて勘が悪いが、杖師としてはこちらを超える器かもしれん。

人と杖とを番わせるとき、自分とは視えているものが違うんだろう。

水流を読んでいる船頭ほど、不用意に棹をさすまい。

愛想はよくて困るものではない。気骨さえ失わなければ…。

 

 

そんなギャリックからの評価に反して、ガラハッド自身はバリバリ働きつつ、自分の商才に満足していなかった。翌々日の夕方には、ガラハッドは居間のソファにひっくり返ってうだうだボヤいていた。

 

 

「 あ゛~~クッソ~~~ 」

 

 

ギャリックはそれを聞き流した。

 

 

「 もっと上乗せすべきだった?この時間ならあと200は売れたと思うな~!今から製造してたら、決勝戦に間に合わないんだ。優勝国カラーは需要がでるかな?あ~でも、在庫抱えて爆死は嫌! 」

 

「 欲の深えヤツだなてめえは… 」

 

「 爺さんは焦りがなさすぎる 」

 

 

ガラハッドは強気で言い返した。

ただの生意気ではない反論ぶりに、ギャリックはしゃっくりをこらえるような顔つきをした。

 

 

「 爺さん、たまには横丁をぶらぶら歩いたほうがいい。別に買わないにしたって、薬種問屋はまめに冷やかすべきだ。僕は、こないだ学用品を買いに行ったときに見た―――あそこの商売はワールドカップとは関係ないだろうに、またドラゴンの肉が値上がりしていた。つまり、来年仕入れるドラゴンの心臓の琴線は、今年よりもまた高くなる 」

 

「 うむ…うむ、そりゃ、そういうことになるな… 」

 

「 そうだよ。まったく、『杖一本は7ガリオン』と決まっているのに、僕が店を継ぐ頃にはどこまで材料費が高騰しているやら。爺さんだって、素材の質を下げたくはないだろ? 」

 

 

そんなの当然YESに決まっている。

げっぷをこらえるような顔つきをして、ギャリックはガラハッドの足を蹴っ飛ばした。

 

 

「 フン、この…どうあれ餓え死にそうにねえガキめ!とっとと立て。仕事だ! 」

 

「 えぇ~新入生はまだ来ないのに? 」

 

「 馬鹿、お前、今年はアレだ…三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)があるでな。儂ゃそれで忙しい……今年からは、クリスマスマーケットの準備もお前がやるこった。なんだって構わんから…そのぅ、今から商品をつくるんだ 」

 

「 三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)? 」

 

 

耳慣れない単語だった。

知らないものではないけれど、日常でいきなり出てきてくると驚く用語というものはある。『三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)』はその類の言葉だったので、ガラハッドは上体を起こす際に繰り返した。

 

ギャリックは咳払いをした。体面のために持ち出した話ではあったが、ギャリックは嘘を吐いたわけではない。彼は魔法省からの依頼を受けて、既に“杖調べ”の実行者に内定していると言った。

ガラハッドは「へえ…」と思った。

 

 

「 ふぅん、今時、そんなイベントやるんだ…ああ、もしかして、それで今年は学用品にドレスローブが加わった? 」

 

「 遊びが多いのは良いことじゃねえか。マグルだってこの時代にまだオリュンピア大祭の真似事をやっとるんだぞ。ご丁寧に、ちゃあんとオリーブの葉冠まで真似して 」

 

「 ははは。ウチなら、ご注文さえいただけたら“ホンモノ”をお届けするのにな。五輪の下請け入札、参加してみたいよ 」

 

「 へへっ、腑抜けには過ぎた冠になるだろうぜ。なんせ連中、どいつも服を着ていやがるんだ 」

 

「 フルチン見せていい時代じゃないんだよ。野蛮人め、これだから魔法族は 」

 

「 はて?目が曇っているのか、頭が凝り固まっているのか―――小僧、野蛮と神聖を区別するな。まったく、修行がたりん 」

 

 

ギャリックはニヤニヤして言った。

ガラハッドは少々面食らった。

 

ま、まあ…たしかに?

野蛮なような神聖なような脳内力士が、塩を撒き散らして四股を踏み鳴らす。

これ幸いと師匠の威厳を滲ませて、ギャリックはいきいきと物事を語った。

 

 

「 近頃の魔法使いはどいつも修行がたりん。アホくせえことに、今度の三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)も、マグル版オリュンピア大祭と同じだ。腑抜けた“近代版”でござるとよ!折角でけえことをやるからには、本式にすりゃあいいのになあ?何でも“近代版”ってのは、大祭であっても神々が降りちゃいねえ。人死にを出さねえように、こぞってお行儀をよくするとそうなっちまうんだ 」

 

 

ガラハッドはへらへらと笑った。たしかに、昔からたびたび人が死ぬ祭りってあるよな――――たとえば岸和田だんじり祭りに、諏訪の御柱祭り。このジジイときたら、根っからロンドンっ子であるくせに、どちらの祭りにでも違和感なく混じれそうだ。想像すると愉快だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてガラハッドは、ギャリックによる非常識な講釈は適当に聞き流したけれども、言いつけられた仕事はするつもりでいたので、取り急ぎ後回しにしていたタスクへと向き合うことにした。「忙しい」を言い訳にして、彼は今朝届いた手紙を開いてもいなかった。

 

だって、読んだら返事をしないといけないから。

 

近頃まだマシになったほうだが、彼は相変わらず筆不精である。

ホグワーツの面々からの手紙を開封して見ると、案の定、みんな似たり寄ったりの内容だった。「いよいよ行われるクィディッチワールドカップ決勝戦が楽しみだ、一緒に観に行こう」という、言ってしまえば大したことのない用件だ。

気持ちは有難いんだけれども、ガラハッドは、決勝戦開催中のすいている時間帯に、売上金を預けにグリンゴッツへと行く気満々である。

だってクィディッチって、競技そのものにそこまでの魅力はないと思うから。

友達が出場するならば応援するが、ワールドカップなんか赤の他人しか出ないんだから、格別観たいとは思わないのだ。それがわかっていない誘い手ばかりではないが、わかっていない差出人のほうが多くてかったるい…。

 

窓の外を一瞥もせずに、ガラハッドは「バーン!キキィーッ」を聞き流した。

 

 

「 到着ぅ。ダイアゴン横丁~ 」

 

 

車掌の声は眠たげだ。近頃、この国では外国から来た魔女と魔法使いたちが、どこかでひっきりなしに迷子になっている。蚤みたいに飛ぶ紫のバスは、ダイアゴン横丁にしょっちゅう現れていた。

飽きるほど見る機会を得たので、ガラハッドはもう夜の騎士バスに憧れていない。

 

 

( 相変わらず整備不良っぽい音してるなあ… )

 

 

嗚呼むべなるかな、新自由主義の失敗。高速バス規制緩和。

機関車トーマスが歌っているのだもの、以下の事どもは、五歳児でも知っているはずなのだが。

 

 

 

Accidents happen now and again just when you least expect(事故は起きるものだ 思いもよらぬときに)

When you think that life is OK, (順調に歩き出したつもりのとき)Fate comes to collect(運命は迫ってくる)

 

 

 

ガラハッドがさらりと脇に置いた手紙は、セドリック・ディゴリーからのものであった。

次に父アラベールからの手紙を開いたとき、ガラハッドは気の抜けた声を出した。

 

 

「 え~…うわ、どうしよ 」

 

 

アラベールは、二枚の金文字の決勝戦チケットと共に、「忙しい!わたしは顔を出せない。ユニコーン保存協会会長の、ダニエル・フィシオロース氏にお礼を欠かすな」とだけ書いたメモだけを寄越していた。三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)が行われるのなら、そりゃあ彼は物凄く忙しいだろう。アラベールはオリバンダー・フランスの店主を務める傍ら、ボーバトンアカデミーで教鞭をとっているのだ。

ガラハッドは思い悩んだ。

 

 

うーん、この名前、いつも納品書に書いてあるやつだ…チケットが二枚あるってことは、爺さんを説得して連れていけってことか?

無理無理!あの人嫌いが社交に行くわけがない!

せめて、自分だけでも真っ当に振舞わねばなるまい。

仕方ない、予定を変更するか…。

 

 

ガラハッドは筆記具と便箋を取り出して、まず一枚目に「セドリックへ」と書いた。アラベールへの返信は、はなから期待されていないと思った。ガラハッドは、さっき適当にどけた紙を引き寄せて、セドリック側からの文面をちらちら見ながら、澱みなく短い文章を書いた。今から返信をしたら着くのは何時だ?ギリギリかも…やばいな…などとばかり考えながら。

 

 

 

ガラハッドへ

どうしてる?僕はワールドカップ決勝戦を観に行く。

よかったら、テントに遊びにこないかい?

様々な国の魔法使いたちがテントを張るんだもの、キャンプ地を歩くのはきっと楽しいよ。

東洋の術も見られるかもしれない。

まるで一日で何ヵ国も旅するみたいで、君は試合そっちのけになるだろうね。

そのほうが嬉しいなと、僕は思っています。

僕は、君から外国の魔法について聞きたくて、君に試合について話したいわけだからね。

君が忙しくないといいな。いつも話を聞いてくれてありがとう!

 

C.ディゴリーより

 

 

セドリックへ

誘ってくれてありがとう。

慧眼おそれいった。お察しのとおり、試合よりも観客見物をする予定だ。

けれど今日まで土産物を売っていて、現地で真夜中を待つ準備ができていない。

急で申し訳ないが、テントに滞在させてもらえると助かる。

なんらかの方法で行く。君の家のテントの位置や目印を知りたい。

 

G.オリバンダー

 

 

 

あとはまあ、無難なお返事ばかりを特急で。

「誘ってくれてありがとう。僕も会場で君と会えたと()()()嬉しい。選手より目立つ服を着といて。じゃあな」とかだ。

店のフクロウたちを働かせるため、ガラハッドはあたふたと餌を用意した。

 

 

 

 

 

翌朝のことである。

急遽出かける用ができたとはいっても、契約分の仕事はしないといけないだろう。いつものとおりガラハッドは、日の昇らないうちからフローリアンを手伝いに行った。製菓業にしろ杖業にしろ、職人たちの朝は早いのだった。

 

ついに移動販売デビューをするということで、その朝フローリアンは上機嫌だった。「僕は本気出せば店を営みながら旅ができるのさ」という、かねてからのジョークは実は野望だったらしい。

さぁ出発だという時、まるで国鉄の弁当売りみたいになったフローリアンに、ガラハッドは「もしや」と思って質問をした。

 

 

「 なあ、『尊敬する人は車内販売のおばちゃん』ってのも、実は本気だったりする? 」

 

「 本気だけど?ふふっ、まあ君は、彼女の偉大さを知る機会なく卒業したほうがいいね 」

 

 

フローリアンはニヤっとして言った。

ガラハッドは困惑させられた。

 

 

「 荷物をとっておいでよ 」

 

 

フローリアンはチラッと時計を見た。

 

 

「 一緒に行こうよ。僕は、まずここから煙突飛行でチャーリーの家に行くんだ。【オッタリー・セント・キャッチポール発/会場行き】の移動鍵(ポートキー)を使おうと思ってる。そっちのほうが絶対、【ダイアゴン横丁発】より空いていて着地が安全だ 」 

 

「 それはそうだろうが、僕は約束してないんだ 」

 

「 ひとりくらい増えたって、あそこの家の人たちは気にしないさ。知らない人みたいなこと言うんだね 」

 

 

フローリアンはクスクス笑った。

ガラハッドは感覚の相違を感じたけども、特に何も言わず、じゃあ誘いに甘えようかなと思った。

フローリアンの親友であるチャーリーは、知人だし、ガラハッドとしても頼りやすい人物だ。チャーリーが人を拒絶するところって想像できない。それに、何よりフレッドとジョージの家を経由するのだと考えたら、フローリアンの提案するルートは実に魅力的だ。彼らは絶対に歓迎してくれる。

 

ウィーズリー家の煙突登録名を、ガラハッドは初めて知った。

フルーパウダーを炎に投げて、フローリアンは大きな声で言った。

 

 

「 “隠れ穴”! 」

 

 

ぐるぐると天地が回った。

 

 

 

目的地と思しき場所に着いたとき、ガラハッドは、暖炉の外に出る前からもうよくわかった。赤毛大家族が暮らす“隠れ穴”は、想像した様子どおりの愉快な家だった!

なるほど、フレッドとジョージのセンスの源ってこれか!

あらゆる家具やその配置が、明るくてポップでハチャメチャ!悪い意味ではなく、家じゅう子供部屋みたいではないか。

ガラハッドとフローリアンが暖炉から出ると、オレンジの安楽椅子(揺りかごにも見える)に掛けたウィーズリー氏が、ヒョイと新聞から顔を上げて言った。

 

 

「 やあ、いらっしゃい 」

 

 

ガラハッドは慎ましく挨拶をした。どこの子が何人来ようと、ウィーズリー氏は驚きそうに見えなかった。

どういう約束をしていたやら知らないけど、当のチャーリーはリビングにいなかった。

キッチンから顔を出したウィーズリー夫人は、今やってきたふたりを見ると大声で「あらぁ~!」と言った。絵に描いたようなオバチャンぶりで、彼女はすぐさまおたまでフライパンを叩き始めた。

 

 

「 フレッドォ!ジョージィ!すぐに起きていらっしゃい、お友達が来ていますよ 」

 

 

ガラハッドはしげしげと壁の時計を見た。双子の居場所は「ベッド」に、チャーリーの居場所は「畑」になっている。

カンカン鳴らしていたフライパンを手放したとき、モリーは急に奥様らしい声を出した。

 

 

「 あなたたち、ようこそ。そこに座って―――お茶を淹れましょうね 」

 

「 突然すみません 」

 

「 いいのよ!えっと、何をしようとしたんだったかしら?ああ、はい、お皿お皿… 」

 

「 ママ、お茶は僕がやるよ。そろそろトーストが焦げるころだ 」

 

 

ヒョイと杖を振りながら、穏やかにそう言う者が在った。そうしてモリーの代わりに出てきた青年のいでたちに、ガラハッドは、正直なところ度肝を抜かれた。

 

 

「 え? 」

 

 

え、職業、呪い破りじゃなかったっけ?

一見、バンドマンに見えるんだが…?

 

目的のわからないロン毛に、ぶらんぶらん揺れる片ピアス。あふれる“良い奴”のオーラ。それでもどうしようもないチャラさ―――これが、噂に聞くウィーズリー家長男…なんでも一番出来るっていう、ビル!?

 

ガラハッドは失語しておどおどした。隣にいるフローリアンはビルと親しげに話していて、ビルのファッションに驚く様子がなかった。

ビルは、話すぶんにはまともな男みたいだ。ガラハッドは、なんだか急にロジャーのことを思い出した。でもまあ、ビルが落ち着いたコリー犬だとするなら、ロジャーはうるさいポメラニアンじゃないかな?

 

一方、チャーリーは相変わらずチャーリーだったので、ガラハッドは妙にチャーリーを見て安心した。彼は、ばーんと豪快に勝手口を開けて畑から戻ってきたとき、気楽なスウェット姿で、鼻の頭まで土で汚れていた。

パーシーも相変わらずパーシーだった。バチッという音を立てて、彼はわざわざ“姿あらわし”で自室から居間へと現れた。制服でなく背広を着ていても、彼の持つ雰囲気は変わらなかった。

 

それから、フレッドとジョージが階段を降りてきた。ガラハッドは、驚いた顔の彼らに軽く手を挙げて挨拶をしたとき、二人の後ろにさらに四人いるのを見た。ロン、ジニー、ハリー、ハーマイオニーだ。マグル育ち組がウィーズリー家にいることに、ガラハッドはまったく驚かなかった。「滞在する予定だ」と、かねてから聞いていたからだ。寝起き姿そのままの双子たちは、まるでホグワーツの大広間で会ったみたいに、当然のようにダイアゴン横丁組を受け入れた。今起きて来た者たちの出発準備が整うまで、ガラハッドは主にパーシーと話をした。

 

 

「 久しぶり。就職してどう? 」

 

 

パーシーはにっこりと眼鏡を輝かせた。

 

 

「 絶好調!姿くらまし・あらわし審査は、まったく難しい試験じゃなかったね。君も、卒業したらすぐに受験するに越したことはない。それと、このほど僕は確信しているよ―――君も、卒業後はぜひ魔法省に入省するべきだ! 」

 

「 あはは。楽しそうで、何よりだけど。もしかして僕の苗字忘れた? 」

 

「 まさか!知らないかい?マクゴナガル先生も、お若い頃は魔法省にお勤めだったんだよ。生涯働くわけではなくても、ひととき魔法省に所属して活動することは、大変、非常に、勉強になることだ。机の上の学びとはわけがちがう。間違いなく、人生にあって損はない経験だと思うね!特に僕の上司は素晴らしいかたなんだ。バーテミウス・クラウチさんといってね!水中人語(マーミッシュ)小鬼語(ゴブルディグック)…二百以上の言語を話しなさるんだ。エッヘン、そう、僕は、このたび同期のなかで唯一国際魔法協力部に配属され――― 」

 

「 へええ。魔法省の研修って、どんなことをするんだ? 」

 

「 それはだねえ! 」

 

 

いきいきとパーシーは喋りまくった。

 

ハリーは、モリーおばさんの美味しい朝ごはんを食べながら、リビングから聞こえてくる話を興味深く思った。パーシーの話は、聞き手がいつも混ぜっ返すばかりのロンや双子から、ガラハッドへと変わったことで多少価値が上がった気がした。

パーシーはもったいぶって言った。

 

 

「 嘆かわしいことさ。多くの―――すぐそこらへんにいる、隙あらば人を虚仮にすることしか頭にない奴らは―――このリスクを軽視するわけだよ。鍋が漏れる、そのとき、一体何が起こるか!連中はわかっちゃいない 」

 

「 しかし市場に出回る薄手鍋をまとめて粗悪品扱いすることは、国際的賛同を得られる意見じゃないだろう。製造する魔法薬によっては、学用品みたいな厚い鋳造鍋より薄い銅鍋のほうが便利じゃないか。問題は鍋の種類によって熱伝導性が違うこともわからないような奴が、ほいほいと危険物製造に手を出してしまえることだよ。『楽々時短レシピ♪』とか言って、素人が必要な処理を省略した製薬法を投稿している雑誌とか―――ああいうのは、規制されたほうがいいと思ってる 」

 

「 そんなものがあるのか…。ひょっとしなくてもそれは、いまにすさまじい健康被害をもたらすんじゃないか?一大事だ。クラウチさんにご報告しなくては! 」

 

「 だろうな。君も、たまにはダイアゴン横丁をぶらぶらするのがいい。書店をひやかすのって、刺激的なんだから 」

 

 

ガラハッドはニヤッと嘯いた。

リビングへと伸ばしていた首をひっこめて、ひそひそとジニーは食卓で言った。

 

 

「 彼、どこまで本気なの? 」

 

「 さあね 」

 

 

ロンもひそひそとやった。

 

 

「 あいつは、あれで元々パースと仲が良い 」

 

「 それって、奇跡みたいなことね 」

 

 

ジニーは目を細めて言った。そんな目を向けられたフレッドとジョージのふたりは、たった今それどころではなかった。「アクシオ!アクシオ!」とモリーは彼らから没収を重ねており、食卓には悪戯道具が乱れ飛んでいた。

ハリーは、極力笑いをこらえて静かに、ハーマイオニーと何度も頷きあった。ガラハッドってば、パーシーと熱心に話しこむことで、見事にモリーおばさんのカミナリを回避している!おばさんったら、日頃しょっちゅう「あなたたち、オリバンダーさんとこから余計な影響を受けて~ッッッ」と双子に対して怒っているのに、ついぞ今朝はそれを言う機会を得られないみたいだ。

 

“隠れ穴”を出るなり「やるなあ!」とロンに小突かれて、ガラハッドは小首を傾げた。

 

 

「 何が? 」

 

「 聞けよ。俺たちママに注文書を燃やされたんだ 」

 

 

むっすりとジョージが割り込んできて言った。彼とフレッドのふたりは、モリーからベロベロ飴を取り上げられて、「こんなものにかまけていたなんて、O・W・L試験の点が低かったのも当然だわ!!!」と絞られたところだ。

そうはいってもどうせ何かを持ち出してきていると思って、ガラハッドはあんまり同情しなかった。一行はマグルたちの国道を避けて、暗い湿っぽい小道を歩きながら話をした。

 

 

「 まったく、厄介だようちのママったら。おきゅうりょう以外のカネは、全部あやしいと思ってんのさ。いかがわしい!危険だわ!って 」

 

 

フレッドは溜め息をついた。

ヒステリックな裏声の“ママの物真似”に、ガラハッドは笑っていいものか迷った。

気にせずフレッドとジョージは続けた。

 

 

「 ママめ。きっと投資なんかする人は、みんな犯罪に片足突っ込んでると思ってんのさ 」

 

「 テスト以外への努力は努力じゃないらしいね。俺たち、ホグワーツに戻ったらすぐ通販を始めたかったのに。リストは作り直しだよ 」

 

「 カネじゃなくて、お前らの商品を危険だと思っておられるんだろ。ベロベロ飴、あれはパーシーに規制されるね 」

 

「 わかんないかな。実際いるんだって、そういう感覚の魔女は 」

 

「 その手の魔女()()疑われるとさ、この通り、火炙りってわけ 」

 

 

フローリアンは知らん顔で歩いた。フローリアンの隣でアーサーは、ゴホンと低い咳払いをした。

アーサーは、妻には言えない話を聞いてしまわないように、ハリーとハーマイオニーに対して、移動鍵(ポートキー)とは何か熱心に説明を始めた。

聞きたい話が多すぎて、ハリーは耳が四つあればいいのにと思った。

足もとの悪い坂をのぼりながら、フレッドは暗い声でぼやいた。

 

 

「 紙代だってタダじゃない。はぁ、これからどうすっかなぁ… 」

 

「 ハハッ、まあ本当に元手ゼロだっていうなら、貸してやるよ 」

 

「 貸していらないさ。怖ろしい利息がつきそうだ 」

 

「 貸していらないさ。それよりも賭けをしようぜ 」

 

「 決勝戦について?―――パスだな 」

 

「「 なんだよ。意気地なし! 」」

 

「 他人に結果を委ねる賭けは好きじゃないんだ 」

 

 

上り坂がきつくなった。

一行は会話を中断して、草の根に足をとられないよう気を配った。

 

オッタリー・セント・キャッチポール発の移動鍵は、村はずれのストーツヘッド・ヒルのてっぺんに配置されている。日刊予言者新聞の交通欄を読んで、ガラハッドはそのポイントで探すべきゴミを知っていた。黴の生えた黒いブーツだ。先に出発地に着いた人たちは、今それを探しているところみたいだった。

駆け出しそうになって、そっとこらえる。黙ったまま丘の中腹まで登ったころ、ガラハッドは得意さでニヤニヤしていた。

あそこで草むらを掻き分けているセドリックは、こちらが近づいてきているなんて思いもよるまい!トンと背を突いて、驚いた顔をさせたかった。

セドリックは、きっとさっき家を出る前にこちらが送った手紙を見て、事情はわかっているフクロウを先に会場へ行かせて、現地入りしてから返信するつもりでいるだろうな。「運が良ければここで合流できる」と思って来たけれども、こんなに上手くいくなんてラッキーだ。

 

ガラハッドにいきなり「よっ」と声をかけられたとき、セドリックは、ウサギ穴につまずいて変な動きをした。

 

 

「 え!?あれ、君、どうしてこんなところに?フローリアンまで! 」

 

「 久しぶりだねセドリック 」

 

「 久しぶり―――とにかく、会えて嬉しいな 」

 

 

セドリックははにかむように笑った。

それから、賭けを断られてぶすくれだっているフレッドとジョージ以外は、みんな和やかに挨拶をしあった。

奇妙で、愉快な明け方だった。星々は透明に変わった。

エイモス・ディゴリーとアーサー・ウィーズリーは近所同士というだけでなく、魔法省の同僚でもあった。白々とした夜明けを眺めながら、彼らはゆったりと世間話をした。

 

 

「 全部君の子かね、アーサー? 」

 

「 まさか。赤毛の子だけだよ 」

 

 

時間通り移動鍵(ポートキー)は動いた。

 

 

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