ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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社交界デビュー

 

ゴーンと深く鐘の音が響いた。

ガーン、ゴーンと…ショック状態の心理描写ではなく、時を告げる鐘が鳴っていた。

 

ガラハッド・オリバンダー15歳。その精神、昭和元年生まれ。

女人禁制の山で伝法灌頂を受け、数え20歳で出征して戦死。転生後、満11歳でホグワーツ入学。合計30歳で魔法使いとなった、童貞の中の童貞。

 

その彼は今、どこかから響いてきた鐘を聞いて、よろめいてどうにか動き出した。入場開始の時間なのだから、行かなくてはならなかった―――見つめ合う時間は終わった。

ハーマイオニーは口を閉ざしていた。ジッと見ていたら、「YES」と言ってくれそうな気がしたのに。

声を震わせて、彼女は今更こんなことを言った。

 

 

「 …じゃあね。良い貴族になって 」

 

 

テントの幕を跳ね上げる前に、ハーマイオニー・グレンジャーはきっぱりと告げた。

ガラハッドはハッと理解した。離れたくない、なのに、彼女を突き放したのは自分だと。

ここでサヨナラになるのは、自分の選択の結果だ。

痛烈な後悔に襲われて、ガラハッドは頭が真っ白になった。自分ときたら、独りで行くのが厭でうだうだ言ったくせに、肝心の彼女を貴賓席に誘うという発想が―――彼女はマグル生まれだから―――今の今まで、なかった。除外して、検討もしてこなかった。

 

これから会うことになりそうな人々を相手に、波風を立てたくないから…。

それって、ようは純血主義におもねっているんだ。

 

「仕方ないだろ!?」という気持ちもあって、ガラハッドは顔を歪めた。

でも、「でもでも、だって」は、男なんかじゃない。

ガラハッドは低い声で言った。

 

 

「 証明させてくれハーマイオニー。この格好をしている人間は、純血主義者ばかりじゃない 」

 

 

ハーマイオニーは鋭く振り向いた。既にハリーたちのもとへ戻ろうとしていたが、彼女は足を止めた。

それでも、上機嫌でなんかいられるわけがない。

 

 

「 ああそう!それって、どうやって? 」

 

「 十年はかかるかもしれない。けれど僕には、“杖の術”がある。地位を築ければ、風向きは変えられる!今に、変えてみせるから…! 」

 

 

…だから許してほしい。と、ガラハッドは心に念じた。本気の本気でそう思って、微塵も隠し立てはなかった。

 

‴男の子って、馬鹿みたいね。こんな大きなことを言っちゃってさ‴

 

妖精たちはクスクス笑って、輝くランタンを持って空を飛んだ。闇に舞うまばゆさにくらくらして、ハーマイオニーはぼうっとした。

最後の鐘がやんだ。

礼装ローブを翻して、ガラハッド・オリバンダーは独り会場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約十万人を収容できるというスタジアムは、穏やかな森の奥にあった。そこへ続く小道は渋滞していたが、不快な混雑ではなかった。

興奮してさざめく魔法使いたちは、大樹につどう小鳥みたいだ。笑ったり、歌ったり、楽しそうにじゃれあったりして、いろんな姿のがいて、眺めていて飽きない。

 

どれほど熱狂的な空気が満ちていても、ガラハッドはクリアに醒めた心地だった。

入り口でチケットを差し出したとき、ガラハッドは、切符切りの魔女にチラッと顔を見られた。

そうなると思っていたので、ガラハッドは、さらりと如才のない挨拶をした。相変わらず「パンはパンでも食べられないパン」みたいなもんで、愛想よくしても可愛げの欠片もないのだが、この頃はそれが欠点にならない。

ちょびっと姿勢を正しくして、受付の魔女は階段を示した。

 

 

「 特等席!最上階貴賓席!まっすぐに、いちばん高いところまでどうぞ! 」

 

 

観客席までの階段は、いやに柔らかい絨毯が敷かれていた。「変な感覚だ」と思いながら、ガラハッドは階段をのぼった。

 

 

足元を見ずに、ただ上だけを見て歩け。

はるかなる天頂を見据えろ。

俯いて裾を踏むなんて、“卑しい育ち”のすることだ。

どこの誰に見られていてもいいように、ガラハッドは軽々と裾を捌いた。

 

 

するりと最上階までのぼりきると、そこは両サイドにあるゴールポストの真ん中だった。ゴールは聳えているから、否応なく目に入ってくるだけだ。どんな広告が出ようが興味はなく、ガラハッドはピッチなんか全然見なかった。

ラウンジのほうへと目を走らせると、たったいま、見知った人物が飲み物を受け取っていた。とても久しぶりに会う人だが、見間違える筈がなかった。

 

 

「 ごきげんよう 」

 

 

“お菓子の家に住む魔女”である。

瀟洒なゴブレットをつまみながら、彼女はしゅるしゅると近づいてきた。

 

 

「 久しぶり、大きくなって。お師匠さんの遣いで来たんだね 」

 

 

ガラハッドは小さく頷いた。

彼女は、名前をエルドラ・アイゥオーラという。

ギャリックの弟子のひとりであるが、杖つくりとしての自身に見切りをつけて、もうずっとウェールズで木守り人をしている。樹々が病まぬよう絶えず手入れをして、杖や箒の材料を得る職人だ。

 

ガラハッドはしげしげと彼女のことを見た。彼女は、いつだってつばの広い帽子を被っていて、それに葉をしげらせ実を光らせているのであるが、今日はみずみずしいブドウの房の隙に、ボンボンやキャンディを差し込んでいた。いつもの作業着と違って、競馬でも見に行くかのような“ご婦人ぶり”なのに、個性って滲み出るものだな…。

 

 

「 ひとつあげようか 」

 

 

エルドラはひょいっと頭に触れた。

 

 

「 いや、いいよ 」

 

 

ガラハッドは一歩下がった。

 

 

「 エルドラ、僕今年で16だから。もう坊やじゃないんだ 」

 

「 早いもんだねえ。でも、何歳になったって腹は減るでしょう。試合は何時間続くかわからないんだ。お腹が空いたら、すぐに言ってねえ―――ああ、ああ、お師匠さんに会ったら叱られるよ。見てのとおりさ、うちのシラカンバは、もうどれもつんつるてん!ご覧あれ、これが最高で最後ってやつでい。こぉんな贅沢箒並べてお遊戯できる時代、向こう100年は二度とくるもんか 」

 

 

エルドラは明け透けにものを言った。

ガラハッドは、木守り人のエルドラ・アイゥオーラ―――知られた女職人から気取らず話しかけられていることで、名乗らずして周囲からの注目を集め、容姿から誰であるかを推察された。樹に関連した世間話などしていると、オリバンダー一門の者たちは目立った。

 

駆け出しの若手じゃあ、こんなところにはいるまい。

あれは、オリバンダーの若旦那だ。

 

ブルガリアのオブロンスク大臣は、担当者を呼びつけて、彼らの雑談を通訳させた。「気になる会話だ」と思って耳を傾けても、彼らの英語は妙に難しかった。

 

 

「 キプロス産材木?ジジイ、あんなのおかったるいってよ 」

 

「 ぞろっぺえなんだよねえ 」

 

 

聞き耳を立てたはいいものの、バーテミウス・クラウチは困惑した。

彼らは、これで英語話者のうちなのか?国賓の前で、下品な職人たちめ…。

 

「裏のある担当者だ」と、オブロンスクはクラウチを見切った。

 

英国杖業の職人たちの動向に、オブロンスクはそっと注目し続けた。

次期オリバンダー店主のガラハッド・ノアイユは、エルドラ・アイゥオーラと行動を共にしてラルフ・スパッドモアに挨拶をし、握手され激励を貰っている。それからダニエル・フィシオロース―――ユニコーン保存会会長に招待へのお礼を述べに行き、彼からワラキア公ヴラドを紹介されていた。

 

オブロンスクはひそかに警戒した。ワラキア公は、ドナウ川より東で唯一ドラゴンの屠殺・販売権を継承する人物だ。横柄で厭な男だが、若いオリバンダーはフランス語を使って、なにやら彼とうまくやっている。東欧でのドラゴン材の販路について、随分と聞き出しているようだ。

 

コーネリウス・ファッジ大臣一行がやってきたとき、オブロンスクは英語がわからないふりをしておいた。このクラウチという役人は、ファッジの言うことならどの程度訳すのか、見定めてやるのも一興だ。

 

良くはない雰囲気を感じ取りながらも、バーテミウス・クラウチはきちんと仕事をした。

 

 

 

そのころファッジと共にやってきた人々を見て、ガラハッドはますます気持ちを引き締めていた。まるで足などついていないかのように、その三人は滑るようにやってきた。

 

ルシウス・マルフォイに、ドラコ・マルフォイ―――息子の前ではなく後ろに、ナルシッサ・ブラック・マルフォイ。

彼女が人前に出ることは珍しい。今宵、彼らの“特別な日”に招待主で在れることが、コーネリウス・ファッジは誇らしそうだった。

まったく緊張などしていない様子で、ドラコ・マルフォイはこちらに話しかけてきた。

 

 

「 こんばんは 」

 

「 今宵はデビュタントがおふたり! 」

 

 

ガラハッドの「こんばんは」はかき消された。サーカスの座長みたいに、ファッジが威勢よく叫んだからだ。折角立派な金縁のローブを着ているのに、彼は言動がいつもと同じだった。

ガラハッドは黙って姿勢を良くした。

 

今宵、黒一色の礼装は、ガラハッドとドラコのふたりだけ。

ふたりを交互に見やりながら、ファッジ大臣は両腕を広げた。

 

 

「 素晴らしい!今夜は、おめでたい。英国の未来は安泰ですとも。どうだね、君たちは、親しいのかね 」

 

「 よくしていただいています 」

 

 

ガラハッドは間髪入れず言った。

「当然だ」という顔つきをすることにかけては、ドラコは天下一品の腕前だった。

ファッジがルシウスの“社会貢献”ぶりを喧伝していると、ルード・バグマンの声がスタジアムに響き渡った。ここにつどう者たちに比べたら、一般席はひどく無邪気に楽しんでいた。

 

 

「 バーテミウス・クラウチ 」

 

 

エルドラがそっと囁いた。

噂の“クラウチさん”だ。と、ガラハッドは思った。

歓声は良いカモフラージュだ。さも機嫌良さそうに、したたかな彼女は言った。

 

 

「 あのスーツの、マグルみたいなの。法執行部部長だった。今は国際魔法協力部の部長さ。フランスの空飛ぶ馬車、トルコの空飛ぶ絨毯…そういうのを締め出してる、“箒屋に優しいやつ”ね。ちょっと気を張っときな 」

 

 

ガラハッドは取り敢えず頷いた。

田舎者でござい」と人の輪を切って、エルドラはピッチ際にまでするりと出て行った。ガラハッドは社交場に残った。機を見て、クラウチ氏と話をしてみたかった。ブルガリアの大臣に連れ回され、彼は通訳業務で忙しそうだったが。

 

保護貿易を行うことを、ガラハッドは悪いとは思わない。箒は税収になるから、自分が魔法省官吏だったら生産を奨励する。

 

何も、今日で何かが良くなるとは思っていない。けれどいつか、杖業の今後のことについて、バーテミウス・クラウチ氏には是非相談にのっていただきたい。限られた森のこと、輸入材料のこと…見解を聞きたい話題はいくつもある。

 

 

父が両大臣に話しかけられている隙に、ドラコはガラハッドの近くへ寄ってきて言った。

 

 

「 何を飲んでいるんだい? 」

 

「 さあ…? 」

 

 

「あ、そういう感じでくる?」とガラハッドは笑いそうになった。「よくしていただいています」だなんて、さっき自分も猫を被ったけど。

ガラハッドはすっとぼけて、金のゴブレットを軽く掲げた。これはエルドラの選択に従っただけで、自分で選んだものではなかった。

 

 

「 わからん。実は味がしないと思ってる 」

 

「 またあなたって人は 」

 

 

くくくっとドラコは背を震わせた。

 

 

「 僕は味がわかりますよ 」

 

「 じゃあワインにすれば?どこそこの畑の、ナンタラのカンタラ 」

 

「 クィディッチなんですよ?レモネードがいいな…それか、パンチだ 」

 

 

ドラコは、かなうなら観戦に没頭したいようだった。若者同士連れだって、ドラコは場を抜け出したがった。「お酒はよしなさいね」とナルシッサが、ドラコの背後から口を差しはさんだ。ドラコはちょっと鬱陶しそうにした。

 

 

( シリウスに似てる… )

 

 

ガラハッドはナルシッサを眺めて思った。

言いつけた通りにガラハッド・オリバンダーを確保している息子を、ルシウスは黙って「良し」としていた。彼が動きだすまでもなく、立場らしくファッジは語りたがった。ファッジ大臣から視線を向けられると、ガラハッドはNOとは言えなかった。本当はクラウチ氏と喋りたかったし、ドラコと抜け出すことにも魅力を感じていたが…。

 

 

「 今年は催し物が続くね 」

 

 

もったいぶってファッジ大臣は言った。三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)のことだなと、ガラハッドはただちに理解した。秘密を共有している顔つきで、ガラハッドは微笑んでおいた。

 

 

「 よい戦いを、君たち!困ったら私に頼りなさいと、言いたいところなんだがね―――重々、言いたいことであるが―――なんせわたしは現に“彼”を制して、大臣としてここにいるわけであるから…もしも頼ってくれたら、誰より力となってみせるのだが… 」

 

 

ファッジはチラチラとあちこちを見た。ガラハッドを見たり、ドラコを見たり、クラウチ氏のほうを見たりマルフォイ氏を見たり、なんとも忙しい男である。ガラハッドは、まるで「こちらの品、いくらで買ってくれますか?」と訊かれている気分になったが、ファッジの言いたいことがよくわからず、曖昧な微笑を続けた。ちょうどスタジアムの底から響いてくる、ルード・バグマンによる司会のほうが気になっていた。

 

 

「 レディーズ&ジェントルメーン!ご紹介しましょう…ブルガリア・ナショナルチームのマスコット! 」

 

 

クィディッチの国際大会って、各国の魔法動物が披露される場でもあるらしい。

 

今回の検疫は実にやり甲斐があったと、エイモス・ディゴリーはしみじみと言っていた。その生き物のことを思い出すだけで、彼はうっとりとした気分になるようだった。一体、どんな生き物が持ち込まれたのやら、ガラハッドはそれに興味があった。

 

諸々の偶然が重なった結果、驚くほど最悪(最高?)のタイミングで、ガラハッドはドラコと共に大人の輪を抜けた。

彼らは、初めてしっかりとピッチを見下ろした。百人のヴィーラが現れて、美しく踊り始めたまさにそのときに。

 

催眠。陶酔。

前後不覚というのは―――こういうことである。

 

気がつくとガラハッドは柵に身を乗り出していて、あわや転落するところだった。誰かに腕を掴まれていなかったら、真っ逆さまに落ちていただろう。

慌てて振り返ると、最悪なことに―――助けてくれていたのは、よりによってルシウス・マルフォイだった。彼のすぐ後ろで、ドラコはナルシッサに縋りつかれていた。

 

ガラハッドは、感謝よりも屈辱を感じた。恥ずかしくて、全身から火の出る思いがした。立派な紳士であるルシウスに、男として下等だと見なされた気がした。彼はこうなることがわかっていて、ずっと機を窺っていたのではないか―――?

 

二年前の態度を、無礼に思っての報復か?

あの痛烈な決別以来、我々は顔を合わせずにきた。

 

「一生の不覚」という顔つきのガラハッドに、ルシウスはくつくつと低く笑った。彼は目を細めて言った。

 

 

「 (Sir)、お若い証ですな 」

 

 

ガラハッドは「はぁ?」と思った。

よりによってあんたに、(Sir)と呼ばれていじられる筋合いはないんだが?

我々はお友達ではない。

 

ルシウスのアクセントは完璧だった。

 

 

「 ご容赦を。御身を思うあまり、咄嗟に手が伸びました。ご不興を買いましたな 」

 

「 まさか…そのようなことは…。感謝のあまりに、少々言葉が出ず。不徳を恥じるばかりで… 」

 

 

ガラハッドは頬をヒクつかせて言った。

そよ風でも感じるかのように、ルシウスはそっと目を伏せて微笑している。腹立たしい男だ。

青筋の張った手を胸にあてて、ルシウス・マルフォイは言った。

 

 

「 斯くもわたくしには絶え間なく、貴方様の御力になる準備がございます。麒麟の衰うるや駑馬これに先んず、いわんや図南の鵬翼をや。今や立つこともままならぬ君よりも、飛ばんとする君を追いたくなる心はご理解くださるでしょう?―――誤解なさらぬよう。天の父に地上の子、両者を主として仰ぐことは、古の道を守る行いです。聖霊がそれを命じるのです 」

 

「 ―――…? 」

 

 

ガラハッドは聞き返すべきか迷った。重なって響く音が多すぎて、今のは正確に聞き取ることができた自信がない。

頓智?謎かけ?

ルシウス・マルフォイは、いま、何を言ったのだろう?

 

十万人のスタジアムは現在、レプラコーンの金貨が降り注いでいるために、とんでもない騒ぎの真っただ中だ。いくらガラハッドとルシウスが見据えあっていても、初めからそれを見守るつもりだったドラコとナルシッサ以外、誰も気づかないか、気にしなかった。

 

群衆の狂騒がやむ前に、ルシウスは駄目押しを仕掛けた。

 

 

「 若君、いつでもお立ちください。わたくしがお支えいたします! 」

 

「 ―――…? 」

 

 

ガラハッド・オリバンダーは知らなかった。

自分は何者で、何を成し遂げられるのか。世の人は、自分に何を期待するのか、彼はまだ一部しか知らなかった。

 

一家の命運をかけて、ルシウスは聖書を引用した。

 

 

「 わたくしは、苛烈なる父に燔祭を捧げるよりも、血肉ある子へと仕えるべきだと知っております。古法が、それを示しております。()()()はとうに肉体がない。左様ならば、父君は天に在られるべきかと… 」

 

 

ルシウスは牧師にだってなれる男である。ガラハッドは、知識として聖書を知らないわけではなかったが、このとき冷静ではなかったし、一秒でも早く会話を切り上げたくて、「もういい」と不機嫌に言ってしまった。

ガラハッドは断言してしまった。

 

 

「 あなたの言いたいことはわかった 」

 

 

正直、そんなにわかってないくせにだ。

ワケワカンネー喧嘩を、これ以上ふっかけてこないでほしいあまりだった。

 

ガラハッドは、考えるほどに胃がムカムカしていた。

ルシウスの言ったことについて、ガラハッドの解釈はこうだ―――若い自分と対比される老麒麟…かつて栄えたのに…今となっては駑馬にも劣るような者とは、齢120に迫るギャリックのこと!

いくら名ばかり店員で国内に居られないといっても、アラベールを「肉体なし」呼ばわりとは失礼すぎる!

「代替わりは順調か?精々気張れよ次期店主」と、ストレートに圧をかけられてこられてもそれはそれで嫌だが、こうして回りくどく持ち上げながら見下されるのってムカつく!!

ガラハッドは歯軋りをこらえた。

ああこんな小競り合いで、自分は負けるわけにはいかない。勝てないにしたって、負けてはいけない。

いつか、いつかこいつには頼らないで済む経営をしたい。

ガラハッドは色のない声で言った。

 

 

「 はっきりと言っておきましょう 」

 

 

おんぶバッタ状態で固まっている母子を含め、マルフォイ家はこぞって息を呑んだ。

尊厳ある者として、ガラハッドはこれだけは言ってやりたかった。

 

 

「 マルフォイ・ルシウス、“わたしに関わるもの”に、“あなたが蔑んでもよいもの”は一つもない 」

 

「 おお、それは、まことに、まことに。お許しください、我が君!完全のかた、杖司るかた。わたしは、決して父君に失望したわけではありません!ただ、ただ当家には、あなたをお支えする準備が… 」

 

 

ブチギレるまいと深呼吸し、ガラハッドはもう返事をしなかった。

黙れよ、「利用する準備があります」の間違いだろと、蹴っ飛ばせる相手ではないんだよなあ…。

ああもう、しつこいしつこい!ルシウスめ、うちみたいな貧乏商家より、自分たちのほうが上だと絶対思っているくせに…。

 

ガラハッドは二年前の行動を後悔した。

あのとき、夢中になって追いかけて、捨てられそうに見えたリドルの日記帳をせがんだとき。

『あなたのしたことを忘れないでおく』なんて相手の弱り目につけこんで、余計なことを言わなければよかった。

自分は、別にマルフォイ氏の脛の傷に塩を塗ろうとして、面白がって追いかけたわけじゃないんだから。

 

 

( …あれさえなけりゃ、ここまでチクチクやられなかったよなぁ… )

 

 

試合を観ているような格好で、ガラハッドは外界の刺激を遮断していった。心を閉ざして、自室の内部を思い浮かべていた。早く帰宅して、ベッドへと寝ころびたかった。

 

あの日記帳には、経でも書いてやろう。ただ仕舞っているだけでは、供養だとは言えない。

 

溜め息をこらえているあいだに、試合は終了していた。

 

 

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