ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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立ち入り捜査

 

こんなことになるなんて思わなかった。

 

ガラハッドは一目散に家に帰りたい気分で、夜の始まりにいたテント村を目指した。「最初から来なければよかった」とまで思ったが、居合わせていなければ、もっと酷いことになった気がした。

 

自分たちがいないところで、すべては、杖職人たちのせいにされたに違いない。

反論しようがない間に、逮捕令状を出されたかもしれない。

 

樹々のあいだから出てキャンプ場に入る前に、ガラハッドはハリーからぐっとローブをひっぱられた。無駄に布の多い服だから、掴むドレープには事欠かないのだ。

 

 

「 聞いて 」

 

 

木陰に引き込みながらハリーは言った。

ロンとハーマイオニーは、ハリーから服を引っ張られるまでもなく、彼の要望を察していた。「テントに戻る前に聞いておいてほしい」と、ハリーは願っているのだ。

 

 

「 僕、ダーズリー家を出る直前に、シリウスに手紙を書いたんだ。もしかしたら、隠れ穴じゃなくてオリバンダー杖店のほうに返事が届くかもしれない―――届いていない?よく見ておいて。注文書と間違えないように!僕、追伸に『みんなが迎えに来てくれる』って書いた。だから… 」

 

「 シリウスに知らせようとしたことを三秒で 」

 

 

ガラハッドは容赦なく言った。

ハリーは三秒で伝えた。

 

 

「 夢を見て、傷が、痛んだ。どこかの屋敷でピーター・ペティグリューが、小さいヴォルデモートを世話している夢だ 」

 

「 お、おうハリー…それ、どうして早く言わなかったんだよ… 」

 

 

魔法使いの夢って侮れないのに…。

 

そう呻きつつもガラハッドは、自身は変てこな主張をしていると感じた。

あらかじめ知らされていたからって何が出来たとも思えないし、その悪夢が、「ワールドカップ会場で暴動が起きて、“闇の印”が掲げられる予兆」であった証拠はない。

 

 

「 そうは言ったって、今日はいちいちこんな夢を見ましたって、お手紙を書くのは馬鹿げてるだろ? 」

 

 

ハリーの述べることは正論だ。

 

 

「 今の今まで、忘れていたんだよ 」 

 

 

本当なのかただの強がりなのか、ガラハッドには判断ができなかった。

ハリーは、緑色の目をぱちぱちとやって、心配そうな親友たちの顔を見回して言った。

 

 

「 ねえ三人とも、最高の支援を有難う!僕、ダドリーがグレープフルーツしか食べられないときに、たっぷりとバースデーケーキを食べられたよ。ノンシュガースナックも良かった!甘くなくて、お腹いっぱい食べられたからね 」

 

「 ハリー。あれは、おやつよ… 」

 

 

ハーマイオニーは暗い声で言った。

彼女は、先ほど酷い扱いを受けていたウィンキーは、日頃何を食べてきたのだろうと思った。人間の基準で言うならば、ウィンキーはひどい痩せっぽちだ。

 

 

「 食事じゃないわ。気の毒に… 」

 

「 お腹に入ったら同じさ 」

 

「 もっと早く迎えに行くべきだったなあ 」

 

「 ううん。あの郵便も電話も、暖炉の使い方も、最高だった 」

 

 

にっこりとハリーは笑った。

ガラハッドは、ロンとハーマイオニーに比べたら、自分はハリーに何もできなかったと感じて、しばらくのあいだ黙っていたが、やがて少々説教臭いことを言った。あれこれ指図する気はなくて、“善意の提案”というやつなのだが…。

 

 

「 …記録をつけておけよ 」

 

 

真剣な顔でガラハッドは言った。

 

 

「 どんな夢だったか―――どんな夢でも。くだらなくても、強烈なやつでも。大事なやつでも…時が経てば忘れてしまう。記録を残しておかないと、あとから関連を考察しにくい 」

 

「 それはそうだね。でもそういう君は、ちまちまと夢日記をつけているのかい?夢が現実に影響を与えるなんてことは、実際に有り得るのかな?僕、それが気になってシリウスに手紙を書いたんだ。君にも、意見を聞きたいんだ 」

 

「 わからない。それは、いろんな説があるけど…検証が必要だと思う。面倒でも、調べていこう。僕も、夢を見たならば書き残すようにするから… 」

 

 

ガラハッドは心底心配して言っている。

そのことを感じて、ハリーは少し気が休まった。

 

 

「 君はどんな夢を見るの? 」

 

 

一行は再び歩き出した。

率直なハリーの質問を受けて、ガラハッドは首を捻った。近頃はとても忙しいから、夢なんて見た覚えがない。けれどこのタイミングで、「僕は見ないね」と返すのは身勝手だと思った。

 

 

「 うーん、そんなに…。…ああたまに、河原に立つ夢とか…? 」

 

「 立ってるだけ?変なの 」

 

「 川辺じゃなくて、川底かも 」

 

 

夜が明けようとしていた。

朝霧の冷たさに撫でられて、ガラハッドは首筋がぞわりとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィーズリー家とディゴリー家の拠点へと戻ると、テントは既に片付けられていて、足を開き膝に肘をついて、青年たちが車座になっていた。

ビルとチャーリーは怪我をしていて、シャツを引き裂いて傷を止血し、汚れを勲章のようにしていた。

パーシーはまだ鼻血が止まっておらず、セドリックに介抱されていた。

 

ガラハッドたちが帰ってきたのと前後して、双子たちも基地へと帰って来た。彼らはジニーだけでなく、フローリアンとも一緒だった。

疲れ切った面々を見回して、フローリアンはジョークをとばした。

 

 

「 やあ。ワールドカップ・ソーダ味はいかが? 」

 

 

不発だ。誰も笑わず、暗い顔をしていた。

セドリックは、「彼は何故無事なんだろう?」と思った。「流石横丁の亭主だな」と、チャーリーが呆れた声でぼやいた。

 

 

「 都会っ子め。尻まくりが巧いんだ 」

 

「 うーん、そうかも。うん、みっともないよね… 」

 

 

フローリアンは頬を掻いて苦笑した。とんでもない連中に立ち向かわず、どこもやられていないことは、今、恥ずかしいことだと思いながら。

フローリアンは、レプラコーンが金貨の雨を降らせるや否や、金持ちの気分になった客から見つかってしまわないように、ちょこっと杖をふるって、スタジアムの壁に同化していた。あんなものが溢れかえったら、とっとと店じまいするしか自衛策はない―――その考えはガラハッドにはわかる。

「売れ残っちゃったんだよね」と言って、フローリアンは売らなかったアイスを配り始めた。

 

 

「 在庫消化だ。食べちゃって、少しでも元気を出してよ 」

 

 

ガラハッドは小銭を取り出した。

 

 

「 ひとつくれ 」

 

「 俺たちも、買うぜ! 」

 

 

フレッドは意味がわかっていないけど、ジョージ共々良い奴だった。彼らが取り出したぴかぴかの金貨を、フローリアンはニコッとして受け取った。

 

 

「 毎度あり。凄いな、こりゃあ釣銭がないや 」

 

「 いいんだ。全員、全員ぶんなんだもの!何ならそこのしょぼくれてる人らだって、誰だか知らないけどアイスを食べるべきさ! 」

 

 

ジョージは道のほうを見て言った。

 

移動鍵(ポートキー)の順番を待つ人々が、ゲートからここまで列をつくりワーワーと犇めいていた。みんな酷い顔をしていて、中からは泣き声も聞こえる。自身も泣きそうになっている魔女が、おもちゃのナメクジで子供をあやしている…。

 

パーシーは、フローリアンからアイスクリームを手渡されると、自分は口をつけずニコリともせず、その泣いている子に与えに行った。

それから彼は不服を洩らした。

鼻血を止め続けている彼は、彼も―――何だかぐずっているような声であった。

 

 

「 不謹慎だ。今は、こんなことをしている場合じゃない 」

 

 

ポンッと音を立てて消えた弟を、穏やかにビルは庇った。

 

ビルは、丁寧にフローリアンへと有難うを言い、今後を見据えて休息をとり、糖分を摂取していた。グリンコッツ勤めである彼は、このアイスの価値をちゃんとわかっていた。

 

 

「 パースは行くべきなんだ。彼は、もう魔法省の一員なんだから。僕らとは立場が違うんだよ 」

 

 

路上の列に加わっていたガラハッドは、ビルとフローリアンの会話に聞き耳を立てた。

チャラいくせに思慮深い顔で、ビル・ウィーズリーは真っ当なことを言った。不在の父に代わってこの男は、ここにいる者をまとめようとしていた。

 

 

「 今回の件は、一体誰がやったのか、本当に闇の手下なのか―――ただの悪ノリした目立ちたがり屋連中なのだとしたら、それもまた怖いことさ。魔法省は、知恵を絞って対処すべきだよ。ただ偉丈高に、『遺憾の意』を表明したって意味はない。あれだけの人が死んだ出来事が、いまや面白がられている… 」

 

 

ご立派なことだ。

ガラハッドは、自分はさっさと帰ることにして、手短にみんなにサヨナラを告げた。ゲート付近まで来ても、目当ての移動鍵(ポートキー)の待機列は遅々として進まず、ガラハッドは何度も時計を見て、時間を浪費するしかないことにイライラした。

今は、一分一秒でも早く帰宅したいのに!

帰宅して、起きたことをギャリックに報せなくては。自分のしたこと含めて…。

 

ギリギリと歯を軋ませて、ガラハッドは思い返した。

振り上げた拳をおろしかねた、クラウチの罵声は無様だった!

()()()()()()のない喧嘩を、自分は構えてしまった。潰し合いだ。奴はきっとアレを寄越す。

 

尖った目で列に並ぶガラハッドを、ジニーは遠くからそっと見つめた。弓を射るような横顔に、計り知れないものを感じながら―――…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古いゴムタイヤに乗って移動してオッタリーセントキャッチポール村を横切って、涙ぐんだモリーから強いハグを受けて―――それから階段を駆け上がって…ようやくようやくようやくようやく、待ち望んだ自分の部屋へと戻ったとき、お気に入りのクッションをつかみとりながら、ジニー・ウィーズリーはこう叫んだ。

 

 

「 ねえ!キスした!? 」

 

 

その瞳はキラキラである。

このジニーという少女は、「我が家のプリンセス」と家族から呼ばれている。流石に呼ばれているだけあって、赤毛を靡かせて振り返る様子ひとつとっても、ハーマイオニーは彼女を元気なプリンセスだと思う。

森の動物とかと喋れて、歌って踊って恋をするタイプ。要するに、自分とはまるで違うタイプだ。けれどとっても可愛くて、見ているだけで元気になる子…。

 

深々と溜め息をつきながら、ハーマイオニーは新聞を広げた。

 

 

「 ジニー。今って、そういう状況じゃないわ… 」

 

 

ハーマイオニーは紙面を睨んだ。

『クィディッチ・ワールドカップでの恐怖』と、一面に大きく載っている。モノクロの写真で見ても、“闇の印”はひどく不気味である。

ハーマイオニーは不思議だった。

 

 

「 もう記事が出てる。印刷が速いの?まるでネットね。魔法界の新聞って、どうやって発行されているのかしら 」

 

「 んねぇ!ねえ、ねえ、私は待ったわ。ずぅっと訊きたかったけど、待っていたの!だっていつでも、周りに誰かいたんですもの!ねえねえ、あのとき、どうなったわけ? 」

 

「 魔法省のヘマ…犯人を取り逃がす…警備の甘さ…闇の魔法使い、やりたい放題…国家的恥辱… 」

 

「 んもう!そ・ん・な・こ・と・よ・り!ガラハッドとキスしたの?してないの? 」

 

「 してません 」

 

 

ハーマイオニーはきっぱりと言った。

クシャッと新聞に皺を入れて、まるでマクゴナガル先生のような口ぶり―――教師でないなら、裁判官である。

判決。彼はキスしてくれません。

けれども気分は罪人で、ハーマイオニーはこう見えて泣き出しそうだった。

矢鱈に新聞をバサバサさせて、ハーマイオニーは記事を指さした。

 

 

「 ジニー!注目すべき記事があるわ。これって、あなたのお父さまのことよ 」

 

「 嘘!それじゃあガラハッドは、あなたのドレスローブを選んで、あなたに仕度をさせて―――そんな状況で二人きりになっても、何もなしだっていうの?そんなことってある!? 」

 

「 あるかないかでいったら、あるのよ 」

 

 

ハーマイオニーはイライラと吼えた。

 

 

「 あ る の ! ジニー、背中を押してくれてありがとう。そのあとも、ねえ、ねえ…違うのよ。彼は、パーシーとペネロピーが別れたのには本当に関係なさそうで…多分、マグル出身の女の子が好きっていうわけでもなくて… 」

 

 

ハーマイオニーは嘆息した。

彼女は、ここでいったん扉に目をやって、すぐそこの廊下にハリーが来ていないかを確認した。

 

 

「 …彼は、チョウ・チャンのことが好きなんだと思うわ 」

 

 

水道のところで見たことを、ハーマイオニーはジニーに話した。

実際のガラハッドとチョウの間は何もなく、並んで歩いたときのふたりの話題は食べ物のことばかりだったが、そんなことはハーマイオニーにはわからない。

ご丁寧にもハーマイオニーが、「ハリー・ポッターさんもチョウ・チャンに夢中でいらっしゃいました」と言ったので、ジニーは渋いブドウを食べたような顔をした。ハリーに恋しているけれど振り向いてもらえないまま、ジニーはもう三年を数えているのだ。

 

 

「 わたし、思うんだけどね 」

 

 

ハーマイオニーは、自分の恋路よりは人の恋路に対して饒舌だ。

 

 

「 あなたは一旦、他の男の子と仲良くしてみたらどうかしら?ハリーってば、ああ見えてちゃんとあなたの想いに気づいていると思うわよ。そのくせ甘えてるだけよ。同じ寮にいて、しかもロンの妹だから、なんだか当たり前みたいな顔していらっしゃるの。わたし、あなたはハリーのこと、不安にさせてドキドキさせたらいいんだと思うわ 」

 

「 でも、そんなの… 」

 

「 できるでしょ!わたしと違って…あなたのこと可愛いって、ディーンたち時々話してるわよ 」

 

「 できるかできないかじゃなくて、したくないの 」

 

 

ジニーは憤慨するように言った。

 

 

「 だって私、あのチョウ・チャンに比べたら、『ずっと昔からあなたのこと好きでした』しか取り柄がないわ…あなたこそ!次にアプローチしてきた人とデートして、ガラハッドを焦らせちゃいなさいよ 」

 

「 そんな人現れないわ。それにわたし、本日あなたのお父様以外の魔法省の職員を、始めて見て、複数見て、その方々の態度に感じるところがありました。取り組みたいことが出来たのよ。まだどうしたらいいかは、わからないんだけど―――ばかに空騒ぎしないで、そちらに専念いたします 」

 

 

ハーマイオニーは再び新聞を読み始めた。指で辿って活字を追いながら、ハーマイオニーはぶつぶつ言った。

 

屋敷しもべ妖精の現状について、ホグワーツに戻ったらもっと調べなくちゃ。

彼らは文化を奪われて、文字も読めないのだと教えてくれたのはガラハッド。けれど「そんなの酷すぎる」と感じる心は、彼との恋愛とは関係がない。

ガールフレンドになれそうにないからといって、この気持ちまで萎むわけがないでしょう!?

 

ハーマイオニーが一心不乱に新聞を読みふけるので、ジニーはやることがなくなって、仕方なく無言でベッドに座り込んだ。

そのうちにいきなり部屋の扉が開いて、「やあ、クィディッチしないか?」とロンが言った。

ロンの後ろに立っているハリーを、ジニーは視界に入れられなかった。

 

 

「 いい…今は、そういう気分じゃないの… 」

 

「 どういう気分?はっはあ!さては双子に新作を披露されたな?お気の毒さま! 」

 

「 違うわ。閉めてよ。ばーか 」

 

 

ロンの鈍感さは神懸かっている。

ジニーから手ひどく追い出されても気にせずに、ロンは箒を担いで裏庭を目指した。

「昨日見た技を試そう」と提案するロンに、ハリーは心底救われていた。

暗い情報が多いけれど、ロンと遊んでいるうちに、ハリーはいろいろな不安を忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ダイアゴン横丁は俄か景気に湧いていて、どうにか会場を脱出した者は、そこには明るい日常があってホッとしていた。

やたら羽振りのいい客とおのぼり露天商が、口々にアイルランドチームの勝利を祝っていた。それぞれ適当な理由をつけて、老舗たちは休店を決め込んでいた。

 

ガラハッドは、ここは自分の家であるのに、オリバンダー杖店の扉を開けられなくて困った。ドンドン、バンバンと戸を叩いて、散々「入れて」と騒いで中に入れてもらった。

“贋金客”が来るのを怖れて、ギャリックはすぐに扉を閉めた。

 

 

「 やれやれ、騒がしいわい 」

 

 

ガラハッドは新聞を引っ掴んだ。「ここに書いてあることはもう知っている」という顔で、ギャリックがそれを寄越したのだ。

ガラハッドは、実のところただちに脱ぎたかった厄介ローブをソファに放りながら、居間で立ったまま新聞を読んだ―――かなう限りの速読だ。

 

 

「 よかった。闇杖のことまでは、ここには書かれていない 」

 

 

緊張の糸が緩みそうだ。

身構えるべきはこれからで、のんびりなんかしていられないのに。

 

「闇杖」の一語を聞いた途端、ギャリックの顔は曇った。ガラハッドは、昨夜経験した出来事を、彼に洗い浚い話した。

一門の名を負ってクラウチとぶつかったと聞いた時、ギャリックはカンカンになった。

 

 

「 こんッ…の、馬鹿弟子が!!! 」

 

 

オリバンダー家はぐらぐらと揺れた。

 

 

「 折角ひとが、のらくらと付き合ってきたっちゅうのに!買い被った儂が馬鹿じゃったわい!てめえ、自分を末代にする気か! 」

 

「 すみません本当にすみません 」

 

「 てめえは、首輪つけられて地下で杖を作りてえのか。四六時中見張られて…!魔法省のもんに“理由”を作らせるってのは、そういうことだと、儂ゃこってり教えてきただろうがッ 」

 

 

ガラハッドは平謝りするしかない。

「防犯のために」、「公益のために」―――その言葉は我々を奴隷にする。柔らかい手枷で縛りつけて、生かさず殺さずにするのだ。「たった7ガリオンじゃ無理」と思うたびに、ガラハッドはそれを肌で感じている。

 

むちゃくちゃ謝りたおしながら、ガラハッドはやるべきことをやった。まずは暖炉の火を消して、少しでもいいから時間を稼いだ。どたばたと帳簿を確認して、杖の登録漏れがないかを点検した。

完成してすぐの登録のほうは抜けナシとして、在庫のほうはぐちゃぐちゃに積み上がっている。

どの番号の杖が、どこにあるんだか…本当に全部あるんだか…―――ガラハッドは、店舗の中心で軽く絶望しかけて、そちらの点検のほうはギャリックに任せることにした。「おめえ、二階を見てこい!」と、会計台から彼が叫んだからだ。

 

 

「 アラベールが書斎をのこしとる!やべえもんあったら消しちまえ! 」

 

「 あっ!あっ、あっ、あっ……OK! 」

 

 

ガラハッドは階段を駆け上がった。

二階にあがるとガラハッドは、アラベールの部屋ではなく自室に飛び込んだ。

いまに魔法省の手先が来る―――その際に、“最もみつかるとヤバいもの”は、机の引き出しの中にある。

 

“リドルの日記”を掴み出して、ガラハッドはそれをなんとかした。

そしてアラベールの部屋へと向かおうとしたとき、その瞬間はついに訪れた。

ドンドン、ドンと店の扉を叩いて、魔法省の役人が「開けろ」と伝えてきたのだ。

 

 

「 こ~んにちは~! 」

 

 

なんだか、随分と明るい声で。

 

 

「 こ~んにちは~!いますか?魔法省魔法法執行部闇祓い局で~す。立ち入り捜査に来ましたぁ 」

 

 

ガラハッドは怖々と階段を下りた。

水晶玉を覗いて外をうかがうと、そこにはブロンドの魔女がいた。「見たことのない人だ」とは、一瞬の判断。じっくりと考え直して、ガラハッドは自分の判断を疑った。

 

ほら、人の印象ってさ…服とか、髪型とかで十分変わるから…。

髪の色を変え鼻を変えなどとされたら、うっかり別人に見えるんだよな…。

 

そういう悪戯はお手のものの人物を、ガラハッドは一名知っている。

 

 

「 ひっさしぶり~! 」

 

 

ニンファドーラ・トンクス―――フローリアンとチャーリーの同級生の、ハッフルパフ卒の七変化の魔女だ。

ガラハッドは狐につままれた気分で、この“捜査官”を自宅に受け入れた。

「わたしが闇祓いになったの、知ってた?」と、トンクスはニヤニヤ笑いかけてきた―――扉を開けると同時に、「ええっ、こいつはビックリだ~!?」みたいな、大リアクションを期待していた顔だ。

どこまで警戒すればいいのかわからずに、ガラハッドは不要領に応じた。

 

 

「 あ、うん…聞いては、いたかな… 」

 

「 やだぁつまんないの。でも、へへへ、さては忘れてたってわけね? 」

 

「 ―――… 」

 

 

こういうのはYESとは言いづらい。

 

ぎこちなく応接するガラハッドを尻目に、ギャリックはふぅと息をついた。

なんだ、来たのはヒヨッコか―――さては魔法省内部で、バーテミウス・クラウチはかつてほどの力がないらしい。

 

“あの件”はそれほど、奴の痛手になったか。

ギャリックはそっと銀の眼を細めた。

彼の叡智の悟るところ、このたび魔法省で起きたことは―――こうだ。

 

甲,国際魔法協力部の部長であるところのクラウチは、ガラハッド・オリバンダーの有罪を主張して逮捕しようとしたが、自身は令状請求も発付もできなかった。

 

乙,恫喝された法執行部員が焦って出した令状請求は、このとき魔法省地下2階にいた、魔法法執行部法執行部長ボーンズへと届いた。正しくは彼女の自動速記羽根ペンへと。

 

丙,「すみません今のナシで」「何なの?そんなの無理よ」「仕方ない。初仕事だ、行ってこいトンクス」―――こういうのをマグルは“自動販売機”と呼ぶ!

 

令状は、請求があったからには発付されていく。

ああ麗しき法治国家。

「アホくせえ」とギャリックは吐き捨てて、自分の部屋へと引っ込んでいった。自分が招いたことであるので、ガラハッドはしおしおとそれを見送った。

 

 

「 えー、こちらが工房となります… 」

 

 

ガラハッドは、店主代理としてトンクスを案内した。

定期的な監査はあるから、紹介するべきところはわかっている。

数字を振って管理されているユニコーンの鬣を見て、トンクスはぽかんと口を開けた。

 

 

「 ほぇぇ、細かくやってんのねえ! 」

 

「 ―――… 」

 

 

…おたくの上司がそれを求めるんだけどな?

 

ガラハッドはひどくやりにくくて、トンクスに対しとても不愛想だった。「何よぅ」と唇を尖らせながらも、トンクスは真面目にめいっぱい仕事をした。

ガラハッドによる店の案内が終わったとき、彼女は真剣な顔つきで言った。

 

 

「 住居部も見せてもらうわ 」

 

 

ガラハッドは緊張して頷いた。

 

 

「 悪いけどプライバシーはないと思って頂戴。魔法刑訴法218条により、本官は捜索差押許可状の発付を受けています。ボスがなんとかしたからね~、タイホしちゃうぞ♪っていう令状よりはマシなやつなんだけど、おねえさん手加減できないのよ。アラスター・ムーディー門下の、闇祓いですから 」

 

 

キリッとしてトンクスは言った。

 

 

「 つまり、腕っこきよ! 」

 

「 ああ、うん…お手柔らかにな… 」

 

「 まずはキッチンを見せてもらいます 」

 

 

意気揚々として彼女は歩いて行った。

 

 

「 どこも綺麗にしてんのねぇ 」

 

「 …まあ多分、君よりはな? 」

 

「 生意気!ボク、お忘れになったの?あなたこぉんなに小さくて、ハグリッドに見落とされたじゃない。あのとき助けてくれたのは誰よ 」

 

「 チャーリー。それとフローリアン 」

 

「 んも~!あんたなんか鼻クソ味! 」

 

 

トンクスはぷりぷりして言った。

「こぉんなに小さく」と言ったとき、彼女は親指と人差し指を出していた。百味ビーンズじゃあるまいし、ガラハッドはそこまで小さかった覚えはない。

 

書斎の扉を閉めるとき、ガラハッドは一瞬手を強張らせた。

朗らかに話しているようでいて、トンクスは時々鋭い顔つきをする。

 

自分の部屋に彼女が入っていくとき、ガラハッドはひどく緊張していた。ガラハッドはさっきから背後に立ち、トンクスによる捜査を見守るしかできないのだ。

ガラハッドの部屋へと踏み込んだとき、トンクスはまっすぐに“リドルの日記”へと向かった。あまりにも素早く見つけられすぎて、ガラハッドは廊下で凍りついた。

 

挑むように足を開いて、トンクスは本棚の正面に立った。

若き闇祓いの顔つきで、ニンファドーラ・トンクスは言った。

 

 

「 みつけたわ 」

 

 

ガラハッドは立ったまま死んだようだ。

 

 

「 この本、元から本なのに本に変身させてある―――『高等エノク魔術実践教本』。フンッ、ありがちな手口ね。中身まで、ちゃんとそれらしく偽装してあるじゃない。このわたしを前に、まっこと、涙の出る努力だこと 」

 

 

トンクスはニヤッとして“日記”をとった。

 

 

「 こうして隠してあるとはね…ガラハッドのお気に入りのエロ本、これだぁ! 」

 

 

トンクスは高々と“日記”を掲げた。

真っ白になっていたガラハッドは、しばらく何を言われたかわからなかった。

薄い反応しかしないガラハッドに、トンクスはにっこりと杖を見せつけた。

 

 

「 堅いタイトル!このムッツリさんめ☆ 」

 

 

ガラハッドは再び血の気が引いた。

ヒョイッと杖のひとふりで、トンクスはその日記にかけた変身術を解くだろう。トム・マールヴォロ・リドルという名が現れる、そのとき、自分の進退はどうなるか―――…!!!

 

必死になって“解除”を阻止しはじめたガラハッドに、トンクスは満足して大笑いした。厳しい訓練を受けた彼女の、徒手格闘の動きはなかなかのものだった。

 

 

「 やめろおおお!やめて!マジでやめて!! 」

 

「 アハハやだね気になるぅ!水着系?ちょっとハードな気配〜エグいのだったらどうしよ~〜!? 」

 

「 やめてやめてお願いやめて!本当に…本当に、今すぐ、やめろよ!一生の傷だよ!いたいけな少年の心、弄んでんじゃねえぞお姉さんよぉ!?男は繊細なんだぞ 」

 

「 無理、ウケる 」

 

 

ガラハッドはトンクスから日記を捩じり取ると、しっかりと胸に引き寄せて両手で抱きしめた。絶対に取り返されないようにする様子に、トンクスの腹筋は崩壊した。

彼女は立てなくなってしまった。

ヒィヒィ、ハァハァと壁に手をつき、涙を拭ってトンクスは笑い続けた。

 

肌という肌を真っ赤にして、ガラハッドは「帰れ!!!」と叫んだ。

 

 

 

 

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