ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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ホグワーツへ

 

クッッッソ仕事の出来るおねえさんだな!?と、カッカしてガラハッドはトンクスを部屋から叩きだした。「素晴らしい。あなたは変身術の申し子!」「お見事!呪いに対しては笑いが一番」―――ここにマクゴナガル先生とフリットウィック先生がいたなら、そうおっしゃることだろう。

「お邪魔しましたぁ」とトンクスは笑って、ギャリックにも挨拶をして帰っていった。“日記”をきつく抱きしめたまま見送りに出ていたガラハッドに、施錠しなおしながらギャリックは訊ねた。ギャリックの目からしてみると、この曾孫は教科書を抱いているようにしか見えない。

 

 

「 何しとるんじゃ? 」

 

「 エロ本。見られるところだった 」

 

 

ガラハッドはギャリックにもサラリと嘘をついた。

まだ紅潮の名残を残す曾孫に、ギャリックは呵々大笑した。

 

 

『 !!!れ黙 』

 

 

―――もしここにリドル少年がいたら、そのようにブチギレているところである。

 

嵐のようだった捜査の経験から、ガラハッドは深い学びを得た。

もう何年も使われていないアラベールの部屋にまで、トンクスは闇杖の…あるいは、その製造が可能になる闇材料の捜索ために踏み込んでいった。

もしも、自分がホグワーツに行っていて居ないときに、今回のようなことがあったらどうなるか。

「ギャリックに迷惑はかけられない」と、ガラハッドは強く思った。

 

ガラハッドは、えいっとトランクへと“日記”をぶちこんで、本物の教科書と同様にそれを扱った。もしもまた取り調べを受ける機会があっても、ホグワーツのほうがいくらでも隠す場所があり、いざという時に知らん顔できる。

 

カレンダーの日付を数えて、ガラハッドは神経を焼き焦がした。

新入生たちが杖を買いに来て、幸いにも瞬く間に日は過ぎていった。

待ち望んだ登校の日が来た時、ガラハッドは()()()をすっかり忘れていた。

 

 

そういえば、“届いていない手紙”があることだ。

 

 

いよいよという日の朝、ヘドウィグがコツコツと窓を叩いた。ガラハッドは「あっ」と気がついてひそやかに逡巡した―――そういえば、ブラックさんからの手紙は、この夏のうちに届かなかったよな?

ハリーはそれを確かめたくて、ひどく回りくどい手紙を寄越していた。

「汽車で返事すればいいや」と思いながら、ガラハッドはなおも()()()を思い出さずにいた。ある意味では、自分の学生生活に一番関係のある()()のことを。

 

9と3/4番線のホームに立つそのときまで、ガラハッドはそのことを思い出さなかった。

 

 

「 おはよう。この間は大変だったわね 」

 

「 おはよう。これから一年、頑張りましょうね! 」

 

 

アイリーン・エッジコムとマリエッタ・エッジコムは、並んで立っているとまあまあ似ている。肩につく髪を持つ娘と、短く切っている母親。どちらもブロンドの巻き毛だが、娘のほうが赤っぽく、母親のほうが美人だ。

彼女たちは駅でこちらを見かけるなり、近づいて来てにこやかに挨拶をくれた。

アイリーンの話を聞いて、ガラハッドは張り詰めていた気持ちが緩んだ。

穏やかな世間話として、彼女はクラウチについて語った。

 

 

「 彼、もう落ち着いてるわよ。あれは、ひどく疲れていたの 」

 

 

甘やかすような苦笑である。

 

 

「 私たち、彼を働かせすぎていた。大きなプロジェクトがあって…不健全だけど…どこも、彼がいないと回らないようなところがあるのね 」

 

「 彼は運輸部にもパイプがあるんですか 」

 

「 ん…というより、彼以外がちょっと縦割りすぎるのよ。これを機に、魔法省全体が反省 」

 

 

彼女の苦笑いってチャーミングだ。

一方娘のマリエッタのほうは、ぺっかぺかてらてらの笑顔を浮かべ続けていた。

ガラハッドは、とても嬉しそうなマリエッタを怪訝に見て、その時になってようやく気がついた―――彼女は、もうローブを着ていて、胸にぴかぴかの監督生バッジをつけていた。

「あっ」と自分たちの学年を思い出したガラハッドは、反射的にロジャーのほうを振り返った。

 

 

「 あ゛? 」

 

 

彼の襟元には何もない。

実は、ロジャーはずっとその場にいた…無口なので目立たなかっただけで。

今年も“すっとぼけたフリ”がお得意な同室生様に、ロジャーは隠さずにイライラをぶつけた。

 

 

「 うっざ。そういうのいいから 」

 

「 お前、監督生じゃないのか 」

 

 

ガラハッドは本気も本気で訊いた。

その真剣さを声色で察したロジャーは、パッと不愉快そうな顔をやめて目を細めた。

首をひねり声を落とし、ロジャーは半信半疑で言った。

 

 

「 え?お前も…? 」

 

 

そんなことってあるのだろうか。

汽車に乗りこんで席を確保しながら、マリエッタは大声で騒いだ。

 

 

「 おかしいわ!あなた学年一位なのに! 」

 

 

ガラハッドとしてもそれは否定するところではない。

 

 

「 ()()マスタングでさえ監督生になってるのよ!?テストの点以外に、何が必要だっていうのよ! 」

 

 

なかなか最低な言い草である。

マリエッタは、このたび監督生の地位を獲得したくせに、話題のマスタング同様、これといって道徳的ではなかった。「ママ!これって手違いじゃない!?」と彼女は、ホームでも吼えて悪目立ちした。

 

トランクを荷物置きへとぶちこむと、もう彼女は止まらなかった。

 

 

「 なんで?どうして基準が変わるのよ…ッ 」

 

 

折角一緒に監督生になれたと思ったのに…!!

マリエッタは、一般的に言ってロイ・マスタングという奴は、いかに監督生として相応しくないか、成績は良いものの人としてクズか、ただいまの自分の言行は棚に上げて、車両じゅうに響く声で並べ立て始めた。「そんなこと言うなよ」と彼女に返事しながら、しかしガラハッドも―――言えば敵をつくるのでわざわざ言わないが―――実のところ基準は学力だとばかり思っていた。

 

だから自分は、「この学年では自分が監督生に選ばれるのが当然」という認識でおり、「勝手に手に入る地位」だから、気にしていなかったのだ。

 

今、ガラハッドはその傲慢さを自覚し、恥ずかしさで座席にめりこみそうである。

そして厳然と思い出されるのは、昨年大広間に響いたマクゴナガル先生の声であった。

 

 

『 フィリウス!レイブンクローの監督生選びの基準はどうなっているのですか!? 』

 

 

寮を挙げて賭けポーカー大会をおこなったあの時、マクゴナガル先生はカンカンだったな…。

…同じことを思い出している顔で、ロジャーは妙にしみじみと口を利いた。

 

 

「 なるほど…マスタングが選ばれた揺り戻しで…今年から“人物重視”か 」

 

 

ガラハッドはロジャーの一撃に震えた。

 

え?我々って、お友達じゃなかったっけ?

お前まで、「オリバンダーは“人物”がダメ」とか言っちゃうのかよ。

それって、「あなたは成績が悪いです」よりもダメージがでかいんだが…。

 

大体、見られているのは人格じゃなくて、外面的結果的環境要因の大きい素行ではないか。「俺ボランティアしたけどぉ!?」とガラハッドは、クソみたいな主張をしてしまった。

先生の手伝いとか、箒分解とか…箒改造と実況だってしたし、【特別活動の充実による全校への貢献】ってやつ、俺はしたと思うのに…。

…なんだか、こういうのは自薦すればするほどつらくなってくる。

ええハイ自分はクズですと、項垂れるしかなくなってくる。

 

そこに追い討ちをかける出来事があり、ガラハッドはヒュッと息を呑んだ。ガラリとコンパートメントのドアが開いて、聞き慣れた声が高慢に響いたのだ。

 

 

「 おやおや、みんなどうしたんだい?汽車のなかで喧嘩だなんて、穏やかじゃないね 」

 

「 ―――…マーカス 」

 

 

…正直に言おう。

ガラハッドは、本当はこのとき、プライドが許すのであればこのように低く呻くのではなく、「ハァァア!?」と大声で叫んで立ち上がり、次のように主張したかった。

なんで!?なんで俺じゃなくてお前!?

…そんな様子を見せるのはダサすぎるから黙っている。

 

おそらくはロジャーも同じ気持ちだ。

ロジャーは、カッと開いた目でマーカスの襟元を見たあと、やはり不気味なほどクールに黙っていた。

ガラハッドは、もしも監督生に選ばれる基準が学力一辺倒ではなく、スポーツやリーダーシップなども含めた総合的な能力だったら、このロジャー・デイビースが選ばれるだろうと思ってきた。次点がニールかエルビスで、マーカスのことは考えたことがなかった。

 

マーカス自身、そう思っていたのではないか?

 

ここぞとばかりに汽車でのマナーを説くマーカスは、降って湧いた幸運を逃すまいとしているように見えた。彼は不必要に背を反り返らせて、監督生バッヂが人に見えるようにした。

 

 

「 いいかい?汽車では静かにね 」

 

 

マーカスは得意満面で言った。

「はーい」と肩を竦めてロジャーは、「そういや面白い本を読んだぜ」と話題を変えた。

マーカスにひとつ頷いて、ガラハッドはサラリとロジャーの話に乗った。

 

 

「 お前がたまに読んでる、“マグルの考えるミステリー”ってやつ。薄いのを休暇中に買って、一冊読んでみたんだ。悪くないな 」

 

「 ああアレ。ああいうのセドリックが好きなんだ。好みを言ったら、貸してもらえるぞ 」

 

「“ストーリーテラー”、あの話、俺は大好きだね! 」

 

「 ああ、サキか。いいよな。コンパートメントでこう…うるさい奴に話して聞かせる 」

 

「 メダルじゃらじゃら、良い子ちゃんから先に死ぬ 」

 

「 コロッと呆気なくな 」

 

 

マーカスはムッツリとして、「そんな本ないでしょ」と言った。「あるさ」とロジャーは明るく言い、荷物から紫の表紙の文庫本を取り出して見せた。

流石に良くないことをしたとわかっていて、ガラハッドは全力で熱心に車窓を見た。

マリエッタはチョウに愚痴りに行った。

 

うんざりとした気分で、長い汽車の旅は終わった。

ガラハッドとロジャーの二人は、叩くようなひどい土砂降りのなかで、濡れることを嫌がるのも億劫だった。

すっかり禊された状態になって、却ってはらわたの腐り具合が疎ましかった。

 

 

 

大広間の席に就く前に、ガラハッドはもう一度自己嫌悪の種を得てしまった。

 

 

「 や~~い 」

 

 

ピープズに絡まれたのである。

久々に現れたそいつは、大広間はもうすぐそこという玄関ホールで、ハッフルパフの女子たちへ兜を投げて怯えさせた。

渋滞のうしろからガラハッドは、思いっきり不機嫌でドスの利いた声で言ってしまった。

 

 

「 おいピープズ―――僕もいるぞ 」

 

「 ヒェェェェェッ!!! 」

 

 

ピープズはきりきり舞いして逃げた。

たまたま現れた弱い者に八つ当たりしてしまったガラハッドは、空っぽの胃から胃液を吐きそうになった。

どうして、俺ってこんなのなんだろう。

豪奢な食事なんて相応しくない…。

 

 

「 さっきはありがとう、Sir 」

 

 

背後からの声なんて聞いているはずもない。

「非常に歯が痛い」みたいな顔でガラハッドは、腕組みをして椅子を温め続けた。

 

 

 

今年の宴会は始まるまでにいやに待たされ、ダンブルドアの話は長かった。いつもの激励と禁止事項の伝達だけでなく、三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)についての説明が加わっているため、どうしても長くなるのだ。

ほとんどすべての生徒が、今年の三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)開催について、初めて知った様子だった。

ガラハッドは今更何も驚かなかったが、ここは、自分も初めて知ったような顔をしておくのがマナーなのかなと思った。

 

 

「 十七歳以上かぁ… 」

 

 

近くを歩く生徒たちは、口々に同じことを言って溜め息をついた。

ベッドに入る前に、ガラハッドはこの台詞を50回は聞いた気がした。

ロジャーは、ひとりで5回以上言っていたと思う。

そのたびにマーカスはとても機嫌良さそうに、「決まりは決まりだからねえ」と言った。

汽車でチクチクとやったぶん、ロジャーはツケを払わされたようだ。

 

「聞きたくねえよ」という気持ちを込めて、ガラハッドはベッドのカーテンを閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ガラハッドは起き出して、鏡の前で顔と歯を洗いあげたとき、鼻から下をタオルに埋めながら、自分を睨みつけて考えた。今夜また眠るまでにするべきことを、数え挙げてみたらいくつになるだろう―――?

 

時間割の確認に、休暇中の宿題の提出。昼休みはどれほどとれるだろうか?放課後は図書室に行きたい。“杖屋のおにいさん”だからだって、新入生に構ってやれる時間はない。調べるべきことは山程ある…。

 

…思うに非魔法族が想定する行政機能の半分は、魔法界ではホグワーツが担っている。

どの年の生まれの魔女と魔法使いが何人いるか、魔法省は調査してないが、ホグワーツは記録しているはずだ。

まず解明すべきは入学者リストの仕組み。それを製作する、創設者時代からの魔法。

魔女と魔法使いが生まれる瞬間を、探知する方法があるのか?

“ハロウィンの夜に生まれた子”を、自分はまだ自身以外に知らない。ひとりの転生者として、他の転生者と語り合ったことがない。また、実証のない理論のうえでも、異界や転生に関して、十分な知識があるとは言えない。

ああなんと歯がゆいことか。

折口信夫先生は、それについての研究者だった!けれど自分は、彼のことを僧籍歌人・釈迢空として第一に知り、その文筆の巧みさに惚れこんだ。

近頃は、あのころ彼の文芸ばかり追って、論文までは読まなかったことが深く悔やまれて仕方ない。まさか、まさかまさか自分が、こんなことになるとは思わなかったので…!いつか異界に行くってわかってたら読んでたんだけどなあ!

 

 

( 多才な人だっだよなぁ… )

 

 

ガラハッドは穏やかに思い返した。

あの先生は、亡者に成り代わってもの語りして、歌を詠むことで力をも入れずして文字通り天地を動かした。靖国をつくりあげ、我々学徒を出陣させた。彼は、過去千万の国学を血肉として、楚辞を論じ祭祀を行い、大東亜の歴史の上に立っていた。勇ましく記紀を援用するかと思えば、源氏物語の人でもあった。

 

 

「 …ふぅ 」

 

 

そうだわかってるかガラハッド?

お前は、決して監督生のバッヂをつけて寮生に目を光らせるために、ホグワーツに戻ってきたのではない。

マグルの図書館だって利用しているのだ、読むべき本はたっぷりとある。

積読を増やすべきではない。

監督生へと選出されなかったことは、間違いなく「有難いこと」だ―――そうだろ!?

 

 

そのように無理やり納得して、ガラハッドは自分なりには機嫌よく朝食をとりにいった。

 

とはいえだ。ガラハッドは、自分なりにはバシッと切り替えたつもりだったものの、部屋を出て、寮の談話室を横切って八階廊下を歩いて渡し階段を使い、隻眼の魔女像の前を通り、玄関ホールを経由して大広間に入り、そこで空いている席を見つけて座るまでに、再びみじめで納得いかなくなり、朝食は味がしなかった。

とことん悪意のない言葉でけちょんけちょんにされて、骨まで燃やされた気分になった。

 

 

「 え?監督生じゃないの? 」

 

 

と、ある人は驚いて足を止めてくる。

 

 

「 おはよう。バッヂ忘れてるわよ 」

 

 

と、ある人は明るくからかってくる。

 

 

「 ええっ!君が監督生じゃないなんて、どんな陰謀があるんだい!? 」

 

 

と、ある人は無駄に大騒ぎする。

いずれのパターンであっても、マーカスは―――彼はどこにでもべったりとついてきて―――自分が声をかけられたわけではないくせに、「監督生は僕だよ」と、調子に乗った声色でくっちゃべる。大抵怪訝そうな反応をされて、「Sirの悪戯ね?」とニヤッとされるのにな。

「失礼しちゃうよ」とむくれるマーカスを宥めるとき、ガラハッドは表情がぎこちなくなった。

みんなみんなみんな―――頼むから―――少しは黙って…静かに、神妙に、黙れよ!!

そんな気分で頬を引きつらせながら、ガラハッドは「監督生に選ばれなかったの?」と人に驚かれるたびに、努めてへらへら能天気に振舞い続けた。

 

 

「 うん?ああ、そうみたい 」

 

 

そういうの興味ないなぁ~のポーズである。

クソダサい痩せ我慢ぶりだが、この作戦は案外上手くいった。

日頃奇行が目立つだけあって、誰もガラハッド卿のことを常人だなどと思わないのである。

昨年“予言の書事件”を引き起こしたガラハッドは、すっかり超俗の存在だとされた。「名誉とか権威とかそういったことには、彼は興味がないんだ」と思い込まれた。

 

 

やっと昼休みが来ると、ガラハッドは適う限りの速度で手近に現れたメニューを掻き込んで呑み込んで、布鞄を脇に抱えて、極力飄々とした様子で「じゃあな!」と言った。

彼は一番にレイブンクロー席を離れた。

ルーナはくにゃくにゃとフォークを振って、「変人。ますます仕上がってンね~」と言って見送った。「お前が言うな」とガラハッドは思った。

 

 

その直後のことである。

気持ちに余裕がないときに、会いたい相手ではなかったが――――ガラハッドは、ハーマイオニーと鉢合わせて見つめ合うことになった。

正直、「最悪」に分類し得るシチュエーションで。

 

ガラハッドは、とにかく図書室に行こうとして、急いで衆目から離れたいばっかりに、闇雲に鏡を探して、近場のトイレへと駆け寄っていた。傍目には「漏れそう」という状況にしか見えないときに、隣の女子トイレからハーマイオニーが出てきたのだ。

避けたいような気持ちが生じたが、もう後の祭りだ。

ギョッとして固まったガラハッドへと、「どうぞ…」とハーマイオニーは気遣わしげに男子トイレを示した。

 

 

「 お急ぎでしょう? 」

 

「 お急ぎじゃないです 」

 

「 でも、走ってたじゃない 」

 

「 図書室に行きたかったんだよ! 」

 

 

「別にうんこしたかったわけじゃない!」とは、ガラハッドはもう彼女に言えないのである。

不思議ですね。かつては、「便所でホットチョコレートでもどう?」とか、彼は彼女へと平気で言っていたのに。

恋って、そういうものかしら?

ふたりは奇妙にもじもじしあって、互いに自身を恥ずかしく思った。

ハーマイオニーは俯きがちに言った。

 

 

「 そう…例の調べ物ね? 」

 

「 ああ 」

 

「 その…熱心ね 」

 

 

彼女の「ドン引き」の言い方って優しい…。

ガラハッドは、今日は朝からずっとささくれた気分であったぶん、目から癒しが沁みこんでくるかのようだった。

ふわっふわの栗毛、可愛いな…ちょっと腕白に跳ねてるとこがまた可愛い。

驚いたらリスみたいに口を開けるとこ、昔から変わってないよな…。

しかし彼女はおとなになっている。

ガラハッドの覚悟した通り、ハーマイオニーは、どこか一線を引くような微笑をした。唇は弧を描いているのに、瞳は笑っていないような表情だ。

彼女は思慮深い様子で言った。

 

 

「 頑張って。わたしも後で図書室に行くわ。でも、ごめんなさい。急いで詳しく知りたいことがあって、あなたの調べ物のほうの手伝いはできないの。当分の間は――― 」

 

「 …いいよ 」

 

 

ああ婉曲的に距離をおかれているなぁ…。

ガラハッドは泣きそうになりながらそう解釈し、今日一番の痩せ我慢でそっと手を振った。

有難うハーマイオニー。君のそういう、人を傷つけない言い回し、素敵です…―――そう念じながらガラハッドは無口だった。

ああ彼女も、何も言わないけど、去り際に「噂を確かめよう」という目つきで、ちらっとこちらの襟元を見なさった。彼女は僕より遵法的で、僕より総合的な知性が高いから、来年は監督生に選ばれるに違いない―――選ばれなかった自分など、彼女の相手として似合うまい。

 

 

「 成果を見せあいましょうね 」

 

 

ハーマイオニーは奮い立って言った。

 

 

「 わたしたち、今度お互い調べて考えたことを紹介しあう機会をつくりましょう!わたし、きっとあなたに『見事』と言わせてみせるわ。きっとよ。待っていてね! 」

 

 

にっこりしてハーマイオニーは小走りになった。

自身の興味関心へと燃えて、彼女もまた大急ぎで食事をしに行ったのだ。その笑顔にガラハッドは、「えっ」と心臓を跳ね上げさせて振り返り、彼女が遠ざかっていくのを見送った。

 

 

( えっ、あっ…避けられてはいない? )

 

 

ガラハッドは真剣に考えた。

 

 

( 彼女、僕のことは決して悪く思っていない…よな?あのときは動転してしまったし、時間もなかったから―――もう一回、ちゃんと告白すればいけるのでは? )

 

 

ガラハッドは悶々とした。

図書室では、然して中身も見ずに関係のありそうな本らを選び取って、手続きをして鞄にわしわし詰めて帰った。

 

 

 

 

 

午後一番にあった変身術の授業は、危うく色ボケ馬鹿になりそうだった頭をちょうどよくスッキリさせてくれた。

マクゴナガル先生は背筋をピンと伸ばして、いつもよりさらに威厳たっぷりにO.W.Lテストについて告知した。話題が話題であるので、ガラハッドは真剣に聞いた。

 

 

「 五年生諸君!今年は、誘惑に屈さず学業に励みなさい!甘い目論見で試験を受けて、将来の選択肢が狭くなってから嘆くのでは遅いのですよ。『自分はまだ目標がない』と思っている人ほど、“捨て科目”をつくらずに復習をしなさい。よいですね? 」

 

 

うーん将来の目標か…。

なくはないんだけど、試験でどうこうってものじゃないんだよな…―――嘆息があちこちから聞こえる。

ガラハッドが配られた要項を睨んでいると、隣からロジャーが質問してきた。

 

 

「 なあお前、何科目受ける? 」

 

 

ガラハッドは即決しかねた。

将来の選択肢を広く持つためには、できるだけたくさんの科目を受験してパスしておくべきなのはわかっている。

とはいえ、自分が就く職はもう決まっているのだ。

ここは、現に受講している科目だけを登録して、サクッと全部【80・優】にあたるスコアをとり、99とか100にはこだわらないで、そのぶん他に労力を割くべきでは?

でも、マクゴナガル先生の忠告を無視して、万が一あとから嘆くことになったら嫌だなぁ…。

 

ガラハッドが少々悩んでいると、ロジャーとは反対の方向にあたる隣から、マーカスが冷ややかに口をつっこんできた。

 

 

「 Sir、とりあえず全科目申し込んだら 」

 

 

雑なご意見である。

 

 

「 過去最高記録は12科目パスだよ。チャレンジしてみたらいいんじゃない 」

 

「 へえ。それ、どこ情報? 」

 

「 マリエッタの従兄 」

 

 

ガラハッドは「へえ」と思った。

「そうなんだ?」の意味を込めてマリエッタを見ると、彼女はとても気まずそうにしていた。

ガラハッドは、これは「いやだハードルあげないでよ」の顔だと、日頃の彼女からして解釈した。すごく頭がきれるわけじゃないけど、彼女はきっと全科目申し込む。そして猛勉強しそうだった。

 

 

「 その従兄なにしてるんだ? 」

 

 

ロジャーは興味深そうに訊いた。

 

 

「 癒者?呪い破り?それとも… 」

 

「 さぁ…何になりたかったまで知らないわ。会ったこともない。若くして亡くなったの 」

 

「 事故か?スゲーひとなのに気の毒だな 」

 

「 そういうことってあるでしょ 」

 

 

「今忙しいの」という顔つきをして、マリエッタは早速受験申込票を書き始めた。

やっぱり、全科目に〇をつけている。

一方、チョウは「あーん試験嫌だねえ」とか言って、ケイティと肩を寄せ悲観を語っていた。ガラハッドから見て、マリエッタとチョウは、万事においてあまり感性が近いように思えない。

 

ガラハッドは、ハーマイオニーはマリエッタと知り合ったら、気が合って嬉しいんじゃないかなと思った。「わたし友達が少ないから」と、ハーマイオニーは時々自虐している。今日も、女の子なのにひとりでトイレに行っていたし―――どうも彼女のようなタイプは、グリフィンドールの寮内では少数派らしいのだ。

 

 

( ここにあの子がいたらなあ… )

 

 

ガラハッドはてらいなくそう思った。

?うろだるいが僕、なるけざふ

 

 

 




■“TheStoryTeller”は新潮の『サキ短編集』に載っているはず。コンパートメントの中で赤ずきんちゃんのお話をするお話。作者英国人は「そのクソ煙草消せ!」と叫んだ直後にドイツ兵から狙撃されたらしい。死に方まで本人の作風っぽい。
■今回初めての特殊タグを使ってみました。
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