月末の迫るころだった。
ある晩、いい加減今年の状況にも慣れたつもりであったガラハッドは、同室生のマーカスに対して、やはり一言いってやるのが相応しいのではないかと思った。「監督生会議があるんだぁ」とマーカスが、まるで素晴らしいパーティーにでも誘われたかのような口ぶりで、しきりに髪を撫でつけながら、絶対に何か返事をしろという態度で、こちらの読書を邪魔してきたからだ。
ガラハッドは、仕方なく活字を追うのを中断した。
自分は本を読みたいんですよという身振りで、机の上に本を広げたままガラハッドは言った。
「 おうおう、さっさと行ってこいよ 」
マーカスはニヤニヤしてこう言った。
「 今夜は、君たちでは考えられないくらい、遅く戻ってくることになるかもしれない 」
「 ふぅん。大変だな、お疲れ 」
「 僕は寮外で監督生用風呂を使ってくるよ。ガラハッドは、そのぶん寮の風呂を長時間使っていいからね。僕のぶんの使用権を、今日からは君にあげる。君は、風呂に関してはガタガタ五月蠅いよね。今後も存分にこだわるといいよ。僕が、監督生として譲ってあげるから 」
「 へえ…へぇ、アリガトウ~! 」
「ウレシ~イ!」とやけくそに明るくガラハッドは言った。テメー、風呂に関する俺の行動に積年文句があったなら、その都度言えばよかっただろと内心思いながら…。
しかしガラハッドは、たとえマーカスがその都度文句を言ってきていたところで、自分はそのたびに舌戦を制し、彼の鬱憤の源となっただろうと思うのである。このマーカスによる“数年分の不満の言い方”は、実にスマートで穏健な手口の部類だった。
「 あの風呂結構深いから、気をつけてな! 」
親切ぶってガラハッドはアドバイスをしてやった。そっちがその手を使うならば、こっちだって…だ。
マーカスは部屋を出て行こうとしていたが、ピクッと動きを止めて、低い声で言った。
「 へえ、入ったことがあるの… 」
「 一年のころ先生に呼ばれて、ちょっとな。アニメーガスになったときに! 」
マーカスは黙って出て行った。「どうぞ、監督生様」と言ってロジャーが、恭しい身振りで扉を開けていたからだ。
マーカスを追い出すなりバタンと扉を閉めて、ロジャーはあけすけに文句を言った。
「 あいつ、調子乗ってるよな 」
ガラハッドは返事をしなかった。
まったくその通りだと思っていたけれど、ここで「わかるぅ」などとロジャーに同調して、女々しくまではなりたくなかった。
ガラハッドが再び本に向かっても、ロジャーはマイペースにひとりで喋った。
「 『今年はクィディッチがなくて残念だね』って、何回言ってくるんだって話だよ。あいつ、カナリアに話しかけすぎて、俺らのことまで鳥に見えてんのかぁ?チュンって言わせたい奴にチュンなんか言うかよ!くそったれが。俺は、俺は今年絶対―――― 」
ロジャーはこぶしを握り固めた。
「 ―――パドマより可愛い彼女をつくる!マーカスの野郎、ぎゃふんと言わせてやるぜ!! 」
「 え?…え?え?どういう発想? 」
「 他に相応しい手があるかよ 」
ガラハッドは読書に戻り損ねた。
ロジャーは、自説を主張して怪気炎をあげた。
曰く、マーカス・ベルビィというやつは勉強ではオリバンダーに負け、クィディッチではデイビースに負けている。
けれどフリットウィック先生の御慧眼は流石で、仮にオリバンダーとデイビースのどちらかが監督生となっていた場合、この寮内はとうに喧嘩三昧なのであるが、マーカス・ベルビィというやつは敵がいなくって、且つこの俺たちを手際よく黙らせる。なぁにが“人格基準”だ。あいつは、結構毒を吐くときだってあるのに、単に誰からも脅威だと見なされていないだけだ!
そのようにロジャーは主張する次第である。
ガラハッドは、むっつりと米神に指を添えた。
ガラハッドは、ロジャーの話の途中で「は?誰が喧嘩を起こすかよ。お前じゃあるまいし」と思ったが、多分こういうところこそロジャーの指摘する部分であって、自己の欠格なのであろう。
ロジャーは、マーカスのことをひとしきりボロカスに言ったあと、「でも、有難い部分もあるんだ」とシュンとして付け足した。「おっこいつ、言い過ぎを自覚したか。どれ聞いておいてやろう」と考えて、ガラハッドはロジャーへと向き直った。こういうところこそ彼の欠格であり、何様ガラハッド様であった。
ロジャーはしみじみと言った。
「 俺、ずっとお前が監督生になるんだと思ってて、五年生になったら、二度と朝寝はできないし飯前にランニングとかさせられるんだと思ってた。本当に良かったよ、お前が監督生にならなくて 」
「 ハァアア? 」
「 散らかすとすぐ指導してきそうだしさ 」
「 当たり前だろ! 」
「 夜、自習してるか巡回に来そうだし 」
「 寮ってそういうところだ!…本来はな 」
「 俺はそういうの嫌!だから、マーカスが監督生になって最高 」
「 俺だって、お前が監督生をやってる寮なんて嫌だね。親睦を深めるとか何とか言って、しょっちゅう談話室でうぇいうぇいやってそう。陰キャは苦しくって、寮内は風紀が乱れそう 」
「 うるせえ。喧嘩するか? 」
「 マーカスがいないうちに?なるほどそれがお望みでしたか 」
「 いや待て。やっぱやめよう。なあなあ、俺たち被害者同士だぜ?今をときめく、調子乗りぴかぴかマーカスくんの。ここは手を組んで、あいつをギャフンと言わせてやろう 」
「 その手段にさっき耳を疑ったんだけど…? 」
「 だってさ、あいつが俺らより優れてる部分って、“可愛いカノジョがいること”しかない。まあ実際は、そういうわけじゃないんだけど―――多分、あいつ自身は、そう思ってるだろ? 」
どうなんだろう…と、ガラハッドは首を捻った。
ロジャーは、ガラハッドの困惑なんかお構いなしに喋って、マーカスがいかに“人物評価”っていうものを勘違いしているか、自身を好人物だと見なしているか、その背景にはパドマ嬢の存在があるのだと主張して譲らなかった。
ガラハッドは納得しそうになった。
なんだか頭では考えられず、勢いに流されそうだ…―――いきいきとしたロジャーを見つめながら、ガラハッドは唇の内側を噛み、歯軋りをこらえた。
ロジャーめ、
可愛いかどうかは別として、四年生のパドマ・パチルは、実際に目を惹く容姿をしている。糖蜜色の肌をしていて、睫毛も眉毛も濃い様子で、白目の清さ鮮やかさが印象に残る。
へえコイツも、ああいうタイプが好きなわけか。
俺は、チョウのほうが可愛いと思うけどな…。
チョウ以上に可愛い子って…そんなのホグワーツ中探したっていないと思うし―――いいや案外、探したらいるのかもしれないけど―――そんな子を求めてナンパしてまわるなんて、レイブンクロー寮の恥さらしだ。
何より、ガラハッドはいつか自分にガールフレンドができたとき、ロジャーにそんな目で彼女を見ないで欲しかった。彼女ってその、自分は可愛いと思ってるけれども、欧米の基準において美しいわけではないので…。
…もしも。これは「もしものもしも」というやつだし、獲らぬ狸の皮算用だが…。
ガラハッドは、もしも自分がハーマイオニーと付き合い始めた時、ロジャーから「へえ、手頃で何とかしたんだな」みたいな目を寄越されたら、別にこちとら、マーカスへの対抗心だけで生きているわけではございませんので、ロジャーを大鍋にぶちこんで煮たい衝動に駆られると思う。
てめえはッ好きに軟派ヅラ振りまいとけよ!
ただしその目を彼女へと向けたら煮込む!
ガラハッドは何度も深呼吸して、目を瞑って落ち着こうとした。クソみたいな煩悩が理解を阻害し、今夜は読書が全然進まなかった。トレローニー先生の部屋に満ちている香りが、無性に嗅ぎたくてならなかった。
そんなことがあったものだから、翌日ハーマイオニーが廊下で挨拶してきたとき、ガラハッドはつっけんどんな反応をしてしまった。隣を歩いているロジャーに、彼女への想いを悟られたくなかった。
彼女はどう思ったことだろう?
一瞬の表情の意味を考えて、ガラハッドは薬草学の授業に集中できなかった。
その次にガラハッドがしくじったのは、フレッドとジョージと雑談をしていたときのことだった。中庭で堂々とやっていたのが悪いんだけど、立ち話が盛り上がって下品な発言もしていたら、ハリーとロンに挟まれるようにしてハーマイオニーがやってきて、純粋な瞳で「何を話しているの?」と話しかけてきた。まさか猥談をしていたなんて知られたくないガラハッドは、急に無口になってしまって双子に爆笑された。彼らを軽く蹴っ飛ばして、ガラハッドは撤退を図った。
その次の日も、そのまた次の日も、似たような状況や心境になることが続いて、ガラハッドはもういい加減、この現状を打破したくなってきた。
一瞬の微笑とか眼差しとか、複数名で会話するときの立つ位置とか、近くを歩くときの距離とか、些細な事柄を大きく捉えて、千年一日のような気分で考察に明け暮れ、「取るもの手につかず」が続くなんて、あまりにも馬鹿らしくないか?
恋は感冒の如しって?いや本当にそう!
結果として何一つ成果をあげられなくて、やっていることが不合理だ。
男なら、潔く告白して、ダメだったときには玉砕せよ!
もしも「OK」と言ってもらえたら、喜び勇んだ勢いで、彼女をゲスに評する野郎を殴るべし!
哀れロジャー・デイビースは、ガラハッドの想像世界で、たびたび殴られてたんまりと鼻血を出していた。だって「へえ!お前、カノジョできたんだ?」から始まる雑談の、合計4パターンくらいの展開の果てに、ロジャーという奴は絶対にゲラゲラと笑い、過ぎたからかいと冷やかしを口にするので。
つまり、それはどういうことかというと―――…そんな詳細な未来を想像するくらい、ガラハッド・オリバンダーは、やっぱりなんやかんやこの件に関する“勝率”を高く見積もっていたのである。後になって思うと、こういう思い上がりは大抵痛い目に遭う予兆なのだが―――…ガラハッドは、ハーマイオニーを二人きりの場所に誘い出す勇気を振り絞ることにかまけて、哀しいほど、情けなくいじましい馬鹿になっていた。
土曜日、図書室で偶然を装って顔を見て、このあと少し話さないかと言うと、ハーマイオニーはとても嬉しそうな顔を見せた。
「 まあ!行くわ。もちろん行くわ。いったん寮に帰ってもいい? 」
ガラハッドは深々と頷いた。
ハーマイオニーから、改めた姿勢で自分と密談する意思を感じて、早くも舞い上がりそうな心地だった。「落ち着け…クールに行こう」と念じながらも、ガラハッドはまったく冷静ではなかった。
跳ねるように寮から戻ってきたとき、ハーマイオニーはニコニコとして小箱を抱えていた。
「 まだ準備ができていないの… 」
彼女は恥ずかしそうに笑った。
“見せたくてたまらない気持ち”を、恥じらいながら溢れさせてる女の子って可愛くない?心の準備、いいですよ!小箱の中からスカートの中まで、ガラハッドは何だって見せてくれてよかった。
「 じゅうぶん、準備してから話したかったんだけど… 」
誰もいない教室で、ハーマイオニーは見るからにそわそわしていた。
「でもあなたが、こうして誘ってくれたから…」と、ハーマイオニーはいよいよ言おうとした。ガラハッドは、さっと手のひらを見せてそれを遮った。
こういうのは男から言うべきだ。
「 ハーマイオニー。僕は…き、君がs 」
「 S.P.E.Wっていう団体をつくったの! 」
ガラハッドの声は掻き消された。
ハーマイオニーは小箱を机に置いて、ローブのポケットから取り出した羊皮紙をガラハッドに渡した。両手で大事そうに渡されて、ガラハッドはつい受け取ってしまった。
小箱を開けながらハーマイオニーは言った。
「 それ、宣言文なの。まだ起草の段階。読んでみて!あなたの意見が欲しかったの!仕組みについては、どうかしら?わたし、こちらについては自信があるのよ!あのね、まずは2シックル集めます。入会費よ。それでバッヂを買ってもらって―――その売り上げを資金に、ビラ撒きキャンペーンを展開するのよ!ガラハッド、あなた財務担当をしてくれない?ああいけない。この呼び方ってショボいわね。私たちの長期的目標は、“杖の使用禁止に関する法律改正”なんだから… 」
「 ―――… 」
ガラハッドは絶句していた。
ガラハッドは口を半開きにして、小箱に収まった色とりどりのS.P.E.Wバッヂを見つめた。
キリッとしてハーマイオニーは言った。
「 私が“総裁”で、あなたは“幹事長”。どうかしら? 」
ハーマイオニーはニッコリしてみせた。
その笑顔がとても危険に見えて、ガラハッドは声を裏返らせた。
「 え!?いやいや、君が集めるカネだろう!君が管理しなよ。どうして僕に任せるんだ 」
「 だって、わたしは卒業まで口座を作れないし―――当団体は、やがてしもべ妖精代表を一人、魔法生物規制管理部に送り込む組織よ。多くの党員を抱えて、巨大化するの。その活動は多岐に渡るようになるわ。学生がお小遣いにする金額じゃなくなるの。ベッドに隠してなんかおけないのよ。あなたは、着服なんかしないでしょう?おカネを扱うことに慣れてるし―――ね、お願い。信用してるわ 」
反駁しづらい話だった。
ガラハッドは、かつて彼女にグリンゴッツについて教えたことを後悔した。あのとき教えなくてもこれを機に彼女は知っただろうし、彼女がマグル生まれであるのは、彼女の責任ではないのだが…。
こんな馬鹿馬鹿しい団体、大きくなんかなるわけない。
何だよ
一見真剣に聞いていそうに見えるガラハッドに、ハーマイオニーはいそいそと続けた。
「 ね、党員を増やしましょうね!『妖精の杖は違法』って、端的に言って差別じゃない。あなたの御母様のなさったことで、あなたは何も気負わなくていいの。変わっていくべきなのは、社会のほうなの。グリフィンドールでのオルグは任せて。あなたも、レイブンクローの談話室で活動してください。このバッヂは、あなたに預けておくわ 」
そんなことしたら干されるんだが…?
強烈な危機感を覚えつつも、ガラハッドはまたしても小箱を受け取ってしまった。一体どこの世に好きな女の子から「はい♡」とにっこり両手で渡されるものを、冷たく突き返せる男がいるんだ。
マルチ講にひっかかるほうが、まだマシな状況だと思えた。
だって「この洗剤、効くんだ」と言って回る奴よりも、談話室で政治の話をして回る奴のほうがよりヤバいだろう…。どういう党派かに関係なく、そういう奴って存在がヤバい。
しかし「自分は寮でウザがられたくないんで、やりません」とか言ったら、彼女からただちに失望されることはわかっている。物凄く知恵を絞って、ガラハッドは時間稼ぎに走った。
「 …あのな、ハーマイオニー 」
最初に渡された宣言文草案を読み、ガラハッドは、慎重に慎重に慎重に慎重に言葉を選んだ。どうにかして彼女に嫌われることなく、彼女の暴走を止めたかった。
「 …宣言文が定まっていないのに、普及活動はできないだろう。僕は、この起草文は大いに議論のし甲斐があるものだと―――重要な活動であるぶん―――思うから、このバッヂは預かっておくけども、会員集めは保留とする。君はきっと―――その、屋敷しもべ妖精たちのさ、無償労働の上に自分が立っていることが、良心の呵責というか…つまり、堪えられないんだと思うけど。でもそれって、彼らの本能だから。彼らは本能に従って―――…ちょッ、待って!待って待って!補足させてほしい!ここでいう、“彼らの本能”っていうのは…ッ 」
ハーマイオニーの表情が歪んだ。
ガラハッドはロンと同じことを言おうとしたが、大急ぎで舵取りを変えた。
「 …僕ら人間でいうと、“カネを得る行為”みたいなものであって!『お母さんは残飯が好き』とか、そういうものではない!生殖とか食性とは違う、社会構造に根付いている、代案がないのに破壊するべきでない構造下の基本単位となる行動!そういうこと!怒らないで!OK!? 」
ハーマイオニーは怪訝な顔つきをした。
不快だと感じてはいないが、純粋に理解に苦しんでいるようだった。
ガラハッドは大急ぎで続けた。
「 グリンゴッツの受付をどう思う?両替ならば行ったことがあるだろう?ちょっとびっくりするくらい、態度が悪いよな?マグルのカネの両替、外国からの持ち込み…きっとグリンゴッツの小鬼たちは、僕らのことを勝手に貴金属を捧げてくる生き物だと思ってるよ!小鬼の理屈では、グリンゴッツが発行した通貨が再びグリンゴッツの倉庫に戻ってくるなら、どんなふうに僕らが流通させていようと彼らの財産は減っていない。一貫して彼らのものであり続ける。でも、それでいいじゃないか? 」
ハーマイオニーの表情は変わっていた。
彼女は口を手で塞いで呻いた。
「 まあ!そうなの?そうだったの…!? 」
「 でも別に構わないじゃないか?僕らは上手くやれているよ。小鬼との衝突は、17世紀以来起きていないんだから!価値観が違うからといって、小鬼と人間が手を切ったり付き合い方を変えることは、どっち側のためにもならない。人間と屋敷しもべ妖精も一緒だ。僕らは互恵関係なんだ 」
ガラハッドは起草文を指で弾いて言った。
「 お互い、蔑視しあわずに接すればいいだけ。ひとつの歪んだ二者関係を見て種族全体の問題とすることは、思考の飛躍というやつじゃないか?それに、2シックル程度で篤志家の顔を買えるっていうなら、逆に彼らを蔑む人間が増えるだろうよ。世の中カネを払っている立場になったら、相手に何をしてもいいと思い込む奴は多いんだ。たかが2シックルで、尊厳を売らせてやるなよ。売る気がなくたって、勝手に買ったつもりの奴は出てくるんだから 」
「 …そうね 」
ハーマイオニーは陥落した―――かのように見えた。
彼女は、暗い声で頷いたかと思いきや、ただちにきらきらとした瞳で歌うように言った。
「 そうね…その視点は私には、なかったわ…ああっ、待って―――これって、なんて有意義なのかしら! 」
彼女はごそごそとポケットを漁った。
「 いけない!筆記用具を持っていないわ。第一回会合の記録をつけなきゃいけないのに!起草の段階で、あなたに話せて良かった!今の討論を踏まえて、もっと良い物にするわよ!ガラハッド、ぜひ第二案も見てね!! 」
ガラハッドは引きつった笑みを浮かべた。
なんとかして、次に出してこられる案にもケチをつけて、本格的普及活動を皮切りさせるまい。箱一杯の反吐バッヂを見ると、まさしく反吐が出そうだった。
ああ神様、仏様。俺が一体何をしたっていうんですか。
結構いろいろやってきたから、そんなに言えた立場ではないのですが。
だからってこんなのあんまりじゃないですか。
折角勇気を振り絞ったのに…。
好きな子に告白しようとしたら、“思想”をぶつけられるなんてあんまりだ。
帰寮するや否や、ガラハッドは反吐入り箱をベッドの下へぶちこんだ。