ルシャール・ド・ブルボン大公家は大国フランスに君臨する貴族たちで、かつて欧州魔法界に一大“処刑され”ブームを巻き起こした。その始まりは、死刑といえば車裂きだった時代に、マグルの恐怖を煽る“処刑され”の達人だったジャン・ルイ・ルシャールが、その優秀さによって王姉マリー・テレーズ・ド・ブルボンに惚れ込まれたことに遡る。
ジャン・ルイ・ルシャールの技術に憧れて、一時期のフランスの魔法使いたちは、こぞってマグルに処刑されたがり、いかに反乱者の出現を煽るか処刑を見る者の恐怖を煽るか、生き生きとして死にざまを競いあった。そのなかで、殿堂入りとされているのは、「わざわざその目的のためだけに田舎から出てきた美少女にハニトラされて、浴槽で刺された魔法使い」こと、ジャン・ポール・ミラー。彼は絶頂と共にうっかり本当に死んだが、ゴーストになってなお文筆業に意欲を見せている。我が素晴らしい死の思い出(卑猥だ)を書きおこさせんと、口述筆記の協力者を求めてボーバトンアカデミーをさまよっている。
「 へえ… 」
ハリーは困惑して言った。
これは、ハロウィンから一夜明けた朝の光景である。
ハリーは、大広間で朝食のついでに「教えて」と自分が言ってしまった手前、ハーマイオニーに対して、ちゃんとよく聞きましたよという反応をした。彼は視線を彷徨わせて、不自然にゆっくりと頷いた。昨晩ロンと喧嘩してしまったから、こんなときに混ぜっ返してくれる人がいなかった。
ハーマイオニーは没頭して語っていたが、このあたりでハッと口を噤み、赤くなってコホンと咳払いをした。
「 つ、つまりわたしたち、朝からピープズに水をかけられたくらいで怒っていちゃ駄目なの!よその魔法学校には、もっと厄介なゴーストがいるんですもの。あなた、これ以上は自分で『ボーバトンアカデミーの歴史』を読んでちょうだい 」
「 興味が湧いたら、読むことにする 」
ハリーは暗い声で言った。
ハリーは、先日からボーバトン生たちの中で馬鹿に目立っている人物が何なのかがわかれば、それ以上の興味はなかった。
その女子生徒は、ボーバトンカラーの制服を着ているのだが、足なんかまったく見えないほどスカートが長く、いつも浮いているかのように移動する。なんだかバレリーナみたいな首つきをしているのだが、制帽にはヴェールがついていて、チラッとでも顔が見えた試しはない。
変なの、まだ学生なのに大公妃様か。
道理でマルフォイはおべんちゃらチャラチャラ…。
ハリーは、冷ややかに遠くのマルフォイを見やったあと、チラッとロンのほうを穿ち見た。
十人分ほど離れた位置の席からは、ロンの熱弁が聞こえてきていた。
ロンは、ただいまフレッドとジョージの正面にいて、何だって一通り聞いてくれる彼らに甘えている。昨夜の喧嘩について“有ること無いこと”どころか、ハリーの立場で言うならば、“無いこと無いこと”ぶちまけているのだった。ハリーはムカムカして眉尻をつり上げた。
ロンめ!「ハリーときたら、僕にさえも冴えたやり方を教えてくれないで、また目立つために代表選手になった」だって!?―――「そうじゃない」って昨日言っただろ!!!
「 あいつ、嘘ばっかりだ 」
ハリーはハーマイオニーへと苦々しく言った。
「 僕、ゴブレットに名前を入れていない!それにあいつは、昨日僕に枕を投げつけて――― 」
「 ハリー。それは、もう聞いたわ 」
ハーマイオニーは溜め息を吐いた。
ハリーは、今日も今日とて仰々しいお出ましの大公妃様御一行を遠目に眺めることで、出来る限りロンの話を聞かないようにしたけれども、いつもよりも三倍くらい聴力がよくなってしまっており、カッカして朝食どころではなくなった。「とんでもなく苦い」という顔つきで、ハリーはビールスープを飲み下した。
イライラとハリーは食事を終えた。
「 あいつ、ズルい奴だ!兄弟を味方につけるなんて…―――家族を笠に着ようとしているんだぞ。あいつのやってることは、マルフォイと一緒さ 」
「 ハリー、ロンのしていることは穏当よ。同級生に愚痴を撒き散らされるよりは、ずっといいと思うけど? 」
「 君はどっちの味方なんだい!? 」
ハリーはバンッとテーブルを叩いた。衝撃で少し食器類が浮き、周囲の生徒たちも振り向いた。
ハーマイオニーは唇を突き出して、眉根を寄せて複雑な表情をした。
「 ハリー、言いたくはないけれど――― 」
ハリーは俯いて身構えた。ハーマイオニーは、「わたしはロンの味方よ」と言うのかと思いきや、ある意味それ以上に強烈なお言葉をくださった。
「 ―――今のあなたって、きっと、あなたの嫌いな伯父様そっくりよ 」
ガツンと殴られた心地だ。吐き気をもよおしながらも、ハリーは乱れた食卓をそっと綺麗にした。
ギュッと口を引き結びながら、ハリーは次に泣きつく先を決めて念じていた。
一方そのころガラハッドは、敢えて玄関ホールに留まって大広間に入らず、大公妃付近の気疲れする社交空間を避けて、セドリックがやってくるのを待っていた。そわそわと落ち着かない気分で、ガラハッドは振り仰いで大広間の扉の上の大時計を見た。
( 遅い。まだなのか? )
待っている時間って長く感じる。
ガラハッドは、早くセドリックをつかまえて「おめでとう!」と間近で言いたいのが半分、「昨晩あのあと隣の部屋では、どんなやり取りが交わされたんだ?」と訊きたいのが半分だ。
ガラハッドがその気持ちを語ると、近くにいた生徒たちはこぞって頷き、是非ともそれを聞き出すべきだと主張した。「居てくれ」と頼んでいるわけではないのだが、ガラハッドの近くには多くのレイブンクロー生がいた。
「 ポッターはどうやって巧くやったんだろうな? 」
悔しげに首を振ってロジャーが言った。
「 冴えてるよな。俺もチャレンジしとくんだった…偉大なる先人の犠牲を踏み越えて。老け薬じゃ失敗したはずだ。名前を書いた紙を丸めて、円の外側から投げ入れるのもな。ガラハッド、お前なら、あの年齢線、どう越えたよ? 」
「 うーん、まあ俺なら、どうやら校長が保管してるっぽい生徒全員の出生日情報を書き換える。可能か不可能かは別として…あれって、その名簿と連動する仕組みだと思うんだ。あんまり自信ないけど…俺は、年齢線の攻略法よりも、今は何故ダンブルドアがあの紙を却下しなかったのかが気になる。どう考えたってフェアじゃないし、叩かれるのは自分なのにな 」
「 あれは、出てきたからには却下できないんじゃねえの?魔法契約に縛られたんだろ―――あのとき、もしも校長が出場を認めなかったら、ポッターはひどいめに遭ったんじゃないか?ひどいめってどんなものか、具体的は思いつかないけどさ 」
「 たしかにそういう可能性もあるか… 」
ガラハッドは腕を組んで顎をさすった。
ガラハッドは、正直なところ昨日ハリーが代表選手の一員だとされたことに、全然納得がいっていないのだった。「破れるか破れないかに関係なく、決められたルールは守れよ」なんて、そんなマグルみたいなこと、今更ガタガタ言う気はないけども―――ハッキリ言って、あのハリーにダンブルドアを出し抜く知恵があるとは思えないし、そもそもハリーは“やりたがり”ではないし―――きっと名シーカーだからお調子者の上級生たちに担がれて、アンジェリーナ・ジョンソンあたりにノリで名前を入れられたんだと思うのだ。「だとしたら取り消しが相応しい筈だろ?」と、昨夜からずっとガラハッドは思っている。
目当ての人の姿が見えたので、ガラハッドとロジャーは議論をやめた。
「 おはようセドリック!代表選手選出おめでとう 」
ガラハッドが朗らかに声をかけると、セドリックはにっこりして「ありがとう」と言った。ガラハッドがセドリックに近づいていくと、邪気のない鰯のようなハッフルパフ生たちは、気前よく道を譲ってくれた。“あのガラハッド卿が我らのセドリックを讃えるの図”を、ハッフルパフ生たちは誇らしく眺めた。
ガラハッドは闊達に話した。
「 君は誰より準備していた!選ばれるべくして、選ばれたと思うよ。ホグワーツ代表、気分はどうだ?昨晩の『三校長と四人の選手部屋』は、なかなかスリリングなドラマだったんじゃないか?ボーバトンとダームストラングの校長たち、すっかりキレてたように見えた 」
「 そうだね。でも、そんなに大変ではなかったんだ 」
「 詳しく訊いていいか?ほんの少々、大変だったことって? 」
「 それはね―――僕、あのときは舞い上がって隣の部屋に行った。そしてあのクラムを間近に見て、サインが欲しかったのに、ペンを持たずに行ったことを後悔した。あやうく暖炉の木炭に手を伸ばすところだったんだよね 」
セドリックはキャプテンらしい調子でおどけた。
辺りは軽やかな笑い声で満ちたが、ガラハッドは軽く口角を上げただけであった。ガラハッドは、「ああこれは和ませるために言ってるなあ」と思って、セドリックに対して、ぴしゃりと要点だけを求めた。あまり長く話せるわけではないから、ただちにいくつかの確認をとっておきたかった。
「 セドリック。僕が気になっているのは、ハリーも代表選手だという昨日の発表は、本当にもう覆らないのか?ということだ 」
セドリックは真面目な表情になった。
二人のときのようにガラハッドは続けた。
「 おそらくハリーは、自分は巧くやったってアピールしなかっただろ?『僕、ゴブレットに名前を入れてません』とか言って、不貞腐れた態度で突っ立ってたんじゃないか?それじゃ校長陣も認めようがなかったはずだ。なのに… 」
「 すごいな…そうだよ、彼のとった態度は、君の言う通りだった。彼、自分は応募していないって、何度も言っていた。先生がたのうわてをとったなら、そう言えばいいのに―――… 」
…と、言いながらセドリックはドキッとした。
やめて。君、診療慣れした癒者みたいだな?ズバズバと腹の底を確認してこないで。こんな公衆の面前で…。
あのときに抱いた暗く酸っぱい感情を、セドリックは白状させられそうになった。
「 セドリック、君はこの件、嫌じゃないのか? 」
「普通嫌だろ?」という調子でガラハッドが言ったので、セドリックは声のボリュームをあげて彼を黙らせた。
「 あの、僕は、昨夜こう思ったよ?彼とまた戦えるなんて、素晴らしい幸運だ!彼とは、いずれまた勝負してみたかった。他の誰がひどいことを言っても、僕は彼の参戦を歓迎する 」
ガラハッドは驚いて目を丸くした。セドリックが勢いよく喋ることは珍しいし、彼の面差しや声調には、並々ならぬ思いがあるように見えた。
「 へえ… 」
“因縁の対決”―――というほどの仲かお前ら?
「 そんなにか?相変わらずアツいな、キャプテン 」
ガラハッドは場当たりにそう褒めておいた。
時間を気にして、ガラハッドは再び時計を見た。あと二分もすれば朝のお知らせが始まり、ダンブルドアかマクゴナガルが話を始める頃合いだった。「それじゃあ」とセドリックに挨拶をして、ガラハッドはロジャーと一緒にレイブンクローテーブルへと向かった。
椅子を引いて腰を下ろすときに、少し俯いてロジャーはぼそっと言った。
「 満点回答だったな 」
少し意地悪な響きだが―――同感だ。
ガラハッドは、くいっと眼球だけ動かしてロジャーを見て、そっと忍び笑いで応じた。
まあな、さっきのあの台詞を、心底本気で言っているわけだから、セドリックっていう奴は存在が満点なんだよ。「俺らとは違う」とガラハッドが囁くと、ロジャーはしみじみと首を縦に振った。
チリン…と傾聴を求めるベルを鳴らして、ダンブルドアが話を始めた。
「 おはよう諸君。今日は、ホグワーツの学生総代の選び方について、改めて皆に知らせたいと思っておる 」
ダンブルドアは今日もにこやかだった。
ガラハッドは、近頃ますますあの爺の思考とか神経とかがわからなくて、上座へと身体を向けたものの、胡散臭さで目を細めた。ダンブルドアを挟んで左右に座っている、カルカロフ・マクシーム両校長の雰囲気は冷ややかだった。
歌うようにダンブルドア校長は告げた。
「 今回立候補できるのは、セドリック・ディゴリーとハリー・ポッターを除く、四年生以上のすべてのホグワーツ生じゃ。我と思わん者は、今から48時間のあいだに、所定の書類を作成して、寮監へと届け出なければならぬ。そして480時間のあいだ、名乗り出た者たちには競ってもらおう。480と48時間ののち、すなわち十一月の第四日曜日に、学生総代は決定される。全ホグワーツ生とダームストラング、ボーバトンからいらしている皆さんが、投票によって民主的な決定をくだすことじゃろう。一人一票、直接選挙、秘密選挙じゃ 」
キラキラッと目をきらめかせて、ダンブルドアは詳細の補足を終えた。彼が壇上からひっこんだとき、ガラハッドは「うーん」と腕組みで唸っていた。
なんだ、第二のゴブレットがあるわけじゃないのか。
誰もが袖擦り合うような校内で、選挙だなんて―――人望を数値で表すなんて、非人道的な催しではないか!?けれどもそういった選出方法であるならば、よもやマクラーゲンのような厄介者は当選するまいし、自分とっては有難――――…いや、そんなこともないな。
スリザリンテーブルのほうから拍手が聞こえてきたので、ガラハッドは即刻考えを改めた。ちらりと音のほうを見るまでもなく、ガラハッドは、このことを以前から知っていたドラコが、出馬の意思を表明したのだと察した。
ドラコ・マルフォイは四年生だ。
ガラハッドは、「学生総代は四年生以上」という大会規定の裏側には、ルシウス・マルフォイの暗躍があるような気がした。ファッジ大臣とマルフォイ氏の様子を思い出して、ガラハッドはぼんやりと気分が悪くなった。
( マクラーゲンのほうがまだマシだ。あいつは、面倒くさい奴だけど面倒くさいだけだし、別に純血主義者ではないし… )
誰か良い人が立候補してくれまいか。
ガラハッドは、今年もうパーシーもペネロピーもホグワーツにいないことは、本当に残念だとロジャーに話した。ロジャーも頷いて似たようなことを言い、パーシーではなくアランを推した。
モヤモヤとした気分で、ガラハッドはいつもの友人たちと別れた。一時間目は選択のルーン文字学なので、朝食を終えたら、向かうべき教室が違うのだった。
選挙やセドリックのことを考えていたので、少々ぼんやりと歩いていたかもしれない。もしくはクィディッチで鍛えたこいつの敏捷性は、もはや野生の獅子みたいなものかもしれない。
ガラハッドは、ロジャーたちと別れてからちょっとしか進まないうちに、背後からいきなり腕を掴まれて、強引に立ち止まらされた。振り向くと、犯人はハリー・ポッターだった。彼は、まさに「襲いかかる」といった勢いを持っていたが、その顔つきはいつもに増して子供である。「ハリー!?」と声をあげたガラハッドに、いやにしょんぼりとしてハリーは言った。
「 そうだよ。生憎有名なハリー・ポッターさ… 」
「 また目立っちゃって、拗ねてらっちゃいまちゅのね 」
ノータイムでガラハッドは言い放った。
ハリーは、相変わらず息をするように揶揄ってくるガラハッドにムッとして、「こいつ~!」とひと睨みを放ったが、彼といるところをロンに見せてやろうとして、何も言い返さなかった。
ハリーは、穏やかに(と、本人は思い込んで)ガラハッドの腕を掴んで離さないまま話をした。
「 拗ねてはいない。けど、嫌にもなるよ!僕は、またトラブルに巻き込まれたんだからね 」
「 ああ、そうだな。やはり起こしたわけではなく、巻き込まれたんだな? 」
「 やはり?やはりだって?そうだよ、君はよくわかっている!いつだって、僕はトラブルに向かって行ってるんじゃないよ。常にトラブルのほうが、僕に向かって突進してくる!僕は、何もしていないのにジロジロ見られて、何にもしていないのに、ゴブレットに勝手に選ばれた。僕は何にもしていないのに、ロンのやつ僕を嘘つきよばわり!ねえ君、いい呪いを知らないかな? 」
くしゃっと前髪をかきあげて、ハリーは額を指さして澄まし顔をした。
「 あいつの額にも、僕とそっくりの傷がつくような呪いはないかい?あいつの羨む“傷のある暮らし”ってやつを、一度味合わせてやりたいんだ! 」
「 坊や、喧嘩に杖を使うんじゃありませんよ。デコピンぶちこんでやりな。もしくはグー 」
ガラハッドはいい加減に言った。
ハリーは、お利口に頷くつもりなんてなかったけれど、結果的に黙って頷く羽目になった。続々と大広間から溢れ出てどこかへいく生徒たちの中に、食い入るようにこちらを見てくる男子がいて、その彼と、バッチリと目が合ってしまったのだ。ロンが出てくるのを待っていたのに、ロンじゃない奴が来てしまった。
セドリック・ディゴリーのぽかんとした顔に、ハリーは、無性にムカッとして無口になった。この完璧超人のハンサムさんときたら、こっちが今どんなに大変な状況かなんて、てんで知らないのに違いなかった。
ハリーにとって少し救いだったのは、無神経にも寄ってきて真正面に立ってきたセドリックの後ろを、歯軋り顔のロンが突き抜けて行ったことだ。その姿を目で追って、ちょびっとだけハリーはスッキリした。
セドリックは言葉が出なかった。
ガラハッドは苦笑いして言った。
「 同室と喧嘩したんだってさ 」
ガラハッドの説明はそれだけだ。
ガラハッドは、さっきからハリーとロンとの喧嘩のことについては、「心底どうでもいい」という態度を隠していなかった。どのみち同室って、万年小競り合う宿命だと思ってるし、「勝手にやってろ」以外の感想が湧かないのだ。
それよりも込み入った話をしたいので、ガラハッドは手をひらひらしてセドリックを追い払った―――セドリックは真ん丸な目でその仕草も見た。
ブラッジャー、浴びたみたい、痛い、、、
一秒で一千の言葉をのみこんで、セドリックは一言呻いて去った。
「 …後で聞かせてよ 」
「 OK 」
あっさりとした調子でガラハッドは言った。
( ―――嘘吐き!!! )
セドリック・ディゴリーはそう念じて彼らを追い越した。
嘘吐き、ガラハッド・オリバンダー!
知ってるよ、君は気持ちのいい性格だから、他人の愚痴や相談事を、陰でぐちゃぐちゃ広めたりしない。「さっきは何だったの?」とあとで尋ねたって、必ず忘れたフリして、受け流して笑うに違いないんだ。僕に「おめでとう」と言った口で、ハリー・ポッターに優しいことを言って、そしてまた僕を喜ばせて…!
セドリックの心はぐちゃぐちゃだった。
そんなセドリックと入れ替わりのように、ガラハッドとハリーのふたりは、次の人物の到来を受けた。ハリーを探して追いかけて来た、ハーマイオニー・グレンジャーである。彼ら三人は東棟に向かう橋の手前で、一時間目の始まる直前まで粘って話をした。
「 んもう、あなたねえ! 」
ハーマイオニーは、ボサボサの髪を振り乱して言った。
「 ロンとの喧嘩でしょう?ガラハッドを巻き込むことはないでしょ。わたしはあなたのこと、信じていますけど?それじゃ不足だっていうの? 」
「 でもあいつは、フレッドとジョージを味方につけてる! 」
「 そんなことないわ。わたし、たったいま聞き取りをしてきました!フレッドとジョージは、はいはいってロンの話を受け流している感じよ。あなたは、過剰に身構えすぎているの 」
「 そんなことない。あの二人は、トライウィザードに出場したいと思ってた。僕は、そんなこと本気で思ったりしてないけど、彼らは思ってた…―――彼ら僕をよく思わないに違いないよ! 」
「 出場しようとしていたのは、双子以外に誰がいるんだ?実際に名前を入れに行ったわけじゃなくても、『やっぱり、ホグワーツ代表といえばグリフィンドールでしょう!』みたいな…そういう発想をするグリフィンドール生って、いるだろう? 」
「 アンジェリーナ 」
ガラハッドは「おっ」と眉をあげた。
それみろ、とことん予想通りじゃないか!
ちょっと嬉しくなったガラハッドをよそに、ハリーは苦しそうに続けた。
「 彼女も、ゴブレットに名前を入れていたよ。彼女、自分は選ばれなかったのに、僕に『おめでとう』って言ってくれて―――信じられない。何なんだ、彼女?すっごく悔しそうなのに、多分、心から―――僕がスニッチをとって逆転した時みたいに、『同じグリフィンドール生が出るだけで嬉しい』って、言ってくれるんだ… 」
「 そっか。そっちも良いキャプテンだな 」
ガラハッドは形式的に言った。
内心は「なーんだアテが外れた」であった。遅刻をしたくなかったので、ガラハッドはそれを機にこの会話を切り上げた。
橋を渡ってルーン文字学の教室へと、彼は考えに耽りながら歩いた。
( それじゃあ、誰がゴブレットにハリーの名前を入れたんだろう? )
ここにないものを見据えるような面差しで。
弓を負っていたならば、まさに矢をつがえているところだと、彼は他人たちに想像させることがある。
勘が良さそうに見えるのは、見えるだけだ。
授業が始まった途端に、ガラハッドは教科書の内容以外のことを忘れた。