ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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ガラハッド・オリバンダーの挑戦

 

昼休み、ガラハッドは情報通のライアンから、「この午前中にあった面白いこと」を聞いた。

四年生のハリー・ポッターとドラコ・マルフォイが、魔法薬学の授業で決闘をおこなったらしい。それは、まさに互角の勝負であり、反発しあった呪いを近くの生徒が浴びて、グリフィンドール生とスリザリン生、それぞれ一名ずつが医務室送りになったと。大した歯呪いと鼻呪いだったらしい。

最後の最後まで聞いたマーカスは、ただ一言、「馬鹿だねえ」とだけ言った。

完全に同意する心地でガラハッドも、呆れの滲む声で言った。

 

 

「 あいつら、どこでそんな呪いを覚えてくるんだ? 」

 

 

ガラハッドはマクゴナガル先生に同情した。

彼女は、この一件を耳に入れたら、「んに゛ゃあああ!?」と叫んで虎に化けそうだった。「本校の生徒としてふさわしい行動を求めます!」と、このところ彼女は言いまくっているのだ。

なのによりによって、あの目立つ二人が幼稚な喧嘩をするとは…。

 

さてそんな一件があったので、その晩に現れた告知文たちは、ずいぶんと馬鹿馬鹿しいものに見えた。友人たちと一緒に談話室の掲示板を見つめて、ガラハッドは口をへの字にした。

 

 

~ホグワーツ生徒諸君に告ぐ~

ぼく、ドラコ・マルフォイは、この三大魔法学校対抗試合が公明正大に行われ、一部の特権的生徒の不正が看過されないこと、教師による依怙贔屓が行われないことを望む!ヨーロッパで一番の若い魔法使いを決める戦いは、正々堂々、品格のある振舞いを通して行われ、一切の反則と例外のないようにするべきである!ぼくは、ホグワーツ生の代表として…―――

 

 

…ガラハッドはこの辺りで読むことをやめた。

見慣れない掲示物を前に、チョウは何度か目をこすっていた。彼女は心底不思議そうに、しきりに首を捻りながら言った。

 

 

「 これって、冗談?どこまで本気なのかな? 」

 

 

ガラハッドは「うーん」とだけ応えた。

ドラコ・マルフォイによるこの告知文は、選挙ポスターというよりも領主による下々へのお達しだ。上等な羊皮紙であり、艶のある額縁入りで、字自体はどこか子供っぽいけれど、末筆には優雅な署名があって―――英文の下には仏文と独文まであって、内容に納得できるかはともかく、決して侮れぬ風格があった。

チョウは不安そうにもごもごと言った。

 

 

「 彼、どうしてもう総代になった気でいるの?後半のほう、見てよ… 」

 

「 …他に候補者がいなければ、信任投票ということになる。信任投票で落ちる奴はいないだろう… 」

 

「 う、うーん、どうだろうね? 」

 

 

チョウはマリエッタを引っ張って連れて来た。

マリエッタは、告知文の前に立って一行目を読み始めるなり、間髪入れず「どの口がお言いになってるのかしら?」と言った。

 

 

「 品格ですって。彼、『親ナシ』とか『乞食』とかすぐに言うじゃないのよ 」

 

 

マリエッタは容赦なく言った。「それこそ本当に品格のない振る舞いだわ」と、マリエッタは以前から主張しているのだ。流石に寮外では何にも言わないけれど、彼女はドラコのことが嫌いだ。

ガラハッドは黙っておいたけれども、内心では、「マリエッタと同意見の人が多ければいいのに」と思った。きっと多くの人々は、どうあれ共存するしかない他者たちに対して、彼女やハリーほど強固な好き嫌いを持たないのだが…。

マリエッタはきっぱりと言った。

 

 

「 行きましょ 」

 

「 わたしは、何にも言えない立場なんだよね 」

 

 

チョウはくるりと告知文に背を向けた。

 

 

「 正々堂々は、大事だと思いまぁす。ロジャー、はやく晩御飯に行こうよ 」

 

「 おう。VOTEって、フランス語だとVOTERなんだなあ 」

 

「 お前、見てたとこソコかよ 」

 

 

ガラハッドはホッとして微笑んだ。

西塔階段をくだりながら、とりとめもない会話は続いた。

厳密には階段は寮外だけれども、この螺旋階段はレイブンクロー生以外通らない。スリザリン生の耳を怖れず、のんびりとマーカスが言った。

 

 

「 彼、昼間無関係の子に呪いを当てたらしいんだ 」

 

 

マーカスはマリエッタの横顔に向けて言った。

 

 

「 僕、そういう人がホグワーツ代表になるなんて、あってはいけないことだと思う 」

 

「 そう…ねえ、マーカス。それって、どこ情報なの? 」

 

「 ライアン。ガラハッドも一緒に聞いてたよね? 」

 

「 ああ。まあ、いつものだ―――真偽のほどは知らないな 」

 

「 こないだはデマカセ広められました~。ライアンニュースは、信用厳禁よ。わたし、ダームストラングの船に招待なんかされてません。行けるなら中まで入りたいけど、だぁれも誘ってなんかくれてないわ 」

 

「 なぁんだ。本当に誘われたら俺も連れてって! 」

 

「 もちろん!みんなで押し寄せちゃいたいよね 」

 

 

チョウはにっこりとして全員を見回した。

ロジャーは平然とした態度だ。マーカスとマリエッタが、どんな反応をしたのかは知らない。彼らよりは前を歩きながら、ガラハッドはぎこちなく頷いた。

 

 

( えっ何それ…そんなライアンニュース知らない。“誤報のもとになった事実”が、気になるんだが―――? )

 

 

校内での評判がどうであっても、留学生たちにはわからないだろう。

ガラハッドは、自分の前を歩くチョウの背中に、「危険!グーときどきパーの達人!」とスペロテープで張り紙をしたくなった。

また、こうも深く思った。

ああボーバトン生とダームストラング生たちは、あの告知文を見て、ちょっとどころではなく難のあるドラコのことを、「なんて立派で優秀な人物だ」と思うんだろうな…!

実際、彼の貴族的教養は凄いけれども…!!

大陸魔法界というのは、英国よりもさらに階級社会に見える。純血主義思想というのは、あちらのほうがメッカなのだろうか…。

いろいろなことを考えて、ガラハッドはあまり明るくはなれなかった。

 

 

候補者ドラコ・マルフォイによる告知文は、北棟に続く廊下にも、中央階段を待つ踊り場にも、隻眼の魔女像の台座にも掲示してあった。「あれ?またあるぞ」と思うことが重なりすぎて、ガラハッドはじわじわと動揺した。

 

 

( マジかよ…通常、選挙活動って、「一定の候補者募集期間のあとに、よーいドンでスタート」じゃないのか? )

 

 

ガラハッドは、以前に何かでそう知った気がした。

実際の経験?ないない…。

まったく自信のない知識でしかないから、ちょっと図書室で民主主義についての本を探そうかな。それは、こないだ目に留まってしまった(選ばなかった!)恋愛工学の本よりは、無駄じゃなくて恥ずかしくない選書行動だろう。

ガラハッドはちらりと時計を見た。

 

 

( 出馬を決めた者からPRを始められるなら、早く決めて早く始めたほうが知名度が高まる―――今で約10時間経過…受付期間は、48時間 )

 

 

あと38時間のなかには、寮外に出てはならない時間が16時間も含まれる。やがて辿り着いた玄関ホールにて、ガラハッドは再びドラコの攻勢の速さに驚いた。

 

 

「 わぁお 」

 

 

すぐ後ろでマーカスが囁いた。

立ち止まると渋滞してしまうので、ガラハッドは淡々と大広間の入り口を目指した。そこにはスリザリンの生徒たちが待ち構えていたが、通過しないことには内部に入れなかった。

彼らは、もう組織立って二列に並んでおり、むさくるしい花道をつくっていた。ガラハッドは、そのメンバーの顔に見覚えがあった。全員、クィディッチの選手なのだ。威嚇的な眼光でロジャーが進み出て、左右から憎しみのこもった目で見られつつ、結局何もされないで通過していった。

 

 

「 ドラコ・マルフォイに投票をお願いします! 」

 

 

二番手のガラハッドは捕まってしまった。

エイドリアン・ピュシーが、ちょっと必死の形相で飛び出してきて、手の中にバッヂを握らせてきたのだ。彼はレギュラーへの復帰を賭けて、ドラコへの忠誠を試されているんだろう。「セドリック・ディゴリーを応援しよう」と書いてあるので、ガラハッドはそのバッヂを受け取ってしまった。ところがそれは手の中で、いきなり「汚いぞポッター」へと変わった。

 

 

「 へっ?え!? 」

 

 

受け取ってしまったものはしょうがない。

ガラハッドは、ズボンのポケットにバッヂをねじこんで、まるでティッシュでも受け取ったような顔つきをした。急いで後ろにいるチョウのことを見やると、彼女はニヤニヤと三人がかりでバッヂを渡されていた。

一つひったくって、チョウは可愛い声で言った。

 

 

「 これ要らな~い 」

 

 

ロジャーはさっさと席を確保している。

チョウは、にっこりしてガラハッドに寄ってきて、有無を言わさぬ目になってこう言った。

 

 

「 あげるわ 」

 

「 なんで俺に渡すの!? 」

 

「 捨てといてよ 」

 

 

チョウは「汚いもの触っちゃった~」の態度である。「お前なあ!?」と文句を言いながら、ガラハッドはさっきとは反対のポケットにチョウのぶんを仕舞った。

ロジャーは、困り顔のマーカスからバッヂを見せられると、「ダサい」と一言簡潔に言い放った。ガラハッドは、ロジャーがそう断言するのは目に見えていたから、彼はバッヂを渡されずに済んだのだと思った。

ピアスをいじりながらロジャーは言った。

 

 

「 スリザリン対グリフィンドール。明日はどんな喧嘩が起きるかな? 」

 

「 鼻、歯…と来たんだ。思うに、次は髭呪いが飛び出す 」

 

 

ガラハッドは座り込みながら言った。

「ハッ」と、ロジャーもガラハッドにつられて冷笑した。

 

 

「 それじゃ、俺はケツ顎呪いに一票だ 」

 

「 しゃくれかもかしれない 」

 

 

ガラハッドは平然と言った。マーカスは耐えきれずに笑った。

マリエッタがあまりに何も言わないので、チョウはきょどきょどと彼女を窺っていた。目からX線でも照射中みたいに、マリエッタは、じっと手のなかのバッヂを見つめていた。自分に視線が集まったと理解して、彼女は、ぽつぽつと考えていることを話し始めた。

 

 

「 ダービッシュ&バングズ魔法用具店って、後ろに小さく書いてあるの 」

 

 

マリエッタは留め金の下を指さした。

 

 

「 昨日の今日で、特急注文をかけたんだわ。こういうのって、いくらで出来るのかしら… 」

 

 

ガラハッドには見当もつかなかった。

とりあえずこの応援しよう/汚いぞバッヂに比べたら、ハーマイオニーによるSPEWバッヂは、小さくてギラギラしていなくて、今ならば可愛く見えることだろう。あふれる手作り感だって、愛嬌だったと思うな。カネに物を言わせる選挙活動って、よくないと思うんだ…。

 

 

 

どうしたものかと放心して、ガラハッドは空に見える天井を眺めた。

その日は、それで終了だった。

 

 

 

 

終了だったっていうのは、その日はそれ以上何もしないで過ごし、「何もしなくても大丈夫だ」と、自分に信じこませたということで―――…翌昼になってガラハッドは、昨夜の自分の怠惰と逃避精神の結果を、ぎょっとする形で突きつけられてしまった。

 

ハーマイオニー・グレンジャーが、総代選に出馬したのである。

 

彼女は、燃える心を持って立ちあがり、グリフィンドールのクィディッチキャプテンであるアンジェリーナ・ジョンソンの推薦を受けた。そのことは、夜を待って、夕食の席でダンブルドアからの発表を聞くまでもなく、存分に知ることができた。

 

 

『 グリフィンドール四年生、ハーマイオニー・グレンジャー! 』

 

 

彼女は、手ずからマグル界の電光掲示板のようなポスターを作り上げて、マルフォイによる告知文を霞ませるように城のあちこちに貼った。どこの何を参考にしたんだか知らないけれど、彼女のやり方は独特だった。彼女は、実にお見事な魔法の技術によって、有り物を改造して使用し、授業中も廊下に吼えメールの親戚を飛び回らせた。音源は絶え間なく移動していくから、あまり何を言っているかわからないけど、打倒マルフォイの気迫が、どの吼えメールからも滲み出ていた。

 

 

『 ハーマイオニー・グレンジャー!ハーマイオニー・グレンジャーです!グリフィンドール四年生、ハーマイオニー・グレンジャー!わたしは、真の公正公平とは何か、運営を通して示していきます!縁故採用、断固反対!!ありとあらゆる差別と、差別者の既得権益を許すな!すべての労働負担者に福祉を!この精神によって、我々は今こそ寮閥を超えるべきです!ハーマイオニー・グレンジャー!ハーマイオニー・グレンジャーです!!! 』

 

「 …はぁ 」

 

 

授業開始直後にいきなり中断を余儀なくされ、フリットウィック先生は困り顔だった。“羽ばたく吼えメール”が近くを通るあいだ教室には、なんだか弛緩した空気が流れた。

 

 

『 特権的生徒による不正!この言葉を受けてホグワーツ生が、ただちに連想する人物は誰でしょうか!?ホグワーツ生ならみんな知っています!過去三年間における寮対抗クィディッチで、最も多く、最も汚く、最も姑息で陰湿な反則を重ねたチームはどこ!?―――汚いのは、あんたよ!マルフォイ!! 』

 

 

ガラハッドは初めのうち、どうにかして気にしないことにしようとした。うわぁなんかグリフィンドール生たちの、赤いネクタイってソッチの意味に見えてくるなあ…。バッヂの流行に傷つく友人を、優しい彼女は見ていられないのだろう。ガラハッドは、その予想を強化しようとしたが―――「この子って、こないだ歯呪いをかけられた子らしいよ」とジルに囁かれて、とうとう堪えられずにガクッときてしまった。

 

道理で、途轍もなく気合が入っているわけだよ。

思いっっっきり、私怨がこもっている…。

 

気だるくボールペンを回しながら、ガラハッドは深々と溜め息を吐いた。“羽ばたく吼えメール”の騒音を聞き流して、ガラハッドは窓の外を眺めた。

 

嗚呼、遠くの山々を見てみると、峰にはもう霜が降りている。たった数か月前の出来事が、遠い過去のように思えることってないか?「このペン、羊皮紙にもすらすら書けるな」と文具店で試し書きをしたとき、「本当だ。わたしも買おうかしら」の一言で舞い上がった、あの夏はどこへ消えたんだろう―――「あなたたちペンがお揃いだね」と、今は人に気づかれたくないかな…。

 

ガラハッドは、そっとボールペンを筆箱に仕舞いこみ、代わりの羽根ペンを取り出した。

まだ板書を写している友人たちを見回して、彼はもう一度溜め息を吐いた。

 

 

( 怒ったら拡声装置でアジる女子って…どうなんだ?キツいんだが?普通にぷんぷん怒ってくれよ )

 

 

ほら、たとえばチョウみたいにさ。

斜め前の席では、今しがたノートをとり終えたチョウが、ちょうどぴょこんと上体を起こしたところだった。彼女は、両手で両耳を塞いで、ひらひらとポニーテールを振った。水から上がってきた人魚みたいに、彼女は素直に奔放に言った。

 

 

「 うるさーい!もうやだぁ 」

 

 

ふつうの女の子って、こういうものだ。

ガラハッドは真剣にそう思い込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ、自分はどうしようか?

ハーマイオニーの出馬は、いわば導火線に火がついたようなもの。

ハーマイオニーは、もしも今度図書室や廊下で出会ったら、また例のあの信じきった瞳で、「あなたは私の味方よね」と熱っぽく語りかけてきて、そして眼差しの百倍厄介な唇で、無茶苦茶な要求をしてくるに違いない。彼女は、永遠のわんぱくお嬢さん。「私の応援演説人として、あなたも選挙活動に参加してちょうだいよ」くらいは、簡単に言ってくれやがるのである。そのうえゲバ棒を振り回すくらいの勢いがないと「やる気あるの?」と大真面目に言ってきそうだ。

 

ガラハッド・オリバンダーは自嘲する。

 

ああそうだよ、ハーマイオニー。

僕は、大好きな君に頼られたのでは、どんな無茶でも断れない。

君は、僕になんかに興味ないだろうに。

なのに、僕は散々勝手に期待して……クソほど振り回されてきたと言っても過言ではない。

これ以上、間抜けな目に遭ってたまるか!

 

終礼のベルが鳴ると同時に、ガラハッドはバーンと机に手をついて立ち上がった。

手早く荷物をまとめると、ガラハッドは階段状になっている教室を駆け下りて、フリットウィック先生のもとへと行った。ガラハッドは、自分も学生総代を決める選挙に出たいから、所定の立候補用紙が欲しいと言った。するとフリットウィック先生はキャッと叫んで、卓上でタップダンスのような動きをした。

 

 

「 き、君が―――よくぞ来ました!よくぞ来てくれました! 」

 

 

フリットウィック先生は両手を広げた。

 

 

「 きみ、ホグワーツの真なる代表者は、大昔からレイブンクローですよ!素晴らしい!君が、自ら―――キャキャキャキャ! 」

 

「 先生、その意識を出したんじゃ勝てないと思うんです 」

 

 

ガラハッドは教室から出て行く生徒たちを穿ち見た。今出て行ったケイティやアンドリュー…――――彼らグリフィンドール生は、いくらこちらと関係が良くったって、ハーマイオニーに投票するのではなかろうか。特にケイティは、絶対そうするだろうと思う。彼女はクィディッチを愛していて、愛寮心が強いからだ。アンジェリーナ・ジョンソンによる後援は手堅いだろう。

とはいえ、“崩しどころ”はゼロじゃない。

ガラハッドはフリットウィック先生をじっと見つめて、ひそやかに自分の見解を語った。

 

 

「 先生、僕たち、団結しても全校の四分の一しかいません。ですから、まずはハッフルパフを潰さないと 」

 

「 ほっほう!詳しく聞きたい話ですね! 」

 

「 彼らは人数が多いですから、候補者が出なければ票田になる。ボーバトンとダームストラングは…どうかな。ゴブレットの一件で、彼らはホグワーツの体制を信用していない気がしますが…でも、その、ボーバトン生のあいだでは、僕は比較的有利かもなあって… 」

 

「 兵は神速を貴ぶのだよ。思い立ったら、すぐ行動!必要書類を渡しましょう。わたしの執務室へと、おいでなさい!うんにゃ、わたしが、君に連れて行ってもらおうか 」

 

 

フリットウィック先生はにっこりと笑った。とても悪戯っぽい瞳で、フリットウィック先生は低学年用の教具箱のほうを指さした。

そこには鏡があった。十分な大きさがあって、階段教室の下部のほうと共に、ここにいる我々も映っている。けれどもガラハッドは、口ごもって先生を見やった。

 

 

「 えーっと、ふたり、同時にですか? 」

 

「 できないかね?わたしは、こんなにもコンパクトサイズなのに? 」

 

「 あの、そこ、返事しづらいんで…。えーっとでは、失礼ながら… 」

 

 

ガラハッドはそっと小さな先生の腕をとろうとした。

 

 

「 くだけた物言いになりますが、ご協力お願いします。Pull up if i pu(僕が引っ張ったら 引っ)… 」

 

「 まだ躊躇いがあるね?こうだよ―――Rise to vote siR(決起せよ 卿)!! 」

 

 

バシッと先生はガラハッドの肘を叩いた。

笑顔で発破をかけられて、驚天動地のはじまりだ。フリットウィック先生の鏡言葉は、ガラハッドのそれよりも力があった。

「えええええ先生すごぉぉぉい!?」と、目を剥いているあいだに移動終了!

完全に主導権を握られて、気づいたらガラハッドはフリットウィック先生のお部屋にいた。本日のフリットウィック先生のお部屋では、カップケーキまでもが踊っていた。呪文学の教授、おそるべし。所定の書類セットをいただいて、ガラハッドは何度もお礼を言った。

 

 

 

 

 

一刻の猶予もないように思えた。もしも先にハッフルパフから誰かが立候補してしまったら、今考えている作戦は崩壊する。

 

次の占い学の授業で、ガラハッドは過去最高に堂々と内職をした。教室を巡回中のトレローニー先生は、とっても何か言いたそうな顔つきで、こちらのことをジッと見てきた。彼女は、こちらが応募理由書をでっちあげているのだと気づくと、一瞬嬉しそうな顔つきをした。しかしすぐにそんな俗っぽい表情をどうにかして、トレローニー先生はしゃなりとショールをたくしあげた。彼女は、霧の奥から響くような声で、態度の悪い学生へと注意をした。

 

 

「 おお、あなた…およしなさい… 」

 

 

トレローニー先生は虚空を凝視して言った。

 

 

「 “死”が、ますます迫っておりますわ…おやめなさい…すぐにおやめなさい。あなたは、いずれ自身の行動を悔やむことでしょう… 」

 

「 内職の結果死ぬなんて名誉です 」

 

 

ガラハッドは羽ペンを走らせながら言った。

 

 

「 きっと、人類史上初なので。先生、僕はやることはちゃんとやってますよ。星図の作成は、もう終わりました 」

 

 

トレローニー先生は黙った。

 

放課後になるとガラハッドは、セドリックにとても短い手紙を出した。会いたい。夕食のとき、早めに大広間に来てくれ。僕がハッフルパフのテーブルに行く―――たったそれだけだ。

 

余談だがセドリック・ディゴリーは、こんな簡明直截な文だからこそ嬉しくって、嬉しくって、嬉しくって、これを三度読み返した。顔自体は毎日見る機会があるのに、突然改めて「会いたい」だなんて、どうしたんだろう!?―――そんな喜び方だって多少はするわけだが、「昨日の今日」という気分であるセドリックは、「これはまた疲れるな」と直感して、先に気が塞いでしまった。いま、舞い上がって幸せな想像をすればするほど、後で些細なことでダメージを受けるのだ。

 

 

( ガラハッドは、一人で来るわけじゃないのかも。彼は、ハリー・ポッターを連れてくるかも…もしくはロジャー・デイビースとか… )

 

 

セドリックは自室でそう念じた。

談話室や寮外のどこかにいると、女の子たちに「サインして」と迫られるので、ここしばらくセドリックは引きこもり気味だった。クィディッチグッズで溢れた部屋で、セドリックはマインドコントロールへと取り組んだ。

 

 

( 落ち着け…ガラハッドは、僕のこと絶対に“そういう目”では見ていない。ただ僕には心を許してくれていて、無邪気なとこを見せてくれるだけさ… )

 

 

それって、残酷なことだと思うのだ。

きみ、僕をこうして舞い上がらせるなら、せめて今夜騙しきってくれないか。たった一晩で構わないから、無茶苦茶に浮かれきらせてくれよ。「一晩だけじゃ嫌だろ?」と意地悪に嗤う―――そういう駆け引きの巧そうな彼の、あのたくらみ顔がまた好きで困る。いきいきとして勝負事をしているとき、彼は最も魅力的だ…。

 

 

――――…。

 

 

…と、いうセドリックの懊悩なんか微塵も知るはずもなく。

一方そのころガラハッド・オリバンダーは、ふくろう棟の一郭でガッツポーズをしていた。

 

 

「 よっしゃ! 」

 

「「「 交渉成立!!! 」」」

 

 

ガラハッド、フレッド、ジョージの三人は、輪になって一斉にこぶしを突き合わせた。リズムに乗ってその手を突き上げて、フレッドとジョージはおどけたステップを踏みはじめた。寝床ではしゃぐ生徒たちに、フクロウたちは首を竦めて迷惑そうにした。

大きな声でフレッドは言った。

 

 

「 実は、俺たちも出馬するか迷ってたんだ!でも、どっちが候補者、推薦人になるか決まらなくてさ 」

 

「 バグマンの件もあるしな。あいつにとっちゃ、俺たちの存在は厄介だし、立候補したら大会実行委員としてつつかれるかもだし―――あっ、この件、ロンとジニーには内緒な?ハリーにも!あいつら、す~ぐママにチクるんだから 」

 

「 OK、お前らも親父に余計なこと言うなよ?僕はバグマンとは違うって、ちょっと証明しとこうか。ほら見ろ、ここにしっかりと書いてある!――――選挙後発足する学生団体に与えられる活動資金は,諸備品消耗品費人件費込みで,年間1000ガリオンである 」

 

 

ガラハッドは要項の一部を指さした。フリットウィック先生からいただいた書類セットを、ガラハッドは封筒ごと全部持ち歩いていた。頭をぶつけあうほど近くに寄って、フレッド、ジョージ、ガラハッドは細かい文字を追った。

ガラハッドは思いつくままに喋った。

 

 

「 実行する企画次第では、やりくりの必要な金額だよな?生徒ひとりあたま、たった1ガリオンってことになるもん。それもボーバトン生とダームストラング生の人数を除いて 」

 

 

1000ガリオンと記されているところを、ガラハッドは気楽に中指で弾いた。

経営者の風格を感じて、フレッドとジョージは互いに顔を見合わせた。シンメトリーの動きで、彼らは拝む仕草をしながらまたガラハッドを見た。

腹立たしそうにジョージが言った。

 

 

「 アンジェリーナのやつ、勝ったらカネが出るなんて話はしなかったよ 」

 

「 予算だぞ。賞金じゃないから、別に自由にできるカネではない 」

 

「 な、俺たち、親善クィディッチ大会とかやりたいんだよ。頼むよ。君が勝ったら、俺たちも企画運営に加えて! 」

 

 

熱っぽい声でフレッドが言った。

ジョージもそれに頷いたのを見てから、ガラハッドはニコッとしてふたりへと言った。

 

 

「 その言葉、ハーマイオニーとアンジェリーナにも言ってないか? 」

 

「 うげぇっふ 」

 

「 でもでも!ハーマイオニーたちとさっきの約束はしてないから! 」

 

 

フレッドは手を振って強く弁明した。

ジョージは素早く何度も頷いた。

 

 

「 頼む!俺たちリーも連れてきて、一緒に応援演説をするよ。絶対説得してくるから、もう一声頼むよ!選挙活動と営業、一緒にやりたい!やりたいけど、名前だけ知られて売れる商品がなかったら意味ないだろ?俺たち、ママとバグマンのせいで、本当に今すっからかんなんだ 」

 

「 今がチャンスなのに、何にもできないんだ。今年は、例年よりずっとマーケットがでかいっていうのにさ! 」

 

「 …ならば、こういうのはどうだ?君たちウィーズリー・ウィザード・ウィーズは、僕が当選した場合、僕が代表を務めるチャリティー内部の独立採算組織となる。僕が予算内から君たちの資本金を全額出資する代わりに、()()()()()()君たちがあげた利益は100%、全体の運営費にあてる。出資したぶんは、絶対に稼いでもらいたいな―――僕が質にとるのは、君たちのブランド名だ。ウィーズリー・ウィザード・ウィーズが、『トライウィザード・ソサエティーの運営費を食いつぶしてショボい大会にしたブランド』となるか、『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズなくして、トライウィザード・ソサエティーの賑わいはなかった』と言われるまでに育つか―――それは君ら次第ってことだ。いいか?僕は後者のほうに賭けてるんだからな?期間中の売り渋りとか収益隠しとか、せこいことはするなよ?どのみち君たちはこの大会中に、バグマンに払うもん払わせるんじゃないか。大会終了直後の資金はあるんだ。ならば期間中は、国内外にとことん名前を売れよ 」

 

「 涙出るぜ。こんなビックチャンスないや! 」

 

 

フレッドは噛み締めるように言った。

 

 

「 震えるぜ。やるさ。やるに決まってる! 」

 

 

ジョージは何度も胸を叩いた。

 

斯くしてフレッドとジョージは、ルード・バグマンに手紙を出そうとしたときにガラハッドと偶然会ったことをきっかけに、候補者ガラハッド・オリバンダーの応援弁士として、来る480時間を戦うことを誓った。三人は握手をして別れた。実のところガラハッドは、夏場に頑張って働いたので、総代に当選することで予算執行権を得なくても、フレッドとジョージに必要な初期費用と半年運転資金くらいは出せるのだが、それはおくびにも出さないで、次なる協力者を得るために行動した。

大事に封筒を抱えて、ガラハッドは入り組んだ城内を歩いた。

書きかけの出馬表明書の“仕上げ”には、推薦人の署名が必要だった。

 

 

「 くっくっく… 」

 

 

ガラハッドはあくどい笑みをこぼした。

想定外の場所で双子と出会うことができて、予想外に計画が早く進み―――不審であること極まりないが、少々気持ちが昂ったのである。

順調にすべりだしたつもりのドラコ坊ちゃんよ、見ていろ、いまに泡を噴かせてやる。

フレッドとジョージを引き込めたのだ。ハーマイオニーも、いまに足場を崩してやろう。

さあ、頼む、あとは時間内に、他の出馬者が現れないことを祈るばかり!特にハッフルパフから、新たな候補が立たないことを願うばかり!

 

そう、名づけるならばこの作戦は、「例のバッヂをつけているハッフルパフ生全員、ドラコ・マルフォイ支持からこっちに寝返らせよう作戦」だ。ドラコ・マルフォイの推薦人は、いつも連れている二人の男子のどちらかの様子。一方こちらの推薦人は、セドリック・ディゴリー!セドリック・ディゴリーにこそ、我が推薦人となってもらいたい!

 

セドリック・ディゴリー()()応援()()()ならば、「セドリック・ディゴリーを応援しよう」の“本物”は、この俺だよな。

 

穏やかに頬を弛めながら、ガラハッドは容赦ない企てをしていた。

だって、「いつか亡命を強いられるかも」なんて、未来に怯え続けるのは嫌だ。「そのときは助けてもらおう」なんて、貴婦人に自分を売り込むのも嫌だ。

社交界デビューを飾った日の心を、ガラハッドは思い出していた。

俺も夢を見るよセドリック―――いつか、ルシウス・マルフォイを突き放せる力を持って…クラウチのような男に、怯えないで済む地位を築いて…そして、世界中のどこへでも、またワールドカップを観に行こう。ハーマイオニーへの恋が実らなくったって、彼女に口走った決意は、変わらない。十年、二十年後の英国魔法界は、今よりも少しマシな社会であるべきだ。

 

 

 

 

 

その夕、大広間は普段以上に賑やかな場所となった。

 

ハッフルパフテーブルの一郭に交ぜてもらって、日頃そこまで話さない生徒たちと世間話をするなかで、ガラハッドはまだ来ていないセドリックが、内輪ではセドと呼ばれていることを知った。

やけに社交的な今日のガラハッドを、ハッフルパフ生たちはまったく警戒していなかった。彼らは、あまりにも真っ当かつ穏やかに生活しているので、夜な夜な罵り合いながら賭けポーカーなんかしないし、幸か不幸かは別として、“カモにされた状態”を知らない。

騙しているつもりもなくガラハッドは、出来る限り感じよく振舞っていた。

出入口にセドリックの姿が見えた時、マース・ヒューズが手を挙げて言った。

 

 

「 ようセド、ファンが来てるぞ! 」

 

 

ガラハッドもセドリックに手を振った。

セドリックは、入り口のところで「応援しよう」のバッヂを配っているゴリラたちに、ライバルチームのキャプテン兼シーカーとして、応援されている筈ながら謎の威嚇行動をされ、困惑しているところだった。彼はおずおずと丁重な手の動きをして、バッヂの受け取りを断ってからやってきた。

そうして近づいてきたセドリックのことを見上げて、ガラハッドは、「彼は妙に緊張している」と思った。ガラハッドが一人でいつも自分の座っている席にいたので、セドリックは、何度も瞬きをした。「ファンだぞ」とからかったヒューズに乗っかって、ガラハッドは可愛いチョウちゃんの物真似をした。

 

 

「 お願い。サインください! 」

 

 

彼女はこれのブルガリア語版を練習している。

散々ポージングごと見ているので、ガラハッドはかなり上手く演じた。

どっと周囲は笑ったけれども、セドリックは頭が真っ白であった。「どうかな?どうかな?」と周囲に訊いてまわるところまで、ガラハッドは完璧に再現してのけた。緊張しちゃう!変じゃなかった?キャ~~~!このとき、手は頬っぺたにそえて、足はジタバタするべし。

隣のテーブルで自分の真似をしているガラハッドに気がついて、チョウ本人は顔を真っ赤にした。彼女は、振り返りながら立ち上がると、ずかずかと笑いの輪の中に入って、べしっと大きく腕を振るった。

 

 

「 何やってのよ、馬鹿!恥ずかしいじゃない…ッ 」

 

 

ガラハッドは笑いながら何発か防いだ。

彼が一発くらわれてやると、彼女はむくれ顔のまま帰った。

 

マース・ヒューズは快活に、ガラハッドに向けて「お前、面白い奴だったんだなあ!」と言った。ベアトリス・ヘイウッドはげらげら笑い、「Sir、かわい~ぃ」と本人も可愛い声で言った。裏声で首を傾けながら、ザカリアス・スミスとアーニー・マクミランは、「くださーい」としつこく繰り返した。セドリックは、彼らのことはもう相手をしていられなかった。

 

いいんだ、寮内はいつもこんな感じだし、みんな悪気なんてない―――…ガラハッドにも、悪気なんかないと思うけど。

自分ってば、いま、何を見せつけられたんだ?

セドリックは鼻の奥がツンとして、しばらくは何も言えなかった。

 

 

「 …ごめん、うまく合わせられなくて 」

 

 

やがてセドリックはぽつりと謝った。

一番笑わせたい相手がそんな調子なので、ガラハッドは慌てて顔の前で左右に手を振った。

 

 

「 いいやこちらこそ、ごめん。変に騒いだ。疲れてる?どうしたんだ、セドリック 」

 

「 疲れてはな…いや、疲れてるのかな。そうだね、僕は疲れてるのかも… 」

 

「 モテてモテて大変だって、聞いてるよ 」

 

 

ガラハッドは苦笑いを浮かべた。肉食系女子に迫られたときの、セドリックの反応の想像がついたのだった。

セドリックは少し俯いて思った。

 

 

( 誰だよ、ガラハッドに余計なことを吹き込んだ奴は…!? )

 

 

正解は『全員』である。

ガラハッドは、テーブルの上の封筒から特にこれという書類を取り出すと、その右側に羽ペンを置き、椅子から立ち上がって背側へとまわった。ガラハッドは、セドリックへと席を勧めながら、今度は真剣な口ぶりで言った。

 

 

「 真面目な話、僕も君のサインが欲しいんだよ 」

 

「 ふぅん… 」

 

「 からかって言っているわけではない 」

 

 

セドリックは黙って目を瞑った。

何だよそれ…さっきの、僕を虚仮にしたわけじゃなかったの?そんなに、気安く触らないでくれないかな…。

セドリックが座ろうとしないので、ガラハッドは、一瞬彼の両肩を抱くような動きをした。セドリックは、肩を押されて座らされたあとは、背後から首筋に指を沿わされた。素手で素肌に触れられて、わっと驚いて熱くなるのと、痛い思いをするのはほぼ同時だった。

 

 

「 いたたた…! 」

 

「 凝ってるなあ。疲れてるんだと思うぞ 」

 

 

緊張しすぎて硬いだけだけど!?―――セドリックは吼えないでおいた。

どうぞ…どうせならもっと蹂躙してください…肩揉みよりは、その、またさっきのがいいかな…。

別にマッサージ師ではないガラハッドは、ある程度のところで、あっさりとセドリックを労わることをやめた。

 

 

「 推薦人をやってほしいんだ 」

 

 

ガラハッドはぐいぐい用事を推し進めた。

 

 

「 推薦人っていうと? 」

 

 

どぎまぎしながらセドリックは繰り返した。

それからあとのセドリックは、さながら背後に立つガラハッドの操り人形だった。ガラハッドは、セドリックの後ろに立ったまま、ひょいと腕を伸ばして卓上の紙面を指さし、特殊な角度で振り向いてセドリックのことを見た。ガラハッドはてきぱきと進めた。目を見て頷いて話を聞いていたものの、セドリックは、全然説明の意味がわからなかった。彼は、ガラハッドの示すがままに視線を誘導され、規約を理解したことにされ、羽根ペンを持たされただけだった。

照れも揺らぎもない口調で、ガラハッドは、改めてセドリックの挑戦を讃えた。

 

 

「 セドリック、君が場当たりに目立ちたくて炎のゴブレットに名前を入れたんじゃないのは知ってるよ。あれが設置される前から、ずっと研鑽していたこともな 」

 

 

セドリックは生唾をのんだ。

頷くのは恥ずかしいけど、認められるのは嬉しかった。

それでも、もしも推薦人の枠が二名だったら、セドリックは、「もう一人は誰に頼むんだい?」と訊ねて、あとで自己嫌悪するところだった。たった一人分の枠を見つめて、セドリックはまた鼻の奥がツンとした。

 

 

「 僕は、大会を通して君をサポートしていきたい 」

 

 

淡々とガラハッドは言った。

 

 

「 君は挑戦した、僕も挑戦するよ。君を応援しているから、僕のことも応援してほしいな、と 」

 

 

ガラハッドは流石に恥ずかしくて笑った。

辺りから視線が集まっていた。間近にいるヘイウッドは「まあ!」と小声で叫んだし、ヒューズにスミス、マクラミン、フレッチリーらは、にやにやして成り行きを見守っていた。

多くの観衆がいることを踏まえて、ガラハッドは劇的な友情を演出した。人は物語が大好きで、それに参加したい生き物だと思うから。

『セドリック・ディゴリーとの熱い友情によって、ガラハッド・オリバンダーは出馬した』―――そんな風聞よ駆け巡れ!さあさあ、だ れ が この“新伝説”のあとに、新たに出馬することを決めるんだ?票は割れ情勢は読みにくくなるから、これ以上の候補者は要らない。ハッフルパフのみなさん!この美談に感動して、さも善行のように僕に投票してくださいね―――そんなクソみたいな手品を仕掛けているときほど、ガラハッド・オリバンダーという奴は溌剌としている。

 

夢遊病のようにコクコクと頷いて、セドリックは力を込めてサインをした。

たとえ陶酔していなかったところで、彼は同じ行動をとったことだろう。

望み通りセドリックは、その後一晩浮かれきることになった。

 

ふたつのサインが並んだ出馬表明書を、ガラハッドは気の引き締まる思いでみつめた。

 

 

 

 

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