ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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選挙戦略

 

「言ってくれたらよかったのに」と、マリエッタ・エッジコムは小さな声で言った。「決めたのは今日の午後だから」と、ガラハッドはとぼけた顔で返した。

 

賑わいのある大広間を後にして、ふたりで暗い廊下を往く時のことである。ロジャー・マーカス・チョウの三人は、あるとき不思議な視線の交わし方をしたっきり、黙ってせかせかと食事をして、早々に寮へと帰っていった。するとたったふたりになった帰路では、西塔階段に着くまでを待たずに、ちょうど人の少ないところを狙って、マリエッタが「言ってくれたらよかったのに」と言ったのだ。

その責めるような響きに、ガラハッドは「やはり」と舌打ちをしたくなった。

ガラハッドは、即座にクールにマリエッタへと返事をしたものながら、内心は顔を歪めないように集中し、表情づくりに苦心していた。あんまり話したくないガラハッドを、マリエッタは真剣な顔で見上げて言った。

 

 

「 どうして、立候補する気になったの? 」

 

「 別に。魅力を感じたからだよ。何か意外だったか? 」

 

「 意外…そうね、意外だったわ 」

 

 

彼女はこちらを見ることをやめた。壁の肖像画に話しかけられても無視しているし、これは何かを考えている顔だ。ガラハッドは強く身構えた。まどろっこしいことを言い合っても、不毛だと思った。

ガラハッドは、二三歩大股で前に進み出ると、ズボンのポケットに手をつっこんだまま、くるりと振り返ってマリエッタと対面した。ガラハッドの質問の声には、少し威嚇的な色が滲みだしてしまった。

 

 

「 どうした?君も、総代選に出るのか? 」

 

 

まったく顔色を変えないで、マリエッタはクールに答えた。

 

 

「 そうね。もしも明朝までに誰もレイブンクローから出なかったら、自分が出ようかと思っていたわ。フリットウィック先生もお人が悪い。わたし、さっき書類セットをいただいて―――部屋に置いてあるの。今夜、読むつもりでいた。だって今いる候補者たちは、どちらもホグワーツ代表にふさわしくないと思ったのよ 」

 

「 ふぅん… 」

 

「 けれど、もうそのつもりはないわ。レイブンクローから二人も候補者が立ったら、票を食いあってしまうし―――それに…わたしは、実を言うとずっとあなたに立候補してほしかった。あなたは、そういうことをする人じゃないと思っていたから、望まないことを勧めるべきじゃないと思っていたけれど―――あなたが、最もふさわしい人物だと思うわ。わたし、本当は自分が立候補するよりも、立候補したあなたを支えたかったのよ 」

 

「 ―――…? 」

 

 

ガラハッドは困惑して動きを止めた。

物音がやんだのを聞きつけて、ロジャー、チョウ、マーカスの三人は、丁字路の奥で口に手を当ててニヤニヤした。いよいよ大事な展開が、このあと待っていそうな予感ではないか!上からロジャー、マーカス、チョウの順で、三人は石の壁に張りついて、そうっとガラハッドの背側のほうから、ガラハッドとマリエッタのことを覗いた。彼らは、ただいま互いに向かい合って、互いに首を傾けて、じっくりと静かに見据えあっていた。

にわかに信じがたいことを多く聞いて、ガラハッドは怪訝さを隠していなかった。

 

 

( 何だそれ…そんな都合いいことってある? )

 

 

ガラハッドはマリエッタの表情を観察した。

彼女、佇まいが堅くて真面目だから、ちょっと冗談がわかりにくくて、いきなり「嘘よ」とぶっこんでくることがあって、それが逆に面白いキャラなんだよなあ…。今のって、嘘?本当?

 

姿を消した三人のことも、ガラハッドはずっと気になっていた。平気な顔をしていたけれど、ガラハッドは夕食中もずっと祈っていたのだ。

嗚呼どうかあと半日のうちに、新たな出馬者が現れませんように、と!

折角ハッフルパフ生のうちに味方をつくっても、候補者が乱立したのでは、票は割れ情勢は読みづらくなる。その可能性においてガラハッドは、日頃親しい友人たちこそを、「出馬の意欲を秘めている可能性があり、且つ強力なライバルになりそうな者」と見なしていた。それぞれ自分にはないものを持っていて、日頃おもてに出すかどうかはともかく、万事について自分の意見があるからだ。

 

そんな彼らに物陰から―――「何してるの!」「さあ行け!」「チューしろ!」と念じられていることなど、ガラハッドは知る由もなかった。ガラハッドは、マリエッタのことをたっぷり訝しんだあとに、「支えるって、具体的にどうやって?」と、彼女の本心を探りにかかった。

こうなるともう総崩れだ。

如実にいきいきとしはじめたマリエッタの声に、ロジャー、チョウ、マーカスの三人は脱力した。

 

 

「 もちろん、あなたを勝たせることよ。ガラハッド、あなた出馬するからには、圧倒的勝利が欲しくない? 」

 

「 欲しい 」

 

「 勝利への道筋、わたし、見えてるわよ。この選挙戦、わたしに任せてよ! 」

 

 

にっこりとマリエッタは断言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 と、いうわけで会議を始めます! 」

 

 

レイブンクローの談話室にて、エッジコム議長はそう宣言した。

先程隠れて眺めていた三人は、にっこりとした彼女に見つかり、罰として議卓を用意させられた。困惑の色を隠せない顔つきで、ガラハッドはその末席を温めることとなった。「どうしてこうなるかな」とぼやきながら、ロジャーはその隣に腰を下ろした。「どうなると思ってたんだ?」とガラハッドがたずねると、「黙れよ」と言ってくるのだから理不尽なものである。マーカスは呆れた顔で肘をつき、チョウは「つまんない」という顔つきだった。彼女は、やる気があるとは思えない態度で、たまたま通りかかったルーナに、「ねえ混ざる?」などと話しかけたりした。

マリエッタはそれを気にしないようだった。

彼女は、ロジャー、ガラハッド、マーカスに順に目を合わせていき、小学校の先生みたいな話し方をした。

 

 

「 まず、最終的な目標を説明するわね。あなたたち、マグル学を履修していないものね。いいこと?まず頭においてほしいのは、今回の選挙は、魔法省大臣選とは違うってことなの。なぜなら魔法省大臣は、もちろん素晴らしく立派なお仕事だけど、闇祓い局や神秘部のボスは、大臣によって指名任命を受けているわけではないでしょう?その点ではこの総代選は、マグル界の内閣総理大臣選に近いのよ。あるいは、アメリカ魔法界の大統領選ね。ガラハッドは、この選挙に勝ったら、ただちに組閣に近いようなことをして、約十ケ月のあいだ、三校の交流を促進するためのチャリティーを運営しないといけないの。『勝って終わり』ではないから、いくら短期的には有効であっても、求心力を失うような手法はだめだわ。バッヂまで作って、特定の個人を罵るとか、うるさくして煙たがられるとかは駄目―――そこで、 」

 

 

なかなか骨太なプレゼンだ。

ガラハッドはこっくりと頷いて、おとなしく続きを待った。不敵な輝きを瞳に宿して、マリエッタはいきいきと続けた。

 

 

「 そこで、私たちがとるべき行動は、ガラハッド卿垢抜け作戦!どいつもこいつもガラハッドのこと好きにさせて、『Sirの言うことは絶対』体制をつくるのよ 」

 

「 え!?えええええ!? 」

 

「 はいはーい、質問がありまーす 」

 

「 どうぞ、ベルビィ君 」

 

「 あのさ、それ、男には無効だよ?エッジコム君 」

 

「 チッチッチッ、きみぃ―――本気でお言いなの?あのね全生徒の半分は女子なんだから、すべての女子票をとったなら、あとの男子票が等分に割れても、最悪の場合レイブンクロー票しか入らなくても、圧勝じゃないの。わからないの? 」

 

 

マーカスはぺしゃんこにされた。ロジャーは真面目に感心しており、チョウはクスクスと笑っていた。ルーナだけが胡乱な顔つきをしていた。衝撃が過ぎて絶句していたガラハッドは、ここにきて、震えながらどうにか反論をすることができた。

 

 

「 選挙って!政治って!そういうもんじゃないだろ!?だいたい俺なんか、いくら何をどうしたってごっそり女子票狙えるわけがない!セドリックじゃないんだぞ!!! 」

 

「 ん?別に、セドリックと競うことはないのよ?彼の公認は心強いじゃない―――ねえ、あなた、覚えていないの?わたしたちの偉大な先輩のこと―――今にして思えばあんなにポンコツだったのに、お馬鹿さんたちにはとっても人気があった人がいたわ。そう、ロックハートよ。わたし、ずっとわかってた。あなたに、彼よりも劣るところなんかない。彼が優れていた点は、あのセルフプロモーションスキルに尽きるわ。わたしたち、あの手法を真剣に学ぶべきよ。大丈夫。あなた忙しいのに、これまでの“伝説”を本にしなさいなんて言わないわ―――紹介原稿は私が書きます 」

 

「 結構です!!! 」

 

「 ―――さて、話の続きをするわね。ねえ、まずは、わたしたちブルーマフィアが結束を固めましょう!当確となるよりも前に、私たちでチャリティー企画の案を練っておきましょう。たとえば、交流企画の一つとして、校内でファッションショーを催すとするでしょう?その場合チーフにふさわしいのは―――ロジャー、あなたもふさわしいけど―――誘うなら、アンドレじゃないかしら?このようにそれぞれの友人の中から、その企画を是非ともやりたがる人に話を持ちかけて、選挙活動に加わってもらうの。Sirが勝たなきゃ、その企画はおじゃんよ。勝利のためにご尽力いただき―――そして当選後は、働いてもらいましょう 」

 

 

マリエッタは一旦言葉を切った。

ルーナが、にょろっとチョウの前に腕を伸ばして、つんつんとマリエッタの肩をつついたのだ。とぼけたような目をぎょろぎょろさせて、ルーナは間延びした声で言った。

 

 

「 あたし、コリンを呼んでこれるよぉ。コリンは、写真を撮るのが上手いンだぁ 」

 

「 ああ、あの―――むかし気の毒な目に遭った―――グリフィンドールの子ね 」

 

 

マリエッタはぽんと手を叩いた。彼女は、ルーナを率直に「大天才!」と讃えた。ちょっと嬉しそうな顔つきで、ルーナは尻をむずむずさせながら言った。

 

 

「 あたし、いっつも馬鹿にされてる 」

 

 

しかし彼女は愚かではない。

 

 

「 あたし、多くの同級生から、ラブグッドって名前、覚えられてないンだ。たまぁに先生が呼んでも、みんな『誰?』っていう顔つきをするンだよ。ルーニールーナ、変てこ~…よく知らない人の主張することなンて、最初から誰も聞きやしない。だから、ガラハッドはね、十分有名だけど、すごく変だと思われてるから――― 」

 

「 おいおいおい、ルーナ、君に言われたくない 」

 

「 ―――まずは、案外マトモで親しみやすい人物だなぁって、みんなに思わせたほうがいい 」

 

 

ルーナは真剣な顔で言った。

彼女は、それっきり会議を抜けていった。ガタリと立ち上がって椅子も片付けずに、女子寮のアーチへとふらふらと消えたのだ。ガラハッドが呆気にとられているうちに、隣のロジャーまでもがダルそうに立ち上がった。

 

 

「 俺もちょっと抜けるわ 」

 

 

ロジャーは男子寮へと去っていった。

斯くして6人を定数とする会議は、3分の1以上の欠員を出してしまった。

 

 

「 いきなり崩壊じゃねえかよ 」

 

 

ガラハッドは焦った声をあげた。

これでは「選挙戦をしつつ地盤づくり」どころか、「内部分裂して赤っ恥」だ。議卓に身を乗り出して、ガラハッドは必死に懇願した。

 

 

「 マリエッタ、無理だ、考え直してくれ!君の、僕を応援してくれようとする気持ちは、もちろん非常に大変にすっごく有難いけど!幹部構成員の募りかたとか、実は僕も同じことを考えていたけど!うちの寮って、それをするには良いところだと思うんだけど―――このとおり、一切まとまりがない! 」

 

「 そこはSirが頑張ってさぁ 」

 

 

マーカスがニヤニヤして水を挿してきた。

 

 

「 Sirのカリスマでさぁ、何とかしていこうよ 」

 

「 お前が一番従う気ないだろマーカス 」

 

「 どうして?何が不満なのかしら 」

 

 

マリエッタは心底不思議そうに言った。

ガラハッドはグッと覚悟を決めた。

心底困ったことに、マリエッタ・エッジコムという少女は、アラベール・ノアイユと同種の人物かもしれない。この自分のことを、磨けばロックハートになる素材だと勘違いしている点を除けば、理屈の上では正しいことを言っており、大衆を扇動することに躊躇いがなく、ちょびっと倫理観のネジがゆるい…。

非常に情けない声でガラハッドは言った。

 

 

「 …俺では、どんだけ髪を伸ばして巻いても、ロックハートにはならないだろうが 」

 

「 ううん、いけるよガラハッドなら… 」

 

 

とても気遣わしそうに、チョウが急いでフォローしてくれた。

 

 

「 えっとね、最近、前よりもいい感じよ…髪型がマシになったし、あのダサローブやめたし 」

 

「 へっ!? 」

 

 

いきなりぶん殴られた心地で、ガラハッドは飛び上がって早口で答えた。

 

 

「 え?え?でも、あれは指定制服で…!! 」

 

「 丈が短かすぎたよね?いつまで、一年のときのローブを着るつもりかと思ってた。癒者の作業着みたいに着て、どれだけ背が伸びたか、見せてたんじゃないの?あのねガラハッドだけじゃないんだけど、うちの寮ってイタい男子多すぎだわ。他の寮の子たちからは、ブンクロって呼ばれちゃってるんだよ。言っとくけど、これは褒め言葉じゃない 」

 

「 ―――… 」

 

 

バッキバキのボッコボコである。

チョウから心理的タコ殴りを受けて、ガラハッドは生ける砂礫と化した。

るんたった♪と歌いながら、ルーナがスキップして戻って来た。ルーナは、静かになっていた議卓の上に、凶悪犯シリウス・ブラックの指名手配書と、いくつかの蛙チョコカードを置いた。

 

 

「 このふたつを組み合わせまぁす 」

 

「 OK、理解 」

 

 

マリエッタはとても短く言った。「この部分を紹介文に変えて…」とマリエッタは、シリウス・ブラックの指名手配書のうち、細かく罪状が書かれている部分を指さした。

 

 

「 見出しはあったほうがいいよぉ 」

 

 

ルーナは賞金の額面を指さして言った。

変な女の子たちに寄ってたかられて、写真のなかのシリウスは獰猛な顔つきをした。犬なら唸ってる顔つきだなあ…と、ガラハッドはそれを見て思った。

 

 

「 僕、紅茶淹れるね 」

 

 

マーカスは穏やかに戦力外自認を宣言した。

彼とは入れ替わりのようにして、ロジャーが戻ってきてドスンと座った。

ロジャーは、何冊もの雑誌を議卓の上に置いた。

ガラハッドは、鈍臭いがそれほど馬鹿じゃないから、マリエッタとルーナが作ろうとしているものは何か―――それは選挙ポスターだと―――第二次ロックハート旋風ほどのものは起こせなくても、それは効果的な手段だと―――頭では十分理解していて、理解しているからこそ凍りついていた。

ジロッとロジャーから睨みつけられて、ガラハッドはヒッと竦みあがって言った。

 

 

「 嫌だ 」

 

「 嫌だじゃない 」

 

 

クィディッチキャプテンの顔つきでロジャーは言った。

アラベールの前でしたみたいに、ガラハッドは遮二無二駄々をこねた。

 

 

「 お、俺は…ッ、ああいう軽薄で女好きで自分が好きそうな奴が、この世で一番大嫌いなんだよ! 」

 

「 で、それがなんだ?大将のお前がチキってて、チームがついてくると思ってんの?俺だって総代はレイブンクローがいい!誰も出馬しないなら、自分が出馬しよっかなって、ちょっとは思ってたけど―――よその寮生を引き込んで勝つなら、お前が大将になるほうがいいと思ってたぜ。おう、腹括れよ 」

 

 

雑誌を一冊取ってロジャーは言った。

彼が購読しているファッション誌は、ガラハッドにとっては寒く痒くなるものである。偶然開かれたページを見ただけで、ガラハッドはぎょっとしてしまった。

ガリガリの馬鹿そうな男が、だらしない髪型でアフリカの部族みたいなネックレスをつけて、どこが良いんだかわからない服を着て、首を痛めているみたいな動きをしている。キャッチコピーがまたイカレている…―――地母神(ガイア)が俺にもっと輝けと囁いているだと?

ガラハッドは必死の悲鳴をあげた。

 

 

「 無理!!! 」

 

 

西塔中にそれは響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜も更けてまいりました。これから始まる選挙劇は、やけに良識ぶった方、くそ真面目野郎、いい子ぶりっこは見る必要なし!あと批評は断る!声に出して読み上げる場合は、大音量でお楽しみください。

 

 

「 誰がチャラ男になんかなるかあああッ 」

 

 

これが候補者ガラハッドの主張である。

その晩レイブンクロー寮談話室では、稀に見る激闘が行われた。

 

 

「 黙れ。黙って従え 」

 

「 ふざけんな、こういうのキモいんだよ 」

 

「 は?キモオタはお前ですけど?それをどうにかしてやるんですけど? 」

 

 

本気で罵りあい怒鳴りあうロジャーとガラハッドは、どっちも監督生に選ばれなくて正解だ。「とりあえず部屋に戻ろうよ」の一言で、マーカスは周囲からの尊敬を集めた。

いくら大音量推奨といっても、近隣住民のご迷惑になるのはよろしくない。

ロイ・マスタングによる『LISTEN(しずかに)』が発動するまで、男子寮でもこの二人は怒鳴りあいつづけた。あべこべ呪文で『SILENT(傾聴)』させられるまで、彼らのファッション談義は平行線だったわけである。

 

一方その頃女子寮は、うってかわって平和そのものだった。

 

 

「 ねえねえ!ナイスアシストだったと思わない? 」

 

 

そう言ってくるくる回るのはチョウ。

自分たちの部屋に戻るや否や、愉快さのあまりチョウは人間独楽になった。「ムフフ」という声を出してしまったマリエッタは、左手で口許を抑えて右手でサムズアップした。

 

 

「 最っ高よチョウ… 」

 

 

マリエッタはしみじみと噛み締めて言った。

この二人のもうひとりの同室生は、名前をフェイ・エーテルレンという。夕食後は自室で趣味に勤しんでいた彼女も、談話室の騒ぎには気がついていた。というかさっきも叙述したとおり、ガラハッドとロジャーはうるさすぎたのである。何が議論されているのか自体は、フェイはよくわかっていった。

 

 

「 どうしたの?どうして、こんなことになってるの?随分、楽しそうだね… 」

 

 

一から説明し尽くせなくて、マリエッタは笑み崩れるばかりだった。彼女は早速机に向かって、ちょっと羽ぺンを掲げて宣言した。

 

 

「 わたし、今から原稿を始めるわ 」

 

「 原稿って、何の原稿? 」

 

 

フェイは鸚鵡返しに言った。

マリエッタはきっぱりと答えた。

 

 

「 布教用!全人類は、満を持して立った我らの代表についてよく知るべき。歪んだ風聞によらず、真の魅力と実績を! 」

 

 

マリエッタは集中しはじめた。原稿テキストさえ仕上がってしまえば、印刷については寮内に詳しい子たちがいる―――彼女たちはよく言っている―――原稿中は、正気に戻ってはいけないの、と。フェイは怪訝に小首を傾げて、それ以上マリエッタに関わることをやめた。

フェイは振り返って、独りでごきげんステップを踏むチョウのほうを見やった。「うちの同室生たちって、変わってるなあ」とは、あらゆるレイブンクロー生が抱く感想である。なんとも言えない気分に反応して、フェイの襟足は灰紫色になって縮れた。彼女は、なんとも半端な“七変化”なのだ。目鼻立ちは何にも変わらないのに、髪の毛だけが気分に反応してあれこれと変わる。

 

 

「 ああ、もう、まただ 」

 

 

フェイはブラシを使い始めた。自分の髪の毛にげんなりするほどに、毛先はうようよくるくるして収拾がつかない。とても可愛い声をあげて、チョウは自分のベッドの上で弾んだ。

 

 

「 いいじゃない、そのままで!くるくるしてるの、可愛いよ 」

 

 

チョウはにっこりと続けた。

 

 

「 いいなあ。私も恋したーい! 」

 

 

マリエッタは本当に集中していて、見つめてもちっとも顔を上げなかった。投げ出した足をぱたぱたさせながら、チョウはニヤニヤとマリエッタを見たあと、前のめりになってフェイに訊ねた。

 

 

「 ねえねえ、フェイは好きな人いないの? 」

 

「 別に…あなたこそ、恋多いでしょう 」

 

「 ううん。だってね、うちの寮って、素敵な男子がいないと思わない?わたし、ボーイフレンドは賭けなんてしない人がいいな。勝負できない弱虫も嫌だけど、財布の中身を数えて、せこせこレートを気にする人って情けないわ。頼り甲斐がないと嫌なの 」

 

「 それはわかるなあ。ロジャーとは、別れたんだよね?チョウは、年上の人が好きなの? 」

 

「 そうね、まあ、どちらかというと?うーん、でも、あんまりこだわりはないなあ。一番の条件をあげるとしたら、『年上』よりも『かっこよく飛べること』ね! 」

 

「 待って。いま急にハードルが上がった 」

 

 

フェイの髪の毛はハリガネ状に伸びた。

チョウはぷっくりと頬を膨らませて、フェイからの意見を浴びた。

 

 

「 チョウ、それって、自分が基準だよね?いないよ、チョウ、理想高すぎ!そんな男子、たしかにレイブンクローにはいません!非実在生物を探してるね 」

 

「 そんなことないもん 」

 

「 そんなことあります。夢見がちなんだから… 」

 

「 いいもーん。非実在男子、ルーナと一緒に、探しまーす 」

 

 

チョウはベッドでゴロゴロした。

そうしながらチョウは考えた。

そうね、ロジャーは良いボーイフレンドだった。今でも、彼といるととても楽しい。けれど、彼といて胸がときめくかといったら、そんなことはなかった。

 

 

( あれって、恋じゃなかったんだわ… )

 

 

恋ってどういうものなのか、チョウはもう知っているつもりだ。些細な仕草や表情で、キュンとさせてくれる素敵な人―――「いるか、いないか」を論じたいんじゃなくて、「自分にもいたらいいな」というスタンスなのである。マリエッタの健気さはよくよく知っているから、“彼”のことはマリエッタにあげようと思って…。

 

ころころ、ころりと転がって、うつぶせになってチョウは微笑した。

ちょっと胸が苦しいけれど、不思議なくらい悲しさはない。どうしてなのかは、わからない。ただ、“彼”とは一緒に飛べるだけで、たまらない幸せを感じる。

ボーイフレンドじゃなくたって、自分はとっても満足だ。この世に空のある限り、私たち変わらずにいられると思うから。

そんなことを思ううちに、チョウはゆるやかに眠気を感じた。

 

 

 

 

 

翌日の朝食の席で、立候補者の募集は締め切られた。

ホグワーツの学生総代の座をかけて戦うのは、結局三名ということになった。新しい出馬者はいなかった。

 

届け出順に三名の名前を呼んで、ダンブルドアは480時間の開始を宣言した。

最初にドラコの名前が呼ばれて、彼が起立したとき、スリザリン生は全員拍手をした―――しかし彼らは人数が少ない。

次にハーマイオニーの名前が呼ばれて、彼女が起立したとき、グリフィンドール生はさっきよりも大きな拍手をした。得意そうな様子のグリフィンドール生たちに、スリザリン生たちは暗い舌打ちをした。

最後がガラハッドの番だった。

直前にセドリックと目が合ってニコッとされたことで、ガラハッドは自信を持って立つことが出来た。彼が起立したときに、拍手は最大であった。自分たちの代表の拍手が大きいことを、レイブンクロー生たちは嬉しく思った。「よっ、ガラハッド卿!」とリー・ジョーダンが大向こうを張り、双子が指笛で囃し立てた。そのことでさらに拍手するハッフルパフ生たちは、なんだかお祭り気分みたいだ。

 

 

「 イテッ 」

 

 

ちゃんと微笑んで支持者へと手を振ったのに、ガラハッドはテーブルの下で足を蹴られた。

 

 

「 もっと愛想よく!右後ろ側も! 」

 

 

キャプテン・ロジャーの指示は容赦ない。

不慣れな笑顔を引きつらせて、ガラハッドは仕込まれたお手振りを続けた。これが二十日間も続くなんて、地獄だと思った。ガラハッドは、ロジャーの言う通りにしたものの、「右後ろ側に振る意味はあるのか?」と思った。拍手を貰えたわけでもないのに、へらへらとした態度を見せるのかよ―――それ見ろボーバトンとダームストラングの生徒たちは、どこか冷めたような目で成り行きを眺めている。

 

いかにして、彼らの票を取り込むか?

 

今、候補者はみんなそれを考えている筈である。

 

 

 

 




■「夜も更けて~大音量」は、『すごいよマサルさん』のOPパロです。ナ~イスセクシー!
■例のキャッチコピーで検索したら、ガイアの人は首を痛めてなかったですね…
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