第一の試練の前に、杖調べの儀式が行われる予定だ。これは、昔は一度だけだったようだが、今回の大会では三度行われる。毎回の試練の直前に、観衆の前で行われるのだ。「厳正を期するために」とか「手続き的正義」とか、大会要項の前文に、アラベールはよくつらつら書いたものだと思う。そうはいっても試練の直前になって杖の不調が発覚したのでは対処できないから、前調べというのがまず行われて、杖調べは実質四度行われる。
その一回目に向かっている途中、ガラハッドはセドリックと一番に出会った。彼は天文学の授業を終えて出てきたようで、跳ね橋のところでちょうど一緒になった。セドリックはニコッとして懐に手をつっこみ、ぴかぴかに輝く杖を取り出して言った。
「 ねえ、これ、どうかな? 」
「 ははは、ノーコメント! 」
ガラハッドは軽快に笑った。
“三人目のホグワーツ代表”として、ガラハッドは与えられた規程文書の一部を諳んじてみせた。役人のように彼は言った。
「 代表選手は、競技の課題を完遂するにあたり、どのような形であれ、教師陣並びに学生総代からの援助を受けることは許されない 」
セドリックは勿論それを知っていた。
セドリックは、ガラハッドは冗談としてこれを言っているとわかっていたけども「厳しいぞ」と拗ねたように言ってしまった。そして、つい心配になって、まじまじと自分の杖を見たりした。儀式の会場に辿り着くまで、セドリックは歩きながら杖を点検しつづけた。
「 自分で改善点をみつけろってことだね 」
「 おいおい、真面目に受け取るなよ。心配ない、よく磨けている 」
「 でも君は、こないだ『クラムの杖磨きの腕は、凄いと思う』って言っていたじゃないか。『きっと玄人裸足だろう』って… 」
「 それは君が、彼のウロンスキー・フェイントがいかに凄いか話してくれたから。わかんないかな、『度胸では君も負けないだろう』ってことだよ!だから『彼の凄いところは、日頃の箒の手入れだ』って言ったんだ 」
箒だって主人に忠誠心を持つ。
そんなガラハッドの意見を聞いて、セドリックは「うん…」と蚊の鳴くような声で言った。本物の
とにかく、励まされていることはわかった。
それに、今日のは「第1の課題のための準備」であって、「第0課題!全欧杖磨き選手権」ではないのだ。セドリックはそのように考えて、どうにか前向きになろうとした。
セドリックは小さくはにかんで、くるりと手首を返して杖をもてあそんだ。“四種の構え”を素早く切り替えることについて、「このとおり上達している」と確かめたのだった。
「 今後は、もう僕ら決闘できないね 」
セドリックは暗い声で言った。
ガラハッドは、「こいつ、緊張しすぎだろ」と思いつつ小さく笑った。嬉しさがそうさせたのだった。
自身も、「晴れて学生総代になれたことは嬉しいけれど、そのことはとても残念だ」と、実のところ思っていた―――あんなに楽しい遊びはないとはいえ、学生総代は選手たちに公平に…だ。ちらっと隣の男前を見て、ガラハッドは陽気に飄々と言った。
「 そうだな。僕では練習になりすぎるからなあ 」
このセドリック・ディゴリーと比肩できるのなら、喜びは寂しさにまさるというものだ。
セドリックはクスッと破顔して言った。
「 言うねえ!―――嘘、うそ、とても練習になったよ。有難かった 」
「 この野郎。僕ひとりが恥ずかしいこと言った! 」
「 フフッ、なんだか、自信が湧いてきたなあ?ガラハッド卿を罠に嵌めたんだもんなあ! 」
セドリックは笑いながらドアをノックした。
ふたりは呑気な談笑をやめて、表情を引き締めて部屋に入った。
( ―――…あれ? )
「どうぞ」とノックに答えたのは、部屋そのものの声だったのだろうか?
部屋の中には三名の先客がいたが、いずれも招待主だとは思えなかった。
ガラハッドは四方を見回した。
そこは、六・七年生用の専門科目教室だった。元より狭い教室であるなりに、大部分の机を隅に押しやって、中央に空間をつくる努力が見えた。その場所から、三名のうち最も大柄な男―――ルード・バグマンが、ワールドカップの実況を思い出させる声で言った。
「 やあ!来たな、ホグワーツ代表選手!エイモスの息子だって?お父さんは鼻高々だ! 」
セドリックは硬い微笑でバグマンに挨拶をして、彼とぎこちない握手を交わした。ガラハッドは教室じゅうを眺めるのをやめて、仕事にとりかかる前に、バグマンの隣にいる男を鋭く見やった。
すっと唇だけを動かして、ガラハッドは「こんにちはクラウチさん」と言った。
「 ―――…ッ 」
ハリーは緊張で首を竦めた。
彼は、まだ四年生なので早くに授業が終わり、ガラハッドたちよりも先に室内にいたのである。緑の目をぱちぱちさせて、ハリーはピリピリして成り行きを見守った。セドリックとクラウチが、ガラハッドとバグマンが、それぞれ最初に見た相手から目を逸らして、次の相手に初対面の挨拶をするまでの、ほんの短い隙間に―――ガラハッドとクラウチのあいだで―――きっと事件が起こると思ったのだ。
折しも、冬の短い昼の時間が、今日も終わろうとしているから。赤みを帯びた陽光が、小さな教室を斜めに切っていて、ひどく鮮烈な勝負を連想させるから…。
光と影、赤と黒。石で出来た継ぎ目のない床は、ルーレットの回転盤のようである。その上で、苛烈な二者は相対する。
バーテミウス・クラウチは影の中に顔を半分隠して立っており、どこか不気味な雰囲気を纏っていた。「魔法族として、強者である」ということだった。クラウチの眼光を真っ直ぐに受けたとき、ガラハッドはフッと微笑んだ。落日を映せば、その瞳は銀に輝くのだった。
「 ―――…? 」
ハリーは狐につままれた気分だ。
あれだけの大激突をしたというのに、両者は穏やかに会釈を終えた。ふたりとも、あの夜の記憶を失くしたみたいだった。
爽やかにバグマンに挨拶をするガラハッドを見て、ハリーは「コイツ怖い奴だな」と思った。同じくらいさっぱりとした様子で、クラウチはキビキビした声で言った。
「 規則の通りに 」
「 もちろんです 」
ガラハッドはバグマンとの会話を切り上げた。
ハリーはクラウチのことも「怖い奴だ」と思った。あれほどヤバい一面を持っているというのに、今のクラウチは能吏にしか見えなかったからだ。
セドリックは、ガラハッドが不機嫌になったような気がして、「おや?」と思って目でガラハッドの背を追った。だが、じきに「これが彼の仕事の顔なんだろう」と思った。
( 凄いなあ…これが杖の術に繋がるわけか… )
「何ひとつ面白いことはない」という態度で、ガラハッドはパチパチと指を鳴らしていく。すると雑に押しのけられていた机たちは綺麗に整列し、スペースは最大化され、規律のある雰囲気になった。黒板の前に三卓の机が並び、その前に六脚の椅子たちがつどった。
幸か不幸か定かではないが、杖職人とは純血に見える稼業である。日頃からずるずる長い袖を振っていなくても、布の捌き方が手慣れるからだ。
ガラハッドは、鞄からビロードの点検作業用クロスを取り出して、遠心力を利用できるほどの勢いでそれを広げた。同じ高さの机三台は、ふわりと一回で完璧に覆われて見えなくなった。
「 いやぁ、凄いもんだな! 」
バグマンが無邪気に言った。
セドリックは微笑んで頷いたあと、「自分に言われたわけではない」と気づいて恥をかいた。
「 椅子は六つ?バーティ、他に誰か来る予定だったかな? 」
クラウチは答えず、暗に「鬱陶しい」とバグマンに伝えた。クラウチは“監視”に忙しかった―――案の定、そこの憎たらしい若者は、ろくでもないことをしでかした!「もう遅いですよ」と暗に語る笑顔で、ガラハッド・オリバンダーはしゃあしゃあとたわ言をほざいた。
「 スキーター女史をお招きしたんですよ!日刊予言者新聞に、短い記事などいかがですか、とね 」
そのようにバグマンに話しながら、ガラハッドは早足でドアへと向かっていた。クラウチの顔が、「規則にないことをするな」と言おうとして、露骨に歪み引き攣っていることはわかっていた。火を噴かれる前に退散だ!
ガラハッドは勇んでドアノブをつかんだ。
ハリーは「う゛っ」と呻いてしまった。
セドリックはそっと夕陽を眺めはじめた。
ドアを開けると、ちょうどフラー・デラクールとビクトール・クラムがやってきていたので、ガラハッドは誰からの文句も聞かなくてよかった。彼らが役人ふたりに挨拶をするよりも先に、「女史をお迎えにあがってきます」と言い残して、ガラハッドはその場を脱出した。
「 いいことだ!いいな、いい学生総代じゃないかバーティ?この大会は盛り上がるぞ! 」
バグマンの声って、廊下にまでヨユーで響いてくる…。
些細な言い回しに耳を尖らせて、ガラハッドは舌打ちをして歩いた。
( チッ、クラウチめ…絶対に裏でバグマンを相手に俺の悪口を言ってる。いい歳のオッサンのくせに、やることが小せえな? )
さあ
お前のとこの屋敷しもべ妖精の件、日刊予言者新聞にタレこんでやろうか!―――…と、いうのは深掘りされれば自滅を誘う行為なので、ガラハッドはもちろん実行するつもりはない。
だが、「てめぇ、コラ、あの特大不祥事について、記者に黙っといてやってんだから、『冤罪で立ち入り捜査官を送って、すまなかった』の一言くらい言えよ」という…そういう気持ちは消えていないので…。
ちょーっと儀式に便乗して、可愛い悪戯を仕掛けちゃうのだ!
ね、バーテミウス・クラウチさん?
こちらなんて、所詮は取るに足らぬガキ。でも、ちょっとはドキドキしてほしいな♡ あの夜のこと、なかったことにしないでよ…?
そんな息子の思惑を察して、第一回杖調べの儀式の始まりのとき、真面目くさった審査員たちの前で、アラベールは声を殺して笑い続けた。彼は眼鏡を外して、指で目頭を押さえるほど笑った。六つある審査員席のど真ん中で、マダム・マクシームは彼を心配して、何度ものそのそ(で、済まされるような体格ではないが)した。アラベールが笑えば笑うほど、クラウチの神経はチリチリと焼けていくのであった。
「 くくく…っ 」
ガラハッドも声を殺してニヤニヤした。彼は裏方らしく教室の一番後ろまでさがって、そっと全体の様子を見物した。
マダムより左にはカルカロフとダンブルドアが座り、右には役人たちと記者が座っていた。成り行きでクラウチとスキーターが隣になったのは、奇跡だとしか言いようがない。黒板の前には三人の杖職人たちが並んでおり、さながら学芸会の始まりであった。
ジェチュポスポリタからお越しのマイキュー・グレゴロビッチ十二世は、驚くほどの好々爺だ。彼は、茶番を茶番として楽しんでいるのか、にこにこと全員に向けて微笑みかけている。一方、我らがギャリック・オリバンダーは、呆れを隠さずに突っ立っている。「この馬鹿弟子ども、なぁにさせやがるんじゃ」という顔つきである。しかし代表選手たちは畏まって、ドア近くの壁沿いで息を殺しているのだった。
最後の陽光が消えて、不透明な闇が窓際までやってきた。夜が始まると同時に、アラベールが真剣な顔つきをつくって切り出した。
「 えー、このたびは…くくく、ふはっ、ああ、申し訳ない!ふふふ、不肖のわたくし、どうも、緊張を強いられる場面になりますとね―――逆に笑ってしまうのです。ええ、ええ、当然、緊張しているのです。偉大なる先達、そして師匠に挑むわけですから!武者震いですよ?勝って大公国に帰りますとも!さてさて、これより始めますは… 」
「 素敵ざんすわ 」
「 わはは!これより、わたしから選手の杖調べをしていきます―――我が杖によって戦う選手よ、前へ 」
リータ・スキーターの羽根ペンが動くのを見て、アラベールは至極満足であった。フラーは、目一杯毅然として優雅に歩み出て、ビロードのカバーの上に両手で杖を置いた。
アラベールはその杖をとって、バトンのようにくるくると回した。ピンクとゴールドの火花を散らせたあと、アラベールは、杖を水平にして目の高さに構えた。フラーは、両手を組み合わせて、そんなアラベールのことをじっとみつめていた…。
フラー・デラクールは信じている。
自由主義者のノアイユ先生は、わたしに強い杖をくださったに違いない、と。他の杖よりも造りが簡易だとか、どこかが安いとか、そんなことはない。「ないと思いたい」ではなく、ないのだ。だってもしも…もしも、そうであったならば、自分は、こうして代表選手に選ばれていない!
フラーはにっこりとして言った。
「 つよーい杖、ちがいますか? 」
フラーは英語の腕前を披露した。
「 先生!わたーしの、杖、どうですか? 」
「 芯材の選定には自信がある 」
アラベールは急いでリータ・スキーターのほうを見て言った。いくら「どう書かれたって師が引き立つならば」と思っても、スケベ教師、生徒にデレデレは嫌だ―――この生徒は悪気なく教師生命を削ってくる!ほら例えば、こんなふうに。
「 わたーし、ムシュー、大好きでーす。おばーさまと一緒に、がんばりまーす 」
「 違うんです!彼女の祖母はヴィーラでして、ヴィーラの髪を芯材として使うことは、杖職人としては通常行わない、特に挑戦的な試みでして…秘数の計算によってこれと定めまして、これは純然たる研究でして…!! 」
「 …こやつは、わしの教えを守りつつ、型を破ろうとしているのじゃ。グレゴロビッチさんのところは、ドラゴンからとれる材料を、全身隈なく使っておられるのぅ?わしは、ドラゴンならば心臓の琴線のみしか使わん。それが最適であると考えているからじゃが、これは、よりドラゴンを扱うことに長ける者からすれば、狭隘頑迷なことじゃろう。わしとマイキュー、どちらの考えが正しいか―――はたまた、どちらにも縛られぬアラベールの考えがこれからの主流になるべきか、我々は考える機会を持った。本大会という機会じゃ 」
ギャリックに助け船を出されて、アラベールは、取り急ぎフラーの杖で花を咲かせた。杖先からワッと芽吹き花開く勢いを見れば、杖の状態はわかるというものだ。フラーの杖は好調だった。
ガラハッドは、アラベールに同情しつつ一連の出来事を見ていたが、最後に「自業自得なのでは?」と思った。素早く花を摘み取って、アラベールはそれを杖と一緒にフラーに渡したのだ。我が親ながら、堂に入ったフランス男ぶりだった。
フラーは花へと顔を埋めた。
嬉しそうなフラーと入れ替わりで、セドリックがギャリックに呼ばれて杖を見せに行った。
ガラハッドは改めてセドリックを尊敬した。だって、枯れきった老職人たちはともかくとして、アラベールですらフラー・デラクールのアレには動揺したのに…今、笑顔の彼女とすれ違ったし、並んで待つ際はずっと隣にいるのに…セドリックは、さっきから全然フラーにデレデレしていないのだ。彼はスマートな理性人だった。
ガラハッドは、「マジかよ…」と呻くのをこらえた。
お子様ハリーですらチラチラとフラーのことを見ているし、クラムはずっと「試合前です」という顔つきで目を閉じて、何やら精神を集中させているのにな。
セドリックの杖を点検しながら、ギャリックはくどくどと思い出話をした。
「 そうじゃ、よく覚えておる。この杖は、際立って美しいオスのユニコーンの毛を使っていて…尾の毛を引き抜いたとき、わしは危うく… 」
ああ、はい、これ、真面目に聞かなくていいやつです。みなさん、そんなに真剣にならなくっていいですよ?
ガラハッドは可笑しさをこらえた。
名匠ギャリックに手入れを褒められたことで、セドリックはようやく安堵したみたいだった。彼はにっこりと笑ってクラムと交代した。
ハリーは、慌ててローブの膝辺りを掴んで、ワイルドに杖の手垢を落とし始めた。セドリックは選手の列に戻って、それをそっと横目に見て思った。
( 彼、大物だな… )
流石英雄ハリー・ポッターだ…儀式の最中になって、思い出したようにそうするとは。まだ課題は始まっていないのにこせこせする自分とは、人物としての格が違う…。
セドリックは真面目にそう感じていた。
有名クィディッチ選手クラムの杖について、マイキュー十二世もあれこれと長話をした。リータ・スキーターは熱心に羽根ペンを動かして、クラムについての情報をメモした。
セドリックは、そんなスキーターの姿を背後から目にして、前回この記者の取材を受けた時の紙面を思い出して、そっと俯いた。
ああして写真を撮られるなんて、恥ずかしかったし、決して派手に書き立てられたかったわけじゃないけれど―――まさかあの扱いをされるとは思わなかったというか―――でも、文句を言うと「目立ちたかったんだな」と思われそうだし、誰にも何も言っていないけれど―――…今度の記事では僕は、きっと一行も登場しないんじゃないかな。
マイキュー十二世の話に聞き入って、ガラハッドは目をキラキラさせていた。クラムが戻ってきたとき、ガラハッドが前を見続けているので、セドリックは安堵したりまた恥じ入ったりした。他人のことなんか何も気にしていない顔で、最後にハリー・ポッターが杖を提出しにいった。
( お願い!お願い!お願い! )
ハリーはギャリックに口パクで伝えた。言うまでもないことだが、事実の上でハリーは、自分のことに必死で、人目を思うような余裕がなかった。ハリーは、老ギャリックの世間を突き放した物言いを警戒していた。このあと、よりによってリータ・スキーターの前で、自身の杖とヴォルデモート卿の杖との縁の話をされたら…また悲劇的で無茶苦茶な記事を書かれることだろう!
ハリーは、遮二無二ギャリックの温情に縋った。
ギャリックはフンッと鼻を鳴らして、むっつり顔で思い出話を封印した。他の選手のときと同じ扱いになるように、ギャリックは形式的に口を利いた。
「 杖が人を選ぶ。されど、道を選ぶのは人。杖は人を導き、道を往くことを助けるが、それは、それぞれ山をのぼらせて、険しい坂にあるときは、寄って立つ柱となるということ。沢へとくだるときは、藪を払う棒となるということ。決して、道のりを定めるものではないのじゃ―――面白い…不思議で面白い…わしは、まだまだ“杖の術”への興味が尽きん…杖職人として、わしゃ生涯現役を貫くぞい! 」
と、突然のメディア向けアピール。
リータ・スキーターに向けてガッツポーズをしたギャリックに、ガラハッドとアラベールは同時に噴き出した。アラベールは小刻みに肩を震わせて、「身の引き締まる思いです」と変な声で言った。マイキュー十二世はにこにこと笑って、自身もギャリックに負けず研鑽すると言った。
スキーター女史の羽根ペンは止まらない。彼女は、今回の記事をいくらで売るのだろう?猛烈な勢いで動く羽根ペンを見て、ハリーとセドリックの顔色は蒼白だ。ガラハッドは気楽な観劇者としてニヤつきながら、この茶番に付き合わせている人々に対して、流石に申し訳ない気持ちになってきた。
選手たちに迷惑はかけないように、ガラハッドは鋭く気を配った。杖調べの儀式が終わると同時に、スキーター女史の瞳は、壁沿いにいるハリー・ポッターをロックオンした。
ガラハッドはスキーターの前に飛び出して、大きな声で「お疲れ様です!」と言った。クラウチは、席を立って身体を反転させるや否や、がっちりと向かい合っているガラハッド・オリバンダーとリータ・スキーターとを認めて、思わず唾を飲んだ。彼は、憎しみを込めてふたりともを睨んだ―――ダンブルドアはそんなクラウチを見咎めて優しく微笑み、「眠る前の一杯はいかがかな?」と囁いた。ハリーは教室を飛び出して、脱兎の勢いでスキーターから逃げることに成功した。
「 やっぱり子供ね 」
フラーはその背を見送って言った。
クラウチは苦々しい声で言った。
「 いただこう、ダンブルドア 」
ハリーを追いたい気色を見せるスキーターを、ガラハッドはどうにか押しとどめていた。クラウチは、この学生総代の危険性について、ダンブルドアに仔細に語り伝えねばならないと思った。バグマンも相伴にあずかると言い出したので、クラウチは彼を追い払いにかかった。「残念ざんす」とぼやくスキーターの背中を睨みながら、クラウチは大きめの声で言った。
「 ルード、君は忙しいはずだ。我々に付き合うことはない。魔法省官僚として、君は日夜部下の捜索をすすめているだろう―――いくら元選手とはいえ、非常に疲れていることだろう 」
「 そんなことはないさ 」
「 君は疲れているはずだ! 」
クラウチはイライラとして吼えた。バグマンは、不思議そうにして丸顔を傾けた。
セドリックには、バグマン元選手よりもクラウチ氏のほうが―――父エイモスの言葉がそう思わせるのかもしれないが―――官僚としてやるべきことに取り組み、とても疲れているように見えた。悪を為した屋敷しもべ妖精や闇杖の件まで、エイモスは息子に話していなかった。そういったことを親が先回りして教えることは、息子とその親友の関係に、影を落とすだろうと考えたのだ。
セドリックたち選手に背を向けたまま、ガラハッドは彼なりの戦いに没頭していた。クラウチはダンブルドアと一対一で飲もうとしているし、クラウチの声を背中に聞いて、リータ・スキーターは露骨に「つまらない」という表情をしたのだ。「坊や、これじゃ商売にならないのよ」とでも言いたげに、女史はぬけぬけと強弁を張った。バチン!とがま口の先を鳴らして、彼女はワニ革のバッグに取材メモをねじ込んだ。
「 ネタが弱いざんすねえ?大会を盛り上げる記事を書くには、もうちょーっと、もうすこーし… 」
「 一面で扱ってくださるおつもりでした? 」
ガラハッドは驚いた様子で返した。
「 てっきり三面かと!嬉しいですね 」
鉄面皮対決であった。
奇妙な沈黙が続くあいだ、ガラハッドは明るく驚いた顔をしつづけた。ちょっと考え込むような目つきで、リータ・スキーターは斜めに顎を引いた。彼女がそうすると、宝石で縁取られた眼鏡がきらめいた。ガラハッドは役者のように右手を掬いあげて、にっこりとして女史へと畳みかけた。
「 さあ、取材は終わりましたね?校門までお送りしましょう!夜道は暗いですよ。ご婦人をひとり歩かせるのは忍びない 」
「 素敵ざんすわ 」
ニーッとリータ・スキーターは微笑んだ。
「 素敵。君、恋人はいるのかな? 」
意図のわからない質問だ。
そういうのを知って、何になるんだろう。恋に長けていれば人格者だとは限らないのに。
まずは城内を…それから石畳を歩いて校門のところまで、リータ・スキーターとふたりで歩きながら、ガラハッドは大変うんざりした。うろうろされたくないから見張っているだけなのに、このオールドミス調子に乗りやがって…。
何度も恋人の存在を訊かれて、ガラハッドはついに話題逸らしの戦術が尽きた。
ガラハッドは疲れきった声で答えた。
「 いたらいいんですけどねえ… 」
これについては本当に疲れているので、どうかそっとしておいて欲しかった。しかしリータ・スキーターのしつこいことといったら!彼女はさらに質問を重ねた。
「 好きなタイプは?どういう子が理想? 」
「 詮索しない人ですかね 」
「 素敵ざんすわぁ 」
ガラハッドは多少怪訝に感じた。暗に「あんたの対極だよ」と言っているのに、なんで嬉しそうなんだコイツは…?
厄介払いに専念して、ガラハッドはあまり深く考えなかった。満足げなリータ・スキーターをホグワーツから追い出すと、ガラハッドは忙しく儀式の後片付けのために戻った。