ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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第一の試練

 

ねえ、もしもこの世に小説がなかったら、「現在を変えるために過去を改変する」という試みは、マグルたちのあいだで、自然に発想されないと思いませんか。魔力のあるなしに関わらず、「人生は一度しかない」とわざわざ言うことは、どこか格好つけだと思いませんか。

それは、何でも慎重に選択していくことが面倒になって、自棄を起こし始めた者のやることだと思います。その点、黙って他人の人生を読む人は、まだ自身への手綱をゆるめないでいくつもりがあるでしょう。「どうして人生は一回しかないの」と、責め句を叫んで誰をも困らせずに…。

 

 

――――…。

 

 

…そんな感想と共に本を返却されて、ガラハッド・オリバンダーは正直びっくりした。いつもへらへら女の子たちを侍らせているので、なんとなくアホであるような気がしていたが、そういえば先日腹を探り合ったし、シザーリオ・ド・ボーモンは思慮深い女(男?)だった。

ガラハッドは、受け取った本を取り敢えずローブのポケットに仕舞った。本日は土曜日であるので、朝食の席でいつもの学生鞄を持っていなかった。顔つきはポカンとしたまま、目はシザーリオのことを見つめたまま…であった。

 

 

( 流石は名門の嫡嗣…いや、血筋は関係ないな。でも、教育は関係あるよな?たしかに、俺がこいつの親だったら…『女であるというだけで、この子が家を継げないのは惜しい』と感じるかも… )

 

 

…読んだ本の感想を言うのって、難しくないか?あらすじの感想を言うのではなくて、作品のテーマを汲み取ってそれについて自身の意見を言うのって、とても難しいことだと思う―――ガラハッドは、シザーリオのことを尊敬した。

 

自然と、ガラハッドははにかんでいたのだった。シザーリオは、これはガラハッドの評価を勝ち取ったなと直感して、ニィッと顔を綻ばせた。

やったぞ、「ピンチをチャンスに」は勝利のセオリー!前回、「もっと仲良くなろうよ」と声をかけたときは、なかなかの塩対応をされて焦ったものだが―――いいぞ、この手で距離を縮めていこう!

シザーリオは勢いづいた。狙うは「結婚。そして…」であるわけだから、シザーリオはかねてからガラハッドの性格を探り、彼に気に入られそうに振舞うことに余念がない。非常に気っ風よく快活な様子で、シザーリオはガラハッドに引き続き感想を語った。

 

 

「 “マグルの考える魔法”が事実に近いほど、これを虚構だと思っている彼らの気の毒さが際立つものだね 」

 

 

シザーリオに悪気はなかった。

ガラハッドは、「こいつ、大概な差別主義者なんだよな」と思いつつ、彼(彼女?)が変わっていく余地はあるように感じた。「マグルも心は人間なんだねえ」と呟くのを控えて、シザーリオはチラッとガラハッドの顔色を伺った。

 

 

「 キミは、日頃何を考えてこういうものを読んでいるんだい? 」

 

 

予想外にもほどがある返事をされてしまって、シザーリオはその後の反応に困った。流石の奇才ガラハッド卿は、ぼんやりとしてこう答えたのだ。

 

 

「 うーん、単に、習慣? ああ今日も疲れたなぁとか、一瞬暇だなと思うようなタイミングで、ちょっとした癒しを求めているというか…刺激を求めるというか…まあ、ようは娯楽だ 」

 

「 それでマグル界の小説を読むのかい… 」

 

「 別に、魔法界のも読むけど?けど魔法界の本って、どれも嵩張る装丁なんだよな。片手の中に収まって、一人で好きなときに楽しめるっていうのが、ミソなんだ 」

 

 

ガラハッドは文庫本を構える仕草をした。シザーリオは、彼の華やかな“伝説”とのギャップに困惑して、よりいっそうの調査を決意した。「10時から会議がある」と最初に聞いていたので、1分でも惜しいような気持ちになった。

 

 

「 なあ、まだ時間はあるだろ?今日もホグワーツを案内してくれよ 」

 

 

シザーリオは笑顔でねだって、ガラハッドと二人きりになろうとした。

ガラハッドは、会議前にもやりたいことがあったので、「OK」とはすぐに言わなかった。彼は、土曜日の腑抜けた朝食の席を見回して、明らかに少ない生徒たちの顔をひとりひとり確認して嘆息した。

 

 

( チョウのやつ、これはまだ寝てるな… )

 

 

「寝坊は土曜日のお楽しみよ」と、チョウは公言して憚らないのである。片付けられる直前の朝食の皿に残っている、萎びたしょっぱいポテトに「良さ」が詰まっているらしい。

シザーリオは、ガラハッドに誰かを誘わせたくなかった。

 

 

「 ふたりでいいよ、気楽だもの!キミには、こうしてフランス語が通じるし…読むのと話すのは違うからさ… 」

 

「 わかった。じゃあ今日は… 」

 

「 今日は天気が良いから、森や湖のほうに行こうよ 」

 

「 …了解。それじゃ、行こうか 」

 

 

ガラハッドは気持ちのない声で言った。

 

うーん、まあ、嫌っていうわけじゃないけど、湖のほとりでは迷いようがないのに、なんか面倒くさいな…。

こいつ、何の話があるのかなあ。

チョウは、こいつと深く喋ったらどう思うんだろう?

 

大広間を出て“いくらでも込み入った話のできる場所”まで、ガラハッドとシザーリオは黙々と歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、第一の試練の時である。

…一方この時、ハリー・ポッターはベッドでうだうだぐにゃぐにゃ中…

時とは戻るものでしょう?世界を小説として識るならば。

 

 

 

先に口火を切ったのはガラハッド・オリバンダーで、彼は、目についたものに関連して目的なき雑談をするふりをした。実際は、このシザーリオ・ド・ボーモンは魔法族同士の肌の色の差について―――特にちゃきちゃきのスコティッシュでありながら、移民だと見なされがちな中華系の子などについて――――どう扱う人物か、ガラハッドは見極めたいのだった。

 

こいつは女だから、ある意味()()()()チョウに紹介できるのだが…「かっこいい!」とはしゃいだ相手に傷つけられるチョウの姿なんかは、ガラハッドは絶対に見たくない。

 

 

( チョウは、こういうのが好きなのか… )

 

 

ガラハッドは、さりげなく改めてシザーリオの容姿を観察した。

寂しいような気持ちを誤魔化して、ガラハッドは湖の大イカの紹介をした。チョウのシザーリオへの関心は、一言でいえば「憧れ」であるとわかっていても、なんだか嫌な気分だった。大イカが潜って姿を見せなくなると、特別語るべきものはなくなってしまった。

 

 

「 ―――…。…えーっと 」

 

 

少し待ったが、シザーリオは何も言わなかった。

ガラハッドは、大きなダームストラングの船を無視して、湖面の特に輝いているところを指さした。一般論を言うならば、そこには何もないのであるが―――…。

 

 

「 知ってるか?『輝く』は、英語ではSHINE。これは、日本語では『死ね』という意味になるんだ。面白い偶然だよな 」

 

 

ダメだ、これって、最悪の話題選びでは…?

ガラハッドは頬を引きつらせた。

しかしシザーリオは明るく相槌を打った。

 

 

「 へえ、知らなかった!すごいね。キミは、呪文学が特に好きなんだな? 」

 

 

ガラハッドはうっかり安堵してしまった。

 

 

「 まあな。それで、中国の漢詩の技法には、鏡花水月というのがあって―――ちょうど湖面を見ていて思い出したんだけど―――そういった東洋の技法を、西洋魔法に取り入れて機能させることは、不可能ではないと僕は考えていて―――君は、どう思う? 」

 

「 センスの要る作業だなあと思う 」

 

 

シザーリオはさも興味がありそうに言った。

し・す・セ…ときたのである。ガラハッドは正しく勘づいて、このままではいけないと焦った。けれども、この誘導は奇跡的にうまくいった。

「中国といえば」とシザーリオは言って、自身の得意分野の話を始めた。関心の方向が違うだけで、シザーリオもどこかブンクロの素質(悪口ではない!)を感じさせた。

 

 

「 チャイニーズ火の玉種って、可愛いよな。ボク、一度チャイニーズ火の玉種を触ってみたいよ。知ってるかい?チャイニーズ火の玉種は、火の玉っていう名前をつけられているけれど、欧州のドラゴンみたいに、口から炎を吐くわけじゃないんだぜ 」

 

「 へえ!ああ、たしかに、東洋の龍に火を噴くイメージはないな… 」

 

「 おっ、わかってるねえ!そうともチャイニーズ火の玉種は、東洋で一般的な龍じゃない。むしろ珍しくて、脚力自体はそりゃあ強いけれど、凶暴さには縁のない種さ。傷つけたりしない限り、襲ってくることはない。だから、中国は、関係国に友好の証としてあれをくれるんだ―――…えーっとボク、日本にだって興味があるぜ?あの国は、チャイニーズ火の玉種の繁殖がうまくって… 」

 

 

「馬鹿じゃないぞ」という顔つきで、シザーリオはなんとかガラハッドの趣味に寄せて話をした。ガラハッドは魔法生物に興味がなかったが、日本の龍事情ならば大体察せられた。よくある神社や昔話では―――こうだ。

 

 

「 日本の魔法族は…いや、日本のマグルは?あっちの固有種の龍のことを、“水神”と呼ぶんじゃないのか? 」

 

「 そう!そう、そうなんだ 」

 

 

シザーリオは何度も頷きながらニコニコした。さいわい、彼女(彼?)は急に話題を変えた。

 

…と、ガラハッドには関連がわからなくて、感じられたのだった。

 

二回目の奇跡が起きていた。シザーリオは、ガラハッドのことをじっと見つめて、「真剣な話があるよ」という態度をとった。けれども、瞳は悪戯を思いついた子供のそれだった。

シザーリオ・ド・ボーモンは囁いた。

 

 

「 なあキミ、運命を支配したくはないか? 」

 

「 は? 」

 

「 マグルたちの思う、“神様”みたいにさ 」

 

 

シザーリオはニヤッと笑った。

宗教の勧誘か?とガラハッドは思った。

もしくは、「絶対に儲けさせます」と騙る情報商材だ…。

 

ガラハッドは目を閉じて曇天を仰いだ。

 

 

( あ゛~、なんか俺は、こういうのに縁があるっぽい!二度と痛い目見たくないのに、ハーマイオニーの次はこいつかよ!? )

 

 

とりあえず昼行燈を貫くガラハッドに、シザーリオはいきいきとした調子で続けた。

 

 

「 キミは知らない?いいかい、第一の課題ではドラゴンが出てくるらしい―――まったく、ボクが選手に選ばれていたらなあ!武門の男とはどういうものか、思いきり見せてやったのに。よりによって…いや、誰であってもボクよりはうまくない…―――なあキミ、これがどういうことかわかるかい?ボクは今、キミの願いを叶えられるんだよ。キミは、どの選手に勝利を掴んでほしい?ホグワーツ代表だけでも、ふたりいることだし… 」

 

「 …ふぅん 」

 

「 ボクとキミの仲だ。思い切って、聞かせてくれよ 」

 

 

シザーリオはニコッとして自身の胸を叩いた。ガラハッドは、シザーリオのことをいまいち好きになれない理由が、もうひとつ今ハッキリしたと思った。

ガラハッドの心は冷えていった。

 

 

( …こいつは、いつでも俺の欲望を探ってる。いい男を気取って、「自分はとても巧くやる」ってところを見せてくる。「キミにもできるさ」と甘く耳打ちして、毎度興奮させて不安にさせて、俺が飛びつくか揺らいでしまうのを待っている。俺のこと、爬虫類の親戚にでも見えてんのか? )

 

 

やり口が馬鹿にしてるよなあ…?

たしかに、俺というどうしようもない人間は、時に下半身で動いているし、ハーレムを築けるならばそりゃあ嬉しいし、権力欲の塊だし、戦局を操作できる地位や賭博が大好きな、申し開きのない八百長当選者であるけれども、たとえ積極的に自戒する内容であったとしても、他人からずけずけと指摘されると腹が立つ―――どうしようもない人間って、そういうもの!

クソが。あまりクズを舐めるな。

シザーリオを逆に不安にさせてやろうと思って、ガラハッドは強気で薄く微笑んだ。

 

 

「 シザーリオ、君は、結構迂闊だな? すすんで不正に手を出すなんて、家門の名を堕とす覚悟はあるのか?こんなアウェイの地で… 」

 

 

シザーリオの瞳孔は複雑に変化した。

ガラハッドは一段と声を低くした。

 

 

「 僕は、好きな選手なんて選ぶ必要がないな。気にくわない選手が勝ったら、『君が手ほどきをした』と後で告発すればいいだけだ。リータ・スキーターをよんで… 」

 

「 …ひどいな。ボクは、キミが好きだから善意で提案したのに。ソサエティーのスタッフは、ホグワーツ生ばかりじゃないか?意地悪しないで、使えるときに使ってよ。ボク、デラクールにドラゴンの扱いなんて教えてない。彼女の顔を見たら、そうだってわかると思うね! 」

 

「 どうだか。おおかた、彼女はヴィーラの系譜だから教えるのを控えたんだろ?―――大公国のことを思えば…それは、軽率にしてよいことではないし… 」

 

 

そう穏やかに付け足して苦笑して、ガラハッドは喧嘩を売りすぎないように努めた。シザーリオと結婚したくはないけれど、下手にシザーリオを煽って怒りを買うと、火を噴くフランス・ワイバーン種に乗って追いかけ回されそうだった。

 

…鷲に変身した自分が的にされる想像をして、ガラハッドは初めて第一の課題のとんでもなさに気がついた。

 

 

( おお…ということはガチ空戦か…!! )

 

 

それって、学生のやることなのか?生きた戦闘機とたたかうことが?―――さまざまなことが脳裏をよぎる。

 

シザーリオは、きっとこの情報の正しさに自信があるのだろう。だからこうも大きな一手へと出てきた。「どこから得た情報だ?」と訊きたいところだけども、聞けばボーモン家の内情に首をつっこんでしまう可能性があるので、ガラハッドは興味を封印することにした。

 

ガラハッドはシザーリオに顔を見られたくなくて、俯いて堂々と腕時計を確認してみせた。いま、何時であるかに関係なく、「そろそろ解散にしたい」というサインだった。

どうしても、声は少しそっけなくなった。

 

 

「 君がドラゴンを使役するところ、見たかったよ。炎のゴブレットが憎いもんだ 」

 

 

シザーリオは弱々しく微笑んだ。

寂しさを飼いならして、シザーリオは右手でバイバイとやった。

 

 

 

 

 

 

 

それからのガラハッドは、色褪せた芝ばかりの校庭を格好つけて歩いた。平気な顔をして玄関をくぐって、行き交う人々に軽く手をあげて挨拶をして、キョドキョドせずにレイブンクロー寮に戻って、自室に戻るなり個人スペースを区切るカーテンを閉めて―――…それから、それから。

ローブに皺がつかないように、がばっと脱いで椅子の背へとひっかけて、ガラハッドはようやく悶絶する自由を得た。ベッドに飛び込んで仰向けになりうつぶせになり、しばらくの間ごろごろして、最後にポカンと天蓋を見上げた。

 

 

( ―――ドラゴン!! ) 

 

 

ガラハッドは、その強大さを思い描いて興奮した。

 

 

( マジで?生でドラゴンが見れるのか―――凄い規模の大会だ!かつて死人が出たっていうのも、納得できるスケールだな。ちょっとビビっちゃったけれど…中学を出たら、予科練に入れたんだ。俺だって、『そういうのいいな』と思ってた。全然、おかしくなんかない! )

 

 

16で、やる奴はやっていた。それがエリートっていうものだった。

ならば、17を超えた代表選手たちは、ドラゴンと戦うくらい当然だ。

良い課題だなあ、ドラゴン!―――最も優れた若者を見抜くのにふさわしい。観客は手に汗握るだろうな!!

 

 

( うひゃ~楽しみ!談話室で言いたい!けど、我慢我慢! )

 

 

とても当日が楽しみで、ガラハッドはひとりでニコニコした。

ずぶのマグルであった頃から、彼は爆撃機を墜とす度胸を鍛えていた。そうして、今や竹槍とは比べ物にならない棒っきれを、7ガリオンで世界に送り出しているのである。それを引っ提げておきながら戦えないような奴を、ガラハッドは選手として想定していない。

 

 

( 問題はハリーなんだよなあ… )

 

 

ガラハッドはわくわくしていたが、一転、大きく溜め息を吐いた。

ハリー、あいつは、まだ14歳だし…志願して代表選手になったわけじゃないし…一発ガツンとくらってからじゃないと頭を使えない奴だから、このままだと火曜日にドラゴンを見て鈍臭くポカーンとして、そのまま燃やされるか踏み潰されるだけだろうな。あいつが何者かの狙い通りになるのを、みすみす放置しておくなど有り得ない。

 

 

( けど、学生総代は選手に公平に…だ )

 

 

ガラハッドはむっつりして規程を思い浮かべたが、一切遵守するつもりなどなかった。ハリーは、そもそも存在が規則外の選手なのだから、規則の適用対象とするなど馬鹿げているではないか。

つまり、あの規程の意味するところは、「事前にハリーにだけはちょっと耳打ちして知恵を授けておくことを、誰にもバレてはいけない」ということだ。

 

10時になってしまったので、ガラハッドは一旦この件を棚上げした。

 

 

 

斯くして、土曜日の午前が終わった。

午後になった。

 

 

 

それから翌日までのガラハッド・オリバンダーは、最悪の“ついつい後回し”を炸裂させた。彼は、希少生物であるドラゴンを殺したら、我々は杖材が増えて嬉しいけれども、その手の活動家がうるさいので、「まあ倒す課題ではあるまい。出し抜く程度だろう」と考えて、「フラーとクラムは既に知っている」という事実を知らないため、ハリーとの接触を図ることを緊急のタスクだと見なさず、「ハリーは既に知っている」という事実もまた知らないので、いたずらにハリーの神経を削った。

また、彼はこうも考えていた。

日頃ベルサイユの華麗さに慣れているであろう大公妃殿下のお膝元で、「三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)伝統の冬至舞踏会(ユールボール)を成功させること」に比べたら、「ドラゴンの意表を突いて機動性を削ぐこと」は、そう難しいことではない。ああ叶うなら、自分はパーティーの準備なんかよりも、そっちのほうをやりたい!どうして、学生総代になんかなってしまったんだろう…。

 

ハリーが必死でドラゴン関連本を漁る頃、ガラハッドもまた午前の会議でダンブルドアから渡された資料を自室の机で読んで、自身に与えられた課題の難しさにショックを受け、長いこと呆然としていた。『過去の事例集』はいずれも煌びやかで、まったく知らない世界の記録であり、驚くほど目が滑ってしまった。

ガラハッドは机に両肘をついて、頭を抱えた。

 

 

( …どうして、21世紀のクリスマスパーティーに、男女がダンスをする要素が必要なんだ?伝統って、そんなに大事か?本大会では廃止…というわけにはいかないのか?盆踊り形式では駄目なのか?―――クリスマスパーティーって…みんな、出来るだけダサいセーターを着て集まって、『せーの』でクラッカーを引っ張って、王冠を被ることになった奴を冷やかしながら飯食って、ビンゴとかするものじゃないのか? そのほうがみんな楽しくないか…? )

 

 

夜が来て、朝が来た。

日曜日になってしまった。

 

生憎今年のホグワーツ生は、全員がドレスローブを持って登校してしまっている。今更「それを着る機会は廃止です!」なんて、横暴な強弁など張れやしないが、大丈夫まだまだ時間はある…―――と、朝一番にガラハッドは自分に言い聞かせた。

 

 

( 落ち着け。俺は、いくらこの分野に関してはからっきしでも、素案を出すだけでいいんだ。第一の課題終了後に、観客誘導についての反省会を持って、その締めくくりに冬至舞踏会(ユールボール)の話をして、それぞれ一旦持ち帰らせて…次の幹部会で案を揉み合って、新たなチーフを選出して…。えーっと、えーっと… )

 

 

しかし生憎ガラハッドは、どこかの誰かさんたちとは違って、生来勤勉で時間を無駄にしない男だった。彼は、自身のやるべきことの先送りと軽減を試みて、レッドラインを見極めようとして、逆に「やらねば」という焦りの火をつけた。舞踏会当日から逆算すると、スケジュールはカツカツであるように思われた。

 

 

( 人手が足りない!実働時間は削れない!つまり会議を躍らせるわけにいかない!あいつらす~ぐ個性を拗らせて暴走し始めるんだから!! )

 

 

午前のうちにガラハッドがこうなったことは、ハリーにとっては不幸だった。図書室、そして自室で、合計七、八時間ぶっとおしで集中して、ガラハッドは「気づいたら夜になっていた」と感じた。窓から真っ暗な校庭を眺めると、目の疲れが不意に自覚された。

 

 

( うわっ、道理で腹が減るわけだ…今日は日曜日だから、夕食後はシリウスのところに行かないと… )

 

 

そのことに思い至ったとき、ふと、ガラハッドは光明が見えた気がした。

「ダンスホールを確保したうえでの晩餐用テーブルの配置や、参加者とスタッフの動線、低学年の扱いをどうするのか」など―――そういった実務的な問題は、あらかた見通しを立てたのだが、「どんなふうに城内を飾るべきか、どのような音楽と演奏家を用意するべきか」など、踏まえるべきコードを踏まえながら気の利いた提案をすることなど、自分には到底できることではない。しかし、あの寂しい洞窟で、飢えながら自分を待っている人は、かつて英国で最も壮麗な宴の中心にいた人物ではないか?彼のアドバイスを受けたいものだ…。

 

 

 

 

…昔を思い出してくださいと、頼むことは酷でしょうか?

こんなに寒い洞窟の奥で、燭台を見てやることじゃないけど…。

あなたがみずから背を向けた世界に、僕は飛び込まないといけない。

 

…―――ますます寒くなった洞窟のなかで、ガラハッドはシリウスにそう暗い声で告げた。キャンプファイヤーでもしているかのように、ふたりは地面に胡坐をかいて向き合っていた。

 

 

「 うむ?別に、使えるものは使うのがいいさ 」

 

 

シリウスは明るい声で言った。彼はむしゃむしゃとパイを食べ終わったあと、手についたカスまで丁寧に舐めとった。

ガラハッドはその様子を気の毒に思った。だが、シリウスはブラック家の御曹司であった頃から、人前で()()()こういうことをする男だった。彼は、このところ太陽を見て日付を数え、星を見ては時間を確認し、時が来ればこうして鏡の前で蝋燭を灯す。そうして野良犬用ではない食べ物を得て、「どうだ、文明人だぞ」という気分である。シリウスは、二つ返事でガラハッドに協力を約束して、「紙とペンはないのかい?」と言った。

ガラハッドは舞い上がってポケットを漁った。

 

 

「 有難い!マグルの、三色ボールペンでも構わない?こいつはインク瓶が要らない―――そういえば気になっていたんだけど、以前の手紙は、どうやって? 」

 

「 面白い魔女がいてな。ポリシーによって、家のドアに鍵をかけないんだ。そこにちょいと忍び込んで―――へえ、こいつは面白い道具だな―――次回までに、舞踏会のアイデアをこの紙袋に書いておこう。ところで、ハリーはどんな様子だね? 」

 

「 直接話す時間がとれない。ハーマイオニーによると、変わらずあなたの心配をしている。あとは…リータ・スキーターに目をつけられてるってことくらいかな。あいつは、知名度があるから… 」

 

「 君も気をつけたほうがいい 」

 

 

シリウスは続けて経験を話そうとしたが、思いとどまって林檎を齧った。いくら「メンタルは別人」という様子であっても、姿を変えたグレイスを相手に、積極的にしたい話ではなかった。

 

 

「 大会の動きはどうなんだ? 」

 

 

シリウスは少しぶっきらぼうに言った。

ガラハッドは、どのみち後で新聞でバレることなので、シリウスを相手にちゃちな嘘は吐かなかった。

 

 

「 僕の仕入れた情報によると、第一の課題にはドラゴンが使われる可能性が高い 」

 

 

シリウスはさほど驚かなかった。彼は、一瞬で真剣な顔つきになると、「結膜炎の呪い」と小さく呟いた。ガラハッドはそれに深々と頷いて、淡々と話を進めた。

 

 

「 そう、ドラゴンといえばその呪いだ。まずはそれで目を封じて、吼えメールでも飛ばしてそっちを追いかけさせればいい。去年のレイブンクロー対グリフィンドール戦は、凄かったんですよ?炎の雷(ファイアボルト)で、ハリーはまた大活躍するだろうけど―――頼むから、リスクを冒してのこのこ来ないでほしい。 保護者席には、ウィーズリー家の成人の息子さんがたをお招きしています。ペットエリアはありません。ちょっと?わかってますか本当に?今のホグワーツには、ムーディーがいる。これはハリーにとって良いことだけど、あんたにとっては危険なんですから…! 」

 

「 観たい。観たい。わたしは後見人なのに?ハリーに炎の雷(ファイアボルト)を贈ったのは、わたしなのに! 」

 

「 やっぱりあんただったのか 」

 

「 写真はいくらだね?通常、父兄には購入する権利があるだろう 」

 

 

あざとくって、何が悪いの?

人間の姿をしていても、シリウスにはどこか犬のような愛嬌があった。「つぶらな瞳でキューン作戦」が通用しないとなると、彼は不機嫌な態度で唸った。

 

 

哀れ、ハリー・ポッターは、ここでも勝手にハードルを上げられまくったのである。

 

 

課題の内容がわかっているなら、とるべき手段は当然導き出される―――ハリーは、本物のドラゴンと出会うことについて、ただ先にびっくりしておけばいいだけ。最初の数秒を無駄にせず動いて、致命的ダメージを避ければいいだけ。自身の強みをいかすのは、当然

 

第一の課題対策について、シリウスもガラハッドも本気でそう思っていた。彼らは、ドラゴンと聞いて中の上くらいの成績の14歳が感じる絶望のほどを、一切理解していなかった。「君が事前に伝えてくれるなら心配はない」と、シリウスは肩の力を抜いて言った。悪気のない保護者役たちのせいで、その夜もハリーはキリキリと胃を痛めた。

 

 

 

 

 

 

翌朝、ガラハッドは朝食を終えると、一人でルーン文字学の教室を目指すふりをして、一定の距離をとってハリーを尾行した。その日のハリーたちグリフィンドール四年生は、一時間目が薬草学であるらしく、ガヤガヤと温室のほうへと向かっていた。四年生の集団の後ろには、いずれもちびっこい一年生たちがいた。

 

ガラハッドは、ハリーがグリフィンドール四年生の群れから離脱したとき、無辜の一年生たちを蹴散らせなかった。

 

折しも「わあ、Sirだ!」とひとりの子が言って、こちらを見上げたまま大理石階段をのぼって―――そしてローブの裾を踏んづけて転倒した。ガラハッドはその対処にも時間をとられて、あやうくハリーを見失いかけた。ガラハッドは、ただちにその子を助け起こして立たせると、「これくらいで医務室に行く必要はない」と言って、鼻血の止め方を教えた。

 

 

「 いいか?上を向くんじゃないぞ! 」

 

 

ガラハッドは三段飛ばしで階段をあがった。そして、ようやくハリーの消えた地点へと追いつくと、汽車ならば二両先といった距離の場所で、ハリーは壁に背中をつけて仁王立ちし、その正面にある鏡を睨んでいた。ガラハッドが追ってきたことには気づかずに、ハリーはまた曲がり角の向こうに消えた。

 

 

( あいつ、何やってるんだ…? )

 

 

ひどい、胸騒ぎの始まり。

ピクシーのような騒がしさで、一年生たちはこちらを追いかけてきた。彼らは、変身術の授業に行かねばならないらしく、階段の上で無事別の道に行ったが――――まるで森の外の暴徒たちのように――――耳障りな歌や奇声を寄越した。

 

ハリーは()()()()()?あの向こうは呪文学教室だ!

 

ガラハッドは走って角を曲がろうとして、直前でピタッと足を止めた。切迫したハリーの声が聞こえてきて、一瞬で全身が心臓になった。先程ハリーがしたのと同じように、ガラハッドは曲がり角の陰で息を潜めた。

 

 

「 セドリック、第一の課題はドラゴンだ―――ドラゴンだよ。四頭だ。一人に一頭。僕たち、ドラゴンを出し抜かないといけない 」

 

( どうしてハリーは知っているんだ…!? )

 

 

ガラハッドはごくりと唾をのんだ。

聞いてはいけないことを、聞いてしまった。

セドリックが何か答えている―――ガラハッドは、もっとよく聞こうとして、聴覚へと意識を集中させた。

その時だった。

コッツ…コッツ…と難儀そうなリズムで、さっき自分や一年生たちが駆け上がってきた階段から、油断ならぬ義足の音が聞こえてきた。ガラハッドは急いで四方を見回したが、回文にできそうなものは見当たらなかった。

 

 

( 焦ってま(I'm imp)…駄目だ! 焦っ(Je sui)…絶対無理!あせ…バレ……あっ、あ!あ!? )

 

 

ガラハッドは日本語で囁いた。

 

 

「 バレてもいい、モテれば! 」

 

 

やった!!!…―――と喜んでいいのかコレは?

大理石の階段をのぼりきったムーディーは、その先で誰の人影も見なかった。

 

 

「 むっ…!? 」

 

 

眉間に猜疑を刻みつけて、ムーディーは腕を振って歩く速度をはやめた。彼が鏡の近くに着いたときには、ガラハッドはもうずっと遠くにいた。

 

 

 

 

以上。第一の試練、終わり。

 

 

 

 

ここから先は、反省会です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鏡の中の世界で、ガラハッド・オリバンダーは呆然としているようです。鏡に対して嘘は吐けないというのに、なんということでしょう!彼は盗み聞きがバレずに済みましたが、心に傷を負いました。見事な自滅行為でした。

 

 

」 !…あだ嘘。だ嘘 「

 

 

モテたくって何が悪いの?と、こうなったら開き直るしかありませんね。

彼は、開き直ったら強い男です。さあどうなることでしょう?

 

GOOD BYE(さようなら)それは()OBEY GOD(神のみ旨に)、然様なら案じることはない。

まずは明日、第一の課題の観戦を楽しむこととしましょう。

 

 

 

 

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