「 新しいメンバーを紹介しようと思う。ルーナ、そこは荷物置き場じゃない 」
日曜日のトライウィザード・ソサエティーの会議で、学生総代の声は、鞭のようにビシッと響いた。ルーナは隣の椅子からブードゥー人形をとって、ちょこんと自分の膝の上に乗せた。
会議室は静まり返っていた。
ドラコ・マルフォイとロイ・マスタングは、それぞれ彼らにしては大人しく―――しかし、十分他人をイラつかせる態度で―――既に着席している者たちを冷ややかに見下ろし、薄笑いを浮かべて立っていた。ガラハッドは板書でも解説するかのように、てきぱきと彼らのことを紹介した。
「 我が素晴らしき友人、ロイ・マスタング先輩と、ドラコ・マルフォイ君だ。ルーナ、もう一つの椅子も空にしてほしい。二人とも、このなかの誰にもないノウハウと伝手を持っていて、
誰も不満顔を見せなかった。ハーマイオニーは手を挙げず、手のひらをきっちり膝にくっつけていた。ガラハッドは、新入りの二人を空いている席に座らせた。
トライウィザード・ソサエティーのメンバーにマスタングとマルフォイを迎えるにあたり、ガラハッドは当然入念な根回しを行っている。その際ブルーマフィアの面々は、満場一致でガラハッドの提案を支持したし、今も口々に「ようこそ!」と言った。マスタングにも、スリザリンのマルフォイにも。
フレッドとジョージは気を引き締めていた。彼らは、マスタングは容赦なく「子供騙し」などと言って嗤うだろうから、下手な賑やかしは見せられないなと思っていた。“賭けに強くて取り立ての巧い奴”は、下手に関わるとまずい奴だが、味方と決まっているならば心強い。
ハーマイオニーは、どうにか平気な顔を装っていた。彼女は、自身が進めた屋敷しもべ妖精解放運動の成果をガラハッドがいくらかおじゃんにしたことで、まだ「文句なし」という気分ではなったが、ここは我慢することにしているのだ。
( だって、ハリーのためだもの… )
会議の間じゅう、ハーマイオニーは、極力マルフォイのことを見ないようにした。そして、胸の内で強く念じた。
( たしかに、私がこうして公然とメンバー入りしているんだから、逆恨みで暴走されることを防ぐためには、ガラハッドの言う通りマルフォイは、仲間に加えてやったうえで、“お飾り”にしておくのが良さそう…ガラハッドは、ちゃんと“重石”として首席のマスタングさんを連れてきてくれたし…ガラハッドとマスタングさんに挟まれて、マルフォイはかなり大人しいし…私では、かなり調べたけれど“最新の宮廷風”というものがわからないし…… )
ハーマイオニーは自然と無口になった。強力なリーダーシップによって、会議はとてもスムーズに進んでいく。ガラハッドは「叩き台だ」と言ったものの、彼の提出した
すっかり元対立候補から支持者の顔になって、ハーマイオニーはガラハッドを見つめた。ガラハッドは、真の素案起草者は自分ではない(シリウスだ)とバレるわけにいかないので、仕切りの手綱をゆるめなかった。
会議が終わると、マスタングはひとりで何かぶつぶつと言っていたが、マルフォイはそっとガラハッドに近づいていき、改めて自身を入閣させてくれたことについて、少々丁寧すぎるほどの礼を述べた。ハーマイオニーは、マルフォイがいるせいでガラハッドに近づいていけなくて、むすっとして寮に戻ることになった。当然、フレッドとジョージに冷やかされた。
ガラハッドは慎重に振舞い、暗い予感を的中させた。
ああ、あまりにもドラコは、優雅に強靭に微笑んでいるなあ…流石はマルフォイ家の嫡嗣だ。
ドラコは、こうして大公妃殿下をおもてなしする役として招かれたことを、貴種として心底誇らしく思っているし、選挙で大敗を喫した件には、もう自分なりに整理をつけているらしい。惨めな心を飼いならせ! 眠れぬ夜にドラコ・マルフォイは、以下のように自身に言い聞かせたのだろう…。
…ぼく、ドラコ・マルフォイは、ガラハッド・オリバンダーが“例のあの人”の子であることを知る者として、最もそれを引き立てて輝かせ、“次代の帝王”の座へと据えてやる役割である!次期マルフォイ家当主として、ぼくは十分にやっているはずだ!と…。
実際にドラコはそう思っていた。
ガラハッドはそれを見透かしていた。
だからガラハッドは、寄って来たドラコから「
“人間の砦”を駆使されて、ドラコはそれ以上ガラハッドに話しかけられなかった。
大所帯を形成して、ガラハッドはレイブンクロー塔へと帰った。マスタングが新たに参加したことで、ブルーマフィアと呼ばれるこの一党は、7名へと成長していた。
と、いう雰囲気度外視とにかく効率重視のプロジェクト進行のさなかでも、教師たちは容赦なく宿題を出し、学期末には小テストを行うと宣言した。彼らは、今年5年生たちがO.W.Lを受ける大事な年であるにも関わらず、冬休みに遊び惚けると確信していた。
ガラハッド、チョウ、マリエッタ、ロジャーの四人は、いずれも恋人がいないというのに、日夜どたばたとタスクに追われっぱなしで、それぞれ何らの“抜け駆け”というやつができないまま、教師たちによる『情報解禁日』を迎えて、他の生徒たちと同じ立場になってしまった。
( ヤバい…早くチョウを誘わないと…! )
ガラハッドは焦りを感じた。まったく違う意味合いで、放課後の時間が始まるや否や、人気の女子であるはずのチョウも「ヤバい、ヤバい」と小声で繰り返し始めた。なんでも、今年はクィディッチがなかったうえに、採寸をしたのが夏休みなので、ずっと仕舞ってあるドレスローブが着られるかわからないらしい。「わたし、太ったと思わない?」と、頬っぺたを触りながらチョウはぼやいた。
「 もう先延ばしできないわ。二週間前になっちゃった!今すぐダイエットを始めなくちゃ… 」
「 そうか?コメントしづらいとかじゃなくて、本当にわからないんだが 」
「 ありがと。事実、太ったのよ 」
「 階級を上げたってこと?新たなタイトルを狙うために? 」
「 ばーか!でも、そうよ。ボクサーは絞るものです!わたし、今日から試合への調整をすすめます! 」
「 おっと、やはり勝負する気です… 」
「 あのね、こういうのって自分との戦いなのよ。特別なローブを着る日に、後悔したくないじゃない 」
ガラハッドは、チョウとこんな馬鹿話ならばできたが、ロジャーほど下心を感じさせない声で、「そんなにピッタリしたドレスを選んだのか?」とは言えなかった。人波に乗って呪文学教室から廊下に出ながら、ガラハッドは妙に聞き耳を尖らせた。
チョウはあっけらかんとロジャーの質問に答えた。
「 まあそこそこね。何より、白なのよ。ああっ、顔を小さくした~い! 」
「 たしかに、白は膨らんで見えるけど…余裕ナシかよ。格式だって問われるのに?どんなデザイン? 」
「 チャイナよ。こう、襟が詰まってるわけ!袖が可愛くて、一目惚れしちゃったの 」
「 いいじゃん 」
へえ。妙に端的な感想だな?―――ガラハッドはロジャーをジロッと見やった。
なんだよ、いつものファッション談義じゃなかったのか?
そりゃあ、な?チャイナドレスとは、良いものだとも。
ロジャーめ、もうチョウのボーイフレンドじゃないくせに、偉そうに「いいじゃん」とかぬかしやがって…と、ただの友達である自分が言うのはおかしな話なので…。ガラハッドはひどく身勝手な期待を込めて、曲がり角を曲がりながら、ちらりと外側真横にいるマリエッタを穿ち見た。ところが彼女は、てんで話を聞いていなかったのだった。クスッとマーカスに笑われて、ガラハッドは自身の浅ましさを恥じた。
( さっさと誘おう…今日言おう… )
もしも恋人の地位を得られたならば、嫉妬の表明だって権利のうちだ。
マリエッタは、鏡の前を通ったことで自身の制服セーターの裾が折れていることに気がつき、サッと撫でてめくれを直していた。ガラハッドはマリエッタに付き合って足を止めなかったが、マリエッタは、問題なくガラハッドの隣に追いつくことが出来た。それなのに、彼女は彼を盗られてしまった。
セドリック・ディゴリーの仕業だった。
廊下に対して階段が細いので、大理石の階段の入り口は不可避の混雑地帯だった。5年生たちが溜まっているその場所へ、スプラウト先生と一緒に廊下の反対側からやってきたその人気者は、歩くだけで大注目を浴びながら当然らしくガラハッドと並び、あれよあれよというまに、ガラハッドをどこかへ誘い出していった。
マリエッタは嘆息した。もう先延ばしはできないというのに、マリエッタは用意している台詞を言う機会を逃した。けれどもマリエッタは、「セドリックと親友であること」も、ガラハッドの魅力の一部だと感じているから、そんなに暗い気分にはならなかった。彼らの親しげな様子には、女子同士には出せない雰囲気がある…―――「ずるい!」よりも「眩しい」が勝って、マリエッタはセドリックの狼藉を許した。
「公衆の面前で1対1」は相当自信が要るし、「人目のないところへよんで1対1」には勇気が要る。しかも、いつでも大きな男女混合グループを形成し、にこやかだがどこか威嚇的に群れていることで知られる者を相手に、その状況をつくることは困難だ。その点、「2対2」というのは気楽なもので、ノリと勢いが味方についてくる。
セドリックとたった二人でホグワーツ城を歩き始めた途端、ガラハッドは立て続けに女子たちから声をかけられた。生来気難しい気質であるはずの女の子たちは、急に途方もなく歓迎的な者ばかりになった。「ハイ!あなたたち、私たちと一緒にパーティーに行かない?」だって?―――すれ違いざまの挨拶がそれか!?ガラハッドは、自分ときたら陰鬱な英国の冬を生きているのに、セドリックの立場ではここも南国リゾートなのかと驚愕した。突き抜けたモテっぷりはすっかり感心させられて、妬みなんて抱かせないレベルだった。
杖調べのときの小部屋に転がり込みながら、ガラハッドは明るい自嘲をした。
「 くくくっ…ぷはは、すっげえな、セドリック!?セドリック効果!泣けるよ。夢を見せてくれて有難う! 」
「 よせよ。何が夢だっていうんだい? 」
セドリックは不貞腐れながら座った。セドリックの理解のうえでは、ガラハッド卿こそイカレたモテ野郎だった。選挙戦の覇者だから、尋常でなくお顔の広いことで…!
ガラハッドも窓辺へと座るや否や、セドリックは単刀直入に言った。
「 聞いたぞ。クリスマスパーティーの内容!季節の行事だからね、催すのは良いと思うよ。けれども、あの、なんで?なんでダンスが必要?どうして代表選手とそのパートナーは、皆の前で最初に踊らされるんだい?スプラウト先生からわざわざ言い聞かされて、僕はどんな顔をすればよかったんだ?君、どうしてそういうことに決めたんだ!? 」
セドリックは恥ずかしすぎて怒っていた。
ガラハッドは肩を竦めて言った。
「 さあ?全部、伝統だよ。ごねるなよ、俺は前例を踏襲しただけ。なんでそう決まっているのか、まったくわからないわけじゃないだろ? 」
「 伝統!はいはい伝統!そんなの壊してくれよ…! 」
セドリックは苦痛に満ちた呻きを洩らした。
ガラハッドは苦笑して、大して悪びれなかったが、セドリックのことを気の毒に思っていた。ガラハッドは「腹を括れよ」という視線を隠さないまま、口では神妙に慰めを言った。自分も、もしも代表選手だったなら、もちろんセドリックと同じ反応をしてしまうだろうと思っていたのだ。ガラハッドは極力他人事づらしないように、秋の初めのことを思い出してこう言った。
「 練習が無駄にならなくて、よかったじゃないか 」
セドリックは渋い顔で頷いた。少しでも現状から良い点を探すとすれば、自身は、今すぐ音楽が流れ始めてもそれなりに踊れることだ―――そのようにセドリックも考えていた。他の代表選手たちも踊れるだろうから、もっと練習をしなくてはいけないが…。
魔法族の世界では、決闘の素養は舞踏に通じる。
それぞれ無名ではない家に生まれて、疲れて芝生で寝るほど遊んで…経験して学んだから、セドリックもガラハッドもよく分かっている。どんな高貴な生まれであっても、生まれつき高貴なステップを踏むことはできない。
“優雅”とは、決まって獲得性の、人をも殺し得る技術の華。相手に差し向けて伸ばす手に燭台を握って、頼りない灯を見つめて…回れども回れどもその灯を絶やしはしない、軽やかでなめらかな振舞いを身につけた者の称号だ。
セドリックの顔が暗いので、ガラハッドは彼を笑わせようとした。
「 気負うなよ。少なくともハリーは瞬発力頼り。“フリースタイル”で臨むと思うぞ? 」
「 彼、HIPHOPでもこなしそうだよね 」
セドリックは大真面目に言った。どうもジョークではなく本気の過大評価だ、Hey Yo,これはハリーからすれば迷惑な話!ガラハッドは笑いながら前ノリで言った。
「 それで?選り取り見取りのセドリック・ディゴリーは、誰をダンスパートナーに誘うんだ?君の誘い方を見たいな。絶対勉強になる 」
「 やめて 」
ガラハッドは後半を本気で言っていた。
そのことが伝わってきて、却ってセドリックは恐怖した―――やめて、せめて、もっと容赦なく揶揄って!?女の子の誘い方になんか、興味を持たないで!君の「万事研究と研鑽」という姿勢が、近頃どれほど怖いことか!!
セドリックは咳払いをして言った。
「 女の子をスマートにダンスに誘うなんて、僕には到底できないよ 」
「 ふーん、そう…流石、待ってるだけでいい奴は、言うことが違うな 」
「 黙れよ。それで君、婚約者の件は、どうなったんだい? 」
「 ん?ああ、どこまで喋ったっけ?えーっと、そうだな…ベアトリーチェ・メディシスは、やっぱり、ナシだ。あの時は顔も知らなかった 」
ガラハッドは詳しくを語らなかった。今は、「宿題が溜まっているぞ」と優等生に指摘された気分であり、泣きついてぶちまけたい愚痴はない。ガラハッドはセドリックに、「あれ以降も気にしてもらえていたとは、有難い」と感じたものの、いつでも下半身を制御できる聖人様に対して、どうにも早口になった。
「 別にアレだ、俺は、メディシスの顔を見て『ブス。ナシ』としたわけじゃないんだ。そんな価値観では動いてない―――性格!性格が合わないと、わかったから 」
「 そっか…。それって、その…? 」
「 フィレンツェスタイルとかいうやつで、男の甲斐性を見せろと言われて 」
「
セドリックは俯いて、解釈した。そうか…つまり、ガラハッドはとりあえずその子の要望どおり、
セドリックは少し黙り込んだ。
彼は、ホッとするような悔しいようなだった。
えええ、うわあ、僕が必死でドラゴン攻略法を考えているときに、ガラハッド、君はイタリアの女の子と湖畔を歩いたりしていたのかい?―――責める権利などないのに責めたくなってしまい、厳重に口を閉じる必要があった。
ややあって、セドリックは極力さっぱりと言った。
「 それじゃ、君は最初に出会ったほうの子と定めて、踊るんだね。いいな、あらかじめ決まっているというのは 」
セドリックは面倒くさそうに言った。
ガラハッドは虫を払うような仕草をした。
「 いいや?前に会ったと言っていた、もう一人ほうの候補って、あの
セドリックは目を白黒させた。
強がりは強がりへと頷いて見せた。
「 あいつは、いつもどおり男として来るだろうよ。それに、当日は大公妃のそばで仕事をしていると思う。俺だって当日は全体を見るからな。踊る必要がないなら、踊らない。パートナーなんか形だけになるし、スタッフ同士で適当に、さ 」
「 ふぅん??? 」
それきりセドリックはまた黙り込んだし、ガラハッドもうまく続けられなかった。正直気になったが、深く訊ねるのは変だと思って―――「それで君は、いったい誰とダンスをするつもりなんだ?」と、ガラハッドはセドリックに重ねて訊かなかった。
セドリックならば、何を基準に、どういった異性を誘うのだろう? “幼馴染”が一番想像できるが、そういう子がいると聞いたことはない…。
ガラハッドは椅子から腰を上げた。セドリックのほうこそ質問欲をこらえており、ガラハッドの三倍は我慢をしていた。
ひとりで窓辺に座る状態になっても、セドリックは床を見つめて当惑したままだった―――え?嘘、あの変てこ
セドリックは顔を上げた。
そのとき、ばーんと大音をたてて教室の扉が開いたので、セドリックは垂直に飛び上がるほど驚いた。ガラハッドはポケットに手をつっこんで立っており、明るいとも呑気とも言える挨拶をした。どやどやと赤毛たちが雪崩れ込んできても、ガラハッドはまったく驚いていなかった。
セドリックは、目まぐるしくガラハッドとフレッドとジョージの表情を見比べ、彼らの陽気なやりとりを呆然と眺めて、そのうえ上級生のマスタングまで室内に入って来たことに驚いて、それを当然らしく受け入れる三人の反応から、自分がガラハッドからこの部屋で(他の部屋ではなく!)話すことを提案された理由を察した。
( ああ、そうか… )
彼らは、元々四人でここに集まる約束をしていたのだ。
ガラハッド・オリバンダーにとっては、セドリック・ディゴリーと話すことのほうが予定にない“飛び込みのイベント”で、僕は、スムーズに既存のスケジュールの隙間に入れられてたんだね。
セドリックは自惚れなかった。スプラウト先生に呼び出されて、いつもならば会わない時間に出会うことになったとき、ガラハッドは嬉しそうな様子を見せてくれたけど、一般的に言って、“歓迎的な態度”とは技術である。フレッドとジョージから話しかけられたとき、セドリックはこれを駆使した。
双子はとても喧しかった。
「 ようセドリック!こないだの試合は良かったぜ! 」
「 あの変身呪文!やべえよ、ひっくり返らされた! 」
「 どうして傷を残してないんだ?最高にクールだったのに! 」
「 勲章だぜ?引っ提げとけよ。そうすりゃ人助けになった! 」
「 さあどっか行きな!ここでの話は、聞かせられないね。すべてはパーティー当日のお楽しみ! 」
「 俺たちゃお前のオコボレ待ち!さっさと申し込みに行って、ダンスパートナーを決めてきな! 」
「 次会う時までに、決めておけ。さもないとグーをくらわせる 」
「 本校の男子生徒代表として、我々はそれを実行するであろう 」
双子はじゃれているつもりだった。セドリックは、苦笑に成り果ててしまったが、これらの冗談に笑顔で応えた。追い出されるのが自分でさえなければ、自分だって無邪気に笑ったと思ったからだ。
マスタングは家からの手紙を受け取ってきたところであり、フレッドとジョージとはフクロウ棟で会った。ロンドンはソーホーにある彼の自宅、キットキャットキャバレーはいわゆる“ろくでなしども”の巣窟である。だが、なかには売れて出て行ってマイルドな芸風になったグループもあり、たとえば『妖女シスターズ』というのがいる―――「絶対、直前まで秘密にしておいたほうがいい!最高のクリスマスプレゼントだ!!」と双子たちが主張したので、マスタングはセドリックの前で報告を始めなかった。
セドリックは椅子から立ち上がった。
( ガラハッドがマスタングを入閣させたはずだ… )
セドリックは、不意に自身は水晶玉であり、ピシリとヒビが入ったような気がした。何がそんなに面白いんだか、ガラハッドはマスタングとの雑談(大した内容じゃないと思う)に夢中でこちらを見ない。我慢ならない仕打ちではないか?マスタングは、ほとんど全方位に失礼な態度をとってまわることで有名で、“野良馬”の異名をとって久しいくせに、今だけは「邪魔だ」という目つきなどを浮かべないで、のんびりとこちらの退出を待つ構えだ。
手ひどく蹴り出されたほうが、憎み返せたぶんマシだったのに…。
「出撃だ!」と双子に囃し立てられながら、セドリックは逃げるようにひとりで教室を出た。
!僧小なう思とる入に手にきとご前お、よなる驕くくく !
今、生きているのでも死んでいるのでもない状態で、そんな高笑いをする少年がいることを知らないまま、セドリック・ディゴリーは追い詰められはじめている。
夜な夜な調べても意味のわからない、金の卵が放つメッセージ。耳にこびりつくあの音は、聞くたびに神経を削ってきて…だんだん、聞いていなくても聴こえるようになってきて…嗚呼!自分の居場所はもう、わくわくと楽しげにサプライズを企てるフレッドとジョージと、小気味よく機知を光らせるガラハッドの間には、ないんだ!積み重ねてきた時間が、自然な特別なものにしたんだよと―――よそにはなくて、言葉にはできない価値があるんだよと―――そう自分が思いこんでいた関係は、自分だけのものだと思っていた立ち位置は、どんなカスにだって簡単に掠め取っていかれるものだったみたいで、僕はこんなにショックなのに、ガラハッドは気づいてもいないような顔!!
だから、それとこれとが、直接繋がるわけではないのだが……。
セドリックは、わかっていて平然とやってのけた。直線的な論理に依らずに、身の内にある炎によって行動した。好きだから、ガラハッドには強烈な喪失感を覚えさせながら、平気な顔で微笑ませてやりたい。魔法族の世界では、復讐は当然のことであるのだ。