セドリックは憂いながら早めに大広間を立ち去ったが、真の美青年は翳を纏っているほうがセクシーだというものだ。フラーは、セドリックのことを逃すまいとしてレイブンクロー席を立ち、彼を堂々と追いかけて歩いた。そして玄関ホールでセドリックを呼び止めて、ある交渉を持ちかけた。
フラーは、しなやかにシルバーブロンドをかきあげて、気だるげな溜め息を吐きながら言った。
「 ハイ、あなーた、ダンスパーティー、どうするーですか?わたーし、あなーたのこと、わかーてまーす。あなーた、気にするーないでーす。わたーし、ただ、よく踊れーるいとを、探してまーす。わたーしたち、協力しまーす 」
「 んん…? 」
セドリックは寮に帰ろうとした足を止めて、曖昧に笑って首を捻った。「わかる」って…僕は、君と世間話以上の会話をした覚えはないのに?君は、僕の何を知っているというんだ…?
セドリックの反応は尤もである。
フラーは、「証拠が必要のようね」と判じて、長い髪をもう一度かきあげてみせた。
すると奇妙なことが起こった。
セドリックは、大広間からロン・ウィーズリーが飛び出してきて、目を充血させて狂うのを目撃した。
ロンは陶酔して叫んだ。
「 ぼく、呪い破り!エジプトで、危険な霊と戦ったことがある!クィディッチのシーカーをやってる!それに、監督生!ぼく、ぼく…! 」
大嘘にもほどがある。
フラーは、目の動きひとつで馬鹿に蔑みを与えた。
ロンは首を絞められたようになった。
セドリックには、フラーがメデューサの末裔に見えた―――何だっけ?たしか、実際に何かの血をひいているんだよな…!?
「やれやれ」といった調子で、フラーは眉を寄せて「ハァ~…」と首を回した。“官能的な吐息”ではない。“深い嘆息”というやつである。このフラー・デラクールに言わせれば、「男なんて、みんな一皮剥けばこんなもの」だ。フラーは、こんな男たちに手を握られるくらいなら、自分に興味のないゲイとダンスするほうが百倍マシだ。
フラーは再度セドリックをダンスに誘った。
セドリックは正しく怯えた。
双子の弟のロンは、脳みそが海綿体になってしまったかのようだ。セドリックはロンを助けねばと思ったが、どうすればいいのかわからず、ただ無闇にキョロキョロした。そのうちに、今度はアーニー・マクミランとエイドリアン・ピュシー、ロジャー・デイビース、それからそれからそれから…とにかく、多くの男子生徒が大広間から雪崩出てきてしまった!
フラーは、彼らを全員「フンッ」と鼻で嗤った。
あ~ぁ、こいつらに手汗を擦りこまれるのは嫌だけど、あの“シザーリオ様の仔猫ちゃん”に加わるのも嫌。あの快活さと明け透けな感じで、助ける顔をしながら見下されて、「半人間は大変だね!」などとほざかれた日には、本気で毒殺の勉強を始めてしまうわよ。
セドリックは、フラーに飛びかかっていきかけたジャスティンを掴んで引き戻し、コーマックと衝突事故を起こしながら、「ごめんね、もうパートナーがいるんだ」とちゃんと答えた。しかし、野太い声たちに掻き消されてしまった。
もう収拾がつかなかった。大広間を出てすぐのところで放たれたフラーの“誘惑”は、続々と犠牲者を増やしていった。
騒ぎは、当然、大広間の内部にまで伝わりはじめる―――…。
ガラハッドは、もっとミカからグレゴロビッチ工房の話を聞きたかったので、ビクトールからの質問に答えてはミカに話を振り続けており、まだレイブンクローのテーブルの一郭にいたのだが、玄関ホールのほうから男子生徒たちのアピールが聞こえてくるや否や震え上がり、ブツブツと経文を諳んじ始めた。
煩悩滅却煩悩滅却! 俺、二度ト、人前デ、勃起シタクナイ。
一方セドリックは、必死で声を張り上げてザカリアスのアピールを掻き消した。さながらロックシンガーである。
「 ハリー・ポッターを倒したのは俺~~~! 」
「 フラー!僕には!もう!!…くっ、いるんだ。パートナーがいるんだ… 」
「 おおお、おおおお俺は、シーカーだ!嵐の中で、こう、英雄に勝ったんだ!! 」
「 ごめんね!僕は!君を!怒らせたくないけれど!! 」
「 嘘じゃない!俺は、俺は、スネイプをぶっとばした男なんだああああ 」
「 お願い!諦めて!頼むから、もうやめてくれ!僕にはもうパートナーがいる!! 」
「 Oh、それは、残念でーす。あなーた、楽しんでくださーい 」
今度の主張はフラーにまで届いた。
フラーは、思わずフランス語でぼやいてしまった。
「 ハァ…それじゃ、どうしようかしら―――チッ! 」
舌打ちで“誘惑”の魔法は終わった。
その瞬間の形相ときたら、凶悪であった。
( ヴィーラ、怖っ!! )
セドリックは撤退を決意した。だが、脱兎の勢いで半地下に降りた時点で、寮輩が誰もついてきていないことに気づいた。セドリックは駆け下りた階段をまた駆け上がって、急いで玄関ホールへと戻って来た。
地獄の熱は冷めやらない。犠牲者はまだ増えているところだった。
「 ぼ、僕、監督生だ。ねえ君!僕、監督生だよ!! 」
フラーは、マーカス・ベルビィへと目を留めて考え中―――…ふむ、こいつは、たしかに監督生バッヂをつけているし、このぎゃあぎゃあとうるさい連中のなかでは、嘘を吐いていないぶん比較的マシかしら?こいつは、どの程度踊れるのかしら?あまり機敏そうには見えないのよね…。
真剣な目でフラーに見つめられて、マーカスはハァハァと肩を上下させた。「結婚して」とか「尽くしちゃう」とか口走り、おのずと顔は赤くなり、笑って上がりきった口角と頬骨は輝いている。ちょっと気色悪い感じだ。
まだ狂っている連中のことはどうしようもない。セドリックは、ついさっき馬鹿なことをしてしまって、我に返って立ったままショック死していきそうな仲間たちの肩や背を叩いてまわって、「みんな、今のうちに逃げよう!」と訴えた。あの美少女は大災害だ!
ロジャー・デイビースが、とても上擦った声をあげて、腕を広げてマーカス・ベルビィを突き飛ばした。セドリックは、「彼の頭は大丈夫なのか?」と思った。ロジャーは、明らかに血を流していたのである。もちろん、十分に言動もおかしかったが。
ロジャーは、フラーが強烈な催眠魔法を使っていた間じゅう、壁に背中をくっつけて後頭部を打ちつけていた。馬鹿なことをしてしまわないためだ。彼は、いよいよ彼女の正面に立って、ずっと用意してきた台詞を言った。学習歴2ヶ月のフランス語で、ド真剣に叫んだのである。
「 おるぇ、あぬぁた、とぅき! 」
フラーは撃ち抜かれたようになった。正面から水鉄砲を浴びたみたいに、フラーは大きく身を捩って笑った。真剣に言われれば言われるほど、下手くそなフランス語は可笑しかった。
「 あぬぁたのことが、とぅきだから~!おるぇで、妥協してくだつぁい!! 」
フラーは腹を抱えて笑った。
いやだこの人、なんで「あなた」も十分に言えないくせに、「
( …ドラコ・マルフォイのポスターから覚えたのかしら? )
それはそれで、良いことだ。政治に関心のある男は好きだ。
フラーは、「参りました!」という気分になって、奔放な仕草で髪をかきあげた。そして指先を髪のなかに入れたまま、ロジャー・デイビースのことを改めて観察した。見れば見るほど、笑ってしまった―――この男、私に申し込むためにめかしこんできたのかしら? 気合はわかるけど、所詮『英国男子並』なのよね。絶妙にダサくって、それがまた可笑しくって…。
玄関ホールは静かになっていない。
男子たちの声が響く地獄から、女子たちの声が響く地獄に変わっただけである。
ガラハッドは、大広間から恐る恐る顔を出して、一体何が起きているのかを知ろうとした。そしてフーリガンみたいになっているのは、自身の同寮の女子たち(賭けてもいいけど、四寮で最も怖い!)だと把握してげんなりした。
主犯はパドマだった。
マーカスは、パドマに吊るされて炎上させられていた。
流石に可哀想な光景だ―――ガラハッドはマーカスを助けようとして、火事場に近づいていくほどに驚いた。フラーがいること自体は、わかっていた。問題は表情なのだ。フラーは、もう歯を見せて笑う状態ではなかったので、ガラハッドはそれを見なかったが―――…わあっ「どうしようもない人」を見るときの、女の人の目ってなんて優しいんだろう!?
その視線の先にロジャーをみつけて、ガラハッドはあんぐりと口を開けた。
「 は?お前かよ 」
フラーはフランス語で言った。
「 いいわよ、デイビース。私、あなたを選んであげる。下手くそだったら承知しないから 」
ロジャーはコクコクと頷いた。彼は顔の筋肉が弛緩して、首振りでしかYESと言えない。
ガラハッドもフラーに見惚れた。フラーは、このみっともない馬鹿同室生に猛烈に優しい目つきを注いだあと、クスクス笑いながらボーバトンの馬車に帰っていった。コッコッと響いていくヒールの音まで、なんだか笑っているみたいった。
“嵐を呼ぶ女”であることは、魔女にとっては誇らしいことなのだろう。
大 逆 転 !
ロジャーとマーカスの力関係は、その日からすっかり逆になった。ガラハッドは、そんなことは割とどうでもよかったが、数年ぶりに“自寮嫌い”を拗らせ始めた。
いいないいなハッフルパフ寮っていいな。俺もハッフルパフ生になりたいな。俺ってばなんでレイブンクロー生なのかな?俺も黄色のネクタイがよかったな…。
十二月とは“加速する月”で、課題と小テストは波状攻撃をしかけてくる。翌週のある日、ガラハッドがそのような愚痴を言うと、ハッフルパフ五年のヘンリー・ケイシートは、迷惑そうな顔つきをして、「僕に言われても…」と呻いたきりだった。ガラハッドは、小テストの点数などというものは、真に心身の安全が保障されるときにしか価値がないと思う。それに一喜一憂できる時点で、他寮生男子は恵まれていると思う。
「 いやあ、マジで、あいつらわかってないと思うね 」
一時間後、ガラハッドは改めて愚痴を言った。
ああ、ああ、ちくしょう、よその寮の野郎は、我々レイブンクロー男の苦労を知らないでいる!未曾有の同族感を培って、少年たちはうんうんと頷きあった。揃いも揃って寮に入れなくって、「これは女子の仕掛けた謎に違いないぞ」と言い合っていたのだ。入れたところで、近頃の談話室は極力スピーディーに通過したいところなのだが、入れないことには自室にも帰れない。
寮塔の底からドアの開く音が響き、女の子たちのはしゃぎ声が雪崩れ込んできた。ガラハッドは、これが小テストだったならタイムアウトだと悟って、一段と深い溜め息をついた。彼女たちはぺちゃくちゃとお喋りをしながら、ちんたらちんたらと螺旋階段をのぼってきた。こっちはじっと待っているというのに、知ったことではないらしいのだ。
きっと、みんなが思っていることだと思うのだが―――「お前ら早く来い!」と、ガラハッドがイラついて叫びそうになったそのとき、壁の向こうからにゅっとベアトリーチェ・メディシスが現れて、先客たちを強制的に並ばせた。彼女は、両手に目一杯紙袋をさげていたので、螺旋階段の途中にいた男子たちは、ただちに左右に分かれてできるだけ壁に背中をくっつけて、手を横にやらなければならなかった。
ガラハッドはドアノッカーの前のフロアにいたので、他の生徒ほどは畏まってやる必要がなかった。ガラハッドは、ベアトリーチェにドアの正面のスペースを譲り渡してやりつつ、片足の裏では壁を蹴り、腕組みをして彼女を迎えた。
ベアトリーチェは明朗な声で言った。
「 ごきげんよう、皆さま!他校生の身で、本日もお邪魔いたしますわ 」
ベアトリーチェはそうは言ったものの、「当然でしょう?」という顔つきをして、紙袋の端を男子たちにぶつけながら花道の中央を通った。「俺がいるぞ」という目つきをしたガラハッドの前で、へらへらへこへこしたくなかったのである。
ベアトリーチェの連れてきた他寮女子たちは、ちゃっかりと花道の中央を通った。ガラハッドは、「どいつもこいつもニヤニヤして、調子に乗った顔つきをしている」と思った。彼女らは生きたカタログを品評するみたいに、左右の男子たちを見ているのだ。
ベアトリーチェはクソ真顔で言った。
「 有難いわ。お出迎え? 」
「 そんなわけないだろ? 」
ガラハッドとベアトリーチェは、お互い幼児でも相手にしているかのように、こてんと小首を傾げ合った。かっこつけられる状況でもないので、ガラハッドはやけくそに言った。
「 見てのとおり、参ってんだよ。お手並み拝見させていただいても? 」
「 開けようとしてくださる? 」
ベアトリーチェはくいっと顎を突き出して言った。
ガラハッドはカッチーンときたが、それは道理だと思った。
彼は、両手の塞がっている彼女の代わりに、一等恭しい仕草でキレながらドアをノックした。鷲の飾りの下のドアノッカ―は、カンカンカンッと大きな音を立てた。さながら火打石だ。ピラミッドの入り口の像のように、ブロンズの鷲が動き始めた。機知を試される。ベアトリーチェは緊張した―――ガラハッドは是非教えてもらいたかった。さあ、「チョーク」でも「煙草」でも「キャンディ」でもない、こちらの問題の答えは、一体、何!?
ブロンズの鷲は厳めしく言った。
『 それは細くてつまむもの。人生で1000本くらいは買っている気がするのに、なぜか消失していつも途中で足りなくなる。これなぁんだ? 』
「 アハッ 」
ベアトリーチェは高い声をあげた。
愉快なエスプリだと思ったのだ。
「 アメピン! 」
ガチャリ
扉が解錠された。
「 …くっ 」
ガラハッドは、この行為は非常に屈辱的だと感じたが、舌打ちしたい衝動をこらえて、ずっと自寮に入れなかった同胞男子たちのために、ドアを開けてまずベアトリーチェを通してやった。ついでにその後ろの女子団も通した。
「 頼む。お前なら大丈夫! 」
ガラハッドは二年生の肩を叩き、“次の謎の仕掛け役”を任せた。
今回共に知恵を絞り、共に破れた仲間たちの一人は、同学年のニール(そんなに折り合いは良くない)だったのだが、ガラハッドは彼が「アメピンって何だよ…」としみじみ呻いたので、とても強い共感を覚えた。多分、アメピンはヘアピンの一種であろうと思われたが、「男にそんな答え思い浮かぶわけない」と思ったし、“
( アンフェアだ。女の生活を基準にして、女だけ答える前提みたいな問題だすな。こんなクソ出題があるかよ! )
と、ガラハッドは思ったけれども口を慎んだ。
近頃のレイブンクロー寮では、“灰色のレディ”がかつてなく生き生きと(死に死にと?)しており、男たちはうっすらと人権がない。談話室は、別に男子の立ち入りが禁止されているわけではないのだが、今日もすっかり女子中心のサロンへと成り果てており、ガラハッドは自寮なのに居心地が悪い。
いい加減、うんざりである―――すべては、マーカス・ベルビィが悪い!でもあいつも、間違いなく催眠魔法の被害者だから、責めてやるのは酷だ。フラー・デラクールの前で、ああなってしまうのは、よくわかる。先生!パドマさんは傷つきすぎだと思いまぁす!いつまでも泣くのはせこいぞ!
“灰色のレディ”は、日頃は雲のようにドーム天井の高いところにおり、静かに悲しそうに漂っている。だが、このところは嬉々として(悲々として)低いところに降りてきて、鵜の目鷹の目で上級生男子を見る。噂の「浮気男」はどいつか、ニタニタして探し回るのである。それで、不快がった我々が下手な口を利くと(ちくしょー!何も言わなくても!)痛むように胸を抑えて、じっとりと恨み言をいってくる。
ほら!またあの話を始める気だ!
男子たちはそそくさと歩いた。
“灰色のレディ”は、パーヴァティが「来たわよ」と言ってパドマを抱きしめたのを見て、またしても苦しそうな訴えを始めた。今日初めてレイブンクロー寮に来た他寮女子たちは、物珍しそうにそれを眺めた。彼女たちは、入れ替わり立ち代わり新鮮な反応を提供しては、“灰色のレディ”に死にざまを語らせる。
「 殿方のなんと身勝手なこと… 」
ガラハッドは急いで男子寮へ逃げ込んだ。
あんたなあ、いつまでもそんなこと言ってるから成仏できないんだぞ!?…と、幽霊と言い合いをしてみたら何が起こるだろう?ガラハッドはそれが気になってちらりと振り返り、半透明のレディの背の向こうで、ベアトリーチェが次々に紙袋からものを取り出しているのを見た。
ハァまったく、由々しき事態である。ベアトリーチェが談話室に居座って商売をしている限り、男の復権は成し遂げられないであろう!
「 Cara、お聞きになって。ホグワーツにはしょっぺえクズがいますのね。あなたは、『鼻が真ん中についていない』と言われたのですって?当てましょうか?そいつは、目が水平についていないでしょう!こう、常に斜めの角度でものを見ていらっしゃるんだわ。かわいそうに。でも、『大丈夫よ』とお伝えしてあげてください。こちらは、鼻筋にも目にも使えるシャドウですの! 」
かしましい笑い声が聞こえる。
男子寮の内部にまで、女子たちの声は響き渡ってきた。
「 はぁ~ぁ、五月蠅い 」
ようやく自室に辿り着くと、ガラハッドは嘆息して、さっさと読書に没頭しようとした。
はいはい俺は、あのおしゃべりクソ女には何も期待しませんよ!少しは小さくなってすごせとか、その毒舌なんとかしやがれとか、ホグワーツで商売をするなとか、思えば思うほど「俺は言える立場じゃない」と感じられて、どうにも笑うしかないもんな。だがな、あの女を招待して取り巻いている連中のなかに、マリエッタも混じっているのだけは、いただけない。「いただけない」と思うのは、当然の感覚ではないか?
ガラハッドは椅子を引いてドスンと腰かけた。良くない傾向だとは思っているのだが、ガラハッドにはいつも“読みかけ”が複数ある。積み本を適当に掴んだ時、肌の下がぞくっとした。『釈迢空全歌集』と、表紙に日本語で書いてある本だ。マグルの文庫本であるが、ガラハッドはこれを呪文集として読んでいる。
( チョウは…チョウはもう、いいんだよ。彼女は、幸せになったらそれでいいんだ )
ガラハッドは心底そう思っている。そう思うことにした。
今だって、そうなのだ。チョウの声は、このキャアキャアの中に混じっていても諦めがつく。「はいはい、案の定」という感じである。あいつは、もともとミーハーなところがある。でも、マリエッタは違うと思っていたのに…。
あの『てんやわんやの日』から一週間。
ガラハッドは、“セドリックの祝福”についてはしくじってしまったが、どうにか、こっちのほうは上手くやりたいと思っていた。折角頑張って申し込んでくれたのだから、マリエッタのことを好きになりたいのだ。「あいつ、親がクラウチと仲良さそう」とか、そんなことは今いいんだ。いきなり結婚がどうとか考える前に、俺は、恋愛というものをしてみたい。
勉強机に両肘をついて、ガラハッド・オリバンダーは頭を抱えた。
マリエッタは、チョウほどノリが良くないぶん、チョウよりも堅実なところが良い…よな!?だらしないところがなく、喋っていて頭も悪くないぞ!まあハーマイオニーほど自分の世界がなくて、知的興奮を誘われることはないんだけどな…でも、そこらへんにいる女子に対して、“超ハーマイオニー級”たることを求めることは酷だろう?
( …そういえば、パドマの姉が入り浸っているのに、ハーマイオニーは、うちの談話室で見かけたことがないな?彼女は、群れを成して男の悪口を言ったりしないんだ。所属して笑ったりもしないんだ… )
―――…いや、いや、この先を考えるのは、やめておこう。
ガラハッドは小さく首を振った。
うんと遠く思える夏が、急に恋しくなってしまった。マダム・マルキンの店で、「君、水色似合うなあ!」と感じたままを言った時、ハーマイオニーは本当に嬉しそうに笑っていた。愚かな思い込みだったけど、自分にはそう見えたのだ。あの一瞬の笑顔で、俺はどうかしてしまったんだ。あの日買ったドレスローブを着て、彼女は誰と踊るんだろう?