ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

138 / 175
愛が呼ぶほうへⅢ

 

くだらないことを考えないためにも、マリエッタには清純でいてほしかった。10才の頃から知っているから、どこかしら父親のような気持ちもあった。

 

マニキュアが上手く塗れないのなんか、気にしなくっていいよ。嫁入り前のお嬢さん、お楽しみはほどほどにな?「実質、家族だと感じている」という意味なら、君のことは本当に好きだよ。姉がギャルになるのを止められる弟はいないけど、娘がグレるのを見るのはお父さん悲しいです。いやはや、この感覚から離脱し発展するためには、一体どうすればいいのやら…。

 

ガラハッドはそれがわからないまま、とりあえずマリエッタと過ごす時間を増やしてみた。座学では前後・斜めではなく隣に座ったし、実験ではペアを組んでみた。マリエッタはそれがとても嬉しそうで、ガラハッドは却って不安になってきた。

 

え、この恋って、発展しても大丈夫なやつ?

これくらいは、今までもやってこなかったか?

 

いつどの授業で互いにどこに座ったかなど、ガラハッドはいちいち覚えていない。代わりに不意に思い出されるのは、大昔に読んだ『源氏物語』である。

紫という名のヒロインがいる。

彼女は、歳の割に大人びていて、そうでなくても適齢期であって、そろそろ身を慎むべき頃なのだが、雀を追いかけていた頃の感覚が抜けていなくて、いつでも、どこでも(寝台でさえ!)光源氏と一緒にすごしたがる。彼女は、夜更けまでおしゃべりをすることを好み、賢いのにちょっと冗談の感覚がズレていて…―――どこかの誰かさんのことかな?―――彼女は、慕っていた源氏が“男”だと知った日に、深く傷ついて怒って引き籠っちゃって、儀式もしなければ碁遊びもしなくなる。

 

 

( マリエッタも、そうなりそうなんだよなぁ… )

 

 

チェスボードを挟んで向かい合うときに、ガラハッドは避けがたくそう思った。マリエッタは、とても楽しそうに「待って待って」と笑って、しばらく悩んだあとビショップを進ませた。ガラハッドは苦笑を洩らした―――ふーん…飛び込んでこられたからには獲りますけれど、よろしいんですかねお嬢さん?

 

 

「 メディシスのサロン。あれ、面白いの? 」

 

 

ガラハッドが自駒を進ませながら言うと、マリエッタはパッと顔を赤らめた。ガラハッドは、さっさとこの勝負を片付けないと、いまに今日も談話室にあいつがやってきて、下品さを見せつけられると思っていた。ベアトリーチェは、昨日はべちゃくちゃと喋りながらアイラインを見せつけて、「こすっても落ちませんわ!」とかほざいていたな…と。

 

極力優しく言ったつもりなのだが、不快感が滲み出てしまったものらしい。マリエッタは見るからに縮みこんで、俯いて肩を内に入れて、やがてとても小さな声で返事をした。放たれた声は小さすぎて、ガラハッドには聞き取れなかった。

 

 

「 …ぃの 」

 

「 なんて? 」

 

「 綺麗になりたいの 」

 

 

マリエッタはきっぱりと言った。

 

 

「 …そう 」

 

 

今度はガラハッドが小声だ。盤上にいる駒たちのほうが、プレイヤーたちもより騒がしかった。

ガラハッドは、今しがた不機嫌さを見せてマリエッタを威圧してしまった手前、ここは絶対に褒めなければいけないような気がしてきた。悩んでいるあいだに、負債はさらに膨らんでいく。マリエッタは、一度吹っ切れたら強い少女なので、恥じらいながらでもはっきりと言った。

 

 

「 あなたのパートナーとして、舞踏会に出るんだもの。できるだけ綺麗にならなくっちゃ 」

 

 

おっと、それは嬉しいではないか?

ガラハッドはマリエッタのことを見つめて、その容姿に言及する覚悟を決めた。「1+1=2」と教えるように、相互事実確認をするかのように、言ったのである。

 

 

「 別に、ブスじゃない。そばかすとかない。何も塗らなくていい 」

 

 

ガラハッドはギリギリを攻めた―――明らかなお世辞って逆につらいから、根拠のある主張のほうがよくない!?

ところがマリエッタは俯いてしまった。

ジト…ッと見てくる“灰色のレディ”に怯えながら、ガラハッドは言葉を尽くした。

 

 

「 え?何だ?君、『シモーネ・マルティーニの絵に似てるね』とか、意地悪な誰かに言われたのか?そいつは許せないな!『お前にも受胎を告知してやろうか!』って、勢いよく言い返すべきだと思うな!君、魔女だろ?ううん、天使だょ…!? 」

 

「 天!?…フッフッフありがとう…今のは、悔しいけどちょっと面白かったわ 」

 

 

マリエッタは笑いながら手で顔を覆った。

あぁーどうしよう、たしかに、似てるわね!?ここが女子寮だったら、早速宗教画の真似をしていたところだ。でもそれ、前首だってこと?うわあ姿勢を矯正しましょう―――…。

 

マリエッタは、改めて美容への努力を決意した。大好きなボーイフレンドに、舞踏会で恥をかかせたくなかった。自分の身の丈はわかっていたが、他の人よりも綺麗にならないと、私に「綺麗だ」と言ってくれる彼は、人から馬鹿にされてしまうと思うのだ。夢が現実になると思わなくて、何もかも準備が足りなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハーマイオニー・グレンジャーが誰のダンスパートナーになるのかについて、ガラハッドが気にしつつも気にしていないように振舞えたのは、彼女にはハリーという親友がいるからで、しかも、そのハリーが情けないからだった。チョウは、ハリーのことを良いだと思っているから、明日から冬休みが始まるという日にハリーから誘われたことで、ハリーのことをとても心配した。

半分は、本気で。

のこりの半分は、猫をも殺す好奇心によって。

 

 

「 ねえねえ!ハリーは、舞踏会で最初にホグワーツ代表として踊る仲間なのに、まだパートナーが決まっていないみたいよ?大丈夫かな?大丈夫かな? 」

 

 

四年生以下ならばもう放課後の時刻の、学期最終の授業の、それも魔法史の時間。その真っ最中にチョウは、背後からガラハッドの肩をぺちぺちと叩き、身を乗り出して密告を行った。ガラハッドは、「遺憾にも、今日ビンズ先生のお話を真剣に聞いている生徒は、このガラハッド・オリバンダー以外にいない」と感じており、振り向きもせずに渋面で耳打ちを受けたのであるが、チョウの報告のほうが面白くて、いっきに“巨人戦争”のことを忘れた。

ガラハッドはニヤッとして振り向いた。

 

 

「 それ、本当に? 」

 

「 本当本当 」

 

 

チョウは深刻な注進ぶっていたが、口許がむにゅうっと変に歪んでいた。しきりに善行を推奨するチョウに、ガラハッドは確信的な口ぶりで言った。

 

 

「 問題ない。ハリーは、いざとなったらハーマイオニーに泣きつくから。放っといても、当日、一人で来たりしないさ 」

 

 

チョウは小さくポニーテールを振った。

 

 

「 そうかな? 」

 

「 そうだよ。ハリーは、自分のことは自分でなんとかする。『よう大丈夫か?お前のパートナー、俺たちが紹介してやろうか?』なんて、このあと声をかけにいったら何をしてくると思う?―――賭けてもいいけど、クソほどヤバい呪いをかけてくると思う。チョウ、忘れてはいけない。あいつは、ゴイルを医務室送りにした奴なんだ 」

 

「 うふふ、そうだね。それに、ドラゴンを出し抜ける。彼は、とってもタフだもんね 」

 

 

チョウはクスクスと笑った。

今日という日までにチョウ・チャンは知っている―――ケイティ・ベルは、アンドリュー・カークと行く。アリシア・スピネットは駄目、クライド・ボーンがいるから。アンジェリーナ・ジョンソンは、きっとハリーから誘われても断る…あのシャイな様子のハリーは、女の子の友達が多くなさそう!

チョウは黙ってニコニコした。チョウは、「ハリーってば身近にOKの人がいるならば、私にまで声をかけに来なかったでしょうよ」と思ったけれども、クィディッチを楽しむ仲間として、さっきハリーに頼って訪ねてこられたのは嬉しかった。

お姉さんの気分なのだ。

でも、実のお姉さんではないのだ。

だからチョウは、あの“グリフィンドールのグレンジャーさん”について、「ハリーと組まないっていうことは、他にパートナーがいるんじゃないの?」と思ったが、「いないほうがいいな!」とも思った。ハーマイオニー・グレンジャーのことについて、ガラハッドと議論する気はなかった。

 

 

「 ふふ!ご報告、終~わり 」

 

 

チョウは踵を返した。

ガラハッドは、くるっと自分より後ろの列との会話の輪に戻っていったチョウを、新種の妖精みたいだなと思った。チョウは、ただちにメアリーたちに質問されて、一緒にきゃあきゃあ言い始めた。「どうだった?」と黄色い声で言われて、大きく肩を竦めて見せていた。

 

 

「 残念。『放っとけ』だって 」

 

「 どうして~紹介してよ~~! 」

 

「 Sir つめたい 」

 

「 冷たい冷たい 」

 

「 直接申し込むといいよ!行こうよ!わたし、呼んできてあげる 」

 

「 やーだ!あなた見ていたいだけでしょ? 」

 

「 えへへ、バレた?さっきはそっちが見たじゃないの~! 」

 

 

ガラハッドは微笑して前を向きなおした。自分は、いきなり女子グループからまあまあ罵られたわけであるが、これがガールフレンド効果というやつであろうか…我ながら寛容寛大の士となっており、別段悪い気分ではない。人間同士だと思うとムカつくが、「みんな、“女の子”という妖精だったんだなあ」と思えば許せるというものだ。

 

隣でマリエッタが微笑んでいるぶん、俺よ是を怠って軟弱となるべからず!

その後のガラハッドは熱心に授業を聞き、今学期の学業を締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてその頃グリフィンドール寮では、ハリーとロンとジニーが膝を突き合わせて座り、三者三様に暗い顔をしていた。ハリーは、チョウに焦がれるのではなくセドリックのことを思い浮かべて、「あいつは、お顔が可愛くて頭は鳥は程度…」と念じていたし、ロンは、「まだ相手がいないのは自分たちだけ!」と呻きながら、その場にいないネビルを馬鹿にしまくった。そこにハーマイオニーがやってきて、少年二人と少女二人は、やいのやいのとクソの投げ合いをした。紳士と淑女の振舞いではなく、全員幸せにならない会話だった。

 

 

「 だから、言ったでしょ! 」

 

 

ハーマイオニーは叫んだ。

 

 

「 わたしは、他の人と行くんです! 」

 

「 嘘だ 」

 

「 嘘じゃありません 」

 

 

なんと幼稚な言い合いでしょう!

ハーマイオニーはカッカして嘘をついて、手をグーにして肖像画の穴のほうに歩いて行った。ロンはその後ろ姿を見て、自分の腕に触れているジニーに言った。

 

 

「 あいつ、嘘ついてる 」

 

「 少なくとも、あなたのような人とは、行きたくありません! 」

 

 

怒鳴ってハーマイオニーは出て行った。

この捨て台詞は効いた。

ロンはぺしゃんこになった。

 

ジニーは、のろのろと女子寮の階段をのぼりながら、本当に惨めな思いをした。ハリーは、ピンと機敏な鹿のように立ちあがったから、「嘘!わたしのこと追いかけてくれるの!?」と思ったのに…わたしとは入れ違いに出てきたパーヴァティへ、わたしの目の前で申し込みを始めた…―――ジニーは、それを一秒でも見たくなく、一言も聞きたくなかったけれども、思うように身体が動かなかった。

 

 

( ずるいわ、同級生って… )

 

 

自室に戻って、ジニーは泣いた。

絶対、わたしのほうがハリーのこと好きなのに!ハリーのこと、「有名な同級生」くらいにしか思っていない子にとられちゃった。

 

ジニーは泣きながら椅子に飛び乗って机に向かい、羽根ペンをつまんでインクをつけた。

これは面白い予感がして、。だんこき覗てしヤニヤニはルドリ

 

 

」 よるいに“屋部の術金錬”、は僕 ?いかるれくでん盗たま 「

 

 

ジネブラ・ウィーズリーという少女は、かつてよりも成長している。

今、彼女は泣きながらでも極力幸せぶって、愛を込めて手紙を書き始めた。生憎、根っからこてこての魔女であるので、待っている側のシンデレラと違って、ドレス等は自己調達なのだ。三年生という立場だから、夏のうちに準備ができていない。

 

 

大好きなママへ

あのドレスローブを貸してください!なんと、わたしも舞踏会に行けることになりました。夢みたいです。ずっと憧れてました。パパとの思い出のローブを、わたしも着てみたいな!!!

あなたのジニー

追伸:靴は友達に貸してもらうね

 

 

書き上げて、ジニーはしてやったりだ。。たっいてっ去てしち打舌はルドリ

よし!これでパパとママは胸がいっぱいになって、アツアツの空気でお喋りを始めて、ちょっとしたお菓子とかと一緒に急いでフクロウに荷物を持たせてくれて、当日までに間に合うことでしょう!正直、あのローブはデザインが古臭いんだけど、ロンたちはお古で我慢しているのに、本来呼ばれてないパーティーに行こうとしているわたしが、新品をねだることなんてできないわ。さぁて靴は誰に借りようか…。

あの微ッ妙~(でも、ないよりマシ)なドレスに合う靴を持ってる、私と足の大きさが近い子って、誰がいる?サニーレタスみたいなローブを思い浮かべて、ジニーは腕組みしてうんうん唸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏は遠くなっていた。外はしんしんと雪が降り続け、色のない世界が広がっている。あんなにうるさかったヒキガエルたちは、今頃凍てついて土の中にいる。外は本当に静かなのに、城内は賑わしいかぎり―――…。

 

終礼のベルが鳴って、ガヤガヤは一段と大きくなった。“魔法史”の授業中だって全然静かではなかったのに、もう誰も彼も、一切の遠慮をしない。鞄に荷物を詰め込んだり肩にかけたりしながら、非常にほがらかにお喋りをし、もう次の授業へと急ぐ必要はないのに、慌ただしく教室を出て行く。

ガラハッドは前列に座っていたので、大部分の同級生を見送ってから教室を出た。ロジャーは、このところずっと上の空で、建設的対話の相手にならなかった。そこでガラハッドは、開放的な空気に満ちている廊下で、マーカスのことを小突いて話しかけた。「ハッピーホリデー!」と囃すキューピッドが頭上を通っても、激痩せマーカスくんの瞳は虚ろだった。

ガラハッドは極力明るい声で、お祭りの空気を盛り上げるように言った。

 

 

「 なあ!寮に帰ったら、カタログを交換しよう。ひとつ知恵を借りていいか?屋敷しもべ妖精たちへのクリスマスプレゼントは、何がいいと思う?お前って、こういうの得意だろ。アイデアくれよ 」 

 

「 カード 」

 

 

マーカスは暗く短く言った。ただでさえ目立つガラハッド卿に、外で大声で話しかけてほしくないのだ。誰と誰が同室であるかなんて、視線のうるさい他寮女子たちは、一切把握していないので…。

ガラハッドは気にせずに言った。

 

 

「 いいや彼らって、カードを贈るわけにいかないんだ。チップもよくないし、靴下も一般的にはアウトだ 」

 

「 へえ 」

 

「 いよいよだ。いよいよ無茶苦茶働いてもらうのに!彼らって、何を贈れば喜ぶんだろうな? 」

 

「 知らないよ。そんなの 」

 

「 杖磨きセットをやるわけには、いかないから… 」

 

 

ガラハッドは失速していった。

マーカスの機嫌は上向かなかった。

マリエッタは鼻で溜め息を吐いて、不出来な弟に語りこむように言った。

 

 

「 ねえ、知ってる?あなたが怒らせた人は、あれで、あなたを待っているのかもしれないわよ 」

 

 

マーカスの瞳に火が灯った。

マリエッタは保険をかけるように言った。

 

 

「 少なくとも昨夜の時点では、彼女、まだパートナーがいなかったわよ? 」

 

「 でも、僕、僕、もう話しかけられないんだ…! 」

 

「 そうなの?談話室の話に割って入れないのなら、私が呼んできてあげましょうか? 」

 

 

マーカスは猛烈な頷きを見せた。

あっ、これ、俺は邪魔になるやつだな?―――ガラハッドは正しくそう察した。

マリエッタ様を拝んで困らせながら、マーカスは寮に帰っていった。

ガラハッドは寮に向かっていたけれども道を変えて、少々散歩をすることにした。

 

 

万年氷で彩られた螺旋階段に、輝くクリスマスツリー…歩き回って見物するべきものが、この城には唸るほどあった。第一の課題のときにホグワーツを飾ったことで、ガラハッドは呪文学のフリットウィック先生と、変身術のマクゴナガル先生から褒めていただいた。彼らは、生徒には負けまいと思ってくださったのか、お互いに負けまいと思っているのか、冬至舞踏会(ユールボール)に向けてホグワーツを美しく飾ることについて、日夜最高の記録を更新中!もはや異次元の高みへと手をかけており、開いた口が塞がらない。本当に美しい光景は、鑑賞者から声を奪ってしまう。

 

習慣の果てに起こる事というのは、一般的には“必然”と呼ばれる。なんとなく歩いていくならば、ガラハッド・オリバンダーの足はそのうちに図書室へと向かう。そうであることを期待して、ハーマイオニー・グレンジャーは、図書室前の歓談スペースに座っていた。ああ、あと少し、ガラハッド卿が来るのが遅ければ!―――薬草関連本コーナーの陰には、ビクトール・クラムが身を潜めていた。そうか、彼女がここに一人でいたのは、トライウィザード・ソサエティーの用事があったのだな…?

 

ちょこんと座っているハーマイオニーを見かけたとき、ガラハッドは快活に「おっ」と言った。

 

 

「 やあ、一人? 」

 

 

もちろん、目に揶揄いの色。

ガラハッドの声は軽やかだった。

ハーマイオニーはコクコクと頷いて、ガラハッドがそんな挨拶をした途端、ここはホグワーツ校内であるのに、彼が“姿現し”によって、シュッと間近へと接近してきたような気がした。だが、実際にはそんなことはなかった。だから、きょどきょどしてわからなくなったことがあった。

 

 

( えっと…人と話すときの自然な距離って、何フィートくらいだったかしら…? )

 

 

ハーマイオニーは、「今日のガラハッドは私と話すのに、やけに遠くにいる」と感じた。

実際に遠くにいるのか、もっと近づきたいからそう感じるのか?客観的事実は、前者だったのであるが―――ハーマイオニーは、この問いをみずから立てただけで、全然検証ができずに恥らってしまった。

一方ガラハッドは残念そうに、「一人かあ」と言ってニヤッとした。

 

 

「 ハリー、あいつは、気の毒な有名人だ。まだパートナーがいないって、そこらで噂されてるぞ―――ところで君は、誰とダンスするんだっけ? 」

 

 

と、こんなものは軽い世間話!

ガラハッドは、こんなふうに軽やかに聞き出すのならば、そして飛び出してくる名前が誰であっても、悲しくても寂しくても明るく振舞えて、そのまま笑い飛ばせるような気がしていた。

ハーマイオニーは照れてはにかんだ。

 

 

「 もちろん、あなたよ 」

 

「 ―――…っ 」

 

 

ガラハッドは快活な笑顔のまま固まった。

えー…っと、この手の冗談をド滑りさせる傷って、生半可なものではないからビビっちゃうなぁ~~~…俺って、揶揄ったつもりで揶揄われてる?それとも、ハーマイオニーはガチの意志で言ってる?

 

俺ってば、絶望的馬鹿だからわかりますよ?

こういうのって、9割“男の勘違い”なんだろ?

 

 

「 …フッ 」

 

「 ッ!!? 」

 

 

最低最悪のタイミングで、ガラハッドは肩を震わせてしまった。貼りつけた笑顔のままじわじわと俯いて、ハーマイオニーへと返事をする前に、自嘲に震えたのである。

ハーマイオニーは、蒼ざめて痙攣した。

ガラハッドは右手で目を覆っていた。

ビクトールは固唾を呑んで全身を耳にし、自分の心臓の音と戦った。

ガラハッド・オリバンダーは言った。

 

 

「 そういうの、俺、真に受けちゃうから…君に言われて真に受けない男って、いないから、ちょっと、勘弁してほしい 」

 

「 わたしふざけてなんかないわ 」

 

 

ハーマイオニーはきっぱりと言った。しかし声は震えていて、怯えがあった。

 

 

「 ふざけてる 」

 

 

ガラハッドもきっぱりと言った。こちらもまた震え声だ。

 

 

「 ふざけてる。二回も俺をフっておいて、ふざけてるよ。俺のこと弄んで楽しい?君って、そういうことする女の子だったわけ 」

 

 

ガラハッドは視界を断ったままだ。

ああ自己の愚かさには、果てがない。

 

自分は、近頃ガールフレンドが出来たけれど、それで全然真っ当になれていないのだ。むしろ「手、出せるか?」「出すべきか?」「いかに出す?」「出したらどうなる?」みたいなことを、ずーっと考える習慣がついちゃってて、脳みその半分がそれに使われているから、結果的に落ち着いているように見えるだけ。

自分は、この通り性欲の奴隷だから、本当に大好きな君に嫌われないように、可愛くて仕方ないお嬢さんを傷つけないように、「とうにフラれたんだなあ」と解釈して、納得して、あの錐揉み飛行のような精神状態から、どうにか軟着陸できたような心地で居たのに!

すべては、自分の思い込みと舞い上がりだったんだと悟って、クールに前を向いたつもりだったのに!

実はそれこそが大きな勘違いで、彼女のほうはこちらを想い続けてくれていたなんて。

そんなの、嬉しいに決まっているけれど、どうしてよりによって今言うんだ?

逆に今になってOKなら、つれなかったあの時期は何だったのか…

 

…と、俺は無茶苦茶思いながら我慢して我慢して我慢して話し、「女を怒鳴るまい」と思っているのに、このハーマイオニー・グレンジャーはギャンギャンわんわん、ガキみたいな癇癪起こしやがる!

ハーマイオニーに大声をあげられて、ガラハッドは低い声で唸った。

 

 

「 二回っていつ!? 弄ばれた!? 呆れた! それって、わたしのほうの台詞じゃないの!? あなた…あなた、もうパートナーがいるのね!!! 」

 

「 普通は、この時期にはもういるだろ 」

 

「 普通って何よ!わ、わたしの、周りは、まだ皆いないわ!それか、ネ…うっ、ううう、うえぇぇぇん、いいわよ、あなたは、『Ciao,Cara!』って呼びかけあってなさいな! 」

 

「 な、ん、で、そこにあのクソ女が出てくる!? 」

 

 

ガラハッドの忍耐は切れた。

ハーマイオニーは大泣きして、顔を覆って髪を振り乱した。

そうよ、どうせわたしは“一軍”じゃない。“ぼっち”です。わたし、ぼっちよ!ついさっきロンと喧嘩して、見得をはっちゃったから寮には帰れない! こんな状態で、図書室のなかには逃げ込めない。しゃくりあげが止まらなくて、マダム・ピンスに見咎められちゃう…。

 

斯くして、いきりたったビクトール・クラムにとって悪いことに、ハーマイオニーは()()()()()()()()へと駆けこんだ。ビクトールは見かねて飛び出したのであるが、哀れな乙女を救うことはできなかった。ただ道化のように舞台へと飛び出すことになり、クズ男の奇行鑑賞者となっただけだ。

ガラハッドは、膝から崩れ落ちて床を叩いた。

 

 

「 そこ…女幽霊いるとこ…! 」

 

 

沈痛な響きである。脇腹でも刺されたみたいに、ガラハッド・オリバンダーは呻いた。

 

 

「 しかも鷲寮(うち)の…よりによって鷲寮(うち)の…ああああクッソ、俺のこと呪う気だな!?祟るのか。おかしいだろ。誰か、誰か、俺に味方してくれる幽霊は…!? 」

 

 

男子トイレって、個室が少なすぎると思う。

男だって引きこもって泣きたい!

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。