ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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愛が呼ぶほうへⅣ

 

小さなコノハズクが運んできた手紙を読んで、ルーナ・ラブグッドは目を真ん丸にした。誰かが、しかも他寮生の誰かがお世辞じゃない意味合いで、あたしの持ち物を褒めることなんて初めてだ。

 

ルーナがジャンプスキップで喜びを表すと、ピッグウィジョンも嬉しそうにホゥホゥ鳴いた。ふわふわのスニッチが飛び回る中で、ルーナはしゃがみこんでベッドの下を覗いた。そして、キラキラ輝くシルバーのパンプスを取り出すと、中に詰めこんであった小袋を抜き取った。

 

ルーナは、この靴を杖のように振るった。とても大きく、踊るように振るった。ジニーは、借り受けた靴が湿っているのはもちろん、薬草の匂いがしすぎるのも嫌だろうから。ルーナは高らかに唱えた。

 

 

「 ビビディ・バビディ・ブゥ! 」

 

 

今、魔法がはじまる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼっちの私がトイレで泣いてたら女子の先輩(50年以上ね)が嫉妬!水をかけるイジメを受けちゃって、びっしょびしょで追い出されてもうどうすればいいかわからないところに、有名クィディッチ選手が登場!颯爽と助けてくれて、そのうえ愛を告げられちゃった!え~っそんなの困っちゃう~!?みたいな展開、今時クサすぎて無料のカートゥーンにだってないと思うのに、現実にあったからびっくりして、びっくりして、びっくりして……ええ、びっくりよ。

 

ビクトール・クラムは勝利した。

ハーマイオニー・グレンジャーは、ほとんど呆然自失になり、我に返る前に小さくYESと言った。だってだって、願ったり叶ったりだ。よかった!わたし売れ残らなかったわ!?―――その切迫感が何よりも勝った。

 

しばらくして、ハーマイオニーはハッとして怯え声で言った。

 

 

「 いや!わたし、ハリーを売ったりしないわよ!? 」

 

 

逆ハニートラップを受けたと思ったのだ。

なんと純真で、清潔な心の乙女だろう!―――ビクトールはますますハーマイオニーに惚れこんで、転がるように逃げていく彼女を見つめた。きゃぴきゃぴとサインをねだってくる女たちとは、彼女はまったく違うのだ。恋に勝利した興奮によって、ビクトールは気が大きくなっていた。

ビクトールはハーマイオニーへと叫んだ。

 

 

「 もちろんでつ! ヴぉくは、ジュルいごとなんでしだくない! 」

 

 

そんなこと、二度とするものかと誓う!

悪しき者を征伐せんとして、ビクトールは図書室に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“恋に死んだ者”の姿として、ガラハッド・オリバンダーは大正解であった。彼は、項垂れて本棚へとしがみつき、重ねた手の甲に額を預けて、目を閉じてか細い息をしていた。“力尽きたセミ”のポーズだ。

 

 

( 情けないやつだ。自分が悪いくせに )

 

 

ビクトール・クラムはガラハッド・オリバンダーをみつけるなり、肩をどんと押して、よろけさせて自分と向き合わせた。こんなのは、男ならばみんなする挨拶だ。「(Sir)」などと呼ばれているインテリには、初めての体験かもしれなかったが。

挑戦的な声色ながら、ビクトールは親しい友達らしく言った。

 

 

「 やあ、プレイボーイ! 」

 

「 や、やあ… 」

 

「 驚ぎました。ヴぉくは見だ。あなだでも失敗つるこどがあるんでつね! 」

 

「 ―――… 」

 

 

ガラハッドは再びそっと目を閉じた。―――「失敗することがある」だと? 俺の人生、明らかに失敗の連続だよ…。

 

セミのポーズをとりながら、ガラハッドはずっと考えていたのであるが…いつ、どこまで遡ったら万事がうまくいくのやら、わからないことがまた悲しいのだ。どうすれば、ハーマイオニーと恋人になり、マリエッタとも友達として仲良くしつつ、自分は無事に学生総代となり、今日という日を迎えられたのだろう?悔やんでも仕方がないのに悔やんでしまうならば、せめて何かしらの意見を持ちたいというのに、どうしたって脱出できない迷路で、何度も同じところに戻らされる気分だった。

 

ガラハッドがまるで闘争の色を見せないので、ビクトールはより勝利した気分を高めた。小突いてもしおらしいガラハッドに、ビクトールはぐいぐい話しかけた。

 

 

「 彼女どは、どういう関係? 」

 

 

ガラハッドは、ビクトールを下世話だと思った。

 

 

「 見てのとおりだが? 君、意外とクるなあ… 」

 

 

ガラハッドは眉を顰めた。

 

 

「 ヴぉくは知りだがりではない 」

 

 

煙たがられて、ビクトールはむっつりと言った。

 

 

「 ヴぉくは、彼女どダンスをする。彼女は、あなだと話しで泣き出しだ。ヴぉくは彼女を守るので、悲しい理由、知らなくではならない。彼女は、傷づいで見えました 」

 

「 え? 」

 

「 トライウィザード・ソサエティーは、何をしていますか?あなだは彼女のボスでしょう?ヴぉくは、彼女を心配しでいます 」

 

 

ガラハッドは目を瞑ることをやめた。ガラハッドは、耳を疑い、目からも情報を得ようとして、目を開けた途端に猛シーカーの気迫に圧し潰された。咄嗟に数歩下がり、ヒュッと息を呑んで…頬を引きつらせたからには笑って、ガラハッドは、少しビクトールを揶揄うように言った。

 

 

「 それ本当?君が、ハーマイオニーのパートナーになるって話。『そうしたいなと思っている』ということ? 」

 

「 本当です。決まりましだ 」

 

「 …ついさっき?そりゃ、良かったな。彼女、俺にとっては妹みたいなもので―――ドレスを選んだりしてやったから、気を持たせちゃったみたいでさ?それで泣かせちゃった。有難う、当日、楽しませてやってくれ―――もういいだろ?これでも、反省してるんだ 」

 

 

ガラハッドは平気そうに言ってのけた。

ビクトールは露骨にムッとした。その露骨さをガラハッドは嗤った。

 

睨みを笑顔で跳ねのけて、華やかな男を気取って―――どうにか強がりができているうちに、ガラハッドは図書室を出た。

濁流のように、どこからか押し寄せてくる思いがあった。

遅々として来ない“動く階段”を、ガラハッドは初めて叱りつけた。

 

 

「 ナラの樹!さっさと来い! 」

 

 

直後に、悪いことをしたなと思った。

でもでもだって、少しはわかってくれよナラの樹!こっちも男だから、厭ってほどわかってんだよ。クソが、あのクラムみたいなイキった道徳的騎士気取りほど、実際のところチンポで物を考えてるぞ!弱り目の子を捕まえて、「話を聞くよ」とショボーンとして見せて、フットワークの軽さを売りにして、媚びながら依存させようっていう寸法だ…うわーッあんな奴にハーマイオニーが!!嗚呼ああやって、女の愚痴の掃き溜めを買って出る男ときたら、その醜さといったら、酷いもんだよ。卑しくって、汚らしい!あいつ、明らかに中に人がいるってわかってる女子トイレに、ずかずか入って申し込んだのか?どんだけがっついてんだ?普通に考えてキモいだろ、ハーマイオニーも断れよな!

 

 

( あの底辺野郎!リドルかよ!!―――…。…そんなわけないか )

 

 

ガラハッドは、自分で二本の足を動かして図書室から出てきたのだが、本気で「クラムによって追い出された」と感じていた。すれ違う生徒に挨拶をされるたびに、ガラハッドは愛想よく忙しいふりをするのに苦心した。

 

どうか、どうか、独りにさせてほしい。

 

ガラハッドは早く霧深い外へと出て行って、静かな湖を眺めたかった。そこがどれだけ寒くてもよかった。寒いほうがいい気さえした。

 

 

( ああ、クソ、弱ってる女の子のとこに駆けつけていい顔するなんて、そんな典型的手段、“天下のビクトール・クラム”はとらなくてもいいのにな!そういうのは、誰がやっても一定成功する手じゃないか… )

 

 

だから、勇猛果敢なること疑うべくもない、世界的クィディッチ選手様はやらないでください。その手段は、生きてるだけで精一杯な、弱い男のために残しといてください―――黴臭い掃除道具箱の前を突っ切る時、ガラハッドはいっそう惨めな気分になった。

 

 

中二階である。ガラハッドは、鬱陶しい箒たちに掃除道具箱から飛び出してこられる前に、大急ぎで勝手口の扉を開けた。金具が錆びているので、聞き苦しい音が鳴った。湖畔まで歩いていく手間が惜しくて、ガラハッドはそうした。

 

そこは、出ていくと小さなボート一隻がやっとの船着き場で、東棟へつながる橋の下の堀に降りるところだ。うらぶれて寂しく、石段以外には何もない。それなのに、扉を開けると同時に飛び上がった人物がいて、ガラハッドは逆に驚かされた。日常に疲れて、こんなところにて座り込むことがある生徒は、自分だけだとばかり思っていた。

 

ハーマイオニーはお尻をはたきながら、素っ頓狂な声をあげた。

 

 

「 ガラハッド!?どうしたの…さっきぶりね… 」

 

 

どんどん声が小さくなっていく。

この広いホグワーツ城で、こんなことってあるのだろうか?ガラハッドは、しばらくぽかんとしてハーマイオニーを眺めた。やがてガラハッドは、非常にていねいな仕草で扉を閉じて、まるで教師かのような態度で言った。

 

 

「 華やかなお噂を聞きつけましてね 」

 

 

ハーマイオニーはサッと顔色を変えて、ぱたぱたとお尻をはたくのをやめた。珍しく受け手に回ったが、今のは、ハーマイオニーがよくロンへとやっていることだ。

 

ガラハッド・オリバンダーとハーマイオニー・グレンジャーは、良くも悪くも似たところがある。

 

いきなり大人げなく嫌味を言ってしまって、ガラハッドは堀の流水をにらんだ。そうして、今度はかなうかぎり冷静な口ぶりで、ハーマイオニーへと尋ねかけた。

 

 

「 ここで何をしていたんだ? 」

 

 

なんと内容のない発話だろう。

ハーマイオニーも流水を見て答えた。

 

 

「 何も…何もよ… 」

 

「 何も?本当に何もないのか 」

 

「 あるでしょ、ちょっと、頭をからっぽにしたいときって…―――疲れちゃったときとか、びっくりしすぎることが起きたときとか… 」

 

「 クラムとダンスパーティーに行くそうだな 」

 

 

空虚な会話なんてしていられるわけがない。

ガラハッドは火の玉ストレートを放った。

 

 

「 どうして知ってるの!? 」

 

 

ハーマイオニーは、真っ赤になって自身の頬に触れた。彼女は狼狽えてあちこちを見たが、別に逃げようというわけではなかった。

 

 

「 あの、それ、そういうことになったの、ついさっきよ? 」

 

 

ハーマイオニーは向き直って、真正面からガラハッドを責めるような目で見た。

 

 

「 あなた、そこらじゅうにスパイでも雇っているの? 」

 

「 その必要があるなら、そうするね 」

 

 

ガラハッドは低い声で言った。彼はじっくりとハーマイオニーのことを見据え返して、彼女に人差し指をつきつけた。

 

 

「 あんまり、きつい意地悪をされないようにな 」

 

 

ハーマイオニーはぶるぶるっと背伸びをして震えた。真っ白の息を吐き散らかして、ハーマイオニーは前のめりになって吼えた。

 

 

「 怒ってるの?でも、でも、あなたが誘ってくれなかったんじゃない…! 」

 

「 なんだってわざわざクラムなんだよ。俺と行きたかったんなら、そういう態度しとけよ 」

 

「 何それわたしが悪いっていうの?あのねわたし、クラムのこと自分から誘ったんじゃないわ!彼が、向こうから、誘ってくれたの!信じられない?でも、これ、現実です!わたしにだって、こういうことはあるのよ! 」

 

「 当たり前だろハーマイオニー。あのさ、これは、言っていいことなのかわからなかったんだが… 」

 

 

ガラハッドは語気を強めていった。彼は、彼なりにどうにか怒鳴るまいとして、楔を打っていくような声色になった。ますます威嚇的なのだが、彼なりに努力をしていた。

ええ、はい、人を指さして喋るのは、いけませんよね!!―――ガラハッドは残りの指も全部伸ばした。

 

 

「 …君、十一月のどこかで、ちょっと前歯に細工をしたよな?隠さないで、よく笑うようになった。もう文句なしの美人だよ。言い寄る男はそりゃあいる。けどな、お忘れにならないでいただきたいんだが、君を最初に可愛いと思っていたのは、俺だ。あいつじゃなくて、俺だ―――なあ君は、俺が箒コンプレックス拗らせてて、クラムになら弱いとでも思ってるのか?違うぞ?俺は、君に弱いんだ。今だって、別にクラムにならいくらでもボロカス言ってやれるのに、俺は…君には…ぁ!? 」

 

 

淡々とした口調…の、はずだった。不意に突きだしている手をハーマイオニーに握られて、ガラハッドは微かに情けない声をあげた。

温かかった。

足から凍りつくような寒さなのだ。頬なんか紅潮しあっていて当然だ。

この女の子は悪い子だ。男の手の熱を味わって、クスクスと笑い声をあげている。「言葉は迷走する、仲直りには“これ”が良い」って、知っているのは本能なの?

ガラハッドの手を両手で包んだまま、ハーマイオニーは小さな声で言った。

 

 

「 ごめんなさい 」

 

「 許さない 」

 

 

ガラハッドはきっぱりと答えた。

びっくりさせられてしまったんだ。びっくりさせ返してやらないといけない。

揶揄うように笑いかけて、ガラハッドはハーマイオニーにキスをした。

 

 

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