彼という人は、怨霊である。それも、そんじょそこらの雑魚ではない。
この者は、野に伏し山に伏し岩木を枕とし、艱難苦行捨身の戦場で、生きながら修羅となりおおせた。身は壕のなかで焼かれて、心のみ地獄へとくだって、やがて
だから、彼は、好きな人に胸へ飛び込んでこられたら、二人の間には空気もいれないほど抱きしめる。ガラハッドはハーマイオニーの側頭へと頬を寄せて、彼女のことをギュッと“固定”した。もう寒いわけがないのに、腕のなかでハーマイオニーは震え続けていた。
ガラハッドはクスッと笑った。
勢いがありすぎるから、いけないんだろ?
精度のよくなかったネジが浮いてきて、いよいよ空中分解する直前の機体みたいだ。
不思議だな、ハーマイオニーの身体は、鋼鉄の兵器みたいに動くのに、柔らかくて血が通っている―――ガラハッドはそれに感じ入って、心が和らいでいくのを感じた。溶けていくような心地で、ガラハッドは素直に謝った。
「 ごめん。君は、俺なんか眼中にないんだと思ってたから… 」
「 こっちこそごめんなさい! わたし、あなたと行きたかったわ 」
雪が降り始めた。二人は城内に戻った。
この日降り始めた雪は、重い根雪になってクリスマスまで残った。
マートル・E・ウォーレンという少女がいる。彼氏いない歴>享年。便所幽霊歴50年以上。文字通りの“事故物件”。この世には、「はぁ~ぁ」と溜め息をついて、寝そべりながら肘をついたりすると、「人魚のようだ」と讃えられる女と、「きたねえセイウチ」と呼ばれる女がいる―――もちろん、マートルは後者だ。死んだ時から変われやしないから、マートルの顎では今日もニキビが膿んでいる。
白大理石の浴槽の縁で、“嘆きのマートル”はびちびちとのたうった。
「 ひっく、うぇえん…えーん酷いわ。うえぇぇん、ずずっ、ひっく、ひっく… 」
思い出し泣きである。
マートルはよくわかっている。こんなキラキラした宝石だらけの浴室で、ピンクとブルーの泡に囲まれていても、あたしではまったくファンシーな絵面になれやしない。
あたしは、男の子とデートなんかしたことない。
「薄青が似合うって言われたのに…」ですって!なぁにあれ、自慢なの?「好きな人にドレスを選んでもらえたワタシ」自慢よね?ああいうの本当にムカつく!なぁ~にが「マートル、わたしもぼっちなの」だか!本物の喪女を舐めるな小娘ェ!!!
「 カーッ、やってらんないわ! 」
夕方ハーマイオニーに言われたことを思い出して、マートルはセイウチのように吼えた。マートルは、「こういうくさくさした気分の時は、ハンサムウォッチに限るわよ」と思っている。そこで適当に徘徊していたところ、絶好のクィディッチ男子をみつけた。いいもん、今日は蛇口から飛び出して、じーっくりじっくり鑑賞しちゃう!
啜り泣いたと思ったら急に叫び始めたマートルに、セドリックは深刻に怯えた。
「 ハァ~やってらんない!ちょっとは良いことあるべきよねえ? 」
マートルはニチャァ…っと目を細めた。
セドリックは、さっきからこの女幽霊とは最大限の距離をとって、広い浴槽の端っこにひっついて震えている。頭以外は絶対に何も見えないように、湯の中で膝を曲げているのだ。そろそろのぼせそうになっていたが、今しがたぼたぼたと浴槽に涙を垂らされて、湯も凍った気がするほど不快だ。湯の中で卵を抱きしめて、セドリックは小さく呻いた。
「 きみ…ここは男子浴室だよ…? 」
セドリックは、幽霊の良心に期待していた。
頼む、どうか、この一言で出て行ってくれ!
ところがマートルは尻を掻きながら答えた。
「 んん~?いいでしょ。あたし、心はオッサンだから 」
マートルは心底そう思っていた。
だってね、あたしったら女捨ててるんだもん。可愛く生まれた子は良いわよね~。あたしなんか、最初から捨てるしかない素材なんだもん。
セドリックは何も言い返さなかったが、「そういう問題じゃない」と強く思った。セドリックが黙った理由はいくつもあり、詳細を叙述するならば、こうだ。以下、返答案を列挙してみよう。
① 「そうだね。君、心はオッサンだね」→「でしょ。あたしここにいていいでしょ」←最悪
② 「少なくとも僕は、君をオッサンだと思えない」→「ぐふふあたしのこと意識してるのぉん?」←キモすぎ
③ 「心とか持ち出すな!君はオッサンじゃない!」→「えーん、ひどい、あたしのこと嘘つきだと思うんだ?えーん、えーん、謝罪と賠償を要求するわ」←面倒くさい
④ 「君は女の子だよ」→「うふーん、そう思うならデートして!」←無理
セドリック・ディゴリーは苦悩する。壁に飾られている人魚の絵も、今のセドリックにとっては敵である。えいやっと湯からあがろうとするたびに、彼女がヒレを振ってはしゃぐから、恥ずかしくなって戻るのの繰り返しだ。
セドリックのガードがかたいほど、マートルは楽しい気分になった。
「 いいわねぇ、わかってるぅ!そうよ、チラリズムは無形文化財。でもね、減るもんじゃないわけだからァ… 」
「 出て行ってくれ。頼む、出て行ってくれ。僕は裸なんだぞ!? 」
「 いやーん、ぐふふ!あたし、腰のとこの筋肉、好・き♡ 背後からでいいのよぉーん 」
マートルはくねくねして言った。
セドリックは、決して口にするべき言葉ではないのだが、咄嗟にマートルに「死ね」と思ってしまった。「死ね」と呪っても既に死んでいるから、この存在は手に負えないのであった。
( どうすればいいんだ、この地獄…!? )
セドリックは目を瞑って、頭のてっぺんまで湯に沈んだ。ついに“第二の課題”の内容がわかった喜びは、とうに消え去ってしまっていた。湯の中で卵を抱えて、セドリックは空虚な妄想へと逃げこんだ。
いつからか知っているおはなしだ。叶う恋だと勘違いして、人魚姫は地上にあがってくる。あのストーリーの中盤のくだりが、近頃は物足りなく感じる…。
声を失っている姫は、姉たちから短剣を与えられる。海に帰ってくるために、王子の心臓を突いておいでと。『恩知らずの王子!あなたを助けたのは私だと、あなたを初めに愛したのは私だと、知らないでいる王子!それを言えない私!!』―――僕は、そんな怒りと悲しみを抱えた人魚姫が、穏やかな顔をしていたとは到底思えない。きっと、昔に読んだ本の挿絵たちは、子供向けにマイルドにしてあったんだろうな。
地上での恋に破れて、人魚姫は泡となって消えていく。
…そこで、この監督生用の浴室で、セドリック・ディゴリーはただいま思うのである―――うぅっ僕も、泡になってブワーッと消えたいな!!?そうなれる権利はあるんじゃない?近頃毎日つらいからね!
セドリックは、「ぶはッ」と思いきり息を吐きながら湯からあがって、自分自身に勢いをつけた。
ざっぱーん!はい、スタート!!
新競技・すっぽんぽんダッシュ!
男一匹杖なし全裸。実際泡になんかなれないから、ここは気合のフルチン踏破である。
更衣室まで、猛ダッシュ!
そして杖を掴んで、“風呂覗き幽霊”を追い払おう!
「 ハァ、ハァ…マディワジ逆詰め! 」
「 きゃー!ぐへへ、きゃー! 」
マートルは悦んでくるくると回り、そのまま金の蛇口に詰まっていった。このとおりセドリックは巧くやったが、十分にトラウマを負わされた。
大浴場なんて、二度と来るものか。
身体異性による浴室侵入、断固反対!
現金だと言われたっていいのだ。恋は始まっちゃったんだからしょうがない。
翌朝の食事の終わりがけのこと。チョウは、ガラハッドのローブを掴んで小さく揺すり、ぐずるような声をあげてみせた。チョウは、「お願いお願い」と囁いて、何度もガラハッドの背後へと目をやった。
たっぷり雪が積もったんだもの!今日は課題なんか脇に置いて、思いっきり雪遊びをしなくっちゃね!―――けれどもチョウは、ハッフルパフ席にいるセドリックに、自分では恥ずかしくて声をかけられないのだ。チョウは、かつて平気でセドリックと会話をしていたときの自分に、もう戻れるような気がしない。
チョウは、遠くからセドリックの横顔を見ただけで、頬が紅潮してくるのを自覚した。だって、セドリックは、あの夜 あ の フラー・デラクールに熱烈に誘われても、きっぱりと断ってくれた人だから…!
あのとき、チョウは感激して恋に落ちた。チョウは、「わたしったらちんちくりんで、デラクール選手とは雲泥の差よ!?」と思っている。けれども、セドリックは「わたしがいい」と思ってくれている!!!―――そう実感したらもう顔が見られない。
チョウは、ドキドキして、息が詰まっちゃって、セドリックの前では何にも言えなくなるのだが、セドリックともっと一緒にいたい。全部の遊びに誘いたいし、セドリックのことをもっと知りたいし、自分のことを知ってもらいたい。ただし、ガサツな子だと思われたくない。
「 セドリックは、わたしのこと大人しいと思ってるかも… 」
チョウは座り方を直して、ガラハッドを揺すって喫茶を邪魔した。
「 …けど、ねえ、お願い。セドリックのこと誘ってきてよ。雪合戦、彼も誘ってやろうよ 」
ガラハッドは呆れて溜め息を吐いた。
「 自分で行け 」
「 無理~!無理無理、無理なんだもん 」
近頃のチョウは甘ったれすぎである。
それは、“誰彼となく”ではなかった。そして、チョウだけの問題でもない。
休暇中の空気を楽しみながら、のんびりとロジャーが口を挟んだ。
「 行ってやればいいじゃん 」
マリエッタはクスクスと笑った。
「 そうよ。人数が多いほうが楽しいわ 」
加勢を得て、チョウはしたり顔で言った。
「 ねえ、セドリックも入ったら、男子は3対3になってちょうどいいでしょ!―――いってきて。お願い、ウィーズリーズも来るって言えば… 」
「 うん。うん。僕は、必ず、特別な“カナリアクリーム”を作ってもらう 」
マーカスは熱心に頷いて、ポケットの中の金貨を握りしめた。
チョウは子犬のような目つきをした。
ガラハッドは、ちょっと雪合戦の盤面を想像して、「フレッドとジョージは別チームに分けないと、強すぎるなあ」と思った。さっきは無愛想と横柄を極めてチョウを突っぱねたのだが、席を立ってセドリックに声をかけにいった。
一切の事情を隠さずに、ガラハッドはセドリックを雪合戦に誘った。それも、途中からは演説的な身振りと、よく通る声を使った。揶揄いの視線を送られて、チョウはかぼそい悲鳴をあげた。
「 きゃー!なんで言うの!なんで言っちゃうの…っ! 」
ガラハッドはセドリックに目を戻すと、普通の声色になって苦笑した。
「 悪いな。“課題”で忙しいようなら、断ってくれていいぞ 」
「 ううん。ちょうど目途が立ってきたところなんだ。良い息抜きになる。有難いよ 」
セドリックは微笑んで答えた。
セドリックは、楽しそうな遊びに誘われて嬉しかった。ガラハッドが、自分には揶揄いの目を向けず、対等な感じで話すことも嬉しかった。
嬉しかった。けれど、「チョウ・チャンは格別ガラハッドに甘えるよね…」と、胸の奥底に湧いてくるものがあった。冷たい感情だ。ガラハッドが一旦レイブンクロー席に戻ると、チョウはガラハッドの腕をぺちぺちと叩いた。ガラハッドはマーカスと何かを話しながら、チョウには雑なデコピンで返している。
( もう、見せつけられることには、慣れちゃったな… )
セドリックは溜め息を吐いた。
ああ自分は、せっかくチョウを騙してまでふたりが恋人になってしまうことを防いだのに、ガラハッドとチョウの仲を裂くことができていない。思うにガラハッドとチョウは、互いが互いをどこまで雑に扱えるか、許し合う基準を底なしにして、ぐずぐずと関わりあいすぎだ。
だらしない愛だな。そう見なすのはおかしいかい?―――ああここに短剣があったら、僕は君を刺しちゃったかもね!
( …刺したとしても、彼が手に入るわけじゃない )
気だるく席を立ちながら、セドリックは空想に助けられた。
不思議なもので、時に物語は人を助ける。
セドリックは、あの虚構の
考え事に夢中のセドリックを、チョウはとても熱心に見つめた。ガヤガヤとみんなで校庭へ出ていくとき、ガラハッドはセドリックの隣をキープして歩いた。今のセドリックは、放っておくと柱にでもぶつかっていきそうだった。押したら“暴れ柳”にでも向かって行きそうだ。
「 うへえ。こいつ、壁にもならないぜ。おつむがどっかいってる 」
「 ぐへえ。役立たず。ついに二つの単語も繋げられなくなったか 」
「 わかってないもんだ、男は顔じゃないのに! 」
「 悲しいもんだぜ、俺たちゃこのアホ以下か? 」
フレッドとジョージは言いたい放題だ。
チョウは恥ずかしくなって、そこからはマリエッタに隠れながら歩いた。
凍った石段で足を滑らせて、セドリックは咄嗟に隣の肩に縋った。縋られて、ガラハッドはニヤッとした―――セドリックはとてもびっくりしている!
外に出て、一面の雪景色が眩しくて目を細めて、ガラハッドはそのままなんだか意味もなくずっと微笑み続けた。こうして、セドリックとチョウが付き合い始めても、自分の周囲の環境は、何も変わっていないことが嬉しくて―――寒すぎて、ろくな勝負になりそうにないのなんて、このメンバーならどうでもよかった。
ひとつ投げてみて、ほら、やっぱり!
雪玉は簡単に砕けて、空中で崩壊してしまう。
元の粉雪へと戻って、キラキラと舞うばっかりなのだ。
ハーマイオニーとキスをしたことで、ガラハッドにはひとつどうでもよくなったことがある。ガラハッドは、もうマリエッタが誰の客になって何を買っていようと、まったく気にならなくなった。別に、個人の趣味の問題なんだから、好きにすればいいと思った。
「 いいわねえ、彼は理解があって 」
「 うふふ…! 」
と、いうのは呑気な女子寮の会話だ。
実際のガラハッドは、男子寮の自室でマーカスがカナリアクリームを食べてペットのカナリアそっくりになることを目指していても、「ふーん」と流す程度に“極めてレイブンクロー生”なだけである。それと、ずっと前からのことだが、何故かマリエッタには強く出にくいのと…。
とにかく、誰が何をしていようとも、ガラハッドは談話室を避けなくなった。それどころか、あるときガラハッドはベアトリーチェから買い物をした。
これは勇気の要ることだったが…やらないわけにいかなかった。
ガラハッドは、その際「そんなに好きなら、クリスマスプレゼントはこれでいいよな?」と、マリエッタに1色マニキュアを選ぶように言うことで、どうにか彼女たちの輪に入った。そして代金を払うついでに、あっさりと自分用の買い物を済ませた。
「 できるだけ女物っぽくないやつで 」
「 問題ありませんわ。あなた、杖磨き油を各種お持ちでしょう?檜葉油の清涼感に足して使えば、これもこれも良いのではなくて?―――フフッ…悠長なご準備だこと 」
一丁噛んできたそうなベアトリーチェのことなど、無視だ無視。ガン無視。最低限の会話で済ませて、ガラハッドは香水を買った。
ガラハッドは知らない―――アンナ・ショシャーナ大公妃は、ことのほか“花の破滅”を愛するだなんて。彼は、ゲストの趣味に合わせたのではない。ただシザーリオのぼやきを聞いたことで、急遽この買い物が必要だと気づいたのだ。
まったく、この国は湿度が高いから、何にでも黴との戦いが付き纏って困る。紳士は山羊皮の手袋をつけて、それを白絹と見紛わせるものだというのに、ここは山羊皮の手袋を仕舞いこむと、すぐに生臭くなってしまう国だ。
まずは煮沸して、いっきに乾かして、油で手入れしてそれから…。
ちまちまと手袋の臭いをどうにかしながら、ガラハッドはやれやれと思った。この舞踏会は、「伝統」以上の意味を持たないのに、こまごまとした面倒が多いなと思った。
クリスマスの早朝、ガラハッドは突然目覚めた。大きくはないが、ゴゴゴゴと轟くような音がした。ガラハッドはベッドから飛び出して、自室の窓に飛びついて開きかけた。けれども、ここからではどうせ湖が見えないと気がついた―――ただ寒いばっかりになるから、やめておこう!
ガラハッドはローブをひっつかんで、ローブの下は寝間着のまま談話室に出た。宵の口や早朝、「ピキッ、キューン」が響くことが続いたことから、いつかはこうなると思っていた。しかし、それが、よりによって冬至祭の朝に現れると、非常に神秘的な感じがするではないか!?
談話室にて、ガラハッドとルーナのふたりは窓枠にかじりつき、静かに興奮して湖を観察した。朝陽はまだ見えないが、気温は上がってきている筈だった。シンと張り詰めた青灰色の湖には、奇妙な氷の山脈が刻々と現れた。ルーナは目をぎょろぎょろさせて息を呑み、ガラハッドは小さな声で呟いた。
「 凄いな。初めて本物を見た… 」
“
城に向かって伸びてくる“道”を見るうちに、ガラハッドは少し怖くなった。
「 凄い。凄い。凄いもの見た! 」
ルーナはわなわなと震えて言った。
「 何が来たの?何か、いるよね? 」
「 落ち着け。自然現象だ 」
「 今年の湖では、
ルーナはきっぱりと言った。
ガラハッドは面食らった。
あまりにも寒いので窓辺から離れて、“ピキッ・キューン研究会”はしばらく議論をした。地球儀のもとで腕をこすりながら、ルーナは再びきっぱりと言った。
「 絶対にそうだ。今年は、水のなかの魔法が盛んなンだ。そうじゃないとこうはならないもン 」
「 そうかな。こないだは、『今年は水深が違う』って言ってなかった?おかしいと思うぞ。湖底が隆起したら湖は広がる… 」
「 あれはね、“
「 温度によって、氷の密度が変わるんだ。今年、湖が全面結氷したのは、まずはダームストラング生があのへんの風を止めて、一部を凍りつかせたからで… 」
「 船酔いでゲロ吐かないためだね~ 」
「 問題は水深じゃなくて、昼夜の寒暖差だと思うが?凍って膨張して、収縮して割れてまたそこが凍るの繰り返し。そしてある日、地殻変動のように… 」
「 ん~…あたし、あれから調べたンだァ。世界中、“氷の山脈”ができる湖や川は、決まってそんなに深くないって謂われてるよぉ。
「 マグルを? 」
「 あたしたちだって、
ルーナは事もなげに言った。
ガラハッドは納得して黙った。
ルーナは、改めて“視えざる魔法生物”はいると確信したし、いま精霊として“こちら”へやって来たのは、宇宙のどこかの次元へと消えた、自分の母親かもしれないと思った。目で観測できないから、わからないけれども、そう思いたい日ではないか。だって、今日はクリスマスだ!
ルーナは走って自室に戻り、父親へと手紙を書いた。
ガラハッドも自室に戻った。
そっと扉を開けると、案の定、マーカスのスペースのカーテンはまだ閉ざされている。意外にも、ロジャーはもう起きていたのだが―――彼は輝く朝陽のなか、クリスマスカードを掲げてキスしていた。きっとフラーからだ。
「 げっほ 」
ガラハッドは口をおさえた。
途端に、ロジャーは哲人となった。
ガラハッドは、急に大きな咳が出てきたので、熱い紅茶で喉を労わることにした。
「 おはよう。お前も一杯どうだ? 」
「 あ、ああ…どうも。貰う… 」
いやに静かな朝となった。
ガラハッドは、湯気の立つ紅茶を飲みながら、自分宛のクリスマスプレゼントの山をじっと眺めた。誰から何を貰えるかよりも、贈ったものがどう思われているかのほうが気になった。
今日、屋敷しもべ妖精たちに贈った菓子たちは、今頃めいっぱい働き始めた彼らの基準で、彼らの味覚にとって、ちゃんと美味しいのだろうか…?
( まあ、それでも、彼らが
名前のない袋から出てきた靴下(右が2種類だった)を、ガラハッドはクリスマスツリーに吊るした。ドビーは、このようにするためにこれを贈ってくれたのか、はたまたこれがクールだと思っているのか、よくわからなかったが、いちいち根掘り葉掘り聞くのは野暮だ。