拝啓
フクロウに頼むほどの用ではありません。ただ年末年始だというのに、顔を合わせないでいるのも変なような気がして。あなたの都合もあると思います。訪問に適する時刻を教えてください。
敬具
以上が、ガラハッド・オリバンダーの放った手紙である。
“交換科目”を開講するために、アラベール・ド・ノアイユはホグワーツ城内に部屋を借りている。その窓を宛名も差出人名もない手紙(メモでは?)がつついて、アラベールは鼻で溜め息を吐いた―――変わった息子だ。どうせ横着をするというのなら、好きなときに来て好きなだけ居座ればいいのに。書けない用があるということを、喜びこそすれ疎む我が身ではないぞ。こちらにも報告があるので、ちょうど機会を持ちたかったところだ…―――アラベールは時計をちらりと見た。
アラベールは、文末の空白に大きく「10時」と書いた。西塔のほうに向かって、アラベールは来た紙飛行機を投げ返した。身内同士でやりとりするうえでは、たしかにこれは便利な方法だった。マグルの紙は樹で出来ているので、これくらいの距離ならばフクロウ要らずだ。
」 ?いかるべ飛てっやうそも僕 「
。たっ言で声なさ小はルドリ、と
アラベールは、窓を閉めてデスクへと戻ってくると、リドルの日記を手に取って紙質を確認した。
」 ?だんなうど ?かのるきで 「
アラベールは独り言を言わなかった。
。たしをち打舌てっなにきつ顔な猛獰、はルドリ
」 ?なよるいてっやていてっかわ、前お 「
アラベールはリドルの日記を閉じて置いた。
しばらく窓を開けていたせいで、“錬金術教室”は冷えてしまった。このあとやってくる息子のために、アラベールは暖炉に薪を足した。火はオレンジ色に輝き、石の壁の陰翳を濃くしていった。
自室で返信を受け取ってから、ガラハッドは朝食のために一人で男子寮から出た。ロジャーとマーカスはまだ寝こけており、起こす必要を感じなかった。
談話室には、いやに朝に強い生徒か、「興奮して徹夜!」のお仲間しかいなかった。ガラハッドは、おろし髪でセーター姿のチョウに捕まって、まっすぐに寮を出ることができなかった。
「 ストーップ!はい、はい、ちょっとここに座って 」
チョウはロウェナ・レイブンクロー像の台座を示した。
チョウは、可愛いから買ったけど使わないで置いてきた便箋を、素敵なセドリック相手に、今日のうちに使いたくてたまらない。思うに、「誘ってくれてありがとう」に始まり、「また一緒に出掛けたいな」で終わる手紙は、数日経ってから送ってちゃダメダメダメ!鉄は熱いうちに叩くものよ!―――と、チョウは賢いのでよく知っている。しかし、経験のほうはからっきしなので、「しくじらずにやらなくちゃ!」と思うほど、気負って空回りの傾向にある。
チョウはちょこんと大理石の上に腰かけると、手で軽く自分の隣の場所を叩いた。
ガラハッドは、ひどく嫌な予感を覚えつつも、ちゃんとおとなしくそこに座った。セドリックと違って、ガラハッドは、初めからチョウの目を誤魔化せるとは思っていなかった。そもそも、昨晩のあの行動は、気まずすぎて自然にああなっただけで、周囲の目を気にしてやっていたことではない。
「 あのね、わたし気になってたことがあります 」
チョウはデニムの膝をさすりながら言った。
ガラハッドは眠そうにしてみせた。
チョウは騙されなかった。
「 昨日は、何があったの?あっ、セドリックとの話ね?わたしがあんたに『セドリックを知らない?』と言ってから、彼が帰ってくるまでに、何があったの? 」
「 何もないけど? 」
「 はいダウト!わたし、セドリックから聞きました!ガラハッド・オリバンダーくんは、その間にセドリックに何かきつぅいことを言ってまーす! 」
「 いいやそっちこそ嘘!お前は、俺といえば暴言、という偏見を持っているだけ。そんで、自分から嗅ぎつけてグイグイ行ったんだ。そうでなきゃセドリックが話すわけないね 」
「 ええそうですけど?それで、自分では暴言じゃないつもりで何を言ったわけ?彼、随分とこたえている雰囲気だったわよ。ロジャー相手じゃないんだからね。とっても良い人のセドリックに、あんたは好き勝手喋っちゃダメ 」
「 ああ?何なんだよ。あいつだって、結構言うときは言うんだぞ―――ちょっと踊らせてもらったくらいで、何でも知ってるような口を利けるんだなあ? 」
「 はいはい、調子乗りましたよーぅ。で?あんたは、セドリックに何を言われて『うわあ!凄いこと言うなあ!?』と思ったの?それで、自分は何を言って、言われたぶんと同等で返したつもりでいるのよ 」
チョウはちゃきちゃきと明るい声で言った。
ガラハッドはチョウにうんざりして、思いっきり大きく溜め息を吐いた。ガラハッドが思うに、チョウは、こちらの気質と言動を知り尽くしていて、絶えず鋭い質問をしてくるという点で、どこぞのオバサン記者よりも数段ウザい 。チャン女史は、昨夜の“事件”について根堀葉堀ご質問なさいまして、少しも事実が聞き出せないとなると、今度は、まるでインタビュー記事でも書く予定みたいに、「今の気持ちはどう?」などと言い始めた。
ガラハッドは、イライラして無謀にも談話室でこれを言った。
「 うるさいな。女に聞かせる話じゃねえんだよ 」
チョウは、あんぐりと口を開けて黙り込んだ。
ヒヤッとする空気に襲いかかられて、ガラハッドは慌てて談話室中を見回した。
ルーナが、透き通っている“灰色のレディ”(じっとりとした目つき!)の向こうから、ニヤニヤして会話に参加してきた。
「 ヒュー!かぁっこいいね! 」
「 黙れ。馬鹿にしてるだろ 」
「 馬鹿にするなっていうほうが無理だよぉ 」
ルーナはケタケタと笑った。
ガラハッドは苦虫を嚙み潰して、急いで腰を上げて談話室から逃げた―――わかってる!俺たちは、クッソ馬鹿らしいやりとりの末にこういうことになってる!―――それでも、これは重大なことだから、わからないお嬢さんがたには引っ込んでいて欲しかった。
ドアノッカーに託す『次の問題』は、自然と素数に関するものになった。足が車輪にでもなったかのように、ガラハッドは荒っぽく寮塔階段を駆けおりた。
閑散とした城内を闊歩しながら、ガラハッドはぐしゃぐしゃと頭を掻いた。うっすらと自覚があって、困惑の極みだった―――不思議だ!いまや、このガラハッド・オリバンダーの心は、神話の時代を生きているかのようだ!予言された結婚譚の主人公、リュカイオスに咲いた花、テゲアーの乙女アタランテー。“炎のゴブレット”が選手たちを決めたときに、アラベールがお茶濁しで出した名前…―――そんな伝説上の存在に共感する日が来るなんて、ガラハッドは思っても見なかった。
昨夜体験した出来事について、ガラハッドは誰にも言うつもりはない。一夜明けてつくづく思うのだが、ガラハッドは、もしも第二第三のホモが現れたら、うっかり呪いを暴走させて、そいつを不能にしてしまいかねない。ガラハッドは、セドリックの名誉どうこうとは別に、自身のプライドのために秘匿を貫きたい。
絶対、昨夜のことは誰にも言わない―――同性の誰かに相談する?言語道断!
ガラハッドは、「へえ、こいつ、親友だと思ってた相手にケツ狙われてたんだな」なんていう視線を、断固として誰からも浴びせかけられたくない。必ず、そこには好奇と品評の色が混じるんだと知っているし、「ギリ抱ける」「キモい無理」など、内心どんな“判定”をされたってぶっ殺したくなる。さながら名狩人アタランテーのように、チャラいホモが湧いたら片っ端からボコって見せしめにする―――自分は、
多分、ロウェナ・レイブンクローだって同じことをしたよ!
ガラハッドは自然と肩をいからせた。
( セドリックだから、あれくらいで済ませてやったんだぞ…いくらセドリックでも、もっと舐めた感じで口説いてきやがったら、今頃大イカの餌にしていたぞ!! )
下衆な好奇心、軽薄な挑戦心、ひるがえって、こちらの実力を舐めているとわかる態度。ある種の蛮勇剛胆の評への功名心―――ガラハッドは、そういったものに浮かされて、こちらの身体を征服しようとする輩を許せない。蛙のように足を開いて、むざむざと腹を見せてなんかやるわけない。そういう意味で、ガチで、ホモは死ねよと思っているのだが…―――しかし、どう考えたってセドリックは、そういう意味では言っていないだろう(でも、そういう期待もしているわけですよね?)から、どうしようもなく困ってしまう……。
( うーん…いや、地に足つけて、一つ一つ解決していこう。セドリックの件は、ひとまず後回しだ。まずは、ヴォルデモート関連のことを何とかしたい!アラベールは10時と言っていたから…この後すぐに行ったら、早すぎるかな… )
ガラハッドは何度も時計を見た。
いつも通りの状態に戻った大広間にて、ガラハッドは何人もの生徒に話しかけられてしまった。しかし、「昨夜は素晴らしかった」と告げられるたびに、ガラハッドは嫌な顔ひとつせずに朝食を中断した。
良い学生総代として振舞うことは、なんだか、頭を空っぽにできる行為だった。決まりきったことをするのは、試行錯誤することよりも容易いので。
ベアトリーチェ・メディシスを相手にすら、今朝のガラハッドは温和な口ぶりでやりとりをした。
時間通りに“錬金術教室”を訪れて、ガラハッドはアラベールに報告をした。ひとつ、昨夜スネイプとカルカロフの姿を見たこと。ふたつ、昨夜ドラコの口から聞いたこと。ガラハッドは、その後のセドリックとの一件は、当然アラベールにも言わなかった。
アラベールは、何度か首を捻る動きを交えて相槌を打ち、やがて険しい顔つきでこう言った。
「 なるほど…そろそろ正念場だな 」
全然意図が伝わっていないように感じて、ガラハッドは「えええ…」と肩を落とした。
。ため眺を姿のそでんし楽はルドリ
ガラハッドは、生徒用の椅子の背をつかむと、足で4をつくるようにしてどかっと座り、コバエを払うかのように手を振って言った。
「 あのさ、俺は、この件にはもううんざりだよ。とっととヴォルデモート卿の血は引いていないと明かして、連中とは縁を切りたい! 」
アラベールはくつくつと笑った。
アラベールは、回転椅子の上に同じように座っており、教卓兼執務机の天板を指で叩いた。
「 まあそういうな。こいつは、予想外に面白い局面じゃないか。今、文字通りの
「 下ネタうぜえんだよオッサン 」
「 我々が選び得る道は、
「
「 だろう?わたしもCを選ぶ気性ではない 」
「 けどさ、Bは都合の良い展開すぎると思う。第一、ヴォルデモートが本当に再起を目指しているのなら、この俺のことを信用するわけがない。賢者の石を巡って、二年生の最後にあったこと…こないだ、ちゃんと喋っただろ? 」
「 ああ、『何故すぐに手紙を書かなかった!?』と、返す返す思えてならん件だな。お前の、報告連絡相談の出来なさに怒りを覚えることは、決して、その一件限りではなくてだな… 」
「 まあまあ!それ、その日記のことだって、今はもうちゃんと相談したじゃないか!凄いよ、修復、流石だと思います!やっぱり変身術より錬金術だね! 」
ガラハッドは前のめりに座り直して、アラベールの右手の隣に鎮座している、元・リドルの日記らしきものを見て言った。学生総代になった直後にガラハッドは、これの元の状態をアラベールに差し出していた。
。たっがずむし少てしとリコッニ、はルドリ
。たいてっ入に気が姿いし新のこ、はルドリ
」 ?かいなわ思とだ利便に帯携 「
。たい抱く軽を頭のドッハラガから後背、はルドリ
ガラハッドはもう大きくなっているが、座っていてくれると。たきでがとこるすうこ
ガラハッドのおべんちゃらは虚しく終わって、アラベールは多少の“思い出し小言”を言った。
「 まったく、どうしてわたしが一時帰国したときに、すぐこれを入手したと言わなかったのか… 」
ガラハッドは大きく肩を竦めた。
「 いやいや、あんたが大した変人だってことを、あの時点で俺は知らなかったし。親を想う子の配慮ってやつさ。並みの教育パパなら、泡噴いて気絶だろ。充分、充分反省してるって。現に昨日のことを、今日こうして言いに来ている 」
「 まったくああ言えばこう言う! 」
アラベールは葉巻を咥えた。
。だん睨をドッハラガでん噛を唇、き驚にとこたき起に手両の分自、はルドリ
ガラハッドはアラベールが火をつけるのを待ち、ゆっくりと考える体勢に入った彼の、その叡智を仰ごうという気になった。
「 …Bの選択。何か、作戦はあるのか? 」
ガラハッドは紫煙の向こうへと言った。
アラベールは虚空を見ていたが、ひょいとガラハッドに目を戻して答えた。
「 フム…それについては、専門家として自信を持って言えることと、まだ考えのまとまらんところがある。前提を共有しておこう。いいかね、どうあれヴォルデモートは、生者からの“供出”なしには肉体を形成できないのだ。元死喰い人たちは人数が多い。何をどこまで本気で言っていて、真実とは限らん情報を撒いて、どう動くかわからん連中は措いておくとして―――ヴォルデモート本人は、現在、確実に不便に暮らしているのだから、特に信用できる手下を使って、人体錬成へと取り組んでいるはずだ。その際、“生ける肉親”だと見なされているお前が、最も材料へと選ばれやすいはずだ。とにかく、そこをミソとして立案していく。お前、あまりマルフォイを煽るな…わたしが養父であることは知られているのだから、錬金術の知識がないふりをするのは無理がある。すすんで人体錬成に協力する態度をとって、手荒な真似はされないようにしろ。気絶なんぞさせられて、その隙に材料をとられたらどうなるか…―――成体をひとつ造るわけだからな…相当、
アラベールの声色は本気だった。
ガラハッドはマッドアイ・ムーディーの姿を思い浮かべて、彼のあの凄い傷跡は、どんな状況でついたものなんだろうかと思った。
「 …マグルほど綺麗に血を抜いてくれなさそうだな 」
「 血だけでは足りない。生きた肉も必要となる 」
「 ッ待て、ここに生まれてくる前の俺と、グレイス・オリバンダーとは他人だ!赤の他人から造られた肉の器であっても、霊魂の定着に支障はないんじゃ…? 」
「 そうだが、それだと『回復』でも『復活』でもなくなる。失った肉体の復元を目指すなら、奴は、骨を墓場の両親からとり、血肉を生きた息子からとるはずで… 」
「 あいつは、自分の肉体に執着があるんだろうか? 」
ガラハッドは眉を寄せて顎を撫でた。
。いたりなに者極究の造人に全完、てめ集をのもう思とい良に当本らなせうど、はルドリ
。たっらくをチンパの然突、ろことたいてい聞を話てし殺み噛をい嗤
ガラハッドは、小さくなった日記帳に目をやって、数年前を思い返しながら言った。
「 それ、この形にしてくれたのは、どういう意図で…? 」
「 この日記は、死喰い人連中との大きな取引材料になり得る。その時が来るまで、役人に騒ぎ立てられんためには、ちょいっとな 」
「 グレイスの件、俺は、正直なところ納得してるんだよ。ほら虐待とか暴力って、一般的には連鎖するっていうから。ヴォルデモートは若い頃、相当ペドに手をつけられたくちだと思う。孤児院の育ちで…顔が可愛くって、ずば抜けて他人の顔色を見れた。明らかに普通じゃなかった!とにかく、距離の詰め方がおかしかった 」
。たっさず後歩数はルドリ
アラベールは、黙って葉巻を吸うことを選んだ。
ガラハッドは新しいリドルの日記をつまんで、裏表紙や背表紙の花布に至るまでを見た。
。たしとうそ返り取をれそらかドッハラガ、はルドリ
。たしこ起を癪癇はルドリ、てい掻っ引を宙にうよの猫
」 !ッ…のこ 「
ガラハッドはアラベールに説明した。
「 ここに遺っているのは、トム・マールヴォロ・リドルという子供が大人になろうとしたときに、捨てていくと決めた感情だ。相当、『人恋しさ』が含まれているようで、この人格のヴォルデモートは、場の趨勢を見て、強いと見込んだ相手にはべたべた触る。多分、おかしいってわかっているのにやめられなかったんだ。そういうことが染みついている奴が、自分の肉体を綺麗だと思うか? 」
「 みずから望んで傷つけ、喜んで捨てるだろう…というわけだな?ヴォルデモートにとっては、新しい肉体は、元と繋がりがないほうがいいわけか…―――フム、そうなると、奴はいつどこで人体錬成をするかわからん 」
アラベールは気だるく天を仰いだ。
ガラハッドはリドルの日記を置いた。
紅茶でも飲みたい気分になって、ガラハッドはじろじろと教材棚を見た。
灰色の眼に射抜かれて、。だん噛を唇てえ震はルドリ
ガラハッドは低く呻いた。
「 何もない教室だな 」
「 間借りだぞ。好き勝手にできるものか 」
「 プランB、座礁じゃないか 」
「 ああ、座礁だ 」
アラベールは小さく「降参」のポーズをした。そしてニヤッとして膝を叩くと、まったく悪びれない調子で煙を吐いた。
アラベールは朗々と言った。
「 斯くなるうえは、Aの道しかないな!いいとも、そろそろ限界ならぶちまけてしまえ。こっちの身の上のことは、心配無用 」
「 うーん、あんた、カルカロフよりも巧く逃げそうだもんな… 」
「 ふはは任せろ。大公国に帰ればこっちのものだ 」
「 舐めんなよ。あんたに迷惑はかけない―――あんたが大陸に帰るまでくらいは、このまま立ち回っていくことにするよ 」
「 そうか、気をつけろよ。今年は、ホグワーツにムーディーがいる 」
「 …敢えて危険なことをさせておいて、『気をつけろよ』ってどういう神経…? 」
「 知らんか?親とはそういうものだ―――そういえばお前、前世は何歳まで生きたんだ? 」
「 忘れた。そこそこの歳になったら、年齢なんていちいち数えなくなるだろ? 」
「 人の親にならんうちに死んだか? 」
「 やめろよ。わかってるだろ。俺は地獄から来た 」
ガラハッドは椅子から腰を上げた。
ガラハッドは、アラベールがグレイスを再生させずに、異界の魂を招いた理由がわかってきていた。自身もまた、こうして綺麗な豆本になって復活されても、リドル少年にかける言葉を持たないからだ。彼とは友人になれた気がしたのは、もう昔のことだ。今、その気になればまた交流ができる状態で出してこられて、ガラハッドはただでさえ動揺していた。
ガラハッドはポケットに手をつっこんで、“錬金術教室”の中をうろうろと歩いた。
「 二度と訊くなアラベール!二度と、二度と訊くな!俺はお前が嫌いじゃない…亡者しか味方しないような願いを、諦めない奴は嫌いじゃない。実際に死霊を呼びつけて、共闘しようってのは大した度胸だ。だがそれには、必要な線引きってもんがある 」
「 …了承した。警告いたみいる 」
アラベールは静かに言った。
その日の会話は、これで終わった。
そそくさと寮に帰りがてら、ガラハッド・オリバンダーは考えた。
( そうか俺は、“普通の人間”なんかじゃない。“普通の人生”なんてものは、歩もうにも歩めないのかもしれない。私戦への加勢を期待して、こうもどうしようもなく人に当たってしまう奴だって多分わかったうえで、アラベールは、ハロウィンの夜に俺を招いたんだ。そうでないなら…何なんだあの顔!?アラベールは、アメリカ生まれであることに誇りを持ってる…俺を日本人だと知って招いたわけじゃない!俺なんか招かなくてよかったなら、今頃人並みの所帯を持ったんだろうに!あいつのとこの“普通の子”は幸せだよ… )
「だが」というべきか、「だから」というべきか…。
ガラハッドは教室を飛び出したけれども、流石に一度寝て睡眠不足を解消すると、心を落ち着かせることができた。この日から始まってガラハッドは、残りの冬休みの期間中、毎日アラベールの拠点を訪ね続けた。
不肖の息子なりに考えたのだ。孝行の始めは顔を見せることかな…と。実利でそう動いた面もあって、ガラハッドとアラベールの間には、腰を据えて話をしておくべきことが、話せば話すほど出てきた。特に、「いつか師匠ギャリックが倒れたら」という話は、自宅ではできない相談だった。
ゆえに、このことは必然である―――“大公妃殿下が新年の御言葉をくださる日”に、ノアイユ公とその息子ガラハッド卿は、当たり前の顔でふたりで参上した。その日までにガラハッドは、わざわざスリザリン寮の入り口まで行って、ドラコ・マルフォイのことを呼び出した。ガラハッドは、自分のファンの女の子たちへと手を振って、「先日はごめん」と優しい声で言って、「いいんです」とドラコに小声で言わせた。それで、その日に同じようにひとりで謁見に来たドラコは、大公妃の御機嫌なんかよりも、ガラハッドの心のほうが気になっていた。「気にされているなあ」と察してガラハッドは、わざと気づかないふりをしてみたり、にっこりと笑ってドラコを隣によんだりした。
かつて、日記から飛び出したトム・マールヴォロ・リドルは、軽率にひとつの予見をしたものだ―――自身が選んだこの存在は、16のとき最も美しくなるだろう!―――はてさて、その結果はいかがであろう!?絶対的な観劇者にしか、このことは認識し判定できやしない。
アンナ・ショシャーナ・アスタルテは、その日はヴェールを外していた。彼女は、白貂の毛皮に首を埋めて、まるで夢を見ているような瞳で、両方の肘掛けに手を置いて座り、アラベールの口上を聞いていた。「仔細まで意味はわかっていないけれども、なんとなく楽しい」といった風情だった。一生懸命に祝賀を述べるドラコのことは、ふんわりと「可愛い」と思っていそうだった。ガラハッドは、丸暗記した挨拶をつらつら並べたあと、彼女からの“御言葉”を賜る段になって、雷に打たれたようになった。
アンナ・ショシャーナは言った。
オリバンダー杖店の子とやら…この身もまた、
わたしは、ホグワーツには、数え切れないほど通ったことがある、と。
あるときはグリフィンドールの少女として。
またあるときは誰かの親族として。
時には別世界からの力を持って…。
「 そのほうの営み、大儀である。仕舞いまで励むことじゃ 」
アンナ・ショシャーナは放埒に言った。
ガラハッドは、9割息みたいな声で「はい」としか答えられず、呆然として彼女をみつめた。初めて。初めてだった。ガラハッドは、ハロウィンの夜に生まれた魔法族を、自分以外に初めて見た。謁見の終わりを知らせる鈴が鳴り、彼女はすぅっと目を閉じていった。
不思議だった。ガラハッドは、「彼女は、目を閉じている時のほうが、崇高な威厳を感じさせる」と思った。眠るかのようであるのに、夢を見終えたかのようだった。
( あるときはグリフィンドールの少女、あるときはペチュニアの妹?ペチュニアって、誰だ??? )
ガラハッドは目を点にして退出した。
アラベールは、ガラハッドと一緒に城内へと戻った途端、ニヤニヤ笑いながら襟元を緩めて言った。
「 よう!わたしの勧めの意味がわかったか? 」
ガラハッドは、わかったというよりわからされた感じで、勢い任せにコクッと頷いた。
奇妙奇天烈奇々怪々、奇想天外摩訶不思議。「なんで、どうして」を言う前に、ガラハッドはひとつ決心をした。純粋に純粋に、あの姫君のことをもっと知りたくて仕方なくなったのと、アラベールとの「プランA」に現実味を持たせたいのと、先日
つまり、こういうことである。
そうだ、愛人の座、狙ってみよう。