ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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魔女たちの宴

 

 

一月も半ば過ぎて、ホグスミード行きが許可された。ボーバトン生とダームストラング生にとっては、これが初めてのホグスミード休暇である。

ガラハッドはセドリックに質問しなかったが、チョウからセドリックはどうする予定なのかを聞いた。至極当然のことであるが、セドリックは遊ばずに第二の課題対策に取り組むらしい。ガラハッドは、それは嘘ではないが建て前も混じっているなと思ったが、いかにも「セドリックとデートしたい!」という姿勢を見せているチョウを傷つける必要はないので、「あいつらしいな」とだけ短く答えておいた。

俄然、チョウは元気が出てきた。

 

 

「 Sirが言うなら、そうなのね 」

 

 

チョウは芸のないおどけ方をした。

ガラハッドは、「あっ、こいつ…」と勘づいて目を細めた。

チョウは意気込んでいた。チョウは、チラッと教壇のほうを確認したあと、ポニーテールを振ってガラハッドのほうへ向き直り、今度はマリエッタのための質問をした。

 

 

「 あなたは?当日の予定は決まっているの? 」

 

 

マクゴナガル先生が教室に入って来た。

ガラハッドは、「当然、チョウはマリエッタのために動くよな」とわかっていたので、敢えて少し身体を斜めに捻り、隣の席のチョウを正面から見竦めた。

チョウは真剣にガラハッドを見つめ返した。

マクゴナガル先生はじろっと彼らを見た。本日の女副校長による教科書の置き方は、教卓に槌を振るう裁判官のようだった。バシッなんていう音は無視して、ガラハッドはチョウに断固とした口ぶりで言った。

 

 

「 俺は、ハーマイオニーと、一緒に行ってくる 」

 

「 起立! 」

 

 

マクゴナガル先生は鋭く言った。

 

 

「 さあ机を退かして。今日は実践練習ですよ! 」

 

 

チョウは驚いた顔のままで立ち上がった。

ガラハッドはマクゴナガル先生の指示通りにして、その後は気の毒な椅子たちを相手に、“消失呪文”の練習へと取り組んだ。彼が手空(てす)きになると、マクゴナガル先生はカタツムリを“出現”させて「オリバンダーはこれを消してみなさい」と命じた。「いいからとにかく脇目もふらずに、おとなしく取り組んでおけ」という目つきだった。

ガラハッドはマクゴナガル先生に従った。

 

 

「 生物と無生物の狭間 」

 

 

ガラハッドはカタツムリの貝をつっついて、角を縮めさせながら杖を握り直した。

 

 

 

 

 

 

週末がやってきた。

天気晴朗なれども波高く、その日湖の鳥たちは荒れた。

クラムが、おそるべき耐寒性によって海パン一丁の姿になり、船の(へり)から湖に飛び込んだのである。彼は、クリスマスの昼にも湖面を荒らした。何かを解き明かして挑んでいく人というのは、いつだって狂人と呼ばれるものだ。

ルーナは、クラムの黒髪が湖に浮き沈みするのを見つめて、自分まで冷たさを感じてしまい、湖畔で独り「狂ってる!」と呟いた。いくら水中人と話してみたいと思ったって、ルーナはこの厳寒のなか服を脱げない。「日和ってる」って言われたら、それまでだよぉ!―――ルーナは寒さと悔しさでカタカタと震えた。

さてその頃レイブンクロー寮では、ご親切な伝令役たちが活躍していた。

 

 

「 ねえ!いま、Sirはご機嫌で寮を出て行ったわよ。ひとりだった!ロジャーは、別のメンバーと行くみたいだった! 」

 

 

ご注進!ご注進!

と、でもいわんばかりにメアリーは報告した。彼女は、マリエッタたちの寝室へと飛び込むと、開けたドアを閉めもしないでそう言った。談話室からの速報を耳に入れて、マリエッタはベッドにへたり込んでしまった。一縷の望みが失われて、瞳は絶望に染まっていた。フェイは気まずさで髪をうねうねさせ、チョウは唇を尖らせた。メアリーは真剣そうな顔つきを作っていたが、「愉快で仕方ない」という思いを隠せていないのだ。

 

 

「 ありがと。どーも、ご苦労様! 」

 

 

チョウは、「出て行ったほうが身のためよ」と視線で物語った。

チョウはメアリーを寝室から追い出すと、内側から部屋の鍵を閉めた。チョウは、傷心のマリエッタについて、「あの子、泣き出したわよ!」なんて触れ回られたら、そんなこと言う子の頬を張り飛ばしてしまう。

チョウがむすっとして部屋の中央にまで戻ってくると、フェイが気遣わしそうに言った。

 

 

「 お茶を淹れようか? 」

 

「 ううん、大丈夫。ああ、でも、チョウは飲みたいかしら… 」

 

 

マリエッタがくぐもった声で答えた。

 

 

「 …いいのよ。あなたたちは、ホグスミードを楽しんできてよ 」

 

「 そう?それにしても凄い人だね、そのグレンジャーさん 」

 

 

フェイは襟足を桃色にしながら言った。紅茶を淹れなくていいならば、フェイのやりたいことは何よりもお喋りだった。極力控えめに振舞っているが、フェイにも好奇心がないわけではない。

フェイは自分のスペースの椅子に座ったまま、マリエッタへと身を乗り出して言った。

 

 

「 だってグレンジャーさんって、あのハーマイオニー・グレンジャーでしょ?選挙に出ていた子で、今は、トライウィザードソサエティーの一員だよね?あなたとは、今後も顔を合わせる関係なのに、それでSirを略奪するなんて! 」

 

 

フェイはずっとこれを言いたかった。

チョウが猛然と割り込んで同調した。

 

 

「 それよ!わたし、この件で一番信じられない神経をしていらっしゃるのは、他でもないガラハッド・オリバンダーさんだと思うの。びっくりしすぎちゃって、グーでいくタイミングを逃しちゃった!普通、“次”に行くとしたって、もうちょっと…こう…あるよね!? 」

 

「 そこの割切りが凄いのが、あの人なの 」

 

 

マリエッタは目元にハンカチを添えた。

マリエッタの声に人を責める色がないので、チョウとフェイは顔を見合わせた。フェイはおどおどと首を竦めたが、チョウはわざと顔を歪めながら言った。

 

 

「 こっちの心はどうなるの?っていう話よ 」

 

 

マリエッタは答えているうちに震え出した。

 

 

「 あのね、彼、人を気遣う心がないわけじゃないわ。さらっと人を助けるし、パートナーには格別…や、優しかった!彼はただ、人の三倍くらい好奇心があって、ひとつ思い入れると、周りが見えなくなるだけなの。彼はそういう人だって、あなただって知っているでしょう?こっちを向いてくれるうちは、彼ほど良い人はいないわよ!ひどい人みたいに、言わないで頂戴よ―――全部、わたしが悪かったんだから… 」

 

 

マリエッタは両手で顔を覆った。「すすんでガラハッドの地雷を踏み抜くくらい、自分は浮かれてしまっていた」と、マリエッタは後悔の真っ最中だった。

マリエッタはしくしくと考えた。

ずっと前からよね…ガラハッドは、生活に踏み込まれて、身体を心配されすぎるのが嫌い…それなのに、わたしは、彼にみすみす嫌がられることをしてしまった。でもそれは、彼に自分を大切にしてほしかったからで―――これってわたしの独善なの!?

哀しいひと!あのひとは、あの伯父様が対面を避けるほど強い魔法使いなのに、力を誇って嬉しがらなくて、畏怖されるともっと寂しくなるんだわ…―――そんな好きな人のことをケアせずにおくなんて、「あ、これは触れないほうが機嫌を損ねないわね」とわかる時でも、わたしには到底できない!これからも、できるような気がしない。できなかったから、こんなことになっているのに…!

マリエッタは悲劇的に啜り泣いた。昨年ガラハッドに強烈にへそを曲げられた時のことや、冬至舞踏会(ユールボール)の時の様子を思い出して、マリエッタは“嘆きのマートル”のようになった。ヒックヒックとしゃくりあげるマリエッタに、チョウは溜め息を吐いて言った。

 

 

「 あなたって良い人すぎるわ 」

 

 

チョウは呆れ顔だ。チョウには、マリエッタの気持ちが皆目わからなかった。

チョウは目をくりくりさせながら言った。

 

 

「 ねえ、今からでも出かけようよ。ガラハッドのこと追いかけていって、愛しのグレンジャーさんの前でビンタしてやりましょ!『こいつ、一ヶ月で次の女の子に向かっていきまーす!』って広めてやって、それでもグレンジャーさんがアイツを庇ったら、『ばーかばーか。見る目ナシ。痛い目に遭っちゃえ!』って言いながらパフェを食べるの。絶対、最高の味がすると思うわ 」

 

 

フェイは笑いをこらえきれなかった。

チョウは「ねー!それがいいよね!」とフェイに同意を求めたが、マリエッタは顔を覆っていた手をおろして、静かに決然と首を横に振った。

そんな復縁の可能性がなくなるような道は、マリエッタとしては到底選べない。

 

 

「 安心して 」

 

 

と、マリエッタはきっぱりと言った。

チョウとフェイは困惑して、失恋したマリエッタを気遣って黙ってはいたが、「より気を落ち着かせるべきは、あなたなんじゃないの?」と強く思った。

友人たちの怪訝顔を見て、マリエッタはじんわりと自信を抱いた―――そうね、やっぱり、彼のことをわかっているのはわたしだけだわ…。聖女そっくりな魔女マリエッタ・エッジコムは、近頃自身が続けている祈りの(呪いの?)効果を信じている―――ガラハッド、あなた、どうか早くグレンジャーさんに!!!飽きて!!!!!

マリエッタは今後の展望を語った。

 

 

「 チョウ、フェイ。彼は、何から何まで普通じゃなくて、浮世離れしているけれど、とても想像力があって、話せばわかる人物よ。無理に引き戻して意地を張らせないで、彼が自分からこちらに戻ってきてから、わたしがどれだけ悲しくてつらかったか伝えたら、彼は、心底反省してくれるはず 」

 

 

マリエッタは正気の目をしていた。

チョウは、ついマリエッタに圧倒されてごくっと唾を呑んだ―――流石!キスまでしている恋愛の先輩は、言うことが全然違うわ!?なんであれ「うぇーん」と言わされたら「殴って・食って・寝る」のわたしは、幼くって馬鹿みたいだ…。

チョウは納得してしまった。

フェイは、顔を引き攣らせて怖々と呟いた。

 

 

「 マリエッタが言うなら、そうなんだろうね 」

 

 

フェイは、これ以上この件に関わりたくなくなった。

これといった目当てはなかったが、フェイは結露した窓をこすってみた。見下ろすと、ホグスミードを目指す生徒たちによって、校庭は一部雪が融けて泥道が出来上がっている。

やっぱり出かけようかなあと思ったけれど、靴が汚れるのは嫌だなあ。

そんなことを考えているうちに、フェイは噂の人物を見つけた。

 

 

「 あれ? 」

 

 

視界の透明度に満足できなくて、フェイは結局窓を開けて校庭を望んだ。

 

 

「 チョウ、マリエッタ、来て。ちょうどSirが見える!けど… 」

 

 

なぁんだ、この件、意外と微笑ましい話かも!

フェイは笑いがこみあげてきて、最後までうまく話せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その少し前、南翼棟掲示板前に三人の生徒が来たのを受けて、ガラハッドは堂々と文句を言っていた。「え、なんでお前らまでいんの?」とガラハッドに真顔で質問されて、ロンは「いちゃ悪いのかい!?」と仰天顔で応じた。

ロンは本気だった。

ガラハッドは当惑した。

連鎖してハリーも困惑した。

ハーマイオニーは顔を赤らめて、ガラハッドに口パクで「ごめんなさい」と何度も伝えた。

大好きな彼女に詫びる目で見つめられて、ガラハッドは怒れるわけがなかった。仕方ないので「参った」とジェスチャーで伝えて、ボケ野郎二人も連れて行くことにした。

 

玄関ホールを横切り、石段を下って、四人はぬかるんだ校庭を歩いた。

ホグスミードを目指すこの四人組は、高い塔の上から見下ろされていた。

チョウとフェイは窓辺で笑いすぎてぷるぷる震えて、マリエッタも絶対に外を見るべきだと主張した。

 

 

「 見てよ!ふふふ、ガラハッドの奴、あれはかっこつけ―――ううん、あなたのこと、恋しくなってドキドキさせたくて言ってただけなんだわ! 」

 

 

チョウは心からそう思ってはしゃいだ。

 

さて、どうしてこういうことになったかというと、事は冬至舞踏会(ユールボール)の日のことに遡る。

ハーマイオニーは、今日、わざわざ誘い合っていないのに、ハリーだけでなくロンも「当然、ホグスミード行きといえば“三人で”」だと思い込んで、談話室で待っていてくれたと知ったとき、ホッとするような嬉しさを感じた。

 

 

( よかった!舞踏会中とその後の大喧嘩は、すっかりなかったことになったんだわ! )

 

 

そのことに安心させられて、ハーマイオニーは男子二人を強く拒否できなくて、その、まあ、こういうことになっていた―――仔細は述べていくほどに馬鹿馬鹿しい。

グリフィンドールの談話室にて、ハーマイオニーは、「今日はガラハッドと約束をしているの」と、ハリーとロンを相手にちゃんと言った。

ところが、ハリーは間髪入れずに頷いて「それはいい。よし、彼にバタービールをご馳走しよう。“地図”を貸してくれたお礼だ!」と、元気よく答えた。

ハーマイオニーは唖然とした―――ハリーは、自分が何をしたのかまったく気づいていなかった。ロンがハリーに同調した。ロンは、ハーマイオニーが「ビクトール・クラムとデート」と言い出さなかったことに安堵して歓喜して、いつもよりさらに陽気でトークが冴えていた。

絶好調のロンを見て、ハーマイオニーは、ついつい引け腰になってしまった―――だって、「離れてよ。わたしとガラハッドは、今日はデートなのよ」なんて主張をしたら、また痛烈に馬鹿にされて大喧嘩になるに決まっている。

 

と、いうわけでガラハッドとの待ち合わせ地点まで、ハーマイオニーは友人たちを引き連れて来てしまった。

 

ホグスミードを目指して、ガラハッドはけだるい気分で歩いた。ハリーは、城の玄関を出て石段を下るあたりから、森際に見えているハグリッドの小屋に気を昂らせて喋り始め、ガラハッドの隣をがっちりキープしていた。「引っ込め。お前とのデートじゃない」という目でガラハッドから見られたって、ハリーは気にも留めなかった。なんせリータ・スキーターを思い浮かべる時に、ニコニコしていられるのはクズだけに決まっているからだ。

彼らを上から見ていたのは、フェイ・チョウ・マリエッタの三人だけではない。“屋根のうえの鴉”ならぬ、“塔のうえのレイブンクロー女子”たちは大はしゃぎした。

 

 

「 やぁだ、なぁんだ。つまんなーい 」

 

「 えー、可愛いじゃない 」

 

「 ハァ後輩のこういうの、得難い栄養ですわあ… 」

 

 

七年生たちは頷きあった。そうよ、こちとらNEWT対策の合間に、煙草で一服つけるような感じで、初心でキュンキュンな空気をスゥ…っと吸いたいわけ。もしくは、修羅場の話を聞きたいわけ。「泥棒女のファンデーション叩き割って、そこらにぶちまけてきてやった!」みたいなのがサイコーなわけ。もしくは失恋に狂いたいわけ。パァッと祭りだ宴だをしたいときに、成就する恋じゃ肴にならない。

 

広がった栗毛の目立つグレンジャーさんは、先に行くハリー・ポッターと我らがガラハッド卿を追うようにして、ぬかるみに気をとられながら歩いていた。燃えるような赤毛の男の子が、彼女の隣には並んでいた。

 

 

 

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