“三本の箒”に着くと、ハリーは一旦ガラハッドに愚痴を言うのをやめて、ハグリッドが飲んでいないか期待して店内を見回した。もしかしたら…と願っていたけれども、ハグリッドは今日もあの小屋へと引き籠っているようだった。
出入り口を塞がないようにして、四人はカウンター前へと進んだ。マダム・ロスメルタはガラハッドに注文を尋ね、ガラハッドは「バタービール4」と伝えた。ハリーは、自分のぶん以上に多くを支払おうとして、ガラハッドにつれなく一蹴された。学生総代として代表選手へ、ガラハッドは、ハリーに冷ややかな声で言ってやった。
「 おいハリー、お前、外出なんかしてる場合なのか? “彼”が来ていないかどうか見に来たっていうなら、一杯飲んだらもう帰ったらどうだ? 」
「 うん… 」
ハリーは足元に目を落とした。ハリーは、珍しくガラハッドの言うことを聞く気になった。セドリックのアドバイスに従うくらいなら、ガラハッドの言う通りにするほうが千倍マシだ、それが「自分で努力しろ」という意味ならば。
ハリーはそっとガラハッドの顔色をうかがおうとした。
( セドリックは、ガラハッドに「ハリーはまだ卵の謎がわかってなさそう」って言ったのかな… )
ところがガラハッドはそっぽを向いていた。
はいはい自由人!今しがた気遣うようなことを言っておいて、もうこれだ。
ハリーは、ガラハッドの視線を追いかけてみて、カウンターの向こうに鏡を見つけた。
ハーマイオニーも、同じきっかけでその鏡を見た。
ハーマイオニーはヒソヒソ声で言った。
「 あの人、一体いつ、お役所で仕事をしているの? 」
ルード・バグマンのことである。
ハーマイオニーに促されて、ロンも急いで鏡に注目した。なんだか緊張している様子のバグマンと、不機嫌な
マダムが、一杯目のバタービールをドンッとカウンターの上に置いた。
あっという間の出来事だった。
ガラハッドは、素早くそのジョッキを掴んで反転すると、自分だけ飲み物を手に入れて、四年生たち三人を置き去りにした。絶好の機会を前にして、ガラハッドはひととき他のことを捨て置いていた。彼は、自分の足で歩いて、“鏡の向こう”まで行った。「杖磨きセットいかがですか!」の笑顔を浮かべて、貪欲な猛禽類であるかのように、遠距離から間近へと迫っていって、バグマン氏へと話しかけたのである。
「 こんにちは!どうも、舞踏会ぶりですね。あのときは有難うございました! 」
ガラハッドは明るい声で言った。
バグマンは体格の割に機敏で、ハリーは、彼がガラハッドに怯えたように見えた。非常に焦っている様子で、バグマンはガラハッドに質問をした。
「 や、やあ君!君は、
「 あはは、申し訳ない!僕、ゴブルディグック語は一語しか知らないんですよ―――
ガラハッドは本当にそれしか知らない。
バグマンを取り囲んでいた
バグマンは非常に良識的な態度で、大人らしくこの若者を諫めた。
「 おやおや、そんな言葉使ってはいけないよ。誤解が生じる。彼らは、たったいま君が脅しをかけたように思ったんじゃないかな。ほらね、喚いている。ははは、何を言っているやらわからんがね 」
「 取り立ての話をしているんじゃないですか? 」
ガラハッドは揶揄うようにそう言って、さっきまで
バグマンは大変な早口で言った。
「 まさか!まさか!人違いだと思う。こいつらは、人間の顔の区別がつかんと見えるよ。わたしも
「 それじゃあ、僕と飲みましょうよ。折角、お会いできたんですから 」
ガラハッドはゆっくりと人懐っこく言った。きっと、これくらいの速度で喋れば、この
女性問題(待て、女性ではない者が含まれている。というかこいつの問題だ)を抱える程度には、ガラハッド・オリバンダーは成長している。彼は、余計な一言をつける悪癖を封印して、あやしいバグマンに対して「審査日でもないのに、あんた何故いるんですか?」とは言わなかった。ガラハッドは、
バグマンは舌打ちが漏れそうになった。
( クソ、連れ出せよ!ここに留まってどうする!役立たずめ! )
と、バグマンは思ったけれどもすぐに希望を発見した。
バグマンは、ガラハッドの肩越しに元気よく手を振った。
「 あっ、ハリー!やあハリー!君、あそこにハリーが… 」
「 怖れることはありませんよバグマンさん 」
ガラハッドは素早く、まるで斬り伏せるように言った。
バグマンはハッとしてガラハッドを見つめた。
ハリーは、バグマンの謎に惹かれてジョッキを掴まないことにした。ハリーは、既に注がれてカウンターの上にあるバタービールを、ロンとハーマイオニーへと譲った。
ふたりは口々に言った。
「 あとで聞かせてくれ 」
「 テーブルをとっておくわ 」
四杯目のジョッキがどんと置かれた。
ハリーは、マダム・ロスメルタからそれを受け取ると、ロンとハーマイオニーとは別れて、自分からバグマンとガラハッド、そして
「 バグマンさん、小鬼族というのはね、金属の価値は金属にしか換えられないと思っている。穏やかな種族じゃないですか?彼らは、待たせといたって地上げなんかしてきません。あはは、それをやられたとしたら、うちの店なんかきっと今頃ないですよ。彼らは人間とは違って、『支払えないならば代わりに…』と言い出すことはない。地位とか、臓器とか…人間はいろんなものを貨幣と置き換えますけどね 」
「 き、君は…! 」
「「 こんにちは、バグマンさん! 」」
明るい声が響いた。
それは、ドアベルの音と同時だった。
フレッドとジョージがハイストリートからパブに飛び込んできて、「「素晴らしい偶然ですね!」」と同時に叫んだ。
突然、ハリーはよろめいてしまった。バグマンは、生きたブラッジャーになってハリーに突進した。ハリーはバグマンにがしっと肩を掴まれて、カウンター席の隅へと連れていかれた。満杯のジョッキを持っていたハリーは、服にべったりとバタービールを染み込ませた。
「 よそ見してるからだ 」
ガラハッドはクスクス笑って、ハリーとバグマンを追わなかった。
バグマンは急いでハリーへと囁いた。
「 元気かい?君に偶然会えるといいと思っていたよ!すべて順調かね!? 」
「 は、はい。ありがとうございます 」
ハリーは服を気にしながら答えた。「Thank you」は「やってくれたな」っていう意味なんだけど、このおじさんは小鬼語が母語なのかな?
バグマンは、「ホーンテールとの対決は素晴らしかった」と、ハリーに何度もお祝いを言った。
ハリーは、バグマンからのおべんちゃらを聞き流して、そっと
ハリーは、決して小さくはない声でバグマンへと質問した。
「
ド直球!―――ガラハッドは噴き出してしまった。
すっげえ!あいつ、なんで俺の悪いところばっかり似るの!?
一言で急所へと切りこまれて、バグマンは場当たりに嘘を吐いた。彼は、後先を考える能を持っていたならば、最初から博奕になどのめりこんでいないであろう。
「 あー…それは、それはだね…あいつらは…あー…バーティ・クラウチを探しているんだ 」
「 どうしてこんなところで探すんですか?クラウチさんは、ロンドンの魔法省にいるんでしょう? 」
「 あー…実は…… 」
「 やれやれ。もっと言ってやれハリー 」
フレッドは深い溜め息を吐いた。ジョージは絶望的な表情で、ちらちらと厳めしい
双子たちもまたゴブルディグック語はわからないが、
「 それじゃ、俺たち、もう諦めるしかないのかな? 」
「 挫けるな兄弟。満額とはいかなくても、取ろう! 」
フレッドはジョージを慰めた。相棒に言っているのか、自分を励ましているのか、フレッドの顔つきだって穏やかではなかった。
ガラハッドは小さく肩を竦めた。
ガラハッドは、フレッドとジョージにだけに聞こえるような小声で
「 俺はちゃんと言ったぞ?『おたくは、同胞への支払いを先にすることだな』って。はーいこれは完全なボランティア… 」
と、ふざけて笑わせようとしたのだが、バグマンとハリーの会話の新展開を受けて、ハッと黙り込んでそちらへと集中した。バグマンは、天然ハリーからの猛攻を受けて、「この二三週間、クラウチは出勤していない」と言い始めていた。
ガラハッドは驚かないようにした。
だが、瞳孔は避けがたく反応するものだ。
瞳を銀に光らせて、ガラハッド・オリバンダーは考えた―――二三週?それって、クリスマス休暇からずっとじゃないか。病気。病気。病気か…―――パーシーは、本当にクラウチの「つい、うっかり」の一言を、あの熱心さで逃さず聞き取ったんだろうな…。クラウチが何に怯えて弱っているのか、バグマンは全然知らないようだ。知らないからこっちを舐めていられたし、今もそこでお喋りしていられるんだろう。
ハリーとバグマンはまだまだ話していたが、ガラハッドはこの場を立ち去りたくなった。ガラハッドは双子たちとは別れて、ハーマイオニーとロンを探して、混みあっている店内をゆっくりと歩き始めた。
( …お見舞いをお送りしようかな )
と、思ったのでガラハッドは悲しくなった。
思わなければ、悲しさだって無かったことだろう。
ガラハッドは、臥せるクラウチに心を痛めてから0,0002秒で、「まあ俺が何を書いて送ったところで、あいつはそれを深読みして、呪詛状だと見なすだろうけど!」と考え直して、そして、この予見にとても自信があった。だってクラウチは、“安らぎの水薬”くらい当然飲んでいるはずだ。彼はそれを飲みすぎて寝込んでいるのだろう。そんな状態にまでなられてしまってからでは、悔やんでもこちらに出来ることは何もない…。
それに、おのずと悔やまれてしまうが、決して悔やむことではないようにも思う。
ガラハッドは“三本の箒”を歩きながら、目には賑わしいパブを見て、心には遠い我が家の光景を想った。
あの静謐の空間、古色蒼然とした店内で、ギャリックは今日も杖を磨いているだろう。瞳を銀に光らせて、木魂たちと遊んでいるだろう。前世から思い知っているけれども、日常の幸せっていうやつは、放っといたら誰かが守ってくれるわけじゃない。なんでだ?クラウチは、俺なんかのことがそんなに怖いならば、はじめから我々を脅かさねばよかったじゃないか。彼は、自分を選んでくれる杖を求めにきた日には、さぞかしオリバンダーの瞳と言葉を畏れたのだろうに―――…。
ガラハッドがとてもしょんぼりして近づいて来たので、ハーマイオニーとロンは驚いた。ロンは、「君、小鬼に一服盛られたのか」と言った。そんなわけはないとわかっているのだが、これはロンなりの心配の言葉だ。
ガラハッドが「あー…」と言って苦笑しているあいだに、ハーマイオニーとロンは言い合いを始めた。ハーマイオニーは、ロンとうまくやりたいと思っているからこそ、ここが公共の場であることを気にして言った。
「 ロン。そんなこと、冗談にも言うもんじゃないわよ 」
「 なんだい、今度は可哀想な小鬼ちゃんの心配かい? 」
「 小鬼と毒物といえば…でしょう?あなた、もう少し真剣に魔法史を受けたらどう? 」
「 S・P・U・Gか何か始める?醜い・小鬼を・守る・会 」
「 お・あ・い・に・く。小鬼に保護は要らないの!小鬼は、魔法使いに太刀打ちできる力を持っているから 」
ロンはなおもハーマイオニーを煽った。完全にいつもの展開で、ハーマイオニーはむきになっていった。
ガラハッドは黙ってジョッキを傾け続けて、早々にバタービールを飲みほしてしまった。ガラハッドは、ハーマイオニーとロンの話題を、明るく楽しいものだとは思えなかった。
やがてハーマイオニーはガラハッドの服を引っ張って、「ねえ、何か言ってやってよ」という顔つきをした。
「 ねえガラハッド?あの連中は、とっても賢いのよね!自分たちのために立ち上がろうとしない、屋敷しもべ妖精とは違ってね 」
「 そっか君は小鬼贔屓だよな。バッヂを買わされた腹いせ?『屋敷しもべ妖精より小鬼のほうが素晴らしい』って、レイブンクローじゃ入り口で唱えるもんな? 」
ロンはガラハッドに揶揄い声で言った。
そんなわけないに決まっているのに…―――ガラハッドは曖昧に苦笑した。
うわ、だっる。「違うから。やめろよ」等々言わせたいのバレバレ。それ、乗ってやるこっちは全然面白くない。
四年生(しかも、友達の弟)に目くじら立てる気はないので、ガラハッドは別の冗談を画策した。ガラハッドは去年、小鬼の反乱についてのレポートをビンズに書かされたし、さっきからの話題について無知ではない。その気になれば自分の意見を言えるのだが、そんなのバタービールを飲みながら話したくないし、聞きたい人なんて(ハーマイオニー以外は)いないように思っていただけだ。
ガラハッドはビンズ先生の姿勢をとった。彼は、「全然面白くない」という顔をしながら、陰気臭く全然面白くない話をした。
「 えー…俺が思うに…この場で俺の言いたいことを示すためには、まず『かしこい』とはどういうことなのかを分解する必要がありまぁす…俺たちは、この言葉をあまりにも多義的に使いすぎていまぁす。ロン、君は、人を虚仮にするのが巧いのが賢いってことだって、どうやら思っていそうだな?だが一般的に、抑制して黙っておけることが賢いとも、主張して意見を通せることが賢いともいうと思わないか?効率よく利をとれることが賢いのか、効率よく善を行えるのが賢いのか。既存の価値序列に飛びつかないで、それを問い直すことができるのが賢いのか。実利でなく観念的なものを追求して、長く泥臭い取り組みができるのが賢いのか… 」
「 うぐふっ…ヌンドゥ! 」
ロンは苦しげに胸を掻いて見せた。
ガラハッドはクスッと笑った。
そうそう!俺は口からガスを吐いているよ!―――ガラハッドはニヤニヤして、手で吼えるようなジェスチャーをして、ささやかに身体を左右に揺らした。ガラハッドが「やーい苦しめ」という調子で話し続けると、ロンは一流のパントマイム芸を見せた。
「 …これ以上の例は必要ない?つまりだ。俺たちは、それぞれ好きな基準を採用して、誰のことでも賢いと言えるし、誰のことでも愚かだと言える。そのうえで、誰かが誰かに対して『かしこい』っていう言葉をわざわざ贈るのは、さてどういうシチュエーションでしょうか?ほとんどの場合、『かしこいね』は軽やかな嫉妬だ。『生まれつき楽できていいね』みたいなニュアンスだ。ガチなトーンで言っている場合、へつらいだ。『わたくしめは卑しい者ですから、わたしの敵にならないでください』というお願いだな。このように、『かしこい』は荒ぶれば手に負えない強大者に対する要請を含めた、相手の行動のコントロールを狙う“杖なし魔法”によく使われている単語で… 」
ロンはふざけることをやめた。ガラハッドは、いったい何人から『かしこい』と言われたことがあるんだか…―――ロンは、ブルドッグのような顔つきになって、顎を引いてスンッと鳴いた。
さっきからハーマイオニーは大喜びだ。
ガラハッドは、ロンの不興を察したがハーマイオニーを無下にできず、小さい声でうにゃうにゃと続けた。どんどん、早口になっていった。
「 …えーっと結果から遡って評価される、手法・行動に対する『かしこい』と、まだみぬ結果への期待度をあらわす、個人・種族の能力に対する『かしこい』が、運用のなかで混同されていて…俺は、こういう多義的で対象が曖昧で、ほとんどの人が使いこなしていない言葉ほど、やり手の魔術師は巧く使うんだと思ってる! 魔術師は隠れる。誰が言い出したことかなんて、俺たちにはわからないけど…ほら例えば、『馬鹿は愚痴を言う。賢い人は黙って働く』っていうナンチャッテ格言によって、仕事に報酬が見合わなくたって、そこそこの数の働き者が生まれてる。賭けてもいいけど、言いだしっぺは
「 むしろ屋敷しもべ妖精たちが、『賢さ』の一種に優れるからだっていうこと!?その“杖なし呪い”に縛られるには、一定以上の知能が要るわよね?彼らは、『働く喜び』っていう非常に観念的なものを追求してるわ。
ハーマイオニーはポケットをまさぐった。
ロンは吐きそうな顔つきをした。
「 うええ、結局可哀想な妖精ちゃんの話かよ。何の話かと思ったら! 」
「 あくまで仮説。以上、仮説終わり 」
ガラハッドはむすっとして切り上げた。
チャンス!俺だって、こんな話題はもう沢山。俺は、今日のハーマイオニーには、こんな話よりもずっと言いたいことがあるんだよ!できればそっちのほうの言葉で、この生き生きとした笑顔を引き出したかったなぁ!?―――ガラハッドはひとつ咳払いをして、ハーマイオニーのほうを向いて言った。
「 君、いい香り。シャンプーか何か変え… 」
「 続けて!ロンのことは気にしないで、話しましょう 」
「 おい僕の人権はどうなる?え? 」
ガラハッドは目を瞑り天を仰いだ。
ロンは自身を親指で示して、最大限白目を見せつけて首を傾げた。
ハーマイオニーは杖のようにボールペンを扱い、ロンに魔法をかけるかのように言った。
「 あなたみたいな人、アメリカでは何ていうか知ってる?―――彼らは万人に襲いかかります。ゾンビのほうが、あなたより平等を理解していますよ! 」
「 ケッ!それじゃ、一番賢いのは狼人間だってわけかい?OK、道理でモノがわかってたね! 」
「 ハーマイオニー、そういうのは魔法界では、
ガラハッドはげんなりしつつ喧嘩を止めた。
ハーマイオニーは黙った。ロンは悪びれずに人を煽る表情づくりを続けて、芝居かかった仕草でバタービールを飲んだ。
ルーピン先生をそんな言葉遣いで評するだなんて、ハーマイオニーは信じられない―――彼女は、「有り得ない!」という目つきをしてロンを睨んだが、ボールペンをカチッと鳴らして、薄水色の付箋式メモ紙に覆いかぶさり、自身がただいまの会話で得られたと感じるものを記録しはじめた。「第五回会合」と書きはじめられたのを見て、ガラハッドとロンは肩を竦め合った。彼らは、「どっちが彼女を止めるか」について、彼女の目を盗んでボディランゲージの粋を尽くし、無言のまま押し付け合った。
決着はつかない。すわ神明裁判か。
ガラハッドとロンのふたりは、自然と同時にハリーがいるカウンターのほうを見やった。ハリーは、何を言ったものやらわからないながら、目下のところバグマンに衝撃や屈辱感を与えているようだった。ハリーからバグマンを掻っ攫おうとして、フレッドとジョージは虎視眈々の様相だ。
ぽつんと、ロンが心配そうな声で言った。
「 あいつら、バグマンに何の用事だろう? 」
ガラハッドは急いで「負け」のほうを引き受けた。
ガラハッドがハーマイオニーへと目を戻すと、彼女は、艶を増したふわふわ髪を豊かに肩や二の腕にかけて、一心不乱に手を動かしていた。
双子がバグマンに話しかけた。ロンは、首を伸ばして彼らを見つめたままで言った。
「 あいつら、なーんかコソコソしてて、近頃様子がおかしいんだ。ガラハッド、君は、何か知って… 」
と、言いながらガラハッドのほうを振り向いて、ロンは驚愕で顎が外れそうになった。
ガラハッドは、「俺はなーんにも知りませんよ」という顔つきをして、集中しているハーマイオニーの髪に触っていた。ハーマイオニーは気づかない様子だ。
「 こっ、こここ、ここここの変人…! 」
ロンはニワトリになった。
ロンは、火事を知らせる見張り番のように、テーブルの天板をどかどか叩いた。
「 よせ!こ、ここここんなのでも、女の子だ! 蔦みたいにいじって、髪の毛で遊ぶな! 」
「 あ、ごめん 」
ガラハッドはパッと手を離した。ロンは何もできなかった。
ハリーがひとりで歩き始めた。
ハーマイオニーはきょとんとして顔をあげて、今しがた起きたことを理解した。彼女は、ひそかなる努力に気づかれて嬉しくなり、構われたがりの恋人が可愛くなり、ロンがこちらを認めたことが誇らしくなり、結論、不要領にとても恥ずかしそうにして、髪を耳にひっかけてそれを撫でつけた。彼女は、髪の広がりを抑えようとしてマフラーを巻きなおして、頬っぺたまでマフラーにうずめて紅潮を隠した。微笑んでいる目つきで、彼女はそれからもメモをとろうとした。彼女は、「は?」という顔つきもしなかったし、ツンと鼻をあげて偉そうにして、ガラハッドに良識を説くこともしなかった。
ロンは、一秒でも早くハリーと合流したくなった。
「 かーわいい! 」
ガラハッドは揶揄い声でそう言って、ハーマイオニーの記録仕事をなおも邪魔した。「可愛い」というのも本気だけれど、「させるかァ!」という思いだって本気なのだ。ガラハッドの次の一手を見て、ロン・ウィーズリーは震撼した―――すっげえ、あれはどういう魔法なんだ!?
あの怒りんぼうのハーマイオニーは、ガラハッドから三色ボールペンを奪われても、ただちにギャンギャン言わなかった。彼女は、手のひらを差し出して「返せ」と態度で示しつつ、「ご存知?それは、とっても良いものなのよ」と言って、威嚇的な教師の目をしながら、口には甘い微笑みを浮かべていた。
ロンは、ほとんど駆け寄り合うようにしてハリーを獲得した。ロンは呆然としていた。ロンは、彼と彼女があのボールペンをお揃いで持っていることを知らない。ロンは、ハリーにも、見て、聞いて、びっくりしてほしかった―――やばいんだ!!あのカラッとした「ごめん」の言い方、あの手の開き方ひとつとっても、ガラハッド卿っていうやつはガラハッド卿で…あいつ、万事がフツウじゃない超個性派で、優秀であることには違いないからって、お目こぼし貰いの度が過ぎてるよ!ハリー、なんだか我々は、今すぐパブを飛び出して、ゾンコの店に駆け込んで、ありったけのクソ爆弾を買わねばならない気がする!あいつに百発ぶちこんで、泥のなかでくたばらせてやらなきゃ!!―――と、いう強い思いが溢れすぎてロンは、百面相をしてハリーを困惑させたあと、喘ぎながら支離滅裂なことを言った。
「 実在した! ハリー、実在した。伝説の、イケメン無罪が…! 」
「 なんて? 」
ハリーは真剣に聞き返した。
ちょうどドアベルが鳴ったのだ。
バグマンと、彼を追う小鬼たちがパブから出ようとして、リータ・スキーターとカメラマンに鉢合わせた。
外の出来事なんか知らないで、ロンはうわごとを言い続けた。
「 許しちゃおけねえ。お天道様が許さねえ 」
ハリーはとりあえず頷いた。よくわからないけれども早くテーブルに行きたいので、ハリーはそのようにした。
パブの奥のほうで、四人で一卓を囲む形となると、ハリーはたった今体験したことをヒソヒソと話した。
幻想ロマン第五の地平線、タ〜ナ〜ト〜ス