ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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VSリータ・スキーター

 

パブは雑多な空間で、誰も他の客のことなんか気にしていないように思えた。ハリーはロンを押しながら歩いてテーブルにつくと、バグマンが金の卵のことで何と言ってきたか、ロン・ハーマイオニー・ガラハッドの三人に対して、ありのままに話した。

ハリーは、さっきはバグマンの前であまり顔色を変えるわけにはいかなかった。だがここでは正直になれる。ハリーは口を動かしながら、熱心に友人たちの反応を見ようとした。まず、ハーマイオニーはショックを受けたようだった。

 

 

「 援助?そんなことしちゃいけないのに! 」

 

 

と、言ってからハーマイオニーは手で口を抑えた。

ハリーはこっくりと頷いた。

ところがハリーは、実のところハーマイオニーへと嘘を吐いているので、そのあとはギクッと冷や汗をかかされた。ハーマイオニーは少し迷ったあと、手も使って極力声を押し殺して、ハリーへと身を乗り出して真剣に尋ねかけたのだ。

 

 

「 …どっちにしろ、ハリー、あなたは、もう謎を解いたのよね?あなたは、事前に課題の内容を知っておくことに関しては、援助なんて要らない!ねえ、そうでしょう? 」

 

「 あー…まあね 」

 

 

ハリーはガラハッドをチラリと見た。

ガラハッドは、去年食器からネズミが出てきたのを見たときと同じ表情だった。黙っているけれども、「うわ、きっしょ」とありありと顔に書いてある。

ハリーは、賢いふたりがそんな調子なので、ホッとしてゆるやかに微笑んだ―――よかった、自分の直感は間違っていなかったんだ!やはり、赤の他人…しかも審査員の一人であるバグマンから助けを受けることは、友人たちやシリウスの忠告を聞くのとは違う…。

 

 

( …それは、ハッキリ言えば出来レース、八百長なんだな )

 

 

と、理解したときにハリーは気がついた。

どうして、バグマンはセドリックには援助を申し出ていなくて、これからも申し出そうには見えなかったのか?なんてこった、()()()()()()か!―――ハリーは、元プロ選手からの「君が気に入った」には面映ゆい感じがしていたが、一転、それを真に受けていた自分を殴りたくなった。ハリーは、ハーマイオニーと同じくらい押し殺した声で呻いた。

 

 

「 ッ…賭博だ!?そうだ、あいつ、僕に()()()としたんだよ!魔法ゲーム・スポーツ部の部長なのに、賭けてるんだ、きっと。僕が勝つことに―――それは…まったく起こりそうにない未来だから…当たれば大勝ちだろうしね… 」

 

 

後半は声が震えた。ハリーは、自分で言っていて苦しくなってきていた。

ハーマイオニーには「順調」と言ってあるが、金の卵の謎について、ハリーはまだ何にも解き明かせていない。

ヒクッ…―――不意に頬が引き攣った。ハリーは、ついに自嘲癖までガラハッドに似てしまった―――まあね…そりゃあ、僕だって出場者ではなく観戦者の立場だったら、ホグワーツ贔屓で応援して、そのうえで、セドリック・ディゴリーの勝利を確信するからね…チョウ・チャンはそれを確信してる。セドリックは、勝つ自信があるから僕にアドバイスをくれたのかも。“汚いポッター”のほうに賭けるのは、イカレた大穴狙いだけ……。

ハリーはガクッと首を落とした。

ロンはばつの悪い顔つきをしてそれを見つめ、ハーマイオニーは「到底看過しがたい!」という表情だ。どちらも返答に困っており、口角をさげて口を引き結んでいる。

ガラハッドは表情をつくりこんだ。ガラハッドは、「ハァ、勘弁して!これでまたやることが増えた…」と感じていたが、ハリーが悪いわけではないので、この憂鬱を顔に出さないようにした。その結果、「まったく驚くことではない」という態度になって、ガラハッドは四年生たちを驚かせた。

 

 

「 だろうな。あいつには、近々でかい勝負が必要だ。あいつは、借金で首が回っていないからな 」

 

「 借金?それは、フレッドとジョージにも関係あるかい?それは、本当の本当に絶対にやってはいけないことだって、ママはいつも言ってるのに 」

 

 

ロンが蒼褪めた顔で言った。

ハーマイオニーは怪訝そうに言った。

 

 

「 バグマンは借金だらけだって、あなたはどうして知ってるの? 」

 

 

ハリーもそれが不思議だった。

ハリーが顔をあげると、ガラハッドはふたりに小鬼(ゴブリン)のハンドサインをしてみせていた。ハリーもやってみたが、指が短かいのか関節が硬いのか、ハリーにはそれは真似できなかった。

ガラハッドはロンにじっくりと話しかけた。

 

 

「 落ち着けロン。お前も、このサインをよく覚えておくといい。フレッドとジョージは、小鬼(ゴブリン)たちからコレをされていない。だが、バグマンはコレをされていたね―――俺は、コレが出ているのかどうか気になって、挨拶をしがてら確かめに行っていた―――こいつは、多分、いまにニフラーをけしかけて、鋏から鍋まで持っていくぜっていう意味だ。もしくは、トイチで利息つけるぞとか?わかんないけど、とにかく、耳揃えて寄越しな系だ 」

 

「 なんでそんなこと知ってるのさ? 」

 

「 えええ…おたく、それ聞いちゃう?ほら杖店(うち)からはさ、見えるんだよ。たまに呑気に“漏れ鍋”で飲んでる客が、小鬼(ゴブリン)たちにコレをやられながらグリンゴッツの裏口に… 」

 

「 引っ張って行かれるの?えっ、魔法界って怖い 」

 

 

ハーマイオニーがポカンとして言った。

ロンはさっと口を噤んだ。

純朴なお嬢さんの反応に、ガラハッドは居心地の悪い思いをした。そっかマグル生まれの子たちって、杖店(うち)のことを「夢の入り口」のように思ってくれているよな…。グレンジャー夫妻の顔が思い浮かんで、ガラハッドは罪悪感を覚えた。杖屋稼業の持つ別の一面について、ガラハッドは、彼女に気づかれるのが怖くなった。

 

【豆知識】~知っている人は知っている。知らなくても、ちょっと考えたらわかる魔法界事情~

 

実際の取り立ての現場では、大抵の魔女と魔法使いは、債権者たちにグリンゴッツの裏口まで引きずっていかれる前に、何かしらの呪文をぶっぱなすか、“姿くらまし”をして消えようとします。ですから、グリンゴッツの小鬼たちは、まずはちょーっぴり債務者をびっくりさせて、杖を落っことさせようとします。しかし彼らは、その杖に触れてしまうと法に触れるので、「反乱者、元反乱者」と「武器屋」の立場で昔から近所づきあいをする友人を、その日は街に誘い出していて、たっぷりとおごってくれています。杖屋は、万民に親切な酔客なので、「おお、よしよし、磨いてやろうねえ」と言って土のついた杖を拾い、そのままマイペースに帰宅することがあります。

 

合法。合法。オール合法。

ガラハッド・オリバンダーは保証する。

大丈夫、後日“預かり杖”を取りに来れなかった魔女と魔法使いはいないんだよ!いくら「ゴルァ!」みたいな喋り方をしていても、小鬼たちはあれで本当に穏当な連中なのだ。というか、最初から借りたカネは返せばいいだけの話。たまさか同じヒト族だからって、借金踏み倒す気の奴の肩は持てやしないだろう。むしろそういうのってヒト族の恥。

 

ハーマイオニーは考え込んでいた。ガラハッドは視線を彷徨わせた。

ロンはハリーをじっと見つめていた。ハリーが、さっきから「と、いうことは…」等と呟いて、しきりに頭を掻きむしっていたからだ。

やがてハリーが意見を言い始めると、ハーマイオニーとガラハッドもハリーのほうを向いた。

ハリーは真剣な顔で言った。

 

 

「 バグマンは、小鬼たちはクラウチを探してるんだと言っていた。クラウチは、まだ病気が続いているんだって。あやしいと思う!クラウチも、小鬼に借金があるってことじゃないのか?ロンドンの魔法省にいると、取り立て屋に押し寄せられちゃうんだ 」

 

 

ハーマイオニーはハリーの浅慮を窘めた。

 

 

「 ハリー、クラウチさんは仮病だと決まったわけでは… 」

 

「 そんなの、堅物パーシーが絶対許さないね。通訳として、小鬼(ゴブリン)にはクラウチが必要なんだろ 」

 

「 パーシーはクラウチと手紙でやりとりするらしい。仮病だとしたって、わからないじゃないか。どう思う?元気爆発薬が効かない病気って、何なんだよ? 」

 

「 ハリー、それ以前に…だ。小鬼(ゴブリン)が、魔法省の内部に簡単に入れるわけない。魔法省は、杖店(うち)といい勝負か、杖店(うち)以上の小鬼(ゴブリン)対策が講じてあるはず。俺は、クラウチの懐事情は知らないが、もしもあいつの立場だったら… 」

 

「 お、わ 」

 

 

ロンがカウンターを見つめて声をあげた。

ガラハッドは、ロンと一緒になってハリーに反論して、「…むしろ職場に立てこもる」と言おうとしていたが、ロンの視線を追って振り向いて、今言おうとしていたことを忘れた。カウンターでは、リータ・スキーターとお付きのカメラマンが、それぞれのバタービールを手に入れたところだった。

 

 

( え? え!? えっっっ!!? )

 

 

他の客たちを掻き分けて、スキーターたちはこちらへと近づいてくる。

ドクンッと、ガラハッドは突然鼓動を感じた。初めからずっと持っているのに、初めていま心臓を得たみたいだった。「嘘だろ!?」と呆気にとられているうちに、スキーターたちはどんどん近づいてくる―――…。

 

 

TO BE(やるか)? NOT TO BE(やめておくか)

 

 

 

突然のチャンス到来に、ガラハッドは慌てふためいた。

ガラハッドは、次にリータ・スキーターに会う機会があったら、ネタを提供する形で近づいて、いくらかの取引を持ち掛け、彼女を利用しがてら取材術の謎を暴いてやるつもりだった。だがそれは、単身での遭遇を想定していたからで……こんな、こんな餌食にされやすいハリー・ポッター、怒りに燃えているハーマイオニー、顔面が正直者すぎるロンを連れて、真の密談なんかできない環境で出会ったのでは………ここは、新入りの通販フクロウのように、息を潜めて気配を殺すしか()()()()!?

と、いうのはガラハッドだけの目算だ。

 

近くのテーブルについたリータ・スキーターを、ハリー・ロン・ハーマイオニーはギラギラと睨みつけた。スキーターはそれには気づかずに、腹の出たカメラマンを相手に、ついさっきの収穫について楽しくお喋りした。

 

 

「 逃げよう 」

 

 

ガラハッドは連れの三人に囁きかけた。

三人とも振り向かなかった。

ガラハッドはこう思えてならなかった―――スキーターがお喋りに夢中のうちがチャンスだと。その好機のあいだに、ガラハッドはハリーだけでも逃がしたかった。

スキーターは、ショッキングピンクの爪もおぞましい指を立ててくねくねさせ、とても楽しそうなキンキン声でカメラマンへとこう言った。

 

 

「 臭うねえ?ちょーっと、ほじくってみようか! 」

 

「 また誰かを破滅させるつもりか 」

 

 

ハリーが大声を出した。

ガラハッドは血の気が引いていった―――やりやがった!これは、仁義なき戦いの始まりだ。馬鹿ハリー、俺とクラウチがやったようなことを、お前までやる必要はないのに…!!

客が、客が、店中の客たちが。まずは一斉に、そして次にそれにつられて。近くのテーブルから始まり、カウンターの向こうに至るまで。壮観なほどに一点へと首をめぐらせ、全員が同じものを目撃した。制服姿のハリー・ポッターが、バナナ色のローブを着たリータ・スキーターへと突っかかっていき、大人を大人と思わない態度で、「オドレら、サツにチンコロしたんかいッ」の勢いで吼えた。吼えた、吼えた、吼えまくった―――やられたスキーター本人を含めて、店内は彼以外静止していた。

女主人ロスメルタの背後では、蜂蜜酒が大瓶から溢れ続けた。

スキーターは、ハリーから人前で「三メートルの箒を中に挟んだって同席したくない」とまで言われたが、自分たちが権利を持つテーブルから動かずに、非常に大人の対応をした。彼女は、宝石縁の眼鏡をギラつかせた。彼女は、眉ペンシルでどきつく描いた眉をつりあげてはいたが、一貫して笑顔らしきものを浮かべていた。

 

 

「 ハリー?読者には真実を知る権利があるざんすよ… 」

 

 

スキーターはねっとりと言った。

その直後、スキーターはギロッと黒目を動かした。これは、ガラハッドをハッと動き出させる魔法だった。ガラハッドはスキーターから「それで、あんたは何をしてるんだい?」と言われた気がした。「ボケ学生総代!ガキを三匹引き連れてさ?」と。

ガラハッドは慌ててハリーを止めた。

 

 

「 よせ、ハリー!平和、平和、平和は大事だって知らないのか!? 」

 

 

ガラハッドは声を裏返らせた。いくら憎い相手でも、立てないといけない顔はあるんだよとか、そんな説教はできる立場じゃないけれど、ガラハッドは、クラウチとの潰し合いを後悔している―――だが、ハリーの退きたくない気持ちもわかる。表明のしかたに問題があるだけで、ガラハッドは、ハリーの怒りは間違っていないと思う。

 

 

TO BE(やるか)? NOT TO BE(やめておくか)

 

 

ガラハッドは震えて唾を呑んだ。ガラハッドは、するべきことが何かはわかっていた―――わかっている…こういうときは、ガシッとハリーのことを鷲掴みにして、「うちの選手がすみません!」だ。ハリーを捻じ伏せて自分も頭をさげて、「これからも三大魔法対抗試合をよろしくお願いします!」だ。だが、その瞬間のハリーの心を思うと、ガラハッドはすぐにそれができなかった。「さあ、()()をしろ」と訴えている、スキーターの目に屈服したくなかった。

 

 

「 半巨人で何が悪い?ハグリッドは何も悪くない! 」

 

 

ハリーはなおも叫んだ。だが、ガラハッドの制止は完全な無駄ではなく、ハリーは、少なくともさっき吼えていたような、「このヒトの出来損ないがッ」とかは言わなくなった。ハリーだってやったことのマズさはわかった。

リータ・スキーターはワニ革のがまぐちバッグを掴んで、「ふーん」という表情でパチンと開いた。その音は高く響いた。スキーターは、「ひとまず、合格だ」という目つきでガラハッドを(見上げながら!)見下しつつ、自動速記羽根ペンQQQを取り出した。羊皮紙を広げてセットしながら、スキーターは完璧な笑顔を浮かべた。

 

 

「 ハリー?気分が落ち着いたようで、良かったざんす。いいのよぉ、男の子には、カリカリしちゃう時期があるもんね?ホルモンの関係で、仕方ないのよぉ。君の知っているハグリッドについて、インタビューさせてくれない?『筋骨隆々に隠された顔』っていうのはどうざんす?君の意外な友情とその裏の事情についてざんすけど。君は、ハグリッドが父親代わりだと思うの? 」

 

「 そんな…流石にそれはプライベートすぎます。そんなことは… 」

 

「 お黙りよ。あたしゃ、ここで偶然ハリーに会ったんだよ! 」

 

 

スキーターは低い声でガラハッドに言い返した。

ハリーは歯を食いしばった。

突然、ハーマイオニーが立ち上がった。彼女は、手にしたバタービールのジョッキを、手榴弾のように握りしめていた。ロンが遮二無二それを掴んでおろさせた。

スキーターはガラハッドを睨んで言った。

 

 

「 ボウヤ、あたしは、今日はおたくの仕切りに乗って、お遊戯みたいなプレスリリースを聞きに来たわけじゃないの。あたしは、使命あるジャーナリストとして… 」

 

「 あなたって、最低の女! 」

 

 

ハーマイオニーは髪を振り乱して叫んだ。

ロンは、ハーマイオニーに次の武器を与えないため、四人分のジョッキをまとめて抱きかかえた。

ハーマイオニーはスキーターに指をつきつけた。

 

 

「 あなたは、記事を売るためなら、何にも気にしないのね!誰がどうなろうと…! 」

 

「 くくく、怖いな。僕どうなっちゃうんでしょう? 」

 

 

ガラハッドはスキーターの視線をはねのけた。ガラハッドはおどけてそう言ったが、こうして恋人が庇おうとしてくれるなら、何も怖くないような気がしてきていた。「自称ジャーナリスト」が可笑しくって、彼はとても純血らしい嘲り顔を浮かべた。

スキーターはターゲットを変えた。彼女は、長く苦しかった学生時代、ベラトリックス・ブラックと同室だった者だ。勝てない喧嘩をする奴は馬鹿だと信じている。

スキーターはハーマイオニーへと毒づいた。

 

 

「 お座りよ。馬鹿な小娘のくせして。わかりもしないのに、わかったような口を利くんじゃない!ルード・バグマンについちゃ、あたしはね、あんたの髪の毛が縮みあがるようなことを掴んでいるんだ!もっとも、もう縮みあがっているようざんすけど…! 」

 

「 行こう 」

 

 

ガラハッドはハーマイオニーの肩を抱いた。

ガラハッドは、怒りに震える彼女を店の外へ連れ出しつつ、他の二人にも撤退を促した。

 

 

「 さあ、ハリー、ロンもだ―――スキーターさん、ハリーは、あんたに『ブス』とは言いませんでしたよ。まあ彼は、あなたと違ってジャーナリストに憧れてないってだけかもしれませんけどね 」

 

 

真実を余さず言うならば、てめえはドブスババアだよ。

と、いう目つきでガラハッドは「Bye」と言った。

言うまでもないことだったが、大勢の目が四人の退店を見送った。

 

 

急ぎ足でホグワーツに帰る道々、ガラハッドはこのあと起こることを想像して嘆息した。どこまで同じことを考えたものやら、ロンが心配そうに低い声で言った。

 

 

「 ハーマイオニー、あいつ、次はきっと君を狙うぜ 」

 

「 やるならやってみろだわ! 」

 

 

ハーマイオニーはきっぱりと言った。

ガラハッドは、「だよなあ…」と思ってまた嘆息した。この子は、良いおうちで大切にされて育ったお嬢さんだけど、魔法界に親も立場も持たないから、ハッキリ言えば失うものがないぶん、泥仕合のプレイヤーとして最強だ。ガラハッドはむしろロンのことが心配で、ロンに「大丈夫か?」と小声で囁きかけた。思うに、燃えるような赤毛は目立つから、“三本の箒”の客たちのなかには、ロンの身元に気づいた魔法使いもいたことだろう。

ロンは、暗い顔でむにゃむにゃと歯切れ悪く答えた。

 

 

「 あー…まあな。でも別に、恥ずかしいことをしたわけじゃないし…『恥ずかしい』って言われるのは、慣れてるし。うん、慣れてるよ、俺たち血を裏切る者(ウィーズリー)は 」

 

 

ロンは鼻の頭をこすった。

ロンは剽軽に笑ってみせた。彼は、兄妹のなかでもとりわけみじめさに慣れている。強いということだった。

ハーマイオニーは走り出していた。ハリーがそれを追いかけていった。この泥道だというのに、ふたりは怒りが収まらないのだ。彼らを追って走るガラハッドとロンは、それぞれめいっぱい泥飛沫を浴びた。目を庇って腕を翳しながら、ロンは「そっちはどうなんだよ!」とガラハッドに叫んだ。

 

 

「 ヤバいぞ!あの女、君の弱みを突いてくるぜ! 」

 

「 フン…あいつにそんな度胸あるかな!? 」

 

 

ガラハッドは、それを言っている途中に口に泥が入り、以後ペッペッと吐き出し続けた。

このとおり、ロンとガラハッドには口を利く余裕があったが、ハーマイオニーにはそんなものはなかった。彼女は、連れの男子たちを従えて、全速力で校門を駆け抜け、校庭を突き抜け、そのままハグリッドの小屋へと走って辿り着いたとき、すぐには声が出なかった。冷たい空気で肺が裂かれて、鼻の奥は血の臭いがした。ハリーがドアを叩き始めたのに合わせて、ハーマイオニーはだみ声を張った。歴史上、決起を求める運動者の声が、割れず掠れずに美しくいられたことはない。

 

 

「 ハグリッド!ハグリッド、いい加減にして!そこにいることはわかっているわ!ハグリッド、リータみたいな腐った女にやられてちゃダメ!ハグリッド、ここから出るのよ!そうじゃないと、こんなことしてちゃ… 」

 

 

ドアが開いた。

ハーマイオニーは、「ああ!やっと!」と声をあげかけたが、そこに立っていた人を見て口を噤んだ。ハリーは、外開きの扉が開いたのに応じて、何歩か後ろにさがっていた。ハーマイオニーに面と向かって立っていたのは、ハグリッドではなく、アルバス・ダンブルドアだった。

 

 

「 こんにちは 」

 

 

ダンブルドアは四人に微笑みかけて、非常に心地よい声で言った。彼は、どうして他寮の五年生が一人この三人と一緒にいるのか、まったく疑問に思わないようだった。ファングが吠え立てていた。ガラハッドもまた、客に懐かない犬のようにダンブルドアを見つめた。

ハーマイオニーはトーンダウンした。

 

 

「 あの…わたしたち…ハグリッドに会いたくて… 」

 

「 おお、儂もそうじゃろうと思いましたぞ。さあ、お入り 」

 

 

ダンブルドアはにっこりして道を譲った。

ハーマイオニーは「あ……は、はい…」と頷いて、ぎこちなく小屋へと踏み入った。ハリーとロンがそれに続いた。ダンブルドアは扉に手をかけたまま立っており、もう片方の手で部屋の中央にいるハグリッドのほうを示して、三人をまっすぐにそちらに行かせた。ダンブルドアは、最後に残ったガラハッドのことをよく見つめた。「やっぱりな」という表情を隠さないで、ガラハッドはおとなしく視線を浴びてやった。

ダンブルドアは一度目を伏せた。

次にゆっくりと目を開けたとき、大魔術師の声色で、ダンブルドアはガラハッドに尋ねかけた。

 

 

「 来るかね?よしておくかね? 」

 

 

ガラハッドは、この状況で「俺だけ入らずに外」はナシだろと思った。

 

 

「 お邪魔でないようであれば、入らせていただきたいのですが? 」

 

「 大歓迎! 」

 

 

ダンブルドアはくしゃっと微笑んで扉を閉めた。

 

 




仁義なき戦い✖ハムレット。魔法族はみんなドス持って歩いてて怖いですね。
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