全員が小屋の中に入ると、ダンブルドアは杖を立ててくるくるっと回した。するとテーブルのうえに紅茶を乗せた回転テーブルが現れ、美味しそうなケーキを乗せた皿も現れた。
テーブルにはもともとハグリッドがいた。彼は、泣きはらしたことで顔に赤い斑をつくっており、硬い黒髪を乱れに乱れさせていた。ダンブルドアは、みんなに座るように促しながら、そんなハグリッドへと声をかけた。
「 ハグリッド、君には、ミス・グレンジャーが叫んでいたことが聞こえたかね? 」
ダンブルドアはハグリッドに優しく微笑みかけた。
「 ハグリッドや。みんな、さっきのドアの破りそうな勢いから察するに、今でもお前と親しくしたいと思っているようじゃが?考え直す気になったかの? 」
「 もちろん、僕たち、今でもハグリッドと友達でいたいと思ってるよ! 」
ハリーが身を乗り出して言った。
ハリーは、その勢いで「あんなブスのスキーター婆ァの言うことなんか…」とまで言って、そこで慌てて校長先生へと謝った。ダンブルドアは急に天を仰いで、「聞こえなかった」と言った。
ガラハッドは俯いて強く念じた―――もう嫌だコイツ…四年前のピュアさはどこに行った?俺は、もう少し教育に良い存在にならないといけない…。
ハリーは言葉を選び直した。
「 あの…えーと、僕が言いたかったのは… 」
ハリーはおずおずと言って、ハグリッドのことをじっと見上げた。
「 ハグリッド、あんな…女が…ハグリッドのことを何て書こうとも、僕たちは気にしないってことだよ 」
「 ハリー、それは… 」
「 わしが言ったことの生きた証拠じゃな 」
ダンブルドアがガラハッドに重ねるように言った。
ガラハッドは黙り込んだ。行儀の良いことに、ハーマイオニーとロンは口を挟まず、ダンブルドアとハリーによるハグリッドへの励ましを聞いていた。ガラハッドはハーマイオニーと目が合った。
一分…二分…と経つうちに、ハーマイオニーはどんどん緊張していった。ダンブルドアは、ほとんどガラハッドが予想していた通りに、「世界中の人から好かれようと思うなら引きこもっているしかない」の続きで、「わしもまた、週に一度はフクロウ便で批判されておる」と言って、ハグリッドに心の持ちようを説いて、肝心なところは巧く誤魔化した。「そんでも、先生は半巨人じゃねえ!」とハグリッドが言ったとき、ダンブルドアはハリーに発言の機会を譲った。ハーマイオニーはゴクッと唾を呑んだ。
「 ハグリッド。じゃ、僕の親戚はどうなんだい!ダーズリー家なんだよ! 」
「 よいところに気づいた 」
と、言ったときのダンブルドアは軽やかに笑っていた。
ハーマイオニーはそれをジッと見つめた。
「 わしの兄弟のアバーフォースは、ヤギに不適切な呪文をかけた咎で起訴されての。あらゆる新聞に大きく出た。しかしアバーフォースが逃げ隠れしたかの?いや、しなかった。頭をしゃんと上げ、いつものとおり仕事をした!もっとも、字が読めるのかどうか定かではない。したがって、勇気があったということにはならないかもしれんがのう… 」
カチャン
ハーマイオニーはビクッとして音源を探した。
ガラハッドが、無音で持ち上げて啜ったのでありながら、音を立ててティーカップを置いたのだ。彼は何も言わなかったが、その顔には「親父ギャグ、くせえんだよ」とありありと書いてあった。
ロンはそーっとケーキへと手を伸ばした。
ハーマイオニーはおどおどした。彼女は、ガラハッドとダンブルドアのことを交互に見た。そして、本当にどうすればいいかわからなくなってしまって、嗄れて震えた、今にも泣きだしそうな声で、ただ心にある望みを言った。
「 戻ってきて…教えてよ、ハグリッド…! 」
ガラハッドは舌打ちをしそうになった。
ハーマイオニーのこの言い方は、ハグリッドに対して如実に
「 お願いだから、戻ってきて、ハグリッド。ハグリッドがいないと、わたしたち本当に寂しいわ 」
はいはい結構なお手並みですこと―――…。
スゥッと立ち上がったダンブルドアに対して、ガラハッドは完敗の心地だった。何も文句は言うまい。結果良ければ、すべて良しだろう。これにてハグリッドは立ち直っていくのだ。
「 辞表は受け取れぬぞ。ハグリッド、月曜日に授業に戻るのじゃ 」
ダンブルドアは涼やかに言った。
「 明日の朝八時半に、大広間でわしと一緒に朝食じゃ。言い訳は許さぬぞ。それでは皆、元気で―――と、言いたいところなのじゃが 」
ダンブルドアはガラハッドへとじっと目を注いだ。
ガラハッドは、まるでドラコがルシウスにするかのように、静かに頷いて上品に席を立った―――別に、お前がいなくなったところでこの場でお前の悪口大会をして、折角立ち直れそうなハグリッドを凹ませたりしませんけど?等と思いながら。
ガラハッドもまたダンブルドアと二人になりたかった。
ガラハッドが「ついていく」という姿勢を見せると、ダンブルドアはにっこりと微笑んだ。
「 皆でお茶を楽しんでもらいたいところじゃが、ちょうどよく出会えたのでのう? すまぬが、学生総代を借りていくとしよう 」
「 悪いねハグリッド。あのロックケーキ食いたかったのにな。俺受講してないけど、明日から授業頑張って。うざいこと言ってくる生徒がいたら、『お前~!人の不幸で飯食う大人になるなよ!?』くらい言ってやって、心配のあまりに宿題を出してやったら?ま、そんな面白いことがあったら…そのときは、是非俺まで教えてほしいね 」
ガラハッドは最後だけ少し真剣なトーンで言った。彼が悪戯っぽく舌を回しているあいだ、ダンブルドアはファングの耳をカリカリと掻いてやった。ハグリッドはしゃくりあげながら頷いて、水玉のハンカチ(フェイスタオルよりも大きい)で鼻水をちーんとやった。
ダンブルドアとガラハッドが小屋を出て行き、扉が再び閉ざされると、ハリーとロンは同時に「はっはあ!」と言った。ふたりはとてもニヤニヤして、来週起こりそうなことを想像して心躍らせた。ロンは胸に手をあてて、さながら夢を見ているかのように言った。
「 小さなイタチがぴっくぴく!いいぞ、もう一度あれが見たいなあ! 」
「 最高 」
ハリーはクスクスと笑った。ハリーは、マルフォイのやつが開始後何分何秒で自滅していくか、来週の魔法生物飼育学の時間中、ずっと計っておいてやりたくなった。「こいつ、あと何秒でガラハッドにシバかれる理由をつくるのかな!?」と思ったら、ハリーはマルフォイと実習ペアだって組める。「申し込んでみたら面白いかも!?」と想像して、しばらくニヤニヤが収まらなかった。
ハーマイオニーは溜め息をついて、なおも啜り泣くハグリッドの腕をさすった。「ダンブルドアは偉大だ」と、ハグリッドは泣きながら繰り返した。ハグリッドは涙を落ち着けると、ハリー・ロン・ハーマイオニーに家族の写真を見せた。少年の日のハグリッドの肩に乗ってニコニコしている、ヒト族の父の写真だった。その亡き人は、「自分は自分だ。恥じるな。誤魔化すな。挫けるな」と息子に教えたのだという。紅茶が冷めていくのにも構わないで、三人は神妙に写真を見つめた。
結果が良いなら、すべて良しなんだよ!
と、念じつつもガラハッドはモヤモヤしていた。
今回の件でガラハッドは、アルバス・ダンブルドアという男を、「つくづく
ハグリッドは、やはりダンブルドアに政争の道具にされていたにも関わらず、タネも仕掛けも見えている手品を施されて、却ってダンブルドアへの忠誠を深めたに違いない。ガラハッドはそれを見るに見かねるが、「それがハグリッドの幸せだろうな」とも思うのだ。
だから、ある種の賢さを志向して、いくらでも嫌味が言える環境になっても、ガラハッドはクールに黙りこみつづけた。ガラハッドはダンブルドアに従って小屋の外へと出たとき、もう、ほんのついさっきのことであるにも関わらず、小屋の中のことは一切忘れたような顔つきをした。実によく出来た学生総代に、ダンブルドアはそっと目を細めて言った。
「 さて、儂はおぬしに感謝を伝えねばならんのう… 」
「 校長、森へ来ていただけませんか? 」
ガラハッドは自分の用件を言った。彼は穏やかで丁寧な口ぶりだったが、「おべんちゃらなんかファングに食わせろ」という目をして応じた。まがりなりにも森は禁じられており、侵入は規則違反であるが、今すぐ密かに伝えるべき案件の重大さを思えば、そんなことは気にしていられないと思っていた。
ダンブルドアは小さく首を振った。彼は規則の軽視を咎めずに、ただ「小屋の裏には雪が残っておる」と囁いた。
「 それでは… 」
「 来なさい。よい場所がある。おぬしは、何かしらの報せを持っておるな?儂はそれを聞きたい―――わたしは此処で待っていた。そなたは、此処に訪れてくれた―――ふさわしい場所が必要じゃろうて! 」
言うだけ言って、ダンブルドアは歩き始めた。
彼は、老人とは思えない速度で歩いた。彼は自分でも驚いていた。
小屋はどんどん遠くなり、城はぐんぐん近づいてきた。
ガラハッドはダンブルドアに付き従いつつ、正直、物凄く気が乗らなかった。「それじゃあ、もういいです!」と言いたい気持ちと、「そうそう!聞いてくれ、この報せ!」という思いと…。ガラハッドが森で密談をしたがったのは、すぐそこに森があったからだけではない。万が一何かあったときに、この圧倒的格上を相手にも、そこならば味方になってくれる樹たちがいるからだ。玄関の石段を上がりながら、ガラハッドは恨みがましい声でぼやいた。
「 俺、昔あんたに開心術をかけられたんですけど… 」
「 うむ。あのときは実にすまんのぅ 」
「 謝っていただきたいわけじゃなくて 」
「 わたしと密室に入るのは、それは怖いことじゃろう。特に、これから行く部屋は怖かろう 」
手足に力が漲って、うんと若返ったように感じながら、ダンブルドアはしみじみと言った。
ガラハッドは顔面に力を入れた。ガラハッドは、「クソ、煽られてるな…」と感じつつ、極力とがった声にならないようにして、自分なりにはクールかつ謙虚に言った。
「 なるほど。怪物がいる部屋なんですね? 」
「 ううむ… 」
「 精々、食われないように努力します 」
ダンブルドアは咳払いをした。
それきりダンブルドアは口を利かず、ガラハッドを七階にまで連れて行った。
ダンブルドアしか知らない部屋があるらしいことに、ガラハッドは別段驚いていなかった。たかだか七年で卒業していく生徒たちと違って、アルバス・ダンブルドアは五十年以上この城にいる。
ガラハッドは、ダンブルドアが或る場所を往ったり来たりし始めたのを見て、近くに隠し通路か隠し部屋が出現すると察した。
そこで杖を抜いて下段に構えた。
三往復…なるほど…その行為が出現の引き金となって、右斜め前方の石壁に、無骨な金色の扉が現れた。密談のための部屋の入り口が、怪物に護られているというのは合理的だ。ガラハッドは杖を取り出して扉に近づいたものの、この先に何が飛び出してこようとも、おそらく自分の出る幕なんてないと思っていた。なんせ目の前にはダンブルドアがいる。彼は、ドアノブをぐいっと掴んで押して、躊躇いなくその部屋に入っていった。
「 ―――…ッ!? 」
突然、ダンブルドアは立ち止った。彼はヒュッと息を呑んだ。
ガラハッドはおおいに警戒して、咄嗟に杖先をビクッと跳ね上げた。
扉は開かれていた。
ガラハッドは怖々とその先を見た。
ダンブルドアは小さな部屋の中央に立ち、ゆっくりと辺りを見回して、透明な怪物を探しているようだった。「なんてことはないように見えるものほど、真に身構えるべき」というのが魔法界のセオリーだ。ガラハッドは慄いて目を凝らし、自分の目は節穴だと思った。一切、危険などないように見える部屋を歩いて、ダンブルドアは室内のものをひとつひとつ確かめはじめた。ガラハッドは少し背を屈めて傾き、廊下にいながらにして部屋の天井を見て言った。
「 ここは、どこに見せかけようとしてあるんですか? 」
ダンブルドアは胸を抉られた。「見せかけ」だと鮮やかに指摘されて、ダンブルドアは部屋を歩くことをやめた。
ガラハッドは観察を続けた。
この部屋は、ホグワーツ城の一部であるのに、木の柱と梁が存在して、壁は剥き出しのモルタルである。七階であるのに、八階などなさそうに見えている。見え透いたまやかしで再現されているのは、古い民家の一郭か、パブの二階といったところだろうか。置いてあるもののほうは、文学青年の下宿みたいだった。そんなのは見たことがないので、これはポーなどを読んでの想像だったが…。
簡素なベッドに、服掛けにされているパラス・アテナ像。一台の机、二脚の椅子。天板の長辺のうち、片方は壁に接しているので、二脚は差し向いではなく横並びに置いてある。机上には、とても古い雑誌と羊皮紙と羽根ペン、インク壺、各種の辞書、詩集、神話伝説の本などが置かれている。
「
ガラハッドはポーの『The Raven』を連想して言った。どうしても、ダンブルドアを視界に入れていると、思い出す必要のないことを思い出してしまった。いくら結果的に…秘かに手当てされているとはいえ…ダンブルドアが杖をふるい、目の前で“日記”が処分されたときの衝撃は忘れられない。ガラハッドはついつい意地悪に訊いた。
「 ここが、あなたにとっての秘密の部屋なんですか? 」
ダンブルドアは静かに頷いた。
ガラハッドは目玉が飛び出しそうになり、食い意地の張った鵜のような頷き方をした。うわ~無神経~!それ、もしもリドルが聞いてたらキレてると思いますけど~!?…―――と、思いつつもガラハッドは黙っておいた。わかってないなあ、“秘密の部屋”って、ただ堂々と密談ができるだけじゃなくて、特別な仲間としか使わない部屋だから魅力的なんだぞ。
ガラハッドは、「やはりこの男とは価値観が合わない」と感じた。だが、そんなのは今更のことである。折しも、階段のほうから生徒たちの声が響いてきた。ダンブルドアはガラハッドへと振り向いて、「さっさと入ってドアを閉めろ」という仕草をした。ガラハッドは願われた通りにした。
手が離れると同時に、金色の扉は融けるように消えていった。
ダンブルドアは居ずまいを正して言った。
「 ようこそ。ここは必要の部屋じゃ。この部屋は、求める者に対して、そのときに必要な物を与える―――わたしは、こちらに座ろうと思う。おぬしは、そちらに座るかね? 」
「 立って話せと仰るならば、そうさせていただきますが? 」
「 おぬしにはそこに座ってほしい 」
ダンブルドアはベッド側の椅子を示した。
ガラハッドはその椅子の背に手をかけた。
ダンブルドアは静かに腰を下ろした。
年長者が座ったのを受けて、ガラハッドも勧められた椅子を使った。
「 報せを聞きたい 」
と、ダンブルドアはすぐに切り出した。
時すでに遅しだった。
ガラハッドは、ダンブルドアの声をもちろん聞いてはいたが、机上にあるものたち(必要か?)に目をとられて、うっかりそれらへと気を遣りそうになった。
こいつは、マグル生まれがみんな石にされるのを待っていたような校長だ。どうせ何もしてくれないだろうに、熱心に縋る気にはなれない。だが…
「 校長、セドリックに危険が迫っています 」
…ガラハッドは、軽んじられることを懼れて姿勢を正した。
えいやっと好奇心を断ち切って、机上で開きっぱなしになっていた、寄せ書きのようなノートから目を引き剥がしたのである。そしてガラハッドは、ダンブルドアのことを真っ直ぐに見た。邪視だ魔眼だと呼ばれるのならば、今こそ念によって少しでも竦みあがらせたかった―――アルバス・ダンブルドア…お前に期待はしてないからって、このことはお前が聞き流してよい話ではないぞ…もう怒る気にもなれないからって、あなたはよくご存知です通り、世界中の人があなたを「素晴らしいよ」と思っているわけじゃない。
ダンブルドアはとても穏やかな様子で応えた。
「 セドリックに。それは、どのような危険なのかね? 」
「 白々しい。あなたは、予見していたはずだ。あなたのことですから、本大会の役員が決まったときから、わかっていたはずだ 」
「 はて。
「 決まっていますよね?当然、ルード・バグマンのほうですよ!彼、あんな感じなのは昨日や今日のことではないでしょう?いかにもだらしないじゃないですか。昔は、ちょっと年上のチームメイトに可愛がられて、ホイホイ誘われるままにどこでも行って、ママの財布から遊ぶカネ盗ってたタイプだ。それがそのままオッサンになってる、アレです 」
「 ふむ…そう評すると魅力的じゃのう?いかにも、バグマン氏にはその種の少年のようなところがある。そして彼は、その魅力が招く結果によって、裁判を経験したことがある 」
「 ほらやっぱり 」
ガラハッドはピシャっと膝を叩いた。
ダンブルドアは髭を撫でながら笑ったが、ガラハッドはニコリともせずに続けた。
「 ったく、魔法省はなんでそんな人物に部長をやらせているのやら―――彼は、このトライウィザードで不正を企てています 」
「 ふむ…それは今日、ホグスミードのどこかで知ってきたことかね? 」
「 ええ。“三本の箒”で、バグマンはハリーに声をかけていました。なんと、取り立ての小鬼を引き連れながらね!信じられますか?僕は彼らの会話を聞きませんでしたが、ハリー曰く、バグマンはハリーの勝ちに賭けているようです。そのうえで、バグマンは“第二の課題”についてハリーに助言しようとした―――彼、とことん尻に火が点いているんですよ―――ところが、ハリーはバグマンからの助言を断りました!それ自体は…非常に素晴らしい…決して嫌味ではなく…素晴らしく道徳的な振舞いです…。しかし、そうなると次はこうですよね? 」
ガラハッドはひょいっと手のひらを見せて言った。
「 バグマンは、次は『セドリックの妨害』という手に出ますよね? ハリーを有利にさせられないなら、他の選手の足を引き摺るしかありませんから。どんな形であれ、彼は賭けに勝たないといけない金銭状況。そして彼は、準備役にして審査員。大変…
ガラハッドは報告を終えた。
ダンブルドアはしばらく黙っていた。
ダンブルドアは、机上で手を組んで俯いて、くるくると親指をこすりあわせた―――直線的な論理だけでものをいうならば、ガラハッド・オリバンダーの観察眼は鋭いが、その先の思考には偏りがあると感じながら。
そう思われていることに勘づいて、ガラハッドは遅ればせに補足をした。
「 少しいいですか?僕が、『妨害を受ける可能性があるのは、ハリー以外のすべての選手』だと言わなかったのは、バグマンがそうであるように、バグマンの賭けの相手も、ホグワーツ贔屓の英国人だと思っているからで…なぜなら、彼は外国人に対してとても失礼です。彼が外国人から好かれるとは思えない…ので、その可能性が高いかなと。バグマンとその遊び相手の賭けの対象になっているのは、セドリックとハリーだ。違いますか? 」
「 Sirがそう言うのなら、そうなのであろう 」
「 馬鹿にしてますよね?俺は、本気で…! 」
「 本気でセドリックの身を案じておるのじゃな?おぬしの言いたいことは、わかるぞ 」
ダンブルドアは低く短く言った。
ガラハッドは、一瞬、ポカンとして口を開けた。
( え!?いや、『案じる』とか…セドリックは、強いし、むしろ誰よりも心配の要らない奴だ。ただ…! )
「 ッ…僕は不正義が許せないだけです! 」
ガラハッドはつっぱねるように言った。
ダンブルドアはクスンと鼻を鳴らして、何度も深く頷いた。彼が少しでも微笑んでいたら、ガラハッドは「馬鹿にするな!」と怒鳴って出て行くところだった。
やがてダンブルドアは喘ぐように言った。
「 身を案じるというのは、少し違ったかもしれぬ…おぬしは、セドリック・ディゴリーの名誉を案じておるのじゃな。わかっておる…わかっておる…すべては、“炎のゴブレット”が決めたことなのじゃが、おぬしは、あのとき儂がハリーの参加を認めさえしなければ、ホグワーツ代表への応援票が割れて、両選手の優劣を問う賭けが発生しなかったと考えておる…それゆえにわたしに、この危機へと向き合えと言っているのであろう…喜んでそうしようではないか―――このアルバス・ダンブルドア、これよりルード・バグマンの動きに目を光らせ、あの者が競技を妨害することを許さぬ。無論、セドリックは本校の、正当な、みずから志願した代表選手であるから、わたしは、『あらゆる危険から彼を守護しよう』とは言わぬ…ただ自身の場当たりな欲で…彼を陥れようとする者があってはならぬ。おぬしは、そのように考えておるのじゃろう? 」
「 そうです 」
「 努めよう。じゃが、水のなかで起こることは、わたしの力の及ぶところではない 」
ダンブルドアは重々しく言った。
「 水? 」
ガラハッドは小声で繰り返した。
ダンブルドアはふと小首を傾げて、悪戯っぽく微笑みながら、それでいてガラハッドを試すような目つきをした。さながら小さな子供へと耳を傾けて見せ、「さあ、バイバイと言って」と催促するかのように。
一方ガラハッドは「水…水…」と繰り返して、虚空へと目を彷徨わせていた。
「 …ああなるほど、“第二の課題”の会場は、湖なんですね? クリスマスの頃から、
「 然様。人智の及ぶところではない 」
ダンブルドアはきっぱりと言った。彼は微笑んで手を伸ばして、机の上の本をとってぺらりと開いた。楽しげな様子で読書を始めたダンブルドアに、ガラハッドは小さく溜め息を吐いた。
( …はいはい、“水の女”伝承は世界中にありますよね!! )
ガラハッドは口を利く気が失せた。
ガラハッドとて、水・
「クソがよ。肝心の競技中のことは、『知らん』ってことじゃねえか!」と、イラつきに任せてガタガタ言ってしまう前に―――ガラハッドは丁重に必要の部屋を辞した。レイブンクロー塔へと帰りながら、ガラハッドはどうにかポジティブになろうとした。
( まあ、うん、予想よりは、マシな反応だったな…少なくとも地上のことは、ダンブルドアに任せておけるんだ…うーんハリーは、自分の選択が招く展開をわかっているのかな?わかってないんだろうなあ!くっそ、あいつからセドリックに忠告してほしいけど…あいつの決断は間違ってないのに、あいつに悪いことした気分を味合わせるのもなあ…―――何より、あいつ馬鹿正直だからなあ… )
ガラハッドは想像して蒼い顔になった。
ハリーが、「…って、ガラハッドが言ってたよ!」というオマケをくっつけてセドリックに危険を予告したあとの、「なんで直接言わないの?」という、セドリックの顔ってどんなのだろうか―――そのときの気まずさってヤバいよな? これを機に久々に一対一で話すのは気まずいけど、それから逃げた場合のほうがもっと気まずい…。
何より、ガラハッドは「後悔する」と思った。もしも、「セドリック・ディゴリーを狙って起こされる、ひろく観衆に、その勇気と努力を正当に評価させないための事件」が現実となったとき…誰が忠告しても結果は同じであろうとはいえ、自分が直接伝えなかったら、ガラハッド・オリバンダーは後悔する。
三段飛ばしで寮塔階段を駆け上がりながら、ガラハッドは「あ゛~っ」と呻き声をあげた。甘ったれのときのチョウのことを、今後は何も言えそうになかった。「やだやだ、セドリックの顔が見られない~!」なんて、俺がジタバタしたって可愛くなんかねえんだよ!!女じゃないんだ、そんなことしてたまるか!ロジャーあたりに「ついてきて」と言って、「セドリックと二人きりの時間が長くなりすぎないように、曲がり角の向こうで待たせておく」とかも最悪だ。想像すると、絵面がキモすぎる。というかロジャーは、「は?何言ってんだお前?」と言って、そんな馬鹿みたいなことを頼んだ時点で、容赦なくアタマの心配をしてきそうである―――その反応は正しいと思うよ俺は!!!
紳士然なんかできるわけもなくて、ガラハッドは乱暴にレイブンクロー寮のドアをノックした。なぞなぞは耳を滑りぬけていって、全然頭に入ってこなかった。「セドリックをどう誘い出すべきか」しか、脳みそが考えようとしていなかった。
旅してきます。次回は10月末くらい?もしかすると11月かもしれません(イベント準備のため)