一週間が経ったが、「噂の盗人」は捕まらなかった。
ガラハッドはムーディーに失望した。
退役闇祓いのマッドアイ・ムーディーは、元上司を捕まえる気がないにしろ捕まえる力がないにしろ、どのみちあの態度に釣り合う男ではなかったようだ。ある日ガラハッドがその旨を密告すると、シザーリオは「知ってるよ」という目つきをした。ふたりしかいない大理石ホールで、シザーリオはくるっと身を翻らせて笑った。
「 ははっ。君の立場なら、そりゃあそう言いたい事情があるだろうね 」
ガラハッドは苦虫を噛み潰した。
大公妃への謁見を求めて、ガラハッドはシザーリオと協定を結んでいる。英国情報を提供する協力者として、ガラハッドは結構頑張っているつもりだ。例えば「ドラコ・マルフォイのばあやの親戚は、フランス人の教会法学者。彼は裕福ではない」という情報は、シザーリオの耳を喜ばせたようだった。しかしながらシザーリオは、「ボクは安くないぜ」という態度をとらせたら天下一品で、やれアレも知りたいコレも確かめておかなきゃとか言って、ここにきてガラハッドを手玉にとった。
「 はあ…どうやら、君と仲良くすることは、俺には荷が重かったらしい 」
ガラハッドはシザーリオに降参だと告げた。
はいはい、諦めて“次”に行きますよ。
大公妃殿下への非公式な謁見を目指すにあたり、ガラハッドは≪シザーリオルート≫にこだわる必要を持たない。やれやれ時間を浪費したな…。
他にも面白くない出来事が続いて、学生総代のガラハッド・オリバンダーは、すっかりにこやかなポスターのイメージを失った。「捕まった」という続報がないと、生徒たちの中で、「深夜、スネイプの研究室に忍び込んだそいつ」は、なんだか勇者の代表格のようにいわれるようになった。
その件で、一応、ガラハッドはハーマイオニーに助けられてはいた。彼女は、窃盗事件翌日にハリーから話を聞くや否や、毒物事件発生時の責任所在問題について、ガラハッドとまったく同じ心配をした。
そしてみずから、「該当部門長として、屋敷しもべ妖精たちがさらなる差別に苦しまないようにするわ!!!なんてこと!社会的弱者である彼らに、危険なイメージがつくことは(以下略)」と意気込んで、勇んで第二事件の防止に取り組み始めた。
ガラハッドは下手につっこまなかった。
ガラハッドは、元気なグレンジャーさんに好きにしてもらった。
今に始まったことではないが、ハーマイオニーはちょっと思想が強いので、そのパワフルさは正直厄介なときがある―――だが、今回の『食品安全キャンペーン』は、屋敷しもべ妖精たちを相手に、厨房の中だけで行われることだからやかましくない。それに、結果的にホグワーツの食の安全が保障され、罪なき者たちの名誉が守られるならば、それは万人にとってよいことだ…
…と、ガラハッドは考えて油断していた。
≪シザーリオルート≫を諦めた日、ガラハッドは、脳内で≪非公式謁見に向けた次の手≫の仔細を詰めながら行動したせいで、観察魔のマリエッタに新習慣を言い当てられた。仏頂面で茶を淹れるガラハッドを見つめて、マリエッタはしみじみと嬉しげに言った。
「 あなた…ついに、わかってくれたのね 」
「 え? 」
ガラハッドは、「誰かに毒を盛られることを怖れている」と、一番バレると厄介な相手に見破られた。
それからはもう悲惨だった。
速報!学生総代のガラハッド卿は、最近“愛の妙薬”を盛られた!?おいおい誰だい本当にやっちゃった奴は!?―――と、触れまわるライアンにガラハッドはキレた。
ロジャーは煽った。
マーカスは大笑いした。
レイブンクロー男子寮ではまた乱闘騒ぎが起こり、また全員マスタングにぶっとばされた。「マジマーリンの髭」というやつである。
それからは、“愛の妙薬”に関する噂は多少穏健なものとなったが、クラウチJrもその犠牲者となった。実は、彼もレイブンクロー出身だったりする。クラウチJrは、例によって忙しい隠密行動のさなか、壁の向こうから聞こえてきた後輩女子群の声に、あんぐりと口を開けて目をぎょろぎょろさせた。
「 ねえ、本当よ。本当にムーディーも、水筒だけから飲んでいるわよ 」
「 ダサくない?みみっちい。さーっと自分で紅茶を淹れて、分けてくれる男子のほうが百倍いい 」
「 そもそも絶対狙わない。傷だらけのおじさんとか 」
「 俺様紳士供給、助かる。三次元も捨てたもんじゃないわ 」
女子たちはきゃあきゃあ笑いながら歩き去っていった。
クラウチJrはぷるぷると震えた。
彼の怒りが届いたのか、ガラハッドの受難の日々は続いた。
ガラハッドは、マリエッタから「はい、あーん♡」なんてされていないしそういうの寮でも断っているのに、食事時のたびに、大広間を出入りする瞬間に、真紅の旗の下に座っているハーマイオニーから、とても凶悪な目で睨まれるようになった。可愛いと思っている女の子にほど、「は?」という目つきで見られたら傷つくというのに!!!
三度ほどその機会があったあと、ガラハッドはハーマイオニーから呼び出しをくらった。放課後の無人のルーン文字学教室で、ガラハッドはハーマイオニーに首を絞められるかと思った。
「 あなた…ひとに毎朝早起きさせて厨房に行かせておいて…良いご身分ね? 」
ハーマイオニーはドスの利いた声で言った。
ガラハッドは、当初驚いて素朴な感想を述べたが、ただちに“神速・手のひら返し”を使った。アーサー、パーシーから継いだ生きる知恵である。
「 そんな!決して、命じた覚えはな…―――いえいえいえゴメンナサイ。とても助かってます。いつも有難うございます。でもあの、彼女、たしかに面倒見が良すぎるんだけど、過剰なサポートとか、俺は本当に全部断ってるぞ!? 」
「 断る顔を楽しまれてるのよ。そりゃあね?エッジコムさんは綺麗な人だけど…照れすぎよ照れすぎ!ただの同級生よね?なに毎度赤くなって、らしからずお静かになさっているわけ!? 」
「 理不尽だ。血行がコントロールできるかよ! 」
「 少なくともおくちはコントロールできるんじゃない? 」
「 そうだよ!許して、君のこと愛してる!! 」
ガラハッドは呪文のように叫んだ。
ぴたっ!―――ハーマイオニーは、マイナデスのように掴みかかってくることをやめて、目を細めて頬っぺたを赤くした。ただし、乱れきった栗毛はまだ山姥を思わせたし、口の開き方や腕の挙げ方には、さながら羆の獰猛さが宿っていた。
ガラハッドは肩で息をした。
これにて、どうにか命拾いか!?
いいや、ここからは静かにチクチクと言われるはず!!!
ガラハッドは震えて唾を呑んだ。
もしも、この場にアーサー・ウィーズリーがいたとしたら、彼はグッと親指を立てて苦笑し、この若者をパブに連れて行ってやったことだろう。「完全なる敗北。その経験を知る男にしか、真の酒の美味さはわからないとも」と言って。
ところが、この者はフランス男の息子だった。
また、グッと手を挙げてみせるレフリーがいないので、この問答はここで終わらなかった。カウンター技は一種ではない。
ガラハッドは“羆落とし”に挑戦した。
ガラハッドは、ハーマイオニーを黙らせる形にはしたくなくて、彼女に「落ち着いてほしい」ということを伝えると、その唇ではなく指の背にキスをした。ガラハッドはハーマイオニーを見下ろすまいとして、おずおずと自身が低くなろうとして、みっともない姿勢になってしまいながら、蒼ざめた目で彼女を見つめた。荒ぶる神を鎮め拝むかのように、自身の襟首を掴んでいた手を包んで、ガラハッドは必死になってこう言った。
「 女神様…こんな事
ジゴロ話法である。
正式なパートナーにするにあたり、これを使う奴にろくなのはいない。
真剣に言っているほど、たちが悪い。
と、指摘できる人間が不在につき、この空間はなんとなく収まった。お見事、ガラハッド・オリバンダー!大公妃殿下の
そうはいっても暦は二月。
二月の半ばには、世界一有名な処刑日がある。
ガラハッドは、自身が吊るされる日は近いことをよくわかっていた。“禁じられた結婚式”の司祭・ウァレンティヌス殉教の日。その聖人の命日は、今では「バレンタインデー」と呼ばれている。
ガラハッドは、ハーマイオニーに怒られた(乗り切った!)経験から、バレンタインデーまであと数日という頃には、とうとう
( どうする?どうする?どうすればいい!? )
マリエッタ・エッジコムとハーマイオニー・グレンジャー。片方の少女だけに花を贈っても、両方に対して菓子を贈っても、両方に何も贈らなくても“死”が見えてきた気がする今日この頃…―――ガラハッドは、マクゴナガル先生に呼び留められて、夕食後ダンブルドア校長の部屋に行った。
“第二の課題”の準備のためである。
校長室にて、課題当日の望ましい一般生徒の動きについて、ガラハッドは説明を聞かされた。ガラハッドは、ちょこんとおとなしくソファーの一郭を温めて、思うことがあっても質問せずにいたのだが、歴代校長の肖像画たちは遠慮を知らなくて、何度もマクゴナガル先生の話の腰を折った。
マクゴナガル先生はイライラして言った。
「 ええ、ええ、そうでしょうとも。ホグワーツの威信!もちろん承知しておりますとも 」
彼女は「黙って!」という仕草をした。
すると一段と高いところにある肖像画が、フンッと狷介に鼻を鳴らした。痩せた黒髪の男だった。
ガラハッドはその肖像画を見上げて、「彼はきっと人気のない校長だったんだろうなあ」と思った。その点アルバス・ダンブルドアという男は、「お茶目なファッション、サンタクロースみたいな容貌」だけで無条件の人気を得ている節がある。彼は今も不死鳥が羽根を調えている横で、のんびりと茶を啜っており、仕事熱心には見えなかったが、それが美しい絵になっているのだった。
マクゴナガル先生はぶちぶちと言った。
「 まったく、結局はホグワーツの者だけでやることになります。オリバンダー、一般生徒のことはすべて任せます―――魔法省のかたがたは、今回準備にお携わりになりません!見に来るだけ。当日見に来るだけなら、森にいる野ネズミだってやるように思いますけど 」
ガラハッドは控えめな声で応じた。
「 そうですか。魔法省のかたは忙しいんですね…あっ!えーっと、たしか、行方不明者がいらっしゃるから。ジェンキンスさん。先生がたもお忙しいですけれど、国外まで捜索に行かれるわけでは… 」
「
マクゴナガル先生は、大きく肩を上下させて嘆息した。
ガラハッドも安堵の息を吐いた。
ダンブルドア校長はニコニコして、魔法省職員らが来られないぶん、自身もマクゴナガル先生と一緒に競技準備を行うと言った。ガラハッドは、ダンブルドアは“約束”を守る気があるなと感じて嬉しかった。
ガラハッドは思いきってこれを質問してみた。
「 クラウチ氏は最近どうなんですか? 」
ダンブルドア校長は首を傾げた。
マクゴナガル先生はキョトンとした。
ガラハッドは、彼女にあんまり真剣ではない口調でこう言ってみた。
「 バグマン氏はともかく、クラウチ氏だけでも準備のためにいらっしゃれば、校長のご負担は減るのになあと思ったんです。ダンブルドア先生は、三校長のうちのおひとりなんですから、本来競技準備に関わってはいけませんよね?もちろん、校長先生がいれば百人力ですが 」
「 そうなのです。そうなのですよ。百人力にして、本来はよろしくないお力添えです―――しかし、他に務まる人がいなくて。ああ、我が身の不勉強を憎みます。クラウチ氏は、当日もお越しになれるのかどうか… 」
「 先日お越しだったのでは? 」
「 いいえ?いらしていませんよ 」
マクゴナガル先生は米神に指を添えながら言った。
彼女は、猫の姿のときに
ダンブルドアは、黙って顎鬚をしごいていた。
無教養な女子供を見下げて、フィニアス・ナイジェラス・ブラックの肖像画が言った。
「 嘆かわしい。わたしの力が必要か? 」
マクゴナガル先生は片眉をつりあげて応じた。
「 まっ、それはそれは、素晴らしいご提案ですこと!湿気ると思いますが、よろしいのですか? 」
デクスター・フォーテスキューの肖像画が止めた。
「 よしたまえ。カビが生えると予後が悪い 」
「 冗談だ。我々はひとひらの影にすぎない 」
「 そこの彼のようになりたいのか? 」
「 たしかに。近頃とんと口を利かんな 」
肖像画たちは同じ方向を見た。
マクゴナガル先生は座り直して、額縁でいっぱいの壁へと背を向けた。ガラハッドは少し迷ったが、結局「話を戻しますが…」という言い方で切り出して、マクゴナガル先生同様、
「 …クラウチ氏は相当な重病なんですか?新聞には、そのような記事は出ていませんし、ハリーは先日彼を見たそうなんですけど 」
「 ポッターが?クラウチ氏を?それは、ホグスミードでのことですか? 」
「 いいえ 」
「 ついさっき、ウィーズリーは『まだ芳しくない』と手紙で 」
マクゴナガル先生は矢継ぎ早に言った。
ダンブルドア校長が口を開いた。
「 はて?しかしハリーのことじゃ。ミネルバ、あの子は、徒に嘘を言うまいよ 」
「 勿論そう思いますわ 」
「 儂から本人に確認してみよう。真実が明らかになるまでは、無闇に口にするべきではなかろうな。近頃は、奇妙な噂が飛び交いがちじゃ。煽っている者がいるのも確かじゃが、どうも人心が乱れて、刺激に飛びつきやすくなっておる。絶えず落ち着かぬことよ… 」
ダンブルドアは困ったように笑った。
マクゴナガルは咳払いをした。
ガラハッドは、急に絨毯の模様が気になって、足の間にいくつ三角形があるかを数えた。
それからそう長い時間をおかずに、ガラハッドはそそくさと校長室から退散した。
( よしよし、後は頼んだぞハリー!ダンブルドアは、お前の言うことなら何でも信じると思う!クラウチの動きのこと、ダンブルドアに是非伝えておいてくれ! )
怪獣像の脇を抜けながら、ガラハッドはヒリヒリとそう念じた。最早この期に及んでは、この祈念もまた現実逃避なのであった―――こうして業務を請け負って、校長室を辞したということは、学生総代として、次にやらなければならないことは決まっている。
2月XX日、トライウィザード・ソサエティー、召集。
「まぜるな危険!」のメンバーが集まりすぎて、この組織は最早「ホグワーツの火薬庫」だと言える。蝋燭一本でドカンである。爆心地は、もちろん、自分である。ワーォ俺は、みずから命日を決める権利を得たぞ!…ハハハ、こいつは、有難くってならないおはなしだ。
ガラハッドは渇いた笑いを洩らした。
とある月影の射し込む窓辺で、ガラハッドは自然と足を止めた。他には誰もいないように見える廊下で、ガラハッドはしばらく物思いに耽った。肘を置いた石は冷たく、校庭の向こうの森は黒々としていた。
( そっか、俺、火刑だったか…。てっきり絞首刑のイメージだったけど、そういや前世も焼死だったな… )
おそら、きれい。
ほし、きれい。
きたないのはこの自分だけです…。
いやでもこれ、大往生じゃないか?
前世では考えられないくらい、良い思いをできたもん。
結局童貞捨てられてないけどな…。
――――……。
――…。
…。
ガラハッド・オリバンダーは復活した。
まことに、生物というものはよく出来ていて、自身の死が近いことを痛感すると、疲れきって冷えた身体にもふつふつと、子孫を残したいという欲が湧き上がってくる。「ふざけんな。折角モテてるのに、エロいことのひとつもせずに死ねるかよ!」の一念で、彼という人はこぶしを握り固めた。全身全霊を以て、「生きたい」と念じたのである。これぞ火事場の馬鹿力だ。
よろめいて、口から魂が抜けかけていたのに!
靡かず闊達に歩き去っていったガラハッドを見て、
。たしをち打舌とッチはルドリ
まったく気づいてもらえていないが、
。いないどなてめ諦をとこのドッハラガ、はルドリ
。いなれらえ考はにルドリ、てんなだるめ諦をのもいし欲
妥協して取捨選択して、一つに絞って、眺めるだけにして…などという行為は、
。たっ練を戦作はルドリ
ガラハッドも作戦を練った。
斯くなるうえはもう、道は一つしかないと思っていた。
『テニスの王子様』