ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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ロマンティックあげるよ

 

前略、勇者よ姫を奪還せよ!

と、いう感じのイベントが行われた。

三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)は大盛り上がりだ。

第二の課題は、前回ドラゴンと戦った勇者たちにふさわしい、完璧にして素晴らしい、非常にロマンある競技種目だった―――少なくとも、観衆のうちの“多数派”はそう思った。

 

はて、ここで“少数派”に属した者は、このくだらない世界で生きるにあたり、常日頃から面倒を感じていることだろう。

 

ロマン…そう、ロマンという概念は強力である。

それは、個人に高揚と陶酔を齎し、恋愛に浸ることを推奨する。歴然とある問題点を見えなくさせ、ふるさとを非常に誇らしく見せる。ロマンは、至高のスパイスとして働き、物語を匂い立たせていく。ロマンは、やがては殺人の道具にさえ美という価値を付与して、民族や国家という幻想を強化していく。

ロマンには、ある主張の支持者をお祭り的に増やし、犠牲をも美化する風潮を生みだす力がある。

「自身は、生涯ロマンスを必要としない性質だ」と確信している者でさえ、この恐るべき魔法から逃れられはしない。ロマンは、特定の場所で人々に決まりきったこと(・・・・・・・・)をさせる。戦場から寝所に至るまで、ロマンチシズムは場を支配している。

急急。急急、如律令(・・)

もしも誰かが、「ロマンティックなことを起こすべし」という呪いをかけられた場所に、一人で踏み込んでいったらどうなるか?

その者は、たちまち不思議な体験をすることになる!

見ず知らずの人からも悲劇の烙印を捺されて、なんらかの欠陥があると見なされることだろう。

 

では、二人で行ったら、どうなるか?

たとえば、夜景の見える高級レストラン。パブやイートインベーカリーではなく、国賓を招いて催されている、格式高い宴の場へ―――…

 

…フツウは、そこはカップルで過ごす場所だよね!

まあ、ガキならばわけもわからずに、のこのこと友達と行こうとするかもね?

でもまさか、“ホグワーツ代表の英雄”はそんなことしないよ!

 

と、このたび若者たちは思ったのだった。

「ハリー・ポッターとあの男子はそういう関係」

その観念は、湖岸にて、ハリー本人が色々いっぱいいっぱいのあいだに、欧州中の若い魔女と魔法使いたちに共有された。彼ら彼女らの社会通念上、ハリーとロンはカップルだと見なすのが妥当だった―――本人たちはまだまだガキであるのだが。

悲劇的なことに、ロンは平均よりずっと背が高く、ハリーは表情が子供らしくなかった。

 

三校長の前にて。セドリックは、すっかりハリーの圧倒的オープンぶりに打ちのめされ、自身をひどく矮小だと感じた。得点発表を待つ間じゅう、セドリックはビクビクしてガラハッドのことを穿ち見た。

すがすがしいほど白々しく、ガラハッド卿はクールに気づかないふりをしなさった。

セドリックは、ハリーとロンのことについて、ガラハッドが知らなかった筈はないと思った。次々にぶつけたい質問が湧いてきた。

 

 

催しが終わり、スタッフ以外はその場で解散となったとき、セドリックはとても注意深く振舞った。彼は、スタンドから駆け出してきた多くの生徒たちに囲まれながら、ハリーとロンから離れすぎないようにして歩き、とても大きな一団をつくってホグワーツ城に帰った。

人垣越しに、セドリックはよく観察していた。

あのフレッドとジョージの弟は、さっきからかなり冷やかされているけれども、なんだか有頂天の気分なのか、“含み”には全然気づかない様子だ。彼は、うちの学年の女子たちに囲まれて「いったい、いつからだったの?」とニヤニヤされると、今回も代理でいらしていた、兄のパーシーさんそっくりな話し方をした。

 

 

「 昨日、夜8時くらいからさ!マクゴナガル先生に呼び出されて、うん、それからだね 」

 

 

セドリックからは見えなかった―――ロンに対して、フォーセットは明らかに「がっかり」という顔つきをした。

ロンは、慌てて相手が驚きそうなことを言った。

 

 

「 君、あの緑頭たちを見たかい?湖の底では、水中人は武装していた!長い槍を持ってた。先っぽには、鮫の歯がついてた。あれで突かれたら、水魔なんか一発だった… 」

 

「 わあああお。それじゃ、あなたは、それで脅されて縛られたってこと!?―――さぞ怖かったでしょうね 」

 

「 ち、違う。そんなのではビビらないよ!でも、その…最終的には、僕は、柱に縛りつけられてたわけで… 」

 

 

ロンはまごついた。ロンは、「自身は武装した水中人と睨み合ったが、不意に別の水中人に後ろから殴られた」ということにした。しかしフォーセットは二度と興奮した顔を見せなかった。彼女は、この“フレッドとジョージの弟”を気遣って言った。

 

 

「 ふぅん、そうだったの。殴られたのは、頭?お大事にね 」

 

 

ロンは顔を赤らめた。馴れ馴れしい年上のレイブンクロー生に、ロンはプライドを傷つけられた。

フォーセットは、「なあんだ、つまらない」とか、「それ、避けられなかったの?ダサいわね」なんて一言も言ってない。しかしロンは、すぐさま次のグループに取り囲まれて、いったいどんな体験をしたか話をせがまれた時には、「後ろから殴られたがタフに殴り返し、揉み合いのすえに競り負けた」ということにした。

この調子で、ロンはどんどん話を盛っていった。

彼は声を大きくした。玄関ホールに着く頃には、「武装した水中人」は三人に増えていた。

 

ハーマイオニーは呆れた。ハリーは、「あれ?」と思っていた。だが、セドリックは聞こえてきた話を全部真に受けた。

セドリックは慌ててキョロキョロと近くを見回し、自分についてきているチョウ・チャンに質問をした。ここでバイバイをしてそれぞれの寮に帰る前に、このことは確認しておかねばならないと感じた。

 

 

「 チョウ、君、大丈夫かい?君も、縛られる前に酷い目に遭っていたのかい? 」

 

 

真剣な調子のセドリックはとてもかっこいい。

チョウは、とてもうっとりして小さく首を振った。

 

 

「 ううん 」

 

 

にこにこ、にこにこが溢れ出てきちゃう!歩いていても、ふわふわと浮いているみたい!―――チョウは幸せの絶頂に在った。

チョウは、セドリックのことを拝むように見上げて、自身が体験したことについて語った。

 

 

「 夢みたい。セドリック、今日は何日?わたしは、長い間眠っていただけよ―――わたしね、夜にマクゴナガル先生のお部屋に行ったの。そうしたら、待ち受けていたのはダンブルドア先生だったの。校長先生は、人質役はみんな安全だっておっしゃったわ。でもわたし、不安だった!あなたのこと、信じてなかったわけじゃないの。ただ近頃は、少し寂しかったから…!―――それに、ガブリエールは本気で怯えてたわ。おとなしくしていたけど、まあね、あの子からすれば、ダンブルドアだって『知らない強そうな人』じゃない?遠くから連れてこられたわけだし、あの時点では、まだ怖かったみたいなのよ。そこでグレンジャーさんが、『先生~!どうして人間がトロフィーの役をする必要があるんですか?』って、こんなふうにピーンと手を挙げた。そしたらね…ふふふ、校長先生は、とーっても素敵な、小授業を特別にしてくださったわ! 」

 

 

と、いっきにまくしたてて微笑んで、チョウ・チャンは一瞬深くためらった。

彼女は、根っからバキバキのレイブンクロー生である。『校長先生から直接教わった』だなんて、嬉しくって誇らしくって仕方がない。

チョウは、このたび特別に授かった智慧を秘密にしておきたい気持ちと、ここで披露してみせたい気持ちとで揺れ動いた。

セドリックはそうとは知らずに質問した。

 

 

「 授業?それは、湖に行く前に?そこには、あのフレッドとジョージの弟もいたかい? 」

 

「 いたわ。わたしたち、みんなで校長先生から教わった…最強の魔法についてね。気になる?それはね、何よりもなんですって!セドリック、わたし、完全に理解したわ!校長のお話を聞くうちに、『たしかに!』という気持ちになって…そしたら、スゥっと眠くなってきちゃって…―――気がついたら、もうあなたの腕の中だったの 」

 

「 そっか。不思議。これはどういうことなんだろうね 」

 

「 大好き、セドリック!ね、今度のホグスミード休暇は、一緒にお出かけをしようね~!わたし、ボーイフレンドができたら行ってみたかった店があるの。あなたと、是非そこに行ってみたいわ 」

 

 

チョウ・チャンは勇気を出して言った。

言いたかったことを言うだけ言って、チョウは、ぴゃっと水に戻っていく人魚のようになった。そっぽを向いて、熱くなった頬を両手で抑え込み、小刻みに首を振って素早く足踏みをした。

 

 

( キャー!言っちゃった!わたし、ついに言っちゃった!! )

 

 

チョウ・チャンは今日も様子がおかしい。

玄関ホールは口笛の嵐だ。

セドリックは、微苦笑のままギョッと顔を強張らせた―――あっ、それは、さてはあの有名なデートスポットのことだな!?たしかマダム…マダム・ナントカの喫茶店だ。半円ショーウィンドウに詰め込まれた、おぞましくメルヘンな食器類!!あの模様のティーセットで紅茶を淹れられたら、ラプサンスーチョンだって砂糖水になりそうだ。

セドリックはまったく迷わなかった。

 

 

( 無理無理無理。僕は無理!あのピンクの扉、みんなどんな顔してくぐってるんだ!? )

 

 

セドリックは咄嗟にこうも思った―――もしもガラハッドとデートできたとして、僕ならばあの店を選ぶことはないね、と。彼だって、絶対に「うわ無理。きっつ」って言うと思うな、と。

まあ「彼とデートできたら」なんて想定が、我ながら夢見がちでイタい奴なんだけどね。でも、夢ってどうやら叶うみたいだし!?―――セドリックは、ホクホクと微笑んでチョウを受け流した。

 

だってだって、セドリック・ディゴリーは首位通過した。

満点だ。彼は第二の課題で、唯一制限時間に間に合った選手だった。

これで浮かれるなというのは無理な話である。

 

その夕、セドリックは大広間にて、同輩たちに祝われて微笑むばかりだった。夕食時、セドリックは忙しくてならなかった。彼は、背後のレイブンクローテーブルへと聞き耳を立てすぎて無口になり、見えているソーセージをフォークで突き刺し損ねた。

セドリックは空振りを続けながらニヤついた。

 

 

( うわあ、ガラハッド、可愛いな…。彼、上手に取り澄ましているけれど、あれからずっと機嫌が良くないぞ…! )

 

 

それはそのとおりなのであった。

 

その頃ガラハッドは、同級生のメアリーと軽い口論をしていた。きっかけは、メアリーが「ハリー・ポッターがゲイだったなんて、かなりがっかりじゃない?」と言ったことだ。ガラハッドはこれに、「放っといてやれよ。君、知り合いですらないしもともと脈ないのに」と応じた。一切手心がないとはこのことである。

当然、メアリーは「ひどい!」と噴き上がった。

 

 

「 こっちこそ放っといて。Sirに言ったわけじゃないわよ! 」

 

「 はいはい、失礼。けどそれは、本人に聞こえるとこでは言うべきじゃないと思う… 」

 

「 まあね?わたしたち、それくらいわかってるわよね~? 」

 

 

「ね~?」とメアリーは甲高い声を出した。

ガラハッドは周囲の女子生徒たちを穿った。マリエッタは適当に合わせていた。チョウは、何も聞いていなかったのかキョトンとしていた。

 

ガラハッドはふとその様子を見て、「セドリックは、本当にチョウのことが好きになってきたのかもしれない」と思った。「この子以外の女子は無理なんだけど、この子なら特別に好きになれる」という感覚はあるだろう。その「特別」へと選ばれる人物として、チョウ・チャンという友人は相応しいように思える―――彼女は、爽やかなクィディッチガールであり、「ごめんね急にスタッフから抜けちゃって!」と、明朗に詫びてみんなをねぎらう人だ…。

…ガラハッドは皿の上のものに集中した。

 

フレッドとジョージはげっぷをした。彼らは、急いで胃袋に食べ物を詰め込むと、同時に席を立ってレイブンクローテーブルを目指した。ガラハッドは、彼らに「ないのか?」と質問されるまで、もつべき反省会の存在を忘れていた。

 

 

( …まあいいや。それは、冬至舞踏会(ユールボール)のときも結局しなかったし )

 

 

双子のほうからしても、反省会(そんなの)はただの口実であるようだった。

 

 

「 あいつ、うまく逃げやがったんだ 」

 

 

ガラハッドは「バグマンのことだな」と察して頷いた。フレッドとジョージに誘い出されて、ガラハッドは大広間を出て話すことにした。

ところが、玄関ホールも無人ではなかった。

双子は立ち止まらずにフクロウ棟を目指すことにして、ガラハッドに「こっち」という目つきをした。ガラハッドは、どこに向かうんだかわからないが、気にせずに双子ついて歩いていった。

三人はひとけのないところまで達した。

 

 

「 どう思う?あいつは、そう大負けはしてないはずだよな? 」

 

 

フレッドがひそひそと話し始めた。

 

 

「 今頃あいつは、いくらかは手に入れてるはずだよな?ハリーは、うーんと特別点をとったんだからな 」

 

「 さあ…。そんなの、あいつの賭け方次第だと思うが…いったい、どういうルールで賭けをやってるんだか 」

 

 

ガラハッドもひそひそ声で応じた。

ジョージが歯を見せて拳を握って言った。

 

 

「 悔しいぜ。あいつ、ずっとマクゴナガルに話しかけてた。ちくしょう、俺たち“良い子”なばっかりに 」

 

「 へえ、びっくり。主観と客観のズレを感じる 」

 

「 流石に寮監の前で賭けの取り立てはなあ 」

 

「 いいよな。フリットウィックは大らかで 」

 

「 そこでだ、俺たちはあいつに手紙を書いた。ちょっち、目を通してくんない 」

 

「 俺たち、お互い気が合いすぎるんだよなあ。ふたりじゃ点検にならないんだ 」

 

「「 この文面でいいと思うか見てくれ 」」

 

 

フレッドがガラハッドに手紙を渡した。

ガラハッドは歩きながらそれを読んで、なかなか良い書きぶりのように思ったが、フクロウ棟に差し掛かるころになって「えー…」と声を漏らした。折角ここまで来てしまったが、ガラハッドは書き直したほうがいいと控えめに伝えた。

 

 

「 うーん、その…これは考えすぎかもしれないけど…凄く良く書けてて、巧く逃げ道を潰してあるとは思う。だがそのぶん、この、最後の一行の挨拶が、『ウィーズリー』の署名の上にあると脅しっぽいというか…―――もちろん、万民は健康に気をつけるべきなんだけどな? 」

 

「 …あーね。なるほど。俺たち、あいつに脅しだとは受け取られたくないな 」

 

 

ガラハッドはフレッドに手紙を返した。

ジョージが何かを言おうとした。

そのときだ。

 

 

「 あいたッ!? 」

 

 

双子とガラハッドは一斉にフクロウ棟の上階を見上げた。雪でも降ってくるように、薄闇にはいくらか羽根が舞っていた。

三人は黙って顔を見合わせた。

今のは、三人ともがよく知っている声だった。

フレッドとジョージは同時に囁いた。

 

 

「「 ハリーだ… 」」

 

 

双子はそろそろと後退を始めた。

ガラハッドは、いましがたジョージがギィィィッと扉を押し開けたことを思って、双子へと口パクで「行け」と伝えて自分は居残った。双子は無音で「サンキュー!」と示して、すみやかに来た道を戻って行った。

 

焦っていたのは双子だけではない。

ハリーは、誰かがフクロウ棟に来てしまったようなので、一秒でも早く手紙を出し終えたかった。

ところが、このヘドウィグの嫉妬心ときたら凄いのだ。

彼女は、「どうしてわたしに手紙を託さないの!?」とばかりに、体当たりで茶色ミミズクを押しのけて、ハリーの手に噛みつき脚で掴みかかった。

 

 

「 痛い!痛いってば。このっ、離せよ…! 」

 

 

ガラハッドは階段をあがってみることにした。

ガラハッドは、ヘドウィグVSハリーの様子を現認したとき、正直、ちょっと呆れて胡乱な顔つきになった。「人間とフクロウの仲だっていうのに、ハリーはヘドウィグと互角に喧嘩をしている」と思ったのだ。

彼らの周りのフクロウたちは、いずれも首を回して少し細かくなっていた。「んもう、こういうの困りますよね」みたいなぱちくり目だ。

ガラハッドはフクロウたちのために言った。

 

 

「 ハリー、お前、何やってんの?さては… 」

 

 

ガラハッドはハリーの手の中を見た。

その目つきは、靴に泥をつけて戻ったときのペチュニアおばさんそっくり!

と、ハリーは感じたがホッとして笑った。

 

ガラハッドの予想通りだった。

 

ハリーは、良い形で第二の課題を終えたことを、どうしてもシリウスに知らせたくなっていたのだ。ハリーは、忙しいガラハッドの手を借りるのはしのびないので、目立たないフクロウを選んで使おうとしたところだった―――けれどもヘドウィグに妨害された。

ハリーは項垂れて正直に言った。

 

 

「 今日のことを知らせようと思ったんだ… 」

 

 

少しの間、ハリーはガラハッドのお言葉を待ってみた。

案の定、ガラハッドは何にも言わなかった―――雷なし!セーフ!彼はネチネチグチグチは言わない。

 

 

「 …それと、できれば会いたいですって書いた。わかってる。こんなことはするべきじゃない。でも…―――ねえ、お願いだ!君に会えて、僕は本当にツイてるよ!ガラハッド、頼む、今から、あそこに連れて行ってくれないかい?鏡を持ってる?ここから、あの人のところにすぐに行けない? 」

 

 

ハリーはガラハッドにお祈りのポーズをした。

ガラハッドはハリーを宥めて言った。

 

 

「 ハリー、不可能じゃないけど、今日はよくないと思う。お前は、今だってきっと寮で探されてる。冒険の話を聞きたがる人は多いだろ?今日、お前が城内で行方不明になったらどうなるか… 」

 

「 ロンがいるよ。ロンが、その子たちと話してるから、大丈夫だ 」

 

「 …ロンはそれでいいって言うのか? 」

 

 

ガラハッドは微妙に気を使って訊いた。

キョトン?ハリーもフクロウの顔になった。

「よくな~い!よくないよ!!」とでも言うかのように、ヘドウィグはカチカチと嘴を鳴らし続けている。

 

ガラハッドは、いくらロンがソッチだったと知ったところで、もしもハーマイオニーがロンとふたりっきりで出かけていたら、クラム相手ほどには血が騒がないが、なんとなく良い気分にはならない。

知らなかったうちは、気にしようがなかったけどさ…。

どうも、ハリーとロンはそういう関係だっていうなら、自分とハリーが二人で出かけるのは、あまりよくないのではないか…?

 

ガラハッドは気まずかった。彼は、自身もフクロウになったかのようにあちこちに目を泳がせた。

ハリーは、日頃ガラハッドのことをボロカスに言っているが、自身も自覚なくそれなりに変わり者である。野ネズミを見つけたフクロウのように、ハッとして緑の目をパチパチさせた。

 

 

「 たしかに。僕だけがこっそり抜け出したら、ロンは拗ねて文句を言うに違いない。やめた。やっぱり、四人で行きたいよ。僕と、ロンと、ハーマイオニーと君で 」

 

「 そうしよう。それじゃあ、今日はその手紙だけを受け取ってあの人に渡しておこう。君たちはいま注目されている。寝室でだって、出かける相談をするときは気をつけろ 」

 

 

ハリーは、過去一番の素直さで頷いて微笑んだ。

 

 

「 うん、わかった!それじゃ、楽しみにしてる! 」

 

 

ハリーはニッコリしてヘドウィグを撫でてやった。

 

 

「 ごめんね。君が一番だ。本当さ。これからも頼りにしてる 」

 

 

ヘドウィグは目を細めて「ホ~」と鳴いた。

フクロウ棟の扉は開けっぱなしだった。

ハリーは、舞い上がる心地で階段を駆けおりて、出入り口のところでセドリックと鉢合わせた。競技場での練習入れ替え時みたいに、ハリーは屈託なく大きな声を出した。

 

 

「 わ、セドリック! 」

 

「 やあ!君も、家族に報告かい? 」

 

 

セドリックはひどく焦りながら言った。

家族。家族。家族かあ…!

ハリーはうふふっと輝く笑顔を見せた。

 

 

「 そうだよ 」

 

 

それから、ハリーはちょっとチョウ・チャンのことを思い出してしまった―――なめらかな会話はここまでとなった。

 

ハリーは、急に腹を下したような顔つきになった。彼はのそのそと立ち去った。

セドリックはむっつりしてハリーのことを見送った。

 

ガラハッドは、ふっふーぅと駆け降りずに歩いて階段をおりたばっかりに、実質ハリーからフクロウ棟に置き去りにされてしまった。

ガラハッド・オリバンダーは瞠目した―――おやおやそこの出口に…まさかの、セドリック・ディゴリーくんがいらっしゃる。その彼は、足を開き、石の壁に手をかけて、わざと通行の邪魔になろうとしていらっしゃる。知らん顔で突破を試みたら、足を引っ掛けて妨害されるんだろうか?…いや、彼は、そんな幼稚なことをする奴だろうか?

 

ハリーはじゅうぶん遠くへと行った。

セドリックは、再び進行予定の方向へと向くと、ガラハッドの顔を見ずに手元に注目した。セドリックは、ガラハッドが掴んでいる手紙を見竦めて、推理ではなく直感によって口を引き結んだ―――それは、ガラハッドが出そうとして出さないでおく手紙ではなく、ハリー・ポッターによって書かれた手紙だ!!!

一方ガラハッドのほうも、直感というか生存本能で、セドリックの気づきと感情の昂りを察した。クソみたいな事実を言うならば、ガラハッドはなかなか修羅場慣れをしているのだ。

不自然な沈黙を打ち破って、ガラハッドはクールに皮肉げに言った。

 

 

「 おいおい正気か、セドリック?―――そうだな、君って、結構そのタイプだよ 」

 

「 なんだい?君には、僕がどう見えているの? 」

 

「 嫉妬深いやつ。よそじゃあ聖人君子ヅラしてるくせに 」

 

 

ガラハッドは先制で言ってやった。彼は微笑んだ―――「どうする?俺はコールだ」と言って、ゲームテーブルにチップを積み上げるときの笑顔だ。

セドリックは綺麗に踊らされた。彼は口を開きかけて、くっと自制して堅く黙り込んだ。その瞬間、彼は隙だらけになった。

ガラハッドは、セドリックに「見せろ」と呻く暇を与えないで、ポケットにシリウス宛ての手紙をねじこんでしまった。「パッドフッドへ」と書いてあったので、これは特にセドリックに見せるべきではないと思った―――少なくとも“地図”の関係者だということはわかる。

 

 

「 隠したな? 」

 

 

セドリックは看破して憤った。

ただし、セドリックは怒ることに慣れていなかった。

 

 

「 君…いったい、君は、どれだけ…君は… 」

 

 

セドリックはもごもごと言い続けた。

ガラハッドは穏やかに語りかけた。

 

 

「 事情がある。今は、まだ話せないんだが…いずれ君にも話したいと思っている事情だ。これは、本当にハリーの家族宛ての手紙だ。俺は鏡を使えるから、フクロウより速いんで預かった 」

 

「 …そう。たしかに、そうなんだろうね 」

 

 

セドリックは俯いたままで呻いた。「ハリー・ポッターって、こんな表情もするんだな」と、セドリックはさっき驚いたばかりである。セドリックはとても情けなくなった。

 

 

( 簡単に嫉妬を見せて…安い野郎だと思われたんだろうな… )

 

 

セドリックは道を譲り、謹んで非礼を謝ろうとした。ところが、ガラハッドはいきなりまた火種となる発言をした。

 

 

「 チョウはどうしてる? 」

 

 

ガラハッドは、純粋にこれが気になっただけである。ただし、彼の純粋さは大体裏目に出る。

たちまちセドリックは顔を歪めた。

セドリックは、ぐんっと手足に力を漲らせ、全身を突っ張り棒のようにして言った。

 

 

「 僕が聖人だったことはない!いかにも、君が知っているとおりだけど?何が言いたいの?…わかってる。こういうことだろ?―――どうせ僕は堂々とできていないよ! 」

 

「 別に。そんなことはないだろう。君はただ他人に放っておいてもらえないだけ。チョウと最近どうなってるかは、単純に向こうには聞きづらいだけだ。俺は、チョウの件で今更君を責める気なんかない。責める権利だってないし―――ただそうだな、今日は、見ていて『いったい、何がしたいんだろう?』とは思ったな…君は、人を弄ぶ趣味があるわけじゃないのに。だから… 」

 

「 そうだね、そうだよ、君と違ってね。僕には、まったく駆け引きの才能がないみたい。君は、どうやら駆け引きの天才であると同時に、人を弄ばないと生きていけないみたいだけどね―――まったく、今日という今日こそ頭にきた!君は、いっつも浮かれさせたあとに、決まって容赦なく突き落としてくるんだ!君、さっきのは、僕に聞こえるようにやっていたんじゃないの?君は、僕が、今日のうちに家に手紙を出すと見越していたんだろ! 」

 

「 まさか 」

 

 

ガラハッドは即座に否定した。

誤解だ。これは、単なる偶然ってやつだよ、と。

だがセドリックは、とっくに頭に血がのぼってしまっていた。

 

 

「 嘘だね 」

 

 

セドリックは手袋を叩きつけるように言った。

ガラハッドの返答に熱がこもった。

 

 

「 嘘じゃない。俺は、君にわざわざそんな嫌がらせしない 」

 

「 じゃあ無神経だ。君なら、僕の行動パターンくらいわかってるはずなのに 」

 

「 …?そりゃ、推理しようと思えばこれくらいはわかったけど…。なんで俺がそこまでお前のこと考えないといけないんだ? 」

 

 

ガラハッドは思ったままを言った。

セドリックは死んでしまいたくなった―――そりゃそうだ。どうして、たとえ格別の仲だったとして、男同士でそこまで気を使い合わないといけないんだろう?自分は、いつからこんなに女々しくなってしまったんだろう…。

ガラハッドは悪気なく追撃をした。

 

 

「 セドリック、俺が言うのもアレだけどな。君は、ひねくれててかなり考えすぎる傾向にある。もっと気を休めたほうがいい 」

 

 

ガラハッドは優しくしたつもりだった。

 

 

「 気を休めろだって!? 」

 

 

セドリックは「君が言うなよ」と思った。

だが、声が出てこない。

怒りが、沸々と湧き上がりあふれ出して、毛穴から熔岩として流れるかのよう。セドリックはわなわなと震えはじめた。まるで、脱狼薬の切れた狼人間みたいに―――ガラハッドはセドリックの“変身”を目撃した。

ああ『恋をすると綺麗になれる』なんて、そんなのは、女の子だけの特権であるらしい!汚れてイカれて、こんな筈ではなかったのに、セドリックは地獄の亡者のように吼えた。

 

 

「 考えすぎ?考えすぎ?僕は、完全に独り相撲をしているのかい!?そうなの?嘘つき。君だって、ぷいっと拗ねた顔をしてた!僕は、僕はそれだけで本当に嬉しかったのに…ああ、あああ君は、いつも、僕の心臓を握り潰してくる!この野郎。人でなし。いっそ終わらせて。どうして、君はいつも平気で話しかけてくるんだ?軽蔑しろ!もうこれ以上、遊んで弄ばないでくれ…っ、ぇっ 」

 

 

セドリックは喉を引き攣らせて噎せこんだ。

ゲホゲホゲホッと俯くセドリックを、ガラハッドはぽかーんとして見つめおろした―――ガラハッド・オリバンダーは確信した。

 

反転だ、!た来が間時の転反

セドリックは、いま最大限自制を心掛けたのに、恋ゆえに脆くも失敗してしまったに違いない。ガラハッドは、ふと、自分たちは今“あの船着き場”にいるように錯覚した。流れる水のすぐそばで、自分たちは向かい合っているような気がした。

ガラハッドは思わず笑ってしまった。

それは、初めは驚きすぎたゆえの混乱の一形態であったが、やがては「温かくてくすぐったい」の笑いに、そして、「照れれば照れるほど」の笑いに変わった。

ガラハッドはクスクスと笑い続けた―――どうやら、我々は気が合いすぎるみたいだ。

 

セドリックはガチギレして睨みつけてきている。完全に、「ハァ?笑うな。笑うな笑うな笑うな」の顔だ。

ガラハッドはひとつ閃いてニヤッとした。

知ってる。この怒りを解く方法って、とっても簡単なんだよなあ…。

セドリックめ、こっちは真剣にいろいろ考えてやってんのに、散々「駆け引き」だの「弄んだ」だの言いやがって。ミステリオタクだもんな、そういうのが好きなのか?そのうえこの睨みだ、ちょっとはお礼してやらなきゃ!

ガラハッドはセドリックのネクタイを掴んで引っ張り寄せた。

 

 

「 …―――ッ!? 」

 

「 意気地なし。俺なら、ここでキスしてたのに 」

 

 

ガラハッドはセドリックをグイッと突き飛ばした。

鼻先が触れるような“煽り”から“圧しのけ”まで、他寮じゃどうだか知らないけれど、レイブンクローでは普通のうちだ。ガラハッドはたまらずまた笑い出した。こうやって、寮輩と同じように蹴散らして通せんぼを抜けてやると、真っ赤なセドリックはバネ仕掛けみたいな動きをした。

ガラハッドは愉快でならなかった。

あははやっぱり!こいつ、あの時も実はそうだったんだな!?

で、こっちと違って、冬至舞踏会(ユールボール)のときから進歩してな~い!

や~いハンサムセドリックくんは、超ピュア~!!お前の杖材、ユニコーン!すご~い宇宙一それ似合ってるぞ!!!

 

自分のほうが優位だとなると、ガラハッドはとても気分がよかった。

暴れる心臓に手を当てて、セドリックは呼吸に必死だ。

その隙に、放埓な笑い声をあげて、ガラハッドは手を振って寮へと帰った。

 

 




おいでファンタジー、好きさミステリー。本当の勇気/涙見せてくれ(ドラゴンボール)
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