ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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そして始まる物語

 

明け方、ガラハッドは夢を見た。

朝陽に悪気がなくたって、天を統べていた星々が消えてゆく頃。白い空間にある白いテーブルで、ガラハッドはクラウチと向かい合っていた。お互い、議長だか下座だかわからないけれども、長いテーブルの端同士に座っていた。

 

クラウチは盃を掲げた。

ガラハッドもそれに応えて、目の前にあったゴブレットを取った。中に何が入っているのかは、敢えて見ないようにしてそうした。

 

クラウチの目は落ち窪んでいた。だが、彼はこれまでで一番理性的に見えた。痩せ細っているが、背筋はピンと伸びていて優雅だった。

 

ガラハッドは彼と乾杯した。

何故だか、ガラハッドは賭けをしている気分だった。

きっと、どちらかが死ぬんだと感じながら、微笑んで全部飲み干してしまえた。

 

クラウチはゴブレットを取り落とした。

彼は、ビクッと全身をのたうたせた。そして、椅子に座っていられなくなって倒れた。

 

ガラハッドは椅子から立ち上がった。

ガラハッドは、倒れたクラウチのところまで行こうとした。

ところが、着かない。着かないのである。

まだ息がある。彼はゼェゼェと喘いでいる!彼は苦しんで胸を掻きむしっている…

 

時計の針であるかのように、この白い空間は回っていた。ガラハッドは走っても走っても、長テーブルの向こうまで進んで、クラウチの元に辿りつくことができなかった。

それどころか、自分の席の角すら曲がれなかった。

 

それならば逆方向から行こう。

 

そして焦って振り向いたところで、彼という人は目覚めを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、青い寝室に満ちている静寂は、見えざる天使がすぐそこにいるかのようだった。外は白い霧しか見えなかった。高い塔にいるというのに、今だけは風が窓を震えさせなかった。寝ぼけて頬ずりすると痛い石壁に、五年使いこんだ机、最近散らかし気味の本棚…―――何から何まで馴染んだ筈ものが、なぜだか畏怖すべきもののように感じられる静謐。そのなかで、ガラハッドはそろそろとベッドから爪先を出して、掛け布団を捲りがてら半分に畳んだ。

選挙当日の朝のように、ガラハッドはベッドに腰かけて少しボーッとした。

 

 

( 寝る前にした会話が原因だ… )

 

 

ガラハッドはまざまざと夢を思い返した。

 

 

( 夜更かしして、寒い中で灯を見て刺激的な話を聞くと、気が昂って眠りが浅くなるんだ。それで夢を見やすくなる。露骨に、今の夢には不安が反映されてた… )

 

 

ガラハッドは自身の神経の細さに苦笑した。

やれやれ、夢の中の自分は、とても恐れ知らずな行動をしていたけれど、あれって無意識の願望の反映なのかなあ?それにしても、あの回転する空間は無茶苦茶だったなあ…。

…ガラハッドは一昨年の教科書を探すことにした。

えーっと夢占いの一項目に、『回転』なんて(しるし)はあったかなあ?いや注目するべきは、『目指しても着かない夢』だったことか?それとも『乾杯』か?それとも『嫌いな人が出てくる夢』?そういえばこの単元のレポートはでっちあげ放題だったな…。

 

 

( …何を書いて提出したんだっけ? )

 

 

ガラハッドは思い出せなかった。

それで、求めていた“メイン”ではないのに、もののついででガラハッドが思い出したのは、「自身は、自分のことを棚に上げて、去る夏ハリーに夢日記をつけるように言った」ということだった。

あの“闇の印”の一件のあと、ハリーは「実は、僕はヴォルデモートの夢を見ていた」と言い出したのだ。知っていたらどうにかできたわけじゃないが、あのときは「おいおい、そういうのは先に言え」と思った―――避けられる後悔ならばしたくない。

 

ガラハッドは行動を始めた。

彼は勉強机の一番下の引き出しを開けると、未使用のノートを一冊選び取って開いた。誰かに見せるものではないから、彼は気兼ねなくボールペンを使って書き始めた。

日付を書いて、今日の夢のことを記録していくと、「そういえば」と思い出されてふと視線は窓辺へ…。彼に真っ直ぐに見つめられて、。たっなに顔れくむたね拗はルドリ

 

思わせぶりなばっかりだ。

君は、どうせ本当は何も見ていやしない(・・・・・・・・・)

 

ガラハッド・オリバンダーは回想していた。そういえば自身は以前にも、寂しくて象徴的な夢を見たな…と。

リドルの夢だ。

けど、あの夢を見た夜の日付がわからない…。

…それでもいいから記録しておくことにする。

 

やがて、彼という人は失敗を直感した。

感ずるに、何かを思い出すことは、水の下から網を引きあげることに似ていた。手繰り手繰りでやっていくうちに、ガラハッドは他にも記録しておくべき夢を思い出した。グレイスに成り代わって、シリウスと話した夢である。だが、あれはリドルの夢よりも最近のことであり、まだ1ページめを終えていないのに、このノート上の時系列は早くもぐちゃぐちゃだ…。

まあいいか。別に、自分の研究用ノートなんだし。

「いつか清書するかも!」ということにして、ガラハッドはひとまず洗い浚い書いた。

 

そうして、彼という人は辿り着いた。

自身は…―――否、これはすべての人間、胎生種族、哺乳類、爬虫類、鳥類、魚類にだって言えることであって……草花にも識があるのかを考えると、ここはもうざっくりと「一切衆生」を主語としても、決して大きすぎる主語というわけではないのだが―――…命は、それが其の生きる世に芽生えたとき、起きているのか眠っているのか?

彼は大真面目に悩んだのである。自身は、自分なりに“こちら”で最初の記憶を持つけれども、あれって現実?どうだろう?夢だったら記録しておくけどな、と…。

 

ガラハッドはくるりとボールペンを回した。

夢か(うつつ)か?それをいうならば前世の記憶だってさあ…。

…ガラハッドはカチリとインクの色を切り換えた。

前世・今世・今世の夢

このボールペンには三色あるから、この三種に三色を割り振るとしよう。「前世の記憶」は、夢か現かを気にせず赤文字にしよう。「今世の現実だったと思うけど、夢かもしれない」は、「青文字による文章を、黒線で囲む」としていこう。

 

ガラハッド・オリバンダーは知っている。

どんなに現実だと疑わなくて、どんなに強い思い入れをしたことだって、時が経てば記憶は曖昧になる。風化した現実は夢みたいなものだ。

 

生まれたその日のことから、彼は覚えていることを全部書き始めた。

 




■『太平記』後醍醐天皇御治世の事付武家繁昌の事
この小説は当初一人称叙述でした。
■蛇足かもしれないボケ解説。日本版「ムーサよ謳え、かの…」的定番前フリから始まるクロニクルジャンルを、『鏡物』といいます。太平記年代の『梅松論』もそれ
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