ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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バーテミウス・クラウチの狂気

 

イースター休暇が終わると、ガラハッドの生活は勉強一色になった。受験生を学業に専念させることができて、マクゴナガル先生は胸を撫で下ろしていた。

彼女の監督の甲斐あって、バグマンはホグワーツで精力的に働いた。お局に「このままでは競技の準備が終わりません!」とかなんとか騒がれて、厄介な学生の助っ人たちを呼んでこられるのは、バグマンとしても避けたい事態だった。幸いにも、トライウィザード最終戦は会場がクィディッチ競技場であるので、バグマンには連日自然とやる気が湧き続けた。ガラハッドはそんなことは知らなかった。

 

五月末、変身術の授業の終わりに、ガラハッドはマクゴナガル先生に状況を確認しに行った。その頃にはガラハッドは、自身の計画した試験対策を予定通り終えつつあった。ガラハッドはその旨を説明した。

 

 

「 試験期間中や、その前の週は空けてあります。ですから、気にせず仕事をふってください。ただ、すべてのスタッフにそこまでの余裕はないようなので、できれば早めに計画を知りたくて 」

 

 

マクゴナガル先生は目がショボショボしてしまった。

何を思ったか魔法省連中の定めるところ、次の第三の課題が行われる日は、学年末試験の最終日なのである。この学生総代はO.W.L学年で、他学年よりも一週間早く試験期に突入する。この子は、我々大人に期待していなさすぎる…。

気を遣いながら「気を遣わずに用を言いつけてください」だなんて、いい大人が未成年に言わせてよい台詞ではありませんよ!

親戚のおばちゃんではないけれども、ミネルバはこの子を抱きしめてやりたくなった。勿論、わきまえた教師であるので、ミネルバ・マクゴナガルはキビキビとしてこう答えた。

 

 

「 オリバンダー、いいのですよ、あなたは、自分の学業を最優先にしなさい…。第二の課題の際は、直前に無理を言ってしまいましたね。申し訳ない、我々が後手後手に回ったばっかりに。第三の課題の会場には、仮設スタンドを建てる必要がないのです。第一の課題の時と同様に、クィディッチ競技場を使いますからね。今回は、秘かにドラゴンを運び込むわけではありませんから、海外からのお客様がたも含めて、特定のルートで会場入りしてもらう必要もありません。ちょうど今夜、バグマンさんが代表選手たちを集めて、競技の説明をする手筈になっていますよ 」

 

 

ガラハッドは肩透かしをくった。

ガラハッドが談話室へと戻ると、ブルーマフィアの面々が集まって雑談をしていた。全員、ガラハッドが何らかの課題を持ち帰ると思っていたので、ガラハッドが「今回は何もナシらしい」と言うと、一斉にキョトンとした表情になった。マーカスは正直ホッとしたが、ルーナは露骨に残念がってぶつぶつ言った。

 

 

「 えぇ~何かしたかったよォ~。それじゃあ、あたしたちで最後の自主企画をしようよォ 」

 

「 閉会式で何かするか? 」

 

 

マスタングが気楽な思いつきらしく言った。

 

 

「 両校が来たときは見事だったからな。こっちも華やかに追い出してやるべきだろう 」

 

 

マリエッタは頷きつつ両手を組み合わせた。

 

 

「 うわあ、そうね。みんな、もういなくなっちゃうのねえ 」

 

「 そう思うと一年って早いよね。盛大なお別れパーティー、良いと思う!―――あっそうだガラハッド、あの件は提案してくれた? 」

 

 

チョウが高々と手を挙げて言った。

ガラハッドはチョウに頷いて返事をした。

 

 

「 競技の日、マダム・ポンフリーには専属の助手がいるべき、っていうやつだろ?なお、少なくともロジャーよりは役に立つ奴で 」

 

「 うっせ。お前だって役には立ってなかったよ 」

 

「 どうもその件も、向こうで既に進められているみたいなんだ 」

 

「 うげぇガン無視。シバくぞこの野郎 」

 

「 よかった。僕、その役は荷が重かったよ…。…君たち、馬鹿やるなら外に行ったらどうだい? 」

 

 

マーカスはやんわりと同室たちに言った。

ガラハッドとロジャーは蹴り合いをやめた。

ガラハッドは、一応これでも学生総代であるので、この場で少しは真面目な一面も披露しておいた。彼はけろりと自分の心算を述べた。

 

 

「 どのみち、閉会のときには会計報告が要ると思っている。俺は、今週からそれの準備にかかることにする。みんなにはそれの点検を頼みたい。ちょうど、数占いの予想問題みたいなもんだよ。ざっくりと現状を言うならば、WWWが結構稼いでいる。もちろん理想は使いきりだから、最後にそれで記念品を用意したいなと思っている。まだアイデアはないが…できれば全員に、ホグワーツを訪れた土産として 」

 

 

ガラハッドは満場の賛成を浴びた。

ホグワーツらしさの詰まった記念品とはどんなものだと思うか、ルーナは、とめどなくイカレたアイデアを口にし始めた。「お前、受け取る側の身にもなってはどうだ」と、マスタングが真人間みたいなことを言って諫めた。ルーナはまったくめげなかった。

 

 

「 ホグワーツホグワーツホグワーツ!あたしが思うに、ホグワーツらしさっていうのはねぇ〜 」

 

「 うんうん 」

 

 

全員が言わずとも察していた。きっと、夕食を挟んでなおよく喋るルーナは、このトライウィザードが終わってほしくないのだと。それで、その日の自学時間はなんとなく、全員でルーナに彼女がまだ知らない魔法の話をした。そのあいだに大変なことが起きているなんて、ガラハッドは思いもよらなかった。

 

 

 

時刻は、夜九時十八分。

 

 

そのときハリー・ポッターとビクトール・クラムのふたりは、鋭く振り返って密談をやめた。

陽は落ちていた。彼らは闇に目を凝らした。

シーカーの目玉が四つ、鬱蒼とした森から音源を探し当てた。

ある男が、ホグワーツ城から届く光に惹かれて、禁じられた森をまさに抜け出そうとしていた。彼は異常な風貌だった。傷だらけの顔に、伸び放題の髭と頭髪。破れたローブには血が滲んで固まっている。その容貌と行動は、宙に向けて吼える浮浪者となんら変わりなかった。

強いて違いを述べるならば、彼はまっすぐ光には向かえずに、ポストではなく樹に向かって何かを喚き立て始めた。だが、ハリーからすると、そこに注目してみると、この男にはまだ理性が感じられた。その男は、ただ闇雲に悪態を吐いているのではなく、何か指示を出したり懇願したりしているのだ。

ハリーよりも先にクラムが言った。

 

 

「 こっちの魔法省の人だ… 」

 

 

ちらっと、クラムはクィディッチ競技場のほうを見やった。我々は長話をしたわけじゃないから、あそこにはまだ他の魔法省職員がいると思ったのだ。クラムは引き返してバグマンを呼びに行こうとした。だが、驚いてその場を離れづらくなった。

ハリーが、どう見ても正常ではない相手に、のこのこと近づいていって丁寧に話しかけ始めたのだ。彼は木立に分け入って囁いた。

 

 

「 クラウチさん?…クラウチさん? 」

 

「 よせ。その人ヴぁ狂ってる 」

 

 

クラムも木立へと入ることにした。

ハリーは、クラウチが突然流暢に話し始めて驚いた。「彼ヴぁ今何を言った?」と、クラムはハリーに通訳を求めた。ハリーは英語のまま困惑して言った。

 

 

「 えっと、今のは、試験の成績の話。五年生が受けるやつ…今、彼は息子の自慢をした… 」

 

「 息子にとっては誇らしい父でないだろう 」

 

 

クラムはバシッとブルガリア語で言った。

ハリーにはその意味がわからなかった。

突然、クラウチは泣き叫び始めた。クラムは急いで後ずさったが、ハリーはじっくりとクラウチを観察していた。クラウチは、ハリーの膝を掴んで地べたに引きずりおろした。

 

 

「 わたしが悪かった!!! 」

 

 

クラウチは、そう絶叫したあと囁き声になった。

 

 

「 息子…私の…私のせいだ…私を…置いて…いかないで……逃げてきた…警告しないと、言わないと、ダンブルドアに会う……オリバンダー!わたしに、どうか、あと少しだけ命を…! 」

 

「 僕はオリバンダーじゃありません 」

 

 

ハリーはきっぱりとクラウチに言い聞かせた。

 

 

「 クラウチさん、僕は、あの場所にいただけの別人ですよ 」

 

 

クラウチは聞いていやしなかった。

みんな私のせいだと、クラウチは目を回しながら呻き続けた。バーサ、死んだ、私のせいだ…闇の帝王、より強くなった…ハリー・ポッター…等々。ハリーは一瞬返事をしかけたが、きっと本人だと気づかれていないと判断した。

 

 

「 この人、ダンブルドアに会いたがってる 」

 

 

ハリーは、この状態のクラウチを連れて移動できないと思った。

ハリーはクラウチを振り解きながらクラムに言った。

 

 

「 ここで見ていてくれない? 」

 

「 君が残れ。ヴぉく、この人の話、うまぐ聞きどれない 」

 

「 僕が行くほうが、早い。校長室がどこにあるかを知っているから 」

 

 

ハリーは木立を踏み越えながら言った。

クラムはしゃがんで、仕方なく狂人の番をする役を引き受けた。

しめた!―――脇を駆け抜けていった生贄(ポッター)を見送って、クラウチ.Jrは唇を歪ませた。彼は透明マントを被ったまま待った。

ハリーが城内に入ってから、クラウチ.Jrは二種の呪文を使った。

赤い閃光と、緑の閃光。

赤いほうはクラムの意識を奪い、緑のほうはクラウチの生命を奪った。

ここまでは簡単な作業だった。

 

 

( モビリコーパス! )

 

 

さながら古い裁判のはじまりのように、クラウチ.Jrは死体を吊るし上げて歩かせた。(くびき)を負わされた家畜のように、死せる人間はゆらゆらと森を進んだ。

クラウチ.Jrはひどく興奮した―――これにて自分は、ご主人様と同じ“親殺し”を成し遂げた魔法使いだ!

彼にとって最も大変だったのは、森のなかで義足を履いた自分の肉体を動かすことだった。

 

刻々とリミットが迫って来る。

忍びの地図上では、ハリーがとうとうダンブルドアと接触していた。スネイプは大して足止めをしてくれなかった。

 

 

( スネイプといえばあの呪いだ… )

 

 

ゼエゼエと肩を上下させて、クラウチ.Jrはこれ以上進むことをやめた。彼は愉悦し、声に出して何度も呪文を唱えた。

 

 

「 セクタムセンプラ! セクタムセンプラ! 」

 

 

ぼとり、ぼとぼと、ぼたっ…

と、細切れにしてしまえばヒトだったとはわかるまい。

畜生、ダンブルドアめ!年寄りのくせに足が速い!

鮮血は闇に沈んでいた。クラウチ.Jrは、抱えていた透明マントを広げて、肉骨片のある辺りに覆いかぶせた。こうして死体の隠蔽を中断して、クラウチ.Jrはマッドアイ・ムーディーを演じることに戻った。

 

 

( 戻ろう。ダームストラングの選手を転がした場所まで… )

 

 

来た道を使わないようにして戻ると、彼はじゅうぶん「出遅れて登場」をする羽目になった。

まずいことに、ダンブルドアは既にハグリッドを招集していた。何がまずいって、この森番はわざわざ犬を連れてきているのだ。その場を嗅ぎまわるファングを見て、クラウチ.Jrはこの犬も殺しておきたくなった―――落ちつけ、鼻はよくても脳が足りん筈だ…。

嬉しいことに、ダンブルドアはただちにハグリッドを犬ごと追い払ってくれた。

 

 

「 ハグリッド、カルカロフ校長を呼んできてくれんか。カルカロフの生徒が襲われた―――カルカロフを早く、ハグリッド! 」

 

 

ダンブルドアはムーディーにはこう言った。

 

 

「 バーティ・クラウチがどこに行ったのか、わからんのじゃが 」

 

「 うむ 」

 

「 しかし、何としても探し出すことが大事じゃ 」

 

 

クラウチ.Jrは厳めしく「承知した」と答えた。

内心、「狙い通り!」と思ったところだったのだが…

…ダンブルドアはとんでもないことを言い始めた。

 

 

「 夜の森じゃ。杖職人たちを呼ぼうぞ。ハリー、まずはボーバトンの馬車へ走ってくれぬか。ノアイユ先生の助力を受けたい。それから、君ならばレイブンクロー寮へ辿りつける筈じゃ。ガラハッドを呼んできておくれ。グレゴロビッチは、おそらく、言わずともカルカロフが連れてきてくれるじゃろう 」

 

 

クラウチ.Jrは唸りそうになった。

やめろ。やめろやめろ全員来るな。その鼻利きどもには脳みそまでついている!

一人ずつ殺していくか?

いや、あまり大ごとにはしたくないな…。

クラウチ.Jrは一瞬で深く迷った。

ご主人様への忠誠心が、鬱陶しいドラ息子への排除欲に勝った。奴へと罪を被せないのだとすれば、やらねばならないことはひどく増える。

 

矢のように走り出したハリー・ポッターに負けじと、クラウチ.Jrは義足を引き摺ってまた森の奥を目指した。

息があがる。呻きが漏れる。彼は四つ足になりたくなった。

おおなんと醜い、なんと動きのままならぬ肉体か!

老いた闇祓いの惨めさには反吐が出る!

やがて夜十時がやってきたとき、クラウチ.Jrは夢中で変身しながら走った。彼は義眼も義足も取り落として、定まらぬ形・長さの手足で地に這いついて遺体を掻き集めた。彼は透明マントを縛って袋にして、そのなかに父だったものをすべて詰めこんで移動した。湖の見える森際へと近づくと、ちょうど馬鹿犬の吠え声が遠ざかっていくところだった。

 

ファングは、来た道を振り返り振り返りして吼え、ハグリッドとカルカロフたちに異常者の存在を知らせようとした―――彼らはダンブルドアとクラムのもとへ行くことを優先したが。

 

水辺から人がいなくなった!

するとクラウチ.Jrは森から転び出て、必死に足元の石を掴み取り始めた。彼は、透明な袋に詰め込めるだけ石を詰め込んで、うんと重くしてから父親を湖に沈めた。マントからは血が滴っていた。浅瀬では見つかってしまうので、彼は重い荷を抱いて湖へと浸かった。足のつかないところまで荷を持っていくと、ぐんっと深淵に引き込まれた―――彼は、最後には恐怖から手を離して陸へと戻った。

月光は明るく、鮮血を目立たせていた。

クラウチ.Jrは汚れた石たちを湖に放り込んでしまった。

ぽちゃん…と跳ねあがった水のきらめきよ!

こんなに美しいものがこの世に在ったとは!

血濡れの義眼を湖で洗って、クラウチ.Jrは急いで森の中へと戻った。

 

 

 

一方その頃アラベール・ド・ノアイユは、ボランティアをする前に二校長から言質を取りにかかっていた。

 

 

「 勿論お役に立ちたいのですがね。ほら、杖店(うち)は、いろいろと立場の弱い状態にありますからね。奇遇にも、まさに捜索の対象たる彼によって 」

 

 

アラベールはダンブルドアとカルカロフを見て言った。

マダム・マクシームが、自身の部下へと加勢して深く頷いた。

彼女に熱っぽく見つめられて、ハグリッドはめらめらと怒りを覚えた。彼女に踊らされるのが嫌で、ハグリッドはアラベールの味方にならないでおいた―――この旦那は、どうせ何でも自分でどうにかしなさる。

ダンブルドアは諭すような声色で言った。

 

 

「 ノアイユ、今は非常時じゃ。どうか過去は水に流して、協力を頼みたい。クラウチ氏はわたしに、ヴォルデモートに関する伝言をしようとしたのじゃ! 」

 

「 非常時。非常時。ああ懐かしい言葉です。トラウマが疼きます。その言葉は、いつだって弱者から順に我慢を強いる 」

 

 

アラベールは面白がるような調子で言った。

カルカロフは身構え、自身が吼える機会を逃した。

ダンブルドアはとても厳しい声色になった。

 

 

「 ノアイユ、おぬしは弱者などではない! 」

 

 

アラベールはダンブルドアに慄かなかった。

彼は頑として主張し続けて、見物者であるクラムをポカンとさせた。

 

 

「 いいやダンブルドア、おたくは、個人の能力と社会的地位の問題を意図的に混同しているよ。賭けてもいいが、わたしたちほど各国魔法省に私権を制限されている魔法族はいない。クラウチはそこの彼を襲ったのだろう?ここにいる皆さんは、よくよくご存知の筈だが?―――私や、私の息子こそ、恐慌状態にあるクラウチから襲われる可能性が高い。ダンブルドア、普通、そのような立場の者をここに呼びつけますか?しかも、ハリーという罪のない子供を使って。ヴォルデモートの話となると、あなたは強引で非人情になりますな。息子からも聞いていますよ―――それでも、ここは夜の禁じられた森……大抵の者にとっては危険な場所ですからね。私は、クラウチの捜索と保護に努めることにやぶさかではない。我が善意と良心が、是非とも奉仕せよと私に命じますし、息子にもそういう人間であるように教えようと思いますのでね―――ただしね、我々だってそう馬鹿ではない。クラウチは、自分ですっころんでつくった傷だって、今ならば妄想で我々のせいにするでしょう。私は、我が家の過去の経験を鑑みて、もしも親切でみつけてやった男がまずい状態であったときに、『犯人は現場に戻るものだ』とか『犯人は第一発見者を装う』だとか、誰にも疑われず責められない保証がないかぎり、この件に関わることは危険だと感じている。無論、未成年の息子を関わらせたくないとも感じている! 」

 

「 わかった、わかった、誓ってその保証をしよう 」

 

 

ダンブルドアは一秒でも時間が惜しかった。

彼は投げやりには響かないように気をつけて言った。

 

 

「 よろしい。わたしは君たちを疑わぬ。わかっておる、おぬしが怖れていることは想像がつく。わたしが、アラスターがその可能性について主張し始めた時、友人として使用者として彼を納得させよう 」

 

「 ウィ。メルシー、ムシュー 」

 

 

アラベールは杖を出して空を見上げた。

マダム・マクシームが気をつけるように言った。ミケ・グレゴロビッチは捜索に加わろうとしたが、カルカロフ校長がそれをさせなかった。アラベールが話すことをやめたので、カルカロフはダンブルドアを糾弾することができた―――ただちに、ハグリッドによって片手で吊るされて樹に叩きつけられたが。

 

 

「 裏切りだ!罠だ!君と魔法省とで、わたしをここに誘き寄せるために、偽の口実を仕組んだな?はじめから平等な試合ではないのだ!最初は、年齢制限以下なのに、ポッターを試合に潜り込ませた!今度は魔法省の君の仲間の一人が、わたしの代表選手を動けなくしようとした!何もかも裏取引と腐敗の臭いがするぞダンブルドア!おまえなんか、こうしてやる―――…ぐへぇッ!?ごふッ!お、おのれ…高潔ぶりよって!結局、こうして捻じ伏せ……ごふッ、ごふッ 」

 

「 えっ…なに、恫喝? 」

 

 

ガラハッドは樹の枝から飛び降りるなり呟いた。とにかく、大急ぎで窓から杖明かりの見えるところへと飛んで来たガラハッドは、ハリーをレイブンクロー寮談話室に置いてきたつもりだった。

ところが、ハリーもまたほとんど時間差なく同じ樹の枝に着いた。

 

 

「 あれ!? 」

 

 

ガラハッドは飛び降りてきたハリーにびっくりした。

ハリーは、素晴らしい箒に頬ずりしたい気分だった。

 

 

「 ふふふ、これ、チョウが貸してくれたんだ 」

 

「 あ、なるほど 」

 

 

ガラハッドはそれだけをさっぱりと言った。

すぐにマリエッタのことへ思考を戻したのだ。

 

サッと立ち上がって腕に触れて、「見てきて」と鋭く囁いてきたときの、マリエッタのあの熱の正体は何だろうか…―――うんと都合よく捉えれば、彼女の声なき「愛して」は「助けて」という訴えのように聞こえることがある…。

たとえば、「謝ってほしいわけじゃないの」と言うくせに、マリエッタは何度も「母に申し訳ないことをしたわ」と話す。それというのもあれから、クラウチはマリエッタの母アイリーンに対して、「この口出したがり屋め!わたしは、お前たちの知らない別荘にいるだけだ。それを事件かのように言い立てよって」と、厳しい叱責の手紙を寄越したらしいのだ。たかが手紙じゃないかと思うのだが、彼女たちにはそれがこたえているようで……ガラハッドは、先日ついにマリエッタがこう言っているのを聞いた。

 

 

『 いいのよ。母は、あそこを訪ねて、やっと姉の遺品を手に入れたみたいだから…きっと、伯母様は彼のあの調子に病んでしまわれたのよね 』

 

 

―――そのクラウチが、突然ホグワーツにまた現れた!?!

今、ガラハッドは心情を整理できずにヒリヒリと焦っている。

一方、ハリーはとてもふわふわした気分になっていた。

 

 

「 よく手入れして、お礼をつけて返さなきゃ。彼女は、何が好きかなあ? 」

 

 

ダンブルドアはハリーを速やかに寮に帰すことにした。

ダンブルドアは荒れるハグリッドを制止して宥めた。

ハリー・ポッターは、こういうときちゃんと寮内で過ごすかという点において、非常に信用ならない生徒の一人である。ダンブルドアは、ハリーに「今夜、いくら手紙を出したいと思っても、どんな理由があっても寮を出るな」と釘をさして、ハグリッドにハリーを寮まで送り届けさせた。

 

ハグリッドは、自身がダンブルドアの側を離れた途端に、またカルカロフはダンブルドアに唾を吐くのではと思った。

許せなかった。なにしろ、生徒を襲ったのはダンブルドアではない!それに、ダンブルドアが、初めからハリーを三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)に出したかったわけがない!この御方は、本当に本当にハリーを心配なさっているのに!!それなのに、校長先生様を侮辱するなんて!!!―――彼には、困った顔で見ているだけのマダム・マクシームの心情がわからなかった。

 

アラベールはガラハッドに話しかけた。アラベールは、ガラハッドの動揺を察知してはいたが、こんな人前ではそこに触れないでおいた。彼は居間から工房にでも向かうかのように、「行くぞ。仕事だ」とだけ言って歩き始めた。

 

180°別方向だった。ガラハッドとアラベールは、ハリーとハグリッドと同時に出発して、彼らとは真反対の方向に進んでいく形となった。アラベールは秘かに上機嫌だったが、ハグリッドは露骨に不機嫌をあらわして歩いた。

玄関ホールの石段を上りながら、ハグリッドはハリーへと告げるべきことを告げた。ハリーは、急にハグリッドに叱られて目をパチクリさせた。

 

 

「 おまえ!カルカロフは許せねえが、おまえもおまえだ!クラムみてえな野郎とほっつき歩いて、何しとったんだ?え?奴はダームストラングだぞハリー!あそこで、おまえさんに呪いをかけることもできただろうが?それをホイホイと… 」

 

「 クラムはそんな人じゃない! 」

 

 

ハリーは急いでそのように言った。

ハグリッドが納得しないので、ハリーは少し恥ずかしさを感じながら事情を話した。

 

 

「 彼は、ただ僕とハーマイオニーのことを話したかっただけなんだよ… 」

 

「 ハーマイオニーとも少し話をせにゃならんな。まったく!よそ者とはなるべくかかわらんほうがええのに! 」

 

「 よそ者って…。ハグリッドだって、マダム・マクシームと仲良くやってたじゃないか? 」

 

 

ハリーは癇に障った。ギュッと、チョウ・チャンの箒の柄を握る手に力が入った。

ハリーは、ハグリッドの不機嫌の原因の何割かは、自分がマダム・マクシームまであの場に連れて来てしまったことだなと思った。

絶対、まだ未練があるからこそ、ハグリッドは彼女の処世の巧さが憎いのに違いないぞ…―――ハリーはピーンと来て目を細めた。

わかる。チョウってば、セドリックという彼氏がいるくせに、気前よく愛用の箒を持ち出してきて、窓辺で特別な目つきをして「乗れる?追っかけちゃいなよ」って微笑んでくるんだもの…あの挑発顔の可愛さは反則だ。小悪魔系って、ああいうことをいうんだ。セドリックもあの調子がたまらないんだろうなあ…。

ハリーはがっくりと肩を落とした。

少しは反省した様子のハリーに、ハグリッドはフンッと鼻を鳴らしてのしのしと歩いた。太った婦人の肖像画の前で、ふたりはむっつりと「おやすみ」を言い合った。

 

時刻は、十時三十一分だった。その時間まで、ロンとハーマイオニーは談話室でハリーを待っていた。第三の課題はどういうものなのか、ハリーから聞こうとしてそうしていたのだった。

ハリーは、聞いてきた課題の内容よりも先に、今夜の出来事についてふたりに急いで知らせた。

 

 




中世西ヨーロッパの裁判や法習慣については阿部謹也の本が詳しいです。読みやすい文庫本が沢山出ています。
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