ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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学園天国

 

第二学年の授業の始まりは、一年生のときよりも早かった。

 

 

 

それもそうか、もう新入生ではないし、今更ガイダンスは必要がないのだから。防衛術だけは担当がクィレルに変わった(去年まではマグル学担当だったらしい)ので、初めの一時間は自己紹介や予定の説明だった。しかしその他の授業は初回から早速講義と実習。よってマーカスやニールなど、ガラハッドの身の回りでは夏休みをだらだら過ごしていたらしい腑抜けどもが、新学期開始後三日もしないうちにへろへろになり、爪の垢羽根ペンを欲しがり始めた。彼らは、朝は起きられないとごねてベッドのうえを転がり、廊下を歩く様子もトボトボとして元気がなかった。

 

 

「 あっはっは、軟弱軟弱! 」

 

いくつも年上の人間として、彼らを助けてやりながらもガラハッドは優しくはなかった。

 

なんせこの青組秀才ガラハッド・オリバンダー、心は今でも日東健児で、ある面ではちょっとどうかしている。

 

近頃は革靴の音も闊達に洋装で外衣を靡かせ、“星の生徒”街道邁進中であった。

今年からは飛行術の授業がないので、嬉しくてうっかり無敵の気分だ。

あまりに機嫌よく過ごしてしまい、ピープズにはたまたま鉢合わせただけで悲鳴をあげて逃げられる始末。いやあまたそれが愉快愉快で。愉快といえば、ガラハッドの感覚では、マクゴナガル先生による変身術は二年生からなかなか面白くなってきている。なんでも今年は、万物の見た目を変えるか、さも変わったように見せかける方法について、杖魔法に限らず様々な手段を勉強していくらしい。

 

 

「 杖に頼らないっていうのがいいと思うんだ。 」

 

ガラハッドは、マクゴナガル先生が挙げていた推薦図書を、そつなくメモして早速図書室で借りた。図書室付属の歓談スペースで、ガラハッドはソファに沈んで目次をぱらぱらとやっていた。―――思ったとおり面白そうだ。

 

 

「 みんな杖に頼りすぎじゃないかな。ほら、もしもうちが毎年店を休んでバカンスに旅立ったら、世の中どうなっちゃうと思う? 」

 

「 想像したくないわね…。 」

 

げんなりとペネロピーが言った。彼女も夏休みの怠慢のつけを今払っているらしく、別のソファに沈み込むように座り、あまり顔色がよくない。

「談話室でばらまけるほどの量はないから、特別にね」とここでイタリア旅行のおみやげをくれたものの、あまり癒されてきたようには見えなかった。にこやかにパーシー(彼はウィーズリーの双子の兄貴だが、チャーリーに似てまともだ)が近づいてきて言った。

 

 

「 そんなことが起きないように、ちゃんと制度を設計してあるのさ。“持続可能な発展のための国際魔法使い協定”と、“ウィゼンガモット判例(レイシオ・デシデンタイ)”。 」

 

「 それアレだ。うちの父さんが嘆いてるやつ。 」

 

笑ってガラハッドは人差し指を立てた。

 

「 フランスに監禁だ~って。今年は久々に帰ってきたけど。 」

 

「 そうなのかい!そうか、そうなるよね、君の家庭だと。 」

 

「 グレゴロビッチの店なんか、弟子を南アフリカにやってるんだって。近いしフランスのほうが良いよね。 」

 

 

どこも大変そう!そうして明るく世間話は終わった。

 

 

 

 

はてさて図書室から戻ると、談話室ではチョウが箒を抱えてくるくる回り、ポニーテールを弾ませて不敵に笑っていた。いかにもロジャーと結託しており、自室への道は彼が手を広げて塞いでいる。

 

 

「 みぃつけた――――ガラハッド、変身見せて!約束通り飛ぶわよ! 」

 

 

ダンブルドア先生が入学式で言っていた。今年のクィディッチチームメンバーの選考会は、新学期開始から二週間後。あの言葉を聞いて以来ずっとこの二人は、カレンダーに印をつけていきいきしている。たまたま通りかかった隣の部屋の子が、借りてきた本を預かってくれると言った。箒を持ってのそのそと城内を歩くまでもなく、レイブンクロー寮からは度胸さえあればすぐさま大空へと飛び出していける。緊張気味のロジャーの顔には、度胸対決だとじんわり書いてあった。はなから恐れを知らないチョウときたら、「ねえもっとこの窓開かないの」などと言って、ぐいぐい塔から身を乗り出していった。スカートのまま飛ぶのかとガラハッドが訊ねると、得意そうにチョウはスカートの裾をつまんで持ち上げた。

 

 

「 ふっふーん、中に履いてます。 」

 

「 ばか。見せなくていいって。 」

 

「 ガラハッドが訊いたんじゃないの。ねえ、私が一番でいい? 」

 

「 俺二番!! 」

 

「 いいよ、僕は三番で。 」

 

 

追い抜かすから、とガラハッドはニヤリと宣言した。競争心を煽られたチョウが、鼻息荒く窓枠へと足をかけ狭所へのぼっていった。

 

念のために各々の杖を取り出して、両隣の窓から、上級生たちが見守ってくれているのがこの寮の良いところだ。勇気もしたたかさも連帯心も、レイブンクローはホグワーツの頂点にして負けない。震える声でチョウ・チャンは、頬を薔薇色に染めて振り返った。

 

 

「 見てて、先輩――――私、シーカーになりたいんです。やれます!行くよ?おさきに!! 」

 

 

強く蹴りだして少女は飛び降りていった。黒い髪が陽光を跳ね返して、刹那彗星の尾に見えた。

 

自由落下よりは遅れて騎乗手を持ち上げて、前へ前へと進み始める箒。その箒への信頼があれば、重力も引力も怖くなんかない。頼むぞとロジャーは箒に語りかけて、強く握りしめて窓枠に乗りあげた。自分の体ひとつで飛んでいくつもりをしているガラハッドは、小さくなるチョウの軌跡を見送って考え込んだ――――思ったよりも速いし、追いつくには気流を利用しなくては。

 

ロジャーが飛び降りていった。ガラハッドはロジャーの直後に飛び出して、彼の落下が生む気流でいっきに高く舞い上がった。背を流れていく空気の質感である。もしも見上げたならば、薄雲はもう間近だ。鷲の身と目には天なんて、さほど遠くなかった。

 

「「「 おぉ~っ 」」」

 

変身の速度は去年より上がっている。太陽を背に舞い上がった鷲は地上に影を落とし、ひとときロジャーはそれを超えていった。しかしそこから始まった滑空は何より速く、ガラハッドはたちまちチョウの近くに至り、ガラハッドが間近に迫ったところでチョウは大きく横倒れになった。急回転で追跡をかわしたわけだが、その先に追いついていたロジャーはうまく高度を変えてチョウとの衝突を避けた。監督に徹していた上級生からしても、この追いかけっこはなかなか見ごたえがあった。「本当にシーカー出来るねえあの子」などと賞賛しつつ、クィディッチ練習場を目指して小さくなっていく二人と一羽のことを見届けた。

 

そのあとのことは選手たちが詳しい。

 

今年もまた寮代表として、できればシーカーとしてチームに入りたいと思っているセドリック・ディゴリーは、自主練の合間に給水していたところ、突如頭上を横切った影に、「あっ」と大きな声をあげて目をまん丸くした。急降下してきた鷲が、まだ空にいるうちに一瞬で足から人間になって、突然銀色に光って、目がくらんだ。セドリックが飛び上がってまたたくと、そこでは見たことのある少年が、ゼエハアと肩で息をしていた。ぐっしょりと汗に濡れた銀髪が太陽に照らされて、落下してきた星みたいな輝きを彼に与えていた。

 

 

「 ガラハッド―――!? 」

 

 

驚愕して名前を呼ぶと、彼は顔をあげて親指を立て、セドリックに向けてニヤッとした。

汗が目に沁みているような状態なので、あまり格好ついていないが。

 

「ちっくしょ~!!」と遮二無二叫ぶようなガラハッドを、セドリックはこのとき初めて見た。綺麗で繊細なイメージと違っていて、ぽかんとしていた。

 

 

「 チョウずるいぞ!そりゃあ乗ってるだけなら持久力あるって!! 」

 

「 勝ちは勝ちだもんね~ふふふ。わーいガラハッドに勝った! 」

 

「 君…鳥になって飛べるの? 」

 

「 そうだよ。そりゃあいつまでも、箒に舐められて終わりじゃいられないしな。 」

 

「君に助けられるってわけにも」とガラハッドは付け足した。セドリックはきょとんとしていたが、やがて初対面のときを思い出したらしく、「ああ~」と間抜けな声をあげた。ぽんと手を打って、何度か頭を振った。

 

 

「 そういえばそんなことあったね。 」

 

 

彼は良い奴である。チョウとロジャーはまだまだ飛び回るというので、ガラハッドはこれにて一抜けした。

 

ちょうど練習を終えるところだったと言うセドリックと、なんとなく一緒に歩いて城の玄関を目指した。丸一年前とそっくりなすがすがしい良い日だが、ガラハッドはもう新入生ではなかった。陽気なフローリアンや面白いトンクス、ドラゴン狂いのチャーリーはもういないが、あの樫の木の近くでは今日も、優しいハッフルパフ生たちとふざけたウィーズリーズが、何やら一年生の心を解きほぐしている。

 

 

「 久しぶりだよな。 」

 

 

背の伸びたセドリックを見てガラハッドは言った。

 

 

「 うん、君って人は本当に、見かけるたびに僕を驚かせるね。 」

 

「 前に何かしたっけ? 」

 

「 ピープズを持ち歩いていなかった? 」

 

「 ああ、あれ。見てたのか。 」

 

「 見かけたけど、抱えていたのがピープズだってことは、あとになって噂で聞いたんだ。まさかそうだとは思わないじゃない!あれって、どうやってやるんだい? 」

 

「 何だろうな。説明は難しい。 」

 

「 僕にも教えてよ。 」

 

 

不思議と話が弾んだ。セドリックとガラハッドは、どちらも押し出しが強いほうではないのに、穏やかな調子でするすると会話は続いた。盛り上がるという感じではないけれど、かといって双方暗いわけでもなく、はにかみながらセドリックは石畳の小石を蹴っ転がした。

 

 

「 今年ハッフルパフの一年生が、ピープズから特にひどい目に遭ってるんだ。ううん、きっとレイブンクロー以外の子は、どこもそう。見過ごせないだろう? 」

 

俺のせいなのかなと、ガラハッドはちょっと申し訳なく思った。

 

「 君って、良い奴だよな。 」

 

「 そんなことない。黙って実行できなくて、情けないよ。 」

 

「 ピープズの件は―――見かけたら、なんとかしてみる。どうかな、あいつ、俺が行くと逃げるからろくに話せないんだけど…。 」

 

 

そうこうしているうちに、二人はホグワーツ城の内部にまで入り込んでいた。別れるべき地点で、「じゃあまた」と言いながら、お互い足は動かなかった。

なんだか不思議な沈黙が、初めてお互いの間に浮上してふわふわしていた。

 

 

「 ―――…。 」

 

「 ―――…。 」

 

「 …君って、放課後は大体どこにいるの? 」

 

先手をとったのはセドリック。

ガラハッドは、ちょっと悔しいような思いもあったのと、嬉しさと照れとが混ざって愛想よくできなかった。

 

「 図書室かな。そっちはだいたい、練習場か談話室ってところ? 」

 

「 その通り。滅多に会わない筈だね。 」

 

 

セドリックははにかんだ。幸せを分けるような笑顔で、いかにもハッフルパフ生らしかった。

 

 

「 僕はあんまり、寮以外に友達がいないんだ。いつも談話室にいるからだろうけど。 」

 

「 寮内で人気者なんだろ? 」

 

「 うーんそれは、君もね。ばいばいブルーマフィア。 」

 

 

そのまま二人は別れた。ちょうど時を告げる鐘が鳴って、別れるのにちょうどよかった。

 

 

彼と友達になれたら嬉しい。

 

 

けれどそのためには、二人ともちょっとシャイかもしれない。

マイペースすぎるところもあり、せっかく行動範囲について聞いたけれども、お互いに、相手の居場所までわざわざ行こうとは思えなかった。別にそれでよかった。

 

「この学校のなかには、ああいう気持ちの良いやつがいる」という事実が大事なのだ。

上機嫌でガラハッドはレイブンクロー塔に帰った。

 

 




■「降下する鷲」回です。
■イギリスに憲法はありませんね。イギリスでは最高裁判例(レイシオ・デシデンタイ)の積み重ねが事実上の憲法なので、魔法界もそれに準じるということにしておきます。魔法界のレイシオ・デシデンタイはウィゼンガモット判例です。
■「持続可能な発展のための国際魔法使い協定」…本作独自設定です。名前のとおり各国の魔法界が持続的に発展することを目指して採択され、主人公が8才のときに発効となりました。その結果ギャリック・オリバンダーの弟子はフランスへ、マイキュー・グレゴロビッチの弟子は南アフリカに行くことになりました。この二国は特に高名な杖職人の弟子たちから、“魅力ある国”だと見なされることに成功したといえます。アラベール同様グレゴロビッチの弟子も、現地に根付く代わりにいろいろ貰っていることでしょう。
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