明け方、ガラハッドは意識を取り戻した。
ここはどこだ?今は何時だ?
それがわからないままガラハッドは、自身の身体が仰向けで真っ直ぐになっているのを感じとった。彼は愕然とした―――なんてこった、ここは棺の中!?―――瞼はピクピクと引き攣るばかりだった。
やがて、錆びついた箱の蓋をこじ開けるようにして、彼という人は薄目を開けることができた。そして、仰臥して真上の光景を確認した。彼はホッとしたが、大きく息を吐くことはできなかった。
( ッ…よかった!違った。なんだ医務室か…。―――…? )
自身の現在地を把握すると、ガラハッドはセドリックのことを考え始めた。
彼のほうは、今どこにいるんだ?セドリックもいま自力では動けない筈だ。
嗚呼許せない、ヴォルデモート卿―――それと、奴を祀り上げる死喰い人ども!なぜ、無関係のセドリックが死ぬ必要がある?俺たちは、現在、並んで寝かせられているのか……いや、きっと違うんだろうな。
ガラハッドはすぐに考えを改めた。
この部屋は寒くなどない。むしろ少し暑いと感じるくらいだ。
だからきっと、セドリックの肉体は不可逆の変化の内に在る筈だ。彼は眠るようだった姿を捨てて、死者らしい死者へと変身していく。夏が、彼を美しいままではいさせないだろう。
ガラハッドはその姿を幻視した。現実には、彼はただ真上しか見ることしかできなかった。
石造りのヴォールト天井は、窓の方向から灰がかって蒼い光を受けていた。つまり今は、どうやら夜明けが近い様子だということで…。違うかな、朝じゃなくて、ちょうど日没かもしれない。どのみち、あれから少なくとも六時間、悪い場合十八時間以上経っているということで…―――セドリックの遺体は、とうにこの場所から運び出された筈だ。
両親と共に、セドリックは家に帰っていっただろう。彼は、彼の尊厳のために早く埋葬されるべきだ。
彼はどこに墓を持つことになるのかな。
ガラハッドは自然に丘の上を想像した。
そのときだ。ふっ…と、蝋燭が一本揺らいで消えていった。
シャンデリアの上の蝋燭である。ガラハッドはまじまじと灯が消えた跡を見つめた。
それからも、シャンデリアに載った蝋燭たちは、一本、また一本とゆっくりと消えていった。どうやら、この薄闇は夜明けだった様子で、朝陽の気配が強まってくると、魔法の蝋燭たちは役割を譲るらしいのだ。
最後の一本が消えていった。
不思議だ。気がつくとガラハッドは涙を流していた。
嗚呼こんな水分が体内に在ってしまうから、人は死んだら内側から傷むんだよ!
はらわたを腐らせ、全身を膨らませる姿など、セドリックは人に見せたくない筈だ。
早く、早く、彼を石の下に!
つらくてもそれが一番いいんだ。
ガラハッドは涙を乾かそうとした。
特に見るべきものはないが、彼はきびきびと眼球を動かしてみた。
医務室のシャンデリアは飾り気がなく、それが逆に非常に特徴的である。それは、大きさに注目して述べるなら「梁から吊るされている馬車の車輪」であり、形状に注目して言うなら「鬼女橋姫が頭に被って狂う鉄輪の、もっといっぱい蠟燭が挿せるやつ」である。何本立っているか無駄に数えようとして、ガラハッドはふとある事実に気づいた―――…そういえば自分は、去年もまったく同じ角度からこのシャンデリアを見上げたぞ?
ガラハッドは静かに戦慄した。
そうだ自分は、そういえばぴったり一年の時を経て、あの日「大人になりたい」と願ったベッドへと戻ってきているじゃないか。
ぞわぞわと動揺が肌を這いまわりはじめた。断じてセドリックのためにならない嘆き方はするまいとしてみたら、次には恐怖がやってきてしまった。急に、畏怖すべき何かが、見えざる姿で、すぐそこの天井にいるように感じた。
目を凝らして、ガラハッドは努めて冷静になろうとした。
( 偶然…、偶然だ。偶然だよな? )
―――あそこには何もいない筈だ。
大いなる力の働きなんて、ない筈だ。
ガラハッドはそれを信じ込めなかった。
医務室はどんどん明るくなっていった。
ガラハッドは朝陽に対抗するように念じた。
いや、落ち着け。落ち着け自分…今日という日の、この最低最悪な状況が…こんなクソッタレなアレコレが、俺に用意されていた「大人になるということ」だったっていうのは…
…酷い妄想だ。馬鹿馬鹿しくって、反吐が出る!
丸一年後だから何だっていうんだろう?
「或る事が成ったのは、別の或る事が起きた日からぴったりn年後の今日だ」なんてのは、別に、任意の日を選んで言いたい放題の論法で、そうやって好きなように二つの出来事を結びつけて、たまたま過去に起きたほうの出来事を、今のほうの出来事の原因だと見なすのは……それは、そんなのは、“推理”なんかじゃない。
“魔術”だ。それは、シリウスがよくやっているやつだ。
彼は、アレで
魔術…はて、魔法族に生まれて、魔術を常の手段とすることの何が悪いのだろう?
ガラハッドは目の色を変えていった。
ドクン…ドクン…―――脈動が早く、大きくなっていく。
心よりも、身体のほうが準備が良いようである。
生きているからには、やれということか。
矢を番えて的を睨むように、ガラハッド・オリバンダーはピタリと思い入れた。
そうだ、今こそ、たのむべきは魔術である。
だって此処には、特大の魔法が必要だ。
魔法使いなんだぞ。「そんなわけない」と嗤う輩は笑い飛ばすまでである。願いを叶えるために使わないなら、知識なんて
すべては、「一年前の今日」から始まっていたのだ。
いいや、「八十年前の昨日」から、すべてのことは始まっていた。
さあ文字に言葉に力を宿して、地の向こうの星をも指さしてみせるのは今だ。善いとか悪いとか 、そんな観念は超えていく。重々帝網の宇宙へと指を差し、編み直し、数えあげ、唱えて弾いて清算をさせる。この血債は請求されねばならない!
よし!そうとなれば、まずは早くセドリックに会いに行こう!
早いほうがいいんだ、彼は恥ずかしがり屋なんだから。
と、いうわけでガラハッドは起き上がろうとした。
ところが、これが、悲しいほどうまくいかないのである。
( くっ!このッ……う゛、イタタタタタ )
ガラハッドはほぼ全身をギブスで固められていた。
おいおい…悔しいけど、「情けない」とかめそめそ言ってられないんだよ…。
ガラハッドは何にでも縋りたい心地だった。
嗚呼いまにそこの扉を開けて、ダンブルドアがこの身体に力を与えてくれやしないか。ハーマイオニーが懐から
ちくしょう、すっかりこっちのほうが重傷!!!
ガラハッドはイライラしてゾンビのように呻いた。
「 う゛ぅ゛ぅ…… 」
おぞましい鬼哭である。
それでも、この世にはとんだ変わり者が稀にいたりする。
その一例―――その風変わりな男の名は、正確にはアラベール・ニコラ・ド・ノアイユという。この名前を構成するものは、良くも悪くも人から与えれたものばかりなので、彼は自身の選択した姿たる実存に応じて、その機能を示す本質の名を持っている。
その名を、彼は
行く先が地獄でも、彼は喜んで外道を行うタイプ。
おぞましい鬼哭も、彼にとっては嬉しい目覚めの声なのだ。
それは、十六年前も今も変わらなかった。
アラベールは、ハッと顔をあげて前に倒れるようにして椅子から腰をあげた。アラベールは高い囁き声で言った。
「 目覚めた?お前、目覚めたのか…! 」
ガラハッドはとてもびっくりした。
ガラハッドのほうのとらえでは、アラベールはいきなり姿を見せてきて、超至近距離でこちらを覗き込んできたオッサンだ。そうされるまで、ガラハッドは自身に付添人がいることに気がついていなかった。「そういえば、いないほうがおかしい」と彼はすぐに考えて納得したのであったが。
( あれ!?そういえば俺、気絶する前よりも…? )
ガラハッドの疑問は確証に変わった。
パッと笑顔を輝かせて、アラベールは背を反らせて腰を伸ばしながら大きな独り言をいった。
「 奇跡だ…本当に、素晴らしい偶然だ!まったく、こいつは偶然でしかないぞ…ははっ、これはこれは、貧血になった甲斐がある―――わたしはO型じゃない。合わない確率のほうが高かった。てっきり、これが、わたしに与えられた報いかと… 」
と、言っていたらまさに眩暈がしてきた。
アラベールはドスンと椅子に座り直した。
ガラハッドはゆっくりと瞬きをした。
あ、やっぱり。俺は、あの失血量だった割には妙に気が冴えていると思ったんだよな…血が足りてないとこうはいかない。
アラベールの吐く息には、湯に浸かるような安堵と脱力の響きがあった。それを聞いて、ガラハッドは胸がぐちゃぐちゃになった。その音ひとつからだけで、まざまざと想像が駆け巡っていったのだ。
うわあきっと、アラベールはこちらの父親として知られているから、深夜、医務室まで駆けつけるや否や強引に、駆血帯を巻かれて血を採られたんだ!あのマダム・ポンフリーとベアトリーチェなら、必要時は問答無用で輸血を行おうとする。
そのとき、アラベールは強烈に迷った筈だ。
自分は、そのときアラベールが「危険だ!実は、我々に血縁はないんです!まずは検査して適合者探しを!」とかなんとか主張したら、もう間に合わないほど酷い状態だったのか…やばいな…それは、本当に、奇跡だ…―――ガラハッドは言葉が出てこなかった。
さてアラベールは、しばらく放心して貧血の症状をやり過ごすと、杖を取り出して今度はゆっくりと立ち上がった。彼は杖を振って、この静かな医務室が、静かなままであるように取り計らった。
ガラハッドが見えていないなりに予想し把握しているとおり、現在この医務室には、ガラハッドの他に二人の入院患者がいた。ひとりは魔法睡眠薬を処方されたハリーで、もうひとりは衰弱した本物のマッドアイ・ムーディーだ。犬の姿のシリウスは、ハリーのベッドの下に潜り込んでうずくまっていた。
アラベールは、ハリーとムーディーに温かな夢を見せた。薬が切れても、ふたりが眠り続けるように。アラベールは、そういえば医務室の中に犬が入ってきていて、それが出て行っていないことは忘れてしまっていた。彼は杖をおろして懐に入れた。
「 ふふん、勝利の記念に訊いておこう。お前、わたしが誰かわかるかね? 」
アラベールはニヤッとして言った。
「 その顎でも、少しは口が利けるかね?記憶はどうだ?声は出せるな?これは、是非とも聞いてから旅立ちたいものだ―――息子よ、わたしが何者か言ってみろ。わたしは、ボーバトンの教員、杖職人、愛国的な大公国人にして、アメリカ生まれの成り上がり貴族アラベール・ニコラ・ド・ノアイユ。だがこれは本質ではない。国も身分制度も貨幣経済も、はなから想像の産物でしかない共同体や価値を取り去ったとき、この世界で、わたしが持っている機能とは…! 」
「 …俺の親父。まさに、血を分けた父親 」
ガラハッドは掠れ切った声で答えた。
アラベールはパチンと指を鳴らして言った。
「 その通り!わはは、嘘も千度言えば真になるなあ!?聖書では、肉のいのちは血に在るという 」
アラベールは浮かれた声で笑った。
ガラハッドは微笑してアラベールのことを見上げて、彼はいまに涙を落として寄越すのではないかと思った。筋になって射しこむ朝陽は、草臥れたアラベールの隈と白髪を際立たせていた。
さまざまな思いがあったが、ガラハッドは取り急ぎ言うべきだと思うことを優先して言った。ガラハッドが弱々しく献血と付き添いの礼を述べると、アラベールはサッと顔つきを変えた。「それはいい。お前、他に言うことはないのか?」だそうである―――その瞬間、ガラハッドは、経験によって実に精確な予見をした。
え、嘘だろ?正気か?おたく、今から説教すんの?
このミイラみたいな有様の重傷者に?
人の情けがあったらしなくない!?
と、念じたってアラベールはア
彼という人は、まずは存分に息を吸いこんで、自身の顔の隣へと手を掲げて、こちらに対して「信じられない!」という身振りと表情をして寄越した。
ガラハッドは「は?」と短く息を洩らした。
それは、反抗心よりも、根っから驚きがまさって出た声であったのだが…―――通常、その一音は開戦のゴングとして機能する。
輝ける朝に、目糞鼻糞の親子喧嘩が始まった。
「 え?お前、本当に他に何か、わたしに言うことはないのかね? 」
アラベールは興奮のままに舌を回した。
「 いいか、今日からはもう生まれのせいにはさせんぞ!お前は、いつになったらもう少し人間らしい言動をするのだ。スプラッタはせめて拾うだけにしろ!自分がなるな!お前は、わたしがそういうの本当に駄目だと知っているだろう!お前は、わたしが、一体どんな思いで、夜じゅうここに座っていたかを考えないのか。考えてくれと願うのは、わたしの身勝手なのか。お前な、こういうときは、『心配かけてごめん』くらいしおらしく言ってみせるんだ!わたしのことは、もう、この際いいとしてもだな、お義父さんは一体どういう胸の内で、事に備えて店にお戻りであると思っている?断腸の思いとはこのことだ!あの歳で、お義父さんだってお前に血をやりたいとおっしゃった!お前、くれぐれもお義父さんにその態度をとるんじゃないぞ。それにだ、グレイスが生きていたとしたら、お前、彼女に対して何と言うつもりなのだ!?いいやお嬢さんのほうこそ、こんなことになって、お前に何を言うつもりなのやら……ん?うん、それは、まあ一種の、自己対話にあたるか?…いいや、お前は、現に自身のなかにわたしを混ぜたわけであるから…。―――…。―――…? 」
アラベールはどこかへと耳を澄ますような顔つきをした。
彼が黙り込んだのは一瞬だった。すぐに、アラベールは虚空へと発破をかけるようにして続けた。
「 とにかく! 」
アラベールはイライラとした咳払いを挟んだ。
「 とにかく、わたしは、お前にあの妖精と戦って欲しくはなかった 」
ガラハッドは、顔を歪めすぎて頬に貼られていたガーゼが取れてきてしまった。
「 あっそ。へえ、そう。そうですかぁ 」
ガラハッドは思いっきり八つ当たりをした。
だっる。うっざ。当たり前だろ…そりゃあ俺だって、別に好きであのウィンキーとぶつかってやりあったわけじゃない!
まさか、こんなことになるとは思わずS.P.E.Wをソサエティー傘下に組み入れてきたし、戦うとなったらキレちゃってぶち殺したしで、ガラハッドはもうハーマイオニーに合わせる顔がない。
クソ親父、傷心に塩を塗り込むんじゃねえ。
それに、正直なところ「ほら見ろよ!」という気持ちだってある…もっとどす黒い感情だって、ハーマイオニーに対してはあるので…―――ガラハッドはすすんで石のようになった。
嗚呼きっと、彼女もドビーと共に、ウィンキーのために泣いて墓を建てるだろう。文字の読めない妖精たちのために、彼女はそこに目印の花を植えることだってするだろう。ハーマイオニー・グレンジャーはそういう女の子だ。
ガラハッドは、彼女のそういうところこそが好きなのだけれども、今は「ちくしょう!恋人なら俺のほうだけを気の毒がるべき!!」と思えてならなかった。だって見てくれよこの指一本も動かせない酷い有様を。どうしよう。俺、当分はどうやってトイレに行くんだろう?
アラベールはガラハッドの暗い顔つきに怯えて、声を裏返らせて弁明のようなことを言った。
「 違う、違う、よくぞ応戦した。お前は、もちろん戦わねばならなかった!今のは、『屋敷しもべ妖精と戦わねばならない状況が、そもそも発生しなければ良かった』という意味だ―――お前が勝ってくれて嬉しい!だがすまない、どうにも、単純に喜ぶことはできなくてだな 」
ガラハッドは何やらの勘違いを察した。
なので、敢えてクソ生意気に聞こえるようにこう応戦しておいた。
「 そうだな。俺は、いくらでも正当化してしまえる殺しをした。あくまでこの世…この国この社会ではって話だけど。奇遇。どっかの誰かさんの若い頃とおんなじだ 」
ガラハッドは少し力加減を間違えた。
みるみるうちに、アラベールの顔色は昔いたクィレルよりも酷いものになった。彼は「なぜ知っている?」と小さく怯え声で言って、サッと脳裏にギャリックの顔を思い浮かべた。
「 チッ―――まあいい。お義父さんの慧眼はおそろしいな。ったく、気に食わん。お前まで、どうしてこんな…! 」
アラベールは奇妙な黙り込み方をした。なんだか、彼はしつこいしゃっくりを止めたいかのようであった。実際にしゃっくりなわけがないので、ガラハッドは特に返事をしないでおいた。
医務室に静寂がやってきた。
遠くで雄鶏が鳴いている―――床に同化するように寝そべっていたシリウスは、それを受けて耳をピクピクさせた。
ガラハッドとアラベールは、しばらくはお互いにむっすりと黙りこんでいた。そのあいだに、蒼かった陽の光は白くなり、強くなって少し金色を帯びた。
「 まことに、お義父さんには敵わなんな 」
やがて、グスッと鼻炎のような音をさせながら、アラベールは自身の上着のポケットに手を差し込んだ。彼がハンカチではなく懐中時計を取り出したので、ガラハッドはバッチリと目を開いてその鎖を辿って目玉を動かした。
ガラハッドは溜め息を吐きながら質問した。
「 いま何時? 」
「 だいたい、五時半 」
アラベールもしみじみと溜め息を吐いた。
「 腹が減ったなあ。今日のためのパンが必要だ。屋敷しもべ妖精たちは、そろそろ働き始めただろうか 」
ガラハッドはぐったりとして「さあ…」と言った。
アラベールは落ち着きなくブツブツと続けた。
「 うむ、どうだろうな。わたしには、彼らの感覚がわからない。昨夜あんなことがあって、他の妖精たちは、あの元クラウチ家のをどう見なすのか―――杖を持つことを覚えた妖精が他にもいないか、ファッジは、生物局にどうやって調査をさせるつもりなのやら―――ああ、いい。放っておこう。我々は、ひとまず自分たちのことに専念するべきなのだ。別に、人類はパンの焼き方を忘れているわけでもなし。わたしは、今日は汁物しか受け付けない 」
アラベールは刺青のある手をひらひらさせた。
ガラハッドは唇を動かしただけに終わった。
アラベールはポケットに時計をねじこみながら気だるげに言った。
「 やれやれ、あまりのんびりはしていられない。ガラハッド、今から、家のことについて大事な話をするぞ―――その前に、さっきの件でひとつぶち込んどいてやりたい―――お前なあ、わたしから似なくていいところが似たというならばな、少なくとも以前よりは長生きをして、将来、わたしの心を理解して苦しめよ。呪ってやる。お前は、お前も、親になったら神経性胃炎を患え 」
アラベールはおどろおどろしく宣告した。
ガラハッドはやんわりと苦笑いしてアラベールを宥めた。
「 ごめんって。そりゃあ、人殺しの親はつらいよな―――俺は、あんたから人殺しになるようには育てられなかったのに 」
途端に、アラベールの顔つきは豹変した。
アラベールは、自分自身の親に対してそんなの思ったことがなかった。かといって、ゴミのように打ち捨てられて育ったわけでもなく、これには手によって心臓を握りしめられたような心地がした。
ガラハッドはしばらくキョトンとしていた。
ややあって、彼は自身について事後的に理解して、二度目の人生を与えてくれた人に、ほんのりとはにかんでさらにこう伝えた。
「 うんと、愛して育ててもらったのに。また人殺しになって、親不孝はしたくなかった 」
ガラハッドは眩しさに目を細めた。
不思議だ。実はずっと重かった鎧が、この陽光に溶けて消え失せていくみたい。
本当は、前世の両親や祖父母たちにだって、このように伝える機会が欲しかった。
伝えることができなかったから、“あの世”を忘れていくことに抵抗があった。
今は、もう何の未練もなくなった。
アラベールは唇を大きく震えさせた。
彼は唇を震わせるばっかりで、そこから何も音らしい音を出せなかった。彼がそんな調子であるので、ガラハッドはくいっと口角をあげて、もう一つオマケに彼に言ってやることにした。どうせ、我々はもうこれが最後なのだろうから。
ガラハッドは悪戯っぽい声で言った。
「 どうかしてるとは思うけど、あんたは良い父親だったと思う。不肖の息子で、申し訳ないね。俺は昔、自分さえ遺されていなければ、あんたは、所帯を持って本当の子を抱いて、温かい家庭を築いていただろうにと思ってた。その子なら、あんたの期待に応えられたって、修行のつらいときは思ってた―――ちょっと遅いけど、これから、あんたは普通の幸せを得るんだな。バイバイ、今度は可愛い娘でも持てるといいな 」
胸を短剣で貫かれたかのように、アラベールは背を丸めてシャツに深い皺を寄せた。