ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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銀河英雄伝説

 

「 死せるセドリック・ディゴリー(DECEASED CEDRIC DIGGORY)(⇆is⇆)“苛烈なる王殺し”( ACCORDED EDGY REGICIDES)

許すもんか、滅べ、闇の帝王!

疾く早く(ηδη ηδη τάχυ τάχυ)消え失せろヴォルデモート!

他ならぬ俺がそう言うんだぞ(I'M THE ONE WHO ACCORD HIM)()とんだ継ぎ接ぎの手段(A CHIMERIC METHOD, NOHOW)だって、お前にはそれがわかるまい!

何が永遠?何が永劫?この世界の一切は幻影だ!

お前だって、所詮は幻影だリドル!

無に還れ、急急如律令(ηδη ηδη τάχυ τάχυ) 」

 

 

ガラハッドははっきりと言ってやった。

突風が巻き起こって吹き抜けた。窓という窓は開け放たれており、室内は夏の風と陽光とに満ちていた。が置いてあるから、ガラハッドの机の上はいっそう明るかった。

多すぎる光線は不可視である。

瞬きのうちに、リドルは、熱いとも冷たいともわからない感覚に襲われた。二度目の体験だ!リドルは、以前にもこの感覚に貫かれたことがある!―――二年前、アルバス・ダンブルドアに杖を向けられたときに…―――しかしリドルは、今、そのことを悠長に思い出している場合ではなかった。

 

心臓があったら、彼のそれはもう破裂していただろう。

動物的なまでに、リドルは高速で頭を回していた。

誰よりも、放たれた呪文の威力に勘づいて戦慄していたから。

 

そのさなか、チョウ・チャンという人はハッと顔をあげた。

 

彼女は、晴嵐のなか黒髪を靡かせ振り乱して、急に激高した友人の顔をよく見ようとした。逆光だった。チョウは、陰に在りまるでスニッチを取り逃がしたように脱力した。

彼女は、急に虚空へと復讐を誓ったガラハッドもまた、心がボロボロで限界に達しているんだと悟った。

 

 

「 なに…あなた今、誰に消えろって言ったの…!? 」

 

 

チョウは、それは“あの若いそばかすの悪党”の名ではないと思った。

 

 

「 そいつは僕じゃない。僕は、この僕はなんにも悪くない! 」

 

 

と、言い張ってリドルは座っていた机から腰を上げた。

その一念は、実にこのリドルを強く傲慢にさせた。

 

 

「 ハハッいい呪文だ!ガラハッド、すっかり僕に相応しい者になったねえ? 」

 

 

ガラハッドは、ただちに簡潔にそれを跳ね返した。

 

 

「 Thank you! 」

 

 

「おかげさまで」「てめえ、やってくれるなあ?」の意味である。

それを感じ取って、リドルは機を逃さないで「OK」と言っておいた。

フン、平気さ。気にしない。どういたしまして…―――リドルは、努めて平然としてゆっくりと“日記”へと手を乗せた。腹の内では、ガラハッドに強烈に火を点けられたながら、ひとまずは受け流してやる態度をとったのだ。

 

トム・マールヴォロ・リドルは強く念じた。

こいつめ…いまに、いまにこの僕へと心酔させてやるんだからな?

耽溺させ、崇拝させ、固い結束を誓わせてやる。

永遠の奴隷にして、果てのない献身をさせてやる!!!

 

…それは、つまるところ「愛して」ということなのだが、トム・マールヴォロ・リドルという人にはそれがわからない。

彼という人は、笑顔のまま獰猛に紅い目を光らせた。

彼は、静かだがとても剣呑な声になって、ガラハッドにまるで二年越しの証文を突きつけるかのように言った。

 

 

「 さて、それじゃあ、僕たちの最初の共同作業は、“僕を捨てていったほうの僕”を殺すこと。それで決まりだね? 」

 

 

ガラハッドは低い声で不機嫌に「ああ」と言った。

 

 

「 そうしよう…―――お前は、誓って自分自身を、この俺のほう(・・・・・・)の味方だとするわけだな? 」

 

「 まあね。そっちこそ、自分で自分のことをどう思っているんだい?君は、僕のように分霊箱を作りたいくせに、今からのそのそと図書室にでも行くのかい? 」

 

 

ガラハッドはただちに「ハッ」と歪に笑い出した。

 

 

「 まさか!お前がいるのに、俺はそこまで馬鹿じゃないさ 」 

 

「 重畳。それじゃあ、僕は聞かせてもらえるというわけだね 」

 

 

リドルは、嬉しくなってつい高慢に顎をあげて言った。

 

 

「 言えよ!『リドル様、僕を導いてください、Please』と! 」

 

 

一瞬、ガラハッドは「仕方ないな」と笑うような目つきをした。

 

 

「 はいはい、俺は、今すぐできるだけ早く(ηδη ηδη τάχυ τάχυ)お前から分霊箱の作り方を学びます―――何だって、黙って念じりゃ(IT’S A MUTELY RECOURSE)()確実に実現するね(IT AS SURELY COME TURE)―――…けれども聞きたいならば仕方ない!

ハーイ、リドル!こっち向いて、Freeze(動くな) 」

 

 

ガラハッドはリドルの「Please」の言い方を真似した。

完全におちょくられて、「期待」から「絶望」へと真っ逆さま!

女の子に手を振るかのような笑顔のガラハッドに、リドルは、ギョッとして文字通り(・・・・)凍りつかされた。

 

無言呪文でございます(IT’S A MUTELY RECOURSE)それは確実に実現するでしょう(IT AS SURELY COME TRUE)

 

このリドルは、この18文字をまた並び替えて意味をつくらない限り、もう二度とガラハッドの念力には逆らえない。

当然、ガラハッドはすぐに「並べ替えるな!」と念じて駄目押しをした。ガラハッドは、動けないリドルへと大股で近づいていくと、がばっと机上のインク壺を掴みあげて、蓋をあけて全部“日記”へとぶっかけてやった。

 

 

( さあ!とっとと“分霊箱づくりの説明書”に成れ!!! )

 

 

…―――修験者の念力は草木を靡かせる。

またしても風が湧き起こり、ざわざわと森が鳴った。

ガラハッドは(テンペスト)を引き起こして、“新・リドルの日記”の側面へと指をねじ込んでやった。その道具は、ガラハッドに乱暴になかを拡げられて、伏せられて机へと押しつけられた。リドルは、まるで雑巾かのようにインクを吸わされて、壮絶に顔を歪めて風に掻き消えていった。

 

 

「 ちょっと!あんた、何してるの!? 」

 

 

チョウは黒塗りと化す“日記”を守ろうとした。

その小ノートを、ガラハッド本人の日記帳だと思いこんだのだ。

だって、彼という人は、日頃そのサイズの手帳を携帯しているから。それにチョウは、ガラハッドから以前に雑談で、「最近は研究の一環で、夢現の境なく記憶を書き留めている」と聞いたことがあった。

 

チョウは、ガラハッドへと突進してその腕へと組みついた。必死に捩じりあげて、チョウはガラハッドに“日記”を押さえつけるのをやめさせた。

 

 

「 やめなよ!ガラハッド、それはやめて! 」

 

 

チョウは大声ではっきりと言った。

 

 

「 セドリックとの思い出、消してしまわないで!わかってる、思い出すとつらすぎるってことは!でもでも、セドリックは、たしかにわたしたちと生きていたじゃない!?それをこんな…ひどいわ、ひどい!つらいからって、忘れようとしないでよ! 」

 

 

ガラハッドは、異論はないが今それを怒鳴られる意味がわからなかった。また彼は、腕力勝負ならおおいに分があったのだが、ひったくりの勝負ではチョウに勝てなかった。

チョウは、ガラハッドが怯んで“日記”から少し手を離すや否や、机上からそれを救い出した。そして、“日記”をギュッと強く抱きしめて噎び泣いた。インクによって、彼女は手も胸も黒く汚した。

 

 

「 忘れないで。わたしたち、彼のこと永遠に覚えていよ………ぅょっ!? 」

 

 

ガクン! チョウは気絶してしまった。

愛の涙が、日記へと降り注いで吸い込まれていく―――…。

…そんな奇跡には気がつかずに、ガラハッドは咄嗟に「え?」と言った。ややあって事態を理解すると、ガラハッドは微塵も芸のないキレ方をした。

 

 

「 …あっ、あ゛~クソ!リドルてめえ、俺には敵わないからって!! 」

 

 

リドルは、チョウ・チャンの魔力を吸えるだけ吸った。

ガラハッドは頭にきていたが、床に落ちた“日記”を踏みつけにはいかなかった。ガラハッドは、それよりも慌ててチョウの肘あたりをひっ掴んだ―――…さもなくば、この直後、彼女は石の床で後頭部をかち割ったであろう。

まるで水草か何かのように、チョウは全身を大きくしならせて揺れた。

ガラハッドは回って、なんだかタンゴでも踊るようになりながら、チョウを引っ張って自分のベッドへと寝ころばせた。くたっと、チョウは手足を投げ出して横を向いた。ガラハッドはすぐに彼女の首を支えて上を向かせた。

 

 

「 チョウ!チョウ!大丈夫か!? 」

 

 

彼女は、ゆすっても呼んでも目を開けやしなかった。

ガラハッドは心臓がばくばくした。

だがよく見ると、半開きの唇は赤いままだし、チョウは息によって胸を上下させている…。

 

 

( よかった!死んでない、チョウは死んでない! )

 

 

ガラハッドは咄嗟にそのまま目を落とした。

…安堵したのだが、興奮は退ききったとはまだ言えなかった。

ガラハッドはそっとチョウから手を離した。

チョウの肉体は、陰である部分が濡れているとしたら、波が寄せては引いていく砂浜みたいだった。カーテンが揺れるのに合わせて、じっと動かないまま、そのなめらかさを淋しく強調させている…―――ガラハッドはふらふらと数歩後ずさった。

 

嗚呼チョウは、悲しみのあまりに、すっかり精神の均衡を欠いてしまった。セドリックめ、あいつが、彼女を弄んだまま死ななければ…!

 

チョウは、本当はこんな子じゃないのに。

すっかり“描かれた女”みたいになってしまって。

このままの姿で、男のベッドで眠るのはよくない。

男子寮を出れば、きっとマリエッタがすぐそこにいる筈。彼女のもとへ、チョウを帰そう…彼女ほど頼りになる人はいないだろう!

 

と、考えたものの、ガラハッドは呆然としてしばし風に吹かれていた。気がつくと、チョウだけでなく自分自身も、“血まみれ”ならぬ“インクまみれ”に成り果てていた。

ガラハッドは自分の手の汚れっぷりに瞠目した。

そして床に転がっている“日記”のほうも見て、ガラハッドは自分で自分を殺したくなった…―――たしかにこちらのほうのリドルは、“セドリックを殺したリドル”とは違うだろう。セドリックがチョウを騙していたのだって、あの彼にそうさせたのは自分なんじゃないか…。

 

急に落ち着いて、青い寝室は空虚な伽藍洞だ。

ゆらぁっと、個々人の間仕切り用のカーテンが揺れているばかり。

どう償えばいいかわからないまま、ガラハッドはとりあえず“日記”を拾い上げた。ヴォルデモート同様、自分だって「理不尽な暴力」の振るい手だと感じながら…―――けれどもガラハッドは“計画”を変えなかった。

心願成就を目指すうえで、“分霊箱づくり”はその第一歩にすぎない。かの人はちらっと“日記”を開けて調伏の成功を確かめると、鞭打つように杖を振って室内の争いの痕跡を消した。

さあこの魂の分裂を以てして、ウィンキーもまた“人間”であったことを証明してみせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝が去り、夜が待ち望まれる。

万古、一日のはじまりは日没であった。

 

終業式の間じゅう、ガラハッドはセドリックのことを考えていた。四寮の寮旗は、今日はどれも黒一色に染まっていた。それぞれ沈痛な面持ちをして、教職員たちは喪のローブを纏っていた。年中陰気なスネイプだけが、いつもと変わらない服装で席に座っていた。

 

 

「 在校生、送辞 」

 

 

マクゴナガル先生は暗い声で言った。

彼女に「オリバンダー・ガラハッド」と呼ばれて、ガラハッドは「はい」と言って立ち上がった。

その横顔は遠矢射るかのようだった。

或いは、彼自身が刃の切っ先のようだった。

強大!不死身!親友の血債の請求者!?―――“伝説の騎士”の立ち姿に、大広間は俄かにざわめきたった。

スネイプではないが、ガラハッド・オリバンダーもまた、いつもと同じ装いで壇上に姿を現した。学生総代として、ガラハッドは、以前からこんなとき、柄のない黒のネクタイを選んで締め続けてきた。それは、「所属する寮に関係なく、どの生徒にも公平に接する(タナトスは誰も逃がさない)」と示すためであったのだが、今となってはもう、誰からも「セドリック個人のための装い」にしか見えなかった。

ガラハッド自身も、今日はそのように感じて伏目がちだった。

胸に手をやり、ネクタイに指で触れる…。

やがて、ガラハッドは顔をあげてゆっくりと話し始めた。数千の瞳に見つめられて、演台の上は今日も断頭台のようだ。ガラハッドは当選したあの日を思い出したが、あの日と違ってもうどこか自由だった。

 

ガラハッドは、みなさんに「さようなら。また会いましょう」を言う前に、“今、思うまま”を正直に言葉で遺しておいた。

 

嗚呼こういうことを言いたくて、自分はがむしゃらに走り出したんだ。初めは、海底地下八千由旬の亡者だけが、この自分の味方だと思っていたものだ。自分が苦しいから、こう叫んでやりたかったんだ。けれど、今では何もかもが違っている…!

演台の上から、ガラハッドはハーマイオニーの姿を探した。

大群衆のなかからでも、彼には彼女を見つけだすことはたやすかった。

ガラハッドは、うんと伸びあがっているハーマイオニーを見つめて念じかけた―――さようなら。心を半分に裂いたなら、もう君のことを愛せなくなるかもしれない、と。

 

でも、そのほうが自分には相応しい。

自分は、生けるセドリックに対して何も返せなかった。

彼に贈れなかった愛情を、これから他の人に注ぐなんて考えられない。

心を半分に裂いたとき、“人を愛す心”のほうを彼にやろう。

彼の亡骸を“分霊箱”にして、ゆっくりと共に滅んで行こう。

骨まで塵芥へと還るまでの時間は、人間の一生ぶんとするには十分だ。果てはふたりしてショベルカーで掻きまわされて、ゴキゲンなリゾートにされちゃったりして。いいよセドリックと一緒であるならば、不思議とそういうのも笑って受け入れられるよ。

 

さああいつは、俺が絶対に浄土へと連れていこう…―――セドリック・ディゴリーという男は最低な、本当にやめてほしかった、今となって思うと、最終どうするつもりだったのか全然わからない、八方美人な、何の罪もないチョウを壊しやがった奴だけれど、誰より大きな“支払い”をして、こんな俺のことを愛してくれた奴だから、この俺にはあいつを幸せにする責務がある…―――だから、これからは天も味方するだろう。

絵空事みたいで馬鹿馬鹿しい、この狂った祈りを聞くだろう!

魔術師ガラハッド・オリバンダーは祈祷した。

 

 

「 ここにいるわたしと貴方がたは、ここ二百年間のヨーロッパで、初めて集結して共に過ごす経験をした魔法族。分断に満ちたこの世界を、ようやく変えられるかもしれない世代!―――どうか、共に憎んでください、ひとりの普通の人間が、簡単に抑圧され殺される社会を!

どんなに罪があったって、その人はそうされるのに値しないんです

それだけです。そのことを忘れないでほしい! 」

 

 

それからガラハッドは多くを語った。

ひとつ、地球を踏みつけながら『命は地球よりも重い』とか言いがちな、篤志家のふりしたよくある欺瞞のこと。その術を使って、我々に無力感を与えているのは誰か?その策に嵌まって正義の価値を低く見積もる時、我々は誰に得をさせているのか?

 

それから、誰だって、どこかの段階で命を線引きしている件について。牛や豚、昆虫や植物…これらをすべて尊重して、命を奪わずに生きることはできないということ。対立を避けられない種族もいるということ。そのうえで、このテーゼは現に卑怯な利用され方をしているということ。“社会通念上、『尊重するべき』とする存在の定義”は、他のあらゆる定義同様、じわじわと操作・改変が可能であること。誰の何までを命と呼ぶかによっては、人間はいくらでも『わたしは善良です』という顔をしたまま、ぞっとするような罪を犯せるということ。

 

また、『善人以外は死ねばいい』と、思っている者ほど簡単に騙せるんだということ。すっかり騙されている人も、無関係気取りも、タナトスは誰も逃がさないということ。このまま、闇の勢力の復権を許せば、ここにいる全員が必ず地獄を見るんだということ。

 

ガラハッドはそれらを熱心に語ったが、ほとんどの生徒に十分理解されなかった。この日ホグワーツの大広間で、万人が彼を高く評価した理由は単純だ―――彼の姿が、その仕草や話しぶりが、美しく、予言的で怖ろしく、哀しげで切迫的で同情を誘い、そうでありながら頼もしく、峻厳な風格を纏っていたからにすぎない。

多少話が飛ぶように思うのなんて、天才が天才であることの証明だ。よくモノがわかっていない人物ほど、天才の支持者である自分が誇らしいものだ。

 

その一方で、ガラハッドは罪を自白したつもりだった。

斯くして自分は人心を扇動し、不相応な喝采を浴びてきたのだ、と。

いまや我が魔法はことごとく破れ、残るは我が身の微々たる力ばかり!―――終幕を迎える魔術王(プロスペロー)のように、ガラハッドは演説を締めくくった。

 

 

「 さようなら、お元気で。これを以て、わたしは学生総代の地位を降りましょう。お手を拝借、どうか皆さまの拍手の力で、わたしの戒めをお解きください。さもなくば、お楽しみいただこうとの目論見は水の泡。祈りによって救われない限り、この幕切れに待ち受けるのは絶望のみ。どうか祈りは天に達し、神の御慈悲にかないますよう―――さすればすべての罪は赦されましょう(万物は金となることでしょう) 」

 

 

ガラハッドは双頭の鷲へと手を掲げ伸ばした。

客席のなかに高座を設けて、アンナ・ショシャーナ・アスタルテは観劇をしていた。どよめきと拍手とが波になって、彼女を囲む天幕はゆらゆらと揺れた。

長い演目のあと特有の満足感は、得も言えず心を酔わせてくれるものだ―――ゆったりと扇を用いながら、ヴェールの下で大公妃は微笑んだ。

ガラハッドからはそれは見えなかった。

 

五分後、一行はぞろぞろと城外へと出て口々に話していた。

 

 

「 ほほほ、なかなか悪うなかったのう……だってさ 」

 

 

校庭の一郭で、シザーリオはそのようにガラハッドに報告した。

ガラハッドは、「本当にそう思っておられるなら、直接お言葉が欲しいもんだ」と暗い声でぼやいて、シザーリオをおおいに苦笑いさせた。「困った奴だな」という顔つきをして、シザーリオはガラハッドにひとつ耳打ちをした。

 

 

「 まあまあ。もう一つ、今度は楽しいご報告をするよ―――カルカロフは死んだ。いいんだ、礼には及ばないぜ。キミは、ちゃんとあいつを死なせてくれたもんね。どうだい、お手柄の仔を撫でてやってよ 」

 

 

ガラハッドはハッとしてシザーリオの顔を見竦めた。

シザーリオはニィィッと微笑んだ。

話しながら、彼(彼女?)は一頭のドラゴンを指さして見せた。

怪事件の連続した英国上空を移動するにあたり、本日の竜騎士(シュバリエ)ボーモンは、三頭のフランス・ワイバーン種の影に大公妃の乗った馬車を隠して飛ぶ。特に訓練されている天馬は、ドラゴンたちに怯えずむしろ活気づいていた。大陸の戦団の一片を垣間見て、田舎のブリティッシュはわあわあ言うばかりだ。野次馬の視線を感じながら、シザーリオはガラハッドに陽気な敬礼をした。そのときマダム・マクシームは踏ん張って、ドラゴンに夢中なハグリッドの腕を抱きしめて離さなかった。

 

 

「 あなーた、近づきません!あのせぃーとは、わたーし、止められません。わたーし、あなーた、排除されますの、見たくない! 」

 

「 またね!いずれ時期が来たら、ボクたち結婚しようぜ。急がないよ。今は、うんと悲しみ尽くす必要があるよなあ 」

 

 

天馬たちが冷やかすような啼き方をした。

ガラハッドは周囲の目を気にして、キョロキョロと振り向いたところで呆れ顔のベアトリーチェと目が合った。彼女は、すっかり興奮した様子のフラー・デラクールと一緒だった。フラーは、確固たる信念の結果として、目を開けていてもシザーリオを見ず、シザーリオの言葉なんか一切耳に入れていなかったが。

フラーはガラハッドと握手をしたがった。

 

 

「 ハーイ!あなーた、おんとーに、正しーぃですね。わたーし、あなーた、尊敬しまーす。あなーた、ぜひ、大臣になりまーす!セドリック、きと、それ望んでると思いまーす。わたーし、もと、英語勉強しまーす!必ず、あなたに、手紙書きまーす! 」

 

 

ガラハッドはフラーに応じて握手をし、そのながれでベアトリーチェに救命の礼を言った。すると彼女は、ますます不安や訝しさを感じさせる顔つきになって、本当に身体は大丈夫なのかと質問してきた。ベアトリーチェの見立てでは、ガラハッドは、しんどくても気合で元気よく振舞うタイプだった。ガラハッドとしてもそこは否定しづらかった。

 

 

「 お大事に。あなたのような人は……本当に、お大事に 」

 

 

ベアトリーチェは何かを考えながら言った。

ガラハッドは、さっきシザーリオから聞いたカルカロフの件が気になって、速足でボーバトンの馬車の近くから離れて、ダームストラング生たちを見送る列の前列へ行った。そこでは、ガラハッドはミカからおおいに肩や背中を叩かれて頷かれた。ガラハッドはすぐさまミカに事実を確認した。

 

 

「 本当だ。そのどおり我が校ヴぁ、一昨日がら校長がいない 」

 

 

だがミカは、その件は帰国への障害にならないと言った。

というのも、“空飛ぶ船”の操縦は最初から、ほとんどこの自分、未来の“マイキュー・グレゴロビッチ”の仕事であったというのだ。ミカは、「船はノルウェー産の樹で出来ており、簡素な構造だがよくしなる。素材がわからないほどタールが塗られているのは、水に濡れ続ける外側だけだ」と説明した。ガラハッドは素朴な戦闘機好きとして、木製モノコック構造にはかねてから興味があり、ミカのことを珍しく饒舌にさせた。

途中から話に混じってきたクラムは、「あの人は偉そうに指示を出すだけだった」と言った―――軌道修正である。

 

 

「 ガラハッド卿、お前も、大広間で先生だちの席を見だだろう…フン、ダームストラングには興味がながっだというごとだな。しかしそういえば、お前も職人だったわげだ…ミカの仲間だ。そう思うど随分マシに見える―――お前ほどタフな奴は見たことがない。げれどヴぉくも、そんなに弱ぐはないづもりだ。ヴぉくも、闇の魔法使いが大嫌いだ 」

 

 

クラムはむっつりとしてそう言うと顎をあげた。

以上が、負けず嫌いな彼なりの好意的「さようなら」だった。少なくともガラハッドはそのように解釈した。

 

予定よりも質素な“送り出し”となったが、これはこれでよかったのかもしれなかった。この一年で出来た友人たちと、めいめいにたっぷりと別れを惜しみ合ったあと、両校の生徒は母国へと帰っていった。

彼らを見送ったあとのホグワーツ生は、その足でホグスミード駅へと向かうことになっていた。多くの屋敷しもべ妖精たちが、生徒たちのために荷物を汽車へ運んでいた。

 

ガラハッドも彼らに荷物を任せたから、ホグワーツ特急がキングスクロス駅に着く頃には、そこに現れて貨物車からキャリーを引っ張り出す必要があった。その時刻は、おおよそ19時頃になるだろうか。それまでに、ガラハッドは手堅く良い仕事をした。

 

 

おお太陽神(ヘリオス)よ。わたしは、日輪に殉じてこちらへと来たる者。

留まることなき大気の風に乗り、絶えることなき炎を操る者よ。

汝は日輪を駆らしめ、水平線の果てへ潜る。

そうやって死者の国へ行き、また戻り来る、輝ける大旋回のあるじよ。

汝はわたし、わたしは汝。

光あるところにわたしはいる。

…―――ガラハッドはを使って移動した。

 

ガラハッドは、セドリックの家から見えている、ほとんどマグルたちの来ない丘―――ストーツヘッド・ヒルで真新しいセドリックの墓石をみつけだしたとき、しばし悄然として夏の風を浴びた。オリーブの冠を手に、昨夏、自分たちはこのすぐ近くを通ったと気づいたのだ。

雨風をしのぐ樹がないから、墓石にはもう文字が読み取れないものもあった。ディゴリー家の肖像画たちを思い出しつつ、ガラハッドは地面に両膝をついた。

 

杖を使わず、手で土を掘り起こす必要があったから、再会の頃にはちょうど日没が到来していた。夏なのだが、まだ極端に陽が長くなかった。ガラハッドは、掘り出した石棺のなかのセドリックをしばし見つめると、髪を梳いて勝利冠を被せてやった。

頬骨に手を添えて、少し頭を浮かせてやって…―――。

キン、と冷たい肌に触れてみると、悲しみが反響して胸に響くかのようだ。ごろんと割れた水晶玉が、脆い部分を露出して転がるかのような感じがした。

ガラハッドは“半分”をセドリックの喉仏に込めた。

嗚呼俺とこいつは、悲惨な死を遂げた者同士。その魂、“冠”、“杯”、“テント(遺体)”…思えば、このトライウィザードには最初から、死霊魔術(ネクロマンティア)の鍵となるものが揃っていた。

口吸い。それは反魂(口寄せ)の術法。

恋。それを孤悲(こひ)と書いた時代から、我々の血は変わらず赤いままなのだから、千年の時を超えたって、死霊魔術(ネクロマンティア)のやり方は変わらない。

 

作業が済むや否やガラハッドは、すっかり草臥れたことであるし、土だらけの筈の身体を冷たい草の上に投げた。こういうのは気分の問題であり、肉体のほうのことは、正直もうよくわからなかった。

残光が山際に消えていった。

それに先んじて、“あちらのほうの自分”は駅を目指して消えた。

ガラハッドは、こうなる(・・・)前にすっかりまた傷だらけに戻っていた手を透かして指をさして、地平線の向こうの空について話をした。

 

 

「 あのまっ黒な、松や楢の林を越えると、俄にがらんと空がひらけて、天の川が南北に亘っているだろう?あれは本当は、南十字星(サザンクロス)行きの鉄道になっていて、途中ではいくつかの星に降りられる。つりがね草やらか野菊やらの花が、そこらいちめんに、こうやって夢の中みたいに薫りだしたときに、ぼんやりと蛍を待っていたら、気づいたら銀河ステーションという寸法だ。どうだ?乗ってみたいと思わないか?俺たちG(ジョバンニ)C(カンパネルラ)だから、絆が深ければ絶対に行ける筈…―――せっかく重々帝網の宇宙にいて、此処に縛られているんじゃ勿体ない 」

 

 

セドリックは仰向けでクスクスと笑った。

 

 

「 くくっ、君は最高すぎるなあ? 」

 

 

セドリックは、ガラハッドは照れ隠しで喋りすぎていると思った。気づいたら、セドリックもまた草の上に寝っ転がっていて、彼は、「あ、これ死んだときと同じ格好だ」と気づいたところでもあった。

セドリック・ディゴリーはお手上げである。キスして死人を目覚めさせるなんて、僕の好きな人はあまりにも格好良すぎる!なんかもう、突き抜けたギャグとしか思えない伝説の男っぷりなのに、何やら色々と言い訳をして、恥じらっている様子なのは本当に可愛い…。

足があったら、震いついて足にでもキスしたい気持ちで、セドリックはガラハッドに笑いかけて言った。

 

 

「 行こう。乗ろう。いつか言っていた銀河鉄道だね?君をエスコートできるなんて光栄だ 」

 

「 ばーか。俺が、お前を、案内するんだっていま言っただろ 」

 

「 そっか。ふふふ、それもまた凄く嬉しいよ 」

 

 

ガラハッドはそれ以上言い返す気が失せた。

セドリックは、自分からもガラハッドにキスをしてみたかった。「死んだら大胆になるもんよね♡」と、ここにマートルがいたらニチャニチャと笑うことだろう。彼らを覗き魔から守るように、みるみると蛍が増えていった。

 

 

 

【fin】

 

 




■WEB小説あるある、BLはファンタジーww
■WEB小説あるある、神様転生(草。これくらいソースつけんと一部サラダって私には草)
■我が征くは星の大海。逆行ラインハルトにはキルヒアイスに千回死なれてほしいです。
□ポタ二次あるある。四巻編で(しばらく)更新が止まる。赴任先の事情により、五巻編の開始は当分先となります…三つ、その事情のヒントを書ておきたい気分です。

次章・五巻編『悠久の大義』のあらすじは~~~
「元日本兵が」←1アウト
「事件を隠蔽する政府に反感を抱き」←2アウト
「管理体制下に立ち上がる学生集団と(中略)六月に(以下略)」←3アウト!チェンジ!拘禁!
エタったら刺されたことですよわかりやすいね!ちくしょう言論の自由万歳~!那"銀英伝”电视剧被取消制作的国家真让人头疼!ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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