ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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藍よりも青くあれ

 

一週間後のことだった。最年少シーカーの話題がホグワーツを席巻し、大広間を沸きたたせていた。

 

 

ガラハッドは、一年生の九月に学校備品の箒と喧嘩したときから、金輪際クィディッチには興味がなかったが、そんなことはお構いなしのやつらがレイブンクローにはいる。

 

その筆頭格であるチョウ・チャンはその朝、遠目からでもわかったほど怒り心頭であった。そもそもが他寮内部の話で、すでに決まったことらしいからどうしようもないと思うのに、「あんなの贔屓よルール無視はおかしい!」「グリフィンドールだけおかしいわ!フリットウィック先生に申し立ててもらわなきゃ!」などなど彼女は朝食の席で皿やフォークが踊るほどテーブルを叩き、獅子舞のようにポニーテールを振り回した。ガラハッドは、つい先週の夜に校長から贔屓されてルールを破ったばかりの手前、寮監に泣きつきにいくにあたり、味方してほしそうなチョウからいくらきゃんきゃん吠えられても、「そうだなそうだよ」と同意することができず、配達されたばかりの日刊予言者新聞が気になるふりをして、そっと目をそらした。チョウは、念願かなって寮代表選手に選出され、そのうえシーカーにもなれたものの、去る一年間の我慢が相当こたえていたらしい。

 

「 おかしいじゃない?おかしいわよ。私は、ちゃんとルールを守ったのに! 」

 

はいはい鎮まれ鎮まれお転婆大明神。さっきからチョウ専用YESマンと化している周囲までもが、助けてくれとばかりに水を向けてきたので、ガラハッドは、それについて何か言わざるを得なくなった。

 

「 へー…あの子、箒乗るのそんなに上手いんだ?普通の男の子って感じだったけど。 」

 

「 えええガラハッド、知り合いなの!?普通の男の子って感じ~って、どういう意味? 」

 

「 君には敵わないっていう意味。 」

 

三面まで読み進めながらガラハッドは言った。はいこれで一件終了!雑談終了!そのように念じるガラハッドの目論見を、毎度ことごとくへし折ってくるのが同室生のロジャーだ。

 

 

「 マジマジ?ガラハッド、あのハリー・ポッターと知り合い?一体いつの間に? 」

 

「 誰だって杖は買うだろ? 」

 

嘘をついたわけではないが、真実を言ったわけでもない。「たしかにな」と勝手に納得されて、この話題は終わった。

 

ところが次なる話題は…。

 

「 ひととおり新入生に会っているわけだな? 」

 

まさかのロイから飛び込んできた。日頃関わっていない四年生だが、話さない仲ではない。ばさりと新聞をめくりながら、「なんで誰も俺を放っておいてくれないんだ…」とガラハッドは、こらえきれなくなった溜め息をもらした。俺は今、ひとりの世界をつくってゆっくりと考えたいことがあるのに!そんなガラハッドにロイは言った。

 

 

「 可愛い子いたか? 」

 

「 ワーォがっつくぅ! 」

 

「 ヒュー! 」

 

「 流石ですね先輩…! 」

 

「 僕くらいになるとなロイ、新入生はみんな可愛いんだ。 」

 

真面目くさった顔でガラハッドは言った。そばで聞いていたマーカスが、食べているものを噴き出しそうになって、頑張ってこらえてゲホゲホと噎せた。驚き固まっているロイに向けて、説き伏せる口ぶりでガラハッドは続けた。

 

 

「 先輩も可愛いですよ? 」

 

二年生でもガラハッドは変人と呼ばれた。

 

 

 

 

 

鏡のなかの世界について図書室で調べると、ただの鏡でもいろいろな使い方ができそうで興味深かった。

 

湖では産卵期の大イカが、警戒色に染まって膨れ上がって水鳥たちとつかみあうころ。

はたからみてレイブンクローの傑物ガラハッド・オリバンダーの奇行は、日に日に華麗に冴え渡っていった。

“ガラハッド卿伝説”とそれらは名づけられ、ホグワーツでおおいに噂となった。

 

 

「 みがかよみがか 」

 

 

たとえばトイレの手洗い場で、ちょっと思いついたみたいな顔でハンカチで手を拭きながら急に――――というハナシ。

そのとき隣で手を洗っていたリー・ジョーダンは、いきなり独り言を聞いて、ぎょっとしてしまった。「うわっやばい奴いた」とディーン・トーマスは、一度開きかけた個室のドアを再び静かに閉めた。

 

ディーン・トーマスは思ったのだ。

うわっあの子あれだよあれ、ブルーマフィアのドンで、噂のドラスティックブルー。可愛い顔してゴーストをもボコる、オリバンダー杖店の人の曾孫。

 

 

ディーンが鍵をかけ直さずに聞き耳を立てていると、噂の人物は想像よりも頭がどうかしていた。

 

 

「 みがかよみがか、れだはのたっかしげはがせぐねんばちいさけ 」

 

 

( 怖っえええ!誰と喋ってんのあいつ!? )

 

 

「 あっはっは!なかなか芸術的 」

 

一体何が!?

 

とはいえ、勇気を出したディーンがおそるおそる個室のドアと壁の隙間から外を覗きこんだとき、もうガラハッド・オリバンダーは、トイレの中にはいなかったのだ。のちにディーン・トーマスは語った。「ビビって無駄に便所の壁触っちゃったんだ」とオチをつけて。グリフィンドールの談話室で、この体験談は大ウケした。

 

 

 

また、こんなこともあった。

 

 

 

「 ねえ今日の僕をどう思う? 」

 

 

ある朝、いつものように二年生の男子塔から出てきたガラハッドは、自分を親指でさし示して、ちょっと得意気な目つきで言った。その瞬間、レイブンクローの談話室には衝撃が走った。真空のような静寂に包まれ、居合わせた者たちは顔を見合わせた。

 

“――――もしかして、ついに気づいちゃった!?”

 

自分が美少年であることに。

 

ガラハッドは、レイブンクロー内では「持って生まれた容姿のポテンシャルを、全力で台無しにしていく子」としてちょっと有名だった。だって毎朝ヒキガエルみたいな声で呪文を唱えるし、「面倒がないだろ」と言って時々丸刈りにしようとする。

 

ところが彼は、その朝急にいつもよりもいやにたっぷりと時間をかけて整髪しだしたと思ったら、よりによって灰色のレディに、自分の容姿についてどう思うか何度も訊ねかけたのである。朝食の時間に大広間でパドマ・パチルは、「あの人、ゴーストを口説いてた!」と他寮にいる妹に息巻いて報告した。またたくまに噂は広がった。

 

 

「 あのぅ…さっきのは何だったの? 」

 

レイブンクローの長テーブルでは、おそるおそるシーカー・チョウが斬り込み隊長を務めさせられ、元締めの先輩たちがそれを見守っていた。ガラハッドはいつもどおり(?)だが、そのまなざしは何やら切なく、あてもなくテーブルの上をさまよっていて、腕組みのまま頑として動かない。食欲もないなんて…とマリエッタは、聞くまでもなくすべてを察した――――つもりだった。

 

 

「 さっきのって? 」

 

「 ほら、さっきいきなり灰色のレディに、自分の顔をどう思うかすごく念入りに聞き込んでたじゃない…恋、しちゃった? 」

 

「 ゴーストを相手に?まさかあ。 」

 

「 違うの?それじゃあ一体… 」

 

「 ねえチョウ本気で言ってる?まったく気づかないの?頭が錆びついてるよ。僕のこともっとじっくり見てみろ。何から何まで違うから。 」

 

 

そう言ってガラハッドはひらひらと左手を振った。黙り込んだ女子たちに代わって、ロジャーがつっけんどんに指をさして指摘した。

 

「 お前、なんかかっこつけてるけどな。そのネクタイ、部屋出たときからずっと逆だぞ。 」

 

「 そうね、それは私も気になって――――…ん、逆? 」

 

 

マリエッタは、途中で言い淀んでガラハッドの髪型をまじまじと見つめた。

 

「 ―――あっ 」

 

はじかれたように後ろに飛び下がった。勢いよく椅子ごと動きすぎて、極力近くに寄ってレイブンクロー席を偵察していたスリザリンの子と背中でぶつかり、いやな音がした。

 

 

「 ガラハッドの制服、左右が反転してるわ! 」

 

「 ええ!? 」

 

 

「ああ」とか「たしかに」とか、外野たちによる勝手などよめき声が大広間に広まった。何人かの生徒なんか、わざわざ立ち上がってガラハッドのことをよく見るために行った。

 

なんだこいつらと思ってガラハッドは、フクロウから受け取ったばかりの新聞をばさばさやった。「服だけじゃないの!」と両手で頬を押さえて、まるで助けを求めるようにマリエッタは叫んだ。

 

 

「 全部、全部、全部左右逆になってる!嘘でしょ!?あなた誰?いつものガラハッドはどこ! 」

 

「 騒がしいなあ。別に誰にも迷惑かけてないんだから、少しのイメチェンくらい僕の勝手だろ?それに、惜しい。たしかに君の視点では鏡映反転は左右だが、僕の視点では左右反転じゃなくて前後反転なんだ。つまりさ…。 」

 

 

いきいきとしてガラハッドは語った。

 

 

「 今の状態って文字通り、“後ろの正面だ~あれ”なんだ!凄くない?実のところさっきから、僕は君たちにずっと背中を向けてる。――――よおマクラーゲン、見てるの気づいてるぞ!そんなに俺のこと好き!? 」

 

「 うわあああああッ 」

 

「 逆向きで食事をする方法ってあると思うか? 」

 

 

大真面目にガラハッドは言った。実際、さっきからド真剣に、ガラハッドはそれを考えていて腕組みをしていたのだ。

 

「 馬鹿なの?こうすればいいでしょ。 」

 

間髪入れずにマーカスが言った。彼がパンをつかんで正面(マーカスからは後頭部に見える)に差し出してくれたので、ガラハッドは有難くむしゃむしゃとそれに齧りついた。直接齧りつかずに手に持って受け取ろうとすると、パンはぼとりと床に落ちていった。「そうなるか…」とガラハッドは、そのときはしみじみとぼやいた。

 

他の寮とちがってレイブンクローには、占いの精度を確かめるため、談話室で延々と生卵を割り続ける生徒とかが、まあふつうにいて、彼らもそれなりに受け入れられている。

 

このへんてこな食事方法も、「興味深い実験だ」というのがレイブンクロー生たちの総意で、だんだんガラハッドのいる一郭は、熱い議論の現場となっていった―――――論題は、いかにせばスープを飲みうるかだ。

一時間目の始まりが近づいてくるころ、気がつくと周囲には野次馬が群がっていた。ガラハッドは、これについては仕方ないとわかりながらも、「珍獣の餌やりじゃないんだが?」と思えて愉快ではなかった。

 

ぱちんと指を鳴らして、元通りの動きをすることにした。

 

改めてぐるりと辺りを見回したとき、意外だったのはそのなかにセドリックが混じっていたことだ。彼は、めずらしく自寮の長テーブルから離れて、レイブンクローのテーブルを囲みにきていた。目の焦点があうようになったガラハッドに、セドリックは恥ずかしそうに詫びた。

 

 

「 ごめん、なんか楽しそうだったから。気になって見に来ちゃった。 」

 

「 はあ。 」

 

はて返答に困った。

失語しつつガラハッドは思った。――――セドリック・ディゴリーって、“まとも”すぎてここいらではちょっと変わっている。

 

普通の人間は黙ってじろじろと見て、見るだけ見て黙ってどこかへ行く。自分が失礼な人だなんてついぞ思わずに。

 

 

それが、この世界の人々の習性なのである。

 

 

 

美しく生まれたことの弊害を、文化の差なんだと勘違いして。

 

ガラハッドは平気で生きてきたが、セドリックはそうはいかない。

 

 

傷つきながら生きてきた少年を、ガラハッドは「この世界の子じゃないみたいだ」と思った。

 

 




入学式の日に名乗らなかった、二級上の子が出てきました。
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