ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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遭遇

 

誰を信じたらいいんだろうな?近頃は、よくそう思うのだ。

 

ギャリック?

 

アラベール?

 

あの二人もそういえば、この自分に対してまったく母親の話をしないという点で、子供の監護者にしては奇妙な人々だと思う。マートルの発言から裏がとれて以来、ガラハッドの意識の片隅には、常にグレイス・オリバンダーのことがあった―――――ハリーから聞いたことは真実ならば看過できないし、ハグリッド氏の証言とやらが、正直ずっと気になっているのだ。けれど誰でも実際に会って話をしたならば、たとえ嘘であっても表面上、相手を信頼しているふりをしないといけない。だから面倒だ。あの大男とダンブルドアが深く結びついているのは、ふと談話室から外を見下ろしたときなどにわかっていた。鷲としての眼力を使えば、塔のすぐ下から禁じられた森の外側まで、校庭のなかに見えないものなんてないから。ガラハッドは知っている――――ハグリッドが、森番用の小屋によくダンブルドアを招いているのを。それだけで、ガラハッドはあのハグリッドとやらに関わりたくはない。真相を確かめないでいるうちに、西陽で森が赤く見える季節がやってきていた。

 

「 嘆かわしい状況である。諸君らのなかに、偽ベアゾール石についての歴史を知るものはいるまい?真贋についての判断を行うために、ただ特徴を丸暗記しておけばよいと考える者は愚かだ。この物質はかつて… 」

 

「 ―――… 」

 

 

ネチネチとスネイプが喋っている。

 

半ば聞き流しかけていたが、ああこれはメモをしておいたほうがいいやつだな。授業中であってもガラハッドは心ここにあらずだが、こういうのに関しては手際が良かった。ガラハッドが羽ペンを動かし始めると、大急ぎでチョウがそれを真似した。それがまた伝播して慌ただしくなった青ネクタイどもを満足げに見下ろし、とことんぼんやりしている黄色組をスネイプはどやした。ハッフルパフ生たちはすくみあがっていた。ガラハッドは、早々に必要なメモ書きを終えて説教するスネイプを脇目に眺めた。ハリーによれば、このスネイプという男こそが俺の命を狙っているというが、実際どうなのだろうか…。

 

ガラハッドは、この教師のことはこのホグワーツではまともな部類だと、口ぶりの鬱陶しさはともかく思っている。

 

どうも師範免状というものがないらしいこの世界では、教師のなかに小心軟弱の徒が紛れ込んでおり、なぜか普通に教鞭をとっていて…おかしいだろ、と、かねてからガラハッドは思っているのだ。その点スネイプは硬派だ。終業の鐘が鳴るや否や、前に座っていたロジャーが勢いよくこちらを振り返った。

 

「 次は何の時間だっけ~!? 」

 

ニヤニヤとロジャーは言った。

 

そんな彼のことを、濡れた臭い犬でも見るみたいな目でスネイプは睨み下ろした。

 

ガラハッドは微苦笑して手帳を取り出すと、罫線を書き足して人数分のあみだくじを作りにかかった。「ああやっと授業が終わった!」という感じで、逃げるようにしてハッフルパフ生は移動していくが、レイブンクロー生たちのほうはどんどんロジャーの仕切りにのってきて、ガラハッドの周りへと集まってきた。ちまちまと机で作業しながら、周囲をずらりと同級生に囲まれて、こいつら壁になるなあ…と、不意にスネイプのほうから光線が飛んでくる想像をしてガラハッドは思った。自分ひとりだけが座って作業しているから、手元が暗かった。

 

 

「 “ニンニク”でしょ。さあ、来たわよ運命の時間が! 」

 

腕まくりをしてチョウが言った。

 

はてさて実のところレイブンクローではこのとおり、“闇の魔術に対する防衛術”の授業前に毎回、本気のくじ引き大会が行われている。席順を決めるためである。なぜかというと、“例の授業”の教授は大変臭いので、誰も教授に近づきたがらず…しかしそこは優等生で鳴らすレイブンクロー軍団なので、表面上一切嫌な顔をせず、陰で熾烈な押し付け合いをしているというわけ。

 

そんな事情が透けて見えていて、「さあ誰から選ぶ?」「じゃーんけん!」なんて遣り取りが地下教室で交わされることに、厳格なスネイプ先生は今日もキレそうであった。けれども今は休み時間であるし、「生徒は終業後30秒以内に立ち去れ」なんて校則は、このホグワーツには存在しないし…。苦虫を噛み潰すスネイプの目前で、レイブンクローっ子は今日も楽しく籤大会に興じた。その日はガラハッドが運悪く、“最前列の刑”を引きあててしまった。

 

「 よっっっし! 」

 

「 あ~ぁ 」

 

マーカスに肩ぽんされながら地下教室を出る。あと20秒たむろすれば、スネイプが黙ってはいないだろう。

 

憎たらしいが適切にノートをとり、点数をとり、ちゃんと「ありがとうございました~」と口々に言ってから地下教室を去るレイブンクロー二年生たちを、唇を噛みすぎて青紫色にしながらセブルス・スネイプは見送った。

 

 

 

さて、防衛術の教室にて。短かった休み時間が終わり、残酷にも時計の針が「始業」へと近づくころ。

 

キィキィうるさいピクシーの鳴き声が、四階左側の廊下に響き渡っていた。

 

いよいよやってくるであろう紫ターバンの教授に、より入口に近いほう―――――教壇から縦に教室を分けたとき廊下側半分に座っているレイブンクローの生徒は、それぞれ口と鼻を抑えて、必死で息を殺していた。狡知に長けるスリザリン生たちは、ちゃっかり窓側の風上に集まって腰かけていたが、そんな小細工なんか、クィリナス・クィレル教授の前には無力であった。

 

鐘が鳴ると同時に教授は入室してきた。まさに「いよいよ」という感じで、彼がこの場所へと近づいてきていることは、ピクシーたちの悲鳴以前に、漂ってくる悪臭でわかっていた。

 

不健康そうな顔色で頭を揺らしながら、クィレルはピクシー入りの鳥かごを教卓に置いた。そうして今日もまた情けない裏声みたいな声で、自信なさそうにクィレル先生は授業を始めた。

 

「 み、み、み、みなさん、ごきげんよう。 」

 

怯えたように目が彷徨っている。なんでこんな奴が教師なんだ――――と、ガラハッドは本日も思われて仕方なかった。

 

「 今日は、、、、ああ…!ああ、あああ、あああお許しください!お許しくださいぃぃぃい! 」

 

「 先生落ち着いて! 」

 

勇敢にもマリエッタが立って呼吸をした。

 

「 今日は…う゛っ!き、今日は、ピクシーを退治する実技ですよね?私たち準備し…て、う、うおぇぇええええ!! 」

 

「 マリエッタ!?…ぐはッ 」

 

背後でマーカスが自滅していった。ガラハッドは臭いで目がしぱしぱしてきて、指で目頭を抑えた―――――実は、臭いのほうは魔法で鼻を麻痺させているので平気だ。だがまさか、最前列で教授を迎えると、この匂いは目がしみるほどのものであったとは…。悔しさからガラハッドが

 

「 ぬかった…これじゃ耳無し芳一だよ。 」

 

と首を振りながらしみじみぼやいていると、「抑えてるのは目だよね?」とつっこんで普通に息をしてしまい、スリザリンのアナンが自滅していった。

 

「 うぇぇえっほ!げっほ! 」

 

これであらかた馬鹿は殲滅された。残りの生徒は、おとなしく息を殺していた。

 

「 オッ、オッオッオッ…オリバンダー! 」

 

へんてこな抑揚でクィレル先生は言った。

教師からの指名を受け慣れているガラハッドは、てっきり実習の助手に任命されたかと思った。

 

 

「 何を、、、、な、な、何を、何を持っている!? 」

 

「 え、何をって? 」

 

何をというならば杖を持っている。今日に限っては防衛術が実技だから、いつもの“杖型賢者の石”ではなく、“本物の杖”のほうを持っている。持っていることを咎められるようなものではないはずだが、問題はいつもとは違うと気づかれてしまったことだ。今日の杖はいつもと違うということは、ではいつもの杖は何なのだという話なので。

 

「 し、、、、し、し、死の!死の気配がします! 」

 

「 ああそれは 」

 

動揺してガラハッドは腰を浮かせた。

 

「 先生、僕の杖は芯材にセストラルの毛を使ってあるからだと思います。こいつ今日、やる気満々で!いつもはぼんやりしてるんですが、今日はピクシーを倒すのに、張り切っちゃって。 」

 

ガラハッドは杖を取り出して立てて見せてやった。名工ギャリックが「会心の出来」と公言していることにより、この杖を眺めたがる人物は時々いる。

 

「 ―――…っ 」

 

「 先生――――先生? 」

 

クィレルは白目をむいて気絶していた。

どさりと彼は倒れてしまった。倒れたはずみで紫のターバンが緩まり、ころころとニンニクが床を転がった。

 

「 え…? 」

 

ガラハッドは目を点にしてしまった。これにて悪臭は足元のほうへと流れて、普通に座ったり立ったりしている者にとっては万々歳である。とはいえ喜んでいいことではないし、ぽかんと呆気にとられたのは、ガラハッドだけではなかった。あまりのことに全員、総立ちになった。元々顔色の悪い先生であったが、授業中に倒れるのは初めてなのだ。(ちなみに、全員、大広間で彼が気絶する姿ならば見たことがある。彼はトロールを見るだけでちびっちゃうのだ。)

 

「 噓でしょ!? 」

 

あんぐりと口を開けてチョウが言った。

 

「 ピクシーじゃなくて、教授を倒しちゃった!ガラハッド卿伝説ここに極まれり… 」

 

「 この授業どうなるの? 」

 

マリエッタのご指摘はもっともだ。

「本当それ」とロジャーが、珍しく委員長様の肩を持った。

 

「 私たち、結局今年一回も実技ができないっていうことじゃない。もう学期末なのに! 」

 

「 とりあえずピクシー退治しないか? 」

 

そう言い出したのはロジャーではなかった。ガラハッドはこれにはびっくりして、首だけで振り返ってスリザリン席のほうを見た。

ある背の高い男子が言い出した。

 

「 そこに捕まえてあるんだから、放して、やっちゃおう。先生には後で僕たちやりきりましたって報告する。 」

 

「 全員“O”とれるわよ。 」

 

スリザリン組は全員やる気だ。「せこい奴らめ!」とここにグリフィンドール生たちがいたら言い、「そんなのよくないよ」と、ここにハッフルパフ生たちがいたら必ず囁くだろうが…。「全員“O”とれる」という誘惑に、レイブンクロー生たちはそわそわと顔を見合わせ始めた。そんな身内たちにガラハッドは呆れた。

 

「 “O”くらい正当にとれ。 」

 

「 うっざ。はいはい流石ねオリバンダー。 」

 

スリザリンのクインゼルが言った。元がブロンドで、毎度ツインテールの先を左右で色の違う色に染めているが、今日のところはピンクと水色だ。

 

「 ねえ、危ないんじゃない? 」

 

レイブンクローからジルが言い出した。臆病者を見る目で、ロジャーが鼻で嗤った。

 

「 大丈夫だろ。俺たち、合計十時間もピクシーについての講義を聞かされたんだぞ? 」

 

怖気づいていた子らは、うんざり気味のロジャーの一言で納得してしまった。キンキン声でクインゼルが言った。

 

「 いざとなったらオリバンダーが何とかするわよねええ? 」

 

「 おい、勝手に決めるな。 」

 

「 元はといえばあんたが先生を倒しちゃったのがいけないんじゃない!大丈夫、みんな“O”とれたら、私たちあんたのやったこと黙っといてあげるわ。 」

 

「 えー…。 」

 

ハハハそれどころじゃないんだよね俺はと、このときガラハッドは手汗を感じつつ杖を握りこんでいた。

 

( …さすがに人前で教授に忘却術はまずいか? )

 

この瞬間の腹黒さならばナンバーワンの男。ガラハッドは、心配しているそぶりで、のびているクィレルへから一度も目を離さなかった。そもそも充分に、効くのかな、こいつに―――――クソ臆病で軟弱でノロマだが、それなのに教授に選ばれているだけあって、こいつの感知の魔術は一流である。ガラハッドはクィレルの実力のほどについて、完全に見誤っていたと感じて、ひそかに動悸を速めていた。

 

( …こいつらのこともある。 )

 

ガラハッドは最前列の位置から、わずかに斜めに身を引いて、教室内に70人ほどいる子供たちの会話に耳を傾けた。

 

灰色のレディの噂のことでよくわかっている。こいつらは、か~な~り口が軽い!教授に忘却術をかけるなら、こいつら全員にも忘却術をかけないと。でも、この人数に一斉は難しい。せめて誰一人こちらを向かず、何かに集中している状態じゃないといけない。ガラハッドは焦っていた。今日だけ本物の石はネクタイに変えて巻いている。すっかり油断したが、こんなに強い魔力を持ったネクタイなんて見る人が見ればおかしいので、今すぐ部屋に戻って作戦を練り直したい気持ちだ…。

 

「 じゃあ僕は、安全を図るために後ろで全体を見ておこうかな? 」

 

ニヤッとクインゼルに笑いかけて、ガラハッドは小さく杖を振った。

 

浮遊呪文を駆使して、ふわりと全員の頭上を飛び越えてやった。鷲のアニメーガスになって飛行の感覚を身に着けて以来、こういう軽業はガラハッドの得意とするところだった。さあみんな、ピクシーに夢中になってはやく俺に背中を見せろ!そう念じたときだった。

 

『 逃さんぞガラハッド・オリバンダー 』

 

岩が岩をこするような声が、突如として響いて肌をゾクゾクさせた。

 

「 え――――? 」

 

それからは一瞬だった。通常ありえない角度で、クィリナス・クィレルの肘が曲がった。

いきなり放たれた光線は緑。何の破裂音も衝撃もないから、ガラハッドはぽかんとして眺めてしまった。

 

「 ハーリーン! 」

 

誰かがクインゼルを呼んだ。

考えるよりも先に身体が動いて、ガラハッドは机と椅子の陰に飛び込んだ。さっきまでガラハッドのいたところを越えて、光線は壁に当たっていった。またしても緑色だ。今のは何の魔法だ?

 

 

『 ずっと持っていたのか 』

 

クィレルの動きは速かった。

 

マリエッタはそれをまざまざと見た。白目を向いていて痙攣しているのに、手足だけは狂ったタランチュラのようだ。めきめきと骨を折りながら彼は立ちあがった。前後が反転して、奇形的な動きで後ろ向きに進んでいった。はらはらとターバンをほどき落としながら…“その存在”は、遮蔽物を迂回してガラハッドを狙おうとした。

 

 

「 ガラハッド!逃げて――――! 」

 

「 モビリアーブス 机よ阻め! 」

 

あの杖はもうオリバンダー家にあったときのそれではない。「杖よ戻れ」の呼びかけは、クィレルの杖に対しては効きそうになかった。地すべりのように雪崩れて動いて、木の机たちが“化け物”をなぎ倒し、圧し掛かってガタガタいった。

 

 

「 キャー!? 」

 

「 モビリアーブス… 」

 

「樹よ」といくら呼びかけても、やっぱり杖はこちらよりも“あちら”を選ぶ。

まったく敵意のゆるまない気配に、ガラハッドは突き放されたような衝撃に震えた。斯くなるうえは頼れるものは、ガラハッドにはこれしかなかった。

 

 

「 オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン 」

 

震える唇で光明真言を紡いだ。突然ド派手に動いた机と椅子に、みんな仰天しているのに一人だけ動かない子がいた―――――クインゼルだ。ガラハッドは、その丸まった背中を見た瞬間、緑の光線の正体がわかってしまった気がした。

 

 

「 ナウボウ! バギャバディウシュニシャヤ オン ロロ ソボロ!帰命したてまつる!世尊、仏頂に。破砕したまえ、破砕したまえ! 」

  

机の山の底から唸り声がした。黒い煙が出て、人の焼ける臭いがした―――――特徴的な脂だ。

 

「 みんな逃げろ!助けが来るまで逃げろ!走れ!! 」

 

我先に子供らは出口へと殺到した。

 

 

 

 

 

 

自分が「逃げろ」と言い出したものの、ガラハッドはこれでいいのかわからなかった。この少年はまだ幼くて、戦い方も身の守り方も知らなかった。“武装解除呪文”を知らないでいたのは、杖を武器とみなす発想それ自体がなかったから。樹を愛で杖をつくる家に育って、誰が日々遊んだ杖たちを、凶器だとみなすことだろう。

 

( 逃げるって?どこへ?どこが安全かなんかわからないのに!? )

 

 

そんな不安は子供たちこそ抱いているはずだ。角に至るたびに背を突き飛ばして、ガラハッドはもたつく同級生たちを遮蔽物の陰に隠した。絶え間なく間取りが変わる城の構造に翻弄されて、パニック状態の生徒たちは涙でろくに走れなかった。

 

 

( ―――かたまっていると危険か? )

 

だが三々五々になるには“班長”の務まる奴がいない。中央塔四階のホグワーツは、まるで予期せず空襲が始まったみたいな騒ぎだった。避難する子供たちは動く階段のところで渋滞し、恐怖でじっとしていられず、折り返してこちらに向けて走ってこようとした。

 

 

「 オッフェロ 戻れ! 」

 

習っている呪文を失敗するガラハッドではない。はじき飛ばされたマリエッタは、床に尻もちをついてわんわん泣き出した。

 

「 どうして! 」

 

 

( ――――奴の狙いは俺だ。違う。別に、見捨てるわけじゃない。 )

 

来た道に目を走らせてガラハッドは思った。しっかりしろ自分。ここでは自分が最先任だ。うろうろとするばかりの子供たちに、首だけで振り返って指示を放った。

 

「 人の多いところへ行け!大広間だ!飛び降りろ!浮遊呪文を使え! 」

 

「 無理こわい! 」

 

「 やるしかないんだよ!! 」

 

「 アクシ…ううん、ソノーラス 響け! 」

 

びゅんっと一人の子が大きく杖を振った。「アクシオ」で箒を呼ばなかったのは、それでは友達を見捨てるからだ。

 

「 誰か~~~!誰か助けて!四階左側のエリアで、クィレル先生が暴れてるううう!! 」

 

「 ナイスだ、チョウ! 」

 

迫撃砲みたいな大声は、あらゆるものをびりびりと震わせた。

ガラハッドは却って奥へと走り出した。マリエッタのことは止めたが、自分は教室のほうに近づくつもりでいる。

 

どこでもいいから、逃げてあぐねている子供たちからは離れないと!

 

仄暗い城の奥では、ままならぬクィレルの肉体を御さんとして、何かが蠢いて咆哮をあげていた。何かが――――それはかつての自分と同じ、“死者” だということが直感的にわかる何かだった。きっと、俺の産声もあんなのだったとガラハッドは嗤った。だがあの肉体はクィレルのものだから、新生児の身体よりもやっこさんは今大変なこったろう。

 

背後をとって姿を確かめると、かの奇妙な化け物は、転びながら呻きながら腱の伸びた手足を振り回して、石づくりの廊下を歩行している。隠しきれぬ“死”の気配よ。ならば逃げ込む場所は一つだ。丁字路の中心から、高笑いしてガラハッドは去った。ぐるんと首を反転させて“あいつ”は追ってくるけれど、角を曲がらない限りこちらを狙えない。

 

すぐそこのトイレにとびこんで、がり、と指の関節の裏に歯を立てた。本性を顕して肉を喰い捨てれば、血の味が興奮を誘うばかりだ。

 

「 かがみよかがみ 」

 

 

血で鏡に種字を書けば、たちまち目のくらむ閃光がこの身を焼いていく―――――地蔵菩薩発心因縁十王経が今、この鏡を照魔鏡に変える。

 

経を解くに冥府の関は“樹門”という。

 

鳥が棲みつかさどって、亡者へと歌をうたう。

 

「 汝人間ニ在リテ罪業ヲ恐レズ 我レ悪心ヲ懲ラサン為ニ飲マズ脳ヲ啜ラン 」

 

「 汝人間ニ在リテ罪業ヲ恐レズ 我レ悪心ヲ懲ラサン為ニ喰ワズ眼ヲ抜カン 」

 

歌われて誘われて、そうして哀れなるかな、そこに至るまでに十分苦しみながら、亡者は閻魔大王の御前で、むざむざと鏡に惹かれ寄りついてしまうのだ。寄りついてこい―――と少年は、忽然と姿を消すときに嗤った。

 

 




ハーリーン・クインゼルは生きていればいずれ精神科医になったであろう子。犯罪者である父を理解しようとして、父を愛そうとしてその道に進んだけど、な~んか世の中博士号より、釘バットのほうが便利な感じだよね☆そんなスーパーヴィランのハーレイ・クインちゃんにご登場いただきました。めちゃめちゃ可愛いです。
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