ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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【1巻までの登場人物】

■ニコラス・フラメル
即身成仏する。

■ギャリック・オリバンダ―
おそらく作中でフラメルの次に高齢。

■アルバス・ダンブルドア
こう見えて錬金術師。

■アラベール・ノアイユ
ニューヨークゆかりのオリーブ杖遣い。

■ガラハッド・オリバンダ―
広島ゆかりのオリーブ杖遣い。
ようやく目が醒めたようだ。


2巻:秘密に捧ぐ冒険
ハロー!グレンジャー家


 

ある日のこと、ガラハッド・オリバンダーは素晴らしい天気に誘われて、うろうろと近所を歩きまわり夏らしさを楽しんでいた。黄熟した八月の太陽が、じりじり染み入れば大地も湧き上がるというもの。板金のように石畳は照り輝き、脛を焦がすような熱を発していた。その日はいわゆる猛暑日だったので、ガラハッドのような変人はともかく、多くの魔法使いは強すぎる陽射しに疲れており、ダイアゴン横丁の人通りはまばらだった。

 

「 元気だねえ。 」

 

営業中のフローリアン・フォーテスキューが、ガラハッドのことを陽気に呼び止めた。

 

「 新作の味見はどうだい?おかげさまで、この夏好評なんだ。 」

 

「 いいね。一つ頂戴。 」

 

近づいてみるとわかったが、今日のダイアゴン横丁がいつもより静かなのは、客足がフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリームパーラー店に集中しているからだ。フローリアンの店は、奥からテラスまで満席だった。いつもどおりテイクアウトも盛況で、次々にアイスクリームを売り上げる隙間にも、彼には今すぐ喋りたくてならない話があるらしい。

チョコミントアイスを舐めながらガラハッドは、店頭に立ってそれを聞いた。

それは、素敵な報せだった。

おしゃべりな店主曰く、昨晩彼には親友のチャールズ・ウィーズリーから、面白い手紙が届いたというのだ。

 

「 へえ、面白いって? 」

 

「 それがね、写真!見てよ。ああそうだ、君は知らないんだっけな。 」

 

 

なんとチャーリーは昨年のうちに、ルーマニアにあるドラゴン保護区へと移住していた。

全然知らなかったガラハッドは、「えーっ」と叫んで目を丸くしながら写真を受け取った。

ルーマニアってどんなところか、正直全然イメージが湧かないので、風景写真を期待したが、生憎撮影場所は室内だった。写真のなかで、ますます日焼けして筋肉をつけたように見えるチャーリーは、にこにこと嬉しそうに両手で卵を抱えている。ラグビーボールぐらいの大きさのそれは、内側から鋭くつつかれて、どんどんヒビが入り形が変わっていく。途中で気づいてしまったのだが、どうもチャーリーは自分が元気であることを伝えたいのではなく、カメラの向こうの人物に、この貴重なドラゴンの孵化を見せてあげたいらしい。「この世にこれほど素晴らしいものはない」みたいな笑顔で、フローリアンは幸運をシェアされたわけだ。あまりにもチャーリーらしさの詰まった一枚に、店頭で二人は大笑いした。

 

 

「 ふっっ、は、チャーリー!変わってないな。あははは! 」

 

「 でしょう?爆笑モノだよねこれ!絶対トンクスも、これには腹筋やられてる。 」

 

「 景色の写真はないの? 」

 

「 それが一枚も、ないんだ。見事にドラゴン、ドラゴン、ドラゴンさ。彼いわくルーマニアは、良いところらしいけど 」

 

「 いいなあ。僕もどこか、旅行にいきたいなあってこの頃思うんだよね 」

 

きっかけは至極単純だ。先日ロジャーとマーカスも、それぞれの旅先からの写真を添えて、すごく楽しそうな手紙を送ってきたから・・・。

いいよなあ、旅行に連れていってもらえる家って!

うちは店があるから・・・とガラハッドがぼやくと、

 

「 その点僕はアイスクリーム屋だから、本気出すと屋台で移動できるんだよ~ 」

 

 

とのたまうフローリアン。

売り上げもジョークも、本日の彼は絶好調だった。

 

ガラハッドがくすくす笑っていたそのとき、近くから悲鳴が聞こえた。男の声だった。

 

「 ―――!? 」

 

 

ふたりとも、ただちに西の方向を見た。音源は、三軒向こうにある“漏れ鍋”だった。

「行って」とフローリアンは、自分の店の客たちを気にしながら言った。

 

 

「 見てきて、ガラハッド 」

 

 

合点承知。

ハンドサインでそう答えて、ガラハッドは“漏れ鍋”へと向かっていった。

 

 

 

今に始まったことではないが、ダイアゴン横丁の建物というのは、通りに対して直角に向き合っていないし、全然真っすぐには並んでいない。通り自体が斜めだから、アイスクリームを食べていたときから、ガラハッドには”漏れ鍋”の入り口や中のようすが見えていた。

店内では、昼間っから飲んでいた客たちが、今は総立ちになって何かを囲んでいた。

 

一体、何の騒ぎだろうか?

今日は休店のポタージュ鍋屋のおやじも、心配で見に来たらしいが、入り口でおろおろするばかり。

 

ガラハッドは、元々の客と野次馬とでいっそうぎゅうぎゅうになった店内に、子供の体格を生かしてよいしょと分け入ることができた。手刀で隙間に捻じ入っていき、気分はうさぎ穴にもぐる短足の猟犬である。パブの奥のほうでは、亭主のトムがカウンターから出てきて、誰かに声をかけていた。

 

「 落ち着いて。二階におあがりください 」

 

「 二階には何があるんだ!? 」

 

「 ただの部屋ですよ 」

 

トムの声色は穏やかだ。

彼はこちらに背を向けて、悪戯っぽく肩を竦めていた。けれども、”事”に備えて杖を取り出していた。

その向こうではポロシャツを着て立派なカメラを斜めにかけた男性が、背中を壁にはりつけて震えている…。

その腕に縋る真っ青な顔の女性も、いかにも服装が”ここいらの者”ではない。何と呼ぶ装いなのかわからないが――――「マグルだ」と、ガラハッドには一目でわかった。

 

もうひとつ、驚くべき事実があった。

こうして硬直している大人たちの隣には、見覚えのある少女がいたのだ。

 

「 あ、君は… 」

 

ハーマイオニー・グレンジャー。

 

あちこちに向かう栗色の髪に、可愛らしい目鼻立ち、それをぶちこわす存在感のある出っ歯。

今日はデニムのキュロットを履いており、制服姿でないのが目に新しい。

彼女は威嚇するリスのように口を開けており、「大変なことになった」と表情で語っている。

 

「 ガラハッド! 」

 

 

彼女は叫んだ。年の近い知り合いの登場に、救われた心地なのかもしれなかった。

 

「 この子は魔女なのか? 」

 

常連のブランがわめいた。「馬鹿なのか?」と正直ガラハッドは思った。

ひとりでも魔女が混じっていなかったら、一家は此処に入ってこれないはずじゃないか。

するとトムが振り返って、にっこりとこちらに笑った。

 

「 やあ、ガラ。今来たね? 」

 

「 ええ。ずいぶんにぎやかだから、気になっちゃって 」

 

「 失敬、お客さん。この子は、近所の子なんですよ。オリバンダー杖店の子でね―――――遊ぶ約束でもしていたのでしょう。子供のしたことではありませんか。さあ皆さん、散った散った! 」 

 

 

トムは客たちを散らせていった。

小さなお客さんのことを守るための策だとわかったが、彼がカウンターに戻ってしまったら、ハーマイオニーの相手は自分がせねばならない。困ってただその場に残っただけのガラハッドに、ハーマイオニーはいろいろと喋った。

 

 

「 あのね、私がふたりを招いたのよ。三人で手をつないで、連なって入り口を抜けたの。ねえ、ねえ、これって、何かしら違法なことだったかしら?私、パパとママにめいっぱい魔法を見せてあげたかったの。去年は、ふたりとも入り口なんか見えないって言うから、道で話をしているうちにパドマとパーバティの家族が通りかかって、それで――――私だけを誘ってくれたわ 」

 

「 ああ、それで 」

 

「 あの一家とオリバンダーのお店に行ったでしょう? 」

 

「 たしかにね 」

 

そういえばそうだった。ギャリックは何も言わなかったから、手伝いをしていた自分も気にしていなかったけれど。

「カネはどうしたのだ?」と、内心ガラハッドは思った。

君は去年、まったくわけがわかっていない顔ながら、ギャリックに杖をあてがわれて大はしゃぎした後、ちゃんと代金を支払って店を出ていったじゃないか。昨年、初めて魔法界に来た日に11才のハーマイオニーは、パドマとパーバーティの親がいたとはいえ、自分でグリンゴッツで両替をしたということか?

 

それって、凄いことじゃないか?

 

そこまで考えてガラハッドは気がついた。

そうか!ペネロピーやハッフルパフのジャスティン・フィンチ・フレッチリーなど、マグル生まれって、魔法界生まれよりも明らかにしっかりした子が多いよな(というか、魔法界の子供って年の割に大抵アホだよな)と思っていたが、もしかして、年のわりに格別しっかりした子供しか、ひとりで魔法の世界にまでやってこれないだけなのかも?あまりちゃんとしていないマグル生まれの子には、自分は出会う機会がないのだ!

驚きのあまりガラハッドは、改めてまじまじとハーマイオニーを見つめた。

 

 

「 登校の日も一人で来たってこと? 」

 

「 そうよ。うちの両親は、キングスクロス駅の壁をすり抜けられないから。だからね私、パパとママに、一度魔法界はどんなのか見せてあげたくて 」

 

はきはきと話していたハーマイオニーだが、ここで初めて言葉につまった。

 

 

「 ふたりも、絶対喜んでくれると思ったのよ…わ、私、何かにびっくりすることは、良いことだと思っていたわ。それで、それで――――こんなことになっちゃった。ねえ、あの、 」

 

「 君が謝ることじゃないと思う。 」

 

 

ガラハッドは、今のをちょっと大きい声で言った。

会話しながら気づいたが、今日の“漏れ鍋”では客がこぞってチャドリーキャノンズの勝利を祝っていたようだ。

ここそこにサポーターグッズを身に着けている者がおり、空中ではマッチ一本ほどの背丈の選手たちが、キラキラした噴煙の出る箒にまたがってびゅんびゅん飛び回っている。そういう仕掛けによって、試合のハイライトを再現しているのだ。さっきから生粋マグルのグレンジャー夫妻は、大きな蜂を見るようにこれに怯えまくっていた。魔法界にはよくあるおもちゃだが、これに驚く気持ちはよくわかる。

 

どうやらハーマイオニーの両親がしたことは、魔法に驚いて大きな声を出したことくらいのようで、ガラハッドが思うに、元々ここは貸し切りのできない場所であるのに、それに目くじらをたてるファンダムのほうが、いい大人のくせにケツの穴が小さい。こういう客が吹き溜まっている日じゃなかったら、“漏れ鍋”のトムはハーマイオニーの両親を親切に迎え入れた。そういう人物だからこそ、この店の亭主をやっているのだ。

 

彼は今、カウンターの向こうでビールグラスを磨いている。完璧に“わかっている”顔の近所の子供に、トムはニヤッとして目くばせをした。きっと近いうちに、バタービールを奢ってくれるだろう。ガラハッドは、動きのつかないグレンジャー親子三人を、トムの代わりに二階の客室へと案内した。

 

「 話した通りでしょう?魔法の世界の入り口にいるの。この人が、オリバンダー先輩 」

 

階段を上がりきったところで、夫妻は深呼吸して次の驚きに対して備えた。その隙にハーマイオニーがガラハッドを紹介した。魚を飲み込む鵜のように、グレンジャー氏は生唾を呑みこみ、少し間をおいたあと毅然としてこう答えた。

 

 

「 初めまして。騒いでしまって申し訳ない。もう、驚きませんよ。 」 

 

「 初めまして――――なあ、良いこと思いついた! 」

 

ガラハッドは、ぽんと手を叩いて明るい声をあげた。

 

「 なあ、要はおふたりにお教えすればいいんだろ?“魔法界はこんなところです”って――――僕がその役を引き受けるから、僕のほうをマグル界に連れて行ってくれよ。ずっと行ってみたかったんだ。僕、マグルの大人のかたに会うのは初めてです!そのカメラ、凄いですね。 」

 

ガラハッドは声を上ずらせていた。

 

グレンジャー氏が肩にかけているカメラは、自分の知っているものと同じ構造のようで、よく見るといろいろと違う。ガラハッドがこのような提案を持ちかけると、ぱあっと一家はこぞって前歯を光らせ、口々に喜びの声をあげた。

 

「 本当に?本当に先輩が、“こちら側の世界”に来てくれるんですか? 」

 

「 行く行く。でも待って、家の人間に声かけてくるから!僕が戻ってくるまでは、ここの部屋を適当に使っておきなよ 」

 

勝手に客室のドアを開けてガラハッドは言った。

「遠くへ遊びにいってきまーす」と、半径数百メートルより先に行くには保護者に言わないといけないのが、お子様生活のつらいところだ。

パブ“漏れ鍋”の階段を飛び降りるようにして、ガラハッドは一度自宅に戻ってギャリックにいきさつを話した。想像通りギャリックは、在庫品の杖を点検しつつ、顔もあげずに「勝手にしろぃ」と不機嫌に言った。こういう口を叩くくせにこの保護者は、昔ガラハッドが本当に勝手にして、存分に魔法界を探索しようとしたら、むちゃくちゃ慌てたことがある。

 

「 本当に?本当にOK?本当に行ってくるよ。 」

 

 

ガラハッドは、念のためにしつこく確認した。

フン、とギャリックは鼻を鳴らした。

 

「 13にもなって怖気づいてるんじゃねえ 」

 

「 はあ? 」

 

あんたのために訊ねたんだが?このひねくれジジイ。ならばいずこにでも行ってやる。

この程度のジャブはオリバンダー家では日常茶飯事だった。

 

「 ついでだ。マグルの街に出るなら、ここに行ってこい 」

 

ぴょんと羽ペンが飛び上がった。

ギャリックは相変わらず仕事の手を止めなかったが、自動速記羽ペンによって、何かをさらさらと伝票用紙の裏に書きつけた。ガラハッドが受け取ってよく確かめると、それは店の名前とかではなく、住所だった。読み慣れないので少し戸惑ったが、これは通りと番地だと思う。

 

「 せいぜい迷子にならんこったな! 」

 

“素直になったら死ぬ病”の老人を、「はいはい」と少年は受け流した。

 

「 万が一迷ったらな、マグル界っていうのは、道の横っちょにプラタナスが植わっとるから、そいつらに聞くんじゃ 」

 

「 街路樹のこと?へええ、結構詳しいな、爺さん 」

 

「 生意気が。わしゃ昔、ここに住んどった 」

 

「 へえ?意外 」

 

「 といってももう百年も前のことじゃからな。今はどうなっとるやら――――まあ、見てこい、うん 」

 

ギャリックの生まれは百年以上前。改めてその事実に、不思議にドキッとさせられたガラハッドだった。

 

あのヴィクトリア一世時代を肌で知っている人物と、自分は一つ屋根の下で暮らしている。

 

それも“この世界の”19世紀英国であるから、きっとシャーロック・ホームズは実在しただろう。ニヤっとしてガラハッドは地図を仕舞いこんだ。羨ましがるフローリアンに手を振って、ガラハッドはうきうきと再び“漏れ鍋”に向かった。

 

 

 

 

真っ白に見える石畳に短い影が踊る。

 

イギリスという国にしては、今日は最高出力の陽気。

 

青空は絵の具のように濃い色なのに、スカッと突き抜けて透明でもある。ああ欲をいえばわくわくモリモリ真っ白に、立派な入道雲に聳えていてほしかった!やっぱり、夏といえばあの景色。積乱雲、だーいすき。雲のふもとの、海ももちろん好き。今年の夏休みの宿題に書く出来事は、これで決まりだ。

 

またしても店に飛び込んできた腕白坊主を、“漏れ鍋”の客たちは今度は明るく迎え入れた。あの有名な杖店の跡取りが溌剌としていて、フレンドリーかつ利口な子であることを、喜びこそすれ嘆く者なんてこの魔法界には、どこを探したって存在しない。

 

「 おまたせ! 」

 

 

グレンジャー親子は、“漏れ鍋”の二階の一室で息をひそめるようにしてガラハッドのことを待っていた。

律儀な人たちのようで、宿泊客用の寝室に案内されているのに、勝手にベッドに座ることをせずに突っ立っていた。斯くしてガラハッド・オリバンダーは、マグル夫婦の案内でちゃっかりと小旅行へと出かけたのである。

 

 

「 !?――――お、おお、自動車…形変わったな。え、凄いあの光、電気だよな?めっちゃ鮮やかじゃない?なんで?えー…えッ、うわ~~~~!? 」

 

 

杖でレンガを叩いて、ぐにゃりと曲がった壁を抜けたらもう凄い。

 

異世界、夢の世界?

何もかもが真新しくて、不思議で素敵なものばかり。

 

数十年ぶんの技術の発展を目の当たりにし、元大学生は、ひたすら感動してブツブツ唸っていた。

 




「あのヴィクトリア一世」ということは、「ヴィクトリア二世」がいる世界線です。0巻編・1巻編はイスカリオテのユダの数字、呪われた数字、騎士ガラハッドの座る椅子の数字13で完結させてきました。しかし主人公は「少しは目が醒めたよう」なので、これまでほどぼーっとしていません。日常回が増えていきます。
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