別れ際、ガラハッドは名残惜しそうなドラコに熱心に手を振ってやった。
彼は本当に寂しげだった。なんだか忠犬ハチ公のように、人が乗っていく馬車の去り姿を、どこまでもどこまでも立って眺めそうなくらいに。
学年別・寮別に人と荷物を運び、セストラルは今日もせわしなく働いている。スリザリンの二年生たちが、きっと彼らの筆頭格であろうドラコの後ろに集まりつつあり、体つきの良い男の子が二人、遠慮がちにドラコのすぐ後ろで待っていた。パグ犬みたいな顔の女の子が、斜め後ろからドラコに話しかけるタイミングを狙っていた。彼らが寄ってくると、ドラコは咳払いして顔を引き締めた―――――その姿は多少キリリとしていた。
先に馬車に乗ってからもガラハッドは、少し窓を開けてドラコに話しかけた。
「 いい報せを有り難う!“格別のご学友”とやらの出現、楽しみにしておく。 」
にっこりとドラコは頷いた。
昨年はいろいろあったが、賢者の石の本物は小さなダイヤモンドに変え、今年はもう杖の底部分に嵌め込んでしまっている。ハリーとダンブルドアの善戦で亡霊は逃げ去り、クィリナス・クィレルの後任は、人気の魔法戦士だと聞く。もうあのような事件は起きないだろうし、今年は良い一年になりそうだ。
馬車のなかから入学式まで、レイブンクロー寮三年生の話題は、三年次からの選択科目のことでもちきりだった。
初めにマリエッタが言った。
「 うちはママが“数占いを履修しておきなさい”って! 」
これはそういうものらしい。これを否定する者は少なくともレイブンクローにはいなくて、上級生までが参加して数占いの重要性を説いていった。
「 就職に有利なんだ。 」
厳めしい顔でロバート・ヒリアードは言った。
七年制ともなると、最上級生たちは第二の教師である。
「 O.W.Lの点数が、将来にも響くわけだよ。呪い破りになるには出来なきゃいけない。 」
「 魔法省職員になるにも必要だし、癒者にも。セールス魔ンにも数占いは必要よ。 」
「 魔法建築士になるにも必要ですか? 」
「 もちろんです。 」
「 何になるか決めていなくてもね、数占いが身につく子は賢いんだ。 」
「 ふ~~~ん? 」
「 当然、みんな履修登録したね? 」
レイブンクロー塔に入ってまでこの話題は続いた。
長い階段をのぼって談話室に着くと、七年生たちは勉強熱心な後輩たちを励まして、引き続き新入生を連れて歩き、風呂などを案内しにいった。
ガラハッドは、少々圧倒されるような心地で談話室にのこり、地球儀を囲んで弧を描くカウンターにもたれかかって、級友らの話に耳を傾けた。目先に卒業を控える上級生はともかくとして、同級生たちの熱意には、「本当にすごい」とただただ思わされた。今日までこういうことに関心が高いのは、マリエッタくらいだとガラハッドは思っていたが、どの子もまだ13才であるのに、随分と先のことまでよく考えている。いつの間にやら、三年生はみんな「どうしてあの科目とこの科目を選んだか」「何を選ぶべきだと考えるか」についてそれぞれ話す流れになっていて、ガラハッドは困ってしまった。だって自分はというと、一年生のときの飛行術が若干トラウマだから、相手ありきの科目をただちに除外しただけなのだ。
つまり“魔法生物”に嫌われたら飼育学どころではないだろうと思って、それだけは選ばないことを去年のうちに決めた。
ところがそんな消極的な理由を言う子は、さっきから一人もいなかった。
ガラハッドは、夏休みの間にホグワーツから所定の申込書が届いたとき、その他の科目の選択に関して、自分なりの心算はもちろんいろいろした。けれども、それをつまびらかに開示していくのは、なんだか恥ずかしかった。逃げようかなと思った矢先、ジルとライアンから二人がかりで裾をつかまれてしまった。彼らの目論見ならばわかっている。ガラハッドは、うんざり顔で「えー…。」と力なくボヤいた。
「 待って待って待ってガラハッド!何を選んだ?マジで!数占いはとる!? 」
「 ルーン文字は!? 」
どうせこいつらは常日頃、三日に一回くらいは「忘れ物した、貸して」と…試験前には「ねえねえ、ノート見せてよ」と言う。「学力が欲しけりゃ生活を整えろ!」と、ガラハッドは前々から言ってやりたいが、別にこの子たちの母親ではないので、もう諦めの境地でこらえている。
その点「科目選択の決め手って何?来年の参考にさせて」などと言ってくるマイケルとテリーら二年生は、正統派だ。
「やめとけよ」とロジャーが、皮肉っぽいしぐさで後輩を止めた。
「 ガラハッド卿の考えだぞ?絶ッ対ッに、ふつうじゃない。“まったく参考にならない”に、俺は10ガリオン賭けるね。 」
「 うるさいな。 」
「 黙ってロジャー。私は聞きたいわよ。 」
「 マリエッタに聞かせられる話なんてないから…。 」
「 いいじゃないか。教えろよ。どうせ後でわかるんだぞ、何の科目を選んだか。君は、必ずいろいろ考えてるよな! 」
にやにやとエルビスが言った。「教えてくれよ、学年一位様のご戦略を」だそうだ。なんだか、今のはちょっと”含むところ”があった。
ガラハッドが悪意に気づいている眼差しで彼を見やると、たちまちエルビスは唇を尖らせておどけた。ノリで言ったにしてもロジャーと違ってセンスがないし、こちらと対立したい気持ちはないのならば、最初から意地悪なんか言わなければいいのに。
ガラハッドは、敢えてニコッとしてやった。ここでムッとする顔なんかしたら、どうせこういうセコい奴は、「何怒ってんの?」とへらへら嗤って、こちらを悪者にしてくるからだ。
「 あはは~! 」
目線をやりながらガラハッドが明るく笑うだけで、エルビスはじゅうぶん縮こまっていった。
「 僕の戦略はねえ… 」
はいはいお行儀良くしとけガキンチョ。学年一位の座は折角だから防衛しようかなと思っているけれど、この程度の子供たちに囲まれている限り、どの科目ならば“O”を取りやすいかなんてせこい戦略、自分は考える必要がない。
人生二度目の貫禄で、ガラハッドがエルビスに聞かせるべく悠長に話し始めると、純真な後輩たちは鈴なりになってよく聞こうとした。
「 ―――どのみち進路は決まってるから、在学中は最大限、自分の好きなことをやるっていう方針なんだ。君は、僕より考えていて立派だよ。 」
「 ねえ、でも、それって… 」
チョウは何か言いたそうだ。彼女は、夏休みのあいだに垢抜けて、なかなか可愛いぱっつん前髪をつくっていた。珍しくはっきり物を言わず、オニキスのような瞳のうえでその柳眉を寄せている。―――すると何やらとても思慮深く見えるのが不思議で、ガラハッドは、エッシャーのだまし絵を確かめるみたいな心地で、エルビスから視線を外してチョウのほうを見やった。
「 …それはちょっと、どうかと思う点があるわ。ねえその方針だと、魔法動物飼育学をとらないってことにならない?嘘よね?あなたが立派な杖職人にならないと、国じゅうみんな困ることになるのよ。 」
「 おっと、その通り。―――でもさ、杖職人って、別に生きてる魔法動物に用はないと思うんだ。毛や腱や、羽根の品質を見れたらそれでいい。 」
「 わあ~おサイコ! 」
マーカスがまぜっかえした。もう完全に聞く気がなくて、「ガラハッドってそういうとこあるよねえええ」だそうだ。チョウが神妙な顔のままなので、ガラハッドはそれには返事をしなかった。
現在の時点のチョウは、なぜだか随分としょんぼりしていた。変に可憐に見えるから、いつもより気を使ってしまうじゃないか。見るからに肩を落として、小さな声で彼女は言った。
「 一緒に受講できると思ったのに。 」
「 ええっ? 」
「 ガラハッドとマリエッタと、一緒に受けたいなあって思ってたの。魔法動物飼育学は。 」
「 へえ…。 」
ガラハッドは渋面をつくった。
思うに、進路とか専門にかかわることは、人に合わせて決めることではない。きっちりして見えたチャン夫妻は、娘にそのように言わなかったのだろうか?
モヤッとすると急にもっと喋りたくなって、ガラハッドは居直り腕組みをした。
「 それは、生憎趣味が合わなかったな?僕はこれが『生物』だったら、将来のためにもちゃんと履修していたよ。でも、『飼育学』だろ? 」
「 言ってることがわからないわ 」
「 ペットを飼うのは趣味じゃないってこと 」
「 履修するからには、飼う気でいるところが凄いわね――――知ってる?大抵の履修者は将来、魔法生物と同居しません 」
「 そうなのか?じゃあ君は、どうして『飼育学』なんか履修登録したんだ? 」
「 それは…楽しそうだから 」
「 一緒だ。僕は、天文学のことを魔法生物飼育学より楽しそうだと思っただけ。それにいずれは、占星術をやりたいし 」
「 素敵~! 」
パドマが首をつっこんできた。
マリエッタがチョウの肩に触れて、小さく左右に首を振った。
「 …いいの 」
「 占星術って、六年生以上で選択できるんでしょう?私も是非是非、やりたいと思ってるの! 」
「おう、お仲間!」と明るくガラハッドは返事をした。そうは返事したもののガラハッドは、パドマのようなタイプの子とは感覚が一致する気がしなかった。
「 まあ僕は、運命とか全然信じてないんだけどね 」
「 ええっ!?どういうこと?ねえ、それは変よ。運命を信じないのに占星術をやるの? 」
「 使い方はいろいろだろ?――――ほら、なあ、チョウ、君は中華系だから、知ってるよな。“霊符”ってあるじゃないか 」
一瞬、みんなが不思議な顔つきをした。「霊符を知らないの?」と視線を受けたチョウは、みんなの眼差しにきょろきょろとポニーテールを振った。
「 おふだよ。見たことない?あのねこれくらいからね―――――これくらい大きいのまであるの。 」
「 その大きさのは多分、太上秘法鎮宅霊符だな。僕はゆくゆくはそれの元になっている、星宿をやりたいんだ。だから天文学と数占いをとって、いずれ占星術をやる。やはりせっかく魔法使いをやるからには、僕としては陰陽師に憧れて――――陰陽道のなかでも、妙見菩薩信仰と習合した霊符術が、特に魅力的だなあと思ってる。わかるだろう?式神を使役してみたいんだ!ここからでも北斗七星は見えるんだから、ここにだって三万六千神を喚べる筈だ。それとルーン文字をあわせれば… 」
「 はーい出た出た出たガラハッド卿伝説叙事詩!今度はどこかに旅にでも行くんですかあ!? 」
「 なんだよ。噛んでくるなよ。 」
「 俺もうお腹いっぱいなんだよね、じゅうぶん、部屋でもこういうの聞いてるから! 」
ロジャーが大げさに苦しそうにした。どっと談話室に笑いが溢れて、ガラハッドは一瞬ぽかんとした。
「 え? 」
ロジャーはお調子者だ。笑いをとるのはいいが、嘘をつくのは、良くないだろう。細かいことだがガラハッドは訂正したくなった。いつもは、こんな話をしてない。
「 なんでそんなこと言うわけ? 」
「 素敵…!やだパドマ、どうしよう!?私も天文学をとればよかった~! 」
女子たちは話を聞いていない。ぴょんぴょんとチョウは飛び跳ねて、はしゃいでパドマに話しかけていた。
きゃっきゃら盛り上がる女子組を尻目に、男子組には奇妙な緊張感がみなぎっていた。
「 ―――…? 」
怪訝顔のガラハッドへ、目を逸らさずにロジャーは言い放った。
「 言っただろ。お前の呪文は長くて、うんざり!もううんざりなんだ! 」
「 え…?いや、こんな話――――俺はこれまでしたことないだろうが。いっつも、お前のほうがよく喋る。 」
「 でもお前のほうがうるさい! 」
「 お前は、いつ何を聞いたつもりになってるんだ? 」
「 つもりだって?夏休みのあいだまで、夢に出て魘されるくらい俺は聞いてるよ。俺はもう、耳にタコができちゃったんで治すためにピアスあけたんだ。絶対今後も増えるね! 」
「 お前に陰陽道の話なんかするかよ。通じないってわかってんのに。 」
「 今のはガラハッドが悪い 」
マーカスが二人を遮った。ロジャーとの会話は最後まで、平行線だった。
ガラハッドはたじろいでマーカスを見やった。いやいやいやこのタイミングで、止めてくれるなよ!こんなたくさんの人たちの前で、もう一人の同室であるマーカスにそんな言われ方をすると、まるで自分は日頃滔々とロジャー相手に夢を語っているイタい奴みたいだ。
そんなのはまったく、事実ではない。
マーカスの偽証は意味不明だ。なんで今、いきなりこっちを陥れるんだか。
「 えええ…? 」
ガラハッドは力無くぼやいた。するとマーカスは肩をいからせて言った。
「 チョウに対しても酷い。君、言っていいことと悪いことがわからないの?去年の末からねえ――――ちょっと調子乗りすぎだ! 」
「 何なんだお前ら…。あのさ、嘘ついて楽しい?俺がいつナニ悪いこと言った? 」
「 嘘?何のことだよ。何にせよ君は差別的。かわいそうに、チョウは傷ついたよ! 」
「 差別?――――先に噛んできたのはコイツ。ハア、もういいよ、俺は部屋に入る。 」
「 うっわ、ついてくんなよ 」
「 黙れ、好きで同じ部屋行くんじゃない 」
「 謝れよガラハッド! 」
マーカスが乱暴に肩をつかんできた。
それを振り払ってガラハッドは、ずんずんとロジャーと歩を競った。
これはもう喧嘩だ。談話室にたむろしていた二三年生たちは、目の色を変えてみんな二人の後を追った。
「大丈夫よ気にしない」とか叫んで、チョウまでもが追いかけてきて男子寮のアーチをくぐった。「ダメよそっちに行っちゃ…」という、いつもよりちょっと元気のない、マリエッタの制止もむなしく――――だ。
「 待ちなさい!! 」
威勢のいい声が矢のように場を貫いた。
ちょっとは女らしくなったと思ったら、チョウ・チャンという奴の性格はまったく変わっていなかった。
チョウは、男子顔負けの気迫で周りの者をかき分け、取っ組み合いも厭わず、つかむマーカスと振り払うガラハッドのあいだに、体当たりでもするかのように割り込んできた。そして闘争心もあらわに、真っ向からマーカスの腕をつかんでひねりあげ、スカートをはいているのに膝で背中にのしかかった。ライアンもテリーもマイケルも、もちろんロジャーとガラハッドも、間近にいたがこの勢いは止められるものではない。哀れ、この無差別級レスリングはマーカスの負け。「いだだだだだだだ!?」と悲鳴をあげて、彼は群青のカーペットに跪いてしまった。
ガラハッドは、いくらなんでもこれは可哀想だと思った。
「 ちょッ…よせ、やめろ。それ以上は怪我させるぞチョウ!第一お前はこっち側に来んな! 」
「 何よ、黙っててガラハッド!私のことでしょ?私抜きで勝手に話進めないで!チャイニーズを見下してんのはねえマーカス――――あんたよ。あんたのほうよ!あんたガラハッドの10分の1でも、中国文化を知ってて漢字が書けるわけ?ああ腹立つわ、お情け要りませんから! 」
「 同感。マーカス、人のこと、“名前を言ってはいけない”みたいに扱うの、良くないぜ。 」
「 お前は何なんだよロジャー…。 」
「 いったい、何の騒ぎ? 」
聞き覚えのある声に全員の背筋が伸びた。三つ年上のペネロピーが、杖を出して自身も男子寮へと踏み込んできたのだ。
長い巻き毛にすらりとした手足。美脚女王なのだけれど、決して浮ついた目で見てはいけない。彼女は胸にバッジをきらめかせる、謹厳実直の監督生なのだ。慌てたチョウに解放されたマーカスは、肩の付け根を抑えてひぃひぃ言った。
「 馬鹿騒ぎはすぐにやめなさい。新入生にとって、今日は大切な日よ。三年生なのにわからないの? 」
「「「「「 すみませんでした 」」」」」
「 帰るわよチョウ。あなたたち、初日から問題を起こしたってフリットウィック先生に報告するから。ブルーマフィアが聞いて呆れるわ。外でやれば減点です! 」
マクゴナガル先生みたいにペネロピーは言った。さっきから散々対立を生んでいたロジャーも、このとっても気合の入っている新監督生様相手には何も言わないようで、「コイツこの野郎…」とガラハッドは、立ち回りの巧い彼を睨んだ。すべてが嫌になって、とっとと一抜けして自分のベッドに入りたくなった。実際そこに至るやいなや、ガラハッドは他の二人に見せつけるように、いっきにカーテンを引いて天蓋を締め切ってやった。
「 …はぁ~! 」
何なんだこの情緒不安定集団は!?
なーにが「共に未来図を語り合う格別のご学友があらわれ~」だよ、こいつらと顔突き合わせていたんじゃ、全然話すら嚙み合いやしない!
散々な初日だ。こんなに大外れする占いって逆に珍しくないか!?
イライラしてしまっている。俺もいけないのだろうか?チョウとは懐かしい話ができることが、俺は正直嬉しいから、うっかりしていたけど人種のことは極力言わないに限るようだ。無駄にくたびれたガラハッドは、豪快に大の字で眠った。
翌朝起き出すと洗面台でマーカスと鉢合わせた。ロジャーが時間をかけて髪の毛を撫で付けているので、同室二人はいい迷惑だ。朝から鬱陶しいものを見てしまったガラハッドは、心頭を滅却して歯磨きに専念した。
朝食のために部屋から出る前に、こそっとガラハッドのベッドの天蓋のカーテンの、隙間から丸っこい顔を入れてきたマーカスは、喉に何か詰めたみたいにもしゃもしゃと言った。ガラハッドは冷ややかな目で、完膚なきまでに平静な態度をとってやった。
「 どうした? 」
「 そ、その…昨日は、ごめん。でもあの、お願いがあってさ…。 」
「 そう。いいんだよ?言うだけ言ってみれば 」
「 あの、その、ぼぼぼ僕たち、付き合い始めたから―――!!あんまり、パドマと親しくしないでよね! 」
「 へえ~?それはおめでとう 」
ガラハッドは目を丸くした。
なるほどな。これはまったく予想外な事実だったが、知ったからには祝福してやるべきだろう。
ロジャーは以前からチョウのことが好きなのだろうし、ガラハッドは、なんとなく昨夜の顛末がわかってきた。
わかったら逆にムカついてきた。
「 …チッ 」
ガラハッドは、思わず片眉をはねあげてしまったが、幾度か深呼吸して何も言わなかった。賢明なるマーカスは、その隙にそっと逃げていった。
マーカスって、女子から見てどこがいいんだろう?このレイブンクロー寮内でモテる道は、通常このふたつである。――――格別カッコイイか、他より成績が良いか。
おうおう、いい男ですみませんね!?洟垂れのくせして、色気づいてんじゃねえぞガキどもが!
あまりにも馬鹿らしくて、こんなのには一切付き合っていられない!!
朝食の席では、けたたましい吠えメールを聞いた。
「 車をぬすみだすなんて!退校処分になっても当たり前です!首を洗って待ってらっしゃい!承知しませんからね!!! 」
ガラハッドは飛び上がった。鼓膜がおかしくなる音量に、テーブルの上の皿もスプーンもガチャガチャ揺れた。
落ちそうになったフォークを抑えようとして、ジルがスクランブルエッグの乗った皿をひっくり返した。皿は割れてしまったが――――テーブルの上には、また新たな皿が現れてスクランブルエッグが湧いた。石の壁に反響するので、爆音のせいで頭がぐわんぐわんした。
「 こういうのは、大抵グリフィンドールの連中! 」
巻き込まれるほうはいい迷惑だ。「そうだろう?」と怒り心頭のニールが言った。「間違いない」とガラハッドも思った。
「 どうかしてる。あいつら、今のを笑いごとだと思ってるよ。 」
吠えメールが燃え尽きると、グリフィンドール席のほうにはすぐに笑いが戻った。伸びあがってそちらのほうを見てからニールは、「信じられない」という顔つきで着席してこれを言った。
ダンブルドア校長からの手紙が家に届き、親が魔法省の尋問を受け、こんなところで吠えメールを受け取るなんて、レイブンクロー生にとっては死ぬよりもおそろしい。
「 すごい度胸だ 」
「 後先考えてないだけさ 」
「 ウィーズリーの下から二番目だって 」
「 うわあ流石だな 」
ライアンってどうも情報通らしい。彼は格別ガラハッドに向けて、今回はフレッドとジョージじゃなくて、二年生にいる弟のやらかしだということ、車のこと暴れ柳のことなどをいろいろ教えてくれた。「そうなんだ~」と一応こたえながらも、ガラハッドは内心話半分だった。過剰に親切にされている気がして、気を遣われている気がした――――いつもは、それほど喋る仲ではないからだ。マーカスとは和解したけれども、ロジャーとは言い合いっぱなしだし、今朝は、流石にちょっと気まずくていつものメンバーは、自然と集まらないでいる。そのことで辺りは、昨年までは見られなかった光景であふれていて、半端に客観的になれるぶんガラハッドは、自分たちの喧嘩がレイブンクロー三年全員に影響しているのを感じ、じわじわと申し訳なくなっていた。
僕たち私たちって、そんなにいつもかつも一緒にいますぅ?
とうとうお堅いペネロピー様にまで『ブルーマフィア』とひとくくりにされちゃった五人組は、今日はそれぞれへそを曲げて、各員別の友達と朝食をとっていた。すぐ近くではマリエッタが、「私まで一緒にされて叱られたの」とエイミーたちに愚痴を言っており、彼女らはそれに苦笑いをしていた。こんな調子ではあるけれども、一時間目は数占いなので、どうせブルーマフィアは全員集合だ・・・。
ガラハッドは、せめて自分が今まぜてもらっているグループの日常を邪魔しないよう、無駄に熱心にグリフィンドール席を眺めるなどした。
ガラハッドが野次馬していると、ふいにハリーがこっちのほうを向いた。
目があった。
すると彼は最高にばつの悪そうな顔をして、たちまち自分で自分の襟をひっぱりあげて俯いてしまった。
「 へえ…? 」
睨んでくるわけじゃないんだ?
ガラハッドはグリフィンドール席を見据えたまま、カップをつまみあげて紅茶を飲んだ。贋の賢者の石をつかませたうえに偉そうなことを言って押し付けた件があったから、ハリーには恨まれている自信があるのに。それなのに、今の一瞥から羞恥はともかく、格別の憎悪を感じなかったのは、彼の傍らにはハーマイオニー・グレンジャーがいる影響なのかなあ。彼女もまた保護者による支えが心許ない。
「 似た者同士で寄ってるんだなあ 」
ガラハッドが遠目に呟くと、善良なるジルが小首を傾げた。
「 それって、君たちのこと? 」
「 え? 」
「 昨晩喧嘩してたよね。大丈夫なの? 」
「 ええぇ…絶対似てないだろ 」
「 似た者同士って、そう言うんだよ 」
さて一時間目が始まった。
教室に入ってきた途端、グリフィンドールのケイティ・ベルは、いつもとは違ってばらばらに座っているブルーマフィアたちを不思議そうに見回した。彼女は、そわそわとチョウに近づいていき、「何かあったの?」と尋ねて場に緊張をもたらした。
チョウは、困ったようにやんわりと微笑んだ。するとなんだか可憐で控えめに見えて、黙っているだけで存在が詐欺であった―――――昨晩一番大暴れしていたのは彼女だ。「見た目に騙されるなよ」と、レイブンクロー生はみんな美少女の本性を知っているので、このとき心がひとつになった。一言二言話したあと、事情を知らないケイティが「大丈夫?」などと大げさに声をあげた途端、みんなちらりとマーカスやマリエッタのほうを見たりして、教室は奇妙に静まり返っていった。
「 ―――!!! 」
焦っているのは外野だけだ。ツバメの子のように首を回して、あちこち見るのに忙しいレイブンクロー生たちから、“あの五人組”のボスと目されているガラハッドは、一番後ろの中央の席を確保して、片肘をついて手の甲に顎を乗せていた。本人はおとなしくしているつもりだったが、落ち着きはらったその態度は、傍目には圧倒的な存在に見えた。
残りのブルーマフィアの三人は、机の下で何かを広げて、しょっちゅうめくったりぶつぶつ言ったり、脇目もふらずに何かを予習していた。全体から見ると如実に少数派で、この三人はたしかに似た者同士である。
ガラハッドは、「そうか…こいつらこういう努力するんだよな」と、離れた友人たちの美点に瞠目していた。
「 はー… 」
授業で漁港の競りのように手を挙げて、またたくまに点を搔っ攫っていくから我々はブルーマフィアと呼ばれ始めた。ブルージュ大学の卒業生が、その団結力からブルージュマフィアと呼ばれるのに引っ掛けているわけだ。そういえば、俺をかばったのがきっかけだったんだよなあと、もう二年も前の出来事となる、あの日のことを思い出してガラハッドは繰り返し深く息をついた。そして、自分は、全然駄目だなと思った。あの頃から今も彼らは凄い。自分は、箒という苦手なものからついぞ逃げ続けたのに、彼らは刻苦勉励して日夜努力し、「高々と挙手できる自分」を作り上げている。
自分も、せめて少しは苦手だとわかっているものに敢えて取り組み、彼らのように努力しなくてはなあ。自分の苦手なものというと、昔から動物全般と芸術的感性、センスとかパッションとかそういうやつで――――おおむねロジャーが持っている。「魔法動物飼育学か占い学、せめてどちらか登録するんだった」などと考えているうちに、始業のベルが鳴り響き、ずっと壇上にいたフリーズ・フリーザ教授が、ついに口を開いた。
「 ふっふっふ、覚悟はよろしいですね、私の授業を希望された皆さん?あなたがたは、まずは“時示す数”の神秘について目を啓かねばなりません。 」
彼はニタァッと微笑んだ。彼はピラミッドに描かれた古代エジプト人みたいな化粧をしていて、アイラインも唇も紫なので、なんとも言えない迫力がある。
多くの生徒が居ずまいを正し、ガラハッドも肘をつくのをやめた。
「時示す数の神秘」とは何だろう?
大人気の割に、この授業はなぞに包まれていて、三・四年次のあいだは指定教科書がない。
寮の上級生が見せてくれた五年生の指定教科書は、パラ読みするとどうも八卦や四柱推命学に近かった。
はて、初学のうちは、一体何をするのやら。
フリーザ教授が裁判長のように槌を振るうと、教壇から鳩のようにプリントがばさばさと羽ばたいた。
前の席から次々と、一人一枚のプリントが届くたびに、みんながどよめきをあげ盛んに私語をし始めた。
待ちきれずにガラハッドは、上体を右へ左へ、くねくね傾けて先に手に入れた子の手元を見た。
網目の隙を埋めるように、どの子の紙にも数字がびっしりと書いてあった。
いよいよガラハッドの頭上にもプリントが降ってきたとき、すぐ前に座っていたグリフィンドールのアンドリュー・カークが振り向いて、うげえっとゲロを吐くふりをした。
「 んんん? 」
ガラハッドは唸った。自分が受け取ったこの一枚は、他の子のそれと同じ内容なのだろうか?
「やばいなこれ」と、カークは青ざめて囁いてきた。
「 すっげぇ量!これ全部覚えないといけないなんてやばい! 」
「 …待て。待て待て逆に君は――――覚えていないのか、これを? 」
ガラハッドは確かめた。自分がいま受け取ったプリントは、左にいるジル、前にいるアンドリューのプリントと確かに同じものであるようだ。
マジかよ。
平然として生きているが、実はこいつらは物凄い馬鹿であったらしい。
「そりゃそうだよ」と嫌そうな顔のアンドリューに、おっと失言だったなとガラハッドは口を閉ざした。
ジルもまた、至極真剣な表情でわざわざこれを読んでいた。読むまでもないものだというのに。
与えられた紙というのは、12×12マスになっている単なる九九一覧表だった。
ガラハッドはハッとした。ああそうか、こいつらは、魔法界で生まれ育っているので小学校に行っていない。だからそれぞれの親から教わる以外に、こういうのに触れる機会がないし、機会がないから知らないのだ。
「 道理で…! 」
ガラハッドは喉が渇いた。なんだか怖くなってしまって、首を伸ばして改めて周囲の生徒たちの姿を見回した。不思議そうにジルが言った。
「 道理で? 」
「 ああ、うん。道理で――――魔法薬学の時間に、水の量を変えると事故を起こす奴がいるんだってわかったんだ。比や割合の感覚が弱いんだな!? 」
「 そりゃあ君はノーミスだけどさ…。 」
「そういうこともあるだろ」とアンドリューは、ますます唇をとがらせて言った。
ガラハッドは逆に困惑した。そんな、万物はノリとまぐれと勢いで出来てるみたいな感覚でいられましても…。
お前も脳みそついてんだから、もっと文明的に生きろよと、正直ガラハッドは思うのだが、実際に言えば完全に喧嘩を売るだけになるであろう。黙って左手で口元を覆い、うっすら始まった頭痛に耐えることにした。
「 きつぅ~~~い 」
教室はあちこち阿鼻叫喚だった。多くの子が駄々っ子のように騒ぎ、「こんなに覚えられない」「模様じゃない?」などと、口々にぼやきあっていた。
ただ一部の変わった生徒だけは、待っていましたとばかりに目を輝かせて小鼻を膨らませていた。
「 先生!私はもうすべて覚えています! 」
混迷を極める教室の中央に、いきいきと手を挙げる女子生徒がいる。学年一の真面目ちゃん、我らがマリエッタ・エッジコムだ。気のせいかもしれないが、そのオレンジの巻き毛はいつもより輝いている。
「 俺も!もう覚えてます☆ 」
白い歯とピアスをきらめかせてロジャーが立ち上がった。
「えっ凄~い」と彼のことをはやし立てる女の子たちの、将来が心配だとガラハッドは心底思った。
「 ぼ、僕も覚えてます! 」
「 私も覚えてまーす 」
今立ち上がったのはマーカス・ベルビイに、チョウ・チャン。それぞれ離れたところに立っているが、結局いつもの四人組だ。
よっ似た者同士!アクティブがり勉!
笑えてきてしまってガラハッドは、今日一番盛大に安堵の息をついた。
ああよかった彼ら彼女らは、マトモだ!どいつもこいつも癖があるけれど、ある意味では、「格別のご学友」かもしれない…。
…が、こいつら比較的賢い代わりに、前々からこまっしゃくれたガキどもで…。
今、「そっちはどうなんだいガラハッドよ」と、こぞって競争心を剝き出しにして勝ち誇った顔で振り向いてくるのが、四者四様、揃いも揃ってなんとも憎たらしい。ばんと音がなるほど強く机を押して立ち上がり、決然とガラハッドは勝負に乗った。
「 ――――先生、僕も覚えていますよ 」
誇るほうが恥ずかしいレベルなんだが!?
ガラハッドの恥じらいを見逃さずに、フンッとロジャーが不敵に鼻を鳴らした。
ついに出揃ったブルーマフィア五人組に、ケイティ・ベルが拍手を始めた。
パチパチパチパチパチ…
謎の拍手は教室中に伝染し、しばらくのあいだダラダラ続いた。
「すごい奴らがいるもんだ」半分、「ああ、またこいつらか」と、生温い呆れの眼差しを送られているの半分…。
一体、何の罰ゲームだ、この辱めは?
そのようにガラハッドは思っていた。
「 重畳――――今年はたったの五人なのですか? 」
フリーザ先生は嬉しそうだ。彼は耳まで唇を歪めて、挑発的に四方を見渡して言った。
不健康そうな顔色で、高踏的で、皮肉げ。ちょっとスネイプっぽいなと思うがこの教師、こういうノリなのでおそらくレイブンクロー出身であろう。彼は嬉々として教壇のうえで、槌を鳴らして勝負事を煽った。
「 挑戦者たち!全員お立ちなさい!いかにも今日という日までに、数の神秘に触れて万物の規則性に気づき、あるていど目の啓かれている者もいるでしょう。そのような受講者には私は、特別に今から問題を与えます。私の問いにすべて答えられた者には、学期末、出席日数に関係なく修了試験への参加資格を与えます。さあ、挑んでごらんなさい! 」
おおお、なんという太っ腹!
にわかに教室は活気づいた。「ちょっとやってみろよ」とお調子者が互いに薦めあっているうちに、ハッフルパフから一人、とても地味で気弱そうな子が立ち上がって、みんなはもう一度どよめいた。
「 わああ頑張れ!応援しちゃうなあ! 」
ケイティがもう一度拍手した。これにて挑戦者は六人だ。
さあ一問め!――――を、出す前にフリーザ先生は、ケイティ・ベルを筆頭に、さっきから座ってはしゃいでいるだけの者たちにてきぱきと指示を出して、壁面にやるべきことの手順を浮かび上がらせた。どうも九九のできない者たちには、一覧表を片手に挑戦者の言った答えの数字を探して縦横の列をたどり、視覚的に検算をさせるらしい。
( スネイプといいこいつといい、このタイプって意外と教師としてはまともだよな…。 )
そんな何様目線の感想を抱く時点で、ガラハッド・オリバンダーは、客観的に言えば「こまっしゃくれたガキ」の代表格であった。
ところがてんで無自覚な本人は、待たされている間に、ちょびっと悪戯心をくすぐられていた。
「 先生! 」
指を立てて最後列からのコール。大事にされて十余年、ダイアゴン横丁じゅうで愛される笑顔でガラハッドは、曾祖父譲りの瞳をきらきらと輝かせた。
「 三年生修了試験の問題まで、今お出しいただくことはできますか?“唱えて出せる問題”なのですよね?僕は今、ここで期末試験を受けたいです! 」
「 あなたのことは聞いています 」
フリーザ先生はゆっくりと顎をひいた。自動車のライトじみた形の三白眼が、照準を合わせるようにガラハッドを捉えた。
「 オリバンダー・ガラハッド。卓越した論理性、鮮烈な勝負欲、研鑽たゆまぬ者――――いいでしょう!我らがロウェナ・レイブンクローの再来と謂われるに相応しい実力、この場でとくと見せてご覧なさい! 」
「 よっしゃ 」
「 私の問題は53問です 」
犬歯を見せてガラハッドは笑った。OKこれで単位ゲットだ!
この時間が空いたってことは、来週から数占いが開講される時間に北塔に行けば、占い学を受講することができる。
威嚇する猿のようにロジャーは眉を上げ下げした。
ガラハッドは、勝算しかないのでわざとかっこつけて前髪をかきあげて返した。
「 ――――チッ 」
「 はっはっは 」
いや~どうしてこうも余裕こいてるってですね、舐めんなよロジャー、俺は珠算四段だ。生まれが寺だったので、母親がそろばん教室を開いており、子供の頃からパチパチパチパチやらされていて…。ド文系として進学したし、結局住職にはならなかったから、生涯経理も何もしなかったが、一度死んでまた生まれて魔法使いになって、初めて活かされる地味特技ってなんかもう感動的!
すぅっと人差し指を左から右に払ってガラハッドは言った。
「 願いまして~は! 」
「杖なし呪文!?」と誰かが叫んだ。フリーザは槌をふるって観衆を黙らせた。
賢明なるマーカス・ベルビィは、このときそっと着席した。
「 静粛に!これから問題を出し始めます。オリバンダー・ガラハッド、その指の形は? 」
「 天地をかきわける指です 」
狂乱のように私語が始まった。「ガラハッド卿伝説だ!」と大きな声でアンドリューが叫んだ。またしても壇上のフリーザが、狂ったように槌をふるって子供たちを黙らせた。
単にそろばんの珠をよぶとき、上の珠一つを天、下の珠四つを地というだけのだが、愉快になってきてガラハッドは大法螺を吹いた。これぞ坊主の本領、嘘も方便である。
「 今、天にあるべきを天に、地にあるべきを地へと還らせました。宇宙、それは重々帝網にして、珠はおのずから光るのか互いに照らしあうのか、如何に始まるか終わるかわからぬ無限の網の目。悟りを得ていない僕は僅かに真理の断片をとらえるため、これよりこの指で宝網を断ちます、編みます――――・・・さあ、試してみてくださいよ! 」
・・・30分経過・・・
結論からいうと大口叩いたガラハッドは、フリーザ先生が槌をふるって景気よく読み上げていく問題を一種のダンスのように不思議な指の動きをしながら聞き、何問も連続で正解していった。正解しているんだかしてないんだか、検算役の生徒を含めて、最後のほうは見ていてももはや誰もわかっていなかったが、しまいには壇上でフリーザが絶叫して涙しながら走り降り、溶けたアイメイクで顔に筋をつくってガラハッドのローブの裾にキスした時点で、マリエッタは座り込んだし、チョウもまたぐったりと座り込んでしまった。ロジャーは、忘れられた神殿の柱が、長年の風雨で砂と化していくみたいに、まあなんかそんな感じで、なおも棒立ちのままであった。
多くの生徒が頭痛を訴え、机に突っ伏すことになった。あまりにも、一度にたくさんの数字を聞きすぎたからである。
もういい。あいつが、あのスカした変人であるガラハッド・オリバンダーが、本当に規格外も規格外の天才であることは、よくわかった。よ~くわかった。多少「なんだこいつ?何様だよムカつくな」と思っても、張り合おうとするだけ無駄だったんだ。その理解のもとロジャー・デイビースは、一時間目の終わりがけに背後から、ちょっと走っていって先を行くガラハッドの肩を掴んだ。
「 …なに? 」
ガラハッドは、気まずそうにこちらを振り向いてきた。OK別に機嫌が悪そうではない。いいタイミングだから、もう喧嘩はやめだ。
「 いやはやお前―――マジで、やべえわ。 」
溜息と共にロジャーは誓った。
こいつのことは金輪際、自然災害か何かだと思うことにしよう―――と。
天から二物も三物も与えられ、存在がズルいような奴だが…いいんだ、いくら騒がれたところで、こいつと付き合っていけるような女の子はいない。
夏休みの間だけは解放されていたものの、ロジャーは、さっきの計算なんかよりもずっとヤバいものを日頃浴びている。「忘れちゃうと嫌だから」とか言ってこのイカレトンチキ野郎は、毎朝地獄から来たみたいな声で長時間、変な体勢で不気味な詠唱を行うのだ。
ロジャーは、そんなガラハッドと同居して正気を保っているだけで、自分ってば超えらいんだと心底思えてきた。そう思うとロジャーは、ガラハッドにはもうなんだか無限に優しく出来る。
「 ヤバくて悪かったな 」
口先のほうはまだ憎たらしいが、隣に並んで歩いても、案外彼はどこにも行かなかった。これで仲直り、いつも通りだ。
「 本当に。イカレてるぜお前。俺は知ってたけど――――なあ、産毛羽根ペン売らない? 」
「 お前のデザインで? 」
「 そう、ロジャー・デイビースブランド 」
「 そのピアス、似合ってるとは思う――――不本意ながら 」
自分は飾り気がないくせに、こういうことを言う。彼は人のセンスを馬鹿にしない。
何様ガラハッド様を気取ればいいのに、良い奴なのがまたムカつくんだよなあと、改めてロジャーは思った。
■数占い→魔法族って、戦前日本マグルに比べると全然計算できないだろうけど、ばかじゃないもん→チルノのパーフェクトさんすう教室(東方)→フリーズ・フリーザ・フローズン!(東方)→フリーザ様が先生役に(ドラゴンボール)
■タイトルは漫画『魔方陣グルグル』より