ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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ギルデロイ・ロックハート

 

成長期の身体に嘘はつけないので、叱られるのはわかっていても昼食の席には来てしまった。

案の定レイブンクロー席ではいつもの面々が待っており、ガラハッドがその方向へと近づくだけでくすくすくすくす笑い転げた。渾身の威厳を込めて、ガラハッドは同級生四人を睨んでやった。彼らは善良だが、その実ひとの失敗とか不運とかが大好きなので、いやに讃えてくる反面、ひとがやらかしたときは実に実に嬉しそうにする節がある。

ガラハッドがそれを指摘しながらロジャーの横に座り、いきおいシュリンプフライにありつくと、にやにやを隠すつもりもないチョウがこう言った。

 

「 ふふふん――――おめでとう!あのね、今にすっごく、面白くて素敵なことがあるわよ。 」

 

「 そっか~。ありがとう。でも僕決めたんだ、もうそういうの信じない。 」

 

 

絶対碌なことじゃない。そしてその予感は、悲しいほどすぐに当たった。

ざわっと大広間の奥のほうが鳴って、とある男がガラハッドたちのもとへと近づいてきた。

生徒たちの飲食の場より数段高くなっている教師席から、ライラック色のローブを着たハンサムな男(あの色を着こなせるのって凄いと思う…)が、四方八方に手を振り、果ては両手を広げながら、声援に応えるスターのように歩いてきたのだ。

実際彼はスターであるといえる。勲三等マーリン勲章受章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、『週刊魔女』チャーミングスマイル賞5年連続受賞。そんな男の名は、ギルデロイ・ロックハート。

ガラハッドは急いで口に入れたサラダを飲み込み、席を立って彼を迎えた。そうせねばならない立場だからだ。

 

 

「 やあ! 」

 

ロックハートは、幾分挑戦的な響きをこめて挨拶をしてきた――――そのように、ガラハッドには思えた。

彼の日頃の口調なんか知らないけれど、自分ならばそうするという考えがあったからだ。

 

「 申し訳ありません。ロックハート先生! 」

 

ここは平謝りだ。さっきの時間にガラハッドがサボったのは、闇の魔術に対する防衛術の初回授業だった。

開講早々いきなり派手にサボって、いただくお小言と減点ときたらいくらになるだろう。

ところがロックハート先生は非常に優しく、自分なんかよりずっと出来た人間らしい。

てっきり「どこに行っていた?」「何をしていた?」などと詰問されると思ったのに、彼は柔らかい声色でこう言ったのだ。

 

「 顔をあげなさい――――私に会うのは怖かったかな? 」

 

「 !? 」

 

ええ。ええ、まあ、そりゃあね。

 

ガラハッドは頭をあげると、苦笑いで肩を竦めた。ダイアゴン横丁では、この仕草で大抵のことが許される。けれど、ここまでのヤンチャをしたのは初めてだ。

ロックハートは著名な文筆家であるばかりでなく、自分の寮つきの教授なのに。

減点以上に第一印象が最悪であることが痛いし、愛嬌によって少しは許されるのならば、ここはひとつ儲けておきたい。ガラハッドは極力素直で子供らしく見えるように、ぎゅっと目をつむってしおらしく尋ねかけた。

 

「 はい。怖かったです。本当にすみません。罰則は何ですか? 」

 

「 おおおおうやはり!やはりそうだったのだねガラハッド・オリバンダー君!?いくら君といえども、私と並んで比べられるのは怖かった!?怖かったと言ったね、おおおおおういいんだ仕方ない!仕方ないさ、私と並び立つ人なんていないのだから!!!恐れることはない!君が人生の先輩たるこの私に引け目を感じるのなら、私は君を弟子に迎えてあげましょう! 」

 

「 え?はあ 」

 

不気味なガラハッドの猫被りぶりに、ロジャーとマーカスは視線を交わしていた。チョウは笑いが抑えられなくて、お腹を抱えて前かがみになっていた。マリエッタはいつものお祈りポーズで、ロックハートの温情を讃えていた。

うまく減点を免れられそうな展開にガラハッドは、とりあえずハキハキと返事をした。

 

「 はい、有難うございます。よろしくお願いします、ロックハート先生。 」

 

「 フゥゥゥゥゥ素晴らしい!今のは決め台詞として使えますね!いいぞう、新作のアイデアが湧いてくる!!!そうするとまずはですね――――『週刊魔女』でお披露目だ!これは話題になります!増刷!いいや特別な表紙が相応しい! 」

 

「 え?…え、え? 」

 

チョウの爆笑が響いた。予想外の言葉の連続にガラハッドは、咄嗟に後ずさりしてテーブルにぶつかってしまった。

はずみでマーカスがポテトを喉に詰めた。

げほげほマーカスが噎せる声に被せてロックハートはしゃべり続けるが、その内容は正気とは思えない…。

 

「 ガラハッド、髪を伸ばそう。そして巻くんだ。 」

 

白い歯を見せつけてロックハートは言った。

 

「 素材を生かさなくてはね!狙うは若い男性層――――新規読者の開拓だ!いいや今の姿でも、しっかり写真を撮っておこう!私に弟子入りして垢抜けたとするほうが展開が美味しい!私は原石を発掘したのだ!クールな戦士にキュートな弟子!このコンビは絶対に人気が出る!そして少年は私を尊敬し、『流石です、ロックハート先生!』を決め台詞に… 」

 

「 え?いやいや言ってませんけど!? 」

 

「 言うことになるのだ、君は。 」

 

「 …っげ、現時点では何とも言えませんね! 」

 

「 ふむふむ、生意気キャラというのも美味しい。小悪魔系美少年というのは、ワンジャンルあるからな。こういう子が私に助けられてだな… 」

 

「 ―――ッッ 」

 

ちょ、やば、こいつ話が通じないんだが!?

ガラハッドは怯えて四人のほうを見やった。

「助けて」と目で訴えたつもり。

日頃完全無欠の天才を気取っている彼が、如実に焦っているのを見るのは面白い。

ロジャーはまったく助け船を出すことなく、チャラいウィンクをしてピアスを光らせた。

マーカスは無事ポテトを嚥下し終えて、お行儀よくナプキンで口をぬぐっていた。

チョウはさっきから笑いに憑かれているし、マリエッタは教授の太鼓持ちだ。

 

午後の授業が始まるギリギリまで、ガラハッドはロックハートに拘束された。

 

 

 

「 お前らサイテー… 」

 

 

変身術の授業中、ガラハッドは肘をつき頭を抱え、「思い出し笑い」ならぬ「思い出し寒疣」に悩まされていた。可哀想なものを見る目でマクゴナガル先生は、一切授業を聞いていない彼を許した。

 

「 ごめんね、面白くって。だってあの人、あなたのこと見た目で勘違いしてるんだもの。 」

 

流石にチョウは眉尻を下げて謝った。

マーカスとロジャーは、ガラハッドの背中をさすってくれた。

 

 

「 いやあ想像以上に濃い人だねロックハートって。有名になるような人って、みんなああなのかな。 」

 

「 あれは格別ヤバくないか?色合わせのセンスはイカすけどさ。 」

 

「 僕、あいつ無理だ…。 」

 

 

ガラハッドはしみじみ思った。ロックハートの発言は、仮に自分が女子だったら大問題じゃないのかと――――彼はこちらの容姿にばかり口を出し、自分の弟子として今後、男性相手には美貌を、女性相手には健気さを売り出すべきだと主張したのだ。ガラハッドはあの教師のもと一年間、平和に学べるような気がしなかった。

ところがマリエッタ様のご高説は熱いのだ。

 

「 そんなこと言わないの! 」

 

 

聞いてみると、彼女は今年の闇の魔術の防衛術の教科書を、全巻サイン本で揃えているのだという。保存用と勉強用があって、夏休みは彼のおかげで庭小人を駆逐できたそうだ。

 

「 最高の栄誉よ、ロックハート先生のお弟子だなんて…それに彼は、レイブンクロー寮付きの先生なんだから。ちょっと変わっておられるだけで、優秀なかたじゃない!少しくらい気が合わなくても、我慢しなさいな。私たち、遅れを取り戻さないといけないんだから。 」

 

「 少しくらい~!? 」

 

その次の授業のスネイプ教授は昼休みの出来事をよく知っており、授業中絶え間なくネチネチネチネチと嫌味を言ってきた。

 

「 ほぉう、ここにタレントデビューを控えた人物がいらっしゃる。 」

 

「 ――――…。 」

 

ガラハッドは教科書で顔を隠した。ここでイラッとして、スネイプを相手に舌打ちなどしてしまったら思う壺である。

この教師の授業はまともだが、減点の理由はなかなか理不尽なときがある。

 

「 “魔性”という意味を勘違いしておいでかな?誑す相手はよく選ぶことだ。子供に欲をかく大人ほど、質の低い連中はない―――――オリバンダー!この一節の典拠を言ってみろ。 」

 

「 ディオスコリデスの『薬物誌』 」

 

「 …よろしい 」

 

 

フッざまあみろスネイプ。

負けず嫌いのガラハッドは、この授業だけは欠かさず予習していた。

そのときふとガラハッドはひらめいた。

てめえこの野郎スネイプ、親が理事やってる生徒には甘いくせに、俺にはいつも吹っ掛けやがってと――――歯軋りしかけたついでに気がついたのだが、そういえばオリバンダーの家や保護者たちだって、その気になれば(その気はないだけで)教師に態度を変えさせる力を持っていると思うのだ。だって天下の杖職人たちだ。誰しもうちのおかげで魔法が使えているようなものなのだから、ロックハートだってギャリックらの名前を出したら、きっと強くは出られまい。

 

親の威を借りるなんてクソみっともなくて滅茶苦茶嫌だけど、ガラハッドには目下ただちに除かねばならない艱難があった。

 

ギルデロイ・ロックハート!奴に捕まって毛生え薬を浴びせかけられ、指南という名のセクハラを受けて謎の記者会見に連れ込まれるのは嫌だ。

 

なんとかしなくては、このままでは何に巻き込まれる羽目になるやらわからない。いいや「何に巻き込まれるかわからない」なんていうのは、最高に自分に都合の良い希望的観測ってやつで、おそらくこのままでは、次に出る彼のエッセイ本か師弟問答の形をとった闇の魔術に対する防衛ハウツー本に、彼を崇拝するコメディーリリーフとして、登場させられてしまう。

 

そんなの絶対嫌に決まっている。

 

 

「 ガラハッド、あなた何か妙なことを考えているわね?顔に出てますからね!駄目よ悲鳴をあげて逃げたりなんかしたら。だってロックハート先生はレイブンクローの… 」

 

「 ああハイハイ。わかってるよマリエッタ。 」

 

こんなしょーもないことで、九月から教師と揉めるべきではない。

その夜風呂の中でガラハッドは、ひそかに”或る呪文”の練習を始めた――――。

 

 

まさかとは思っていたが、その呪文を使うべきときは、本当の本当にやってきてしまった。

二日後、極力避けていたにも関わらず大広間にてロックハートとついに遭遇を果たしたガラハッドは、ぐんぐん近づいてくるロックハートが本当に腕章をつけた取材陣を引き連れているのを見て、マーカスともども「ごふっ」と言った。

なんだなんだと野次馬が群がって、大広間の場は食事どころではなくなっていった。

もの凄い笑顔で迫りくるハンサム野郎に、ガラハッドの本能は、「空腹をおしてでも逃げろ!」と身体へと訴えかけていた。

そうはいっても走って逃げだすわけにもいかないのが人間社会の厄介なところで、ガラハッドは、「わ~…」と貼りつけた笑顔で軽く拍手をした後、公衆の面前で胸に手をあて、用意していた呪文を放った。

 

 

昔は音に聞け、今は目にも見よ!

 

これは、このあたりじゃ立派な“伝家の宝刀”である。

 

「 親が駄目だって言ったんですよね 」

 

「 …おっと 」

 

するとロックハートは一瞬失語した。

ここぞとばかりにガラハッドは、「うちの親、杖づくりなんですよ」と畳みかけた。知られていない筈はないので、これは完全なダメ押しである。

にっこりと、取材拒否。

そして、ワケのわからん男への弟子入り拒否だ!!!

今こそ使おうこの名前!今こそ使おう、有名旧家パワー!!

大観衆が見ていることを踏まえ、あくまで丁寧な口調で、とても申し訳なさそうな声色でガラハッドは言った。眉尻を垂れ下げて、残念そうに見せた。こんな顔をしておくのもマナーのうちである。

 

 

「 僕はオリバンダー家の嫡嗣――――この国のため、杖の術の修行に邁進せねばなりません。僕の師匠筋は世界に三人。炎のニコラスとノアイユ公アラベール、そして当代の店主・オリーブ杖遣いのギャリックです。ロックハート先生のお優しさは、うれしく思うのですが…。 」

 

記者団はもう腰が引けている。

ははっ、たかが流行作家風情が。このビッグネーム3つと並べるってえのかよ貴様は。

子供の笑顔に大人の汚さ。見た目は天使中身は阿修羅。

暗黙裡のパワーゲームで、ガラハッド・オリバンダーは勝利を収めた。

 




■ディオスコリデスの『薬物誌』は今より原種に近い野菜のスケッチが多く載っています。二度見必至。
■「ギルデロイ」は原作者が第一次世界大戦戦没者碑からみつけて使った名前だそうですね。
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