ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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少年の日々

 

果てしない時間が過ぎていったように思われた。

 

そこは、天井の低い、かなり狭い土のトンネルだった。

トンネルは曲がりくねっていた。

大きなウサギのための巣穴のようで、平坦なところでも地面はでこぼこだった。

杖明かりを灯していたけれども、ガラハッドはなんども躓いてしまった。

少し広くなったところで、道は格段に上り坂へとなった。

息があがってきた頃に、トンネルは再び狭くなった。

 

「 この先ますます狭くなる 」

 

二人は二人に追いついた。

つき出されたお尻が喋ったのを見て、ガラハッドとセドリックはちらりと顔を見合わせた。

ガラハッドはさすがに、お尻だけを見て双子のうちどちらなのかを判別できなかった。

セドリックにもきっとわからないだろう。

 

 

「 尻尾をまだつけてる? 」

 

「 今、フレッドと話してたんだ 」

 

引き続きお尻が喋った。(なるほどこちらはジョージだ。)

 

「 ゴブリンの坑道っぽくないか、これ? 」

 

「 奥にお宝があったら、最高なんだけどな! 」

 

「 いいや地下の空間に続くってことは、ないだろう。それじゃ事実上、行き止まりになるのと一緒じゃないか。これだけ長いのに息苦しくはならないってことは、この穴は真っ直ぐに通風孔と繋がってるんだろ。 」

 

 

即答したガラハッドを、ジョージは振り向かずに後ろ足で蹴った。

 

「 ちょっ…! 」

 

たまたま居た場所が悪くて、その被害はごっそりとセドリックが浴びた。

 

「 夢のないやつ! 」

 

ジョージの背のその向こうから、フレッドまでもがガラハッドに文句を言った。

ガラハッドは苦笑した。

そうかも。――――でもこちとら、君たちと違ってマグル生まれなんだよなあ!

要塞も防空壕も知らない彼らが微笑ましくて、ガラハッドはくくくと笑った。

これはそういうものではないと決めてかかれるこの世界で、明るく育っている彼らはいとしいじゃないか。

双子の機嫌をとりながら、ガラハッドはセドリックのローブをはたいてやった。

 

 

「 ごめんって 」

 

そうだ自分もまた夢を見よう。せっかく子供時代に還ってきたのだから。時局なんか何も知らないで、蝶を追って歌って帰れる、あの季節は二度とないと思っていたのに。

 

「 きっともうホグワーツの外だよ 」

 

むすりとしてセドリックが言った。ガラハッドは彼に加勢してやった。

 

 

「 同感だ 」

 

「 マジで?一体、なんでわかるわけ? 」

 

「 だってこの穴って、そんなに深くはないなあって君たちは思わないかい?禁じられた森のどこかに続くなら、僕たち今頃根の中を歩いてるよ。 」

 

「 だとしたらホグスミードだな 」

 

むふう、とジョージが鼻息を荒くした。

 

「 俺たち、きっとホグスミードに向かってるんだ! 」

 

 

先頭の進度が早くなった。

 

ガラハッドは身体を二つ折りにして、急いで三人の後ろを追いかけた。

道が捻じ曲がって、坂道の向こうにぼんやりした明かりを放つ小穴を見つけたとき、身体が興奮ではち切れそうになった。四人はトンネルの出口に駆けつけると、穴から飛び出す前に、巣のなかの雛鳥のように寄り合って目だけをつきだした。その穴の向こうは―――――部屋だった。

ああ此処は、「おむすびころりん」の先のネズミの国だ!

息を呑んでガラハッドはそう思った。

そこは、とても美しい部屋だったのだ。大理石の床はぴかぴかで、壁紙のなかでは花が咲き乱れていた。

家具という家具は猫足で、優雅で、いまにも踊り出しそうだった。

何よりこの場所では、とてもとても楽しいパーティーが行われたに違いない。

四人が穴から出て歩きはじめると、燭台にはひとりでに火が灯った。

右側のホールへの扉は、開けっ放しになっていた。

入ってみると、ホールの天井は端から端まで、金ぴかの風船がぷかぷかと漂っていた。

四人はぐるりと室内を見回すはめになった。その風船は、それぞれ文字の形をしていたのだ。

窓はステンドグラスで、万華鏡のように光っていた。床には夜空からかき集めたようなキラキラが少し浮いて漂っていて、天井にはピンク色の雲と共に、他にもおびただしい数の風船がふわふわしていた。

花びらの投げてある階段の下にあって、すっかり空になっているケーキ台。無造作に放られたカトラリーは、四人分。

けれど、一体いつの跡なのか、埃も色褪せもない美しい魔法の産物たちに、手掛かりになる材料はどこにもない―――――と、思い込むのはいささか早計だったか、生花のように鮮やかながら見たことのないデザインの胸花が、ウェルカムボードのように壁の一部を埋めていた。

 

『 卒業おめでとう 』

 

そう印字してあるリボン。誰かが、この場所で卒業パーティーを開いた。

ひときわ大きな風船の文字を読み上げて、ぼそりとセドリックが言った。

 

「 『我ら略奪団(マローダーズ)』――――趣味悪いなあ。いい響きじゃないよ。 」

 

「 それって、ブルーマフィアへの嫌味だったりする? 」

 

「 悪い奴らじゃないぜ。『我らここに永遠の友情を誓う』んだから。 」

 

「 ちょっと浮かれちゃったんだよなあ、こいつら! 」

 

ニヤッとしてジョージが天井を指さした。

 

「 見ろよ。“恋人のお約束”まである! 」

 

てかてかした風船の表面で、J+Lという文字が、ハートの枠で囲まれて輝いていた。

その周りでは愛の天使たちが雲に乗って、音をたてない竪琴を奏でている。

 

「 なんていう名前だったと思う? 」

 

こういう想像は楽しい。四人は顔を見合わせてニヤニヤとすると、それぞれ好き勝手に知り合いの名前を言い、ちょっと想像しては笑った。

 

「 ジャックとラベンダー 」

 

「 ジェシカとリー 」

 

「 リーアンと…あ、負けた 」

 

「 いやいや、ジャクリーンとリーアン 」

 

「 どっちも女子かよ 」

 

「 いるってそういうカップルも 」

 

ガラハッドは悔しさ丸出しだ。「へへへっ」と笑う勝者たちの肩を、とんとんとセドリックは叩いた。

 

「 ねえ、この紙何だと思う? 」

 

胸花の下にある紙のことをセドリックは言っていた。

飾りに溢れた室内で、その紙きれはよく見ると浮いていた。針の向きを曲げて壁にねじこまれた胸花は、そういえばこの紙を壁に留めるためのピンにされたのかもしれない。紙の小ささの割に胸花が大きくて、大半埋もれてしまっているが。

 

「 いつのデザインなんだろうな? 」

 

胸花そのものについてジョージが口にするも、そんなの誰にもわかるはずがなかった。

 

「 持って帰って、調べよう 」

 

腹をさすりながらフレッドが言った。

 

「 さすがに、腹減ってきちゃったや。そろそろ戻ろうぜ。 」

 

セドリックがひとつ胸花をとった。

その途端だ。

魔法が解けたお話みたいに、そこはいっきにあばら家と化した。

 

「 え!?うわ――――! 」

 

フレッドは慌てふためいた。

「しまった…!」と呻いて、セドリックはぎゅっと目を瞑った。

「あ、そうか魔法か」と呟いて、ガラハッドはきょろきょろと周りを見回した。

同じように周りを見回しながら、ジョージは興奮して上ずり声をだした。

 

「 こりゃ凄え!!―――いいね、やり手じゃないかマローダーズ! 」

 

「「かっこいい!」」と双子の声が揃った。姫の掻き消えた朱雀門のような空間には、色褪せた胸花と紙切れだけがぽつんと残っていた。

 

「 ――――っ 」 

 

他のすべては幻だったことに、ガラハッドは心が少し追いつかなかった。

散らかしっぱなしの秘密の部屋なんて、あんなリアルな幻があるだろうか。

きっとパーティーは本当に行われて、誰かが本当に友情を誓ったに違いない。

 

ちょうど胸花は四つあったので、四人はそれぞれひとつずつそれを持って帰ることにした。

 

「 なあ、俺たちも誓おうぜ 」

 

帰り際にジョージがしんみりと言った。

楕円形の装飾的な鏡に見えていたけれど、魔法が解けてしまったあとのトンネルの入り口は、ただ無惨に壊れているだけの壁だった。

けれど一転、赤毛の彼が持ち前の笑顔で高く掲げたら、あばら家だって秘密基地だし、色褪せた胸花だって立派な勲章に見える。

 

「 こいつはきっと、随分と古いやつさ!ビルだってこんなのつけてなかった 」

 

「 と、いうことは~!? 」

 

「 僕たちは、きっと彼らのあと最初にここに来たんだよね 」

 

「 つまり俺たちってば、偉業達成ってこと!少なくとも十年以上ぶりの! 」

 

「 いいよな、この四人は同級生だったんだ 」

 

胸花をもてあそびながらガラハッドは言った。

何の気なく言ったひとことだったが、これには双子は大笑いだ。

 

「 わはは拗ねんなって!きっと大人になったら、一歳の差なんて誤差さ! 」

 

「 俺たち、将来はダイアゴン横丁に店を出すんだ!ニクいけど、君とは遠からずご近所さんになるぜ! 」

 

「 マジで?あ、さては悪戯道具店?くそっ負けてらんないな… 」

 

「 杖立てて誓おうか 」

 

今日のセドリックはご活躍だ。にこりとして一度は杖をあげたものの、物凄く地味な反応で、セドリックはうっかり杖でこすった紙を見つめた。

 

「 …あっ 」

 

「 何?セドおまえ何してんの? 」

 

「 いや、これ―――今、気がついたんだけど。地図だったよ。本当にすごいね、マローダーズ… 」

 

「 え、ちょッ、ナニソレめっちゃ凄!? 」

 

「 人の名前まで書いてあるぞ!! 」

 

「 へえ、知らないな、この道 」

 

「 これは君たちにあげるよ 」

 

セドリックはフレッドに地図を渡した。「信じられない!」という悲劇的表情で、フレッドは大げさにのけぞってその場でたたらを踏んだ。

 

 

「 ほ、欲しい。欲しいけどぉ!――――そこは“みんなの”だろ!? 」

 

「 こいつらが一番使いそうだよな 」

 

「 うん、僕もそう思ったんだ 」

 

「 あなたがた聖人でいらっしゃいますの!? 」

 

「 あらぁお気づきになられて? 」

 

「 良い子は“上納金”とか言いません 」

 

 

「そうかも」とガラハッドは笑った。会話が途切れたので、なんとなく全員笑った。

 

卒業生たちがのこしていた地図は、杖でつついてみるといろいろと面白い。

一見ただの羊皮紙に見えるものに、“胸花の四人”はとことん粋な趣向を凝らしていた。

ムーニー、ワームテール、パットフッド、プロングスという名前で彼らは署名していて、このなかにはJかLのどちらかかその両方が含まれることだろうが、この愛称からでは誰のことだかわからない。

本名を明かさない術は、いかにも魔術師という感じで、かっこいいとは思うんだけどネーミングセンスがダサい。

 

「 世代を感じるよな 」

 

わけもなく笑えてしまった。

この先輩がた四人は、今どこで何をしているんだろう?

我々は彼らの後継者、この地図と秘密基地の継承者だ。

 

友情を誓い合ってから四人は帰った。

 




「姫の掻き消えた朱雀門」…今回の元ネタは長谷雄卿草紙。何でも稀な腕前を持つ者は、妖しき者に誘い出されて、その腕を試されることがある。ある日すごろくの名手中納言長谷雄は、妖しき者に導かれてちぐはぐな装いで宵闇を歩き、朱雀門に招かれ、荒れ果てたそこを御殿だと錯覚する。当時のすごろくは知略と駆け引きの遊戯で、金銭や賞品をかけて行うものだった。長谷雄が攻めの一手を打つと、朱雀門は揺れ対局相手は鬼の正体をあらわす。勝った長谷雄は姫を手に入れるが、この姫はあと少しで現世の者となれたところを、むなしく掻き消えてしまう。
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